この発明で対象とすることができる車両は、前輪と後輪との少なくともいずれか一方の一対の駆動輪にそれぞれ駆動用モータ(以下、単にモータと記す)が連結されるとともに、それらのモータ同士のトルクの伝達を可能にするクラッチを備えている。それらモータとクラッチとを備えた駆動装置の一例を図1に模式的に示している。図1に示す駆動装置1は、車幅方向における中央部分を挟んで両側がほぼ対象の形状に構成されている。したがって、以下の説明では、一方側(図における右側)の構成について説明し、他方側の構成は、一方側と構成が異なる部分のみについて説明し、他の部分の構成についてはその説明を省略する。なお、一方側と他方側とが同一の構成については、図中において一方側の部材の参照符号に「R」を付し、他方側の部材の参照符号に「L」を付すとともに、以下の説明において一方側の部材と他方側の部材との区別をつけて説明する必要がある場合には、一方側の部材の名称に「第1」を付し、他方側の部材の名称に「第2」を付す。
この駆動装置1は、駆動力源としてのモータ2を備えている。このモータ2は、従来知られているハイブリッド車両や電気自動車の駆動力源として設けられたモータと同様に、発電機能のあるモータであって、その一例として永久磁石形の同期モータで構成されている。
このモータ2の出力軸3は、車幅方向に延出しており、車幅方向における中央側に延出した部分に出力ギヤ4が連結されている。また、出力軸3と平行にカウンタシャフト5が設けられており、そのカウンタシャフト5の一方の端部に、出力ギヤ4よりも大径のカウンタドリブンギヤ6が連結され、他方の端部に、カウンタドリブンギヤ6よりも小径のピニオンギヤ7が連結されている。さらに、ピニオンギヤ7には、ピニオンギヤ7よりも大径の終減速ギヤ8が連結されている。
この終減速ギヤ8の回転中心には、車幅方向における外側に向けて突出するとともに、その端部が開口した円筒軸9が連結されている。そして、円筒軸9にドライブシャフト10の一方の端部がスプライン係合し、ドライブシャフト10の他方の端部に駆動輪11が連結されている。なお、以下の説明では、便宜上、モータ2から駆動輪11に至るトルクの伝達経路のギヤ比を「1」とする。
また、出力軸3のうち車幅方向における外側に延出した端部には、円盤状のブレーキロータ12が連結されている。このブレーキロータ12は、磁性材料により構成されている。このブレーキロータ12と対向して環状のブレーキステータ13が設けられている。このブレーキステータ13は、ブレーキロータ12に向けて接近することができるとともに、回転することができないようにケースCにスプライン係合している。さらに、ブレーキステータ13には、コイル14が設けられており、そのコイル14に通電することにより生じる電磁力によってブレーキステータ13とブレーキロータ12とが接触するように構成されている。
このようにブレーキステータ13とブレーキロータ12とが接触することにより、その摩擦力に応じて制動トルクがブレーキロータ12に作用する。すなわち、ブレーキステータ13とブレーキロータ12とコイル14とにより、摩擦ブレーキ15を構成している。
さらに、第1出力軸3Rにおける第1出力ギヤ4Rが連結されている箇所よりも車幅方向における中央側の先端には、ハット状の延長軸16が連結され、その延長軸16に環状のクラッチディスク17が一体回転可能に連結されている。
また、第2出力軸3Lにおける第2出力ギヤ4Lが連結されている箇所よりも車幅方向における中央側の先端には、有底円筒状に形成されるとともに、中空部にクラッチディスク17を収容するカバー軸18が連結されている。
カバー軸18の底面とクラッチディスク17との間には、環状のプレッシャープレート19が設けられている。このプレッシャープレート19は、磁性材料により構成されており、またカバー軸18と一体に回転するとともに、カバー軸18の回転軸線方向に移動することができるように、カバー軸18にスプライン係合している。
さらに、カバー軸18の底面とプレッシャープレート19との間には、プレッシャープレート19をクラッチディスク17に向けて押圧するスプリング20が設けられている。
また、上記のカバー軸18の外側には、コイル21が設けられており、このコイル21は、通電することによりプレッシャープレート19をクラッチディスク17から離隔させる方向、すなわちスプリング20のバネ力に抗する方向に電磁力が発生するように構成されている。
上記のクラッチディスク17とプレッシャープレート19とスプリング20とコイル21とにより電磁クラッチ(以下、単にクラッチと記す)22を構成しており、コイル21に通電していない場合には、スプリング20のバネ力によりクラッチディスク17とプレッシャープレート19とが接触して一体回転し、コイル21に通電した場合には、その電力に応じてクラッチディスク17とプレッシャープレート19との伝達トルク容量が設定される。
したがって、コイル21に通電せずに、プレッシャープレート19とクラッチディスク17とを摩擦係合させることにより、第1モータ2Rと第2モータ2Lとを一体に回転させることや、第1モータ2Rと第2モータ2Lとの間でトルクを伝達することができる。また、コイル21に通電することにより、プレッシャープレート19とクラッチディスク17との伝達トルク容量を低下させることができ、第1モータ2Rと第2モータ2Lとを相対回転させるとともに、第1モータ2Rと第2モータ2Lとで伝達するトルクを低下させることができる。
また、図1に示す駆動装置1は、更に、車両の電源がオフされている場合に各駆動輪11R,11Lに制動トルクを作用させることができるパーキングロック機構23を備えている。このパーキングロック機構23は、車両の電源がオフされた状態であっても第1ブレーキロータ12Rと第1ブレーキステータ13Rとの接触圧を維持できるように構成されている。具体的には、パーキングロック機構23は、ブレーキステータ13Rを挟んで第1ブレーキロータ12Rとは反対側に設けられた環状の可動プレート24と、送りねじ機構25と、送りねじ機構25を作動させる制動用モータ26とを備えている。
送りねじ機構25は、制動用モータ26が出力するトルクによる回転運動を直線運動に変換し、可動プレート24を第1ブレーキステータ13R側へ押圧する作動装置である。パーキングロック機構23は、制動用モータ26によって送りねじ機構25に所定の回転方向(正転方向とする)のトルクを付与することにより、可動プレート24および第1ブレーキステータ13Rを第1ブレーキロータ12R側に押圧して、第1ブレーキロータ12Rと第1ブレーキステータ13Rとを摩擦係合させて第1出力軸3Rを制動する。なお、制動用モータ26によって送りねじ機構25に逆転方向のトルクを付与することにより、このパーキングロック機構23による第1出力軸3Rの制動を解除することができる。
また、パーキングロック機構23における送りねじ機構25は、直線運動を回転運動に変換する場合の送りねじの逆効率が、回転運動を直線運動に変換する場合の送りねじの正効率よりも低く設定されている。したがって、送りねじ機構25で可動プレート24および第1ブレーキステータ13Rを、第1ブレーキロータ12R側に押圧して第1出力軸3Rを制動した状態を維持することができる。そのため、制動用モータ26によって送りねじ機構25を作動させ、第1出力軸3Rを制動した状態で、前述の第1コイル14Rや制動用モータ26に対する通電が止められた場合であっても、パーキングロック機構23による第1出力軸3Rの制動状態を維持することができる。したがって、この送りねじ機構25は、回転運動を直線運動に変換して第1出力軸3Rを制動するための推力を発生するとともに、推力を発生して第1出力軸3Rを制動した状態を保持することが可能な推力発生機構である。
上述した駆動装置1は、電源がオフされている場合には、コイル21への電力の供給が停止されるので、クラッチ22は係合した状態となる。そのため、パーキングロック機構23で第1出力軸3Rの回転を停止させることにより、第2出力軸3Lの回転も停止される。つまり、各駆動輪11R,11Lに制動トルクを作用させた状態を維持することができる。なお、パーキングロック機構23は、第2出力軸3Lの回転を禁止するように設けられていてもよく、また、第1出力軸3Rに限らず、例えば、第1カウンタシャフト5Rの回転を禁止するように設けられていてもよい。
上述した駆動装置1は、クラッチ22を完全に係合して、左右の駆動輪11R,11Lを一体に回転させ、または左右の駆動輪11R,11Lに同一のトルクを伝達して走行する場合には、第1モータ2Rと第2モータ2Lとの少なくともいずれか一方のモータ2R(2L)からトルクを出力して走行することや、第1モータ2Rと第2モータ2Lとの一方のモータ2R(2L)から駆動トルクを出力するとともに、第1モータ2Rと第2モータ2Lとの他方のモータ2L(2R)が、上記駆動トルクのうちの一部を回生して走行することができ、または第1モータ2Rと第2モータ2Lとの一方のモータ2R(2L)から大きなトルクを出力するとともに、他方のモータ2L(2R)が不足するトルクを出力することなど、それぞれのモータ2R,2Lから出力するトルクを適宜設定することができる。
また、旋回時など左右の駆動輪11R,11Lを相対回転させる場合、あるいは左右の駆動輪11R,11Lに伝達するトルクを異ならせる場合には、クラッチ22をスリップさせて、各モータ2R,2Lは、上記と同様に少なくともいずれか一方のモータ2R(2L)からトルクを出力して走行することや、一方のモータ2R(2L)から駆動トルクを出力して他方のモータ2L(2R)が駆動トルクの一部を回生して走行することができ、それぞれのモータ2R,2Lから出力するトルクを適宜設定することができる。
さらに、左右の駆動輪11R,11Lの回転数差が所定値以上大きい場合、あるいは左右の駆動輪11R,11Lに伝達するトルク差が所定値以上大きい場合には、クラッチ22を完全に解放して、左右の駆動輪11R,11Lの出力を適宜定めることができる。その際には、例えば、外輪に連結されたモータ2R(2L)を力行し、内輪に連結されたモータ2L(2R)を回生してもよく、外輪に連結されたモータ2R(2L)のみがトルクを出力してもよい。
つぎに、上述した駆動装置1を備えた車両Veの制御システムSの構成例について説明する。図2は、システム構成の一例を説明するための模式図である。図2に示す例では、上述した駆動装置1が、車幅方向における中央部に、かつ車両Veの前方および後方にそれぞれ設けられている。すなわち、図2に示す車両Veは、四輪駆動車である。なお、車両Veの前方に設けられた駆動装置(以下、第1駆動装置と記す)1と車両Veの後方に設けられた駆動装置(以下、第2駆動装置と記す)1’とは、車両Veの前後方向における中央部分を挟んで対象の形状に形成されている。以下の説明では、第2駆動装置1’のうち第1駆動装置1における第1モータ2Rと右側の駆動輪11Rとの間のトルク伝達経路内に設けれられた部材(第1モータ2Rを含む)と同一の構成には、その名称に「第3」を付し、第1駆動装置1における第2モータ2Lと左側の駆動輪11Lとの間のトルク伝達経路内に設けれられた部材(第2モータ2Lを含む)と同一の構成には、その名称に「第4」を付し、さらに、第2駆動装置1’に設けられたクラッチおよびパーキングロック機構、およびそれらの構成する部材の名称に、「第2」を付す。また、第2駆動装置1’を構成する部材と、第1駆動装置1に設けられた部材とを区別するために、参照符号に「’」を付す。
上述した第1モータ2R、第2モータ2L、各コイル14R,14L,21には、従来知られたハイブリッド車両や電気自動車に搭載された蓄電装置と同様に、バッテリーやキャパシタなどにより構成された高電圧の蓄電装置27から電力が供給されるように構成されている。なお、第2駆動装置1’に内蔵されている各モータ2R’,2L’や各コイル14R’,14L’,21’にも同様に、蓄電装置27から電力が供給される。また、蓄電装置27には、各モータ2R,2L,2R’,2L’により発電された電力が供給されるように構成されている。この蓄電装置27が、この発明の実施形態における「電源」に相当する。
この蓄電装置27と各モータ2R,2Lとの間には、直流電流と交流電流とを切替えるとともに、各モータ2R,2Lに供給される電流値やその周波数を制御することができる第1インバータ28が設けられている。同様に、第2駆動装置1’に供給される電流値やその周波数を制御することができる第2インバータ29が設けられている。
上述した第1駆動装置1に設けられた各モータ2R,2Lおよび各コイル14R,14L,21、第2駆動装置1’に設けられた各モータ2R’,2L’および各コイル14R’,14L’,21’を、一括して制御するための第1電子制御装置(以下、第1ECUと記す)30が設けられている。この第1ECU30は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当し、従来知られている車両に搭載された電子制御装置と同様にマイクロコンピュータを主体として構成されている。その第1ECU30の構成を説明するためのブロック図を図3に示している。
この第1ECU30には、車両Veの姿勢に関連するデータや、運転者による操作部の操作状態などの信号が入力され、その入力される信号、および予め記憶されている演算式またはマップなどに基づいて、第1インバータ28や、第2インバータ29に制御信号を出力するように構成されている。なお、第1ECU30から第1インバータ28や第2インバータ29に出力する制御信号を求める際には、従来知られたアンチロックシステム(ABS)、トラクションコントロール(TRC)、エレクトロニックスラビリティコントロール(ESC)、ダイナミックヨーレートコントロール(DYC)などを考慮して求めている。
上記第1ECU30に入力される操作状態の信号の一例としては、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ31、ブレーキペダルの踏み込み力を検出する第1ブレーキペダルセンサ32、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する第2ブレーキペダルセンサ33、ステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ34、ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサ35からの信号であり、車両Veの姿勢に関連するデータの信号の一例としては、車両Veの前後加速度を検出する第1Gセンサ36、車両Veの横加速度を検出する第2Gセンサ37、車両Veのヨーレートを検出するヨーレートセンサ38、右前輪11R、左前輪11L、右後輪39R、左後輪39Lのそれぞれの周速を検出する車輪速センサ40,41,42,43からの信号である。
なお、第1ECU30を作動させるためや、第1インバータ28に搭載されている図示しないトランジスタを制御するための電力を供給するために、第1補機バッテリ44が設けられている。この第1補機バッテリ44は、蓄電装置27よりも低電圧である。
上述したようにパーキングロック機構23は、各コイル14R,14L,21へ電力の供給が不能になるなどの上記第1ECU30と第1補機バッテリ44との間の電気系統にフェールが生じた場合、または蓄電装置27と第1インバータ28との間の電気系統にフェールが生じた場合などにも制御することができることが好ましい。したがって、図2に示す例では、第1ECU30とは別に他の電子制御装置(以下、第2ECUと記す)45が設けられている。なお、第2ECU45は、各パーキングロック機構23,23’(具体的には、各制動用モータ26,26’)にも電気的に接続されている。この第2ECU45も第1ECU30と同様にマイクロコンピュータを主体として構成されている。この第2ECU45の構成を説明するためのブロック図を図4に示している。
第2ECU45には、車両Veの姿勢に関連するデータや、運転者による操作部の操作状態などの信号が入力され、その入力される信号、および予め記憶されている演算式またはマップなどに基づいて各パーキングロック機構23,23’を作動させることを許可するか否かを判断するとともに、各パーキングロック機構23,23’の制御量を演算などにより定め、その定められた制御量に基づいて、各パーキングロック機構23,23’に制御信号を出力するように構成されている。
上記第2ECU45に入力される操作状態の信号の一例としては、第1ブレーキペダルセンサ32、第2ブレーキペダルセンサ33、各摩擦ブレーキ15R,15L,15R’,15L’に通電されている電流値を検出する図示しないセンサからの信号であり、車両Veの姿勢に関連するデータの信号の一例としては、車輪速センサ40,41,42,43からの信号である。また、各パーキングロック機構23,23’を作動させることの許可は、所定の時間以上停車していること、各制動用モータ26,26’を作動させるためのスイッチが運転者などによりオンされていること、停車中でかつイグニッションがオフされていること、少なくともいずれかの摩擦ブレーキ15R,15L,15R’,15L’が作動することができないことなどのいずれか一つが成立していることで判定することができる。
さらに、ブレーキペダルの踏み込み力や踏み込み量と、各駆動輪11R,11L,39R,39Lの車輪速とから各パーキングロック機構23,23’による制動トルクを定め、その制動トルクを得られるように、各制動用モータ26,26’へ電流を出力するように構成されている。そして、第2ECU45を作動させるためや、各パーキングロック機構23,23’を制御するための電力を供給するために、第2補機バッテリ46が設けられている。なお、第1ECU30の信号を第2ECU45が受けることができ、第1ECU30がフェールした場合などには、第2ECU45が作動することを許可するように構成することができる。
上記の第1駆動装置1は、各車輪11R,11Lに要求されるトルクを充足することができる第1モータ2Rと第2モータ2Lとの運転点(トルク)の組み合わせは複数存在する。同様に、第2駆動装置1’は、各車輪39R,39Lに要求されるトルクを充足することができる第2駆動装置1’に搭載された各モータ2R’,2L’の運転点の組み合わせは複数存在する。以下の説明では、便宜上、第1駆動装置1を対象として各モータ2R,2Lの運転点を定める方法について説明するが、第2駆動装置1’に搭載された各モータ2R’,2L’の運転点も同様に定めることができる。
上記の第1モータ2Rと第2モータ2Lとの運転点の組み合わせについて説明すると、直進走行時に第1駆動装置1に所定トルクTreqが要求されている場合に、第1モータ2Rと第2モータ2Lとから同一のトルク(所定トルクTreqを均等に振り分けたトルク)を出力して走行する(以下、第1走行と記す)ことや、一方のモータ(例えば、第1モータ2R)から所定トルクTreqを出力するとともに他方のモータ(例えば、第2モータ2L)からはトルクを出力しないで走行する(以下、第2走行と記す)こと、あるいは一方のモータ(例えば、第1モータ2R)から所定トルクTreq未満でかつ所定トルクTreqの二分の一のトルクTreq/2より大きなトルクを出力して、不足するトルクを他方のモータ(例えば、第2モータ2L)から出力して走行する(以下、第3走行と記す)こと、もしくは一方のモータ(例えば、第1モータ2R)から所定トルクTreqよりも大きいトルクを出力して、他方のモータ(例えば、第2モータ2L)が余剰のトルクを回生して走行する(以下、第4走行と記す)ことができる。さらに、上記の第3走行や第4走行のうちでも、更に一方のモータ2Rから出力するトルクの大きさは適宜選択することができる。
上記の各モータ2R,2Lの運転点(トルク)の関係を図5に模式的に示している。図5における実線は第1モータ2Rのトルクを示し、破線は第2モータ2Lのトルクを示しており、A1を付した線のように第1モータ2Rのトルクを、所定トルクTreqから次第に低下させるに連れて、A2を付した線のように第2モータ2Lのトルクは、所定トルクTreqまで次第に増大する。このA1およびA2を付した線のように第1モータ2Rと第2モータ2Lとのトルクの関係で各モータ2R,2Lを制御する場合が、上記第3走行に相当する。また、C1を付した線のように第1モータ2Rのトルクを、所定トルクTreqから次第に増大させるに連れて、C2を付した線のように第2モータ2Lのトルクは、回生量が増大するように次第に低下する。このC1およびC2を付した線のように第1モータ2Rと第2モータ2Lとのトルクの関係で各モータ2R,2Lを制御する場合が、上記第4走行に相当する。なお、A1とA2との交点で各モータ2R,2Lを制御する場合が、上記第2走行に相当し、第2モータ2Lのトルクが「0」となるように第1モータ2Rを制御する場合が、上記第1走行に相当する。
一方、第1モータ2Rや第2モータ2Lは、回転数とトルクとで定まる運転点に応じて効率が変化する。なお、この効率は、モータの出力(動力)を、モータに入力される電力で除算したものである。したがって、例えば、一方のモータ2R(2L)の効率が良好な運転点で駆動した場合であっても、他方のモータ2L(2R)の効率が悪化するなどにより、第1駆動装置1全体としての効率Xが良好とならない可能性がある。言い換えると、第1電源27から出力される電力に対して第1駆動装置1から出力される動力が低下する可能性がある。
そのため、この発明の実施形態における駆動力制御装置は、第1駆動装置1に要求されるトルクを充足することができ、かつ第1駆動装置1の効率Xが良好となる各モータ2R,2Lのトルクを定めるように構成されている。
まず、第1駆動装置1の要求トルクを実現可能な第1モータ2Rと第2モータ2Lとの組み合わせを選択する。具体的には、第1モータ2Rのトルクを最少トルク(例えば、-200Nm)から最大トルク(例えば、200Nm)まで、所定トルク(例えば、1Nm)ずつ変化させて、複数の第1暫定トルクT1prを定める。なお、ここで、第1モータ2Rのトルクを最少トルクから所定トルクずつ変化させるのは、各モータ2R,2Lの特性が異なっている場合に対応するためである。
ついで、第1駆動装置1の要求トルクTreqを充足するように第2モータ2Lのトルクを所定トルクずつ変化させて、複数の第2暫定トルクT2prを定める。具体的に例を挙げて説明すると、第1駆動装置1の要求トルクTreqが、100Nmの場合には、第1暫定トルクT1prが0Nmであれば、第2暫定トルクT2prを100Nmとして定め、第1暫定トルクT1prが80Nmであれば、第2暫定トルクT2prを20Nmとして定め、第1暫定トルクT1prが170Nmであれば、第2暫定トルクT2prを、-70Nmとして定める。つまり、第1駆動装置1の要求トルクTreqを充足することができる第1モータ2Rのトルクと第2モータ2Lのトルクとの複数の組み合わせを求める。なお、上記第1駆動装置1の要求トルクTreqが、この発明の実施形態における「トータルトルク」に相当する。
そして、それぞれの組み合わせ毎に、第1駆動装置1の効率Xを算出する。この第1駆動装置1の効率Xは、以下の式で算出することができる。
X=(Treq×Nam)/((T1pr/η1)×N1m+(T2pr/η2)×N2m)
なお、上式におけるN1mは第1モータ2Rの回転数であり、N2mは第2モータ2Lの回転数であり、Namは各モータ2R,2Lの回転数N1m,N2mの平均値である。これらは、各モータ2R,2Lの回転数を検出するセンサ、または車輪速センサ40,41の信号に基づいて算出することができる。また、上記におけるη1は第1モータ2Rの運転点に応じた効率であり、η2は第2モータ2Lの運転点に応じた効率である。これらの効率η1,η2は、各モータ2R,2Lの運転点毎に予め第1ECU30に記憶されている。すなわち、上式は、第1駆動装置1の出力を、第1駆動装置1の要求トルクTreqを充足するために必要なエネルギー量、つまり第1電源27から出力するべき電力量で除算している。
具体的に例を挙げて説明すると、第1駆動装置1の要求トルクTreqが100Nm、各モータ2R,2Lの回転数N1m,N2mがそれぞれ2000rpm(すなわち、直進走行時)、第1暫定トルクT1prが120Nm、第2暫定トルクT2prが-20Nm、第1モータ2Rが2000rpmで回転する際に120Nmを出力する場合の効率が0.98%、第2モータ2Lが2000rpmで回転する際に-20Nmを出力する場合の効率が0.94%とした場合における第1駆動装置1の効率Xは、
X=(100×2000)/((120/0.98)×2000+(-20/0.94)×2000)
となる。その結果、第1駆動装置1の効率Xを、0.988%と求めることができる。
また、旋回走行時などの左右の駆動輪11R,11Lに要求されるトルクが異なる場合には、要求トルクが大きい一方の駆動輪(例えば、右前輪11R)に連結された一方のモータ(例えば、第1モータ2R)の暫定トルクT1prを、一方の駆動輪11Rに要求されるトルク以上の範囲で定めて、第1駆動装置1の効率Xを算出する。これは、クラッチ22を介してトルクを伝達する際には、出力トルクが大きい方の一方のモータ2R(2L)から、出力トルクが小さい方の他方のモータ2L(2R)に連結された駆動輪11L(11R))にトルクが伝達されるため、一方のモータ2R(2L)の暫定トルクT1prが、一方の駆動輪11Rに要求されるトルク以上であることを条件としている。なお、旋回走行時には、外輪が、上記一方の駆動輪11Rとなる。以下の説明では、便宜上、旋回走行時を例に挙げて説明する。
上記のような条件を含めて、第1駆動装置1の効率Xを求め、ついで、外輪に連結されたモータ2Rの暫定トルクT1prと、外輪に要求されるトルクとの差に基づいてクラッチ22の伝達トルク容量TCtrを求める。つまり、外輪に伝達されるトルクを減少させるとともに、内輪に伝達されるトルクを加算するようにクラッチ22の伝達トルク容量TCtrを求める。
具体的に例を挙げて説明すると、第1駆動装置1に要求されるトルクTreqが100Nmであり、かつ右前輪11Rに要求されるトルクが70Nmである場合に、上記に従って求められた第1駆動装置1の効率Xが最大となる第1暫定トルクT1prが120Nmで、第2暫定トルクT2prが-20Nmとなる場合には、クラッチ22の伝達トルク容量TCtrは50(=120-70)Nmとなる。
上記のように第1駆動装置1の要求トルクTreqを充足できる、第1暫定トルクT1prと第2暫定トルクT2prとの複数の組み合わせ毎に第1駆動装置1の効率Xを算出して、第1駆動装置1の効率Xが最も良好となる、つまり第1電源27から出力する電力量が最少となる組み合わせを選択して、その組み合わせの第1暫定トルクT1prと第2暫定トルクT2prとを、各モータ2R,2Lの目標トルクT1ta,T2taとして定め、旋回走行時などの左右輪11R,11Lに要求されるトルクが異なるときには、外輪に連結されたモータ2R(2L)の暫定トルクT1pr(T2pr)から外輪に要求されるトルクを減算して、クラッチ22の伝達トルク容量TCtrを定める。
なお、上記の各モータ2R,2Lの目標トルクT1ta,T2taやクラッチ22の伝達トルク容量TCtrは、常時、演算して求めてもよく、第1駆動装置1の要求トルクTreq毎に予め算出し、それらの目標トルクT1ta,T2taや伝達トルク容量TCtrを、第1駆動装置1の要求量(要求トルクTreqと回転数Nam)や外輪の要求トルクに対応させたマップに記憶させておいてもよい。
図6に直進走行用のマップの一例を示し、図7に旋回走行用のマップの一例を示している。図6に示す例では、第1駆動装置1の要求トルクTreqを行に採り、回転数Namを列に採っている。また、旋回走行用のマップは、第1駆動装置1の要求トルクTreq毎にそれぞれ用意されており、それらのマップは、外輪の要求トルクを行に採り、回転数Namを列に採っている。なお、図7には、要求トルクTreqが100Nmの場合の一例を示している。
この発明の実施形態における駆動力制御装置の制御の一例を図8に示している。図8に示す例では、まず、運転者によるアクセル操作量や車速などから車両Veに要求されるトルクを算出する(ステップS1)。なお、運転者がアクセル操作などを行うことなく走行可能な、いわゆる自動運転車両の場合には、車両Veに搭載されたレーダーなどの種々のセンサに基づいて車両Veに要求されるトルクを算出してもよい。
ついで、ステップS1で算出された車両Veの要求トルクに基づいて、旋回走行時などによる走行安定性を考慮した左側の車輪に要求されるトルク(左前輪11Lと左後輪39Lとに要求されるトルクの合算値)と、右側の車輪に要求されるトルク(右前輪11Rと右後輪39Rとに要求されるトルクの合算値)とを算出する(ステップS2)。このステップS2は、従来知られているスタビリティファクタなどに基づいて算出することができるため、その算出方法の詳細については省略する。
ステップS2についで、左前輪2Lと右前輪2Rとに要求されるトルクを算出する(ステップS3)。このステップS3では、例えば、ステップS2で算出された左側の車輪に要求されるトルクの三割を左前輪2Lに要求されるトルクとして算出し、ステップS2で算出された右側の車輪に要求されるトルクの三割を右前輪2Rに要求されるトルクとして算出することができる。これは、加速時には、前輪の設置荷重が低下して、後輪の設置荷重が増加することにより、前輪で出力するトルクの割合を低く設定し、後輪で出力するトルクの割合を高く設定するためである。なお、それぞれの駆動輪11R,11Lに要求されるトルクを求める詳細な制御内容は、例えば、特願2015−253254号に記載されている。
そして、ステップS3で算出された左前輪2Lと右前輪2Rとに要求されるトルクを加算して、第1駆動装置1に要求されるトルクTreqを算出する(ステップS4)。
ついで、上記の第1駆動装置1に要求されるトルクTreqや左前輪2Lあるいは右前輪2Rに要求されるトルクに基づいて、第1モータ2Rの目標トルクT1taおよび第2モータ2Lの目標トルクT2taあるいはクラッチ22の伝達トルク容量TCtrを算出する(ステップS5)。このステップS5は、上述したように演算して求めてもよく、予め用意されたマップから求めてもよい。
そして、ステップS5で算出された第1モータ2Rの目標トルクT1taおよび第2モータ2Lの目標トルクT2taあるいはクラッチ22の伝達トルク容量TCtrの信号を各モータ2R,2Lやクラッチ22に出力して(ステップS6)、このルーチンを一旦終了する。
上述したように第1駆動装置1の要求トルクTreqを充足可能な、第1モータ2Rと第2モータ2Lとの暫定トルクT1pr,T2prの組み合わせを複数選択して、それらの組み合わせのうちの第1駆動装置1の効率Xが最も良好となる第1モータ2Rと第2モータ2Lとの暫定トルクT1pr,T2prを、第1モータ2Rと第2モータ2Lとの目標トルクT1ta,T2taとして定めることにより、第1駆動装置1から過度なトルクが出力されることを抑制することができる。すなわち、図2に示す四輪駆動車の場合であっても、前輪11R,11Lに要求されるトルクを基準として各モータ2R,2Lの目標トルクT1ta,T2taが設定されるため、前輪11R,11Lと後輪39R,39Lとから出力されるトルクの向きが反対方向になるなどの事態を抑制することができる。すなわち、いずれかの駆動輪11R,11L,39R,39Lのスリップ量が増加することを抑制することができる。その結果、各駆動輪11R,11L,39R,39Lの耐久性の低下を抑制することができるとともに、駆動輪と路面との間で生じる動力損失が増大することを抑制することができる。言い換えると、車両Ve全体としての効率を向上させることができる。
また、左右の駆動輪11R,11Lに要求されるトルクが異なる場合に、要求トルクが大きい一方の駆動輪に連結されたモータの暫定トルクを、その駆動輪に要求されるトルク以上の範囲で定めるとともに、その駆動輪に連結されたモータの目標トルクと、その駆動輪の要求トルクとの差から、クラッチ22の伝達トルク容量TCtrを定めることにより、左右輪11R,11Lの要求トルクと同一のトルクを出力することができるとともに、第1駆動装置1の効率を向上させることができる。すなわち、左右の駆動輪11R,11Lに要求されるトルクが異なるとしても、車両Ve全体としての効率を向上させることができる。
なお、上述した第1モータ2Rと第2モータ2Lとは特性の異なるモータであっても同様に制御することにより、第1駆動装置1の効率を向上させることができる。また、上記のクラッチ22の伝達トルク容量TCtrを定める際に、クラッチ22がスリップすることによる動力損失を考慮して、第1駆動装置1の要求トルクTreqを補正した後に、第1モータ2Rや第2モータ2Lの目標トルクT1ta,T2ta、およびクラッチ22の伝達トルク容量TCtrを定めるように構成してもよい。