したがって,本発明が解決しようとする課題は,強め及び弱め界磁制御を可能としながらリラクタンストルクを利用できる回転電機システム,磁束量制御方法を提供する事である。
本発明による回転電機システム及び磁束量制御方法は,回転子に於いて互いに隣り合う突極の一方である島状突極から電機子に流れる磁束の方向及び量を固定とし,他方の突極である磁性体突極から電機子に流れる磁束の方向及び量を可変として電機子を流れる磁束量を制御する。その具体的な構成は以下に規定される。
請求項1の発明による回転電機システムは,磁気ヨーク及び電機子コイルを有する電機子と,電機子との対向面に於いて島状突極と磁性体突極とを磁性体基板上に周方向に交互に有する回転子と,磁性体突極を一括して励磁する励磁部とを有し,回転子と電機子とが相対的に回転する回転電機装置であって,島状突極から電機子側に流れる磁束が励磁部からの磁束の影響を受け難いよう島状突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みを磁性体突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みより大とされると共に島状突極は同一極性の磁極が電機子と対向するよう構成され,電機子コイルは電機子コイルが磁気ヨークに周方向に配置された第一電機子磁極群と,第二電機子磁極群とにグループ化され,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いてそれぞれ同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方は磁性体突極に対向するよう配置されると共に互いに逆方向の磁束を発生するよう接続され,励磁部は界磁磁石と,界磁磁石の磁化を変更する励磁コイルとを有して磁気ヨーク及び磁性体基板と磁気的に結合され,界磁磁石のN極或いはS極の何れか一方の磁極から流れる磁束は磁性体基板及び磁性体突極及び磁気ヨークを流れて界磁磁石の他方の磁極に環流するよう構成され,回転電機装置の出力を最適化するよう前記出力に応じて励磁コイルに磁化電流を供給して界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変え,電機子に流れる磁束量が制御される事を特徴とする。
回転子は励磁部からの磁束が通る磁性体突極と励磁部からの磁束が通り難い島状突極とが周方向に交互に並ぶ構成として励磁部による磁束量制御を可能にする。島状突極は全体を離隔部材である永久磁石で構成され,或いは永久磁石,磁気的な空隙で離隔された磁性体で構成され,島状突極は磁性体突極に比して励磁部からの磁束が流れ難いよう構成される。永久磁石の比透磁率は空隙に近く,磁化した永久磁石からの磁束量はほぼ一定であるので,厚みが大の永久磁石を双方向の磁束の離隔部材と出来る。島状突極を磁気的に離隔された磁性体で構成する場合は磁石トルクに加えてリラクタンスを利用出来る。
電機子は回転子の隣り合う突極から流れる磁束量にアンバランスがある状態でも駆動トルク変動或いは発電電圧波形歪みが抑制されるよう構成される。すなわち,第一電機子磁極群と第二電機子磁極群に於いて,同じタイミングで駆動電流が供給される同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に,他方が磁性体突極に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう接続される。電機子コイルは磁性体歯に巻回する構成,或いは空芯の何れの構成も使用できる。
励磁部からの磁束は磁性体基板,磁性体突極,磁気ヨークを介して流れるよう構成され,電機子コイルと鎖交する磁束量を実効的に制御する。さらに回転電機の運転中或いは静止時に界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変えて電機子に流れる磁束量を変更する。
電機子コイルにより誘起される磁束は電機子及び回転子近傍で環流し,界磁磁石は電機子コイルより離れて配置されるので電機子コイルの影響を受け難く,界磁磁石には低保持力の磁石を使用出来,励磁コイルによって容易に磁化状態が制御される。電機子コイルが磁性体歯に巻回される構成ではさらに電機子コイルにより誘起される磁束の分布領域が局所化されて界磁磁石への影響を小に出来る。
回転電機装置には円筒状の電機子と回転子が径方向に空隙を介して対向する構造,或いは略円盤状の電機子と回転子が軸方向に空隙を介して対向する構造等の何れの構造も存在する。本発明は上記何れの構造の回転電機システムにも適用される。さらに,回転電機は電機子コイルへの電流を入力として回転力を出力とすれば電動機であり,回転力を入力として電機子コイルから電流を出力すれば発電機である。電動機或いは発電機に於いて最適の磁極構成は存在するが,可逆的であり,本発明の回転電機システムは電動機,発電機の何れにも適用される。
請求項2の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,島状突極及び磁性体突極は磁性体基板を永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分して形成されると共に互いに異極に磁化されるよう構成される事を特徴とする。両側に略同じ方向の磁化を持つ永久磁石が配置された磁性体は磁気的に永久磁石と等価な集合磁石である。回転子は磁性体基板が略周方向磁化を持つ永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分された磁極構造,或いは径方向と直交する平面状或いは曲面状の永久磁石で磁性体基板が周方向に区分された磁極構造として隣接する突極が互いに異極に磁化され,同時に相隣る突極の一方である島状突極は励磁部からの磁束が通り難いよう構成される。
請求項3の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,第一電機子磁極群を有する電機子,第二電機子磁極群を有する電機子が並んでそれぞれ回転子と対向し,第一電機子磁極群を有する電機子,第二電機子磁極群を有する電機子に於いてそれぞれ同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方は磁性体突極に対向するよう配置されると共に互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続される事を特徴とする。
電機子と回転子とが径方向に対向する回転電機では第一電機子磁極群,第二電機子磁極群のそれぞれを有する二つの電機子が軸方向に並んで回転子に対向し,電機子と回転子とが軸方向に対向する回転電機では第一電機子磁極群,第二電機子磁極群のそれぞれを有する二つの電機子が径方向に並んで回転子に対向する。二つの電機子に於いて同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方が磁性体突極に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう直列に接続されるので回転子の隣り合う突極から流れる磁束量にアンバランスがある状態でも駆動トルク変動或いは発電電圧波形歪みが抑制される。
請求項4の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,電機子は回転子との対向面に於いて第一電機子磁極群,第二電機子磁極群を周方向の異なる位置に有し,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いてそれぞれ同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方は磁性体突極に対向するよう配置されると共に互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続される事を特徴とする。
電機子は回転子との対向面内に第一電機子磁極群,第二電機子磁極群の電機子コイルを周方向の異なる位置に有し,両群の電機子コイルに於いて同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方が磁性体突極に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう直列に接続されるので回転子の隣り合う突極から流れる磁束量にアンバランスがある状態でも駆動トルク変動或いは発電電圧波形歪みが抑制される。
請求項5の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石は磁性体及び前記磁性体間に配置された磁化方向長さと抗磁力の積が異なる磁石要素を有し,前記磁性体により前記磁石要素を互いに並列接続して構成され,界磁磁石の各磁石要素は磁性体突極を島状突極の磁化方向と逆方向に磁化する第一磁化,第一磁化と逆方向の磁化である第二磁化の何れかの磁化状態である事を特徴とする。界磁磁石は磁化容易さの異なる一以上の磁石要素が並列に接続される構成,或いは断面内で磁化容易さ,すなわち,磁化方向長さと抗磁力の積が連続的に変わる磁石で構成される。励磁コイルによる起磁力(磁気ポテンシャル差)はほぼ均等に界磁磁石を構成する磁石要素に加えられ,起磁力を磁化方向長さで除した値が各磁石要素に加わる磁界強度となるので磁化方向長さと抗磁力の積の小さな磁石要素が磁化されやすく,励磁コイルに加えられる電流により並列接続された磁石要素の磁化状態は選択的に制御される。磁性体突極を島状突極の磁化方向と逆方向に磁化する場合は電機子コイルと鎖交する磁束量が増すので第一磁化の磁極面積を増すと電機子コイルと鎖交する磁束量が増す事になる。
請求項6の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石のN極或いはS極の何れか一方の磁極から流れる磁束が電機子と磁性体突極とを介して界磁磁石の他方の磁極に環流する主磁路と,界磁磁石の一方の磁極から出た磁束が主として励磁部内で界磁磁石の他方の磁極に環流する励磁磁路とが並列に界磁磁石に接続され,励磁コイルは励磁磁路に加えて界磁磁石を含む磁路に磁束を誘起するよう配置されていることを特徴とする。界磁磁石に励磁磁路及び主磁路を並列に接続し,励磁コイルは励磁磁路と界磁磁石とで構成する閉磁路に配置され,界磁磁石の着磁変更に際して電機子コイルへの影響を軽減できる構成としている。励磁磁路は交流磁束が流れやすく構成され,界磁磁石の構成及び界磁磁石の磁化変更に最適な磁路構成を実現できる。すなわち,励磁コイルが誘起する磁束は界磁磁石に集中されて界磁磁石の磁化状態は確実に変更される。
請求項7の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石は磁性体及び磁化変更に必要な磁界強度が互いに異なる第一界磁磁石及び第二界磁磁石を有し,前記磁性体により第一界磁磁石及び第二界磁磁石を互いに並列接続して構成され,励磁コイルは第一界磁磁石及び第二界磁磁石及び前記磁性体で構成する閉磁路に磁束を発生させるよう配置されていることを特徴とする。並列接続された第一界磁磁石及び第二界磁磁石同士は同時に直列接続として閉磁路を構成し,励磁コイルはその閉磁路に磁束を発生させるよう配置されるので第一界磁磁石及び第二界磁磁石は常に逆方向に励磁される。励磁コイルに磁化電流が供給された場合,直列に接続された各磁石内の磁界強度はほぼ等しいので第一界磁磁石及び第二界磁磁石それぞれで磁化反転に必要な磁界強度が異なるよう構成して界磁磁石は選択的に磁化変更される。磁化反転に必要な磁界強度を異ならせるには磁石素材の種類を変える,或いは同種の素材に於いて構成元素の組成比を変える等の手段で実現出来る。さらに第一界磁磁石及び第二界磁磁石,それぞれの界磁磁石を磁化容易さの異なる磁石の並列接続とする構成も可能である。
請求項8の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,界磁磁石に不可逆的な磁化変化を生ぜしめない程度の磁束調整電流を界磁磁石の各磁化状態に於いて励磁コイルに供給し,誘起された磁束を界磁磁石からの磁束に重畳して電機子を流れる磁束量を調整する事を特徴とする。界磁磁石からの磁束に磁束調整電流による磁束を重畳させて磁束量を制御する複合励磁である。界磁磁石の磁化変更は離散的に為される場合があり,また磁化の大きさを連続的に変更が可能であっても,界磁磁石の磁化変更は殆どの場合は間歇的に実施され,結果として電機子を流れる磁束量は離散的に制御される事が多い。本発明では界磁磁石の各磁化状態に於いて界磁磁石に不可逆的な磁化変化を生ぜしめない程度の磁束調整電流を励磁コイルに供給して磁束を発生させ,界磁磁石からの磁束に重畳させて電機子を流れる磁束量を精密に制御する。
請求項9の発明は,請求項1の回転電機システムに於いて,島状突極表面と磁性体基板間の離隔部材として永久磁石が配置され,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いてそれぞれ同一の相に属して島状突極に対向する電機子コイル及び磁性体突極に対向する電機子コイルに磁化電流を供給して永久磁石の磁化状態を変更し,電機子に流れる磁束量が制御される事を特徴とする。
島状突極から電機子側へ流れる磁束量は一定であるので,島状突極が近傍の永久磁石により磁化されている場合には磁束量の制御範囲が限定される。本発明はさらに島状突極から電機子側に流れる磁束量を制御できるよう島状突極が離隔部材として有する副界磁磁石の磁化状態を変えて磁束量の制御範囲を拡大する。第一電機子磁極群と第二電機子磁極群に於いて,同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に,他方が磁性体突極に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう接続される。したがって,島状突極が対向する電機子コイルに磁化電流が供給すると誘起された磁束は磁性体突極を環流磁路として流れる。その際に他の相の電機子コイルには磁化電流が供給されないので副界磁磁石に大きな磁界強度の磁界が加えられ,磁化状態が変更される。
請求項10の発明は,請求項1から請求項9記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,回転力を入力とし,発電電力を出力とする回転電機システムであって,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より大の時は制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,電機子コイルに誘起される発電電圧が所定の値より小の時は制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,発電電圧が所定の値に制御される事を特徴とする回転電機システムである。
請求項11の発明は,請求項1から請求項9記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,回転速度が所定の値より大で電機子を流れる磁束量を減少させる時には制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を減じるよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量が小とされ,回転速度が所定の値より小で電機子を流れる磁束量を増大させる時には制御装置により界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転力が最適に制御される事を特徴とする回転電機システムである。
請求項12の発明は,請求項1から請求項9記載の何れかの回転電機システムに於いて,さらに制御装置を有し,電機子コイルへの供給電流を入力とし,回転力を出力とする回転電機システムであって,回転速度を減少させる場合には制御装置により電機子コイルにバッテリーを接続すると共に界磁磁石内の第一磁化の磁極面積を増すよう界磁磁石を磁化する極性の磁化電流が励磁コイルに供給されて第一磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量が大とされ,回転エネルギーが発電電力として取り出される事を特徴とする回転電機システムである。
請求項13の発明による回転電機システムは,磁気ヨーク及び電機子コイルを有する電機子と,電機子との対向面に於いて島状突極と磁性体突極とを磁性体基板上に周方向に交互に有する回転子と,磁性体突極を一括して励磁する励磁部とを有し,回転子と電機子とが相対的に回転する回転電機装置であって,島状突極から電機子側に流れる磁束が励磁部からの磁束の影響を受け難いよう島状突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みを磁性体突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みより大とされると共に島状突極は同一極性の磁極が電機子と対向するよう構成され,電機子コイルは電機子コイルが磁気ヨークに周方向に配置された第一電機子磁極群と,第二電機子磁極群とにグループ化され,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いてそれぞれ同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方は磁性体突極に対向するよう配置されると共に互いに逆方向の磁束を発生するよう接続され,励磁部は励磁コイル及び励磁磁路部材を有し,励磁磁路部材は磁気ヨーク及び磁性体基板と磁気的に結合されて磁気ヨーク及び磁性体突極及び磁性体基板及び励磁磁路部材を含む磁路に励磁コイルが磁束を誘起するよう構成され,回転電機装置の出力を最適化するように前記出力に応じて励磁コイルに励磁電流を供給して電機子に流れる磁束量が制御される事を特徴とする。
回転子は励磁部からの磁束が通る磁性体突極と励磁部からの磁束が通り難い島状突極とが周方向に交互に並ぶ構成として励磁部による磁束量制御を可能にする。島状突極は全体を離隔部材である永久磁石で構成され,或いは永久磁石,磁気的な空隙で離隔された磁性体で構成され,島状突極は磁性体突極に比して励磁部からの磁束が流れ難いよう構成される。永久磁石の比透磁率は空隙に近く,磁化した永久磁石からの磁束量はほぼ一定であるので,厚みが大の永久磁石を双方向の磁束の離隔部材と出来る。島状突極を磁気的に離隔された磁性体で構成する場合は磁石トルクに加えてリラクタンスを利用出来る。
電機子は回転子の隣り合う突極から流れる磁束量にアンバランスがある状態でも駆動トルク変動或いは発電電圧波形歪みが抑制されるよう構成される。すなわち,第一電機子磁極群と第二電機子磁極群に於いて,同じタイミングで駆動電流が供給される同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に,他方が磁性体突極に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう接続される。電機子コイルは磁性体歯に巻回する構成,或いは空芯の何れの構成も使用できる。
励磁部は磁性体基板,磁性体突極,磁気ヨーク,励磁磁路部材を介して流れるよう磁束を供給し,電機子コイルと鎖交する磁束量を実効的に制御する。
回転電機装置には円筒状の電機子と回転子が径方向に空隙を介して対向する構造,或いは略円盤状の電機子と回転子が軸方向に空隙を介して対向する構造等の何れの構造も存在する。本発明は上記何れの構造の回転電機システムにも適用される。さらに,回転電機は電機子コイルへの電流を入力として回転力を出力とすれば電動機であり,回転力を入力として電機子コイルから電流を出力すれば発電機である。電動機或いは発電機に於いて最適の磁極構成は存在するが,可逆的であり,本発明の回転電機システムは電動機,発電機の何れにも適用される。
請求項14の発明は,請求項13記載の回転電機システムに於いて,島状突極及び磁性体突極は磁性体基板を永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分して形成されると共に互いに異極に磁化されるよう構成される事を特徴とする。両側に略同じ方向の磁化を持つ永久磁石が配置された磁性体は磁気的に永久磁石と等価な集合磁石である。回転子は磁性体基板が略周方向磁化を持つ永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分された磁極構造,或いは径方向と直交する平面状或いは曲面状の永久磁石で磁性体基板が周方向に区分された磁極構造として隣接する突極が互いに異極に磁化され,同時に相隣る突極の一方である島状突極は励磁部からの磁束が通り難いよう構成される。
請求項15の発明は,請求項13記載の回転電機システムに於いて,第一電機子磁極群を有する電機子,第二電機子磁極群を有する電機子が並んでそれぞれ回転子と対向し,第一電機子磁極群を有する電機子,第二電機子磁極群を有する電機子に於いてそれぞれ同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方は磁性体突極に対向するよう配置されると共に互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続される事を特徴とする。
電機子と回転子とが径方向に対向する回転電機では第一電機子磁極群,第二電機子磁極群のそれぞれを有する二つの電機子が軸方向に並んで回転子に対向し,電機子と回転子とが軸方向に対向する回転電機では第一電機子磁極群,第二電機子磁極群のそれぞれを有する二つの電機子が径方向に並んで回転子に対向する。二つの電機子に於いて同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方が磁性体突極に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう直列に接続されて駆動トルクリップル或いは発電電圧波形歪みが抑制される。
請求項16の発明は,請求項13記載の回転電機システムに於いて,電機子は回転子との対向面に於いて第一電機子磁極群,第二電機子磁極群を周方向の異なる位置に有し,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いてそれぞれ同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方は磁性体突極に対向するよう配置されると共に互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続される事を特徴とする。
電機子は回転子との対向面内に第一電機子磁極群,第二電機子磁極群の電機子コイルを周方向の異なる位置に有し,両群の電機子コイルに於いて同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極に対向する時に他方が磁性体突極に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう直列に接続されて駆動トルクリップル或いは発電電圧波形歪みが抑制される。
請求項17の発明は,請求項13記載の回転電機システムに於いて,磁性体基板から励磁磁路部材を介して磁気ヨークに至る励磁磁路の磁気抵抗は磁性体基板から磁性体突極を介して磁気ヨークに至る磁路の磁気抵抗より大となるよう構成される事を特徴とする。本発明の回転電機システムに於いて,磁性体基板,島状突極,磁気ヨークからなる第一磁路と,磁性体基板,磁性体突極,磁気ヨークからなる第二磁路と,磁性体基板,励磁磁路部材,磁気ヨークからなる第三磁路とが並列に接続されている。島状突極を磁化する永久磁石からの磁束が励磁磁路部材側に短絡して流れ難いよう第三磁路の磁気抵抗を第二磁路の磁気抵抗より大に設定する。磁気抵抗は磁路の途中に設けられた間隙の寸法,磁路を構成する磁性体の透磁率選定,寸法等により設定される。電機子コイルが磁性体歯に巻回された場合,磁性体歯と磁性体突極間の位置により第二磁路の磁気抵抗は変動するが,第二磁路の磁気抵抗は磁性体歯と磁性体突極間の位置により平均化された値とする。第三磁路に設ける磁気的な空隙には永久磁石の配置も含まれる。永久磁石の比透磁率はほぼ空気と同じであり,磁気抵抗を調整しながら励磁部が供給する磁束量の固定部分を設定する事が出来る。
請求項18の発明は,磁気ヨーク及び電機子コイルを有する電機子と,磁性体基板を永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分して形成され且つ互いに異極に磁化された島状突極及び磁性体突極を電機子との対向面に於いて周方向に交互に有する回転子と,磁性体突極を一括して励磁する励磁部とを有し,回転子と電機子とが相対的に回転可能である回転電機装置の磁束量制御方法であって,島状突極から電機子側に流れる磁束が励磁部からの磁束の影響を受け難いよう島状突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みを磁性体突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みより大とし,励磁部は界磁磁石と,界磁磁石の磁化を変更する励磁コイルとを有して磁気ヨーク及び磁性体基板と磁気的に結合し,界磁磁石のN極或いはS極の何れか一方の磁極から流れる磁束は磁性体基板及び磁性体突極及び磁気ヨークを流れて界磁磁石の他方の磁極に環流するよう構成し,励磁コイルに磁化電流を供給して界磁磁石の磁化状態を不可逆的に変えて電機子を流れる磁束量を制御する磁束量制御方法である。
回転子はリラクタンストルクを利用できる磁極構造としながら島状突極から電機子に流れる磁束の方向及び量を固定とし,他方の突極である磁性体突極を励磁部からの磁束が通るよう構成して励磁部により磁束量を制御する方法である。回転子は磁性体基板が略周方向磁化を持つ永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分された磁極構造,或いは径方向と直交する平面状或いは曲面状の永久磁石で磁性体基板が周方向に区分された磁極構造として隣接する突極が互いに異極に磁化され,同時に相隣る突極の一方である島状突極は励磁部からの磁束が通り難いよう構成される。励磁部に於ける界磁磁石の磁化状態を励磁コイルにより不可逆的に変えて電機子を流れる磁束量を変更する。
請求項19の発明は,磁気ヨーク及び電機子コイルを有する電機子と,磁性体基板を永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分して形成され且つ互いに異極に磁化された島状突極及び磁性体突極を電機子との対向面に於いて周方向に交互に有する回転子と,磁性体突極を一括して励磁する励磁部とを有し,回転子と電機子とが相対的に回転可能である回転電機装置の磁束量制御方法であって,島状突極から電機子側に流れる磁束が励磁部からの磁束の影響を受け難いよう島状突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みを磁性体突極表面と磁性体基板間の離隔部材である永久磁石及び或いは非磁性体の厚みより大とし,励磁部は励磁コイル及び励磁磁路部材を有し,励磁磁路部材を磁気ヨーク及び磁性体基板と磁気的に結合して磁気ヨーク及び磁性体突極及び磁性体基板及び励磁磁路部材を含む磁路に励磁コイルが磁束を誘起するよう構成し,励磁コイルに励磁電流を供給して電機子に流れる磁束量を制御する磁束量制御方法である。
回転子はリラクタンストルクを利用できる磁極構造としながら隣接する突極の一方である島状突極から電機子に流れる磁束の方向及び量を固定とし,他方の突極である磁性体突極を励磁部からの磁束が通るよう構成して励磁部により磁束量を制御する方法である。回転子は磁性体基板が略周方向磁化を持つ永久磁石及び集合磁石の何れかによって周方向に区分された磁極構造,或いは径方向と直交する平面状或いは曲面状の永久磁石で磁性体基板が周方向に区分された磁極構造として隣接する突極が互いに異極に磁化され,同時に相隣る突極の一方である島状突極は励磁部からの磁束が通り難いよう構成される。励磁部に於ける励磁コイルから磁性体突極に磁束を流して電機子に流れる磁束量を変更する。
以下に本発明による回転電機システムについて,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
本発明による回転電機システムの第一実施例を図1から図5を用いて説明する。第一実施例は,ラジアルギャップ構造の回転電機システムであり,励磁部は回転電機の静止側に配置されている。
図1はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク15と,磁性体歯14と,電機子コイル16とを有している。回転子は円筒状磁性体基板に埋め込まれた島状突極と磁性体基板の一部である磁性体突極とが周方向に交互に配置された表面磁極部17,円筒状磁気コア18,支持体19を有して回転軸11と共に回転するよう構成されている。励磁部は回転子両端のハウジング側に配置され,それぞれ円筒状磁気コア18及び円筒状磁気ヨーク15と磁気的に結合して円筒状磁気コア18,円筒状磁気ヨーク15間に磁束を流すよう構成されている。
同図に於いて,円筒状磁気コア18の右端と微小間隙を介して対向する励磁部は界磁極1a,界磁極1b,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1d,励磁コイル1eを含み,ハウジング12に配置されている。第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dはそれぞれほぼ等量の磁束を電機子側に流すようそれぞれの磁極表面積,飽和磁束密度等のパラメータが設定されている。番号1fは回転軸11を周回するよう配置された導体層であり,励磁コイル1eのインダクタンスを減少し且つ磁束を励磁磁路に集中させる為に設けられている。円筒状磁気コア18の左端側の励磁部の構成部材に番号を付していないが,同じ構成であり,同種の部材には同じ番号を用いるとする。
図2は図1のA−A’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。円筒状磁性体基板に周方向にほぼ等間隔に配置された永久磁石によって島状突極21及び磁性体突極22が形成され,さらに隣り合う永久磁石の周方向磁化は反転されて島状突極21と磁性体突極22とは互いに異極に磁化されている。本実施例で島状突極21はN極に,磁性体突極22はS極に磁化されて電機子に対向している。島状突極21の両側の永久磁石をそれぞれ永久磁石23,25とし,永久磁石23,25内の矢印は磁化方向を示す。さらに励磁部からの磁束が通り難いように島状突極21に於いて電機子とは対向しない側に離隔部材である磁気的な空隙24が配置されている。磁性体突極22は電機子と対向しない側で円筒状磁気コア18に接続され,励磁部からの磁束が径方向に流れる構成である。島状突極21と磁性体基板との間に離隔部材である磁気的な空隙24が配置され,磁性体突極22と磁性体基板との間に離隔部材は配置されていない。
島状突極21,磁性体突極22は幅の狭い可飽和磁性体部で連結された構成として所定の型でケイ素鋼板を打ち抜き,積層して構成される。打ち抜かれたケイ素鋼板に設けられたスロットに永久磁石23,25が挿入され,磁気的な空隙24には非磁性体であるステンレススチールのブロックが挿入されている。円筒状磁気コア18は軟鉄のブロックで構成され,励磁部からの磁束を軸方向に伝搬させる。島状突極21,磁性体突極22,円筒状磁気コア18を比抵抗の大きな圧粉鉄心で一体として構成する事も可能である。
図2に於いて,電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク15と,円筒状磁気ヨーク15から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯14と,磁性体歯14に巻回された電機子コイル16とから構成されている。電機子の磁性体歯14先端には径方向に短い可飽和磁性体結合部26を隣接する磁性体歯14先端部間に配置されている。磁性体歯14及び可飽和磁性体結合部26はケイ素鋼板を型で打ち抜いて積層され,電機子コイル16を巻回された後,圧粉鉄心で構成された円筒状磁気ヨーク15と組み合わせて電機子とされている。
可飽和磁性体結合部26は隣接する磁性体歯14同士を機械的に連結させて磁性体歯14の支持強度を向上させ,磁性体歯14の不要な振動を抑制させる。可飽和磁性体結合部26の径方向の長さは短く設定して容易に磁気的に飽和する形状としたので電機子コイル16が発生させる磁束或いは永久磁石からの磁束によって容易に飽和し,その場合に電機子コイル16が発生させる磁束及び磁束の短絡を僅かな量とする。電機子コイル16に電流が供給されると,時間と共に可飽和磁性体結合部26は磁気的に飽和させられて周辺に磁束を漏洩させるが,磁気飽和した可飽和磁性体結合部26に現れる実効的な磁気空隙の境界はクリアではないので漏洩する磁束の分布は緩やかとなり,可飽和磁性体結合部26はこの点でも磁性体歯14に加わる力の時間変化を緩やかにして振動抑制に寄与する。
図2に示す電機子は第一電機子磁極群と第二電機子磁極群それぞれに属する電機子コイル16及び磁性体歯14が周方向の異なる位置に配置されている。電機子コイル16は周方向にU相,V相,W相,U’相,V’相,W’相の電機子コイルが周方向に順次繰り返し配置され,回転子の6極に対して18個の電機子コイル16が配置されている。U相,V相,W相の電機子コイルは第一電機子磁極群であり,U’相,V’相,W’相の電機子コイルは第二電機子磁極群である。U相の電機子コイルが島状突極21に正対した時にU’相の電機子コイルは磁性体突極22に正対する関係にあり,U相の電機子コイル及びU’相の電機子コイルは電流を流された時に互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続されている。V相とV’相の電機子コイル,W相とW’相の電機子コイルもそれぞれ同様に接続され,全体として3相に結線されている。
図3は図2に示した回転子の表面磁極部17及び電機子の断面を拡大して示す図であり,永久磁石23,25と励磁部からの磁束の流れを説明する。図3は励磁部が電機子コイル16と鎖交する磁束量を永久磁石23,25のみの場合より増大させる場合を示している。
図3に於いて,第一電機子磁極群の電機子コイルはU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル31,32,33とし,第二電機子磁極群の電機子コイルはU’相,V’相,W’相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル34,35,36として示されている。U相の電機子コイル31が島状突極21に正対する時にはU’相の電機子コイル34は磁性体突極22と正対するよう構成されている。その際に永久磁石23,25からの磁束がU相の電機子コイル31と鎖交して流れる方向と,U’相の電機子コイル34と鎖交して流れる方向とは互いに逆方向であり,電流が流された時にU相の電機子コイル31とU’相の電機子コイル34とは互いに逆方向の磁束を誘起するよう直列に接続されている。V相の電機子コイル32とV’相の電機子コイル35,W相の電機子コイル33とW’相の電機子コイル36もそれぞれ同様に配置されて接続され,全体として3相に結線されている。
点線37は永久磁石23,25からの磁束を代表して示している。同図に於いて,永久磁石23,25からの磁束37がU相,V相,W相の電機子コイル31,32,33を鎖交する方向と,U’相,V’相,W’相の電機子コイル34,35,36を鎖交する方向とは互いに逆方向である事が示されている。したがって,永久磁石23,25からの磁束37による誘起電圧は3相の誘起電圧として正しく合成され,隣接する突極である島状突極21,磁性体突極22を介して流れる磁束量にアンバランスがあっても3相の電圧出力には現れない。
図3において,励磁部からの磁束を番号38で示すように島状突極21には磁気的な空隙24により阻害されて流れず,専ら磁性体突極22を介して径方向に流れる。その方向を永久磁石23,25により島状突極21が磁化される方向とは逆方向に流れるよう供給すると,磁束38はW相の電機子コイル33,U’相の電機子コイル34,V’相の電機子コイル35と鎖交し,その方向は永久磁石23,25による磁束37の方向と同じであるので励磁部が電機子コイルと鎖交する磁束量を永久磁石23,25のみの場合より増大させる状態となる。磁束38の流れる方向を図3とは逆方向にした場合は励磁部が電機子コイルと鎖交する磁束量を永久磁石23,25のみの場合より減少させる状態となる。
励磁部からの磁束38は専ら磁性体突極22を介して径方向に流れ,各電機子コイルに誘起される電圧は一様ではない。しかし,上記の説明のように第一電機子磁極群,第二電機子磁極群の電機子コイルは周方向の異なる位置に配置され,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いて同じタイミングで駆動電流が供給される同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極21に対向する時に,他方が磁性体突極22に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう直列に接続されて駆動トルク変動或いは発電電圧波形歪みが抑制される。
図4は回転子の右端に対向する励磁部の縦断面図の上半分を示し,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの異なる磁化状態をそれぞれ示している。図1及び図4(a),(b),(c)に於いて,励磁部の主要部を構成する第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1d,励磁コイル1e,界磁極1a,1b,導体層1fは回転軸11を周回する形状である。界磁極1a,第一界磁磁石1c,界磁極1b,第二界磁磁石1dで構成する閉磁路に磁束を誘起するよう励磁コイル1eが配置されている。また,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dからの磁束は界磁極1b,円筒状磁気コア18,磁性体突極22,磁性体歯14,円筒状磁気ヨーク15,界磁極1aで構成される主磁路を流れ,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dは主磁路に並列に接続される構成である。
永久磁石23,25は島状突極21,磁性体突極22をそれぞれN極,S極に磁化するので磁性体突極22をS極に磁化する界磁磁石の磁化が第一磁化であり,逆方向の磁化が第二磁化となる。図1に示した磁化状態では第一界磁磁石1cが第一磁化に,第二界磁磁石1dが第二磁化に相当し,励磁部内で閉磁路が構成されて磁束は外部に供給されていない。
第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁気特性及び寸法等は,第一界磁磁石1cの厚みをL1,磁化変更に要する磁界強度をH1とし,第二界磁磁石1dの厚みをL2,磁化変更に要する磁界強度をH2とし,それらの関係は次のように設定されている。すなわち,L1はL2より小とし,H1*L1がH2*(L1+L2)より大とされている。
励磁コイル1eに供給する磁化電流のピーク値と巻回数との積をATとしてそれぞれの界磁磁石の磁化を変更するATは次のように設定されている。第一界磁磁石1cの磁化を変更するATはH1*L1より大に,第二界磁磁石1dの磁化を変更するATはH1*L1より小で且つH2*(L1+L2)より大とする。磁化電流の極性はそれぞれの界磁磁石を磁化する方向に応じて設定する。
励磁コイル1eは第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dを直列に繋ぐ励磁磁路に配置され,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1d内にはほぼ等しい磁界強度が加えられるが,それぞれの磁化変更に要する磁界強度が異なるので第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁化状態はそれぞれ変更される。第一界磁磁石1cにはネオジウム磁石(NdFeB),第二界磁磁石1dにはアルニコ磁石(AlNiCo)を適用して上記条件に合う界磁磁石を構成している。
上記構成に於いて,第一界磁磁石1cの磁化変更に際して第二界磁磁石1dは常に励磁磁束の方向に従って速やかに磁化されて励磁磁束への磁気抵抗は小である。第二界磁磁石1dの磁化変更に際し,励磁磁束の方向が第一界磁磁石1cの磁化の方向と同じ場合には当然に励磁磁束への磁気抵抗は小であり,励磁磁束の方向が第一界磁磁石1cの磁化の方向と逆の場合にはその長さL1が小であるので第一界磁磁石1cを空隙と見なした励磁磁路の磁気抵抗は小である。
したがって,第一界磁磁石1c或いは第二界磁磁石1dの磁化変更に際しては互いに他の励磁磁路の一部となる構成であるが,励磁磁束に対する磁気抵抗は実効的に小さいので第一界磁磁石1c及び第二界磁磁石1dの磁化変更は容易である。更に,円筒状磁気コア18は交流磁束が流れ難いように軟鉄ブロックで構成され,主磁路の交流磁束に対する磁気抵抗は大であるので励磁コイル1eが誘起するパルス状の励磁磁束は主磁路を流れ難い。
電機子に対向する回転子表面或いは磁極内には電機子コイルの作る磁界によって容易に非可逆減磁を生じないネオジウム磁石(NdFeB)が望ましいが,上記説明のように励磁部には電機子コイルが誘起する磁束は到達し難いので界磁磁石として磁化変更容易な磁石を使用する事が出来る。ネオジウム磁石(NdFeB)では着磁に必要な磁界強度が2400kA/m(キロアンペア/メートル)程度であり,アルニコ磁石(AlNiCo)の着磁に必要な磁界強度は240kA/m程度である。本実施例では第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dが直列に接続された回路に励磁磁束は誘起されるので抗磁力を変える必要があた。それぞれの界磁磁石には素材の異なる磁石を採用し,それぞれの界磁磁石の磁化容易さは抗磁力と厚みの積により調整している。
本実施例の回転電機装置に於いて,電機子コイル16によって誘起される磁束は,磁性体突極22,島状突極21,磁性体歯14,円筒状磁気ヨーク15等の近傍を主として流れ,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁化状態に影響を及ぼす可能性は少ない。第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dには低保持力の磁石素材を適用出来て磁化状態の変更は容易となる。
図4(a),(b),(c)を用いて第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁化を変更するステップを説明する。図4(a)では第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dが共に第一磁化である。第一界磁磁石1cを第一磁化に励磁する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル1eに供給して第一界磁磁石1cを第一磁化に磁化する。この時,第二界磁磁石1dは第二磁化となるので第二界磁磁石1dのみを第一磁化に励磁する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル1eに供給する。この状態で電機子側に流れる磁束量は永久磁石23,25のみの場合より増加される。
図4(b)は図4(a)に於いて,第二界磁磁石1dのみを第二磁化に励磁する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル1eに供給する。この状態で第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dからの磁束は相殺されて電機子側には供給されないので電機子コイルと鎖交する磁束量は永久磁石23,25からの磁束のみの状態である。
図4(c)は図4(b)に於いて,第一界磁磁石1cを第二磁化に励磁する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル1eに供給して第一界磁磁石1cを第二磁化とする。この時,第二界磁磁石1dは第一磁化となるので第二界磁磁石1dのみを第二磁化に励磁する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル1eに供給する。この状態で電機子側に流れる磁束量は永久磁石23,25のみの場合より減少される。
導体層1fは回転軸11を周回する銅板で構成され,励磁コイル1eの作る磁束を励磁磁路に集中させ,励磁コイル1eのインダクタンスを実効的に減少させてパルス状の磁化電流を流れやすくする役割を持つ。励磁コイル1eにパルス状の磁化電流が供給されると,導体層1fには鎖交する磁束の変化を妨げる方向の電流が誘起され,これにより励磁コイル1eのインダクタンスを実効的に減少する。さらに誘起された電流により導体層1f内に励磁コイル1eの作る磁束が流れ難くなり励磁磁路に励磁コイル1eの作る磁束が集中させられる。励磁部を構成する磁性体部材である界磁極1a,1bには比抵抗が大である圧粉鉄心で構成している。他に渦電流損を生じ難い比抵抗の大きなバルク状磁性体を用いる事も出来る。
電機子を流れる磁束量はこのように励磁コイル1eに供給する磁化電流を変えて第一磁化,第二磁化にそれぞれ対応する磁石数を変える事で制御される。電機子を流れる磁束量と励磁コイル1eに供給する磁化電流との関係は設計段階でマップデータとして設定する。しかし,回転電機の量産段階では部材の寸法が公差範囲内でバラツキ,磁性体の磁気特性のバラツキも存在して電機子を流れる磁束量の精密な制御が困難になる場合がある。そのような場合には回転電機を組み立て後に回転電機個々に電機子を流れる磁束量と励磁コイル1eに供給する磁化電流との関係を検査し,前記マップデータを修正する。さらに磁性体の特性は温度による影響を受けやすく,経時変化による影響も懸念される場合には回転電機の運転中に磁化電流と磁化状態の関係を監視して前記マップデータを修正する情報を学習的に取得する事も出来る。電機子を流れる磁束量を直接に把握する事は難しいが,電機子コイル16に現れる誘起電圧を参照して電機子を流れる磁束量を推定する。
第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁化状態は離散的であるが,本実施例ではさらに第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁化状態を変更させない程度の磁束調整電流を励磁コイル1eに供給して磁束を発生させ,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1d及び永久磁石23,25による磁束に重畳させて電機子を流れる磁束量を制御する。磁束調整電流は第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの各磁化状態の組み合わせに於いて磁束量を増減するよう磁束量の調整方向に応じて極性が変えられる。
磁束調整電流による磁束は第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dを共に含む閉磁路,第一界磁磁石1cと主磁路を含む閉磁路に誘起される。第一界磁磁石1cの厚みL1を小に,第二界磁磁石1dの厚みL2を大に設定し,さらに第二界磁磁石1dを空隙と見なした磁気抵抗が主磁路の磁気抵抗より大となるように設定し,磁束調整電流による磁束の殆どを主磁路に流れるよう構成して電機子コイル16と鎖交させる。主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯との相対位置により変動するが,本発明で主磁路の磁気抵抗は磁性体突極と磁性体歯間の各相対位置に関して平均化された値としている。
以上,図1から図4に示した回転電機に於いて,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁化状態を変える事で電機子に流れる磁束量を制御できることを説明した。本実施例は電機子を流れる磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,図5を用いて回転電機システムとしての制御を説明する。
図5は磁束量制御を行う回転電機システムのブロック図を示している。図5に於いて,回転電機51は入力52,出力53を有するとし,制御装置55は回転電機51の出力53及び回転子の位置,温度等を含む状態信号54を入力として制御信号56を介して磁束量を制御する。番号57は電機子コイル16に駆動電流を供給する駆動回路を示す。回転電機51が発電機として用いられるのであれば,入力52は回転力であり,出力53は発電電力となる。回転電機51が電動機として用いられるのであれば,入力52は駆動回路57から電機子コイル16に供給される駆動電流であり,出力53は回転トルク,回転速度となる。制御信号56は切換スイッチ58,磁化制御回路5a,磁束調整回路59を制御し,第一界磁磁石1c,第二界磁磁石1dの磁化状態を変更させる場合には切換スイッチ58により磁化制御回路5aを接続して励磁コイル1eに磁化状態変更の為の磁化電流を供給し,電機子コイル16と鎖交する磁束量の微調整を行う場合は切換スイッチ58により磁束調整回路59を接続して励磁コイル1eに磁束調整電流を供給する。
回転電機が電動機として用いられる場合に於いて,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置55は出力53である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には磁束調整回路59により励磁コイル1eに供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第二磁化の磁石数を増す方向の磁化電流が磁化制御回路5aから励磁コイル1eに供給されて第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
出力53である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には磁束調整回路59により励磁コイル1eに供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一磁化の磁石数を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル1eに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置55は出力53である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には磁束調整回路59により励磁コイル1eに供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第二磁化の磁石数を増す方向の磁化電流が磁化制御回路5aから励磁コイル1eに供給されて第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
制御装置55は出力53である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には磁束調整回路59により励磁コイル1eに供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一磁化の磁石数を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル1eに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
本実施例に於いて,永久磁石23,25により島状突極21及び磁性体突極22を互いに異極に磁化し,磁気的な空隙24で島状突極21には励磁部からの磁束が流れ難いように構成している。この構成により磁石トルクに加えてリラクタンストルクの利用が可能である。島状突極21には磁気的な空隙24を配置しているが,磁気的な空隙24を永久磁石で置き換えて島状突極21及び磁性体突極22の励磁を更に強化する構成も可能である。さらに磁性体突極22側にも厚みの薄い永久磁石を配置する事も可能である。
また本実施例に於いて,回転子両端にそれぞれ励磁部を配置したが,全く同一の構成で何れの励磁部も磁性体突極22を同じ方向に励磁する。軸長の長い回転電機装置に於いて十分な量の磁束を供給する為に配置したのであって,軸長の短い回転電機装置の場合は一方の励磁部のみでよい。また,電機子コイル16は集中巻きとして説明したが,当然に分布巻きの構成も可能である。
また,第一,第二電機子磁極群に於いて,同相の電機子コイル同士は電流が流された時に互いに逆方向の磁束が誘起されるよう直列に接続されている。回転電機が電動機として用いられる場合において,第一,第二電機子磁極群にそれぞれ接続される駆動回路を持ち,電機子コイルが島状突極或いは磁性体突極に対向するそれぞれの場合で駆動電流条件を切り替えてトルク変動を更に低減する構成も可能である。本発明は何れの構成にも適用可能であり,回転電機仕様に応じて構成を選択する。
本発明による回転電機システムの第二実施例を図6を用いて説明する。第二実施例は,第一実施例と回転子の表面磁極部17の構成が異なる回転電機システムであり,図6に示す電機子及び回転子の断面図を用いてその構成を説明する。
図6に於いて,表面磁極部には磁性体突極と集合磁石とが周方向に交互に配置されている。中間磁性体突極63の両側面にほぼ同じ磁化方向の磁石板65,66が配置された組み合わせは磁気的には磁石と等価な集合磁石として,回転子の表面磁極部は一様な円筒状磁性体基板を周方向に等間隔に配置された集合磁石によって区分された島状突極61,磁性体突極62及び集合磁石とから構成されている。さらに隣接する突極である島状突極61,磁性体突極62は互いに異なる方向に磁化されるよう隣接する集合磁石の磁化方向は互いに反転して構成されている。島状突極61,磁性体突極62それぞれの周方向両側面に配置された磁石板はV字状の配置であり,磁石板の交差角度は磁束バリアに好適な角度に設定する。磁石板64,65,66,67に付された矢印は磁石板64,65,66,67の板面にほぼ直交する磁化方向を示す。
島状突極61は周方向両側に配置された磁石板64,65及び内周側の非磁性体68によって磁性体突極62から磁気的に離隔されている。すなわち,島状突極61と磁性体基板との間に離隔部材である非磁性体68が配置され,磁性体突極62と磁性体基板との間に離隔部材は配置されていない。磁性体突極62の周方向両側面には磁石板66,67が配置されているが,内周部分を通じて全ての磁性体突極62は繋がっている。磁石板64,65,66,67により島状突極61はN極に磁化され,磁性体突極62はS極に磁化されている。
第一実施例と同様に励磁部によって円筒状磁気コア18,円筒状磁気ヨーク15間に磁束が流されると,励磁磁束は磁石板64,65及び非磁性体68に阻まれて島状突極61には流れず,磁性体突極62を介して磁性体歯14に流れる。回転子の磁極構成は異なるが,励磁部により電機子コイル16と鎖交する磁束量を制御する原理作用は同じであり,更なる説明は省略する。
本発明による回転電機システムの第三実施例を図7から図10を用いて説明する。第三実施例は,二つの電機子が回転子に対向し,界磁磁石の磁化状態は連続的に変えられる回転電機システムである。
図7はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。回転子は第一実施例とは構成が異なる表面磁極部74及び界磁極77,78,界磁磁石79,支持体19を有している。回転子に対向して二つの電機子が軸方向に並び,左側の電機子は磁性体歯71,電機子コイル72を有する第一電機子磁極群を,右側の電機子は磁性体歯73,図示されていない電機子コイルを有する第二電機子磁極群で構成されている。
励磁部は回転子の両端のハウジング側及び回転子内に分割して配置されている。回転子内には界磁極77,78間に径方向の厚みが連続的に変わる界磁磁石79が配置され,界磁極77は回転子の右側に於いて円筒状磁気ヨーク15に繋がる円環状磁気コア75と微小間隙を介して対向し,励磁コイル76が円環状磁気コア75,円筒状磁気ヨーク15,磁性体歯71,表面磁極部74,界磁極78,界磁磁石79,界磁極77で構成される磁路に励磁磁束を発生するよう配置されている。番号7aは非磁性体を示し,界磁磁石79内の矢印は磁化の方向を示す。回転子の左端側に配置された円環状磁気コア,励磁コイルに番号を付していないが,全く同じ構成である。
図8は図7のB−B’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示している。表面磁極部74にはそれぞれ径方向に突出する形状を持つ島状突極81,磁性体突極82が周方向に交互に配置されている。島状突極81には内周部分に永久磁石83が配置され,磁性体突極82には内周部分に永久磁石84及び磁性体板85が配置されている。隣接する永久磁石83,84の磁化方向が互いに逆として島状突極81,磁性体突極82はそれぞれN極,S極に磁化されている。永久磁石83,84に於ける矢印は磁化の方向を示す。
永久磁石83及び永久磁石84は離隔部材であり,永久磁石83は永久磁石84より径方向の厚みを大として島状突極81を励磁部からの磁束が通り難くされている。磁性体板85は永久磁石83,84とほぼ同じ比重を持つ磁性体であり,回転子の重量バランスを損なわないよう配置されている。島状突極81,磁性体突極82は幅の狭い可飽和磁性体部で連結された構成として所定の型でケイ素鋼板を打ち抜き,積層して構成され,ケイ素鋼板に設けられたスロットに永久磁石83,84及び磁性体板85が挿入される。界磁極77,78は圧粉鉄心で構成され,励磁部からの磁束を伝搬させる。
図8に於いて,電機子は第二電機子磁極群の断面図が示され,ハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク15と,円筒状磁気ヨーク15から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯73と,磁性体歯73に巻回された電機子コイル86とから構成されている。電機子の磁性体歯86先端には径方向に短い可飽和磁性体結合部87を隣接する磁性体歯73先端部間に設けてある。磁性体歯73及び可飽和磁性体結合部87はケイ素鋼板を型で打ち抜いて積層され,電機子コイル86を巻回された後,圧粉鉄心で構成された円筒状磁気ヨーク15と組み合わせられる。
図8に示す電機子は第二電機子磁極群に属する電機子コイル86及び磁性体歯73が周方向に並ぶ構成である。電機子コイル86は周方向にU’相,V’相,W’相の電機子コイルが周方向に順次繰り返し配置され,回転子の6極に対して9個の電機子コイルが配置されている。図7に於いて,左側に配置された電機子は第一電機子磁極群を有し,その構成は図8に示す第二電機子磁極群と同じであり,第一電機子磁極群に属する電機子コイル72はU相,V相,W相の電機子コイルが周方向に順次繰り返し配置され,回転子の6極に対して9個の電機子コイルが配置されている。
図7に於いて,左右の電機子は周方向の位置は以下のように相互に偏倚して構成されている。U相,V相,W相の電機子コイルは第一電機子磁極群であり,U’相,V’相,W’相の電機子コイルは第二電機子磁極群である。U相の電機子コイルが島状突極81に正対した時にU’相の電機子コイルは磁性体突極82に正対する関係にあり,電流が流された時にU相の電機子コイル及びU’相の電機子コイルは互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続されている。V相とV’相の電機子コイル,W相とW’相の電機子コイルもそれぞれ同様に接続され,全体として3相に結線されている。
図9は図8に示した回転子の表面磁極部74及び電機子の断面を拡大して示す図であり,永久磁石83,84と励磁部による磁束の流れを説明する。図9(a)は表面磁極部74及び第一電機子磁極群の断面を,図9(b)は表面磁極部74及び第二電機子磁極群の断面をそれぞれ示している。図9(a),(b)は励磁部が電機子コイル72,84と鎖交する磁束量を永久磁石83,84のみの場合より増大させる場合を示している。
図9(a)に於いて,第一電機子磁極群の電機子コイルはU相,V相,W相の電機子コイル72をそれぞれ電機子コイル91,92,93とし,図9(b)に於いて,第二電機子磁極群の電機子コイル86はU’相,V’相,W’相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル94,95,96として示されている。U相の電機子コイル91が島状突極81に正対する時にはU’相の電機子コイル94は磁性体突極82と正対するよう互いに偏倚して配置されている。その際に永久磁石83,84からの磁束がU相の電機子コイル91と鎖交して流れる方向と,U’相の電機子コイル94と鎖交して流れる方向とは互いに逆方向であり,電流を流した時にU相の電機子コイル91とU’相の電機子コイル94とは互いに逆方向の磁束を誘起するよう直列に接続される。V相の電機子コイル92とV’相の電機子コイル95,W相の電機子コイル93とW’相の電機子コイル96もそれぞれ同様に配置されて接続され,全体として3相に結線されている。
点線97は永久磁石83,84からの磁束を代表して示している。図9(a)に於いて,永久磁石83のN極から磁束97は島状突極81,磁性体歯71,円筒状磁気ヨーク15,隣接する磁性体歯71,永久磁石84,磁性体突極82を介して永久磁石83のS極に環流する。図9(b)に於いて,永久磁石83のN極から磁束97は島状突極81,磁性体歯73,円筒状磁気ヨーク15,隣接する磁性体歯73,永久磁石84,磁性体突極82を介して永久磁石83のS極に環流する。これらの磁束の流れる経路に於いて,U相の電機子コイル91とU’相の電機子コイル94と上記磁束が鎖交する方向は互いに逆であり,V相の電機子コイル92とV’相の電機子コイル95,W相の電機子コイル93とW’相の電機子コイル96も同様である事が示されている。したがって,永久磁石83,84からの磁束による誘起電圧は3相の誘起電圧として正しく合成され,島状突極81,磁性体突極82を介して流れる磁束量にアンバランスがあっても3相の電圧出力には現れない。
図9(a),(b)に於いて,励磁部からの磁束は番号98で示すように円筒状磁気ヨーク15から界磁極77の方向に流れているが,永久磁石83,84の厚みの差により島状突極81には殆ど流れず,専ら磁性体突極82を介して電機子側に流れる。一般に磁路の途中に永久磁石が存在する場合,永久磁石の飽和磁束量は一定であり,永久磁石の比透磁率は空隙に近いので,永久磁石の厚みが大である場合には外部からの磁束に対して永久磁石を双方向の磁束の離隔部材と出来る。本実施例で電機子に近い永久磁石83,84は抗磁力が大であるネオジウム磁石(NdFeB)で構成され,励磁部からの磁束98は永久磁石83,84の磁化状態に影響を及ぼすほどには強くない。また,永久磁石84の厚みを永久磁石83の厚みより小に設定したので励磁部からの磁束98は永久磁石84を通過し,永久磁石83を通過し難い。
励磁部からの磁束98の方向は島状突極81が磁化された方向とは逆方向であるので磁束98はV相の電機子コイル92,W相の電機子コイル93,U’相の電機子コイル94と鎖交し,その方向は永久磁石83,84による磁束97の方向と同じであるので励磁部が電機子コイルと鎖交する磁束量を永久磁石83,84のみの場合より増大させる。磁束98の流れる方向を図9(a),(b)とは逆方向にした場合は励磁部が電機子コイルと鎖交する磁束量を永久磁石83,84のみの場合より減少させる状態となる。
磁束98は専ら磁性体突極82を介して電機子側に流れ,各電機子コイルに誘起される電圧は一様ではない。しかし,上記の説明のように第一電機子磁極群,第二電機子磁極群の電機子コイルは周方向に配置され,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いて同じタイミングで駆動電流が供給される同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極81に対向する時に,他方が磁性体突極82に対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう直列に接続されて駆動トルク変動或いは発電電圧波形歪みが抑制される。
図7に示されるように界磁極77,78間は径方向の間隙長が軸方向に徐々に変わり,径方向の長さが変わる界磁磁石79が配置されている。界磁磁石79は長さが軸方向に変わり,磁石要素が長さを変えて並列に接続された状態である。励磁コイル76に磁化電流が供給されると,界磁磁石79に接する界磁極77,78間の磁気ポテンシャル差(起磁力)はほぼ同じとして各磁石要素内では磁気ポテンシャル差を径方向長さで除した値に相当する磁界強度の磁界が加えられる。
したがって,径方向に短い磁石要素が磁化されやすく,径方向に長い磁石要素は磁化され難い。励磁コイル76に供給する磁化電流により界磁磁石79を一括して励磁すると,磁束は磁界強度が大となる径方向に短い側に磁束が集中し,磁界強度が抗磁力より大となる領域が磁化される。励磁コイル76に供給する磁化電流を増やすと磁化される界磁磁石の領域は径方向に長い側に広がって磁化される領域を制御できる。
上記説明のように界磁磁石79は界磁極77,78間に磁化容易さの異なる磁石要素が並列接続された構成である。励磁コイル76に加えられる磁化電流の大きさにより磁化される領域の広さを変え,さらに磁化電流の極性により磁化される方向が変えられる。図7に示したように径方向の磁化を有する領域が界磁磁石79内に共存し,径方向の磁化領域の磁極面積の大きさを変える事により電機子側に流れる磁束量が変わる。また,径方向の磁化領域の一方を消磁状態とする事も可能である。図9(a),(b)を用いて説明したように円筒状磁気ヨーク15から界磁極78側に励磁磁束を流す場合が電機子コイル72,86と鎖交する磁束量を実効的に増やすので内径方向の磁化が第一磁化,その逆方向である外径方向の磁化が第二磁化に相当する。
図10は界磁磁石近傍の縦断面図の上半分を示した図であり,界磁磁石79の磁化状態変更のステップを説明する。励磁コイル76に供給された磁化電流が界磁磁石内に加える磁界強度より小の抗磁力を持つ界磁磁石要素は全て同じ方向に磁化されるので界磁磁石の磁化状態変更は以下のように実施される。図10(a)は,図7に示した界磁磁石79の上半分の縦断面を拡大して示し,第一磁化である界磁磁石領域101,第二磁化である界磁磁石領域102に区分されて示されている。
第一磁化である界磁磁石領域101の磁化領域を減じると第二磁化である界磁磁石領域102の磁化領域が拡大される。界磁磁石領域102は界磁磁石領域101より径方向の長さが短いので図10(a)の状態から第一磁化である界磁磁石領域101の磁化領域を減じるには界磁磁石領域102の領域を増すよう磁化する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル76に加える。すなわち,第二磁化の磁極面積増大分に相当する領域分を界磁磁石領域102に加えた領域を第二磁化の方向に磁化する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル76に加える。図10(b)の界磁磁石領域102内の斜線部分103は界磁磁石領域102の増大分(界磁磁石領域101の減少分)を示す。
図10(a)の状態から第一磁化である界磁磁石領域101の磁化領域を増すには,界磁磁石の径方向長さの最も短い領域に於いて界磁磁石領域101の増大させる磁極面積に相当する領域を第一磁化の方向に磁化する振幅及び極性の磁化電流を励磁コイル76に加える。図10(c)の斜線部分104は第一磁化の増加分を示す。図10(c)の状態に於いて,第一磁化の磁極面積は界磁磁石領域101の磁極面積と斜線部104の磁極面積との和になる。
電機子コイル72,86と鎖交する磁束量はこのように励磁コイル76に供給する磁化電流の振幅及び極性を変えて界磁磁石79内の第一,第二磁化領域の磁極表面積を変える事で制御される。電機子を流れる磁束量と励磁コイル76に供給する磁化電流との関係は設計段階でマップデータとして設定する。しかし,回転電機の量産段階では部材の寸法が公差範囲内でバラツキ,磁性体の磁気特性のバラツキも存在して電機子を流れる磁束量の精密な制御が困難になる場合がある。そのような場合には回転電機を組み立て後に回転電機個々に電機子を流れる磁束量と励磁コイル76に供給する磁化電流との関係を検査し,前記マップデータを修正する。
さらに磁性体の特性は温度による影響を受けやすく,経時変化による影響も懸念される場合には運転中に加えられる磁化電流とその結果としての界磁磁石の磁化状態を監視し,回転電機の運転中に前記マップデータを修正する情報を学習的に取得する事も出来る。電機子を流れる磁束量を直接に把握する事は難しいが,電機子コイル72,86に現れる誘起電圧を参照して電機子を流れる磁束量を推定できる。
電機子コイル72,86に現れる誘起電圧の振幅は電機子コイル72,86と鎖交する磁束量及び回転速度にほぼ比例する。界磁磁石領域101の磁極表面積を増やすよう励磁コイル76に磁化電流を加えた結果として誘起電圧の振幅の変化量が目標値より小の場合は同一条件に於ける磁化電流の振幅を大に,誘起電圧の振幅の変化量が目標値より大の場合は同一条件に於ける磁化電流の振幅を小にするよう磁化電流に係わるパラメータを修正する。
本実施例に於いて,界磁磁石79の磁化状態は連続的に変える事が出来るが,磁化状態の変更を間歇的に行う場合に界磁磁石79の磁化状態は実質的に離散的に変えられる事になる。本実施例ではさらに界磁磁石79の磁化状態を変更させない程度の磁束調整電流を励磁コイル76に供給して磁束を発生させ,界磁磁石79及び永久磁石83,84による磁束に重畳させて電機子を流れる磁束量を制御する。この場合に調整用の磁束は主に界磁磁石79の厚みの小さい領域を流れる事になる。
図5に於いて,制御信号56は切換スイッチ58,磁化制御回路5a,磁束調整回路59を制御し,界磁磁石79の磁化状態を変更させる場合には切換スイッチ58により磁化制御回路5aを接続して励磁コイル76に磁化状態変更の為の磁化電流を供給する。電機子を流れる磁束量の微調整を行う場合には切換スイッチ58により磁束調整回路59を接続して励磁コイル76に磁束調整電流を供給して磁束を発生させる。磁束調整電流は界磁磁石79の磁化状態を非可逆的に変更させない程度の大きさであり,磁束量の調整方向に応じて極性が変えられる。
回転電機が電動機として用いられる場合に於いて,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置55は出力53である回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には磁束調整回路59により励磁コイル76に供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第二磁化の磁極面積を増す方向の磁化電流が磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給されて第一磁化の磁極面積を減じると共に第二磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量を小とする。例えば,図10(a)の状態に於いて第二磁化の磁極面積を増すには,第二磁化の磁極面積増大分に相当する領域分(図10(b)の斜線部分103)を界磁磁石領域102に加えた領域を第二磁化の方向に磁化する振幅及び極性の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給する。
出力53である回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には磁束調整回路59により励磁コイル76に供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一磁化の磁極面積を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給して第一磁化の磁極面積を増すと共に第二磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。例えば,図10(a)の状態に於いて第一磁化の磁極面積を増すには,界磁磁石領域102内に第一磁化の磁極面積増加分に相当する領域分(図10(c)の斜線部分104)を第一磁化の方向に磁化する振幅及び極性の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給する。
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。但し,電機子を流れる磁束量を増やす極性の磁束調整電流を正としている。制御装置55は出力53である発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には磁束調整回路59により励磁コイル76に供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小である場合には第二磁化の磁極面積を増す方向の磁化電流が磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給されて第一磁化の磁極面積を減じると共に第二磁化の磁極面積を増して電機子を流れる磁束量を小とする。例えば,図10(a)の状態に於いて第二磁化の磁極面積を増すには,第二磁化の磁極面積増大分に相当する領域分(図10(b)の斜線部分103)を界磁磁石領域102に加えた領域を第二磁化の方向に磁化する振幅及び極性の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給する。
制御装置55は出力53である発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には磁束調整回路59により励磁コイル76に供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大である場合には第一磁化の磁極面積を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給して第一磁化の磁極面積を増すと共に第二磁化の磁極面積を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。例えば,図10(a)の状態に於いて第一磁化の磁極面積を増すには,界磁磁石領域102内に第一磁化の磁極面積増加分に相当する領域分(図10(c)の斜線部分104)を第一磁化の方向に磁化する振幅及び極性の磁化電流を磁化制御回路5aから励磁コイル76に供給する。
本実施例で界磁磁石の厚みが軸方向に連続的に変わる構成であるが,周方向に変わる構成,或いは厚みが離散的に異なる複数の界磁磁石要素を磁性体間に配置する構成の何れも可能である。更に本実施例は同じ構成の励磁コイル及び界磁磁石の組み合わせを左右に有しているが,これは軸長の長い回転電機に於いて励磁磁束を軸方向に均一に流す為の構成であって,二つの電機子にそれぞれ対応する訳ではない。本実施例のように二つの電機子を軸方向に並べる場合でも比較的軸方向に短い回転電機では一組の励磁コイルと界磁磁石で構成する事が出来,回転電機仕様により選択する。
本発明による回転電機システムの第四実施例を図11から図13を用いて説明する。第四実施例は,励磁部が界磁磁石を持たず,電流励磁とする回転電機システムである。図11はアキシャルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示している。基板11dに固定軸111及び電機子が固定され,固定軸111にベアリング113を介してロータハウジング112が回動可能に支持されている。ロータハウジング112は非磁性のステンレススチールで構成され,磁性体基板117及び永久磁石118を有し,電機子との対向面には島状突極119及び磁性体基板117の一部である磁性体突極11aとが周方向に交互に配置されている。永久磁石118は島状突極119と磁性体基板117間の離隔部材であり,磁性体突極11aと磁性体基板117間に離隔部材は配置されていない。永久磁石118内の矢印は磁化方向を示している。
電機子は基板11dに固定された円環状磁気ヨーク115と,円環状磁気ヨーク115に配置された電機子コイル116とを有している。励磁部は,円環状磁気ヨーク115に繋がる円筒状磁気コア11bと励磁磁路部材である円筒状磁気コア11bに巻回された励磁コイル11cで構成されている。
図12(a)は回転子を左から見て透視した平面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付して示されている。回転子はロータハウジング112に磁性体基板117が配置され,電機子に対向する面には島状突極119及び磁性体基板117の一部である磁性体突極11aとが周方向に交互に配置されている。番号121,122は島状突極119と磁性体突極11aとの間に配置された周方向磁化を有する永久磁石を示し,永久磁石118と共に島状突極119をS極に,磁性体突極11aをN極に磁化している。永久磁石121,122内の矢印は永久磁石121,122の磁化方向を示し,島状突極119及び磁性体突極11a内のN,Sは永久磁石118,121,122によって磁化された極性を示す。回転子の表面に於いて島状突極と磁性体突極は軸方向に短い磁性体で繋がって一体化されているので表面から島状突極と磁性体突極間の永久磁石121,122は見えないが判りやすいように示している。
図12(b)は電機子を左方向から見た平面図を示している。電機子は基板11dに固定された円環状磁気ヨーク115と,円環状磁気ヨーク115に配置された電機子コイル116とから構成されている。U相,V相,W相,U’相,V’相,W’相の電機子コイルが周方向に順次繰り返し配置され,回転子の6極に対して18個の電機子コイル116が配置されている。
U相,V相,W相の電機子コイルは第一電機子磁極群であり,U’相,V’相,W’相の電機子コイルは第二電機子磁極群である。U相の電機子コイルが島状突極119に正対した時にU’相の電機子コイルは磁性体突極11aに正対する関係にあり,電流が流された時にU相の電機子コイル及びU’相の電機子コイルは互いに逆方向の磁束を発生するよう直列に接続されている。V相とV’相の電機子コイル,W相とW’相の電機子コイルもそれぞれ同様に接続され,全体として3相に結線されている。
図13は図12のC−C’に沿う回転子及び電機子の周方向断面を示す図であり,永久磁石118,121,122と励磁部による磁束の流れを説明する。図13は励磁部が電機子コイル116と鎖交する磁束量を永久磁石118,121,122のみの場合より増大させる場合を示している。
図13に於いて,第一電機子磁極群の電機子コイルはU相,V相,W相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル131,132,133とし,第二電機子磁極群の電機子コイルはU’相,V’相,W’相の電機子コイルをそれぞれ電機子コイル134,135,136として示されている。U相の電機子コイル131が島状突極119に正対する時にはU’相の電機子コイル134は磁性体突極11aと正対するよう配置されている。その際に永久磁石118,121,122からの磁束137がV相の電機子コイル132と鎖交して流れる方向とV’相の電機子コイル135と鎖交して流れる方向とは互いに逆方向であり,電流が流された時にV相の電機子コイル132とV’相の電機子コイル135とは互いに逆方向の磁束を誘起するよう直列に接続される。U相の電機子コイル131とU’相の電機子コイル134,W相の電機子コイル133とW’相の電機子コイル136もそれぞれ同様に配置されて接続され,全体として3相に結線されている。
励磁部からの磁束を番号138で示すように永久磁石118に阻害されて島状突極119内を流れず,専ら磁性体突極11aを介して電機子側に流れる。その方向を永久磁石118,121,122により島状突極119が磁化される方向とは逆方向に流れるよう供給すると,磁束138はW相の電機子コイル133,U’相の電機子コイル134,V’相の電機子コイル135と鎖交し,その方向は永久磁石118,121,122による磁束137の方向と同じであるので励磁部が電機子コイルと鎖交する磁束量を永久磁石118,121,122のみの場合より増大させる状態となる。磁束138の流れる方向を図13とは逆方向にした場合は励磁部が電機子コイルと鎖交する磁束量を永久磁石118,121,122のみの場合より減少させる状態となる。
上記説明のように島状突極119,磁性体突極11aから流れ出る磁束量は本質的にアンバランスであり,さらに励磁部からの磁束138は専ら磁性体突極11aを介して電機子側に流れるので各電機子コイルに誘起される電流は一様ではない。しかし,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群の電機子コイルは周方向に配置され,第一電機子磁極群,第二電機子磁極群に於いて同じタイミングで駆動電流が供給される同一相に属する電機子コイル同士は一方が島状突極119に対向する時に,他方が磁性体突極11aに対向するよう配置され,電流が流された時にそれぞれ逆方向の磁束を生じるよう直列に接続されて駆動トルク変動或いは発電電圧波形歪みが抑制される。
励磁部は,図11に示されるように円環状磁気ヨーク115に繋がる円筒状磁気コア11bと円筒状磁気コア11bに巻回された励磁コイル11cで構成されている。円筒状磁気コア11bの左端は磁性体基板117と微小間隙を介して対向し,励磁コイル11cは円筒状磁気コア11b,磁性体基板117,磁性体突極11a,円環状磁気ヨーク115で構成される磁路に励磁磁束を誘起する構成である。図13を用いて説明したように励磁コイル11cに供給する電流を変えて電機子コイル116と鎖交する磁束量を実効的に制御できる。
本実施例に於いて,軸方向には三つの磁路が存在して並列に接続されている。磁性体基板117,永久磁石118,島状突極119,円環状磁気ヨーク115で構成される第一磁路と,磁性体基板117,磁性体突極11a,円環状磁気ヨーク115で構成される第二磁路と,磁性体基板117,円筒状磁気コア11b,円環状磁気ヨーク115で構成される第三磁路とである。永久磁石121,122からの磁束は図13に示されるように磁性体基板117,円環状磁気ヨーク115を介して小さな磁路で環流するが,永久磁石118からの磁束は第三磁路に流れる懸念が残る。永久磁石118からの磁束が第三磁路に流れて短絡し難いように磁性体基板117,円筒状磁気コア11b間の間隙に於ける表面積,間隙長等の寸法諸元により第三磁路の磁気抵抗は第二磁路の磁気抵抗より大に設定されている。
本実施例では,電機子コイル116は集中巻きとして説明したが,当然に分布巻きの構成とする事も可能である。電機子コイル116は空芯としたのでコギングトルクの発生が抑制される利点があるが,円環状磁気ヨーク115に配置する磁性体歯に巻回する構成も可能であり,その場合は出力の向上が見込まれる。また,島状突極119を永久磁石118,121,122と共に一体の永久磁石として構成する事も出来る。本発明は何れの構成にも適用可能であり,回転電機装置の仕様に応じて選択する。
本発明による回転電機システムの第五実施例を図14から図17を用いて説明する。第五実施例は,第一実施例に於いて島状突極内の磁気的な空隙24に配置された非磁性体に替えて永久磁石を副界磁磁石として配置し,電機子コイルに供給する電流により副界磁磁石の磁化状態を変える回転電機システムである。第五実施例は第一実施例とほぼ同じ構成であり,島状突極内の磁気的な空隙24の非磁性体に替えて副界磁磁石を配置した点が異なるのみであるので第一実施例と異なる点に集中して説明する。すなわち実施例1に於いて,島状突極21と磁性体基板との間に離隔部材である磁気的な空隙24が配置され,磁性体突極22と磁性体基板との間に離隔部材は配置されていない。磁気的な空隙24に替えて配置された副界磁磁石が本実施例に於いて島状突極21と磁性体基板間の離隔部材となる。
図14は第五実施例による回転電機の電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。図2に示した第一実施例の電機子及び回転子の断面図とほぼ同じであるが,回転子に副界磁磁石141が配置されている点が異なる。副界磁磁石141は磁化変更容易とするよう永久磁石23,25より抗磁力と磁化方向の厚みの積が小に設定され,副界磁磁石141内の矢印は磁化方向を示す。
図15から図17を用いて副界磁磁石の磁化状態変更の動作原理を説明する。図15は島状突極21,磁性体突極22の近傍を拡大して示し,副界磁磁石141を磁化する為に電機子コイルから誘起される磁束の流れを説明する。同図に於いて第一電機子磁極群に含まれる電機子コイル16はU相,V相,W相の各電機子コイルは番号31,32,33を付され,第二電機子磁極群に含まれる電機子コイル16はU’相,V’相,W’相の各電機子コイルは番号34,35,36を付されている。
同図に於いて,島状突極21には電機子コイル31,32が巻回されている磁性体歯14が対向し,磁性体突極22には電機子コイル34,35が巻回されている磁性体歯14が対向している。電機子コイル31と電機子コイル34は互いに逆方向の磁束を誘起するよう接続されているので点線151で示すように磁束が副界磁磁石141を通って流れる。電機子コイル32と電機子コイル35の関係も同じであって誘起された磁束152が副界磁磁石141を通って流れる。
図17は電機子コイル31−36と駆動回路との結線状態の主要部を示している。電機子コイル31と電機子コイル34は互いに逆方向の磁束を誘起するよう直列に接続されて一方は中性点171に接続され,他方はスイッチ素子173及び174に接続されている。電機子コイル32と電機子コイル35は互いに逆方向の磁束を誘起するよう直列に接続されて一方は中性点171に接続され,他方はスイッチ素子175及び176に接続されている。電機子コイル33と電機子コイル36は互いに逆方向の磁束を誘起するよう直列に接続されて一方は中性点171に接続され,他方はスイッチ素子177及び178に接続されている。さらに中性点171はスイッチ素子179及び17aに接続されている。番号172は電池を示す。上記スイッチ素子のオンオフを制御する制御部は図示されていない。
回転電機の通常の動作時には中性点171に繋がるスイッチ素子179及び17aはオフとされ,回転子の位置に応じて各電機子コイルには3相の駆動電流が供給されて回転子は回転駆動される。図15に示したように副界磁磁石141の磁化状態を変更する為に島状突極21と対向する電機子コイルに磁化電流を供給する場合には図示していない回転子の位置センサ出力により選定された電機子コイルに繋がるスイッチ素子と共にスイッチ素子179及び17aのオンオフ制御を行う。
図15に示した磁束151,152を誘起するよう電機子コイル31,34,32,35に磁化電流17b,17cを供給するにはスイッチ素子173及び175及び17aをオンとする。磁束151,152の流れを逆方向とするにはスイッチ素子174及び176及び179をオンとして磁化電流17d,17eを電機子コイル31,34,32,35に流す。磁化電流を流す為に通常より更に高い電圧を必要とする際には電池172の電圧を昇圧する装置を用いる事も出来る。
図16は副界磁磁石141の磁化方向が異なる場合について島状突極21から電機子側に流れる磁束量を強める場合,弱める場合を示している。図16(a)は永久磁石23,25及び副界磁磁石141が共に島状突極21をN極に磁化し,副界磁磁石141が島状突極21から電機子側に流れる磁束量を強める場合を示している。番号161は永久磁石23,25及び副界磁磁石141から電機子側に流れる磁束の流れる経路を示す。
図16(b)は副界磁磁石141が島状突極21を永久磁石23,25とは異なる方向に磁化する場合であって永久磁石23,25及び副界磁磁石141からの磁束は番号162で示されるように閉磁路を形成して電機子側には流れ難くなる。永久磁石23,25及び副界磁磁石141から流れ出る磁束量をそれぞれの磁気特性,磁極面積等を設定し,島状突極21から電機子側に流れる磁束量の最大値,最小値を設定できる。
本実施例は第一実施例とほぼ同じ構成であり,島状突極21内の磁気的な空隙24に配置された非磁性体に替えて副界磁磁石141を配置した点が異なるのみである。島状突極21の機能,励磁部の動作原理等は第一実施例において説明されているので更なる説明は省略する。
第一実施例から第四実施例まで島状突極から電機子側に流れる磁束量は一定とし,磁性体突極を流れる磁束量を励磁部により制御するので電機子側に流れる磁束量の最小値には限界が存在した。本実施例は島状突極から電機子側に流れる磁束量を変えて電機子側に流れる磁束量の制御範囲を拡大出来る。
本発明の第六実施例による回転電機システムを図18を用いて説明する。第六実施例は第一実施例の回転電機システムをハイブリッドカーの発電機兼電動機システムとして用いた回転電機システムである。同図に於いて,番号181は第一実施例で示した回転電機を示し,回転電機181はハイブリッドカーのエンジン182と回転力を伝達するよう結合された回転軸189を持ち,回転軸189の回転力はトランスミッション183を介して駆動軸18aに伝えられる。制御装置184は上位制御装置からの指令18bを受け,駆動回路185を介して回転電機181を電動機として駆動し,磁束量制御回路186を介して電機子に流入する磁束量を制御する。更に制御装置184は上位制御装置からの指令18bを受け,電機子コイル16の引き出し線18cに現れる発電電力を整流回路187を介して整流し,バッテリー188を充電する構成としている。
低回転速度域で磁石トルクを強化する必要がある場合は第一磁化の磁石数を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aにより励磁コイル1eに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。高回転速度域で弱め界磁とする場合には第二磁化の磁石数を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aにより励磁コイル1eに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
エンジン182の回転力のみでハイブリッドカーを駆動する時は,指令18bにより電機子コイル16の引き出し線18cに現れる発電電力を整流回路187を介して直流に変え,バッテリー188を充電させる。その場合に制御装置184は発電電圧がバッテリー188を充電する最適な電圧より大である場合は磁束量制御回路186を介して磁束調整回路59により励磁コイル1eに供給する磁束調整電流を減じて電機子に流れる磁束量を小とし,磁束調整電流が予め定めた値より小となる場合には第二磁化の磁石数を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aにより励磁コイル1eに供給して第一磁化の磁石数を減じると共に第二磁化の磁石数を増して電機子を流れる磁束量を小とする。
制御装置184は発電電圧がバッテリー188を充電する最適な電圧より小である場合は磁束量制御回路186を介して磁束調整回路59により励磁コイル1eに供給する磁束調整電流を増して電機子に流れる磁束量を大とし,磁束調整電流が予め定めた値より大となる場合には第一磁化の磁石数を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aにより励磁コイル1eに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とする。
バッテリー188に充電する場合に回転電機システムを定電圧発電機システムとする事で発電電圧を変換するコンバータは不要である。また,更にバッテリー188が電圧の種類の異なる複数種のバッテリーで構成される場合でも切り替え回路を付け加えてそれぞれのバッテリーに最適の発電電圧に制御する事で高価なコンバータを不要に出来る。
本実施例はまたハイブリッドカーの制動時に於けるエネルギー回収システムとしても有効に機能する。指令18bを通じて回生制動の指示を受けると,制御装置184は磁束量制御回路186を介して第一磁化の磁石数を増す方向の磁化電流を磁化制御回路5aにより励磁コイル1eに供給して第一磁化の磁石数を増すと共に第二磁化の磁石数を減じて電機子を流れる磁束量を大とし,発電電力でバッテリー188に充電させる。
電機子コイル16と鎖交する磁束量は増えるので取り出せる電力は大きく,電気二重層コンデンサ他の蓄電システムに一時的に蓄えて制動力の確保とエネルギー回収を大にする。回転電機181は駆動用電動機として用いられる体格であるので回生制動用の発電機として十分な制動力を発生できる。
本実施例はハイブリッドカーの発電機兼電動機として用いた回転電機システムであるが,電気自動車に於ける回転電機システムとする事も当然に可能である。その場合には上記実施例に於いてハイブリッドカーのエンジン182を取り除き,本発明による回転電機システムのみで電気自動車を駆動し,制動時に於けるエネルギー回収システムを構成する。
以上,本発明の回転電機システムについて,実施例を挙げて説明した。これらの実施例は本発明の趣旨,目的を実現する例を示したのであって本発明の範囲を限定するわけでは無い。例えば上記実施例に於ける回転子の磁極構成,電機子の構成,励磁部の構成等はそれぞれ組み合わせを変えて本発明の趣旨を実現する回転電機装置を構成できる事は勿論である。すなわち,第一,第二,第三実施例,第五実施例の励磁部は界磁磁石を有してその磁化状態を変更したが,第四実施例の励磁部のように電流励磁構成とする事は可能であり,第四実施例を第一,第二,第三実施例の励磁部で置き換えて構成する事も可能である。