以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態における燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、カソードガスを供給及び排出するためのカソード給排機構12と、アノードガスを供給及び排出するためのアノード給排機構14と、カソードガスの動力を回収するための動力回収機構16と、燃料電池スタック10を冷却するためのスタック冷却機構17と、コントローラ20と、を有している。
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池を積層した積層電池である。燃料電池スタック10は、アノード給排機構14からのアノードガス(水素)の供給及びカソード給排機構12からのカソードガス(空気)の供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。この発電電力は、燃料電池システム100を作動するときに使用される各種の補機類や、図示しない車輪駆動用のモータで使用される。燃料電池スタック10の正極端子及び負極端子には、燃料電池スタック10に形成された電解質膜の湿潤状態に相関するインピーダンスを計測する計測装置11が接続されている。
計測装置11は、燃料電池スタック10の正極端子に交流電流を供給し、燃料電池スタック10の正極端子と負極端子に生じる電圧の交流成分を検出する。そして計測装置11は、供給した交流電流と検出した電圧の交流成分とに基づいて、燃料電池スタック10の交流抵抗、すなわちHFR(High frequency Resistance)を演算する。計測装置11は、演算したHFRをHFR計測値としてコントローラ20に入力する。なお、計測装置11は、燃料電池スタック10の出力圧力や出力電流などを計測してもよい。
カソード給排機構12は、カソードガス供給通路22と、カソードガス排出通路24と、を備えている。
カソードガス供給通路22は、燃料電池スタック10に供給される空気が流れる通路である。カソードガス供給通路22の一端はガスフィルタ23に接続され、他端は燃料電池スタック10に接続される。
そして、カソードガス供給通路22には、上流から順に、エアフローセンサ26と、インタークーラ28と、空気圧力センサ30と、カソードバイパス弁32を有するカソードバイパス通路33と、が設けられている。
エアフローセンサ26は、カソードガス供給通路22において、動力回収機構16のコンプレッサ50の吸気入口に設けられている。エアフローセンサ26は、コンプレッサ50に吸入される空気の流量を検出する。以下では、このエアフローセンサ26の検出値を「コンプレッサ流量検出値」とも記載する。エアフローセンサ26で検出されたコンプレッサ流量検出値は、コントローラ20に入力される。
インタークーラ28は、コンプレッサ50から吐出された空気を冷却する。空気圧力センサ30は、カソードガス供給通路22内の圧力、すなわち燃料電池スタック10に供給される空気の圧力を検出する。以下では、この空気圧力センサ30の検出値を「空気圧力検出値」とも記載する。空気圧力センサ30で検出された空気圧力検出値は、コントローラ20に入力される。
カソードバイパス弁32は、燃料電池スタック10をバイパスしてカソードガス排出通路24に供給する空気量を調節する調圧弁であり、コントローラ20によって開閉制御される。カソードバイパス弁32は、コンプレッサ50から供給された空気の一部を、カソードバイパス通路33を介して燃料電池スタック10をバイパスしてカソードガス排出通路24に排出する。
すなわち、カソードバイパス弁32は、燃料電池スタック10へ供給する空気流量を、燃料電池スタック10の要求に応じて調節する。また、本実施形態では、カソードバイパス通路33は、カソードガス排出通路24における後述するミキサ34の上流に連通されている。したがって、カソードガス供給通路22内の空気をカソードガス排出通路24に供給し、ミキサ34に供給するカソード排ガスの酸素濃度を向上させることができる。なお、カソードバイパス弁32の開閉は、コントローラ20により制御される。
さらに、カソードガス排出通路24は、一端が燃料電池スタック10のカソード出口に接続されるとともに、他端がタービン52に連結されている。カソードガス排出通路24には、燃料電池スタック10からタービン52に向かって順に、ミキサ34と、触媒燃焼器36と、タービン入口温度センサ38と、が設けられている。
ミキサ34は、アノード給排機構14から供給されるアノードガスとカソードガス排出通路24から流入するカソード排ガスを混合して混合ガスとし、触媒燃焼器36に送り出す。
触媒燃焼器36は、白金等による触媒作用でこの混合ガスを触媒燃焼させる。なお、ミキサ34から流入して触媒燃焼器36に供給される混合ガスには、上述したカソードバイパス通路33を介してカソードガス排出通路24に供給される高酸素濃度の空気と、燃料電池スタック10から排出された低酸素濃度のカソード排ガスが含まれることとなる。なお、本実施形態では、燃焼器として触媒燃焼器36を用いることで、拡散燃焼方式の燃焼器や希薄予混合燃焼方式の燃焼器を用いる場合と比較して、窒素化合物(Nox)の発生が抑制される。
タービン入口温度センサ38は、触媒燃焼器36で燃焼された後に残った燃焼後ガスの温度、すなわち動力回収機構16のタービン52に供給される燃焼後ガスの温度(以下では、「タービン入口温度」とも記載する)を検出する。なお、タービン入口温度センサ38で検出されたタービン入口温度の検出値は、コントローラ20に入力される。
次に、アノード給排機構14について説明する。本実施形態におけるアノード給排機構14は、高圧タンク60と、スタック用アノードガス供給通路62と、燃焼用アノードガス供給通路64と、循環ポンプ71を有するアノードガス循環通路72と、パージ弁73を有するアノードガス排出通路74と、を備えている。
高圧タンク60は、燃料電池スタック10に供給するアノードガスである水素を高圧状態に保って貯蔵するガス貯蔵容器である。
スタック用アノードガス供給通路62は、高圧タンク60から排出される水素を燃料電池スタック10に供給する通路である。スタック用アノードガス供給通路62の一端は高圧タンク60に接続され、他端は燃料電池スタック10のアノード入口孔に接続される。
また、スタック用アノードガス供給通路62には、アノードガス供給弁66と、水素圧力検出センサ67と、が設けられている。アノードガス供給弁66は、燃料電池スタック10への水素の供給量を任意に調節する調圧弁である。水素圧力検出センサ67は、燃料電池スタック10に供給される水素の圧力を検出する。なお、水素圧力検出センサ67で検出された水素圧力の検出値は、コントローラ20に入力される。
一方、燃焼用アノードガス供給通路64は、高圧タンク60から排出される水素の一部を、触媒燃焼器36における燃焼に用いるためにミキサ34に供給する通路である。そして、燃焼用アノードガス供給通路64は、その一端がスタック用アノードガス供給通路62に連通して分岐しており、他端がミキサ34に連結されている。
また、燃焼用アノードガス供給通路64には、ミキサ34への水素供給量を任意に調節する燃焼器水素供給弁68が設けられている。燃焼器水素供給弁68は、その開度が連続的又は段階的に調節されることでミキサ34への水素供給量を適宜調節する調圧弁である。
アノードガス循環通路72は、燃料電池スタック10から排出されるアノードオフガスを燃料電池スタック10に供給されるアノードガスに合流させることでアノードオフガスを燃料電池スタック1に導入して循環させる通路である。アノードガス循環通路72の一端は燃料電池スタック10のアノード出口孔に接続され、他端はアノードガス供給弁66よりも下流に位置するスタック用アノードガス供給通路62に接続される。
循環ポンプ71は、アノードガス循環通路72に設けられ、アノード排ガスを燃料電池スタック10の入口に供給するためのポンプである。循環ポンプ71の回転速度はコントローラ20によって制御される。例えば、燃料電池スタック10における電解質膜の湿潤度を上げるときに循環ポンプ71の回転速度を高くする。
パージ弁73は、燃料電池スタック10のカソード側からアノード側に透過してくる窒素をアノード系外に排水するための弁である。パージ弁73はコントローラ20によって開閉制御される。
アノードガス排出通路74は、燃料電池スタック10から排出されるアノード排ガス中の窒素を、パージ弁73を介して排出する通路である。アノードガス排出通路74の一端はアノードガス循環通路72に接続される。また、パージ弁73を開いて窒素を排出する際には水素も同時に排出されるため、排出される水素を希釈するためにアノードガス排出通路74の他端はタービン排気通路53に接続される。
次に、動力回収機構16について説明する。動力回収機構16は、コンプレッサ50と、タービン52と、コンプレッサ駆動モータ54と、を備えている。
コンプレッサ50は、コンプレッサ駆動モータ54及びタービン52と回転駆動軸57を介して接続されている。コンプレッサ50は、回転駆動されて外気を吸入し、カソードガス供給通路22を介して燃料電池スタック10にカソードガスを供給するように構成されている。なお、コンプレッサ50は、コンプレッサ駆動モータ54及びタービン52の一方又は双方の動力のいずれかにより駆動することができる。
コンプレッサ駆動モータ54には、トルクセンサ55及び回転速度センサ56が設けられている。トルクセンサ55は、コンプレッサ駆動モータ54のトルクを検出する。以下では、このトルクセンサ55の検出値を「コンプレッサトルク検出値」と記載する。トルクセンサ55で検出されたコンプレッサトルク検出値は、コントローラ20に入力される。回転速度センサ56は、コンプレッサ駆動モータ54の回転速度を検出する。以下では、この回転速度センサ56の検出値を「コンプレッサ回転速度検出値」と記載する。回転速度センサ56で検出されたコンプレッサ回転速度検出値は、コントローラ20に入力される。
タービン52は、コンプレッサ駆動モータ54により回転駆動軸57を介して入力される動力により回転駆動される。さらに、本実施形態では、タービン52は、触媒燃焼器36から供給される燃焼後ガスによっても回転駆動される。すなわち、タービン52は、コンプレッサ駆動モータ54により駆動されつつも、触媒燃焼器36からの燃焼後ガスによっても動力供給を受けることができる。なお、タービン52の駆動に使用された後の燃焼後ガスは、タービン排気通路53を介して排出される。
また、タービン52からの動力の出力は、回転駆動軸57を介してコンプレッサ50に伝達され、コンプレッサ50の回転駆動力として使用される。一方で、タービン52からの動力の出力を、コンプレッサ50の回転駆動力だけではなく、燃料電池システム100内の他の任意の動力要求機構において使用することもできる。
したがって、例えばコンプレッサ50等の動力要求機構に応じて要求される動力が比較的大きく、タービン52の出力動力を増加させる必要がある場合には、上記コンプレッサ駆動モータ54からタービン52へ回転駆動力を、上記燃焼後ガスの供給によって好適に補うことができる。
さらに、本実施形態において、タービン52には、当該タービン52へ供給される燃焼後ガスの圧力を調節するノズルベーン58が設けられている。
図2A及び図2Bは、タービン52に設けられたノズルベーン58の概略構造を示す図である。特に、図2Aは、ノズルベーン58が開いている状態を示し、図2Bは、ノズルベーン58が閉まっている状態を示している。また、図2A及び図2Bにおいては、タービンホイール52aに流入する燃焼後ガスの流れ方向を矢印Aで模式的に示している。
図2Aに示すように、ノズルベーン58が開いている状態では、タービンホイール52aへの燃焼後ガスの供給流量に対する圧力の低下量が小さいため、燃焼後ガスの供給流量に対するタービン52の回収動力も小さくなる。
一方、図2Bに示すように、ノズルベーン58が閉じている状態では、タービンホイール52aへの燃焼後ガスの供給流量に対する圧力の低下量が大きいため、燃焼後ガスの供給流量に対するタービン52の回収動力も大きくなる。
図1に戻り、コンプレッサ駆動モータ54は、外部電源等から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能、及び外力によって回転駆動されることで発電する発電機としての機能を有する。コンプレッサ駆動モータ54は、図示しないモータケースと、モータケースの内周面に固定されるステータと、ステータの内側に回転可能に配置されるロータと、ロータに設けられた回転駆動軸57と、を備える。
そして、コンプレッサ駆動モータ54は、回転駆動軸57の一方側でコンプレッサ50に接続されるとともに、回転駆動軸57の他方側でタービン52に接続される。したがって、動力回収機構16では、コンプレッサ駆動モータ54がコンプレッサ50に駆動力を伝達することができる。また、上述のように、タービン52によって得られた回転駆動力を、回転駆動軸57を介してコンプレッサ50に伝達することが可能である。
次に、スタック冷却機構17について説明する。スタック冷却機構17は、冷却水循環流路76と、冷却水循環流路76を流れる冷却水を外気等と熱交換し、当該冷却水を冷却するラジエータ77と、を有している。
冷却水循環流路76は、図示しない燃料電池スタック10の冷却水通路を含む環状循環路として構成されている。この冷却水循環流路76には、冷却水循環ポンプ78が設けられており、これにより冷却水の循環が可能となっている。
そして、冷却水循環流路76を循環する冷却水は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aからスタック内に供給されるとともに、燃料電池スタック10の冷却水出口10bから排出される方向に流れる。
さらに、冷却水循環流路76には、ラジエータ77よりも上流の位置において、ラジエータバイパス三方弁80が設けられている。ラジエータバイパス三方弁80は、ラジエータ77に供給される冷却水の量を調節する。例えば、冷却水の温度が比較的高い場合には、ラジエータバイパス三方弁80を開放状態として、冷却水をラジエータ77に循環させる。一方で、冷却水の温度が比較的高い場合には、ラジエータバイパス三方弁80を閉塞状態として、ラジエータ77をバイパスするように冷却水をバイパス路80aに流す。
また、冷却水循環流路76には、燃料電池スタック10の冷却水入口10aの近傍に入口水温センサ81が設けられ、燃料電池スタック10の冷却水出口10bの近傍に出口水温センサ82が設けられている。
入口水温センサ81は、燃料電池スタック10へ流入される冷却水の温度を検出する。以下では、入口水温センサ81の検出値を「スタック入口水温検出値」とも記載する。出口水温センサ82は、燃料電池スタック10から排出される冷却水の温度を検出する。以下では、出口水温センサ82の検出値を「スタック出口水温検出値」とも記載する。入口水温センサ81で検出されたスタック入口水温検出値と出口水温センサ82で検出されたスタック出口水温検出値は、コントローラ20に入力される。
さらに、上述のように構成される燃料電池システム100は、当該システムを統括的に制御するコントローラ20を有している。
コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ20には、燃料電池システム100の各種センサからの信号の他、大気の圧力を検出する大気圧センサ111などの燃料電池システム100の作動状態を検出する各種センサからの信号が入力される。
さらに、コントローラ20には、燃料電池スタック10に接続された負荷装置110から、燃料電池スタック10に要求される要求電力に関する発電要求信号が入力される。負荷装置110は、例えば、車輪駆動用のモータや二次電池などによって構成される。本実施形態では、図示されていないアクセルペダルセンサで検出されるアクセルペダルの踏込み量を示す検出信号が大きくなるほど、負荷装置110の要求電力は大きくなるため、コントローラ20に入力される発電要求信号の信号レベルは高くなる。
コントローラ20は、これら入力信号等を用いて、コンプレッサ50、冷却水循環ポンプ78、及び各種弁32、66、68、80等の駆動制御を行う。例えば、コントローラ20は、負荷装置110の発電要求信号に基づいて、燃料電池スタック10への空気供給流量及び圧力の目標値や、燃料電池スタック10への水素供給圧力の目標値を算出し、算出結果に応じて、コンプレッサ50のトルクや、ノズルベーン58の開度、アノードガス供給弁66の開度を制御する。
図3は、本実施形態におけるコントローラ20の制御方法についての処理手順の一例を示すフローチャートである。この処理手順は、所定の周期、例えば数ms(ミリセカンド)で繰り返し行われる。
ステップS910においてコントローラ20は、燃料電池スタック10から取り出すべき電流である電流目標値Is_tを算出し、算出した電流目標値Is_tに基づいてコンプレッサ50、ノズルベーン58、アノードガス供給弁66及び燃焼器水素供給弁68を駆動する。
ここにいう電流目標値Is_tは、燃料電池スタック10に接続された電気負荷や二次電池などの使用状態に応じて定められる。例えば、電流目標値Is_tは、車輪駆動用のモータの駆動に必要となる電力、すなわち負荷装置110から要求される要求電力に基づいて算出される。本実施形態では、燃料電池スタック10が発電した電力は、車輪駆動用のモータだけでなく、燃料電池スタック10の補機であるコンプレッサ50及び冷却水循環ポンプ78にも供給される。そのため、電流目標値Is_tは、車両駆動用モータ、コンプレッサ50及び冷却水循環ポンプ78の各要求電力との総和に基づいて、燃料電池スタック10のIV特性マップなどから算出される。
したがって、コントローラ20は、燃料電池スタック10に要求される負荷に基づいて、燃料電池スタック10にアノードガス及びカソードガスを供給するガス供給装置を駆動するのに必要となる動力を制御する。なお、ステップS910は、燃料電池スタック10の負荷に基づいてガス供給装置の動力を制御する動力制御ステップに対応する。
ステップS920においてコントローラ20は、燃料電池スタック10の負荷の一部であるコンプレッサ50の要求動力に関する補機負荷情報に応じて、タービン52の回収動力が大きくなるように触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる。
本実施形態では、補機負荷情報として電流目標値Is_tが用いられる。これは、電流目標値Is_tが大きくなるほど、燃料電池スタック10の発電に必要となる空気供給流量及び圧力が高くなるため、コンプレッサ50を駆動するのに必要となる動力が大きくなるからである。なお、補機負荷情報としては、コンプレッサ50の要求動力に相関するパラメータであればよく、コンプレッサ50のトルクや、回転速度、消費電力などの推定値又は検出値であってもよい。このように補機負荷情報には、燃料電池スタック10に要求される電力のうち、補機であるコンプレッサ50の消費電力に関連する情報が設定される。
具体的には、コントローラ20は、燃料電池スタック10に要求される負荷が高いときには、負荷が低いときに比べて触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる。これにより、触媒燃焼器36から排出される燃焼後ガスの温度が上昇するため、タービン52によって回収される動力が増加してコンプレッサ50の動力をアシストするアシスト力が大きくなる。よって、燃料電池スタック10の負荷の上昇に伴うコンプレッサ50の消費電力の増加を抑制することができる。
ステップS920の処理が終了すると、燃料電池システムの制御方法が終了する。なお、本実施形態ではステップS910の処理を実行した後にステップS920の処理を実行したが、先にステップS920の処理を実行し、その後にステップS910の処理を実行するようにしてもよい。
以上のように、燃料電池スタック10に要求される負荷が高くなり、コンプレッサ50の要求動力が大きくなっても、触媒燃焼器36への水素供給量を増やすことにより、コンプレッサ50における消費電力の増加を抑制することができる。
また、本実施形態では、図1に示したように、コンプレッサ50から吐出される空気流量であるコンプレッサ流量を、触媒燃焼器36を介してタービン52に供給する構成になっている。この構成により、電流目標値Is_tが大きくなるほど、コンプレッサ流量が大きくなるため触媒燃焼器36への水素供給を増やしても、触媒燃焼器36での燃焼の際に空気が不足するという事態を低減することができる。したがって、触媒燃焼器36から未燃ガスが排出されにくくなるので、無駄な水素の供給を回避することができる。
さらに、燃料電池スタック10の負荷が高い状態、いわゆる高負荷運転時には、タービン52に流入する燃焼後ガスの流量及び圧力が大きくなるのでタービン52の回収動力が大きくなる。これに加えて、本実施形態では、触媒燃焼器36への水素供給量を増やすことでタービン52に流入する燃焼後ガスの温度を高くしているので、タービン52の回収動力がより一層大きくなる。
すなわち、高負荷運転時において、タービン52に流入する燃焼後ガスの流量、圧力、温度の3つの状態を同時に上昇させることにより、タービン52の回収動力を速やかに増大させることができる。このため、コンプレッサ50の消費電力が低減されるので、コンプレッサ駆動モータ54を小型にすることが可能となる。
以上のように、燃料電池システム100における燃費の低下を抑制しつつ、コンプレッサ50のコストを低減することができる。
図4は、燃料電池スタック10の負荷に応じて触媒燃焼器36への水素供給量を制御する制御手法の一例を示す図である。
図4(a)は、動力回収機構16の消費電力の変化を示す図である。図4(a)には、コンプレッサ50の駆動に必要となる動力が破線により示され、タービン52の回収動力が一点鎖線により示され、コンプレッサ50の消費電力が実線により示されている。なお、コンプレッサ50の消費電力は、コンプレッサ50の動力からタービン52の回収動力を差し引いた動力をコンプレッサ駆動モータ54で発生させるのに必要となる電力である。
図4(b)は、燃料電池システム100のエネルギー効率の変化を示す図である。図4(c)は、タービン52の入口に流入する燃焼後ガスの温度の変化を示す図である。図4(d)は、燃焼器水素供給弁68から触媒燃焼器36への水素供給量の変化を示す図である。図4(a)〜図4(d)の各図面の横軸は、互いに共通する軸であり、燃料電池スタック1の電流目標値Is_tを示す。
図4(c)及び図4(d)に示すように、タービン52の入口温度が一定となるように、コントローラ20により触媒燃焼器36への水素供給量が制御されている。すなわち、電流目標値Is_tが大きくなるほど、触媒燃焼器36への水素供給量が増加する。
また、図4(a)の点線で示すように、電流目標値Is_tが大きくなるほど、燃料電池スタック1に供給される空気の流量が増加するため、コンプレッサ50の駆動に必要な動力が増加する。
このため、電流目標値Is_tが大きくなるほど、タービン52に流入する燃焼後ガスの温度が一定に維持された状態で燃焼後ガスの流入量が増えるため、図4(a)の一点鎖線で示すように、タービン52で回収される動力が大きくなる。
このように、電流目標値Is_tが小さくなるほど、タービン52の回収動力がコンプレッサ50の動力を超えないように触媒燃焼器36への水素供給量を減らすことにより、触媒燃焼器36で必要以上に水素が消費されるのを抑制することができる。すなわち、図4(b)に示すように、低負荷及び中負荷側でのシステム効率の低下を抑制することができる。
また、図4(a)及び図4(d)に示すように、高負荷側では、触媒燃焼器36への水素供給量を増やすことにより、タービン52の回収動力が増加するため、コンプレッサ50の消費電力を低減することができる。これにより、コンプレッサ駆動モータ54を小型にすることが可能となる。したがって、燃料電池システム100におけるエネルギー効率の低下を抑制しつつ製造コストを低減することができる。
なお、本実施形態ではコンプレッサ駆動モータ54にタービン52を連結したが、これに限られるものではない。例えば、燃料電池スタック10に水素を供給するコンプレッサを備えた燃料電池システムや、コンプレッサを用いて燃料電池スタック10に水素を循環させるアノード循環系の燃料電池システムにおいて、タービン52を水素供給用のコンプレッサに連結するようにしてもよい。このような構成であっても本実施形態と同様の作用効果が得られる。
また、本実施形態では高圧タンク60から触媒燃焼器36に直接、水素を供給する構成であったが、燃料電池スタック10から排出されたアノード排ガスを触媒燃焼器36に供給する構成であってもよい。例えば、アノード循環系の燃料電池システムにおいてアノード循環通路72を流れるアノード排ガスの一部を触媒燃焼器36に供給する構成にしてもよい。また、アノード排ガスだけでなく、高圧タンク60から排出される新たな水素を必要に応じて触媒燃焼器36に供給するものであってもよい。
さらに本実施形態では発電要求信号として燃料電池スタック10の電流目標値Is_tが用いられているが、燃料電池スタック10に要求される負荷を示すパラメータであればよく、燃料電池スタック10の電圧目標値を用いるようにしてもよい。
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池スタック10にカソードガス及びアノードガスを供給するガス供給装置を構成するカソード給排機構12又はアノード給排機構14の動力をアシストするタービン52を備える。さらに燃料電池システム100は、カソード給排機構12からのカソードガスを用いることにより、燃料電池スタック10での使用前又は使用後のアノードガスを燃焼させて燃焼後ガスをタービン52に排出する触媒燃焼器36と、アクチュエータである燃焼器水素供給弁68とを備える。
この燃料電池システム100は、燃料電池スタック10に要求される負荷、例えば電流目標値Is_tに基づいて、カソード給排機構12又はアノード給排機構14の動力を制御する。そして燃料電池システム100は、燃料電池スタック10に要求される負荷の全部又は一部が高いときには、その負荷が低いときに比べてタービン52の回収動力が大きくなるように触媒燃焼器36へのアノードガスの供給量を増加させる。なお、燃料電池スタック10に要求される負荷の全部又は一部とは、例えば、電流目標値Is_tやコンプレッサ50の消費電力などが挙げられる。
これにより、燃料電池スタック10に要求される負荷が高いときには、触媒燃焼器36へのアノードガスの供給量が増加するので、触媒燃焼器36からタービン52への燃焼後ガスの温度が上昇してタービン52の回収動力が大きくなる。よって、高負荷時におけるコンプレッサ50の消費電力の増加が抑制されるので、コンプレッサ駆動モータ54を小型にすることが可能となる。
一方、燃料電池スタック10に要求される負荷が低いときには、触媒燃焼器36へのアノードガスの供給量が減少するので、タービン52の回収動力が小さくなり、触媒燃焼器36で無用にアノードガスが消費されるのを抑制することができる。したがって、燃料電池システム100においてエネルギー効率の低下を抑制しつつ製造コストを低減することができる。
また、本実施形態によれば、カソード給排機構12は、タービン52に連結され、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するコンプレッサ50を含み、コンプレッサ50は、燃料電池スタック10に電気的に接続される。そして燃料電池システム100は、燃料電池スタック10から車輪駆動用のモータ及びコンプレッサ50に電力を供給する。
このように、燃料電池システム100は、燃料電池スタック10からコンプレッサ50に電力を供給する構成である。このため、図4(a)の実線に示したように、高負荷運転時においてコンプレッサ50の消費電力が低減されるので、燃料電池スタック10の発電量を低減することができる。したがって、燃料電池スタック10に積層する燃料電池の枚数を減らすことが可能になるので、燃料電池スタック10の製造コストを抑制することができる。すなわち、コンプレッサ50の小型化に加えて燃料電池スタック10の小型化も可能になるため、燃料電池システム100の製造コストを大幅に抑制することができるようになる。
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態における燃料電池システムの構成について説明する。なお、本実施形態における燃料電池システム100の基本構成は、図1に示した各構成と同じであるため、以下では同一符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施形態における燃料電池システム100の作動制御について、図5〜図9に示すブロック図を参照して説明する。なお、図5〜図9に示すブロック図における各ブロックの機能は、コントローラ20により実現される。
図5は、本実施形態に係る、カソードバイパス弁32、ノズルベーン58、燃焼器水素供給弁68の開度、及びコンプレッサ50のトルクに対するフィードバック(F/B)制御を説明する制御ブロック図である。
図5に示す制御ブロックは、膜湿潤F/B制御ブロックB100と、空気圧力目標値演算ブロックB101と、空気流量目標値演算ブロックB102と、タービン入口温度目標値演算ブロックB103と、燃焼器水素量F/B制御ブロックB104と、空気系F/B制御ブロックB105と、バイパス空気量制御ブロックB106と、を有する。
膜湿潤F/B制御ブロックB100は、燃料電池スタック10に形成される電解質膜の湿潤状態を適切に保つように、当該湿潤状態と相関するHFR値を制御する。
本実施形態では、膜湿潤F/B制御ブロックB100には、HFR目標値と、HFR計測値とが入力される。HFR目標値は、燃料電池スタック10の発電電力とHFR目標値との関係を定めたマップ等を用いて予め定められる。HFR計測値は、燃料電池スタック10に設けられる計測装置11を用いて計測される。
膜湿潤F/B制御ブロックB100は、HFR計測値がHFR目標値に近づくように、燃料電池システム100の作動状態を調節する観点から、要求される空気圧力(以下では、「湿潤要求空気圧力Ph_r」とも記載する)及び空気流量(以下では、「湿潤要求空気流量Fh_r」とも記載する)を算出する。すなわち、膜湿潤F/B制御ブロックB100は、HFR目標値に基づいて、湿潤要求空気圧力Ph_rと、湿潤要求空気流量Fh_rとを算出する。
そして、膜湿潤F/B制御ブロックB100は、この湿潤要求空気圧力Ph_rを空気圧力目標値演算ブロックB101に出力するとともに、湿潤要求空気流量Fh_rを空気流量目標値演算ブロックB102に出力する。
空気圧力目標値演算ブロックB101は、燃料電池スタック10から取り出すべき電流の目標値である電流目標値Is_tに基づいて、燃料電池スタック10に供給すべき空気圧力の目標値である空気圧力目標値Pc_tを演算する。
本実施形態では、空気圧力目標値演算ブロックB101には、電流目標値Is_tと、スタック温度検出値Ts_dと、膜湿潤F/B制御ブロックB100で算出された湿潤要求空気圧力Ph_rと、が入力される。スタック温度検出値Ts_dは、入口水温センサ81及び出口水温センサ82で検出された各検出値を平均した値である。なお、各検出値のいずれか一方の値が用いられてもよい。空気圧力目標値演算ブロックB101は、上述の電流目標値Is_t、スタック温度検出値Ts_d、及び湿潤要求空気圧力Ph_rに基づいて、燃料電池スタック10に供給すべき空気圧力の目標値である空気圧力目標値Pc_tを算出する。
図6は、空気圧力目標値演算ブロックB101により実行される空気圧力目標値Pc_tの算出方法の詳細を示すブロック図である。当図に示すブロックは、発電要求空気圧力算出ブロックB200と、マックスセレクトブロックB201と、を有する。
発電要求空気圧力算出ブロックB200には、電流目標値Is_tとスタック温度検出値Ts_dと、が入力される。そして、発電要求空気圧力算出ブロックB200は、予め記憶されたマップに基づいて、電流目標値Is_t及びスタック温度検出値Ts_dから、燃料電池スタック10の発電に必要となる空気圧力である発電要求空気圧力Pg_rを算出する。さらに、発電要求空気圧力算出ブロックB200は、発電要求空気圧力Ps_rをマックスセレクトブロックB201に出力する。図に示す発電要求空気圧力算出ブロックB200のマップから理解されるように、電流目標値Is_tが大きくなるほど、発電要求空気圧力Ps_rは大きくなるとともに、スタック温度検出値Ts_dが高くなるほど発電要求空気圧力Ps_rは大きくなる。
マックスセレクトブロックB201には、発電要求空気圧力算出ブロックB200で算出された発電要求空気圧力Ps_rと、膜湿潤F/B制御ブロックB100で算出された湿潤要求空気圧力Ph_rと、が入力される。そして、マックスセレクトブロックB201は、発電要求空気圧力Ps_r及び湿潤要求空気圧力Ph_rの内の大きい方の値を空気圧力目標値Pc_tとして出力する。したがって、図4に示すブロックでは、燃料電池スタック10の発電状態を制御する上で要求される空気圧力(発電要求空気圧力Pg_r)、及び電解質膜の湿潤状態を操作する上で要求される空気圧力(湿潤要求空気圧力Ph_r)を考慮して、最大の値が空気圧力目標値Pc_tとして設定されることとなる。
図5に戻り、空気流量目標値演算ブロックB102は、電流目標値Is_tに基づいて、コンプレッサ流量目標値Fco_t及びスタック流量目標値Fs_tを演算する。スタック流量目標値Fs_tは、燃料電池スタック10が目標電力を発電したときに、燃料電池スタック10のカソード電極内で電極反応に必要なスタック空気供給流量に相当する。換言すれば、スタック流量目標値Fs_tは、目標電力を発電するために、すなわち出力電流を電流目標値Is_tとするために必要なスタック空気供給流量に相当する。
本実施形態では、空気流量目標値演算ブロックB102には、空気圧力目標値演算ブロックB101により算出された空気圧力目標値Pc_t、電流目標値Is_t、スタック温度検出値Ts_d、湿潤要求空気流量Fh_r、及び水素圧力検出センサ67で検出された水素圧力検出値Pa_dが入力される。空気流量目標値演算ブロックB102は、これら空気圧力目標値Pc_t、電流目標値Is_t、スタック温度検出値Ts_d、及び湿潤要求空気流量Fh_rに基づいて、コンプレッサ流量目標値Fco_t及びスタック流量目標値Fs_tを算出する。
図7は、空気流量目標値演算ブロックB102により実行されるスタック流量目標値Fs_t及びコンプレッサ流量目標値Fco_tの算出方法の詳細を示すブロック図である。当図に示すブロックは、発電要求空気流量算出ブロックB300と、マックスセレクトブロックB301と、圧力比目標値演算ブロックB302と、スタック要求コンプレッサ流量算出ブロックB303と、希釈要求流量算出ブロックB304と、マックスセレクトブロックB305と、を有する。
発電要求空気流量算出ブロックB300には、電流目標値Is_tが入力される。発電要求空気流量算出ブロックB300は、予め記憶されたマップに基づいて、電流目標値Is_tから、燃料電池スタック10において発電に必要な空気流量である発電要求空気流量Fg_rを算出する。
図に示すように、発電要求空気流量算出ブロックB300のマップでは、電流目標値Is_tが増大するに伴い、発電要求スタック流量Fs_grも増大する。そして、発電要求空気流量算出ブロックB300は、発電要求空気流量Fg_rをマックスセレクトブロックB301に出力する。
マックスセレクトブロックB301には、発電要求空気流量算出ブロックB300で算出された発電要求空気流量Fg_rと、湿潤要求空気流量Fh_rと、が入力される。そして、マックスセレクトブロックB301は、発電要求空気流量Fg_r及び湿潤要求空気流量Fh_rの内の大きい方の値をスタック流量目標値Fs_tとして出力する。
圧力比目標値演算ブロックB302には、空気圧力目標値Pc_tと大気圧検出値Pai_dが入力される。そして、圧力比目標値演算ブロックB302は、空気圧力目標値Pc_tを大気圧検出値Pai_dで除して圧力比目標値Pc_t/Pai_dを求め、スタック要求コンプレッサ流量算出ブロックB303に出力する。
スタック要求コンプレッサ流量算出ブロックB303には、スタック流量目標値Fs_rと、圧力比目標値Pc_t/Pai_dと、が入力される。そして、スタック要求コンプレッサ流量算出ブロックB303は、スタック流量目標値Fs_r及び圧力比目標値Pc_t/Pai_dに基づいて、予め定められたマップにより、スタック流量目標値Fs_rとなるようにコンプレッサ50に要求される空気流量であるスタック要求コンプレッサ流量Fco_srを算出する。
ここで、図に示すスタック要求コンプレッサ流量算出ブロックB303のマップでは、スタック流量目標値Fs_rが高くなると、スタック要求コンプレッサ流量Fco_srの値は大きくなる。また、圧力比目標値Pc_t/Pai_dが大きくなるほど、スタック要求コンプレッサ流量Fco_srの値は大きくなる。すなわち、スタック流量目標値Fs_tが大きくなれば、コンプレッサ50の出力の増加が要求されることとなるので、スタック要求コンプレッサ流量Fco_srを増加させる。同様に、圧力比目標値Pc_t/Pai_dが大きくなる場合についても、コンプレッサ50の出力の増加が要求されることとなるので、スタック要求コンプレッサ流量Fco_srを増加させる方向の補正がかかる。
そして、スタック要求コンプレッサ流量算出ブロックB303は、算出されたスタック要求コンプレッサ流量Fco_srをマックスセレクトブロックB305に出力する。
希釈要求流量算出ブロックB304には、スタック温度検出値Ts_dと、水素圧力検出センサ67で検出された水素圧力検出値Pan_dと、が入力される。そして、希釈要求流量算出ブロックB304は、予め定められたマップにより、燃料電池スタック10から排出されるアノード排ガスを希釈するために要求される空気流量である希釈要求空気流量Fd_rを算出する。
図に示す希釈要求流量算出ブロックB304のマップでは、水素圧力検出値Pan_dが大きくなるほど、希釈要求空気流量Fd_rも大きくなる。このようにする理由は、水素圧力検出値Pan_dが大きいほど、パージ弁73から排出される水素の排出量が多くなるため、希釈のための空気流量を多くする必要があるからである。また、当該マップでは、スタック温度検出値Ts_dが高くなると、希釈要求空気流量Fd_rは減少する。これは、スタック温度検出値Ts_dが高い状態では燃料電池スタック10の負荷が高く、より燃料電池スタック10内において反応速度が向上し、水素消費量が向上するため、希釈に用いる空気流量を減らす補正を行う必要があるためである。
そして、希釈要求流量算出ブロックB304は、この希釈要求空気流量Fd_rをマックスセレクトブロックB305に出力する。
マックスセレクトブロックB305には、スタック要求コンプレッサ流量算出ブロックB303から出力されたスタック要求コンプレッサ流量Fco_sr、及び希釈要求流量算出ブロックB304で算出された希釈要求コンプレッサ流量Fco_drが入力される。そして、マックスセレクトブロックB305は、スタック要求コンプレッサ流量Fco_sr及び希釈要求コンプレッサ流量Fco_drの内の大きい方の値をコンプレッサ流量目標値Fco_tとして出力する。
すなわち、コンプレッサ流量目標値Fco_tは、燃料電池スタック10の発電要求と、電解質膜の湿潤状態を維持するための湿潤要求と、アノード排ガスの希釈要求とを考慮して決定されることになる。なお、これらの要求に加えて、コンプレッサ50のサージを回避するためのサージ回避要求を考慮してコンプレッサ流量目標値Fco_tを決定してもよい。
図5に戻り、タービン入口温度目標値演算ブロックB103は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量及び圧力に基づいて、触媒燃焼器36からタービン52に排出される燃焼後ガスの温度を制御する。
本実施形態では、タービン入口温度目標値演算ブロックB103には、大気圧センサ111で検出された大気圧検出値Pai_dと、空気圧力目標値演算ブロックB101で算出された空気圧力目標値Pc_tと、空気流量目標値演算ブロックB102で演算されたコンプレッサ流量目標値Fco_tと、が入力される。タービン入口温度目標値演算ブロックB103は、大気圧検出値Pai_d、空気圧力目標値Pc_t及びコンプレッサ流量目標値Fco_tに基づいて、タービン入口温度センサ38により検出されたタービン入口温度が目指すべきタービン52の入口温度の目標値(以下では「タービン入口温度目標値Tt_t」とも記載する)を求める。
図8は、タービン入口温度目標値演算ブロックB103により実行されるタービン入口温度目標値Tt_tの算出方法の詳細を示すブロック図である。当図に示すブロックは、圧力比目標値演算ブロックB400と、タービン入口温度目標値設定ブロックB401と、を有している。
圧力比目標値演算ブロックB400には、空気圧力目標値Pc_tと大気圧検出値Pai_dが入力される。そして、圧力比目標値演算ブロックB400は、空気圧力目標値Pc_tを大気圧検出値Pai_dで除して圧力比目標値Pc_t/Pai_dを求め、タービン入口温度目標値設定ブロックB401に出力する。
タービン入口温度目標値設定ブロックB401には、コンプレッサ流量目標値Fco_tと、圧力比目標値演算ブロックB400で算出された圧力比目標値Pc_t/Pai_dと、が入力される。そして、タービン入口温度目標値設定ブロックB401は、予め記憶されたマップに基づいて、コンプレッサ流量目標値Fco_t及び圧力比目標値Pc_t/Pai_dからタービン入口温度目標値Tt_tを算出する。
図9は、タービン入口温度目標値設定ブロックB401に記録されるマップを説明する観念図である。
図9に示すように、圧力比目標値Pc_t/Pai_dごとに、コンプレッサ流量目標値Fco_tが所定の値(例えばf1、f2、f3)よりも大きくなった場合には、タービン入口温度目標値Tt_tが大きくなる。また、圧力比目標値Pc_t/Pai_dが大きくなるほど、タービン入口温度目標値Tt_tの値は大きくなる。
すなわち、コンプレッサ流量目標値Fco_tが大きくなれば、コンプレッサの出力の増加が要求されることとなるので、タービン入口温度を増加させる。同様に、圧力比目標値Pc_t/Pai_dが大きくなる場合も、コンプレッサの出力の増加が要求されることとなるので、タービン入口温度を増加させる方向の補正がかかる。
図5に戻り、燃焼器水素量F/B制御ブロックB104には、タービン入口温度センサ38で検出されたタービン入口温度検出値Tt_dと、タービン入口温度目標値演算ブロックB103で演算されたタービン入口温度目標値Tt_tと、が入力される。燃焼器水素量F/B制御ブロックB104は、タービン入口温度検出値Tt_dがタービン入口温度目標値Tt_tに収束するように、燃焼器水素供給弁68の開度をフィードバック制御する。
燃焼器水素供給弁68の開度は、燃料電池スタック10への要求負荷やタービン52からの要求動力が高くなるほど大きくする。すなわち、スタック流量目標値Fs_t及びコンプレッサ流量目標値Fco_tの少なくとも何れか一方が増大すると、コンプレッサ50の出力(消費電力)が増大するため、燃焼器水素供給弁68の開度を大きくして触媒燃焼器36への水素供給量を増大させることとなる。これにより、燃料電池スタック10に要求されるトータルの要求電力(負荷)のうちのコンプレッサ50の要求電力に応じた量の水素を触媒燃焼器36に供給することが可能となる。
空気系F/B制御ブロックB105には、各検出値として、エアフローセンサ26で検出されたコンプレッサ流量検出値Fco_dと、空気圧力センサ30で検出された空気圧力検出値Pca_dと、が入力される。さらに、空気系F/B制御ブロックB105には、各目標値として、タービン入口温度目標値Tt_t、コンプレッサ流量目標値Fco_t、及びスタック流量目標値Fs_tが入力される。
そして、空気系F/B制御ブロックB105は、入力された各検出値Fco_d及びPca_dが、入力された各目標値Fco_t、Fs_t、及びPc_tに近づくように、ノズルベーン58の開度、及びコンプレッサ50のトルクをフィードバック制御する。空気系F/B制御ブロックB105は、燃料電池スタック10への要求負荷が高い場合やタービン52の要求動力が高い場合、すなわち、スタック流量目標値Fs_t及びコンプレッサ流量目標値Fco_tの少なくとも何れか一方が増大する場合には、ノズルベーン58の開度を大きくする。
同様に、コンプレッサ50のトルク(動力)は、空気圧力目標値Pc_t、スタック流量目標値Fs_t及びコンプレッサ流量目標値Fco_tの少なくとも一方が増大するほど大きくするように制御される。
バイパス空気量制御ブロックB106には、各検出値として、空気圧力検出値Pca_dと、大気圧力Pai_dと、入口水温センサ81で検出されたスタック入口水温検出値Tsi_dと、が入力される。さらに、バイパス空気量制御ブロックB106には、各目標値として、コンプレッサ流量目標値Fco_t及びスタック流量目標値Fs_tが入力される。バイパス空気量制御ブロックB106は、カソードバイパス通路33に流れる空気流量がコンプレッサ流量目標値Fco_tとスタック流量目標値Fs_tとの差分となるように、空気圧力検出値Pca_d、大気圧力Pai_d、及びスタック入口水温検出値Tsi_dに基づいて、カソードバイパス弁32の開度を制御する。
カソードバイパス弁32は、図7に示したように、希釈要求コンプレッサ流量Fco_drがスタック要求コンプレッサ流量Fco_srよりも上回った場合に燃料電池スタック10への空気流量が増え過ぎないように開かれる。反対に、希釈要求コンプレッサ流量Fco_drがスタック要求コンプレッサ流量Fco_srよりも下回った場合には、カソードバイパス弁32は閉じられる。これにより、排出ガスの水素濃度を規定値以下に維持しつつ、燃料電池スタック10の電解質膜が乾燥するのを回避することができる。
図10は、本実施形態における燃料電池スタック10への要求負荷の変化に伴う触媒燃焼器36への水素供給量の変化を示す図である。
図10(a)〜図10(d)の各図面における縦軸及び横軸は、図4(a)〜図4(d)と同じである。図10の各図面では、本実施形態のコントローラ20による燃料電池システム100の状態変化が実線により示され、図4(a)〜図4(d)で示された燃料電池スタック10の状態変化が点線により示されている。
電流目標値Is_tが電流閾値Th_iよりも小さい場合には、図10(d)に示すように、燃焼器水素供給弁68の開度が固定されて触媒燃焼器36への水素供給量が一定もしくは0に維持される。具体的には、図9に示したように、コンプレッサ流量目標値が、例えば所定の値f1よりも小さい場合にはタービン入口温度目標値が一定の値に設定される。
このため、図10(c)に示すように、タービン入口温度は、図4(c)の温度状態よりも低い状態で一定に維持される。また、触媒燃焼器36への水素供給量は、図4(d)での供給量よりも少ないため、図10(a)に示すようにコンプレッサ50の消費電力は許容値CPco_pまで大きくなってしまうが、図10(b)に示すように触媒燃焼器36への水素供給量を減らした方が燃料電池システム100のエネルギー効率は上昇する。
このように、本実施形態では、運転頻度の高い低負荷の運転状態において、触媒燃焼器36への水素供給量を減らすことにより、燃料電池システム100のエネルギー効率を高くすることができるようになる。
一方、電流目標値Is_tが電流閾値Th_iよりも大きい場合には、図10(d)に示すように、電流目標値Is_tが電流閾値Th_iよりも小さい場合に比べて触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる。具体的には、図9に示したように、コンプレッサ流量目標値が例えば所定の値f1に対して大きくなるほど、タービン入口温度目標値の増加量が大きくなる。
これにより、図10(c)に示すようにタービン入口温度が上昇し、これに伴って図10(a)の一点鎖線で示すようにタービン52の回収動力が上昇するので、コンプレッサ50の消費電力の増加を抑えてコンプレッサ50の消費電力を許容値CPco_pに維持することが可能になる。
このように、本実施形態では、燃料電池スタック10の負荷が高い運転状態である高負荷運転中は、触媒燃焼器36への水素供給量を増やしてコンプレッサ50の消費電力の増加を抑制する。これにより、コンプレッサ駆動モータ54の出力性能を小さくできるので、コンプレッサ駆動モータ54の製品コストを低減することができる。
また、高負荷運転中は、燃料電池システム100のエネルギー効率は低下するが、燃料電池スタック10が高負荷運転状態となる割合は全体的に低い。したがって、高負荷運転中に限り水素供給量を増加させることにより、燃料電池スタック10の運転中においてエネルギー効率が低下する機会を減らすことができる。すなわち、低中負荷運転でのエネルギー効率を向上させることにより、全体のエネルギー効率を改善することができる。
以上のように、本実施形態では、燃料電池システム100のエネルギー効率を向上させつつ、燃料電池システム100の製造コストの増加を抑制することができる。
図11は、図9に示したマップを生成するための生成手法を説明する図である。
図11(a)は、コンプレッサ50から吐出されるカソードガスの流量であるコンプレッサ流量と、そのコンプレッサ流量を確保するのに必要となるコンプレッサ50の動力との関係を示す図である。図11(b)は、コンプレッサ流量と、タービン52の回収動力の目標値である目標タービン回収動力との関係を示す図である。
図11(a)に示すようにコンプレッサ50の動力が規定値よりも低い燃料電池スタック10の低負荷範囲では、触媒燃焼器36への水素供給を行う必要はないので、図11(b)に示すように目標タービン回収動力は一定となる。例えば、コンプレッサ50における入口に対する出口の圧力比が低い場合には、図9に示したタービン入口温度目標値はコンプレッサ流量が所定の値f2よりも低い範囲内で一定となる。ここにいう規定値とは、コンプレッサ駆動モータ54の消費電力が許容値CPco_pを超過しないように規定されたコンプレッサ50の動力値である。
一方、コンプレッサ50の動力が規定値よりも高くなる高負荷範囲では、触媒燃焼器36への水素供給量を増やして燃焼後ガスの温度を上昇させることにより、目標タービン回収動力を大きくする必要がある。また、タービン52の回収動力は、タービン52に流入する燃焼後ガスの温度に比例することから、電流目標値Is_tが大きくなるほど、タービン入口温度目標値を高くしなければならない。
したがって、図9に示したように、コンプレッサ流量目標値が所定の値(f1、f2)よりも低い低負荷範囲では、コンプレッサ流量目標値に対するタービン入口温度目標値の増加率が小さくなる又は0になるようにタービン入口温度目標値が設定される。そして、コンプレッサ流量目標値が所定の値よりも高い高負荷範囲では、タービン52の回収動力を大幅に大きくする必要があるため、タービン入口温度目標値の増加率が大きくなるようにタービン入口温度目標値が設定される。
また、図11(a)に示すように、同一のコンプレッサ流量において、コンプレッサ50の圧力比が大きくなるほど、コンプレッサ50の動力を大きくする必要がある。このため、図11(b)に示すように、高負荷範囲においてはコンプレッサ50の圧力比が大きくなるほど目標タービン回収動力が大きくなる。したがって、図9に示すように圧力比目標値が高くなるほどタービン入口温度目標値が高くなるように設定される。
図12は、本実施形態におけるコントローラ20による燃料電池システム100の制御手法の他の例を説明する図である。
図12(a)は、動力回収機構16の動力の変化を示す図である。図12(b)は、燃料電池スタック10の電圧であるスタック電圧の変化を示す図である。図12(c)は、触媒燃焼器36への水素供給量の変化を示す図である。図12(d)は、燃料電池スタック10に供給される空気の圧力であるスタック入口空気圧力の変化を示す図である。図12(e)は、燃料電池スタック10に供給される空気流量のストイキ比の変化を示す図である。図12(f)は、計測装置11で計測される燃料電池スタック10のHFR計測値の変化を示す図である。図12(a)〜図12(f)の各図面の横軸は、燃料電池スタック10の電流目標値Is_tを示す互いに共通の軸である。
燃料電池スタック10が低負荷で発電しているときは、スタック温度が氷点よりも低い温度環境で燃料電池システム100が起動された場合を想定して燃料電池スタック10の湿潤状態を乾燥側に操作する乾燥制御が実行される。このため、図12(f)に示すように、HFR計測値が比較的高い状態に維持されるので、燃料電池スタック10の発電に伴う生成水の凍結を抑制することができる。
一方、燃料電池スタック10の湿潤状態が乾燥側に維持されると、燃料電池スタック10の出力性能が低い状態で維持されることになる。その結果、電流目標値Is_tが電流値I1まで大きくなった時に、図12(b)に示すようにスタック電圧が電圧下限値VLまで低下する。なお、電圧下限値VLは、車輪駆動用のモータを駆動するのに最低限必要となる電圧を確保するために定められた下限値である。このため、燃料電池スタック10の乾燥制御を停止して出力性能の確保を優先する。
このような状況では、燃料電池スタック10の電解質膜を湿らせるための湿潤制御が実行される。本実施形態では、図6に示したマックスセレクトブロックB201において、空気圧力目標値Pc_tの設定値が、発電要求空気圧力Pg_rから湿潤要求空気圧力Ph_rに切り替えられる。これと共に、図7に示したマックスセレクトブロックB301において、スタック流量目標値Fs_tの設定値が、発電要求空気流量Fg_rから湿潤要求空気流量Fh_rに切り替えられる。
これにより、図12(e)に示すように空気流量のストイキ比が徐々に低下し、これに伴って燃料電池スタック10から水蒸気が排出されにくくなるので燃料電池スタック10の湿潤度が上がり、図12(e)に示すようにHFR計測値が低くなる。
そして、電流目標値Is_tが電流値I2まで大きくなった時には、図12(e)に示すように空気流量のストイキ比が湿潤制御用の下限値SRLまで低下する。すなわち、空気流量の減量制御だけでは燃料電池スタック10の湿潤状態を調整しきれない状態になってしまう。このため、図5に示した膜湿潤F/B制御ブロックB100により算出される湿潤要求圧力Ph_rが高くなり、図12(d)に示すようにスタック入口空気圧力が上昇する。
このように、燃料電池スタック10の湿潤度を上げる場合には、スタック入口空気圧力を上昇させる圧力制御よりも優先してスタック流量を減少させる流量制御を実行する。これにより、運転頻度の少ない高負荷時にのみコンプレッサ50の動力が増加することになるので、燃料電池スタック10の運転中においてコンプレッサ50の動力を増加させる機会を減らすことができる。
仮に、流量制御よりも優先して圧力制御を先に実行したときには、コンプレッサ50の消費電力が許容値CPco_pに達すると、その後さらにコンプレッサ50の動力を上げるために触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる必要があり、燃費が悪くなってしまう。
これに対して本実施形態では、燃料電池スタック10の電解質膜が乾燥してスタック電圧が下限値VLに達した場合に、燃料電池スタック10への空気の供給流量を下げる流量制御を圧力制御よりも先に実行する。これにより、図12(c)に示すように、中負荷時において触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる必要がないので、燃費を向上させることができる。これと共に、触媒燃焼器36の温度上昇が低減されるので触媒燃焼器36の周辺に設けられた部品の耐久性が低下するのを抑制することができる。
このように、使用頻度が低い高負荷運転時においてのみ触媒燃焼器36への水素供給量を増加させるので、燃料電池システム100のエネルギー効率を向上させるこができる。
なお、本実施形態では燃料電池スタック10の電解質膜が乾燥したことに伴い中負荷程度でスタック電圧が下限値VLに達した場合に湿潤制御を実行する例について説明したが、これに限られるものではない。燃料電池スタック10の発電要求を満足する範囲内において、上述のように、空気圧力を上げる制御よりも優先して空気流量を下げる制御を実行するようにしてもよい。
図13は、本実施形態における燃料電池システム100の制御方法に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。図13では、図3に示したステップS920の処理に代えてステップS921及びS922の処理が追加されている。そのため、ステップS921及びS922の処理について説明する。
ステップS921において、コントローラ20は、燃料電池スタック10の電流目標値Is_tが電流閾値Th_iよりも大きいか否かを判断する。電流閾値Th_iは、コンプレッサ50の消費電力許容値CPco_pに基づいて予め定められる。電流目標値Is_tが電流閾値Th_i以下である場合には、制御方法における一連の処理手順が終了する。
ステップS922において、コントローラ20は、電流目標値Is_tが電流閾値Th_iよりも大きい場合には、図10(d)に示すように触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる。これにより、触媒燃焼器36からタービン52への燃焼後ガスの温度が上昇するので、タービン52の回収動力が大きくなり、コンプレッサ50の消費電力の増加を抑制することができる。
そしてステップS922の処理が終了すると、燃料電池システム100の制御方法における一連の処理手順が終了する。
本発明の第2実施形態によれば、コントローラ20は、燃料電池スタック10の負荷である電流目標値Is_tが所定の電流閾値Th_iよりも高くなった場合に、触媒燃焼器36に供給されるアノードガスである水素の供給量を増加させる。これにより、触媒燃焼器36からタービン52に排出される燃焼後ガスの温度が上昇して、タービン52の回収動力が大きくなるので、コンプレッサ50の消費電力を低減することができる。
電流閾値Th_iは、コンプレッサ50の消費電力の上限値(許容値)CPco_pに基づいて、触媒燃焼器36の温度が上がり過ぎないように予め設定されるものである。本実施形態では、電流閾値Th_iは、燃料電池スタック10における負荷の変動範囲内の高負荷側に設定されるので、触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる機会を低減することができる。したがって、燃料電池システム100のエネルギー効率の低下を抑制しつつ、コンプレッサ駆動モータ54を小型にすることができる。
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、電流目標値Is_tが電流閾値Th_iよりも高くなった場合には、コンプレッサ50の動力とタービン52の回収動力との差分が許容値CPco_p以下となるように燃焼後ガスの温度を上昇させる。これにより、コンプレッサ50の動力が得られずに燃料電池スタック10の発電電力が要求電力に対して不足するという事態を回避することができる。
さらに、本実施形態によれば、コントローラ20は、図5に示したように、電流目標値Is_tに基づいて、コンプレッサ50から燃料電池スタック10への空気圧力及び空気流量の目標値Pc_t及びFco_tを演算する。コントローラ20は、これらの目標値Pc_t及びFco_tに基づいて、燃焼後ガスの温度であるタービン入口温度の目標値Tt_tを演算し、タービン入口温度検出値Tt_dが目標値Tt_tとなるようにアクチュエータである燃焼器水素供給弁68を駆動する。
このように、空気圧力及び空気流量の目標値Pc_t及びFco_tを用いることにより、コンプレッサ50の動力とタービン52の回収動力との差分が許容値CPco_pを上回るか否かを推定することができる。このため、図9に示したようなマップをコントローラ20に設定することにより、空気圧力及び空気流量の目標値Pc_t及びFco_tを用いて、燃料電池スタック10に要求される負荷の高負荷側でスタック入口温度目標値Tt_tを増加させることができる。なお、本実施形態では空気圧力及び空気流量の双方の目標値に基づいてタービン入口温度目標値を演算したが、いずれか一方(例えば空気圧力)の目標値を固定値にして他方(例えば空気流量)の目標値に基づいてタービン入口温度目標値を演算するようにしてもよい。
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、図9に示したように、大気圧に対する空気圧力目標値Pc_tの圧力比が大きくなるほど、すなわち空気圧力目標値Pc_tが大きくなるほど、タービン入口温度を上昇させる。
これにより、空気圧力を固定値に設定した場合に比べて、その固定値に対して空気圧力目標値Pc_tが低くなるときには、タービン入口温度が下げられるので触媒燃焼器36への水素供給量を低減することができる。反対に、固定値に対して空気圧力目標値Pc_tが高くなる場合には、タービン入口温度が上げられるので、コンプレッサ50の動力が不足するという事態を回避することができる。
また、本実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池スタック10の温度を検出するセンサ81、82を備えている。そしてコントローラ20は、図6に示した発電要求空気圧力算出ブロックB200のマップのように、燃料電池スタック10の温度が高くなるほど、燃料電池スタック10の空気圧力を大きくする。したがって、燃料電池スタック10の温度を固定値にした場合に比べて、コンプレッサ50の動力不足を回避しつつ、触媒燃焼器36への水素供給量を低減することができる。
また、本実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池スタック10のインピーダンスとしてHFRを計測する計測装置11をさらに備えている。そしてコントローラ20は、燃料電池スタック10の電解質膜を湿させる場合には、図12(d)及び図12(e)に示したように、空気圧力を上げる制御よりも優先して空気流量を下げる制御を実行する。
これにより、触媒燃焼器36への水素供給量を増やしてコンプレッサ50の動力を上げるタイミングを遅らせることができるので、水素消費量を低減することができると共に、触媒燃焼器36の周辺部品の耐熱性の低下を抑制することができる。
次に、燃料電池システム100の制御手法における他の例について説明する。
(第3実施形態)
図14は、本発明の第3実施形態におけるコントローラ20aの機能構成を示すブロック図である。
コントローラ20aは、図5に示したタービン入口温度目標値演算ブロックB103及び燃焼器水素量F/B制御ブロックB104に代えて、コンプレッサ消費電力推定値ブロックB103a及び燃焼器水素量F/B制御ブロックB104aを備えている。なお、他の機能構成については、図5に示したものと同じであるため同一符号を付して説明を省略する。
コンプレッサ消費電力推定値ブロックB103aには、トルクセンサ55で検出されるコンプレッサトルク検出値Tco_dと、回転速度センサ56で検出されるコンプレッサ回転速度検出値Rco_dと、が入力される。コンプレッサ消費電力推定値ブロックB103aは、コンプレッサトルク検出値Tco_dとコンプレッサ回転速度検出値Rco_dとを乗算することにより、コンプレッサ駆動モータ54で消費された電力の推定値であるコンプレッサ消費電力推定値CPco_cを演算する。そしてコンプレッサ消費電力推定値ブロックB103aは、コンプレッサ消費電力推定値CPco_cを燃焼器水素量F/B制御ブロックB104aに入力する。
燃焼器水素量F/B制御ブロックB104aには、コンプレッサ消費電力推定値CPco_cと、コンプレッサ消費電力許容値CPco_pとが入力される。コンプレッサ消費電力許容値CPco_pは、コンプレッサ駆動モータ54の出力性能を考慮して定められる。燃焼器水素量F/B制御ブロックB104aは、コンプレッサ消費電力推定値CPco_cがコンプレッサ消費電力許容値CPco_pに収束するように、燃焼器水素供給弁68の開度をフィードバック制御する。
これにより、コンプレッサ消費電力推定値CPco_cがコンプレッサ消費電力許容値CPco_pよりも大きくならないように、触媒燃焼器36への水素供給量が増加してタービン52の回収動力を上昇させることができる。このため、他の実施形態と同様に、燃料電池システム100のエネルギー効率を改善しつつコンプレッサ駆動モータ54を小型にすることができる。また、他の実施形態に比べて触媒燃焼器36への水素供給量を増加させるタイミングをより正確に特定するこができるので、無用に水素供給量を増加させることを低減することができ、エネルギー効率をより一層向上させることができる。
図15は、本実施形態における燃料電池システム100の制御方法に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。図15では、図13に示したステップS921及びS922の処理に代えてステップS931及び932の処理が追加されている。
ステップS931において、コントローラ20は、燃料電池スタック10の負荷であるコンプレッサ50の消費電力推定値CPco_cが許容値CPco_pよりも大きいか否かを判断する。コンプレッサ消費電力推定値CPco_cが許容値CPco_p以下である場合には、制御方法における一連の処理手順が終了する。
ステップS932において、コントローラ20は、コンプレッサ消費電力推定値CPco_cが許容値CPco_pよりも大きくなった場合は、コンプレッサ消費電力推定値CPco_cが許容値CPco_pに収まるまで触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる。これにより、コンプレッサ50の消費電力の増加を抑制することができる。
そしてステップS922の処理が終了すると、燃料電池システム100の制御方法における一連の処理手順が終了する。
本発明の第3実施形態によれば、コントローラ20は、コンプレッサ50の消費電力が許容値よりも高いときには、コンプレッサ50の消費電力が許容値よりも低いときに比べて触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる。本実施形態では、コンプレッサ50は、燃料電池スタック10から電力の供給を受けていることから、コンプレッサ50の要求電力又は消費電力は、燃料電池スタック10に要求される負荷に加えられており、電流目標値Is_tには反映されている。
したがって、コントローラ20は、燃料電池スタック10に要求される負荷のうち、コンプレッサ50の要求負荷が高いときには、コンプレッサ50の要求負荷が低いときに比べて触媒燃焼器36への水素供給量を増加させる。これにより、コンプレッサ50の消費電力を抑制することができると共に、コンプレッサ50の要求負荷が低いときには水素供給量が減らされるので、燃料電池システム100のエネルギー効率の低下を抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
上記実施形態では燃料電池スタック10の温度を検出するセンサとして水温センサ81及び82を用いたが、これに限られるものではなく、燃料電池スタック10に温度センサを設けて直接温度を検出するようにしてもよい。
また、本実施形態ではアノードガス循環型の燃料電池システムに本発明を適用した例について説明したが、アノードガス循環型の燃料電池システムに適用することも可能である。このような場合であっても上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、上記各実施形態は、適宜組み合わせ可能である。