本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、少なくともふたつの無線装置によって構成されるMIMOシステムに関する。無線装置のうちの一方は、基地局装置に相当し、他方は、端末装置に相当する。基地局装置は、パケット信号を送信する際にビームフォーミングを実行する。そのため、端末装置は、基地局装置との間の伝送路特性を予め導出し、基地局装置は、端末装置から伝送路特性を取得する。また、端末装置に伝送路特性を導出させるために、基地局装置は、トレーニング信号を送信する。以下の説明において、トレーニング信号が配置されたパケット信号も「トレーニング信号」というものとする。
端末装置は、トレーニング信号を受信すると、MIMOシステムに含まれた系列を単位にして、端末装置に含まれた複数のアンテナとの間の伝送路特性を推定する。なお、伝送路特性は、サブキャリア単位に推定される。さらに、基地局装置は、端末装置に対して、導出した伝送路特性を要求する旨の信号(以下、「要求信号」という)を送信する。端末装置は、要求信号を受信すると伝送路特性を送信する。しかしながら、推定した伝送路特性は、系列とアンテナの組合せのそれぞれに対して、サブキャリア単位に値を有しているので、データ量が大きくなる。そのため、端末装置から基地局装置への信号であって、かつ伝送路特性に関する情報が含まれた信号(以下、「応答信号」という)のデータ量が大きくなる。その結果、システム全体の伝送効率が悪化してしまう。これに対応するために、実施例に係る基地局装置および端末装置は、以下の処理を実行する。
なお、ここでは、特に、端末装置がトレーニング信号を受信し、伝送路特性を送信するまでの処理を説明する。そのため、基地局装置におけるビームフォーミングの処理には、公知の技術を使用してもよい。端末装置は、トレーニング信号を受信すると、系列とアンテナの組合せのそれぞれに対して、サブキャリア単位に伝送路特性を推定する。また、端末装置は、サブキャリア単位の伝送路特性を遅延時間単位の伝送路特性に変換する。すなわち、伝送路特性は、周波数領域から時間領域に変換される。その際、端末装置は、遅延時間単位の伝送路特性のうち、遅延時間が大きい成分に対する値をゼロと仮定することによって、送信対象となる伝送路特性から当該成分を除外する。その結果、応答信号のデータ量が低減される。
図1は、本発明の実施例に係るマルチキャリア信号のスペクトルを示す。特に、図1は、OFDM変調方式での信号のスペクトルを示す。OFDM変調方式における複数のキャリアのひとつをサブキャリアと一般的に呼ぶが、ここではひとつのサブキャリアを「サブキャリア番号」によって指定するものとする。MIMOシステムには、サブキャリア番号「−28」から「28」までの56サブキャリアが規定されている。なお、サブキャリア番号「0」は、ベースバンド信号における直流成分の影響を低減するため、ヌルに設定されている。一方、MIMOシステムに対応していないシステム(以下、「従来システム」という)には、サブキャリア番号「−26」から「26」までの52サブキャリアが規定されている。なお、従来システムの一例は、IEEE802.11a規格に準拠した無線LANである。また、複数のサブキャリアにて構成されたひとつの信号の単位であって、かつ時間領域のひとつの信号の単位は、「OFDMシンボル」と呼ばれるものとする。
また、それぞれのサブキャリアは、可変に設定された変調方式によって変調されている。変調方式には、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAM、256QAMのいずれかが使用される。
また、これらの信号には、誤り訂正方式として、畳み込み符号化が適用されている。畳み込み符号化の符号化率は、1/2、3/4等に設定される。さらに、並列に送信すべきデータの数は、可変に設定される。その結果、変調方式、符号化率、系列の数の値が可変に設定されることによって、データレートも可変に設定される。なお、「データレート」は、これらの任意の組合せによって決定されてもよいし、これらのうちのひとつによって決定されてもよい。従来システムにおいて、変調方式がBPSKであり、符号化率が1/2である場合、データレートは6Mbpsになる。一方、変調方式がBPSKであり、符号化率が3/4である場合、データレートは9Mbpsになる。
図2は、本発明の実施例に係る通信システム100の構成を示す。通信システム100は、無線装置10と総称される第1無線装置10a、第2無線装置10bを含む。また、第1無線装置10aは、アンテナ12と総称される第1アンテナ12a、第2アンテナ12b、第3アンテナ12c、第4アンテナ12dを含み、第2無線装置10bは、アンテナ14と総称される第1アンテナ14a、第2アンテナ14b、第3アンテナ14c、第4アンテナ14dを含む。ここで、第1無線装置10aが、基地局装置に対応し、第2無線装置10bが、端末装置に対応する。
通信システム100の構成として、MIMOシステムの概略を説明する。データは、第1無線装置10aから第2無線装置10bに送信されているものとする。第1無線装置10aは、第1アンテナ12aから第4アンテナ12dのそれぞれから、複数の系列のデータをそれぞれ送信する。その結果、データレートが高速になる。第2無線装置10bは、第1アンテナ14aから第4アンテナ14dによって、複数の系列のデータを受信する。さらに、第2無線装置10bは、アダプティブアレイ信号処理によって、受信したデータを分離して、複数の系列のデータを独立に復調する。
ここで、アンテナ12の本数は「4」であり、アンテナ14の本数も「4」であるので、アンテナ12とアンテナ14の間の伝送路の組合せは「16」になる。第iアンテナ12iから第jアンテナ14jとの間の伝送路特性をhijと示す。図中において、第1アンテナ12aと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh11、第1アンテナ12aから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh12、第2アンテナ12bと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh21、第2アンテナ12bから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh22、第4アンテナ12dから第4アンテナ14dとの間の伝送路特性がh44と示されている。なお、これら以外の伝送路は、図の明瞭化のために省略する。ここで、第1無線装置10aは、ビームフォーミングを実行しているものとする。そのため、第1無線装置10aから第2無線装置10bに、トレーニング信号が予め送信される。また、第1無線装置10aと第2無線装置10bとが逆になってもよい。
図3(a)−(c)は、通信システム100におけるパケットフォーマットを示す。図3(a)−(c)は、トレーニング信号ではなく、通常のパケット信号のフォーマットを示す。ここで、図3(a)は、系列の数が「4」である場合に対応し、図3(b)は、系列の数が「3」である場合に対応し、図3(c)は、系列の数が「2」である場合に対応する。図3(a)では、4つの系列に含まれたデータが、送信の対象とされるものとし、第1から第4の系列に対応したパケットフォーマットが上段から下段に順に示される。
第1の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF」、「HT−LTF」等が配置される。「L−STF」、「L−LTF」、「L−SIG」、「HT−SIG」は、従来システムに対応したAGC設定用の既知信号、伝送路推定用の既知信号、制御信号、MIMOシステムに対応した制御信号にそれぞれ相当する。MIMOシステムに対応した制御信号には、例えば、系列の数に関する情報やデータ信号の宛先が含まれている。「HT−STF」、「HT−LTF」は、MIMOシステムに対応したAGC設定用の既知信号、伝送路推定用の既知信号に相当する。一方、「データ1」は、データ信号である。なお、L−LTF、HT−LTFは、AGCの設定だけでなく、タイミングの推定にも使用される。
また、第2の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF(−50ns)」と「HT−LTF(−400ns)」等が配置される。また、第3の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF(−100ns)」と「HT−LTF(−200ns)」等が配置される。また、第4の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF(−150ns)」と「HT−LTF(−600ns)」等が配置される。
ここで、「−400ns」等は、CDD(Cyclic Delay Diversity)におけるタイミングシフト量を示す。CDDとは、所定の区間において、時間領域の波形をシフト量だけ後方にシフトさせ、所定の区間の最後部から押し出された波形を所定の区間の先頭部分に循環的に配置させる処理である。すなわち、「L−STF(−50ns)」には、「L−STF」に対して、−50nsの遅延量にて循環的なタイミングシフトがなされている。なお、L−STFとHT−STFは、800nsの期間の繰り返しによって構成され、その他のHT−LTF等は、3.2μsの期間の繰り返し部分と0.8μsのGI部分から構成されている。ここで「データ1」から「データ4」にもCDDがなされており、タイミングシフト量は、前段に配置されたHT−LTFでのタイミングシフト量と同一の値である。
また、第1の系列において、HT−LTFが、先頭から「HT−LTF」、「−HT−LTF」、「HT−LFT」、「−HT−LTF」の順に配置されている。ここで、これらを順に、すべての系列において「第1成分」、「第2成分」、「第3成分」、「第4成分」と呼ぶ。すべての系列の受信信号に対して、第1成分−第2成分+第3成分−第4成分の演算を行えば、受信装置において、第1の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分+第2成分+第3成分+第4成分の演算を行えば、受信装置において、第2の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分−第2成分−第3成分+第4成分の演算を行えば、受信装置において、第3の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分+第2成分−第3成分−第4成分の演算を行えば、受信装置において、第4の系列に対する所望信号が抽出される。これらは、所定の成分の符号の組合せが系列間において直交関係を有していることに相当する。なお、加減処理は、ベクトル演算にて実行される。
「L−LTF」から「HT−SIG」等までの部分には、従来システムと同様に、「52」サブキャリアが使用される。なお、「52」サブキャリアのうちの「4」サブキャリアがパイロット信号に相当する。一方、「HT−LTF」等以降の部分は、「56」サブキャリアを使用する。
図3(a)において、「HT−LTF」の符号は、以下のように規定されている。第1の系列の先頭から順に、符号は「+」、「−」、「+」、「−」の順に並べられ、第2の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「+」、「+」の順に並べられ、第3の系列の先頭から順に、符号は「+」、「−」、「−」、「+」の順に並べられ、第4の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「−」、「−」の順に並べられている。しかしながら、符号は、以下のように規定されていてもよい。第1の系列の先頭から順に、符号は「+」、「−」、「+」、「+」の順に並べられ、第2の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「−」、「+」の順に並べられ、第3の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「+」、「−」の順に並べられ、第4の系列の先頭から順に、符号は「−」、「+」、「+」、「+」の順に並べられる。このような符号であっても、所定の成分の符号の組合せが系列間において直交関係を有していることに相当する。
図3(b)は、図3(a)の第1の系列から第3の系列に相当する。図3(c)は、図3(a)に示したパケットフォーマットのうちの第1系列と第2系列に類似している。ここで、図3(b)の「HT−LTF」の配置が、図3(a)の「HT−LTF」の配置と異なっている。すなわち、HT−LTFには、第1成分と第2成分だけが含まれている。第1の系列において、HT−LTFが、先頭から「HT−LTF」、「HT−LTF」の順に配置され、第2の系列において、HT−LTFが、先頭から「HT−LTF」、「−HT−LTF」の順に配置されている。すべての系列の受信信号に対して、第1成分+第2成分の演算を行えば、受信装置において、第1の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分−第2成分の演算を行えば、受信装置において、第2の系列に対する所望信号が抽出される。これらも、前述のごとく、直交関係といえる。例えば、図3(a)−(c)に示されたパケット信号が、第1無線装置10aから、ビームフォーミングされながら送信される。
図4(a)−(d)は、通信システム100におけるトレーニング信号用のパケットフォーマットを示す。図4(a)−(d)は、図3(b)−(c)およびデータがひとつの系列に配置される場合でのパケット信号に対するトレーニング信号である。なお、以下では説明を明瞭にするために、パケットフォーマットに含まれる「L−STF」から「HT−SIG」を省略するものとする。すなわち、「HT−STF」以降の構成が示されている。図4(a)は、データ信号が配置される系列(以下、「主系列」という)の数が「3」である場合であり、図4(b)は、主系列の数が「2」場合であり、図4(c)−(d)は、主系列の数が「1」である場合である。すなわち、図4(a)では、第1の系列から第3の系列とにデータ信号が配置され、図4(b)では、第1の系列と第2の系列とにデータ信号が配置され、図4(c)−(d)では、第1の系列にデータ信号が配置される。
図4(a)の第1の系列から第3の系列のうち、HT−LTFに関する配置までは、図3(b)での配置と同一である。しかしながら、その後段において、第1の系列から第3の系列には、空白の期間が設けられる。一方、第1の系列から第3の系列での空白の期間において、第4の系列には、HT−LTFが配置される。また、第4の系列に配置されたHT−LTFに続いて、第1の系列から第3の系列には、データが配置される。なお、第4の系列において、ひとつのHT−LTFが配置される。
このような配置によって、「HT−STF」が配置された系列の数が、データ信号が配置された系列の数に等しくなるので、受信装置において「HT−STF」によって設定された増幅率に含まれる誤差が小さくなり、データ信号の受信特性の悪化を防止できる。また、第4系列に配置された「HT−LTF」は、ひとつの系列に配置されているだけなので、受信装置において第4系列に配置された「HT−LTF」が、AGCによって歪みが生じるほど増幅される状況を低減できる。そのため、伝送路推定の精度の悪化を防止できる。
図4(b)の第1の系列と第2の系列のうち、HT−LTFに関する配置までは、図3(c)での配置と同一である。しかしながら、その後段において、第1の系列と第2の系列には、空白の期間が設けられる。一方、第1の系列と第2の系列での空白の期間において、第3の系列と第4の系列には、HT−LTFが配置される。また、第3の系列と第4の系列に配置されたHT−LTFに続いて、第1の系列と第2の系列には、データが配置される。なお、第3の系列と第4の系列でのHT−LTFの配置は、図3(c)での配置と同一である。
ここで、タイミングシフト量について、「0ns」、「−400ns」、「−200ns」、「−600ns」の順に優先度が低くなるように、優先度が規定されているものとする。すなわち、「0ns」の優先度が最も高く、「−600ns」の優先度が最も低くなるように規定されている。そのため、第1の系列と第2の系列では、タイミングシフト量として、「0ns」、「−400ns」の値が使用されている。一方、第3の系列と第4の系列でもタイミングシフト量として「0ns」、「−400ns」の値が使用されている。その結果、第1の系列での「HT−LTF」、「HT−LTF」の組合せが第3の系列でも使用され、第2の系列での「HT−LTF(−400ns)」、「−HT−LTF(−400ns)」の組合せが第4の系列でも使用されるので、処理が簡易になる。
図4(c)の第1の系列のうち、HT−LTFに関する配置までは、図4(b)の第1の系列に対する配置と同等である。ここで、ふたつの「HT−LTF」が配置される。しかしながら、その後段において、第1の系列には、空白の期間が設けられる。一方、第1の系列での空白の期間において、第2の系列から第4の系列には、HT−LTFが配置される。また、第2の系列から第4の系列に配置されたHT−LTFに続いて、第1の系列には、データが配置される。ここで、第2の系列から第3の系列に配置されるHT−LTFの配置は、図3(b)での配置に類似する。
図4(d)は、図4(c)と同様に構成されるが、図4(d)における「HT−LTF」の符号の組合せが、図4(c)のものと異なる。ここで、「HT−LTF」の符号の組合せは、系列間において直交関係が成立するように規定されている。また、図4(d)では、複数の系列のそれぞれに対し、「HT−LTF」の符号の組合せが固定されるように規定されている。ここで、図4(d)では、図4(c)と同様に、第2の系列から第4の系列であっても、優先度の高い「0ns」、「−400ns」、「−200ns」が使用される。
図4(a)での第4の系列、すなわちデータが配置されていない系列(以下、「副系列」という)には、ひとつの「HT−LTF」が配置される。また、図4(b)での第3の系列および第4の系列には、ふたつの「HT−LTF」が配置される。さらに、図4(c)−(d)での第2の系列から第4の系列には、4つの「HT−LTF」が配置される。これらを比較すると、図4(c)−(d)での副系列に配置された「HT−LTF」の長さが最も長くなる。すなわち、トレーニング信号を生成すべきパケット信号での主系列の数が大きくなると、副系列の長さが短くなり、伝送効率が向上する。なお、トレーニング信号は、ビームフォーミングされずに送信されるものとする。
図5(a)−(d)は、通信システム100における別のトレーニング信号用のパケットフォーマットを示す。図5(a)−(d)は、図4(a)−(d)にそれぞれ対応する。図5(a)−(d)では、複数の系列のそれぞれにタイミングシフト量が対応づけられながら規定されている。ここで、第1の系列に対してタイミングシフト量「0ns」が規定され、第2の系列に対してタイミングシフト量「−400ns」が規定され、第3の系列に対してタイミングシフト量「−200ns」が規定され、第4の系列に対してタイミングシフト量「−600ns」が規定されている。
そのため、図5(a)では、図4(a)における第4の系列でのタイミングシフト量「0ns」の代わりに、「−600ns」が使用される。また、図5(b)では、図4(b)における第3の系列と第4の系列でのタイミングシフト量「0ns」、「−400ns」の代わりに、「−200ns」、「−600ns」が使用される。一方、図5(c)−(d)では、図4(c)−(d)における第2の系列から第4の系列でのタイミングシフト量「0ns」、「−400ns」、「−200ns」の代わりに、「−400ns」、「−200ns」、「−600ns」が使用される。
図5(d)は、図5(c)と同様に構成されるが、図5(d)における「HT−LTF」の符号の組合せが、図5(c)のものと異なる。「HT−LTF」の符号の組合せには予め優先度が設けられている。すなわち、図3(a)の第1の系列における符号の組合せの優先度が最も高く、第4の系列における符号の組合せの優先度が最も低くなるような規定がなされている。また、データ信号が配置される系列に対して、優先度の高い符号の組合せから順に符号の組合せを使用し、データ信号が配置されない系列に対しても、優先度の高い符号の組合せから順に符号の組合せを使用する。このように、符号の組合せを同じにしておけば、受信装置が+−の演算を行って各成分を取り出す場合に、データが配置されない系列の「HT−LTF」の部分に対する伝送路特性の計算と、データが配置される系列の「HT−LTF」の部分に対する伝送路特性の計算に対して、共通の回路を使用できる。
図6は、通信システム100において最終的に送信されるトレーニング信号のパケットフォーマットを示す。図6は、図4(b)と図5(b)のパケット信号を変形させた場合に相当する。図4(b)と図5(b)の第1の系列と第2の系列に配置された「HT−STF」と「HT−LTF」に、後述の直交行列による演算がなされる。その結果、「HT−STF1」から「HT−STF4」が生成される。「HT−LTF」についても同様である。さらに、第1の系列から第4の系列のそれぞれに対して、タイミングシフト量「0ns」、「−50ns」、「−100ns」、「−150ns」によるCDDが実行される。なお、2度目のCDDでのタイミングシフト量の絶対値は、HT−STFおよびHT−LTFに対して1度目になされたCDDでのタイミングシフト量の絶対値よりも小さくなるように設定される。第3の系列と第4の系列に配置された「HT−LTF」と、第1の系列の「データ1」等に対しても同様の処理が実行される。
図7は、第1無線装置10aの構成を示す。第1無線装置10aは、無線部20と総称される第1無線部20a、第2無線部20b、第4無線部20d、ベースバンド処理部22、変復調部24、IF部26、制御部30を含む。また信号として、時間領域信号200と総称される第1時間領域信号200a、第2時間領域信号200b、第4時間領域信号200d、周波数領域信号202と総称される第1周波数領域信号202a、第2周波数領域信号202b、第4周波数領域信号202dを含む。なお、第2無線装置10bは、第1無線装置10aと同様に構成される。そのため、以下の説明において、トレーニング信号の送信およびビームフォーミングの実行に関する説明は、第1無線装置10aでの処理に対応し、伝送路特性の推定および伝送路特性の通知に関する説明は、第2無線装置10bでの処理に対応する。
無線部20は、受信動作として、アンテナ12によって受信した無線周波数の信号を周波数変換し、ベースバンドの信号を導出する。無線部20は、ベースバンドの信号を時間領域信号200としてベースバンド処理部22に出力する。一般的に、ベースバンドの信号は、同相成分と直交成分によって形成されるので、ふたつの信号線によって伝送されるべきであるが、ここでは、図を明瞭にするためにひとつの信号線だけを示すものとする。また、AGCやA/D変換部も含まれる。AGCは、「L−STF」、「HT−STF」において増幅率を設定する。
無線部20は、送信動作として、ベースバンド処理部22からのベースバンドの信号を周波数変換し、無線周波数の信号を導出する。ここで、ベースバンド処理部22からのベースバンドの信号も時間領域信号200として示す。無線部20は、無線周波数の信号をアンテナ12に出力する。すなわち、無線部20は、無線周波数のパケット信号をアンテナ12から送信する。また、PA(Power Amplifier)、D/A変換部も含まれる。時間領域信号200は、時間領域に変換されたマルチキャリア信号であり、デジタル信号であるものとする。
ベースバンド処理部22は、受信動作として、複数の時間領域信号200をそれぞれ周波数領域に変換し、周波数領域の信号に対してアダプティブアレイ信号処理を実行する。ベースバンド処理部22は、アダプティブアレイ信号処理の結果を周波数領域信号202として出力する。ひとつの周波数領域信号202が、送信された複数の系列のそれぞれに相当する。また、ベースバンド処理部22は、送信動作として、変復調部24から、周波数領域の信号としての周波数領域信号202を入力し、周波数領域の信号を時間領域に変換し、複数のアンテナ12のそれぞれに対応づけながら時間領域信号200として出力する。
送信処理において使用すべきアンテナ12の数は、制御部30によって指定されるものとする。ここで、周波数領域の信号である周波数領域信号202は、図1のごとく、複数のサブキャリアの成分を含むものとする。図を明瞭にするために、周波数領域の信号は、サブキャリア番号の順番に並べられて、シリアル信号を形成しているものとする。
図8は、周波数領域の信号の構成を示す。ここで、図1に示したサブキャリア番号「−28」から「28」のひとつの組合せを「OFDMシンボル」というものとする。「i」番目のOFDMシンボルは、サブキャリア番号「1」から「28」、サブキャリア番号「−28」から「−1」の順番にサブキャリア成分を並べているものとする。また、「i」番目のOFDMシンボルの前に、「i−1」番目のOFDMシンボルが配置され、「i」番目のOFDMシンボルの後ろに、「i+1」番目のOFDMシンボルが配置されているものとする。なお、図3(a)等の「L−SIG」等の部分では、ひとつの「OFDMシンボル」に対して、サブキャリア番号「−26」から「26」の組合せが使用される。
図7に戻る。第1無線装置10aに含まれるベースバンド処理部22は、図4(a)−(d)、図5(a)−(d)のパケットフォーマットに対応したトレーニング信号を生成するために、CDDを実行する。さらに、ベースバンド処理部22は、図6のパケットフォーマットに示したパケット信号への変形を実行するために、ステアリング行列の乗算を実行する。これらの処理の詳細は、後述する。一方、第2無線装置10bに含まれるベースバンド処理部22は、トレーニング信号を受信すると、受信したトレーニング信号から伝送路特性を導出する。
すなわち、ベースバンド処理部22は、第1無線装置10aからのマルチキャリア信号であって、かつ複数の系列にて形成されるマルチキャリア信号を受信する。ここで、トレーニング信号では、複数の系列のうちの少なくともひとつにデータが配置されている。また、当該データが配置される系列でのデータの前段にHT−LTFが配置されながら、当該データが配置されない系列に対して、HT−LTFが配置されるタイミングおよびデータが配置されるタイミング以外のタイミングにもHT−LTFが配置されている。また、導出された伝送路特性は、後述の制御部30によって変形された後、図3(a)−(c)のパケットフォーマットによってベースバンド処理部22から第1無線装置10aに送信される。さらに、第1無線装置10aに含まれるベースバンド処理部22は、第2無線装置10bから受信した伝送路特性をもとに、ビームフォーミングを実行し、図3(a)−(c)のパケットフォーマットに対応したパケット信号を送信する。
変復調部24は、受信処理として、ベースバンド処理部22からの周波数領域信号202に対して、復調とデインタリーブを実行する。なお、復調は、サブキャリア単位でなされる。変復調部24は、復調した信号をIF部26に出力する。また、変復調部24は、送信処理として、インタリーブと変調を実行する。変復調部24は、変調した信号を周波数領域信号202としてベースバンド処理部22に出力する。送信処理の際に、変調方式は、制御部30によって指定されるものとする。
IF部26は、受信処理として、複数の変復調部24からの信号を合成し、ひとつのデータストリームを形成する。さらに、ひとつのデータストリームを復号する。IF部26は、復号したデータストリームを出力する。また、IF部26は、送信処理として、ひとつのデータストリームを入力し、符号化した後に、これを分離する。さらに、IF部26は、分離したデータを複数の変復調部24に出力する。送信処理の際に、符号化率は、制御部30によって指定されるものとする。ここで、符号化の一例は、たたみ込み符号化であり、復号の一例は、ビタビ復号であるとする。
制御部30は、第1無線装置10aのタイミング等を制御する。まず、第1無線装置10aに含まれた制御部30がトレーニング信号を生成する際の動作について説明する。制御部30は、IF部26、変復調部24、ベースバンド処理部22と協同しながら、図3(a)−(c)、図4(a)−(d)、図5(a)−(d)、図6のようなパケットフォーマットのパケット信号を生成し、生成したパケット信号を送信するための制御を実行する。ここでは、図4(b)、図5(b)に示されたパケットフォーマットを生成するための処理を中心に説明するが、それ以外のパケットフォーマットについても、同様の処理が実行される。
IF部26において、複数の系列のうちの少なくともひとつに配置すべきデータが入力される。ここでは、図4(b)、図5(b)のごとく、ふたつの系列に配置すべきデータが入力される。制御部30は、ベースバンド処理部22に対して、入力したデータが配置された系列、すなわち第1の系列と第2の系列に配置される「HT−STF」と、「HT−STF」の後段において複数の系列に配置される「HT−LTF」と、第1の系列と第2の系列に配置されるデータとから、パケット信号を生成するように指示する。なお、制御部30は、図3(a)−(c)のごとく、HT−STFの前段に、「L−STF」、「L−LTF」、「L−SIG」、「HT−SIG」が配置されるように、ベースバンド処理部22に指示を出力する。
ここで、図4(b)、図5(b)に記載のごとく、ひとつの系列に対してふたつの「HT−LTF」が配置されている場合を説明の対象にする。すなわち、「HT−LTF」の全体は、時間領域において「HT−LTF」が繰り返されることによって形成されている。また、「HT−LTF」の符号の組合せは、主系列間あるいは副系列間での直交関係が成立するように規定されている。その結果、前述のごとく、主系列内において、第1成分と第2成分とを加算すれば、第1の系列に対するHT−LTFが抽出される。また、主系列内において、第1成分から第2成分を減算すれば、第2の系列に対するHT−LTFが抽出される。
なお、ひとつの系列に配置される「HT−LTF」の数は、直交関係を成立させるために必要な数によって定められる。そのため、直交関係を成立させるべき系列の数が「2」であれば、ひとつの系列当たりの「HT−LTF」の数は「2」になる。一方、直交関係を成立させるべき系列の数が「3」あるいは「4」であれば、ひとつの系列当たりの「HT−LTF」の数は「4」になる。
制御部30は、ベースバンド処理部22に対して、HT−LTF等にCDDを実行させる。なお、CDDは、ひとつの系列に配置されたHT−LTFを基準として、他の系列に配置されたHT−LTFに、HT−LTF内での循環的なタイミングシフトを実行させることに相当する。制御部30は、タイミングシフト量に予め優先度を設けている。ここでは、前述のごとく、タイミングシフト量「0ns」の優先度を最も高く設定し、それに続いて「−400ns」、「−200ns」、「−600ns」の順に低くなっていくような優先度を設定する。
さらに、制御部30は、ベースバンド処理部22に、主系列に対して、優先度の高いタイミングシフト量から順にタイミングシフト量を使用させる。例えば、図4(b)の場合、第1の系列に対して「0ns」を使用させ、第2の系列に対して「−400ns」を使用させる。また、制御部30は、副系列に対しても、優先度の高いタイミングシフト量から順にタイミングシフト量を使用させる。例えば、図4(b)の場合、第3の系列に対して「0ns」を使用させ、第4の系列に対して「−400ns」を使用させる。以上の処理によって、図4(b)に示したパケットフォーマットのパケット信号が生成される。
一方、これとは別に、複数の系列に対してそれぞれ異なった値のタイミングシフト量が設定されていてもよい。例えば、第1の系列のタイミングシフト量として、「0ns」が設定され、第2の系列のタイミングシフト量として、「−400ns」が設定され、第3の系列のタイミングシフト量として、「−200ns」が設定され、第4の系列のタイミングシフト量として、「−600ns」が設定される。以上の処理によって、図5(b)に示したパケットフォーマットのパケット信号が生成される。
以上の処理によって、図4(a)−(d)、図5(a)−(d)のようなパケットフォーマットのパケット信号が生成された後、制御部30は、ベースバンド処理部22に、これらのようなパケット信号を変形させる。すなわち、制御部30は、図4(b)、図5(b)に示したパケットフォーマットを図6に示したパケットフォーマットに変形させる。ベースバンド処理部22は、系列の数を複数の系列の数まで拡張した後に、拡張された系列に対して、CDDを実行する。また、制御部30は、変形したパケット信号を無線部20に送信させる。
また、制御部30は、ベースバンド処理部22等から要求信号を送信させる。ここで、要求信号は、トレーニング信号に含まれてもよいし、トレーニング信号とは別のパケット信号に含まれてもよいものとする。なお、説明の簡略化のために、以下の説明では、要求信号がトレーニング信号に含まれるものとする。
次に、トレーニング信号を受信すべき第2無線装置10bに含まれる制御部30の動作について説明する。制御部30は、ベースバンド処理部22に対して、受信したトレーニング信号をもとに、複数の系列のそれぞれに対する伝送路特性をサブキャリア単位に導出させる。すなわち、ベースバンド処理部22は、受信したトレーニング信号に含まれたHT−LTFと、予め記憶したHT−LTFとを使用しながら、相関等によって、データ信号が配置される系列に対する伝送路特性をサブキャリア単位に導出する。なお、図1のごとく、56のサブキャリアが使用されているので、サブキャリア単位の伝送路特性は、56のサブキャリアに対して導出される。以上の処理は、主系列に対してだけでなく、副系列に対しても実行される。また、伝送路特性は、図2のごとく、経路あるいは系列を単位にして導出される。
制御部30は、フーリエ変換を実行することによって、導出したサブキャリア単位の伝送路特性を遅延時間単位の伝送路特性に変換する。例えば、64ポイントのFFTが実行される。その際、伝送路特性が導出されていないサブキャリアには、ゼロが挿入される。以上の処理の結果、64種の遅延時間に対応した値を有した伝送路特性が導出される。また、制御部30は、遅延時間単位の伝送路特性のうちの遅延時間が大きい成分の値をゼロと仮定する。例えば、64種の遅延時間のうち、小さい方から16番目以降の遅延時間に対応した値が、ゼロに仮定される。
その結果、遅延時間単位の伝送路特性は、16個の成分を有する。なお、サブキャリア単位の伝送路特性は「56」個の成分を有し、遅延時間単位の伝送路特性は「16」個の成分を有しているので、以上の処理によってデータ量が少なくなる。図9は、制御部30における変換処理の概念を示す。横軸は遅延時間を示し、縦軸は信号強度を示す。また、横軸に示した番号は、遅延時間の短い方が小さい値になるように付与されてる。そのため、前述の例においては、番号「1」から「16」に対する値のみが有効とされる。図7に戻る。
制御部30における変換処理をさらに詳細に説明する。サブキャリア単位の伝送路特性は、64行1列の行列H’
64によって示され、遅延時間単位の伝送路特性は、64行1列の行列h’
64によって示される。ここで、「’」は、推定した値を意味する。行列H’
64と行列h’
64とは、以下のように64行64列の行列F
64×64によって関連づけられる。
なお、行列F
64×64は、サブキャリア単位の伝送路特性と遅延時間単位の伝送路特性との間の変換係数に相当する。前述のごとく、遅延時間単位の伝送路特性が16個の成分を有している場合、遅延時間単位の伝送路特性は、以下のように16行1列の行列h’
16によって示される。
変換係数の行列F
64×16は、64行16列の成分を有する。さらに、行列h’
16は、F
64×64の一般化逆行列と行列H’
64とを使用することによって、以下のように示される。
ここで、F
64×64の一般化逆行列は、以下のように示される。
上記の行列の各成分は、既知の値であるので、制御部30に予め記憶される。すなわち、制御部30は、サブキャリア単位の伝送路特性を遅延時間単位の伝送路特性するための変換係数であって、かつサブキャリア単位の伝送路係数の成分のそれぞれに乗算すべき複数の成分によって形成された変換係数を記憶する。なお、上記に示したように、変換係数は、サブキャリア単位の成分のそれぞれに対して、遅延時間が小さい成分に対応した値だけを含むように規定されている。また、制御部30は、記憶した変換係数とサブキャリア単位の伝送路特性とを成分単位に対応づけながら乗算することによって、遅延時間単位の伝送路特性を導出する。第2無線装置10bに含まれる制御部30は、ベースバンド処理部22等に対して、以上のように導出した遅延時間単位の伝送路特性を送信させる。
次に、第2無線装置10bからの伝送路特性を受信すべき第1無線装置10aに含まれる制御部30の動作について説明する。制御部30は、ベースバンド処理部22等を介して、遅延時間単位の伝送路特性を取得する。前述のごとく、遅延時間単位の伝送路特性では、遅延時間が大きい成分の値がゼロと仮定されることによって、サブキャリア単位の伝送路特性を構成すべき成分の数よりも、遅延時間単位の伝送路特性を構成すべき成分の数が少なくされている。制御部30は、取得した遅延時間単位の伝送路特性を構成すべき成分の数がキャリア単位の伝送路特性を構成すべき成分の数と等しくなるように、遅延時間単位の伝送路特性に対して成分を補充する。
すなわち、第2無線装置10bでのひとつのアンテナ12と、ひとつの系列との間において、取得した遅延時間単位の伝送路特性は、16個の成分を有している。制御部30は、16個の成分の後段に48個の「0」を挿入することによって、遅延時間単位の伝送路特性の成分の数を「64」に拡張する。さらに、制御部30は、FFTを実行することによって、拡張した伝送路特性を遅延時間単位からサブキャリア単位に変換する。その結果、制御部30は、サブキャリア単位の伝送路特性を取得する。さらに、制御部30は、ベースバンド処理部22に対して、サブキャリア単位の伝送路特性をもとに、ビームフォーミングを実行させる。ビームフォーミングに関する説明は、後述する。
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
図10は、ベースバンド処理部22の構成を示す。ベースバンド処理部22は、受信用処理部50、送信用処理部52を含む。受信用処理部50は、ベースバンド処理部22における動作のうち、受信動作に対応する部分を実行する。すなわち、受信用処理部50は、時間領域信号200に対してアダプティブアレイ信号処理を実行しており、そのために時間領域信号200のウエイトベクトルの導出を実行する。また、受信用処理部50は、アレイ合成した結果を周波数領域信号202として出力する。なお、受信用処理部50は、トレーニング信号に対応した周波数領域信号202をもとに、前述の伝送路特性を推定する。ここで、伝送路特性は、サブキャリア単位の伝送路特性である。
送信用処理部52は、ベースバンド処理部22における動作のうち、送信動作に対応する部分を実行する。すなわち、受信用処理部50は、周波数領域信号202を変換することによって、時間領域信号200を生成する。また、送信用処理部52は、複数の系列を複数のアンテナ12にそれぞれ対応づける。さらに、送信用処理部52は、図3(a)−(c)、図4(a)−(d)、図5(a)−(d)に示されたようなCDDを実行し、図6に示されたようなステアリング行列の演算を実行する。なお、送信用処理部52は、最終的に時間領域信号200を出力する。また、送信用処理部52は、図3(a)−(c)に対して、ビームフォーミングを実行する。
図11は、受信用処理部50の構成を示す。受信用処理部50は、FFT部74、ウエイトベクトル導出部76、合成部80と総称される第1合成部80a、第2合成部80b、第3合成部80c、第4合成部80dを含む。
FFT部74は、時間領域信号200に対してFFTを実行することによって、時間領域信号200を周波数領域の値に変換する。ここで、周波数領域の値は、図8のように構成されているものとする。すなわち、ひとつの時間領域信号200に対する周波数領域の値は、ひとつの信号線にて出力される。
ウエイトベクトル導出部76は、周波数領域の値から、サブキャリア単位にウエイトベクトルを導出する。なお、ウエイトベクトルは、複数の系列のそれぞれに対応するように導出され、ひとつの系列に対するウエイトベクトルは、アンテナ12の数に対応した要素をサブキャリア単位に有する。また、複数の系列のそれぞれに対応したウエイトベクトルの導出には、適応アルゴリズムが使用されてもよく、あるいは伝送路特性が使用されてもよいが、これらの処理には、公知の技術が使用されればよいので、ここでは、説明を省略する。なお、ウエイトベクトル導出部76は、ウエイトを導出する際に、前述のごとく、第1成分−第2成分+第3成分−第4成分や第1成分+第2成分等の演算を実行する。最終的に、前述のごとく、サブキャリア、アンテナ12、系列のそれぞれを単位にして、ウエイトが導出される。なお、ウエイトベクトル導出部76は、ウエイトベクトルを導出すると共に、前述のサブキャリア単位の伝送路特性を導出する。サブキャリア単位の伝送路特性は、第2無線装置10bのアンテナ12とひとつの系列との間に対して導出される。
合成部80は、FFT部74にて変換された周波数領域の値と、ウエイトベクトル導出部76からのウエイトベクトルとによって、合成を実行する。例えば、ひとつの乗算対象として、ウエイトベクトル導出部76からのウエイトベクトルのうち、ひとつのサブキャリアに対応したウエイトであって、かつ第1の系列に対応したウエイトが選択される。選択されたウエイトは、アンテナ12のそれぞれに対応した値を有する。
また、別の乗算対象として、FFT部74にて変換された周波数領域の値のうち、ひとつのサブキャリアに対応した値が選択される。選択された値は、アンテナ12のそれぞれに対応した値を有する。なお、選択されたウエイトと選択された値は、同一のサブキャリアに対応する。アンテナ12のそれぞれに対応づけられながら、選択されたウエイトと選択された値が、それぞれ乗算され、乗算結果が加算されることによって、第1の系列のうちのひとつのサブキャリアに対応した値が導出される。第1合成部80aでは、以上の処理が他のサブキャリアに対しても実行され、第1の系列に対応したデータが導出される。また、第2合成部80bから第4合成部80dでは、同様の処理によって、第2の系列から第4の系列に対応したデータがそれぞれ導出される。導出された第1の系列から第4の系列は、第1周波数領域信号202aから第4周波数領域信号202dとしてそれぞれ出力される。
図12は、送信用処理部52の構成を示す。送信用処理部52は、分散部66、IFFT部68を含む。分散部66は、周波数領域信号202とアンテナ12とを対応づける。まず、ビームフォーミングを実行しない場合の処理、例えば、トレーニング信号を送信する際の処理を説明する。分散部66は、図3(a)−(c)、図4(a)−(d)、図5(a)−(d)のパケットフォーマットに対応したパケット信号を生成するために、CDDを実行する。CDDは、行列Cとして、以下のように実行される。
ここで、δは、シフト量を示し、lは、サブキャリア番号を示している。さらに、行列Cと系列との乗算は、サブキャリアを単位にして実行される。すなわち、分散部66は、L−STF等内での循環的なタイミングシフトを系列単位に実行する。また、タイミングシフト量は、図3(a)−(c)、図4(a)−(d)、図5(a)−(d)のごとく設定される。
分散部66は、図4(a)−(d)、図5(a)−(d)のごとく生成されたトレーニング信号に対して、ステアリング行列をそれぞれ乗算することによって、トレーニング信号の系列の数を複数の系列の数まで増加させる。ここで、分散部66は、乗算を実行する前に、入力した信号の次数を複数の系列の数まで拡張する。図4(b)および図5(b)の場合、第1の系列と第2の系列に配置された「HT−STF」等が入力されるので、入力した信号の数は、「2」であり、ここでは、「Nin」によって代表させる。
そのため、入力したデータは、「Nin×1」のベクトルによって示される。また、複数の系列の数は、「4」であり、ここでは、「Nout」によって代表させる。分散部66は、入力したデータの次数をNinからNoutに拡張させる。すなわち、「Nin×1」のベクトルを「Nout×1」のベクトルに拡張させる。その際、Nin+1行目からNout行目までの成分に「0」を挿入する。一方、図4(b)および図5(b)の第3の系列と第4の系列に配置された「HT−LTF」に対して、Ninまでの成分が「0」であり、Nin+1行目からNout行目までの成分にHT−LTF等が挿入されている。
また、ステアリング行列Sは、次のように示される。
ステアリング行列は、「Nout×Nout」の行列である。また、Wは、直交行列であり、「Nout×Nout」の行列である。直交行列の一例は、ウォルシュ行列である。ここで、lは、サブキャリア番号を示しており、ステアリング行列による乗算は、サブキャリアを単位にして実行される。さらに、Cは、前述のごとく、CDDを示す。ここで、CDDにおけるタイミングシフト量は、複数の系列のそれぞれに対して異なるように規定されている。すなわち、第1の系列に対して「0ns」、第2の系列に対して「−50ns」、第3の系列に対して「−100ns」、第4の系列に対して「−150ns」のようにタイミングシフト量が規定される。
次に、ビームフォーミングを実行する場合の処理を説明する。前述のごとく、第2無線装置10bからの遅延時間単位の伝送路特性は、制御部30によって、サブキャリア単位の伝送路特性に変換される。なお、説明を明瞭化するために、以下では、ひとつのサブキャリアに対する処理を説明するが、他のサブキャリアに対しても同様の処理が実行されればよい。ここで、複数の系列を考慮した伝送路特性であって、かつ制御部30によって変換された伝送路特性の行列は、H’として示される。一方、現実の伝送路特性の行列をHと示すと、両者は以下の関係を有する。
ここで、Sは、前述のステアリング行列である。分散部66は、Hのエルミート共役とHとの積を以下のように計算する。
さらに、分散部66は、積算結果を以下のように固有値分解する。
ここで、Σが固有値であり、Vが固有ベクトルである。分散部66は、Vを送信ウエイトベクトルに設定することによって、複数の系列に対してビームフォーミングを実行する。IFFT部68は、分散部66からの信号に対してIFFTを実行し、時間領域信号200として出力する。
図13は、通信システム100における伝送路特性の通知の手順を示すシーケンス図である。第1無線装置10aは、第2無線装置10bに対してトレーニング信号を送信するが、当該トレーニング信号に要求信号を含める(S10)。第2無線装置10bは、トレーニング信号をもとにサブキャリア単位の伝送路特性を推定する(S12)。また、第2無線装置10bは、推定した伝送路特性を遅延時間単位の伝送路特性に変換し(S14)、変換した伝送路特性を応答信号に含めて、第1無線装置10aに送信する(S16)。第1無線装置10aは、応答信号に含められた伝送路特性をサブキャリア単位の伝送路特性に変換し、変換した伝送路特性から送信ウエイトベクトルを導出する(S18)。第1無線装置10aは、送信ウエイトベクトルを使用しながらビームフォーミングを実行することによって、データを送信する(S20)。
本発明の実施例によれば、遅延時間単位の伝送路特性のうちの遅延時間が大きい成分の値をゼロと仮定することによって、サブキャリア単位の伝送路特性よりも成分の数が少ない遅延時間単位の伝送路特性を導出できる。また、遅延時間単位の伝送路特性の成分の数をサブキャリア単位の伝送路特性の成分の数よりも少なくするので、応答信号に含まれるデータ量を低減できる。また、応答信号に含まれるデータ量を低減するので、伝送効率を改善できる。また、一般的に、遅延時間単位の伝送路特性のうちの遅延時間が大きい成分には、含まれる遅延波も少ないので、当該成分の値をゼロに仮定しても、推定精度の悪化を抑制できる。また、推定精度の悪化を抑制と、伝送効率の改善を両立できる。
また、サブキャリア単位の成分のそれぞれに対して、遅延時間が小さい成分に対応した値だけを含むように変換係数を規定するので、サブキャリア単位の伝送路特性よりも成分の数が少ない遅延時間単位の伝送路特性を導出できる。また、変換係数は予め計算した後に記憶しておくので、処理を簡易にできる。また、遅延時間単位の伝送路特性に対してゼロの値の成分を補充してから、サブキャリア単位への変換を実行するので、遅延時間領域の伝送路特性の成分の数がサブキャリア単位の伝送路特性の成分の数よりも少なくても、サブキャリア単位の伝送路特性を取得できる。
また、データが配置されない系列にもHT−LTFを配置するので、データが配置されない系列に対する伝送路特性も導出できる。また、HT−STFとHT−LTFとの強度の差が小さくなるので、HT−STFに対して導出された増幅率をHT−LTFに適した値に近くできる。また、HT−STFに対して導出された増幅率がHT−LTFに適した値に近くなるので、HT−LTFをもとにした伝送路推定の精度を向上できる。また、トレーニング信号を生成する際に、HT−STFが配置される系列の数と、データが配置される系列の数とを同一の数にするので、HT−STFによって設定された利得がデータに対応し、データの受信特性の悪化を抑制できる。また、同一のタイミングシフト量を多く使用することによって、処理を簡易にできる。また、複数の系列の数を「2」とし、データが配置される系列の数を「1」とする場合、受信装置は、HT−LTFの受信状況に応じて、複数の系列のいずれかにデータが配置されるべきかを送信装置に指示できる。すなわち、送信ダイバーシチを実行できる。
また、複数の系列に配置されたHT−LTFのそれぞれに対するタイミングシフト量は同一の値であるので、データを配置した系列が変更されても、受信装置において容易に対応できる。また、複数の系列のそれぞれに対して異なったタイミングシフト量を設定するので、均一的に処理を実行できる。また、均一的に処理を実行できるので、処理を簡易にできる。また、次に続くパケット信号において、データが配置される系列の数が増加する場合であっても、増加される系列に対するHT−LTFは、同一のタイミングシフト量にて既に送信されているので、受信装置は、既に導出したタイミング等を使用できる。また、既に導出したタイミング等を使用できるので、受信装置は、データが配置された系列の数の増加に容易に対応できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明の実施例において、複数の系列の数が「4」である場合を説明した。しかしながらこれに限らず例えば、複数の系列の数は、「4」より小さくても構わないし、「4」より大きくても構わない。これにあわせて、前者の場合、アンテナ12の数が「4」より少なくても構わないし、アンテナ12の数が「4」より大きくても構わない。これらの場合において、ひとつのグループに含まれる系列の数が「2」より大きくてもよく、あるいはグループの数が「2」より大きくてもよい。本変形例によれば、さまざまな系列の数に本発明を適用できる。
本発明の実施例において、トレーニング信号における「HT−LTF」の符号関係として、各成分が直交の関係を有している行列を示している。しかしながらこれに限らず例えば、各成分が直交の関係でなくても、加算や減算のような簡単な演算によって、各所望の成分を取り出すことができるような符号関係を有している行列であればよい。本変形によれば、トレーニング信号における「HT−LTF」の符号として、さまざまな符号関係を使用できる。
本発明の実施例において、制御部30は、要求信号が含まれたパケット信号にトレーニング信号を配置している。しかしながらこれに限らず例えば、制御部30は、トレーニング信号を配置したパケット信号を送信してから、要求信号が含まれたパケット信号を送信してもよい。本変形例によれば、第2無線装置10bでは、トレーニング信号を受信したタイミングから、応答信号を送信すべきタイミングまでの期間を長くできる。つまり、トレーニング信号が配置されたパケット信号が送信されればよい。
本発明の実施例において、第1無線装置10aでは、伝送路特性をもとに、ビームフォーミングを実行する。しかしながらこれに限らず例えば、第1無線装置10aでは、伝送路特性をもとに、適応変調を実行してもよい。第1無線装置10aの制御部30は、伝送路特性と伝送レートを対応づけた規則を予め記憶し、当該規則を参照しながら、受けつけた伝送路特性から伝送レートを特定する。ここで、伝送路特性は、伝送路特性から導出できる信号強度や遅延スプレッドであってもよく、伝送レートは、変調方式、符号化率、系列の数によって定められる値であればよい。また、制御部30は、規則として、変調方式、符号化率、系列の数に対応づけながら、信号強度や遅延スプレッドに対するしきい値を記憶していてもよい。本変形例によれば、適応変調を実行できる。つまり、第2無線装置10bから第1無線装置10aに対して、伝送路特性が送信されればよい。
本発明の実施例において、通信システム100は、マルチキャリア信号を処理の対象としている。しかしながらこれに限らず例えば、通信システム100は、シングルキャリア信号を処理の対象としてもよい。その場合、第2無線装置10bは、受信した信号をもとに、周波数領域での伝送路特性を導出する。また、第2無線装置10bは、実施例と同様に、導出した伝送路特性を周波数領域から時間領域に変換し、変換した時間領域の伝送路特性を第1無線装置10aに送信する。その際、時間領域の伝送路特性のうちの遅延時間が大きい成分の値がゼロと仮定されることによって、周波数領域の伝送路特性を構成すべき成分の数よりも時間領域の伝送路特性を構成すべき成分の数が少なくされる。一方、第1無線装置10aは、受信した伝送路特性を時間領域から周波数領域に変換する。その際、実施例と同様に、受信した時間領域の伝送路特性を構成すべき成分の数が周波数領域の伝送路特性を構成すべき成分の数と等しくなるように、受信した時間領域の伝送路特性に対して所定の値の成分が補充されてから、変換が実行される。本変形例によれば、時間領域の伝送路特性のうちの遅延時間が大きい成分の値をゼロと仮定することによって、周波数領域の伝送路特性よりも成分の数が少ない時間領域の伝送路特性を導出できる。また、時間領域の伝送路特性に対して所定の値の成分を補充してから、周波数領域への変換を実行するので、時間領域の伝送路特性の成分の数が周波数領域の伝送路特性の成分の数よりも少なくても、周波数領域の伝送路特性を取得できる。
本発明の実施例において、ベースバンド処理部22は、サブキャリア単位の伝送路特性を導出してから、IFFTを実行することによって、時間領域の伝送路特性を導出している。しかしながらこれに限らず例えば、ベースバンド処理部22は、受信した信号から時間領域の伝送路特性を直接導出してもよい。その際、最小自乗法による推定によって、例えば、16サンプルポイントのみの伝送路特性が推定される。このときの処理は、「今井友裕,小川恭孝,大鐘武雄,”OFDM通信系におけるアダプティブアレーに関する検討,”電子情報通信学会技術研究報告,A・P2001-115, RCS2001-154,Oct. 2001.」、「Y. Ogawa, K. Nishio, T. Nishimura, and T. Ohgane, "Channel Estimation and Signal Detection for Space Division Multiplexing in a MIMO-OFDM System," IEICE Trans. Commun., vol. E88-B, no. 1, pp. 10-18, Jan. 2005.」のごとく実行されればよい。本変形例によれば、サブキャリア単位の伝送路特性の推定に比べて、未知数を少なくできるので、特性を改善できる。
10 無線装置、 12 アンテナ、 14 アンテナ、 20 無線部、 22 ベースバンド処理部、 24 変復調部、 26 IF部、 30 制御部、 100 通信システム。