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JP3897220B2 - リン酸カルシウム系多孔質焼結体とその製造方法 - Google Patents

リン酸カルシウム系多孔質焼結体とその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、骨補填材として使用することができるリン酸カルシウム系多孔質焼結体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、骨補填材として種々の多孔体が用いられている。アルミナなどからなる多孔体の生体内死組織となるものも考えられるが、一般に骨に置換されるリン酸カルシウム系多孔体が骨補填材として好ましい材料であることが知れている。たとえば特許第2951342号を参照。
【0003】
また、緻密体も骨補填材として用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来のリン酸カルシウム系多孔体は機械的強度が低いため、特に椎体のように大きな機械的負荷がかかる生体組織に置換することは難しい。
【0005】
また、緻密体が骨補填材として用いられるが、緻密体は機械的強度が高いものの、細胞・組織が内部に侵入することができないため、最終的には骨との機械強度の違いによって生体力学的に周囲の骨が吸収されたり、あるいは生体内の高電解質環境下で材料が劣化し破壊するなどの問題がある。とりわけ身体の上半身を支える椎体、頭部を支える頸椎などには、大きな荷重がかかり、万一事故を起こした場合には生命の危険が生じたり、寝たきりなどの重大な問題に発展することがある。そのため、材料強度を確保することが大切である。
【0006】
本発明の目的は、機械的強度が高く、細胞・組織が侵入することができるような多孔体の特徴を兼ね備えたリン酸カルシウム系多孔質焼結体とその製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の好ましい解決手段は、前掲の請求項1〜9に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体とその製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明によるリン酸カルシウム系多孔質焼結体は、骨補填材として使用することができるものであり、機械的強度が高く、細胞・組織が侵入することができるような多孔体の特徴を兼ね備えている。
【0009】
本発明によるリン酸カルシウム系多孔質焼結体の気孔率は、5%以下から85%以上まで実質的に連続して傾斜的に分布している。
【0010】
好ましくは、本発明によるリン酸カルシウム系多孔質焼結体の気孔率は、1%以下から90%以上まで実質的に連続的して傾斜的に分布している。
【0011】
いずれの場合も、気孔率の高い領域(たとえば75%以上の領域)においては、気孔間の連通部分の平均的な直径が50μm以上であり、かつ、気孔径が150μm以上であり、かつ、その三点曲げ強さが5MPa以上であるのが好ましい。 なお、「実質的に連続して」とは、境目なく気孔率が変化することを意味するが、5層以上の層構造によって徐々に気孔率を変化させるような場合も含む。
【0012】
気孔率の低い領域(たとえば10%以下の領域)においては、三点曲げ強度が30MPa以上であるのが好ましい。50MPa以上であれば特に好ましい。
【0013】
気孔率の傾斜のしかたは、外部が粗であり、内部が密であってもよいし、その逆であってもよく、また一方から反対方向に傾斜していてもよく、さらに粗密の部分が交互であってもよい。
【0014】
多孔質セラミック焼結体の好ましい構成は、CaHPO4、Ca3(PO42、Ca5(PO43OH、Ca4O(PO42、Ca10(PO46(OH)2、Ca P411、Ca(PO32、Ca227、Ca(H2PO42、Ca227、Ca(H2PO42・H2O等を主成分とする、リン酸カルシウムと称される1群の化合物からなる。Ca成分の一部がSr、Ba、Mg、Zn、Fe、Al、Y、La、Na、K、Hなどから選ばれる一種以上で置換されてもよい。また、(PO4)成分の一部が、VO4、BO3、SO4、CO3、SiO4などから選ばれる一種以上で置換されてもよい。さらに、(OH)成分の一部が、F、Cl、O、CO3等から選ばれる一種以上で置換されてもよい。
【0015】
リン酸カルシウムは、通常の結晶体のみでなく、同型固溶体、置換型固溶体、侵入型固溶体のいずれであってもよく、さらに非量論的欠陥を含むものであってもよい。
【0016】
本発明によるリン酸カルシウム系多孔質焼結体の好ましい製造方法は、リン酸カルシウム系粉末および架橋重合により硬化し得る有機物質を溶媒に分散または溶解させたスラリーを調整する工程と、このスラリーに起泡剤を添加し撹拌および/または気体導入により所定の容積まで起泡し、泡沫状態のスラリーとする工程と、泡沫状態のスラリーに架橋剤および/または架橋開始剤(硬化剤)を添加して混合し、型内に導入して架橋重合により硬化し成形体とする工程を含む。その際、回転装置などに入れて回転させることにより、密度が回転中心部で粗で、回転外縁部で密な傾斜分布を得るようにするのが好ましい。また、他の方法によって、傾斜分布をもたせることができる。
【0017】
本発明によるリン酸カルシウム系多孔質焼結体の好ましい製造方法は、得られた成形体を乾燥し、焼結する工程を具備する。
【0018】
また、本発明の好ましい実施態様によれば、リン酸カルシウム系多孔質セラミック焼結体は、焼抜き用のビーズの含有量を違えたスラリー、粉末等を緻密体の上に複数回積み重ね、成形、乾燥、焼成することによって得てもよいし、発泡の量を制御し、気孔径、量を変えたものを積み重ねて、乾燥、焼成することによって得てもよい。この場合、後者の方法がより好ましい。
【0019】
傾斜方向によってリン酸カルシウムの種類をかえてもよいが、強度の必要な部位に用いる場合は、全体をハイドロキシアパタイトとすることがよい。特に、緻密体の三点曲げ強さは、好ましくは50MPa以上であり、椎体等に適用され得るものとするのがよい。
【0020】
なお、実用的には、一方向の傾斜でなく、2方向、3方向以上の傾斜にした方がよい。椎体などは、中心部が緻密体で表面に向かって多孔体となる構造が好ましい。
【0021】
本発明によるリン酸カルシウム系多孔質焼結体の好ましい適用例は、次のとおりである。
【0022】
(1)骨伝導能をもつ生体骨置換型骨再建材としての利用法。
【0023】
(2)粗鬆症・骨欠損の補填材としての利用法。
【0024】
(3)プリオン(低分子量タンパクに起因するヤコブ病)などの疾病対策として頭蓋骨に利用できる人工硬膜。
【0025】
(4)アミノ酸・糖質・サイトカインを含み組織工学に用いられる生理活性基材。
【0026】
(5)抗癌剤などの生体融和型薬剤徐放性基材。
【0027】
(6)幹細胞や肝臓組織などの培養容器。
【0028】
(7)飲料水や発酵した飲み物などのフィルターとしての用途。
【0029】
(8)吸着・分離に用いるカラム材料。
【0030】
さらに本発明を別の観点から説明する。
【0031】
気孔率0.1%以上から99.9%以下で傾斜的に分布しているリン酸カルシウム系 多孔質焼結体が好ましい。気孔率の高い領域においては、細胞・生体組織が浸入しやすい気孔径(150μm以上、導通径50μm以上)をもち、その三点曲げ強度が 5MPa以上であることが好ましい。気孔率の低い領域においては、外部が粗く、強度が高く、三点曲げ強度が30MPa以上であることが好ましい。気孔率の傾斜は、外部が粗であり内部が密であってもよいし、その逆であってもよく、また一方から反対方向に傾斜ていてもよく、さらに粗密の部分が交互であってもよい。
【0032】
本発明においては、気孔率が傾斜的に分布することにより、気孔率が密の領域では機械的強度が高く、術後2〜3ヶ月までの初期において材料にかかる荷重を支えることができる。また、気孔率が粗な領域では、細胞・組織が内部に浸入するため術後3ヶ月以降から生体組織にきわめて近い状態になり強度が上がり荷重を 支えることができる。
【0033】
主な用途は、骨誘導および骨伝導能をもつ生体骨置換型骨再建材、骨粗しょう症・骨欠損の補填材、アミノ酸・糖質・サイトカインをふくみ組織工学に用いられる生理活性基材、抗癌剤などの薬剤徐放性基材、幹細胞や肝臓組織などの培養容器である。飲料水や発酵した飲み物などのフィルターとしての用途もある。吸着・分離に用いるカラム材料としても使用できる。
【0034】
代表的な製造方法においては、原料である水酸アパタイト粉末(100g)をイ オン交換水(80g)に懸濁し、架橋重合剤(ポリエチレンイミン:数平均分子量8000〜10500)を加えてボールミルで5時間混合する。得られたスラリー(192g)に起泡剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル:非イオン性界面活性剤、O.8 g)を添加し機械的にかく拌して300cm3になるまで起泡する。これに、架橋剤(エポキシ化合物:ソルビトールポリグリシジルエーテル、4g)を添加し十分 にかく拌し、円筒型内に導入する。回転台の上に載せ60rpmで回転することにより泡の分布を傾斜的にする。架橋重合により流動性を失いバンドリングが可能な強度がでた時点で脱型し、加湿乾燥器および乾燥器により十分に乾燥し1200℃で焼結する。
【0035】
得られる水酸アパタイト多孔質焼結体は、円筒内側において気孔率60%、平均気孔径200μm、平均連通径70μm、三点曲げ強度15MPaであり、また周辺 部においては気孔率20%、平均気孔径50μm、平均連通径20μm、三点曲げ強度45MPaである。
【0036】
【実施例】
以下、本発明の好ましい実施例を説明する。
【0037】
実施例1(遠心力利用)
水酸アパタイト粉末100重量部、イオン交換水58.0重量部に懸濁し、架橋重合剤(ポリエチレンイミン)8.7重量部を混合し、ボールミルで一昼夜混合粉砕してスラリーを調整した。このスラリーを195g取り出し、これに起泡剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルを1.5g添加し攪拌により起泡して体積を200cm3とした。ここで硬化剤としてソルビトールポリグリシジ ルエーテルを2.9g添加し十分混合した後に、内寸直径46mm、長さ100mmの型に鋳込み、型長手方向を水平にした状態で円柱回転軸を中心に400rpmの回転速度で回転させ、この状態で1時間放置し、回転を停止した。さらに1時間静置した後に脱型し、ゆっくり乾燥した後、1200℃で2時間保持して焼結し、直径30mm、長さ65mmの円柱状の焼結体を得た。
【0038】
得られた焼結体の円中心からの距離と気孔率の関係を表に示す。なお、気孔率は試料を樹脂中に包埋後研磨した部分を顕微鏡観察し、観察範囲における樹脂部分つまり気孔部分の面積比を用いて求めた。
【0039】
【表1】
Figure 0003897220
さらに、顕微鏡観察により気孔率72%を示した円中心部からの距離6mm以下の部分においては気孔間の連通部分の平均的な直径が50μmを超えており、気孔径は150μmを超えていた。また、気孔率の低い円柱表面部分より、厚さ3mm、幅4mm、長さ40mmの三点曲げ強度測定用試験片を作製し、スパン30mm、クロスヘッド速度0.5mm/minの測定条件で三点曲げ強さを測定したところ、n=5平均の三点曲げ強さが、80.5MPaであった。
【0040】
実施例2(積層法)
水酸アパタイト粉末100重量部、イオン交換水58重量部、ポリエチレンイミン8.7重量部を混合し、ボールミルで一昼夜混合粉砕してスラリーAを調整した。このスラリーAに対して、実施例1と同じ要領で硬化剤を加えて混合した後に内径16mmの型に鋳込んで円柱状成形体Aを得た。次いで、スラリーAに起泡剤を添加し、さらに攪拌して起泡させた後に硬化剤を添加して混合し、スラリーBを調整した。このスラリーを前述の円柱状成形体Aを中心に置いた内径22mmの型と成形体Aの間に鋳込んで、成形体Aの円柱表面にスラリーBが3mmの厚さで固化して接着した円柱状成形体を得た。さらに、この円柱状成形体の表面に同様にして別の起泡させたスラリーを鋳込み、固化して接着させる作業を繰り返した。最終的に成形体Aを中心にして同心円状に5層の成型物が積層した外径46mmの成形体を得た。それぞれの成型物の層は、成形体Aから外周方向に向かう順に、焼結体の気孔率がそれぞれ10%、30%、50%、70%および90%となるように起泡量を調整して作製した。この積層した円柱状成形体をゆっくり乾燥した後、1200℃で2時間保持して焼結し、直径30mmで積層構造が一体化した円柱状焼結体を得た。得られた円柱状焼結体は、中心の直径約10mmの部分が気孔率0%の緻密体であり、実施例1と同様に求めた積層部分の気孔率は、中心から外周方向に向けてそれぞれ12%、33%、52%、71%、および91%であった。
【0041】
【発明の効果】
気孔率が傾斜的に分布することにより、気孔が粗の部分は機械的強度が高く、術後2〜3ヶ月の初期において生体内でかかる荷重を支えることができる。
【0042】
また、気孔が密な部分は、細胞・組織が内部に侵入することができ、生体組織にきわめて近い状態になり、術後徐々に強度が向上して荷重を支えることができる。
【0043】
術後2〜3ヶ月の期間で多孔体の内部に骨組織が侵入して強度を向上する。
【0044】
とくにアパタイト単体で緻密質から多孔質へ徐々に気孔率が変化する場合、徐々に気孔率が変化することにより次のような顕著な効果が得られる。
【0045】
気孔率が徐々に変化すると、人工骨として用いた場合、表面から徐々に自分の骨に置換される時、気孔率の大きいところ(弱いところ)から置換され、より緻密な方向へ進む。そのため、毎日強度の向上が見られる。これに対して、全体を一定気孔率の多孔質とした場合、一定気孔の部分全体が置換されないと、強度向上が望めない。
【0046】
また、徐々に気孔率を変化させると、最も外側(表面)の気孔率を十分大きくすることができる。よって早く骨に置換され、骨の固定も早い。

Claims (9)

  1. 気孔率が5%以下から85%以上まで実質的に連続して傾斜的に分布しており、
    気孔率の高い領域においては、気孔間の連通部分の平均的な直径が50μm以上であり、気孔径が150μm以上であり、かつ、三点曲げ強度が5MPa以上であり、
    気孔率の低い領域においては、三点曲げ強度が30MPa以上であること
    を特徴とするリン酸カルシウム系多孔質焼結体。
  2. 気孔率の低い領域において、三点曲げ強度が50MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体。
  3. 気孔率の傾斜は、外部が低く、内部が高ことを特徴とする請求項1又は2に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体。
  4. リン酸カルシウム系多孔質焼結体は、CaHPO4、Ca3(PO42、Ca5(PO43OH、Ca4O(PO42、Ca10(PO46(OH)2、CaP411、Ca(PO32、Ca227、Ca(H2PO42、Ca227、Ca(H2PO42・H2Oの少くとも1つの成分を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体。
  5. Ca成分の一部が、Sr、Ba、Mg、Zn、Fe、Al、Y、La、Na、K、Hから選ばれる一種以上で置換されていることを特徴とする請求項4に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体。
  6. (PO4)の成分の一部が、VO4、BO3、SO4、CO3、SiO4から選ばれる一種以上で置換されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体。
  7. (OH)成分の一部が、F、Cl、O、CO3から選ばれる一種以上で置換されていることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体。
  8. リン酸カルシウム系粉末および架橋重合により硬化し得る有機物質を溶媒に分散または溶解させたスラリーを調整する工程と、このスラリーに起泡剤を添加し、撹拌および気体導入の少なくとも一方により所定の容積まで起泡し、泡沫状態のスラリーとする工程と、泡沫状態のスラリーに架橋剤および架橋開始剤の少なくとも一方を添加して混合し、型内に導入して、回転させ、回転により、密度が、回転中心部で粗となり、回転外縁部で密となって、傾斜分布を得た状態で硬化させ、気孔率が連続して傾斜的に分布した成形体とする工程を含むことを特徴とするリン酸カルシウム系多孔質焼結体の製造方法。
  9. 成形体を乾燥し、焼結する工程を具備することを特徴とする請求項8に記載のリン酸カルシウム系多孔質焼結体の製造方法。
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