この発明の実施形態における車両の駆動システムは、複数のコントローラと複数の駆動装置とを備えたものであり、図1には、その駆動システムSの構成例を示している。図1に示す車両Veの駆動システムSは、一対の前輪1a,1bに駆動トルクおよび制動トルクを作用させる装置2と、一対の後輪3a,3bに駆動トルクおよび制動トルクを作用させる装置4とを備えている。これらの装置2,4は、同様に構成されており、一対の前輪1a,1bに駆動トルクおよび制動トルクを作用させる装置2の構成を説明するための図を図2に示している。なお、一対の後輪3a,3bに駆動トルクおよび制動トルクを作用させる装置4の構成については装置2と同様であるためその説明を省略する。また、上記の駆動トルクは、その駆動トルクを減ずれば制動トルク(制動力)となるため、これ以降の説明では、特に記載しない場合を除いて、「駆動トルクおよび制動トルク」を単に「駆動トルクあるいは駆動力」として記載する。
図2に示す装置2は、車幅方向における中央部分を挟んで、左右対称に形成された第1駆動装置5と第2駆動装置6とにより構成されており、ここでは、図中における左側の第1駆動装置5の構成について説明し、右側の第2駆動装置6の構成の説明を省略するとともに、図中には、第1駆動装置5に設けられた部材の参照符号に「a」を付し、第2駆動装置6に設けられた部材の参照符号に「b」を付し、更に以下の説明では、第1駆動装置5に設けられた部材に「第1」と記し、第2駆動装置6に設けられた部材に「第2」と付す。
第1駆動装置5は、第1駆動用モータ7aと、第1駆動用モータ7aの出力軸8aにトルクを作用させる第1摩擦ブレーキ9aと、第1駆動用モータ7aのトルクを左前輪1aに伝達する第1動力伝達機構10aとを備えている。
第1駆動用モータ7aは、通電する電力を制御することにより駆動トルクを出力することができる、従来知られている永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。この第1駆動用モータ7aは、発電機として機能し、そのように発電機として機能させた場合には、第1動力伝達機構10aを介して左前輪1aに駆動トルクが作用する。つまり、第1駆動用モータ7aは、駆動装置として機能する。この第1駆動用モータ7aが、この発明の実施形態における「第1駆動装置」の一形態や、「第1発電機」に相当する。以下の説明では、第1駆動用モータ7aを第1回生アクチュエータ7aと記す場合がある。
第1駆動用モータ7aの出力軸8aは、第1駆動用モータ7aの軸線方向における両側に延出しており、車幅方向中央側に延出した端部には、第1出力ギヤ11aが連結されている。この第1出力ギヤ11aには、第1出力ギヤ11aよりも大径の第1ドリブンギヤ12aが噛み合っている。第1ドリブンギヤ12aは、出力軸8aと平行に配置された第1カウンタシャフト13aの一方に連結されており、第1カウンタシャフト13aの他方には、第1ドリブンギヤ12aよりも小径の第1ピニオンギヤ14aが連結されている。さらに、第1ピニオンギヤ14aには、第1ピニオンギヤ14aよりも大径の第1終減速ギヤ15aが噛み合っており、その第1終減速ギヤ15aから左前輪1aにトルクが伝達されるように構成されている。これら、第1出力ギヤ11a、第1ドリブンギヤ12a、第1カウンタシャフト13a、第1ピニオンギヤ14a、第1終減速ギヤ15aにより第1動力伝達機構10aが構成されており、この第1動力伝達機構10aは、減速機として機能する。
また、上記の第1駆動用モータ7aの出力軸8aのうち、車幅方向外側に延出した端部には、第1ブレーキロータ16aが連結され、その第1ブレーキロータ16aに対向して第1ブレーキロータ16aに接近することができるとともに、回転不能にケース17にスプライン係合した環状の第1ブレーキステータ18aが設けられている。この第1ブレーキステータ18aには、コイル19aが設けられており、そのコイル19aに通電して生じる電磁力により、第1ブレーキステータ18aと第1ブレーキロータ16aとを摩擦係合させるように作動し、制動トルクを発生させる。その制動トルクは、第1動力伝達機構10aを介して左前輪1aに伝達される。すなわち、第1ブレーキロータ16aと第1ブレーキステータ18aとコイル19aとにより第1摩擦ブレーキ9aが構成されており、その第1摩擦ブレーキ9aが、制動装置の一形態に相当する。以下の説明では、第1コイル19aを、第1摩擦アクチュエータ19aと記す場合がある。
さらに、摩擦アクチュエータ19aに対する通電が無くなった場合であっても、ブレーキロータ16aとブレーキステータ18aとを摩擦係合させて出力軸8aを制動した状態を維持することが可能な第1パーキングブレーキ(以下、EPBと記す)23aが設けられている。図2に示す例では、EPB23aは、第1ブレーキステータ18aを挟んで第1ブレーキロータ16aと反対側に、第1ブレーキステータ18aに向けて移動可能でかつ回転不能にケース17にスプライン係合した可動プレート20aと、第1送りねじ機構21aと、第1制動用モータ22aとにより構成されている。送りねじ機構21aは、制動用モータ22aが出力するトルクによる回転運動を直線運動に変換し、可動プレート20aをブレーキステータ18a側へ押圧する作動装置である。EPB23aは、制動用モータ22aによって送りねじ機構21aに所定の回転方向(正転方向とする)のトルクを付与することにより、可動プレート20aおよびブレーキステータ18aをブレーキロータ16a側に押圧して、ブレーキロータ16aとブレーキステータ18aとを摩擦係合させて出力軸8aを制動する。すなわち、制動用モータ22aは、EPB23aのアクチュエータとして機能する。以下の説明では、制動用モータ22aを、EPBアクチュエータ22aと記す場合がある。なお、制動用モータ22aによって送りねじ機構21aに逆転方向のトルクを付与することにより、このEPB23aによる出力軸8aの制動を解除することができる。
上述したように構成された第1駆動装置5と第2駆動装置6とは、一つのケース17に収容されており、そのケース17が車体に取り付けられている。すなわち、第1駆動装置5や第2駆動装置6に設けられた各摩擦ブレーキ9a,9bおよび各EPB23a,23bは、いわゆるインボードブレーキとして車体に設置される。そのため、一対の前輪1a,1bのそれぞれに駆動装置を装着する従来の車両と比較して、車両Veのばね下荷重を軽減することができ、車両Veの走行性能や乗り心地を向上させることができる。
また、上記第1駆動装置5と第2駆動装置6とから出力するトルク比を制御することにより、左前輪1aに伝達されるトルクと右前輪1bに伝達されるトルクとの比を制御することができる。
また、図1に示す車両Veは、前述したように第1駆動装置5および第2駆動装置6と同様に構成され、一対の後輪3a,3bに駆動トルクを伝達する第3駆動装置24および第4駆動装置25を備えている。以下の説明では、左後輪3aに駆動トルクを伝達する装置を第3駆動装置24と記し、その第3駆動装置24のうちの第1駆動装置5と同一の部材には、「第3」を付して同一の名称を記すとともに、参照符号に「c」を付し、右後輪3bに駆動トルクを伝達する装置を第4駆動装置25と記し、その第4駆動装置25のうちの第2駆動装置6と同一の部材には、「第4」を付して同一の名称を記すとともに、参照符号に「d」を付す。
それら各駆動装置5,6,24,25を制御するための第1ECU26および第2ECU27が設けられている。これらのECU26,27は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、互いのECU26,27同士で信号を送受信するように構成されている。なお、上記第1ECU26が、この発明の実施形態における「第1コントローラ」に相当し、第2ECU27が、この発明の実施形態における「第2コントローラ」に相当する。
図3は、アクチュエータの接続関係を説明するためのブロック図である。なお、システム構成は図1に示し、その図1では、第1ECU26との接続関係を実線で示し、第2ECU27との接続関係を破線で示している。
図1および図3に示すように第1ECU26および第2ECU27には、ストロークセンサ28、踏力センサ29、右前輪1bの回転数、左前輪1aの回転数、左後輪3aの回転数、右後輪3bの回転数を検出するセンサ30、駆動用モータ7a,7b,7c,7dの各回転数を検出するセンサ31、アクセルペダルの位置を検出するセンサ32、車両の操舵角を検出するセンサ33、ヨーレートを検出するセンサ34、横加速度を検出するセンサ35などが接続されている。さらに第1ECU26にはシフトレンジスイッチ36が接続され、第2ECU27にはパーキングブレーキスイッチ37などが接続されている。上記の第1ECU26および第2ECU27には、上述したストロークセンサ28で検出したブレーキペダル(図示せず)のストロークに関連するデータ、踏力センサ29で検出したブレーキペダルの踏力に関連するデータ、シフトレンジスイッチ36、パーキングブレーキスイッチ37で検知したデータなどの種々のデータが入力される。なお、パーキングブレーキスイッチ37は、EPB23をパーキングブレーキとして作動させる際にONにされる。なお、図3に示す例では、上記の一つの各センサから第1ECU26および第2ECU27に信号が入力されるように構成されているものの、これに代えて第1ECU26と第2ECU27とにそれぞれに対して、同じ各センサを接続するように構成してもよい。
また、図1および図3に示すように、第1ECU26は、第2摩擦アクチュエータ19b、第3摩擦アクチュエータ19c、第1回生アクチュエータ7a、第4回生アクチュエータ7d、第1EPBアクチュエータ22a、第4EPBアクチュエータ22dに信号を出力するように接続され、第2ECU27は、第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7c、第2EPBアクチュエータ22b、第3EPBアクチュエータ22cに信号を出力するように接続されている。
上記車両Veは、第1ECU26を作動させるための電力や、第2摩擦アクチュエータ19b、第3摩擦アクチュエータ19c、第1EPBアクチュエータ22a、第4EPBアクチュエータ22dを作動させるための電力を第1ECU26に供給する第1電源38と、第2ECU27を作動させるための電力や、第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2EPBアクチュエータ22b、第3EPBアクチュエータ22cを作動させるための電力を第2ECU27に供給する第2電源39とを備えている。
また、上記車両Veは、第1回生アクチュエータ7a、第4回生アクチュエータ7dに電力を供給するとともに、第1回生アクチュエータ7a、第4回生アクチュエータ7dで発電された電力が供給される第1高圧電源(以下、第1バッテリとも記す)40と、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cに電力を供給するとともに、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cで発電された電力が供給される第2高圧電源(以下、第2バッテリとも記す)41とを備えている。具体的には、第1高圧電源40と第1回生アクチュエータ7aとが、第1インバータ42を介して接続され、第1高圧電源40と第4回生アクチュエータ7dとが、第2インバータ43を介して接続され、第2高圧電源41と第2回生アクチュエータ7bとが第3インバータ44を介して接続され、第2高圧電源41と第4回生アクチュエータ7dとが第4インバータ45を介して接続されている。
上述したように第1ECU26と第2ECU27とは、互いに信号を送受信することができる。そして、走行中にアクセルペダルが踏み込まれた場合には、踏力センサ29で検出された踏力を採用し、またストロークセンサ28で検出されたストロークを採用して、各車輪1a,1b,3a,3bに作用させる駆動力を演算する。ついで、その演算された駆動力に応じて、各摩擦アクチュエータ19a,19b,19c,19dや、各回生アクチュエータ7a,7b,7c,7dに通電する電力を求めて、各電源38,39および各高圧電源40,41から電力を供給する。その際に、例えば、左前輪1aと右前輪1bとに伝達するトルクを異ならせる必要があれば、第1摩擦アクチュエータ19aと第2摩擦アクチュエータ19bとに通電する電力を変更するなどして、左前輪1aと右前輪1bとに作用するトルクを変更する。
また、パーキングブレーキスイッチ37がオンされた場合など駐車する場合には、各EPBアクチュエータ22a,22b,22c,22dに一旦電力を供給して、各駆動装置5,6,24,25に設けられたブレーキステータ18a,18b,18c,18dとブレーキロータ16a,16b,16c,16dとを係合させる。
すなわち、第1ECU26と第2ECU27とを協調制御することにより、各車輪1a,1b,3a,3bに要求される駆動トルクを発生させることができる。
また、踏力センサ29、ストロークセンサ28、位置センサ32、舵角センサ33、ヨーレートセンサ34、横加速度センサ35、第1ECU26、第1電源38、第1高圧電源40、第2摩擦アクチュエータ19b、第3摩擦アクチュエータ19c、第1回生アクチュエータ7a、第4回生アクチュエータ7d、第1EPBアクチュエータ22a、第4EPBアクチュエータ22dで第1駆動システム46を構成し、踏力センサ29、ストロークセンサ28、位置センサ32、舵角センサ33、ヨーレートセンサ34、横加速度センサ35、第2ECU27、第2電源39、第2高圧電源41、第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7c、第2EPBアクチュエータ22b、第3EPBアクチュエータ22cで第2駆動システム47を構成している。それらの駆動システム46,47は、他方の駆動システム46(47)のいずれかの部材がフェールした場合であっても、車両Veの走行安定性を維持しつつ駆動トルクを発生させることができるとともに、駐車状態を維持することができるように構成されている。
さらに、上記の各ECU26,27には、他方のECU26(27)を有する駆動システム46(47)のいずれかの部材がフェールしたことを判断する判断部48,49が設けられている。
ここで、第1駆動システム46がフェールした場合について説明する。まず、第1駆動システム46のいずれかの部材がフェールしたことを判断する。この判断は、第1駆動システム46のうちの第1ECU26を除く他の部材がフェールした場合には、第1駆動システム46がフェールしたことを第1ECU26が判断することができ、その情報が第1ECU26から第2ECU27に送信される。また、第1ECU26と第2ECU27とは、互いに相手側のECU26(27)がフェールしていないことを確認するための信号を送信しており、その送信した信号に対する応答が、相手側のECU26(27)から返信されない場合には、相手側のECU26(27)がフェールしていると判断するように構成されている。したがって、第1駆動システム46のうち第1ECU26がフェールした場合には、第2ECU27から送信した信号に対する応答が、第1ECU26から返信されず、第2ECU27の判断部49により、第1ECU26がフェールしたことを判断することができる。
ついで、第1ECU26を除く他の部材がフェールした場合には、第1ECU26により第1駆動システム46を停止する。また、第1ECU26がフェールした場合には、第1ECU26により他の部材を作動することができないため、自動的に第1駆動システム46を停止する。また、その際に、フェールしていない第2ECU27により第1ECUをリセットし、そのリセットされた第1ECU26は、例えば車両が停止するまでOFFの状態を維持する。
すなわち、第1ECU26と第2ECU27とには、それぞれ判断部48,49が設けられており、それらの判断部48,49により、第1駆動システム46や第2駆動システム47がフェールしたことを判断することができる。第1駆動システム46がフェールした場合には、第2ECU27は、踏力センサ29およびストロークセンサ28から入力される信号に基づいて要求駆動力を求め、その求められた要求駆動力に基づいて第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cに通電する電力を求める。そして、その求められた電力を、第2電源39や第2高圧電源41から第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cに通電する。
なお、第2回生アクチュエータ7bに代えて、第2EPBアクチュエータ22bに通電してもよく、また第2回生アクチュエータ7bとともに第2EPBアクチュエータ22bに通電してもよい。また、第3回生アクチュエータ7cに代えて、第3EPBアクチュエータ22cに通電してもよく、また第3回生アクチュエータ7cとともに第3EPBアクチュエータ22cに通電してもよい。これは、前述したようにEPB23は、摩擦ブレーキ9のバックアップとして機能するためである。
そのように第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cに通電することにより、一対の前輪1a,1bと、一対の後輪3a,3bとのそれぞれに駆動トルクを作用させることができ、またそれらのアクチュエータ19a,19d,7b,7cの制御量に応じて左前輪1aと、右前輪1bとのトルク比や、左後輪3aと右後輪3bとのトルク比を適宜制御することができる。
上述したように第1駆動システム46がフェール(例えばショート)した場合であっても、第2駆動システム47により第1摩擦アクチュエータ19aを作動させて左前輪1aに駆動トルクを伝達することができるとともに、第4摩擦アクチュエータ19dを作動させて右後輪3bに駆動トルクを伝達することができる。このように車両Veの対角線上に設けられた各車輪1a,3b(1b,3a)に駆動トルクを伝達することにより、車両Veを安定的に退避走行させることができ、また車両Veにヨーが生じるなどによる車両Veの走行安定性の悪化を抑制しつつ、車両Veの駆動力を作用させることができる。すなわち、右前輪1bに駆動トルクを伝達する第2駆動装置6、および左後輪3aに駆動トルクを伝達する第3駆動装置24と、左前輪1aに駆動トルクを伝達する第1駆動装置5、および右後輪3bに駆動トルクを伝達する第4駆動装置25とを異なる駆動システム46,47とすることにより、一方の駆動システム46(47)がフェールした場合であっても、他方の駆動システム47(46)で車両Veの走行安定性の悪化を抑制しつつ、車両Veの駆動力を作用させることができる。
したがって、摩擦ブレーキ9と、制動トルクを出力可能なモータ7と、EPB23とのいずれか一つを備えたものであっても同様の効果を奏することができ、この発明の実施形態における「第1駆動装置」や「第2駆動装置」は、摩擦ブレーキ9と、制動トルクを出力可能なモータ7と、EPB23とを全て備えた構成に限定されない。
また、上記のように第2ECU27に第2回生アクチュエータ7bや第3回生アクチュエータ7cを接続することにより、一対の前輪1a,1bおよび一対の後輪3a,3bに駆動トルクを作用させることができるため、左前輪1aと右後輪3bとに駆動トルクを作用させる構成よりも、大きな駆動トルクを出力することができる。すなわち、運転者が要求する駆動力と、車両Veで生じることが可能な駆動力とが乖離することを抑制することができる。
なお、車両Veの荷重移動は、例えば加速時には車両Veの重心が後輪3a,3b側に位置するから後輪3a,3b側の方が力行量が多く、また減速時には車両の重心が前輪1a,1b側に位置するから前輪1a,1b側の回生量が多い。そのため、上述したように車両Veの対角線上に設けられた各車輪1a,3b(1b,3a)に駆動トルクを伝達することにより、第1高圧電源(バッテリ)40、第2高圧電源(バッテリ)41が、前輪用と後輪用とに独立している場合に比べて、蓄電量が一方のバッテリ40(41)に偏ることを抑制もしくは回避することができる。また、旋回時には車両Veの旋回方向に対して外輪側の方が駆動量が多い。そのため、上述したように車両Veの対角線上に設けられた各車輪1a,3b(1b,3a)に駆動トルクを伝達することにより、バッテリが車両Veの車幅方向における右側と左側とに独立して構成されている場合に比べて、蓄電量が一方のバッテリ40(41)に偏ることを抑制もしくは回避することができる。
つぎに、この発明の実施形態における他の例について説明する。図1に示した構成は、直進走行時などの左前輪1aと右前輪1bとの出力トルクを同一とし、かつ左後輪3aと右後輪3bとの出力トルクを同一とするためには、各出力トルクの制御に要求される精度が高くなる。そのため、図4に示す駆動装置では、第1駆動用モータ7aの出力軸8aと第2駆動用モータ7bの出力軸8bとを機械的に係合させ、かつ第3駆動用モータ7cの出力軸8cと第4駆動用モータ7dの出力軸8dとを機械的に係合させることにより、各出力トルクの制御の精度を低減することができるように構成されている。なお、第1駆動用モータ7aの出力軸8aと第2駆動用モータ7bの出力軸8bとを機械的に係合させることができる駆動装置(以下、第5駆動装置と記す)50と、第3駆動用モータ7cの出力軸8cと第4駆動用モータ7dの出力軸8dとを機械的に係合させることができる駆動装置(以下、第6駆動装置と記す)51とは、同様に構成されており、第5駆動装置50の構成を説明するための図を図4に示している。
第5駆動装置50は、上記第1駆動装置5と第2駆動装置6とを組み合わせて構成したものであり、同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。第5駆動装置50は、第1駆動用モータ7aの出力軸8aのうち、第2駆動用モータ7b側に延出した端部に、有底円筒状のクラッチカバー52が連結されている。
また、第2駆動用モータ7bの出力軸8bのうち、第1駆動用モータ7a側に延出した端部に、ハット状の延長軸53が連結されており、その延長軸53には、環状のクラッチディスク54が連結されている。そのクラッチディスク54がクラッチカバー52に相対回転可能に収容されている。
上記クラッチカバー52の内部には、クラッチディスク54と対向してハット状のプレッシャープレート55が、クラッチカバー52と一体回転するとともに、クラッチカバー52の軸線方向に移動することができるようにスプライン係合している。そのプレッシャープレート55をクラッチディスク54側に押圧するスプリング56が設けられている。さらに、クラッチカバー52の外側の部分には、通電されることによりプレッシャープレート55をクラッチディスク54から離隔させる方向の電磁力を発生させるコイル57が設けられている。上記のクラッチディスク54、クラッチカバー52、プレッシャープレート55、スプリング56、コイル57により、差動制御装置58を構成している。なお、この差動制御装置58は、通常時は係合状態とされている。
上記の差動制御装置58は、左前輪1aと右前輪1bとを同一回転数で回転させる場合、あるいは左前輪1aと右前輪1bとに同一のトルクを伝達する場合には、コイル57に通電せずに、クラッチディスク54とプレッシャープレート55とを係合させる。それとは反対に、左前輪1aと右前輪1bとを相対回転させる場合や、左前輪1aと右前輪1bとに伝達するトルク比を制御する場合には、コイル57に通電する電力を制御して、クラッチディスク54とプレッシャープレート55との伝達トルク容量を適切な伝達トルク容量に制御する。すなわち、コイル57が差動制御装置58のアクチュエータとして機能する。以下の説明では、コイル57をクラッチアクチュエータ57と記す。
なお、上記のように差動制御装置58は、クラッチアクチュエータ57に通電しない場合には、クラッチディスク54とプレッシャープレート55とが係合するとともに、上記第2EPB23bは、第2ブレーキステータ18bと第2ブレーキロータ16bとを係合した状態で第2制動用モータ22bへの通電を停止することにより、第2ブレーキステータ18bと第2ブレーキロータ16bとが係合した状態を維持する。したがって、パーキング時に第1駆動用モータ7aの出力軸8aを固定するための専用の制動用モータを用いる必要がないため、図4に示す例では、第1制動用モータ22aなどが設けられていない。
上記の第5駆動装置50は、直進走行時には、前述したようにクラッチアクチュエータ57への通電をせずに、クラッチディスク54とプレッシャープレート55とを係合して、各駆動用モータ7a,7bの少なくともいずれか一方から駆動力を出力する。そのように制御することにより、左前輪1aと右前輪1bとには同一のトルクを伝達することができるとともに、同一回転数で回転させることができる。なお、駆動時と制動時とは、クラッチアクチュエータ57を制御するものの、制動時は、上記各駆動用モータ7a,7bに代えて、あるいは各駆動用モータ7a,7bとともに各摩擦ブレーキ9a,9bを制御する。
一方、旋回走行している場合など、左前輪1aと右前輪1bとを相対回転させる場合、あるいは左前輪1aと右前輪1bとに伝達するトルクを異ならせる場合には、前述したようにクラッチアクチュエータ57に通電して、クラッチディスク54とプレッシャープレート55を相対回転可能にし、各駆動用モータ7a,7bの少なくともいずれか一方から駆動力を出力する。そのように制御することにより、左前輪1aと右前輪1bとに伝達するトルクが異ならせることができるとともに、左前輪1aと右前輪1bとを相対回転させることができる。なお、駆動時と制動時とは、クラッチアクチュエータ57を制御するものの、制動時は、上記各駆動用モータ7a,7bに代えて、あるいは各駆動用モータ7a,7bとともに各摩擦ブレーキ9a,9bを制御する。
また、図5に示す車両Veは、前述したように第5駆動装置50と同様に構成され、かつ一対の後輪3a,3bに駆動トルクを伝達する第6駆動装置51を備えている。すなわち、第6駆動装置51は、第5駆動装置50における差動制御装置58と同様に構成された差動制御装置を備え、他の構成は、第3駆動装置24および第4駆動装置25と同様に構成されている。以下の説明では、第3駆動装置24および第4駆動装置25と同様の構成には同一の符号を付す。また、これ以降の説明では、第5駆動装置50に設けられた差動制御装置58の名称に「第5」を付すとともに、参照符号に「e」を付し、第6駆動装置51に設けられた差動制御装置58の名称に「第6」を付すとともに、参照符号に「f」を付す。
それら各駆動装置51,52を制御するための第3ECU59および第4ECU60が設けられている。これらのECU59,60の構成や機能は、上記第1ECU26および第2ECU27と同様であるため、その説明を省略する。
一方、第3ECU59には、第1ECU26における第1EPBアクチュエータ22aに代えて、第5クラッチアクチュエータ57eが接続され、第2ECU27における第3EPBアクチュエータ22cに代えて、第6クラッチアクチュエータ57fが接続されている。その接続関係を説明するためのシステム構成を図5に示し、ブロック図を図6に示している。図5および図6に示すように第3ECU59に入力される信号は、第1ECU26に入力される信号と同様であり、第4ECU60に入力される信号は、第2ECU27に入力される信号と同様である。以下の説明では、図1および図3と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。なお、図5では、第3ECU59との接続関係を実線で示し、第4ECU60との接続関係を破線で示している。
前述した第1ECU26と第2ECU27と同様に、第3ECU59と第4ECU60とは、互いに信号を送受信することができる。そして、走行中にアクセルペダルが踏み込まれた場合には、踏力センサ29で検出された踏力を採用し、またストロークセンサで検出されたストロークを採用して、各車輪1a,1b,3a,3bに作用させる駆動力を演算する。ついで、その演算された駆動力に応じて、各摩擦アクチュエータ19a,19b,19c,19dや、各回生アクチュエータ7a,7b,7c,7dに通電する電力を求めて、各電源38,39および各高圧電源40,41から電力を供給する。その際に、例えば、左前輪1aと右前輪1bとに伝達するトルクを異ならせる必要があれば、第5クラッチアクチュエータ57eと第6クラッチアクチュエータ57fとに通電するなどして、左前輪1aと右前輪1bとに作用するトルクや、左後輪3aと右後輪3bとに作用するトルクを変更する。
また、パーキングブレーキスイッチ37がオンされた場合など駐車する場合には、各EPBアクチュエータ22b,22dに一旦電力を供給して、各駆動装置51,52に設けられたブレーキステータ18b,18dとブレーキロータ16b,16dとを係合させる。
すなわち、第3ECU59と第4ECU60とを協調制御することにより、各車輪1a,1b,3a,3bに要求される駆動トルクを発生させることができる。
また、踏力センサ29、ストロークセンサ28、位置センサ32、舵角センサ33、ヨーレートセンサ34、横加速度センサ35、第3ECU59、第1電源38、第1高圧電源40、第2摩擦アクチュエータ19b、第3摩擦アクチュエータ19c、第1回生アクチュエータ7a、第4回生アクチュエータ7d、第4EPBアクチュエータ22d、第5クラッチアクチュエータ57eで第3駆動システム61を構成し、踏力センサ29、ストロークセンサ28、位置センサ32、舵角センサ33、ヨーレートセンサ34、横加速度センサ35、第4ECU60、第2電源39、第2高圧電源41、第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7c、第2EPBアクチュエータ22b、第6クラッチアクチュエータ57fで第4駆動システム62を構成している。それらの駆動システム61,62は、他方の駆動システム61(62)のいずれかの部材がフェールした場合であっても、車両Veの走行安定性を維持しつつ駆動トルクを発生させることができるとともに、駐車状態を維持することができるように構成されている。
ここで、第3駆動システム61がフェールした場合について説明する。まず、第3駆動システム61のいずれかの部材がフェールしたことを判断する。この判断は、上述した例で説明した上記第1駆動システム46がフェールしたことの判断と同様に行うことができる。すなわち、第3ECU59と第4ECU60とには、それぞれ判断部63,64が設けられており、それらの判断部63,64により、第3駆動システム61や第4駆動システム62がフェールしたことを判断することができる。第3駆動システム61がフェールした場合には、第4ECU60は、踏力センサ29およびストロークセンサ28から入力される信号に基づいて要求駆動力を求め、その求められた要求駆動力に基づいて第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cに通電する電力を求める。そして、その求められた電力を、第2電源39や第2高圧電源41から第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cに通電する。
なお、第2回生アクチュエータ7bに代えて、第2EPBアクチュエータ22bに通電してもよく、また第2回生アクチュエータ7bとともに第2EPBアクチュエータ22bに通電してもよい。これは、前述したようにEPB23は、摩擦ブレーキ9のバックアップとして機能するためである。
また、旋回時など車両Veの左右の駆動力を異ならせる必要がある場合などには、第4ECU60は、ヨーレートセンサ34や横加速度センサ35などから入力される信号に基づいて要求駆動力を求め、旋回方向に対して外輪側の車輪のみにトルクを与えるように制御する。つまり、第6クラッチアクチュエータ57fに通電し、第6クラッチディスク54fと第6プレッシャープレート55fとの伝達トルク容量を低減するとともに、第3回生アクチュエータ7cから出力するトルクや、第4摩擦アクチュエータ19dで生じる駆動トルクを適宜制御する。
そのように第1摩擦アクチュエータ19a、第4摩擦アクチュエータ19d、第2回生アクチュエータ7b、第3回生アクチュエータ7cに通電することにより、一対の前輪1a,1bと、一対の後輪3a,3bとのそれぞれに駆動トルクを作用させることができ、また、第6クラッチアクチュエータ57fを制御することにより、車両Veの左右の駆動力を異ならせることができる。
上述したように第3駆動システム61がフェールした場合であっても、第4駆動システム62により第1摩擦アクチュエータ19aを作動させて左前輪1aに駆動トルクを伝達することができるとともに、第4摩擦アクチュエータ19dを作動させて右後輪3bに駆動トルクを伝達することができる。このように車両Veの対角線上に設けられた各車輪1a,3bに駆動トルクを伝達することにより、車両Veを安定的に退避走行させることができ、また車両Veにヨーが生じるなどによる車両Veの走行安定性の悪化を抑制しつつ、車両Veの駆動力を作用させることができる。すなわち、第5駆動装置50と第6駆動装置51とを異なる駆動システム61,62とすることにより、一方の駆動システム61(62)がフェールした場合であっても、他方の駆動システム62(61)で車両Veの走行安定性の悪化を抑制しつつ、車両Veの駆動力を作用させることができる。
また、上述したように、第6クラッチアクチュエータ57fを制御することにより、車両Veの左右の駆動力を異ならせることができ、その際に、旋回方向に対して外輪側の車輪のみにトルクを与え、内輪側の車輪にトルクを与えないことにより、差動制御装置58で連結された制御不能の車輪(内輪)は、逆回転しないため、過剰に旋回することなどを回避でき、その結果、旋回時の車両の安定性あるいは安全性を向上させることができる。またこのように車両Veの左右の駆動力を異ならせることができるから、旋回時に一方の駆動システム61(62)がフェールした場合であっても、車両Veを安定的に退避走行させることができる。
また、上記のように第4ECU62に第2回生アクチュエータ7bや第3回生アクチュエータ7cを接続することにより、一対の前輪1a,1bおよび一対の後輪3a,3bに駆動トルクを作用させることができるため、左前輪1aと右後輪3bとに駆動トルクを作用させる構成よりも、大きな駆動トルクを出力することができる。すなわち、運転者が要求する駆動力と、車両Veで生じることが可能な駆動力とが乖離することを抑制することができる。
なお、上記のそれぞれに説明した駆動システムSは、いずれか一方のECUがフェールしたことを監視するための、他のECUを備えていてもよく、その場合は、他のECUから他方のECUに、一方のECUがフェールした情報を送信し、その情報を各判断部が受信することにより、相手側のECUがフェールしたことを判断するように構成してもよい。
また、この発明の実施形態における車両は、上述したペダル装置を備えていない車両、すなわち運転者が運転操作することなく、走行することができる自動運転車両であってもよい。その場合には、上述した各例におけるECUに入力される信号は、車両の周辺の状況を検出するレーダーやレーザーなどからの信号など、走行するために要する信号であってよい。そのように自動運転車両を対象とした場合には、いずれかのECUがフェールした場合であっても、いわゆるリンプホーム走行を行うことができる。