本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、少なくともふたつの無線装置によって構成されるMIMOシステムに関する。無線装置のうちの送信側(以下、「送信装置」という)は、MIMO固有モード伝送に対応しており、1系列によって形成されるパケット信号を送信する。MIMO固有モード伝送を実行するために、送信装置は、送信装置の複数のアンテナと、受信装置の複数のアンテナとの組合せにそれぞれ対応した伝送路特性を取得する(以下、前述のごとく、組合せのそれぞれ対応した伝送路特性を行列の形式等にまとめたものを「H行列」という)。ここで、MIMOシステムは、OFDM変調方式を使用しているとするので、H行列は、キャリア単位に導出される。送信装置は、H行列を特異値分解することによって、ステアリング行列をキャリア単位に導出する。
通常のMIMO固有モード伝送では、ステアリング行列のうち、ひとつの列ベクトルをもとに送信ウエイトベクトルを導出する。このような送信ウエイトベクトルが固定されていれば、送信装置によって形成されるアンテナ指向性も固定される。そのため、通信対象でない受信装置が、送信装置からのパケット信号を受信可能である場合、パケット信号が連続して当該受信装置に受信されやすくなる。その結果、第三者に対するセキュリティの向上が必要になる。本実施例に係る送信装置は、列ベクトルに含まれる各成分を変動させることによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する。
図1は、本発明の実施例に係るマルチキャリア信号のスペクトルを示す。特に、図1は、OFDM変調方式での信号のスペクトルを示す。OFDM変調方式における複数のキャリアのひとつをサブキャリアと一般的に呼ぶが、ここではひとつのサブキャリアを「サブキャリア番号」によって指定するものとする。MIMOシステムには、サブキャリア番号「−28」から「28」までの56サブキャリアが規定されている。なお、サブキャリア番号「0」は、ベースバンド信号における直流成分の影響を低減するため、ヌルに設定されている。一方、MIMOシステムに対応していないシステム(以下、「従来システム」という)には、サブキャリア番号「−26」から「26」までの52サブキャリアが規定されている。なお、従来システムの一例は、IEEE802.11a規格に準拠した無線LANである。また、複数のサブキャリアにて構成されたひとつの信号の単位であって、かつ時間領域のひとつの信号の単位は、「OFDMシンボル」と呼ばれるものとする。
また、それぞれのサブキャリアは、可変に設定された変調方式によって変調されている。変調方式には、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAM、256QAMのいずれかが使用される。
また、これらの信号には、誤り訂正方式として、畳み込み符号化が適用されている。畳み込み符号化の符号化率は、1/2、3/4等に設定される。さらに、並列に送信すべきデータの数は、可変に設定される。その結果、変調方式、符号化率、系列の数の値が可変に設定されることによって、データレートも可変に設定される。なお、「データレート」は、これらの任意の組合せによって決定されてもよいし、これらのうちのひとつによって決定されてもよい。従来システムにおいて、変調方式がBPSKであり、符号化率が1/2である場合、データレートは6Mbpsになる。一方、変調方式がBPSKであり、符号化率が3/4である場合、データレートは9Mbpsになる。
図2は、本発明の実施例に係る通信システム100の構成を示す。通信システム100は、無線装置10と総称される第1無線装置10a、第2無線装置10bを含む。また、第1無線装置10aは、アンテナ12と総称される第1アンテナ12a、第2アンテナ12b、第3アンテナ12c、第4アンテナ12dを含み、第2無線装置10bは、アンテナ14と総称される第1アンテナ14a、第2アンテナ14b、第3アンテナ14c、第4アンテナ14dを含む。ここで、第1無線装置10aが、送信装置に対応し、第2無線装置10bが、受信装置に対応する。
通信システム100の構成として、MIMOシステムの概略を説明する。データは、第1無線装置10aから第2無線装置10bに送信されているものとする。第1無線装置10aは、第1アンテナ12aから第4アンテナ12dのそれぞれから、複数の系列のデータをそれぞれ送信する。その結果、データレートが高速になる。第2無線装置10bは、第1アンテナ14aから第4アンテナ14dによって、複数の系列のデータを受信する。さらに、第2無線装置10bは、アダプティブアレイ信号処理によって、受信したデータを分離して、複数の系列のデータを独立に復調する。
ここで、アンテナ12の本数は「4」であり、アンテナ14の本数も「4」であるので、アンテナ12とアンテナ14の間の伝送路の組合せは「16」になる。第iアンテナ12iから第jアンテナ14jとの間の伝送路特性をhijと示す。図中において、第1アンテナ12aと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh11、第1アンテナ12aから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh12、第2アンテナ12bと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh21、第2アンテナ12bから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh22、第4アンテナ12dから第4アンテナ14dとの間の伝送路特性がh44と示されている。なお、これら以外の伝送路は、図の明瞭化のために省略する。各伝送路特性を取得するために、第1無線装置10aから第2無線装置10bに、トレーニング信号が送信される。また、第1無線装置10aと第2無線装置10bとが逆になってもよい。
図3は、通信システム100における送信ウエイトベクトルの導出手順を示すシーケンス図である。第1無線装置10aは、第2無線装置10bに対して、トレーニング信号を送信する(S10)。なお、トレーニング信号の構成は、後述する。第2無線装置10bは、トレーニング信号をもとに、H行列を推定する(S12)。第2無線装置10bは、第1無線装置10aに対して、H行列を送信する(S14)。第1無線装置10aは、H行列をもとに、ステアリング行列を導出した後に、送信ウエイトベクトルを導出する(S16)。第1無線装置10aは、送信ウエイトベクトルを使用しながら、第2無線装置10bにデータ信号を送信する(S18)。なお、これにつづいて、第1無線装置10aから第2無線装置10bへデータ信号が送信される場合、第1無線装置10aは、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを使用する。
図4(a)−(d)は、通信システム100におけるパケットフォーマットを示す。図4(a)−(d)は、トレーニング信号ではなく、通常のパケット信号のフォーマットを示す。ここで、図4(a)は、系列の数が「4」である場合に対応し、図4(b)は、系列の数が「3」である場合に対応し、図4(c)は、系列の数が「2」である場合に対応し、図4(d)は、系列の数が「1」であり場合に対応する。前述のごとく、本実施例では、系列の数を「1」とするので、図4(d)のみが使用されるが、後述の変形例において使用されるパケットフォーマットもここで説明する。図4(a)では、4つの系列に含まれたデータが、送信の対象とされるものとし、第1から第4の系列に対応したパケットフォーマットが上段から下段に順に示される。
第1の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF」、「HT−LTF」等が配置される。「L−STF」、「L−LTF」、「L−SIG」、「HT−SIG」は、従来システムに対応したAGC設定用の既知信号、伝送路推定用の既知信号、制御信号、MIMOシステムに対応した制御信号にそれぞれ相当する。MIMOシステムに対応した制御信号には、例えば、系列の数に関する情報やデータ信号の宛先が含まれている。「HT−STF」、「HT−LTF」は、MIMOシステムに対応したAGC設定用の既知信号、伝送路推定用の既知信号に相当する。一方、「データ1」は、データ信号である。なお、L−LTF、HT−LTFは、AGCの設定だけでなく、タイミングの推定にも使用される。
また、第2の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF(−50ns)」と「HT−LTF(−400ns)」等が配置される。また、第3の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF(−100ns)」と「HT−LTF(−200ns)」等が配置される。また、第4の系列に対応したパケット信号には、プリアンブル信号として「L−STF(−150ns)」と「HT−LTF(−600ns)」等が配置される。
ここで、「−400ns」等は、CDD(Cyclic Delay Diversity)におけるタイミングシフト量を示す。CDDとは、所定の区間において、時間領域の波形をシフト量だけ後方にシフトさせ、所定の区間の最後部から押し出された波形を所定の区間の先頭部分に循環的に配置させる処理である。すなわち、「L−STF(−50ns)」には、「L−STF」に対して、−50nsの遅延量にて循環的なタイミングシフトがなされている。なお、L−STFとHT−STFは、800nsの期間の繰り返しによって構成され、その他のHT−LTF等は、3.2μsの期間の繰り返し部分と0.8μsのGI部分から構成されている。ここで「データ1」から「データ4」にもCDDがなされており、タイミングシフト量は、前段に配置されたHT−LTFでのタイミングシフト量と同一の値である。
また、第1の系列において、HT−LTFが、先頭から「HT−LTF」、「−HT−LTF」、「HT−LFT」、「−HT−LTF」の順に配置されている。ここで、これらを順に、すべての系列において「第1成分」、「第2成分」、「第3成分」、「第4成分」と呼ぶ。すべての系列の受信信号に対して、第1成分−第2成分+第3成分−第4成分の演算を行えば、受信装置において、第1の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分+第2成分+第3成分+第4成分の演算を行えば、受信装置において、第2の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分−第2成分−第3成分+第4成分の演算を行えば、受信装置において、第3の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分+第2成分−第3成分−第4成分の演算を行えば、受信装置において、第4の系列に対する所望信号が抽出される。これらは、所定の成分の符号の組合せが系列間において直交関係を有していることに相当する。なお、加減処理は、ベクトル演算にて実行される。
「L−LTF」から「HT−SIG」等までの部分には、従来システムと同様に、「52」サブキャリアが使用される。なお、「52」サブキャリアのうちの「4」サブキャリアがパイロット信号に相当する。一方、「HT−LTF」等以降の部分は、「56」サブキャリアを使用する。
図4(a)において、「HT−LTF」の符号は、以下のように規定されている。第1の系列の先頭から順に、符号は「+」、「−」、「+」、「−」の順に並べられ、第2の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「+」、「+」の順に並べられ、第3の系列の先頭から順に、符号は「+」、「−」、「−」、「+」の順に並べられ、第4の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「−」、「−」の順に並べられている。しかしながら、符号は、以下のように規定されていてもよい。第1の系列の先頭から順に、符号は「+」、「−」、「+」、「+」の順に並べられ、第2の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「−」、「+」の順に並べられ、第3の系列の先頭から順に、符号は「+」、「+」、「+」、「−」の順に並べられ、第4の系列の先頭から順に、符号は「−」、「+」、「+」、「+」の順に並べられる。このような符号であっても、所定の成分の符号の組合せが系列間において直交関係を有していることに相当する。
図4(b)は、図4(a)の第1の系列から第3の系列に相当する。図4(c)は、図4(a)に示したパケットフォーマットのうちの第1系列と第2系列に類似している。ここで、図4(c)の「HT−LTF」の配置が、図4(a)の「HT−LTF」の配置と異なっている。すなわち、HT−LTFには、第1成分と第2成分だけが含まれている。第1の系列において、HT−LTFが、先頭から「HT−LTF」、「HT−LTF」の順に配置され、第2の系列において、HT−LTFが、先頭から「HT−LTF」、「−HT−LTF」の順に配置されている。すべての系列の受信信号に対して、第1成分+第2成分の演算を行えば、受信装置において、第1の系列に対する所望信号が抽出される。また、すべての系列の受信信号に対して、第1成分−第2成分の演算を行えば、受信装置において、第2の系列に対する所望信号が抽出される。これらも、前述のごとく、直交関係といえる。図4(d)では、ひとつの「HT−LTF」だけが配置されている。ここでは、図4(a)−(d)、特に図4(d)に示されたパケット信号が、MIMO固有モード伝送によって、ビームフォーミングされながら送信される。
図5(a)−(d)は、通信システム100におけるトレーニング信号用のパケットフォーマットを示す。なお、トレーニング信号とは、伝送路推定用の既知信号、つまりHT−LTFが配置された系列数が、データ信号が配置された系列数よりも多いパケット信号ことを示す。なお、以下では説明を明瞭にするために、パケットフォーマットに含まれる「L−STF」から「HT−SIG」を省略するものとする。すなわち、「HT−STF」以降の構成が示されている。図5(a)は、データ信号が配置される系列(以下、「主系列」という)の数が「3」である場合であり、図5(b)は、主系列の数が「2」場合であり、図5(c)−(d)は、主系列の数が「1」である場合である。すなわち、図5(a)では、第1の系列から第3の系列にデータ信号が配置され、図5(b)では、第1の系列と第2の系列とにデータ信号が配置され、図5(c)−(d)では、第1の系列にデータ信号が配置される。
図5(a)の第1の系列から第3の系列のうち、HT−LTFに関する配置までは、図4(b)での配置と同一である。しかしながら、その後段において、第1の系列から第3の系列には、空白の期間が設けられる。一方、第1の系列から第3の系列での空白の期間において、第4の系列には、HT−LTFが配置される。また、第4の系列に配置されたHT−LTFにつづいて、第1の系列から第3の系列には、データが配置される。なお、第4の系列において、ひとつのHT−LTFが配置される。
このような配置によって、「HT−STF」が配置された系列の数が、データ信号が配置された系列の数に等しくなるので、受信装置において「HT−STF」によって設定された増幅率に含まれる誤差が小さくなり、データ信号の受信特性の悪化を防止できる。また、第4系列に配置された「HT−LTF」は、ひとつの系列に配置されているだけなので、受信装置において第4系列に配置された「HT−LTF」が、AGCによって歪みが生じるほど増幅される状況を低減できる。そのため、伝送路推定の精度の悪化を防止できる。
図5(b)の第1の系列と第2の系列のうち、HT−LTFに関する配置までは、図4(c)での配置と同一である。しかしながら、その後段において、第1の系列と第2の系列には、空白の期間が設けられる。一方、第1の系列と第2の系列での空白の期間において、第3の系列と第4の系列には、HT−LTFが配置される。また、第3の系列と第4の系列に配置されたHT−LTFにつづいて、第1の系列と第2の系列には、データが配置される。なお、第3の系列と第4の系列でのHT−LTFの配置は、図4(c)での配置と同一である。
ここで、タイミングシフト量について、「0ns」、「−400ns」、「−200ns」、「−600ns」の順に優先度が低くなるように、優先度が規定されているものとする。すなわち、「0ns」の優先度が最も高く、「−600ns」の優先度が最も低くなるように規定されている。そのため、第1の系列と第2の系列では、タイミングシフト量として、「0ns」、「−400ns」の値が使用されている。一方、第3の系列と第4の系列でもタイミングシフト量として「0ns」、「−400ns」の値が使用されている。その結果、第1の系列での「HT−LTF」、「HT−LTF」の組合せが第3の系列でも使用され、第2の系列での「HT−LTF(−400ns)」、「−HT−LTF(−400ns)」の組合せが第4の系列でも使用されるので、処理が簡易になる。
図5(c)の第1の系列のうち、HT−LTFに関する配置までは、図5(b)の第1の系列に対する配置と同等である。ここで、ふたつの「HT−LTF」が配置される。しかしながら、その後段において、第1の系列には、空白の期間が設けられる。一方、第1の系列での空白の期間において、第2の系列から第4の系列には、HT−LTFが配置される。また、第2の系列から第4の系列に配置されたHT−LTFにつづいて、第1の系列には、データが配置される。ここで、第2の系列から第3の系列に配置されるHT−LTFの配置は、図4(b)での配置に類似する。
図5(d)は、図5(c)と同様に構成されるが、図5(d)における「HT−LTF」の符号の組合せが、図5(c)のものと異なる。ここで、「HT−LTF」の符号の組合せは、系列間において直交関係が成立するように規定されている。また、図5(d)では、複数の系列のそれぞれに対し、「HT−LTF」の符号の組合せが固定されるように規定されている。ここで、図5(d)では、図5(c)と同様に、第2の系列から第4の系列であっても、優先度の高い「0ns」、「−400ns」、「−200ns」が使用される。
図5(a)での第4の系列、すなわちデータが配置されていない系列(以下、「副系列」という)には、ひとつの「HT−LTF」が配置される。また、図5(b)での第3の系列および第4の系列には、ふたつの「HT−LTF」が配置される。さらに、図5(c)−(d)での第2の系列から第4の系列には、4つの「HT−LTF」が配置される。これらを比較すると、図5(c)−(d)での副系列に配置された「HT−LTF」の長さが最も長くなる。すなわち、トレーニング信号を生成すべきパケット信号での主系列の数が大きくなると、副系列の長さが短くなり、伝送効率が向上する。なお、トレーニング信号には、MIMO固有モード伝送によるビームフォーミングがなされないものとする。
図6(a)−(d)は、通信システム100における別のトレーニング信号用のパケットフォーマットを示す。図6(a)−(d)は、図5(a)−(d)にそれぞれ対応する。図6(a)−(d)では、複数の系列のそれぞれにタイミングシフト量が対応づけられながら規定されている。ここで、第1の系列に対してタイミングシフト量「0ns」が規定され、第2の系列に対してタイミングシフト量「−400ns」が規定され、第3の系列に対してタイミングシフト量「−200ns」が規定され、第4の系列に対してタイミングシフト量「−600ns」が規定されている。
そのため、図6(a)では、図5(a)における第4の系列でのタイミングシフト量「0ns」の代わりに、「−600ns」が使用される。また、図6(b)では、図5(b)における第3の系列と第4の系列でのタイミングシフト量「0ns」、「−400ns」の代わりに、「−200ns」、「−600ns」が使用される。一方、図6(c)−(d)では、図5(c)−(d)における第2の系列から第4の系列でのタイミングシフト量「0ns」、「−400ns」、「−200ns」の代わりに、「−400ns」、「−200ns」、「−600ns」が使用される。
図6(d)は、図6(c)と同様に構成されるが、図6(d)における「HT−LTF」の符号の組合せが、図6(c)のものと異なる。「HT−LTF」の符号の組合せには予め優先度が設けられている。すなわち、図4(a)の第1の系列における符号の組合せの優先度が最も高く、第4の系列における符号の組合せの優先度が最も低くなるような規定がなされている。また、データ信号が配置される系列に対して、優先度の高い符号の組合せから順に符号の組合せを使用し、データ信号が配置されない系列に対しても、優先度の高い符号の組合せから順に符号の組合せを使用する。このように、符号の組合せを同じにしておけば、受信装置が+−の演算を行って各成分を取り出す場合に、データが配置されない系列の「HT−LTF」の部分に対する伝送路特性の計算と、データが配置される系列の「HT−LTF」の部分に対する伝送路特性の計算に対して、共通の回路を使用できる。
図7は、通信システム100において最終的に送信されるトレーニング信号のパケットフォーマットを示す。図7は、図5(b)と図6(b)のパケット信号を変形させた場合に相当する。図5(b)と図6(b)の第1の系列と第2の系列に配置された「HT−STF」と「HT−LTF」に、後述の直交行列による演算がなされる。その結果、「HT−STF1」から「HT−STF4」が生成される。「HT−LTF」についても同様である。さらに、第1の系列から第4の系列のそれぞれに対して、タイミングシフト量「0ns」、「−50ns」、「−100ns」、「−150ns」によるCDDが実行される。なお、2度目のCDDでのタイミングシフト量の絶対値は、HT−STFおよびHT−LTFに対して1度目になされたCDDでのタイミングシフト量の絶対値よりも小さくなるように設定される。第3の系列と第4の系列に配置された「HT−LTF」と、第1の系列の「データ1」等に対しても同様の処理が実行される。
図8は、第1無線装置10aの構成を示す。第1無線装置10aは、無線部20と総称される第1無線部20a、第2無線部20b、第4無線部20d、ベースバンド処理部22、変復調部24、IF部26、制御部30を含む。また、IF部26は、結合部90、復号部92、分離部94、符号化部96を含む。また信号として、時間領域信号200と総称される第1時間領域信号200a、第2時間領域信号200b、第4時間領域信号200d、周波数領域信号202と総称される第1周波数領域信号202a、第2周波数領域信号202b、第4周波数領域信号202dを含む。なお、第2無線装置10bは、第1無線装置10aと同様に構成される。第1無線装置10aは、複数のアンテナ12を備えながら、図示しない第2無線装置10bであって、かつ図示しない複数のアンテナ14を備えた第2無線装置10bとの間での通信を実行する。
無線部20は、受信動作として、アンテナ12によって受信した無線周波数の信号を周波数変換し、ベースバンドの信号を導出する。無線部20は、ベースバンドの信号を時間領域信号200としてベースバンド処理部22に出力する。一般的に、ベースバンドの信号は、同相成分と直交成分によって形成されるので、ふたつの信号線によって伝送されるべきであるが、ここでは、図を明瞭にするためにひとつの信号線だけを示すものとする。また、AGCやA/D変換部も含まれる。AGCは、「L−STF」、「HT−STF」をもとに増幅率を設定する。
無線部20は、送信動作として、ベースバンド処理部22からのベースバンドの信号を周波数変換し、無線周波数の信号を導出する。ここで、ベースバンド処理部22からのベースバンドの信号も時間領域信号200として示す。無線部20は、無線周波数の信号をアンテナ12に出力する。すなわち、無線部20は、無線周波数のパケット信号をアンテナ12から送信する。また、PA(Power Amplifier)、D/A変換部も含まれる。時間領域信号200は、時間領域に変換されたマルチキャリア信号であり、デジタル信号であるものとする。
ベースバンド処理部22は、受信動作として、複数の時間領域信号200をそれぞれ周波数領域に変換し、周波数領域の信号に対してアダプティブアレイ信号処理を実行する。ベースバンド処理部22は、アダプティブアレイ信号処理の結果を周波数領域信号202として出力する。ひとつの周波数領域信号202が、送信された複数の系列のそれぞれに含まれたデータに相当する。ベースバンド処理部22は、送信動作として、変復調部24から、周波数領域の信号としての周波数領域信号202を入力し、ウエイトベクトルによる分散処理を実行する。すなわち、MIMO固有モード伝送における固有ビームの形成がなされる。なお、MIMO固有モード伝送の説明は、後述する。
ベースバンド処理部22は、周波数領域の信号を時間領域に変換し、時間領域信号200として出力する。送信処理において使用すべきアンテナ12の数は、制御部30によって指定されるものとする。ここで、周波数領域の信号である周波数領域信号202は、図1のごとく、複数のサブキャリアの成分を含むものとする。図を明瞭にするために、周波数領域の信号は、サブキャリア番号の順に並べられて、シリアル信号を形成しているものとする。
図9は、周波数領域の信号の構成を示す。ここで、図1に示したサブキャリア番号「−28」から「28」のひとつの組合せを「OFDMシンボル」というものとする。「i」番目のOFDMシンボルは、サブキャリア番号「1」から「28」、サブキャリア番号「−28」から「−1」の順番にサブキャリア成分を並べているものとする。また、「i」番目のOFDMシンボルの前に、「i−1」番目のOFDMシンボルが配置され、「i」番目のOFDMシンボルの後ろに、「i+1」番目のOFDMシンボルが配置されているものとする。なお、図4(a)等の「L−SIG」等の部分では、ひとつの「OFDMシンボル」に対して、サブキャリア番号「−26」から「26」の組合せが使用される。
図8に戻る。変復調部24は、受信処理として、ベースバンド処理部22からの周波数領域信号202に対して、復調を実行する。なお、復調は、サブキャリア単位でなされる。変復調部24は、復調した信号をIF部26に出力する。また、変復調部24は、送信処理として、変調を実行する。変復調部24は、変調した信号を周波数領域信号202としてベースバンド処理部22に出力する。
IF部26は、受信処理として、結合部90において複数の変復調部24からの信号を合成し、ひとつのデータストリームを形成する。さらに、復号部92は、ひとつのデータストリームに対してデインタリーブを実行した後に、復号を実行する。IF部26は、復号したデータストリームを出力する。また、IF部26は、送信処理として、ひとつのデータストリームを入力し、符号化部96において符号化およびインタリーブを実行した後に、分離部94においてこれを分離する。さらに、IF部26は、分離したデータを複数の変復調部24に出力する。
制御部30は、第1無線装置10aのタイミング等を制御する。以下では、第1無線装置10aの処理内容を図3での動作に対応づけながら説明する。また、その処理の前提として、MIMO固有モード伝送の概略を説明する。そのため、以下では、(1)MIMO固有モード伝送の概略、(2)トレーニング信号の送信、(3)送信ウエイトベクトルの導出の順に説明を行う。
(1)MIMO固有モード伝送の概略
H行列は、サブキャリア単位に、複数のアンテナ12の数と、複数の図示しないアンテナ14の数から定められる要素の数を有する。例えば、図2のように、複数のアンテナ12の数は、「4」であり、複数のアンテナ14の数も「4」である場合、H行列は、ひとつのサブキャリアに対して4行4列となる。また、H行列に含まれたそれぞれの成分は、前述の伝送路特性にであり、図2のhijに相当する。
このようなH行列は、前述のごとく、第2無線装置10bにおいて導出される。以下、説明を容易にするためにひとつのサブキャリアに対する処理を説明する。第2無線装置10bにおいて受信されたトレーニング信号は、受信信号ベクトルYとして示される。なお、Yは、アンテナ14の数を要素の数とする。また、送信されるトレーニング信号は、送信信号ベクトルXとして示される。なお、Xは、アンテナ12の数を要素の数とする。これらのように定義すれば、Y、X、H行列の関係は、以下のように示される。
nは、雑音ベクトルである。H行列は、アンテナ14の数を行の数とし、アンテナ12の数を列の数とする。また、図2の場合、H行列の各要素は、以下のように示される。
第1無線装置10aの制御部30は、H行列に対して特異値分解を実行する。H行列に対する特異値分解は、以下のように示される。
Σは、以下のように示される対角行列であり、特異値行列に相当する。
また、UとVは、特異行列であり、アンテナ12の数の行4列、アンテナ14の数の行4列によってそれぞれ構成されるユニタリ行列である。なお、Vは、前述のステアリング行列に相当する。また、VHは、4つの列ベクトルによって構成されており、4つの列ベクトルのそれぞれは、特異値行列に含まれる各特異値に対応づけられる。例えば、MIMO固有モード伝送において、4つの系列によって形成されるパケット信号が送信される場合、第1の系列から第4の系列のそれぞれに対する送信ウエイトベクトルとして、v1からv4が使用される。なお、第2無線装置10bでは、UHにて示される受信ウエイトベクトルにて受信がなされる。このような受信ウエイトベクトルは、例えば、MMSE(Minimum Mean Square Error)によって導出される。
(2)トレーニング信号の送信
制御部30は、IF部26、変復調部24、ベースバンド処理部22と協同しながら、図5(a)−(d)、図6(a)−(d)、図7のようなパケットフォーマットのパケット信号を生成し、生成したパケット信号を送信するための制御を実行する。ここでは、図5(b)、図6(b)に示されたパケットフォーマットを生成するための処理を中心に説明するが、それ以外のパケットフォーマットについても、同様の処理が実行される。
IF部26において、複数の系列のうちの少なくともひとつに配置すべきデータが入力される。ここでは、図5(b)、図6(b)のごとく、ふたつの系列に配置すべきデータが入力される。制御部30は、ベースバンド処理部22に対して、入力したデータが配置された系列、すなわち第1の系列と第2の系列に配置される「HT−STF」と、「HT−STF」の後段において複数の系列に配置される「HT−LTF」と、第1の系列と第2の系列に配置されるデータとから、パケット信号を生成するように指示する。なお、制御部30は、図4(a)−(d)のごとく、HT−STFの前段に、「L−STF」、「L−LTF」、「L−SIG」、「HT−SIG」が配置されるように、ベースバンド処理部22に指示を出力する。
ここで、図5(b)、図6(b)に記載のごとく、ひとつの系列に対してふたつの「HT−LTF」が配置されている場合を説明の対象にする。すなわち、「HT−LTF」の全体は、時間領域において「HT−LTF」が繰り返されることによって形成されている。また、「HT−LTF」の符号の組合せは、主系列間あるいは副系列間での直交関係が成立するように規定されている。その結果、前述のごとく、主系列内において、第1成分と第2成分とを加算すれば、第1の系列に対するHT−LTFが抽出される。また、主系列内において、第1成分から第2成分を減算すれば、第2の系列に対するHT−LTFが抽出される。
なお、ひとつの系列に配置される「HT−LTF」の数は、直交関係を成立させるために必要な数によって定められる。そのため、直交関係を成立させるべき系列の数が「2」であれば、ひとつの系列当たりの「HT−LTF」の数は「2」になる。一方、直交関係を成立させるべき系列の数が「3」あるいは「4」であれば、ひとつの系列当たりの「HT−LTF」の数は「4」になる。
制御部30は、ベースバンド処理部22に対して、HT−LTF等にCDDを実行させる。なお、CDDは、ひとつの系列に配置されたHT−LTFを基準として、他の系列に配置されたHT−LTFに、HT−LTF内での循環的なタイミングシフトを実行させることに相当する。制御部30は、タイミングシフト量に予め優先度を設けている。ここでは、前述のごとく、タイミングシフト量「0ns」の優先度を最も高く設定し、それにつづいて「−400ns」、「−200ns」、「−600ns」の順に低くなっていくような優先度を設定する。
さらに、制御部30は、ベースバンド処理部22に、主系列に対して、優先度の高いタイミングシフト量から順にタイミングシフト量を使用させる。例えば、図5(b)の場合、第1の系列に対して「0ns」を使用させ、第2の系列に対して「−400ns」を使用させる。また、制御部30は、副系列に対しても、優先度の高いタイミングシフト量から順にタイミングシフト量を使用させる。例えば、図5(b)の場合、第3の系列に対して「0ns」を使用させ、第4の系列に対して「−400ns」を使用させる。以上の処理によって、図5(b)に示したパケットフォーマットのパケット信号が生成される。
一方、これとは別に、複数の系列に対してそれぞれ異なった値のタイミングシフト量が設定されていてもよい。例えば、第1の系列のタイミングシフト量として、「0ns」が設定され、第2の系列のタイミングシフト量として、「−400ns」が設定され、第3の系列のタイミングシフト量として、「−200ns」が設定され、第4の系列のタイミングシフト量として、「−600ns」が設定される。以上の処理によって、図6(b)に示したパケットフォーマットのパケット信号が生成される。
以上の処理によって、図5(a)−(d)、図6(a)−(d)のようなパケットフォーマットのパケット信号が生成された後、制御部30は、ベースバンド処理部22に、これらのようなパケット信号を変形させる。すなわち、制御部30は、図5(b)、図6(b)に示したパケットフォーマットを図7に示したパケットフォーマットに変形させる。ベースバンド処理部22は、系列の数を複数の系列の数まで拡張した後に、拡張された系列に対して、CDDを実行する。また、制御部30は、変形したパケット信号を無線部20に送信させる。
(3)送信ウエイトベクトルの導出
制御部30は、無線部20、ベースバンド処理部22等を介して、第2無線装置10bからH行列を受けつける。制御部30は、前述のごとく特異値分解することによって前述のステアリング行列を導出し、ステアリング行列から列ベクトル、例えばv1H(以下、「v1」という)を取得する。実施例では、v1をそのまま送信ウエイトベクトルとして使用せずに、制御部30は、取得した列ベクトルv1に含まれた各成分を変動させることによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する。ここでは、特に、各成分の位相を固定しながら、振幅を変動させることによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルが導出される。なお、変動は、パケット信号単位になされる。
以上の処理を具体的に説明する。ここで、説明の便宜上、列ベクトルv1は、4つの成分を有しており、4つの成分は、v1(1)、v1(2)、v1(3)、v1(4)と示されるものとする。なお、ひとつの成分は、複素数によって示され、同相成分と直交成分とを有する。制御部30は、v1(1)、v1(2)、v1(3)のそれぞれに対する変動のパターンが示されたテーブルを記憶する。テーブルには、v1(1)、v1(2)、v1(3)のそれぞれに対して、「1.1倍」、「0.9倍」、「1.15倍」というような複数の増幅率が並べられてる。また、制御部30は、パケット信号単位に、テーブルの前から順に増幅率を取得し、v1(1)等に乗算する。ここで、乗算は、v1(1)等の同相成分および直交成分に対してなされる。その結果、v1(1)、v1(2)、v1(3)の値は、パケット信号単位に変動する。ここで、乗算結果は、v1’(1)、v1’(2)、v1’(3)と示される。
さらに、変動した列ベクトルをv1’と示し、変動した列ベクトルの残りの成分をv1’(4)と示す。v1とv1’との内積の値が、所定の値「α」になるように、制御部30は、v1’(4)の値を決定する。その結果、v1’が特定され、制御部30は、これを送信ウエイトベクトルとする。また、以上の処理は、パケット信号単位になされる。つまり、制御部30は、各成分のうちのひとつ以外の成分に対して、予め規定されたパターンによる変動を実行させ、ひとつの成分に対して、v1と送信ウエイトベクトルとの内積が所定の値「α」に近づくように調節を実行することによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する。以上の結果、列ベクトルの値は、複数のパケット信号にわたって同一であっても、送信ウエイトベクトルは、パケット単位に異なった値になる。さらに、ベースバンド処理部22は、ウエイトベクトルによる重みづけが実行された信号を送信する。
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
図10は、ベースバンド処理部22の構成を示す。ベースバンド処理部22は、受信用処理部50、送信用処理部52を含む。受信用処理部50は、ベースバンド処理部22における動作のうち、受信動作に対応する部分を実行する。すなわち、受信用処理部50は、時間領域信号200に対してアダプティブアレイ信号処理を実行しており、そのために時間領域信号200のウエイトベクトルの導出を実行する。また、受信用処理部50は、アレイ合成した結果を周波数領域信号202として出力する。なお、受信用処理部50は、トレーニング信号に対応した周波数領域信号202をもとに、前述のH行列を推定する。
送信用処理部52は、ベースバンド処理部22における動作のうち、送信動作に対応する部分を実行する。すなわち、受信用処理部50は、周波数領域信号202を変換することによって、時間領域信号200を生成する。また、送信用処理部52は、複数の系列を複数のアンテナ12にそれぞれ対応づける。さらに、送信用処理部52は、図5(a)−(d)、図6(a)−(d)、図7に示されたようなCDDを実行を実行し、図4(d)に対してMIMO固有モード伝送を実行する。送信用処理部52は、最終的に時間領域信号200を出力する。
図11は、受信用処理部50の構成を示す。受信用処理部50は、FFT部74、ウエイトベクトル導出部76、合成部80と総称される第1合成部80a、第2合成部80b、第3合成部80c、第4合成部80dを含む。
FFT部74は、時間領域信号200に対してFFTを実行することによって、時間領域信号200を周波数領域の値に変換する。そのため、周波数領域の値は、図9のように構成されているものとする。すなわち、ひとつの時間領域信号200に対する周波数領域の値は、ひとつの信号線にて出力される。
ウエイトベクトル導出部76は、周波数領域の値から、サブキャリア単位に受信ウエイトベクトルを導出する。なお、受信ウエイトベクトルは、複数の系列のそれぞれに対応するように導出され、ひとつの系列に対する受信ウエイトベクトルは、アンテナ12の数に対応した要素をサブキャリア単位に有する。また、複数の系列のそれぞれに対応した受信ウエイトベクトルの導出には、適応アルゴリズムが使用されてもよく、あるいは伝送路特性が使用されてもよいが、これらの処理には、公知の技術が使用されればよいので、ここでは、説明を省略する。なお、ウエイトベクトル導出部76は、受信ウエイトベクトルを導出する際に、前述のごとく、第1成分−第2成分+第3成分−第4成分や第1成分+第2成分等の演算を実行する。最終的に、前述のごとく、サブキャリア、アンテナ12、系列のそれぞれを単位にして、ウエイトが導出される。なお、ウエイトベクトル導出部76は、受信ウエイトベクトルを導出すると共に、前述のサブキャリア単位のH行列を導出する。
合成部80は、FFT部74にて変換された周波数領域の値と、ウエイトベクトル導出部76からの受信ウエイトベクトルとによって、合成を実行する。例えば、ひとつの乗算対象として、ウエイトベクトル導出部76からの受信ウエイトベクトルのうち、ひとつのサブキャリアに対応したウエイトであって、かつ第1の系列に対応したウエイトが選択される。選択されたウエイトは、アンテナ12のそれぞれに対応した値を有する。
また、別の乗算対象として、FFT部74にて変換された周波数領域の値のうち、ひとつのサブキャリアに対応した値が選択される。選択された値は、アンテナ12のそれぞれに対応した値を有する。なお、選択されたウエイトと選択された値は、同一のサブキャリアに対応する。アンテナ12のそれぞれに対応づけられながら、選択されたウエイトと選択された値が、それぞれ乗算され、乗算結果が加算されることによって、第1の系列のうちのひとつのサブキャリアに対応した値が導出される。第1合成部80aでは、以上の処理が他のサブキャリアに対しても実行され、第1の系列に対応したデータが導出される。また、第2合成部80bから第4合成部80dでは、同様の処理によって、第2の系列から第4の系列に対応したデータがそれぞれ導出される。導出された第1の系列から第4の系列は、第1周波数領域信号202aから第4周波数領域信号202dとしてそれぞれ出力される。
図12は、送信用処理部52の構成を示す。送信用処理部52は、分散部66、IFFT部68を含む。分散部66は、周波数領域信号202とアンテナ12とを対応づける。まず、トレーニング信号を送信する際の処理を説明する。分散部66は、図5(a)−(d)、図6(a)−(d)のパケットフォーマットに対応したパケット信号を生成するために、CDDを実行する。CDDは、行列Cとして、以下のように実行される。
ここで、δは、シフト量を示し、lは、サブキャリア番号を示している。さらに、行列Cと系列との乗算は、サブキャリアを単位にして実行される。すなわち、分散部66は、L−STF等内での循環的なタイミングシフトを系列単位に実行する。また、タイミングシフト量は、図5(a)−(d)、図6(a)−(d)のごとく設定される。
分散部66は、図5(a)−(d)、図6(a)−(d)のごとく生成されたトレーニング信号に対して、ステアリング行列をそれぞれ乗算することによって、トレーニング信号の系列の数を複数の系列の数まで増加させる。ここで、分散部66は、乗算を実行する前に、入力した信号の次数を複数の系列の数まで拡張する。図5(b)および図6(b)の場合、第1の系列と第2の系列に配置された「HT−STF」等が入力されるので、入力した信号の数は、「2」であり、ここでは、「Nin」によって代表させる。
そのため、入力したデータは、「Nin×1」のベクトルによって示される。また、複数の系列の数は、「4」であり、ここでは、「Nout」によって代表させる。分散部66は、入力したデータの次数をNinからNoutに拡張させる。すなわち、「Nin×1」のベクトルを「Nout×1」のベクトルに拡張させる。その際、Nin+1行目からNout行目までの成分に「0」を挿入する。一方、図5(b)および図6(b)の第3の系列と第4の系列に配置された「HT−LTF」に対して、Ninまでの成分が「0」であり、Nin+1行目からNout行目までの成分にHT−LTF等が挿入されている。
また、ステアリング行列Sは、次のように示される。
ステアリング行列は、「Nout×Nout」の行列である。また、Wは、直交行列であり、「Nout×Nout」の行列である。直交行列の一例は、ウォルシュ行列である。ここで、lは、サブキャリア番号を示しており、ステアリング行列による乗算は、サブキャリアを単位にして実行される。さらに、Cは、前述のごとく、CDDを示す。ここで、CDDにおけるタイミングシフト量は、複数の系列のそれぞれに対して異なるように規定されている。すなわち、第1の系列に対して「0ns」、第2の系列に対して「−50ns」、第3の系列に対して「−100ns」、第4の系列に対して「−150ns」のようにタイミングシフト量が規定される。
分散部66は、MIMO固有モード伝送を実行する際に、図示しない制御部30から前述の送信ウエイトベクトルを入力し、図示しない変復調部24から図4(d)のパケット信号を入力する。分散部66は、送信ウエイトベクトルによってパケット信号を乗算する。IFFT部68は、分散部66からの信号に対して、IFFTを実行し、時間領域信号200を生成する。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。第1無線装置10aは、第2無線装置10bへトレーニング信号を送信する。第2無線装置10bは、トレーニング信号を受信するとH行列を導出し、導出したH行列を第1無線装置10aに送信する。第1無線装置10aは、H行列を受信すると、特異値分解を実行することによって、ステアリング行列に含まれた列ベクトルを取得する。第1無線装置10aは、パケット信号を送信する際に、列ベクトルに含まれた成分をパケット信号ごとに変動させることによって、送信ウエイトベクトルを導出する。また、第1無線装置10aは、送信ウエイトベクトルによる重みづけを行いながら、パケット信号を第2無線装置10bに送信する。
以下では、変形例を説明する。ひとつの目の変形例は、実施例と同様に、列ベクトルに含まれた各成分を変動させることによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する第1無線装置10aに関する。変形例において送信ウエイトベクトルを変動させるための処理が、実施例における処理と異なる。実施例においては、各成分の位相成分を固定しながら、振幅成分を変動させたが、変形例では、各成分の位相成分を変動させる。つまり、制御部30は、各成分の位相を変動させ、位相の変動によって生じる電力の変動を補償するように、各成分の振幅を調節することによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する。ひとつ目の変形例に係る通信システム100は、図2に示された通信システム100と同様のタイプであり、第1無線装置10aは、図8に示された第1無線装置10aと同様のタイプである。
具体的に説明する。制御部30は、実施例と同様に、列ベクトルv1を取得する。また、制御部30は、v1(1)、v1(2)、v1(3)、v(4)のそれぞれに対する変動のパターンが示されたテーブルを記憶する。テーブルには、v1(1)、v1(2)、v1(3)、v1(4)のそれぞれに対して、「0.1°」、「−0.1°」、「0.15°」というような複数の位相の変動量が並べられてる。また、制御部30は、パケット信号単位に、テーブルの前から順に変動量を取得し、v1(1)等の位相成分を回転させる。ここで、回転は、v1(1)等に対して複素乗算によってなされる。その結果、v1(1)、v1(2)、v1(3)v1(4)の値は、パケット信号単位に変動する。ここで、回転結果も、v1’(1)、v1’(2)、v1’(3)、v1’(4)と示され、これらの成分が含まれた列ベクトルもv1’と示される。
制御部30は、v1とv1’との内積を計算する。内積の値がしきい値より小さければ、制御部30は、テーブルから別の変動量を抽出し、前述の処理を繰り返し実行することによって、列ベクトルv1’を再導出する。内積の値がしきい値以上になった場合、制御部30は、所定の値に対する内積の値の比を導出し、比をもとに増幅率を導出する。例えば、比が「0.9」であれば、増幅率は「1/0.9」のように導出される。なお、所定の値は、予め定められてもよいし、v1同士の内積の値でもよい。制御部30は、増幅率によって、列ベクトルv1’の各成分を増加させる。例えば、増幅率が「1.1」である場合、制御部30は、各成分の同相成分と直交成分とに「√1.1」を乗算する。また、以上の処理も、パケット信号単位になされる。以上の結果、列ベクトルの値は、複数のパケット信号にわたって同一であっても、送信ウエイトベクトルは、パケット単位に異なった値になる。さらに、ベースバンド処理部22は、送信ウエイトベクトルによる重みづけを実行しながら、パケット信号を送信する。
ふたつ目の変形例も、これまでと同様に、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する第1無線装置10aに関する。これまでは、ひとつの系列によって形成されるパケット信号を送信する場合を対象にしていたが、ふたつ目の変形例では、ふたつ以上の系列によって形成されるパケット信号を送信する場合を対象にする。つまり、図4(a)−(c)が送信の対象にされる。ふたつ目の変形例に係る通信システム100は、図2に示された通信システム100と同様のタイプであり、第1無線装置10aは、図8に示された第1無線装置10aと同様のタイプである。
制御部30は、これまでと同様にステアリング行列Vを取得する。次に、制御部30は、系列の数だけ、ステアリング行列Vから列ベクトルを抽出する。例えば、系列の数がふたつである場合、制御部30は、列ベクトルとして、v1とv2とを抽出する。ここで、v1が第1の系列に対応づけられ、v2が第2の系列に対応づけられる。また、制御部30は、ひとつの系列以外の系列に対応づけられた列ベクトルに直交した送信ウエイトベクトルの候補を複数導出する。例えば、第1の系列に使用すべき送信ウエイトベクトルの候補w1’として、列ベクトルv2に直交した列ベクトルを複数導出する。そのため、送信ウエイトベクトルの候補w1’は、複数存在する。また、第2の系列に対しても、同様に送信ウエイトベクトルの候補w2’が複数導出される。
制御部30は、送信ウエイトベクトルの候補を切りかえながら選択することによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する。例えば、送信ウエイトベクトルの候補w1’を切りかえながら選択することによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルw1を導出する。ここで、選択される候補w1’とw2’の組合せのパターンは、予め制御部30のメモリに記憶されており、当該パターンにおいて、同一の組合せを選択する周期が、長くなるように規定されている方が望ましい。
以上の動作をさらに具体的に説明する。ここで、説明の明瞭化のために系列の数は、ふたつであると仮定する。制御部30は、グラム−シュミット直交化法を使用しながら、v1とv2との両方に直交なベクトルを複数生成する。グラム−シュミット直交化法は、公知の技術であるので、詳細は省略するが、ふたつの列ベクトルv1とv2は、ともに4次元であるので、4つの直交なベクトルが生成される。この4つの直交なベクトルが、前述の送信ウエイトベクトルの候補w1’とw2’とに相当する。なお、4つの直交なベクトルにおいて、送信ウエイトベクトルの候補w1’とw2’との明確な区別はなされておらず、4つの直交なベクトルは、送信ウエイトベクトルの候補w1’でもあり、w2’でもある。
制御部30は、4つの直交なベクトルからふたつを選択し、それらを送信ウエイトベクトルw1とw2として出力する。前述のごとく、選択のパターンは、制御部30のメモリに記憶されており、当該パターンにおいて、同一の組合せを選択する周期が、長くなるように規定されている方が望ましい。さらに、ベースバンド処理部22は、送信ウエイトベクトルによる重みづけを実行しながら、複数の系列にて形成されたパケット信号を送信する。
3つ目の変形例も、ふたつ目の変形例と同様に、ふたつ以上の系列によって形成されるパケット信号を送信する場合に、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する第1無線装置10aに関する。しかしながら、時間的に変動する送信ウエイトベクトルの導出方法が、ふたつ目の変形例とは異なる。
制御部30は、これまでと同様にステアリング行列Vを取得する。次に、制御部30は、系列の数だけ、ステアリング行列Vから列ベクトルを抽出する。例えば、系列の数がふたつである場合、制御部30は、列ベクトルとして、v1とv2とを抽出する。ここで、v1が第1の系列に対応づけられ、v2が第2の系列に対応づけられる。また、制御部30は、ひとつの系列に対応づけられた列ベクトルをもとに当該ひとつの系列に対する送信ウエイトベクトルを導出するとともに、他の系列に対応づけられた列ベクトルに含まれた各成分を変動させることによって、他の系列に対して、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出する。
例えば、制御部30は、第1の系列に対する送信ウエイトベクトルw1に、第1の系列に対応づけられた列ベクトルv1を決定する。また、制御部30は、第2の系列に対応づけられたv2の各成分を変動させることによって、第2の系列に対して、時間的に変動する送信ウエイトベクトルw2を導出する。具体的には、各成分の位相を固定しながら、振幅を変動させることによって、時間的に変動する送信ウエイトベクトルw2が導出される。特に、制御部30は、列ベクトルv2に含まれた4つの成分のうちのひとつに対して、振幅を変動させる。ここで、変動のパターン、つまり増幅率のパターンは、制御部30のメモリに予め記憶される。
なお、制御部30は、送信ウエイトベクトルw2と列ベクトルv2との内積が所定の値に近づくように変動を実行させる。つまり、導出した送信ウエイトベクトルw2と列ベクトルv2との内積が、所定の値よりも小さければ、制御部30は、当該送信ウエイトベクトルw2を破棄してから、メモリから別の増幅値を抽出し、抽出した増幅値によって、送信ウエイトベクトルw2を再度導出する。さらに、ベースバンド処理部22は、送信ウエイトベクトルによる重みづけを実行しながら、複数の系列にて形成されたパケット信号を送信する。
本発明の実施例によれば、列ベクトルに含まれた各成分を変動させながら、時間的に変動する送信ウエイトベクトルを導出するので、MIMO固有モード伝送において、通信対象でない無線装置による傍受の連続性を低減できる。また、傍受の連続性を低減するので、セキュリティを向上できる。また、位相を固定しながら振幅を変動させるので、通信対象の受信装置での同相合成を可能にしつつ、サイドローブの形を変形できる。また、列ベクトルとウエイトベクトルとの内積が所定の値に近づくように拘束条件を規定するので、通信対象の受信装置における受信特性の悪化を抑制できる。また、列ベクトルの成分のうち、ひとつ以外の成分に対して、予め定めたパターンにて変動させるので、処理を簡易にできる。また、ひとつの成分に対して調節を実行させるので、処理を簡易にできる。また、位相を変動させながら、振幅を調節するので、サイドローブの形を変形しながらも、送信電力の低減を抑制できる。
また、互いに直交した送信ウエイトベクトルの候補を切りかえながら選択するので、MIMO固有モード伝送において、通信対象の無線装置におけるSINRの悪化を抑制しながら、通信対象でない無線装置による傍受の連続性を低減できる。また、互いに直交した送信ウエイトベクトルの候補は、最初に導出すればよく、後はこれらを選択するだけであるので、処理を簡易にできる。また、SINRの悪化を抑制するので、受信特性の悪化を抑制できる。また、ひとつの系列に対する送信ウエイトベクトルを変動させるので、MIMO固有モード伝送において、通信対象でない無線装置による傍受の連続性を低減できる。また、位相を固定しながら振幅を変動させるので、通信対象の無線装置での同相合成を可能にしつつ、サイドローブの形を変形できる。また、列ベクトルと送信ウエイトベクトルとの内積が所定の値に近づくように拘束条件を規定するので、無線対象の受信装置における受信特性の悪化を抑制できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明の実施例において、第2無線装置10bがH行列を導出している。しかしながらこれに限らず、H行列は、送信側に相当する第1無線装置10aにおいて導出されてもよい。つまり、上り回線におけるH行列が導出され、当該H行列が下り回線での送信ウエイトベクトルを導出するために使用されてもよい。その際、トレーニング信号が、第2無線装置10bから第1無線装置10aへ送信される。
また、第1無線装置10aにおいてH行列が導出される場合に、第2無線装置10bがトレーニング信号を送信する際のアンテナ14の数と、第2無線装置10bがパケット信号を受信する際のアンテナ14の数とが異なっていてもよい。例えば、前者の数は、「2」であり、後者の数は、「4」である。その際、第1無線装置10aは、「2」つのアンテナ14に対するH行列を導出した後に、送信ウエイトベクトルを導出する。また、第2無線装置10bは、第1無線装置10aから送信されたパケット信号であって、かつ送信ウエイトベクトルによる重みづけがなされたパケット信号を「4」つのアンテナ14にて受信する。本変形例によれば、第2無線装置10bは、H行列を送信しなくてもよく、伝送効率を向上できる。
本発明の実施例において、通信システム100は、マルチキャリア信号を処理の対象としている。しかしながらこれに限らず例えば、通信システム100は、シングルキャリア信号を処理の対象としてもよい。本変形例によれば、さまざまな通信システムに本発明を適用できる。
実施例に記載された発明の特徴は、次の項目によって規定されてもよい。
(項目1)
ウエイトベクトルによる重みづけが実行された信号を送信する複数の送信アンテナと、
前記複数の送信アンテナのそれぞれと複数の受信アンテナのそれぞれとの間の伝送路特性を要素の値とした伝送路行列を特異値分解することによって導出されるステアリング行列のうち、所定の列ベクトルを取得する取得部と、
前記取得部において取得した列ベクトルに含まれた各成分を変動させることによって、時間的に変動するウエイトベクトルを導出する導出部と、
を備えることを特徴とする送信装置。
(項目2)
前記導出部は、各成分の位相を固定しながら、振幅を変動させることによって、時間的に変動するウエイトベクトルを導出することを特徴とする項目1に記載の送信装置。
(項目3)
前記導出部は、列ベクトルとウエイトベクトルとの内積が所定の値に近づくように変動を実行させることによって、時間的に変動するウエイトベクトルを導出することを特徴とする項目2に記載の送信装置。
(項目4)
前記導出部は、各成分のうちのひとつ以外の成分に対して、予め規定されたパターンによる変動を実行させ、ひとつの成分に対して、列ベクトルとウエイトベクトルとの内積が所定の値に近づくように調節を実行することによって、時間的に変動するウエイトベクトルを導出することを特徴とする項目3に記載の送信装置。
(項目5)
前記導出部は、各成分の位相を変動させ、位相の変動によって生じる電力の変動を補償するように、各成分の振幅を調節することによって、時間的に変動するウエイトベクトルを導出することを特徴とする項目1に記載の送信装置。
(項目6)
複数の送信アンテナから、ウエイトベクトルによる重みづけが実行された信号を送信する送信方法であって、
複数の送信アンテナのそれぞれと複数の受信アンテナのそれぞれとの間の伝送路特性を要素の値とした伝送路行列を特異値分解することによって導出されるステアリング行列のうち、所定の列ベクトルを取得し、取得した列ベクトルに含まれた各成分を変動させることによって、時間的に変動するウエイトベクトルを導出することを特徴とする送信方法。
10 無線装置、 12 アンテナ、 14 アンテナ、 20 無線部、 22 ベースバンド処理部、 24 変復調部、 26 IF部、 30 制御部、 100 通信システム。