JP2007236803A - インプラント複合材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】関節骨軟骨障害等の治療や靱帯の骨関節付着部の補強などに使用される、生体骨組織との結合性、再建性に優れたインプラント複合材料を提供する。
【解決手段】生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの緻密質複合体1の表層部の一面又は全面に、生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの連続気孔質複合体2を積層一体化した構成のインプラント複合材料10とする。連続気孔質複合体2は速やかに加水分解して短期間で生体(軟)骨組織と結合しつつ該組織に置換して消失し、緻密質複合体1はある程度の期間、強度を維持して、最終的には生体(軟)骨組織に置換して消失し、これにより組織再建が行われる。
【選択図】図1
【解決手段】生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの緻密質複合体1の表層部の一面又は全面に、生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの連続気孔質複合体2を積層一体化した構成のインプラント複合材料10とする。連続気孔質複合体2は速やかに加水分解して短期間で生体(軟)骨組織と結合しつつ該組織に置換して消失し、緻密質複合体1はある程度の期間、強度を維持して、最終的には生体(軟)骨組織に置換して消失し、これにより組織再建が行われる。
【選択図】図1
Description
本発明は、股関節の大腿骨頭壊死、膝関節の膝骨頭壊死などの関節骨軟骨障害の治療や、靱帯の骨関節付着部の補強などに用いられるインプラント複合材料に関する。
従来、大きく破壊、損傷した硬骨、軟骨部分の再建、再生あるいは補強のために、再生医療の諸技術が検討されている。そして、本質的に、ある形を持った損傷部位の再建には、組織の再生が完了するまでの期間、外部からの力学的負荷や、細胞学的、生理学的侵襲を避けて、求められる形を形成、維持させて、再建を完成させるための足場(Scaffold)が必要であることは広く認識されている。
現在、股関節や膝関節などの関節骨軟骨に異常があり該軟骨を修復、再生、再建する必要がある場合に使用される足場材料について、種々のアイデアが示されている。しかしながら、関節骨頭の壊死部の治療、再建や、靱帯の骨関節付着部を強化するための足場となるに足り得るものは、材料学的な困難さから、いまだ開発されていない。理由は、それが用いられる部位が、異質の機能と物質からなり、軟骨と硬骨が動きを伴って接触する非連続的骨結合部位である境界面、即ち、関節の位置に適用すべき足場であるからである。
斯かる、足場の開発策の一つとして、軟骨代替物と硬骨代替物を組み合わせて一体化した補綴材料を作製し、関節頭骨の部分には硬骨代替物を、関節軟骨の部分には軟骨代替物を埋入、固定することが考えられる。しかし、この両方の代替物が一体物でなく、別々の分かれたものの組み合わせから成る場合は、軟骨と硬骨の組織の連続的な接続的移行の形態が得られず、また、関節の稼動時に、両者が剥離する問題が生ずる。したがって、関節部位に用いるに値する足場材料は、硬骨に納まる部位は硬骨と生体組織学的、力学的によく親和性を持ち、軟骨に納まる部位は軟骨と生体組織学的、力学的によく親和性を持つことにより、可動界面である骨関節に在って、脱転しないように安定に保たれるものでなければならない。
この場合、目的とする補綴材が金属や、セラミック、ポリマーなどの生体内で非吸収性であれば、経時的に生体組織と置き換わらず、長期埋入時に感染や、機械的な故障のような問題発生の危惧を抱え続ける。それゆえ、生体組織と置き換わりつつ、形を再建しながら、ついには、自らは生体内に分解吸収され、消失する、生体活性と生体内分解吸収性を合わせ持つ必要がある。そして、緻密質と多孔質の部分の両方の形態を同時に共有し、しかも、軟骨側を代替する多孔質の部分は、軟骨表面に近いほど、高開放率であり、硬骨を代替する緻密質の部分は、緻密質に埋入している部分ほど、低開放率であることが、力学的にも、生理学的にも望ましい。
すなわち、関節骨軟骨障害等の治療、再建の足場は、多孔質部は細胞が速やかに侵入し、足場の分解に伴って軟骨組織が表層部に誘導形成されて生体組織と交換し、緻密層は分解されるまでのある程度の期間、硬骨を伝導、密着して、十分な強度を維持するが、最終的には全て分解されて硬骨組織と完全置換するような材料の開発が求められる。
ところで、本発明者は、海綿骨の表層(外側)に皮質骨を備えた生体骨の欠損部分を修復、再建するインプラント材料として、その内部に連続気孔を有し且つ生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーよりなる立体状の多孔体の表面の一部に、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーよりなる緻密質な表皮層を重ねて一体化した人工骨を既に提案した(特許文献1)。
このインプラント材料は、上記生体骨の内層部の海綿骨欠損部分に充当して立体状の多孔体を埋入し、表層部の皮質骨欠損部分に充当して緻密質な表皮層を埋入するものである。これは自家移植(autograft)骨片、同種移植(allograft)骨片の代替材料として好適に使用される人工骨である。けれども、異質の機能と物質からなり、軟骨と硬骨が動きを伴って接触する非連続的骨結合部位である境界面、即ち、関節の位置に適応すべき足場として相応しいものでない。
特開2004−121301号公報
本発明は上記事情の下になされたもので、股関節や膝関節などの関節骨軟骨に異常があり該軟骨を修復、再生、再建する必要がある場合、つまり関節骨頭の壊死部の治療、再建や、靱帯の骨関節付着部を強化する場合に使用される一時的補綴・足場材料として、当該医療分野で希求されている上述の物性ないし機能を備えて骨関節に安定的に埋入固定できるインプラント複合材料を提供することを解決課題としている。
上記の課題を解決するため、本発明のインプラント複合材料は、生体内吸収性、かつ、生体活性なインプラント材料であって、生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの緻密質複合体の表層部の一面又は全面に、生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの連続気孔質複合体を積層一体化したことを特徴とするものである。
本発明のインプラント複合材料においては、連続気孔質複合体の気孔率が、50〜90%の範囲内で、連続気孔質複合体の深層部から表面に近づくほど高くなるように順次連続的に変化していることが好ましい。そして、連続気孔質複合体のバイオセラミックス粉体の含有率が、30〜80質量%の範囲内で、連続気孔質複合体の深層部から表面に近づくほど高くなるように順次連続的に変化していることが好ましい。また、連続気孔質複合体には、生物学的骨成長因子であるBMP(Bone Morphogenic Protein)、TGF−β(Transforming Growth Factor-b)、EP4(Prostanoid Receptor)、b−FGF(basic Fibroblast Growth Factor)、PRP(platelet-rich plasma)などのいずれか少なくとも一種、及び/又は、生体由来の骨芽細胞が含浸されていることが好ましい。
このような本発明のインプラント複合材料は、関節骨軟骨障害の治療、再生又は靱帯の骨関節付着部の再建もしくは補強に用いられ、関節頭と関節軟骨が接している膝、股、足、肩、肘、脊椎(頚椎、腰椎)などの関節部に一時的な補綴材、足場および生物学的骨形成因子の除放のための担持体として適用される。
本発明のインプラント複合材料は、連続気孔質複合体が、その表面に接触する体液や連続気孔に浸透する体液によって表面と内部から速やかに加水分解され、この加水分解に伴って骨組織が生体活性なバイオセラミックス粉体が引き金となって連続気孔質複合体の内部まで誘導形成されて、比較的短期間で(軟)骨組織と置換する。一方、緻密質複合体は、硬くて強度があり、加水分解が連続気孔質複合体よりも遥かに遅く、加水分解がある程度進行するまでの期間、十分な強度を維持し、最終的には全てが分解されて、生体活性なバイオセラミックス粉体により生体骨が伝導形成されて、骨組織と置換する。そして、連続気孔質複合体や緻密質複合体に含まれるバイオセラミックス粉体は生体内吸収性であるため、置換、再生された(軟)骨組織に残存、堆積することはない。また、軟組織や血管内に浸出することもない。このように、本発明のインプラント複合材料は、関節骨軟骨障害の治療などに使用される足場材料として要求される物性ないし機能を有するものであるため、例えば、緻密質複合体の表層部の一面に連続気孔質複合体を積層一体化したインプラント複合材料を、関節骨頭の壊死部を切除した部分に連続気孔質複合体が関節骨頭表面の軟骨側となるように埋入固定すると、連続気孔質複合体が早期に誘導形成された軟骨組織と全置換して消失すると共に、強度を有する緻密質複合体も最終的には伝導形成された硬骨組織と全置換して消失し、バイオセラミックス粉体も完全に吸収されて、関節骨頭の壊死した硬骨部分と軟骨部分が再生される。また、緻密質複合体の表層部の全面に連続気孔質複合体を積層一体化したインプラント複合材料を関節骨頭の切除部分に埋入すると、上記の作用効果に加えて、切除部分の硬骨と接する連続気孔質複合体に硬骨組織が速やかに誘導形成され、インプラント複合材料が短期間で関節骨頭の切除部分と結合して固定される。
そして、連続気孔質複合体の気孔率が、50〜90%の範囲内で、連続気孔質複合体の深層部から表面に近づくほど高くなるように順次連続的に変化しているインプラント材料は、気孔率の高い連続気孔質複合体の表面側に体液や骨芽細胞が一層侵入しやすくなり、加水分解や(軟)骨組織の誘導形成が速やかに行われるので、より早期に生体(軟)骨と結合し、再生されるようになる。一方、連続気孔質複合体のバイオセラミックス粉体の含有率は、連続気孔質複合体の全体に亘って一定していてもよいが、30〜80質量%の範囲内で連続気孔質複合体の深層部から表面に近づくほど高くなるように順次連続的に変化していることが好ましい。このように連続気孔質複合体のバイオセラミックス粉体の含有率が傾斜したインプラント複合材料は、バイオセラミックス粉体の比率が高い連続気孔質複合体の表面側の生体活性が高くなるため、表面側への骨芽細胞や骨組織の誘導形成が特に活発となり、(軟)骨組織との置換が一層促進される。更に、連続気孔質複合体に生物学的骨成長因子であるBMP、TGF−β、EP4、b−FGF、PRPの少なくとも一種、及び/又は、生体由来の骨芽細胞が含浸されているインプラント複合材料は、骨芽細胞の増殖、成長が大幅に促進されるため、(軟)骨組織の形成が旺盛になり、一層速やかに再生される。
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
図1は本発明に係るインプラント複合材料の一実施形態を示す斜視図、図2は同インプラント複合材料の一使用例の説明図である。
このインプラント複合材料10は、緻密質複合体1の表層部の一面(この実施形態では上面)に、連続気孔質複合体2を積層一体化したものである。
緻密質複合体1は、生体内吸収性かつ生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーからなる緻密質なブロック状の複合体であり、この実施形態では円柱状に形成されているが、埋入されるべき関節部位に応じて、四角柱状、楕円柱状、平板状その他の種々の形状となし得るものである。また、緻密質複合体1の大きさも限定されるものではなく、埋入される関節部位に適合した大きさとすればよい。
この緻密質複合体1は、関節骨の硬骨と同等もしくはそれ以上の大きい強度が要求されるものであるから、原料の生体内分解吸収性ポリマーとしては、結晶性のポリ−L−乳酸やポリグリコール酸などが好ましく使用され、特に、粘度平均分子量が15万以上、好ましくは20万〜60万程度のポリ−L−乳酸を用いた緻密質複合体1は好適である。
この緻密質複合体1に含有させるバイオセラミックス粉体としては、生体活性があり、生体内吸収性で生体に全吸収されて骨組織と完全に置換され、良好な骨伝導(誘導)能と良好な生体親和性を有する、未仮焼かつ未焼成のハイドロキシアパタイト、ジカルシウムホスフェート、トリカルシウムホスフェート、テトラカルシウムホスフェート、オクタカルシウムホスフェート、カルサイト、セラバイタル、ジオプサイト、天然珊瑚等の粉体が好ましく使用される。その中でも、未仮焼かつ未焼成のハイドロキシアパタイト、トリカルシウムホスフェート、オクタカルシウムホスフェートは、生体活性が極めて高く、骨伝導能に優れ、為害性が低く、短期間で生体に吸収されるので、最適である。これらのバイオセラミックス粉体は、生体内分解吸収性ポリマーへの分散性や生体への吸収性を考慮すると、30μm以下、好ましくは10μm以下、更に好ましくは0.1〜5μm程度の粒径を有するものが使用される。なお、バイオセラミックス粉体の含有率については後で説明する。
上記の緻密質複合体1は、バイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーを円柱状その他の所定形状に射出成形したり、或いは、バイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの成形塊を円柱状その他の所定形状に切削加工するなどの方法によって作製される。特に、後者の方法において圧縮成形や鍛造成形の手段によりポリマー分子や結晶を配向させた成形塊を造り、これを切削加工して得られる緻密質複合体1は、圧縮されて緻密の程度が高く、ポリマー分子や結晶が三次元に配向して強度が一段と大きくなるため、極めて好適である。その他、延伸成形した成形塊を切削加工して得られる緻密質複合体も使用される。
一方、連続気孔質複合体2は、内部に連続気孔を有し、生体内吸収性かつ生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーからなる多孔体であって、この連続気孔質複合体2の表面や連続気孔の内面にはバイオセラミックス粉体が一部露出している。この実施形態の連続気孔質複合体2は、円柱状の緻密質複合体1に合致するように円板状に形成されているが、緻密質複合体の形状に応じて方形板状や楕円板状など種々の形状となし得るものである。また、連続気孔質複合体2の厚さは緻密質複合体1よりも薄ければ特に限定されるものではないが、(軟)骨組織の誘導形成や生体(軟)骨との結合性を考慮すると、0.5〜15mm程度であることが好ましい。そして、これらの厚みが場所によって凹凸状に起伏していてもよい。
この連続気孔質複合体2は、緻密質複合体1のような大きい強度が必要でなく、軟骨程度の強度と柔軟性があれば足るものであり、且つ、速やかに分解して生体(軟)骨との結合や全置換が早期に行われることが必要なものであるから、連続気孔質複合体2の原料となる生体内分解吸収性ポリマーとしては、安全で、分解が速く、あまり脆くない、非晶質もしくは結晶と非晶の混在したポリ−D,L−乳酸、L−乳酸とD,L−乳酸の共重合体、乳酸とグリコール酸の共重合体、乳酸とカプロラクトンの共重合体、乳酸とエチレングリコールの共重合体、乳酸とパラ−ジオキサノンの共重合体などが適しており、これらは単独で、或いは二種以上混合して使用される。これらの生体内分解吸収性ポリマーは、連続気孔質複合体2に要求される強度や生体内での分解吸収の期間などを考慮すると、5万〜60万程度の粘度平均分子量を有するものが好ましく使用される。
上記の連続気孔質複合体2は、物理的な強度、骨芽細胞の侵入及び安定化などを考慮すると、その気孔率が50〜90%、好ましくは60〜80%で、連続気孔が気孔全体の50〜90%、好ましくは70〜90%を占め、連続気孔の孔径が50〜600μm、好ましくは100〜400μmであることが望ましい。気孔率が90%を上回り、孔径が600μmより大きくなると、連続気孔質複合体2の物理的な強度が低下して脆くなる。一方、気孔率が50%を下回ると共に連続気孔が気孔全体の50%を下回り、孔径が50μmよりも小さくなると、体液や骨芽細胞の侵入が困難になり、連続気孔質複合体2の加水分解や骨組織の誘導形成が遅くなって、生体骨との結合や(軟)骨組織との全置換に要する時間が長くなる。ただし、上記の好適な孔径と併存して1〜0.1μmのサブミクロン程度微細な連続気孔が存在すると、骨誘導性が発現されることが見出されている。
連続気孔質複合体2の気孔率は、該複合体の全体に亘って一定していてもよいが、生体(軟)骨との結合性や伝導・誘導形成を考慮すると、図3に示すように、連続気孔質複合体2の深層部から表面に近づくほど気孔率が高くなるように順次連続的に変化していることが好ましい。このように気孔率が傾斜した連続気孔質複合体2では、気孔率が50〜90%の範囲内、好ましくは60〜80%の範囲内で、深層部から表面に向かって順次連続的に高くなり、連続気孔の孔径が100〜400μmの範囲内で、深層部から表面に向かって順次大きくなっていることが望ましい。かかる連続気孔質複合体2は、その表面側の加水分解が速く、骨芽細胞の侵入、(軟)骨組織の誘導形成が活発で、早期に生体骨と結合するため、インプラント材料の埋入初期の生体(軟)骨との結合性及び置換性の更なる向上を図ることができる。
この連続気孔質複合体2に含有させるバイオセラミックス粉体は、前述の緻密質複合体1に含有させるバイオセラミックス粉体と同じものが使用されるが、特に、0.1〜5μm程度の粒径を有するバイオセラミックス粉体は、後述する方法で連続気孔質複合体を作製する際にスプレー等の手段で形成される繊維を短く切断する心配がなく、また、生体への吸収性も良好であるため、好ましく使用される。
連続気孔質複合体2のバイオセラミックス粉体の含有率は、連続気孔質複合体2の全体に亘って一定していてもよいし、変化していてもよい。含有率が一定している前者の場合、バイオセラミックス粉体の含有率は60〜80質量%であることが好ましい。80質量%を上回ると、連続気孔質複合体2の気孔率が高いことと相俟って、連続気孔質複合体2の物理的強度の低下を招くという不都合が生じ、60質量%を下回ると、連続気孔質複合体2の生体活性が低下するため、(軟)骨組織の誘導形成が遅くなって、生体(軟)骨との結合や全置換に時間がかかり過ぎるという不都合が生じる。バイオセラミックス粉体の更に好ましい含有率は、60〜70質量%である。
一方、含有率が変化する後者の場合、連続気孔質複合体2のバイオセラミックス粉体の含有率は、緻密質複合体1のバイオセラミックス粉体の含有率よりも高く、且つ、30〜80質量%の範囲内で、連続気孔質複合体2の深層部から表面に近づくほど高くなるように順次連続的に変化していることが好ましい。即ち、連続気孔質複合体2の深層部から表面に近づくにつれて、バイオセラミックス粉体/生体内分解吸収性ポリマーの質量比率が、緻密質複合体1における該質量比率よりも大きく、且つ、30/70〜80/20の範囲内で順次連続的に大きくなるように変化していることが好ましい。このようにバイオセラミックス粉体の含有率が傾斜した連続気孔質複合体2は、含有率の高い表面側の生体活性が大きく、表面側への骨芽細胞や(軟)骨組織の誘導形成が特に活発で、早期に生体(軟)骨と結合しつつ置換される。
これに対し、緻密質複合体1のバイオセラミックス粉体の含有率は、連続気孔質複合体2のバイオセラミックス粉体の含有率よりも低く、且つ、30〜60質量%の範囲内であることが好ましい。60質量%を上回ると、強度の要求される緻密質複合体1が脆弱化して強度不足を招き、30質量%を下回ると、バイオセラミックス粉体による骨伝導形成が不充分になって(軟)骨組織と全置換するのに長期間を要するといった不都合が生じる。このバイオセラミックス粉体の含有率は、上記のように連続気孔質複合体2における含有率よりも低く、且つ、30〜60質量%の範囲内で、緻密質複合体1の全体に亘って一定していてもよいし、また、緻密質複合体1の中心部から周囲の表層部に向かって、もしくは、緻密質複合体1の底面側から上面側に向かって、順次高くなるように連続的に変化していてもよい。このようにバイオセラミックス粉体の含有率が傾斜した緻密質複合体1は、含有率の低い中心部や底面側が強度を保持したまま、含有率の高い周囲の表層部や上面側に(軟)骨組織が伝導形成され、やがては全置換される。
なお、緻密質複合体1と連続気孔質複合体2の双方のバイオセラミックス粉体の含有率を傾斜させる場合は、緻密質複合体1の底面側から連続気孔質複合体2の上面に近づくほどバイオセラミックス粉体の含有率が高くなるように、或いは、緻密質複合体1の中心部から連続気孔質複合体2の上面と緻密質複合体1の側面及び底面に近づくほど含有率が高くなるように、30〜80質量%の範囲内で順次連続的に変化させることが好ましい。
この連続気孔質複合体2には、生物学的骨成長因子であるBMP(Bone Morphogenic Protein)、TGF−β(Transforming Growth Factor-b)、EP4(Prostanoid Receptor)、b−FGF(basic Fibroblast Growth Factor)、PRP(platelet-rich plasma)などの少なくとも一種、及び/又は、生体由来の骨芽細胞を含浸させることが好ましい。これらの生物学的骨成長因子や骨芽細胞を含浸させると、骨芽細胞の増殖、成長が大幅に促進され、極く短期間(1週間程度)で連続気孔質複合体2の表面側に(軟)骨組織が形成されるようになり、その後すみやかに連続気孔質複合体2の全体が(軟)骨組織と全置換されて生体(軟)骨が修復、再建される。上記の因子のうち、TGF−β、b−FGFは軟骨の成長に特に有効であり、BMP、EP4は硬骨の成長に特に有効であるから、再生すべき生体骨が軟骨の場合はTGF−βやb−FGFを、再生すべき生体骨が硬骨の場合はBMPやEP4を含浸させることが好ましい。また、PRPは、血小板が豊富に濃縮された血漿であり、これを添加すると、新生骨の形成が促進される。なお、場合によっては、IL−1、TNF−α、TNF−β、IFN−γなどの他の成長因子や薬剤を含浸させてもよい。
また、この連続気孔質複合体2の表面には、コロナ放電、プラズマ処理、過酸化水素処理などの酸化処理を施してもよく、このような酸化処理を施すと、連続気孔質複合体2の表面の濡れ特性が改善され、骨芽細胞が該複合体2の連続気孔内に一層効果的に侵入して成長するため、生体(軟)骨との結合や全置換が更に促進される利点がある。このような酸化処理は、緻密質複合体1の表面に施しても勿論よい。
上記の連続気孔質複合体2は、例えば、次の方法で作製される。まず、揮発性溶媒に生体内分解吸収性ポリマーを溶解すると共に、バイオセラミックス粉体を混合して懸濁液を調製し、この懸濁液をスプレー等の手段で繊維化して繊維の絡み合った繊維集合体を形成する。そして、この繊維集合体を、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロロエタン(メタン)、クロロホルムなどの揮発性溶剤に浸漬して膨潤または半溶融状態とし、これを加圧して図1に示すような円板状の多孔質の繊維融着集合体となし、この繊維融着集合体の繊維を収縮、融合させながら実質的に繊維状の形態を消失させてマトリクス化し、繊維間空隙が丸みを有する連続気孔となった連続気孔質複合体に形態変化させて作製する。
この方法で気孔率が深層部から上面に近づくほど高くなる連続気孔質複合体を作製する場合は、繊維集合体を上記の揮発性溶剤に浸漬して膨潤又は半溶融状態とし,これを加圧して多孔質の繊維融着集合体とする際に、深層部から上面に近づくほど繊維集合体の量を少なくすればよい。また、バイオセラミックス粉体の含有率が深層部から上面に近づくほど高くなる連続気孔質複合体を作製する場合は、バイオセラミックス粉体の混合量が異なる数種類の懸濁液を調製して、バイオセラミックス粉体の含有率が異なる数種類の繊維集合体を形成し、これらの繊維集合体をバイオセラミックス粉体の含有率が低いものから順々に重ねて膨潤又は半溶融状態として加圧すればよい。
図1に示すインプラント複合材料10は、上記の円板状の連続気孔質複合体2を前記の円柱状の緻密質複合体1の上面に重ねて、例えば熱溶着等の手段により、積層一体化したものである。緻密質複合体1と連続気孔質複合体2を積層一体化する手段は熱溶着に限定されるものではなく、例えば、接着により一体化したり、緻密質複合体1と連続気孔質複合体2との接触面のいずれか一方にアリ溝を、他方にアリを形成して、このアリをアリ溝に嵌着させるなどの手段によって一体化してもよい。
以上のようなインプラント複合材料10を用いて、例えば膝骨頭壊死などの関節骨軟骨障害を治療する場合は、図2に示すように、膝骨頭の壊死部分を切除して、その切除部分3にインプラント複合材料10の緻密質複合体1(好ましくは硬骨の成長に有効なBMP、EP4あるいはPRPを含有させたもの)を埋入固定し、連続気孔質複合体2(好ましくは軟骨に有効な生物学的成長因子であるTGF−β、b−FGFを含有させたもの)を軟骨4側にして面一にそろえる。このようにインプラント材料10を埋入すると、連続気孔質複合体2が、その表面に接触する体液や内部の連続気孔に浸透する体液によって表面と内部から速やかに加水分解が進行し、生体活性なバイオセラミックス粉体によって、軟骨4と接する連続気孔質複合体2の周側面に軟骨組織が極く短期間で誘導形成されて、連続気孔質複合体2と軟骨4が結合し、その後すみやかに連続気孔質複合体2の全体が軟骨組織と全置換されて消失する。一方、緻密質複合体1は、加水分解がある程度進行するけれども、連続気孔質複合体2が軟骨組織に置換される頃までは十分な強度を維持し、その後、更に加水分解が進行するのに伴って、膝関節頭の硬骨組織がバイオセラミックス粉体の骨伝導能により緻密質複合体1の内部へ伝導形成され、最終的には硬骨組織と置換されて消失する。そして、これら連続気孔質複合体2や緻密質複合体1に含まれていたバイオセラミックス粉体も、完全に吸収されて消失する。これによって、膝関節骨軟骨障害部分は完全に修復、再建される。
図4は、本発明の他の実施形態に係るインプラント複合材料の断面図である。
このインプラント複合材料11は、緻密質複合体1の表層部の全面、即ち、上面、側面、底面のすべてに連続気孔質複合体2を積層一体化したものである。緻密質複合体1や連続気孔質複合体2は、前述したインプラント複合材料10のそれらと同様の構成であるから、説明を省略する。
このようなインプラント複合材料11は、上述したインプラント材料10の作用効果に加えて、緻密質複合体1を関節骨の切除部分に埋入したとき、緻密質複合体1の側面や底面に積層一体化された連続気孔質複合体2に硬骨組織が伝導形成され、極く短期間で関節骨の切除部分の内面と結合して固定される利点がある。
図5は、本発明の更に他の実施形態に係るインプラント複合材料の断面図である。
このインプラント複合材料12は、角柱状の緻密質複合体1の表層部の上面と下面に、これより薄い方形板状の連続気孔質複合体2を積層一体化したものである。緻密質複合体1や連続気孔質複合体2は、前述したインプラント複合材料10のそれらと同様の構成であるから、説明を省略する。
このようなインプラント複合材料12は、例えば、図6に示すように、脊椎、腰椎、頸椎などの関節部の椎骨間にスペーサとして挿入される。このように挿入すると、上下の椎骨5,5と接する連続気孔質複合体2,2は速やかに加水分解し、上下の椎骨5,5から骨組織が連続気孔質複合体2,2の表層部に伝導形成されて、短期間で結合されるため、インプラント複合材料12が関節部から脱転することはない。そして、連続気孔質複合体2,2は早期に骨組織と全置換して消失し、緻密質複合体1はある程度の期間、強度を維持するが、その後、骨組織の伝導形成が進行し、最終的には骨組織と全置換して消失する。
上記のように椎骨間にスペーサしとて挿入されるインプラント複合材料12は、連続気孔質複合体2,2の厚みが大きくなると、連続気孔質複合体2,2が上下から圧縮されて椎骨5,5の上下間隔が小さくなる恐れがあるので、連続気孔質複合体2,2の厚みは0.1〜2.0mm程度と薄くするのがよい。また、このような恐れを完全になくすためには、このインプラント複合材料12を90度回転させて緻密質複合体1の左右両側に連続気孔質複合体2,2を位置させた状態で椎骨5,5間に挿入すれば良い。このようにすると、緻密質複合体1によって上下の椎骨5,5の間隔を確実に保ったまま、左右両側の連続気孔質複合体2,2の上下端面により上下の椎骨5,5と早期に橋渡し状態で結合してインプラント複合材料12の脱転を防止することができる。
図7は、本発明の更に他の実施形態に係るインプラント複合材料の断面図である。
このインプラント複合材料13も、脊椎、腰椎、頸椎などの関節部の椎骨間にスペーサとして挿入されるものであって、緻密質複合体1の表層部の上面と下面に鋸歯状の突部1aを形成し、この突起1aと突起1aの間の凹部に連続気孔質複合体2が充填されるように、緻密質複合体1の上面と下面に連続気孔質複合体2を積層一体化したものである。緻密質複合体1や連続気孔質複合体2は、前述したインプラント複合材料10のそれらと同様の構成であるから、説明を省略する。
このようなインプラント複合材料13を、突起1aの傾斜面が先方となる向きにして椎骨間に挿入すると、既述したインプラント複合材料12の作用効果に加えて、緻密質複合体1の突起1aが上下の椎骨に僅かに食い込むため、挿入直後の椎骨間からのインプラント複合材料13の抜出しを防止できる利点がある。
椎骨間のスペーサとして挿入される上記のインプラント複合材料12,13は、いずれも緻密質複合体1が中実となっているが、中空の緻密質複合体として、その内部に連続気孔質複合体や生体骨粉などを充填してもよい。このようにすると、緻密質複合体1の骨組織との置換が速くなる利点がある。
図8は、本発明の更に他の実施形態に係るインプラント複合材料の断面図である。
このインプラント複合材料14は、緻密質複合体1の表層部の両側面に、これより薄い連続気孔質複合体2を積層一体化したピース状(小片状)の材料であって、靱帯の骨関節付着部の再建もしくは補強に使用されるものである。緻密質複合体1や連続気孔質複合体2は、前述したインプラント複合材料10のそれらと同様の構成であるから、説明を省略する。
このインプラント複合材料14を用いて、靱帯の骨関節付着部の再建もしくは補強を行う場合は、例えば、図9に示すように骨関節の双方の骨に孔6,6をあけ、靱帯8の両端部7,7を孔6,6に通し、靱帯8の両端部7,7と孔6の片側内面との間にインプラント材料14を挟んで、該両端部7,7と孔6の反対側内面との間にインターフェアランススクリュー9をねじ込んで固定すればよい。このようにすると、インプラント複合材料14の両側面の連続気孔質複合体2,2が靱帯8の両端部7、7と孔6の内面に結合し、その後すみやかに骨組織と全置換して消失すると共に、緻密質複合体1もやがては骨組織に全置換して消失するため、靱帯8の両端部7,7は全置換した骨組織を介して孔6に結合される。その場合、インターフェアランススクリュー9が生体活性なバイオセラミックス粉体を含む生体内分解吸収性ポリマーからなるものであれば、このスクリュー9もやがては骨組織に置換されて孔6の内面と靱帯8の両端部7,7に結合するため、靱帯付着部分の固定強度は一層向上することになる。
1 緻密質複合体
1a 突起
2 連続気孔質複合体
3 関節骨頭の切除部分
4 軟骨
8 靱帯
10,11,12,13,14 インプラント複合材料
1a 突起
2 連続気孔質複合体
3 関節骨頭の切除部分
4 軟骨
8 靱帯
10,11,12,13,14 インプラント複合材料
Claims (6)
- 生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの緻密質複合体の表層部の一面又は全面に、生体内吸収性、かつ、生体活性なバイオセラミックス粉体を含んだ生体内分解吸収性ポリマーの連続気孔質複合体を積層一体化したことを特徴とする、生体内吸収性、かつ、生体活性なインプラント複合材料。
- 連続気孔質複合体の気孔率が、50〜90%の範囲内で、連続気孔質複合体の深層部から表面に近づくほど高くなるように順次連続的に変化している、請求項1に記載のインプラント複合材料。
- 連続気孔質複合体のバイオセラミックス粉体の含有率が、30〜80質量%の範囲内で、連続気孔質複合体の深層部から表面に近づくほど高くなるように順次連続的に変化している、請求項1又は請求項2に記載のインプラント複合材料。
- 連続気孔質複合体に、生物学的骨成長因子であるBMP(Bone Morphogenic Protein)、TGF−β(Transforming Growth Factor-b)、EP4(Prostanoid Receptor)、b−FGF(basic Fibroblast Growth Factor)、PRP(platelet-rich plasma)の少なくとも一種、及び/又は、生体由来の骨芽細胞が含浸されている、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインプラント複合材料。
- 関節骨軟骨障害の治療、再生・再建又は靱帯の骨関節付着部の再建もしくは補強に用いられる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のインプラント複合材料。
- 関節頭と関節軟骨が接している膝、股、足、肩、肘、脊椎(頚椎、腰椎)などの関節部に補綴材(Prosthesis)、足場(Scaffold)および生物学的骨形成因子の除放のための担持体(Carrier)として適応される請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のインプラント複合材料。
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