国民が望まない2%インフレ
欧米が2%のインフレ目標を設定したことには意味があります。国民や経済全体がインフレを負担と感じ、インフレを2%程度に抑えることが、経済にも国民の利益にもなるからです。
ところが、日本は長年物価の安定を経験してきただけに、にわかに大幅なインフレになり、困惑しています。
実際、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によると、約9割の国民が物価上昇を困ったことと認識し、大半の人が物価高で暮らし向きに余裕がなくなったと感じています。少なくとも国民は2%以上のインフレを望んでいません。物価の安定こそが望ましいと思っています。
一方、企業は価格を引き上げられるインフレを歓迎するかに見えましたが、最近の「景気ウォッチャー調査」(内閣府)を見ると、企業も円安や物価高が負担になっていることが多く報告されています。企業は適正な為替水準を1ドル120円程度とみていて、昨今の円安はかなりコスト高とみなしています。
家計はもちろん、企業まで物価高を負担とみるような状況で、日銀が「まだ安定的な2%インフレは実現していない」というのは、いったい誰の利益のために行っているのか、大いに疑問です。
2%目標を守らない日銀
金融政策の効果が表れるまでには一般に半年から1年前後の「ラグ」があるとみられます。このため、目標が実現してから政策修正したのでは「行き過ぎ」が生じるので、通常は2%の物価目標達成が「予想される」状況になれば、金融緩和は修正されるのが普通です。
ところが、日本のCPIが2%を超えてからすでに2年がたちますが、日銀はまだ「基調インフレが2%に達していない」として緩和を続けています。すでに日銀OBも含めて、日銀の物価対応は「後手に回った」との認識が広がっています。2%の物価上昇が望ましいかどうかは別途議論しましたが、少なくとも2%が現実に達成した後もなお緩和を続けることは、一般には考えられないことです。
日銀は2%の「アンカー」が必要と言い、期待インフレ率が2%に近づく状況を目指しているようですが、インフレ期待が広がることは実は厄介なことで、これまでの日銀はインフレ・マインドが醸成されないよう慎重な金融政策を行ってきました。
2%のインフレ期待を醸成してから後で物価安定を図っても、大きなエネルギーを要します。
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