以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による燃料電池システムの概略構成図である。
図示のように、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、カソード給排機構12と、アノード供給機構14と、コンプレッサ64及びタービン62を有するターボ過給機16と、加熱/冷却機構17と、HFR測定装置18と、負荷装置19と、コントローラ20と、を有している。
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池を積層した積層電池である。燃料電池スタック10は、アノード供給機構14からの燃料としてのアノードガス(水素)の供給及びカソード給排機構12からの酸化剤としてのカソードガス(空気)の供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。この発電電力は、コンプレッサ64等の各種の補機類や、図示しない車輪駆動用の走行モータで使用される。また、燃料電池スタック10の正極端子及び負極端子には、HFR測定装置18と負荷装置19が接続されている。
カソード給排機構12は、カソードガス供給通路22と、カソードガス排出通路24と、を備えている。
カソードガス供給通路22は、燃料電池スタック10に供給される空気が流れる通路である。カソードガス供給通路22の一端はコンプレッサ64の吸気入口に接続され、他端は燃料電池スタック10に接続される。
カソードガス排出通路24は、燃料電池スタック10から排出されるカソード排ガスが流れる通路である。カソードガス排出通路24の一端は燃料電池スタック10に接続され、他端はタービン62に接続されている。
そして、カソードガス供給通路22には、上流から順に、エアフローメータ26と、空気圧力センサ28が設けられている。また、カソードガス排出通路24には、上流から順に、スタック出口温度センサ30と、燃焼器32と、ノズルベーン34と、が設けられている。
エアフローメータ26は、カソードガス供給通路22において、ターボ過給機16のコンプレッサ64の吸気入口に設けられている。エアフローメータ26は、コンプレッサ64に吸入される空気の流量(以下では「空気流量」とも記載する)を検出する。エアフローメータ26で検出された空気流量検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
空気圧力センサ28は、コンプレッサ64から吐出されたカソードガス供給通路22の圧力(以下では「空気圧力」とも記載する)を検出する。空気圧力センサ28で検出された空気圧力検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
また、カソードガス供給通路22において、コンプレッサ64と空気圧力センサ28の間には、カソードガス排出通路24のスタック出口温度センサ30と燃焼器32の間に接続されるバイパス通路36が接続されている。
バイパス通路36は、コンプレッサ64によりカソードガス供給通路22に吸入される空気の一部を、燃料電池スタック10をバイパスさせてカソードガス排出通路24へ供給する。バイパス通路36には、バイパス弁38が設けられている。バイパス弁38は、バイパス通路36を流れる空気の流量を調節する。
バイパス弁38は、コントローラ20によって開閉制御される。例えば、コンプレッサ64によりカソードガス供給通路22に吸入される空気の流量が燃料電池スタック10により発電のために要求される空気の流量を上回る場合に、コントローラ20はバイパス弁38の開度を増加させる。これにより、バイパス流量が増加して、燃料電池スタック10内の電解質膜の過乾燥が防止される。
スタック出口温度センサ30は、燃料電池スタック10から排出されるカソード排ガスの温度(以下、スタック出口温度とも記載する)を検出する。スタック出口温度センサ30で検出されたスタック出口温度検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
燃焼器32は、水素とカソード排ガスを図示しないミキサで混合してなる混合ガスを、白金等による触媒作用で触媒燃焼させ、燃焼後に残ったガス(燃焼ガス)を排出する。この燃焼器32には、アノード供給機構14の高圧タンク40から水素が供給される一方で、燃料電池スタック10からのカソード排ガス及びバイパス通路36からの空気が混合されてなるカソード排ガスが供給される。
なお、本実施形態では、燃焼器32として触媒燃焼方式の燃焼器が用いられることで、拡散燃焼方式の燃焼器や希薄予混合燃焼方式の燃焼器を用いる場合と比較して、窒素化合物(Nox)の発生が抑制される。しかしながら、拡散燃焼方式の燃焼器や希薄予混合燃焼方式の燃焼器等の触媒燃焼器以外の燃焼器を用いても良い。
また、カソードガス排出通路24における燃焼器32とノズルベーン34の間には、タービンバイパス通路39が接続されている。このタービンバイパス通路39は、燃焼器32からの燃焼ガスの一部を、加熱/冷却機構17に供給する。
すなわち、燃料電池スタック10の暖機時などにおいて、燃焼ガスの一部を加熱/冷却機構17に供給し、燃焼ガスの熱で燃料電池スタック10を暖めることで暖機を促進することができる。また、タービンバイパス通路39から加熱/冷却機構17へ供給されて加熱/冷却機構17で熱が回収された後の燃焼ガスは、後述するタービン排気通路68に合流して燃料電池システム100の外部に排出される。
ノズルベーン34は、タービン62に供給する燃焼ガスの圧力を調節する。ノズルベーン34の開度(ノズルリフト量)は、コントローラ20により制御される。ノズルベーン34は、開放状態でタービン62への入口流路の断面積が増加し、カソードガス排出通路24からタービン62に流入する燃焼ガスの圧力損失が相対的に小さくなる。一方、ノズルベーン34の閉塞状態では、タービン62への入口流路の断面積が相対的に減少し、圧力損失が大きくなる。すなわち、ノズルベーン開度が増大するほど、空気圧力を下げることができる。
次に、アノード供給機構14について説明する。本実施形態におけるアノード供給機構14は、高圧タンク40と、水素ヒータ42と、スタック用水素供給通路44と、燃焼器用水素供給通路46と、を備えている。
高圧タンク40は、燃料電池スタック10及び燃焼器32に供給する水素を高圧状態に保って貯蔵するガス貯蔵容器である。
水素ヒータ42は、加熱/冷却機構17から供給される熱により高圧タンク40からの水素を加熱する熱交換器である。具体的に、高圧タンク40からの水素は、加熱/冷却機構17における燃料電池スタック10の冷却水と熱交換されることで加熱される。
スタック用水素供給通路44は、高圧タンク40から排出される水素を燃料電池スタック10のアノード極に供給する通路である。スタック用水素供給通路44の一端は水素ヒータ42に接続され、他端は燃料電池スタック10に接続される。
また、スタック用水素供給通路44には、スタック供給水素調圧弁48が設けられている。スタック供給水素調圧弁48は、コントローラ20により開閉制御され、燃料電池スタック10へ供給される水素の圧力が調節される。
一方、燃焼器用水素供給通路46は、高圧タンク40から排出される水素の一部を、燃焼器32に供給する通路である。燃焼器用水素供給通路46は、その一端がスタック用水素供給通路44に連通して分岐しており、他端が燃焼器32に連結されている。
また、燃焼器用水素供給通路46には、燃焼器用水素供給通路46の上流の水素の圧力(以下では、「供給水素圧力」とも記載する)を検出する水素圧力検出センサ47が設けられている。水素圧力検出センサ47による供給水素圧力検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
また、燃焼器用水素供給通路46には、燃焼器32への水素供給量(燃料供給量)を任意に調節する燃焼器水素量調節弁49が設けられている。燃焼器水素量調節弁49は、燃焼器32への水素供給量を適宜調節する弁である。燃焼器水素量調節弁49は、コントローラ20によりその開度が調節される。燃焼器水素量調節弁49は、例えば、比例ソレノイド等で構成することができる。
なお、本実施形態にかかる燃料電池システム100において、燃料電池スタック10からのアノード排ガスは、たとえば循環型又は非循環型等の図示しないアノード排出系により処理することができる。
次に、ターボ過給機16について説明する。ターボ過給機16は、タービン62と、コンプレッサ64と、を備えている。また、本実施形態のターボ過給機16には、電動モータ60が設けられている。
電動モータ60は、回転駆動軸66の一方側でコンプレッサ64に接続されるとともに、回転駆動軸66の他方側でタービン62に接続される。電動モータ60は、図示しないバッテリ、及び燃料電池スタック10から電力の供給を受けてコンプレッサ64を回転駆動する電動機としての機能(力行モード)、及び外力によって回転駆動されることで発電し、バッテリ等に電力を供給する発電機としての機能(回生モード)を有する。電動モータ60は、図示しないモータケースと、モータケースの内周面に固定されるステータと、ステータの内側に回転可能に配置されるロータと、を有し、ロータは上記回転駆動軸66に一体に取り付けられる。
また、電動モータ60には、回転数センサ72が設けられている。回転数センサ72は、電動モータ60の回転数を検出する。回転数センサ72で検出されたモータ回転数検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
タービン62は、燃焼器32から供給される燃焼ガスによって回転駆動される。そして、タービン62は、この回転駆動力を、回転駆動軸66を介してコンプレッサ64に出力する。すなわち、タービン62の回収動力(以下、「タービン回収動力」とも記載する)で回転駆動軸66を介して直接コンプレッサ64を回転させることができる。
なお、タービン62の回収動力により電動モータ60を駆動しても良い。また、タービン62からの回収動力で電動モータ60を駆動することで電動モータ60の回生運転を行うことができる。さらに、タービン62の駆動に使用された後の燃焼ガスは、タービン排気通路68を介して排出される。
また、例えば、燃料電池システム100への要求出力(以下では、「システム要求出力」とも記載する)が高い場合などのコンプレッサ64の動力の目標値(以下では、「目標コンプレッサ動力」とも記載する)が比較的大きい場合であって、タービン回収動力を増加させる必要がある場合などには、タービン62へ流入する燃焼ガスの流量(以下では、「タービンガス入口流量」とも記載する)、温度(以下では、「タービン入口温度」)、及び圧力を増加させてコンプレッサ64へ好適に動力を供給することができる。また、上述したノズルベーン34のノズルリフト量の調節により、タービン62へ供給される燃焼ガスの圧力を調節することでタービン回収動力を調節することができる。
コンプレッサ64は、電動モータ60及びタービン62と回転駆動軸66を介して接続されている。コンプレッサ64は、電動モータ60及びタービン62の少なくとも何れか一方により回転駆動軸66を介して回転駆動され、外部から燃料電池システム100内に空気を吸入する。そして、コンプレッサ64は、吸入した空気をカソードガス供給通路22を介して燃料電池スタック10のカソード極に供給する。したがって、本実施形態では、コンプレッサ64は、タービン62とは独立した電動モータ60と、タービン62により駆動される。
次に、加熱/冷却機構17について説明する。加熱/冷却機構17は、冷却水循環流路80と、熱交換器82と、冷却水循環ポンプ84と、を有している。加熱/冷却機構17は、図示しないラジエータ等の冷却装置により冷却水循環流路80内の冷却水の温度を制御する。
冷却水循環流路80は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aから冷却水出口10bの間で冷却水を循環させる通路である。すなわち、冷却水循環流路80を循環する冷却水は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aから燃料電池スタック10内に供給されるとともに、燃料電池スタック10の冷却水出口10bから排出される方向に流れる。
さらに、冷却水循環流路80には、上述した水素ヒータ42に冷却水を供給する冷却水分岐路86が接続されている。したがって、冷却水循環流路80から冷却水分岐路86に流れる冷却水により、高圧タンク40から燃料電池スタック10や燃焼器32に供給される水素が加熱されることとなる。
また、冷却水循環流路80には、燃料電池スタック10の冷却水出口10bの近傍に水温センサ88が設けられている。水温センサ88は、燃料電池スタック10から排出される冷却水の温度(以下では、「冷却水温度」とも記載する)を検出する。水温センサ88で検出された冷却水温度検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
熱交換器82は、冷却水循環流路80を流れる冷却水と上述したタービンバイパス通路39からの排ガスとの間で熱交換を行う。
冷却水循環ポンプ84は、冷却水循環流路80で冷却水を循環させる。なお、冷却水循環ポンプ84の出力は、コントローラ20により制御される。
次にHFR測定装置18について説明する。HFR測定装置18は、燃料電池スタック10内の電解質膜の湿潤状態を取得する湿潤状態取得装置として機能する。HFR測定装置18は、燃料電池スタック10に接続され、電解質膜の湿潤状態と相関のある燃料電池スタック10の内部インピーダンスを測定する。
一般に、電解質膜の含水量(水分)が少なくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味になるほど、内部インピーダンスは大きくなる。一方、電解質膜の含水量が多くなるほど、すなわち電解質膜が濡れ気味になるほど、内部インピーダンスは小さくなる。このため、本実施形態では、電解質膜の湿潤状態を示すパラメータとして、燃料電池スタック10の内部インピーダンスが用いられる。
そして、HFR測定装置18は、例えば、電解質膜の電気抵抗を検出するのに適した高周波数の交流電流を供給し、出力される交流電圧の振幅を当該交流電流の振幅で除することにより、内部インピーダンスを算出する。
以下では、この高周波数の交流電圧及び交流電流に基づいて算出される内部インピーダンス(高周波数抵抗)をHFR(High Frequency Resistance)とも記載する。HFR測定装置18は、算出したHFR値をHFR測定値としてコントローラ20に出力する。
負荷装置19は、燃料電池スタック10から供給される発電電力を受けて駆動する。負荷装置19としては、例えば、車両を駆動する走行モータや電動モータ60等の各種補機類などが挙げられる。
なお、負荷装置19は、その作動に必要な電力を、燃料電池スタック10に対する要求発電電力としてコントローラ20に出力する。
負荷装置19と燃料電池スタック10との間には、電流センサ51と電圧センサ52とが配置される。
電流センサ51は、燃料電池スタック10の正極端子と負荷装置19の正極端子との間の電源線に接続される。電流センサ51は、燃料電池スタック10から負荷装置19に出力される電流を検出する。以下では、燃料電池スタック10から負荷装置19に出力される電流のことを「スタック電流」とも記載する。電流センサ51は、スタック電流検出値の信号をコントローラ20に出力する。
電圧センサ52は、燃料電池スタック10の正極端子と負極端子との間に接続される。電圧センサ52は、正極端子と負極端子との間の電圧である端子間電圧を検出する。以下では、燃料電池スタック10の端子間電圧のことを「スタック電圧」という。電圧センサ52は、スタック電圧検出値の信号をコントローラ20に出力する。
さらに、上述のように構成される燃料電池システム100は、当該システムの作動状態を統括的に制御する運転制御装置としてのコントローラ20を有している。
コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ20には、燃料電池システム100の運転状態検出部からの信号が入力される。具体的に、コントローラ20は、運転状態検出部として、HFR測定装置18、エアフローメータ26、空気圧力センサ28、スタック出口温度センサ30、水素圧力検出センサ47、電流センサ51、電圧センサ52、回転数センサ72、及び水温センサ88を有している。そして、コントローラ20には、これらからの信号が入力される。
さらに、コントローラ20には、燃料電池スタック10内の負荷装置19からの要求負荷が入力される。本実施形態では、負荷装置19による負荷には、例えば、図示しないアクセルペダルセンサで検出されるアクセルペダルの操作量に基づく走行用電力(システム要求出力)、電動モータ60や各種ポンプ及びバルブ等の、燃料電池システム100を作動させるための補機類で消費される電力(補機消費電力)が含まれる。
コントローラ20は、上記要求負荷に基づいて燃料電池システム100への要求発電電力を算出する。すなわち、燃料電池スタック10に対する要求発電電力は、燃料電池システム100の外部に出力される走行用電力等のシステム要求出力と、補機消費電力の和に相当する。本実施形態では、後に詳細に説明するが、補機消費電力に含まれる電動モータ60の消費電力分を、タービン62の回収動力でアシストする。
そして、コントローラ20は、予め定められている燃料電池スタック10のIV特性に基づいて、要求発電電力からスタック電流の目標値である目標スタック電流を算出する。
コントローラ20は、上記各入力信号等に基づいて、ノズルベーン34のノズルリフト量、バイパス弁38の開度、スタック供給水素調圧弁48の開度、燃焼器水素量調節弁49の開度、電動モータ60の出力(トルク又は動力)、及び冷却水循環ポンプ84の出力を制御する。
以下では、本実施形態にかかる燃料電池システム100の制御態様について説明する。なお、本実施形態においては、「出力」に相当する語として「動力」及び「電力」という語を、それらが機械的エネルギー及び電気的エネルギーの何れも意味する用語として区別すること無く用いる。
図2は、燃料電池システム100の全体的な制御の概要を説明するフローチャートである。
図示のように、ステップS100において、コントローラ20は、負荷装置19による要求電力の信号を読み込む。
ステップS110において、コントローラ20は目標スタック電流を演算する。
図3は、目標スタック電流の演算の流れを示すフローチャートである。
図示のように、ステップS111において、コントローラ20は補機の消費電力を推定する。具体的には、コントローラ20は、モータ回転数センサ72による電動モータ回転数検出値等から電動モータ60の消費電力の推定値を算出する。また、冷却水循環ポンプ84や燃焼器水素量調節弁49等の他のアクチュエータの消費電力又はその推定値を電動モータ60の消費電力の推定値に加算した値を補機の消費電力推定値としても良い。
ステップS112において、コントローラ20は、目標スタック電力を演算する。具体的には、負荷装置19により含まれる、上述のアクセルペダルの操作量に基づく走行用電力としてのシステム要求出力に、ステップS111で算出した補機消費電力の推定値を加算して目標スタック電力を演算する。
ステップS113において、コントローラ20は、実スタック電力を演算する。具体的には、コントローラ20は、電流センサ51によるスタック電流検出値と電圧センサ52によるスタック電圧検出値を乗じて実スタック電力を演算する。
ステップS114において、コントローラ20は、目標スタック電流を演算する。具体的には、コントローラ20は、IV特性を参照しつつ、ステップS113で演算した実スタック電力が、ステップS112で演算した目標スタック電力に近づくように、目標スタック電流を定める。
図2に戻り、ステップS110で目標スタック電流が演算されると、ステップS120の冷却系操作量の演算、ステップS130の空気系操作量の演算、及びステップS140の燃料系操作量演算が行われる。
図4は、冷却系操作量の演算の流れを示すフローチャートである。
先ず、ステップS121において、コントローラ20は、燃料電池スタック10の電解質膜の湿潤状態を好適に制御する観点から、HFR測定装置18によるHFR測定値が目標スタック電流に基づいて算出される目標HFRに近づくように、湿潤制御要求目標空気流量及び湿潤制御要求目標空気圧力を演算する。
ステップS122において、コントローラ20は、各冷却系アクチュエータの操作量を演算する。例えば、コントローラ20は、上記目標HFR等に基づいて、冷却水循環流路80に設けられる図示しないラジエータの目標ラジエータファン回転数や図示しない三方弁8の目標開度を算出する。
次に、空気系操作量の演算の流れについて説明する。
図5は、空気系操作量の演算の流れを示すフローチャートである。
図示のように、ステップS131において、コントローラ20は、予め定められたテーブルに基づいて、目標スタック電流から、上記湿潤制御要求目標空気圧力を考慮して、空気圧力の目標値である目標空気圧力を算出する。
ステップS132において、コントローラ20は、予め定められたテーブルに基づき、上記湿潤制御要求目標空気流量を考慮して、目標スタック電流から空気流量の目標値である目標空気流量を算出する。
ステップS133において、コントローラ20は、空気系の各アクチュエータの操作量を演算する。例えば、コントローラ20は、目標空気圧力、目標空気流量、空気流量検出値、及び空気圧力検出値等に基づいて、ノズルベーン34の指令ノズルリフト量、及び電動モータ60の指令トルクを算出する。
ステップS134において、コントローラ20は、タービン62の入口付近における燃焼排ガスの温度(タービン入口温度)の目標値である目標タービン入口温度を演算する。具体的に、コントローラ20は、上記ステップS133で算出された電動モータ60の指令トルク、モータ回転数センサ72による電動モータ回転数検出値、目標スタック電流、目標空気圧力、及び目標空気流量等に基づいて、目標タービン入口温度を演算する。
図6は、燃料系操作量の演算の流れを示すフローチャートである。
図示のように、ステップS141において、コントローラ20は、目標スタック電流等に基づいて燃料電池スタック10に供給する水素圧力の目標値である目標供給水素圧力を演算する。
ステップS142において、コントローラ20は、目標供給水素圧力に基づいて、スタック供給水素調圧弁48の開度目標値である目標スタック供給水素調圧弁開度や図示しないパージ弁の開度等の燃料系アクチュエータの操作量を演算する。
図2に戻り、ステップS150において、コントローラ20は、上記ステップS120で演算した冷却系アクチュエータの操作量、上記ステップS130において演算した空気系アクチュエータの操作量、及び上記ステップS140で演算した燃料系アクチュエータの操作量に基づいて、冷却系アクチュエータ、空気系アクチュエータ、及び燃料系アクチュエータをそれぞれ制御する。
さらに、以下では、特に本実施形態にかかる燃料電池システム100の空気系の制御について、より詳細に説明する。
図7は、本実施形態の空気系の制御の詳細を示すフローチャートである。
図示のように、ステップS210において、コントローラ20は、定常運転状態におけるモータ動力の上限値である定常運転モータ動力上限値を決定する(図10の「モータ出力上限値設定部202」参照)。ここで、本実施形態で「定常運転状態」とは、システム要求出力に応じたモータ動力とタービン回収動力の変化がほぼ静定する状態を意味する。
より具体的には、タービン回収動力が目標タービン回収動力に略一致している状態又はモータ動力が実質的に定常時目標運転モータ動力上限値以下である状態を意味する。すなわち、定常運転状態では、モータ動力から定常時目標運転モータ動力上限値を減じて得られるモータ動力超過量が所定値以下となる。
図8は、定常運転モータ動力上限値の算出の詳細を説明するフローチャートである。
図示のように、ステップS211において、コントローラ20は、最大モータ動力を取得する(図10の「モータ出力上限値設定部202」参照)。最大モータ動力とは、例えば、電動モータ60の連続定格等として予め定められた動力の最大値である。
ステップS212において、コントローラ20は、発電電力要求最大モータ動力を取得する(図10の「モータ出力上限値設定部202」参照)。発電電力要求最大モータ動力とは、目標スタック電流に基づいて定まる、燃料電池スタック10から電動モータ60への供給すべき電力に相当する。
後に詳細に説明するが、本実施形態では、コントローラ20は、目標スタック電流が所定値以上に増大する高負荷領域において発電電力要求最大モータ動力を低下させることで、目標モータ動力を制限するようにしている(図10の「モータ出力上限値設定部202」及び図13参照)。
ステップS213において、コントローラ20は、出力制限要求モータ動力を取得する。出力制限要求モータ動力とは、燃料電池スタック10の冷却水温度や湿潤状態に応じたスタック出力制限値と補機消費電力(電動モータ60消費電力以外)やシステム要求出力との関係により定まるモータ動力の制限値である(図10の演算部B1037参照)。
具体的に、コントローラ20は、燃料電池スタック10の冷却水温度に基づいて得られる温度要求スタック電流制限値、及びHFR測定値に基づいて得られるHFR要求スタック電流制限値からスタック出力制限値を演算する(後述の図14参照)。そして、コントローラ20は、スタック出力制限値から補機(電動モータ60以外)の消費電力及びシステム要求出力を減算することで出力制限要求モータ動力を算出する(図10の「モータ出力上限値設定部202」参照)。
ステップS134において、コントローラ20は、取得した最大モータ動力、発電電力要求最大モータ動力、及び出力制限要求モータ動力の内の最小値を目標モータ動力(定常運転モータ動力上限値)として演算する(図10のミニマムセレクト部B1038参照)。
図7に戻り、ステップS220において、コントローラ20は、目標コンプレッサ動力を算出する。
具体的には、コントローラ20は、空気圧力検出値及び空気流量検出値が、それぞれ、目標空気圧力及び目標空気流量に近づくように、目標コンプレッサ動力に相当する指令ノズルリフト量及び目標コンプレッサトルクを算出する(図10の空気系アクチュエータ制御部B1033参照)。
なお、本実施形態において、目標コンプレッサトルクとは、燃料電池システム100の運転状態としての空気圧力及び空気流量に基づいて定められるコンプレッサ64において要求されるトルクである。すなわち、本実施形態において、目標コンプレッサトルクとは、電動モータ60の目標トルクとタービン62の目標トルクの和に相当する値である。そして、コントローラ20は、算出された目標コンプレッサトルクから目標コンプレッサ動力を演算する(図10の演算部B1035参照)。
ステップS230において、コントローラ20は、目標タービン回収動力を演算する。具体的に、コントローラ20は、ステップS140で算出された目標コンプレッサ動力(図10の演算部B1035参照)からステップS130で算出した目標モータ動力(定常運転モータ動力上限値)を減算することで、目標タービン回収動力を演算する(図10の減算部302参照)。
ステップS240において、コントローラ20は、燃焼器32への水素供給量を制御する。
具体的に、コントローラ20は、ステップS230で得られた目標タービン回収動力に基づいて、燃焼器水素量調節弁49の開度の目標値である目標水素供給弁開度を算出する(図10の目標タービン入口温度算出部B1039及び図9の燃焼器水素量調節弁制御部B105)。
なお、本実施形態では、目標水素供給弁開度の算出にあたり、タービン62の部品の耐熱性等に基づき決定される許容上限温度を考慮する(後述の図9のミニマムセレクト部B104参照)。そして、コントローラ20は、燃焼器水素量調節弁49の開度を目標水素供給弁開度に制御する(図9の燃焼器水素量調節弁制御部B105参照)。
ステップS250において、コントローラ20は、制限前モータ指令トルクを演算する。具体的には、コントローラ20は、現在のタービン回収動力の推定値(以下では、「推定タービン回収動力」とも記載する)を電動モータ60の回転数で除して推定タービン回収トルクを算出する(図10の演算部B1032)。そして、コントローラ20は、ステップS220で演算した目標コンプレッサトルクから、推定タービン回収動力を減算することにより、制限前モータ指令トルクを演算する(図10の減算部300参照)。
ステップS260において、コントローラ20は、モータ指令トルクを演算する。具体的に、コントローラ20は、ステップS250で演算した制限前モータ指令トルクと、過渡運転状態におけるモータ動力の上限値である過渡運転モータ動力上限値と、の内の小さい方をモータ指令トルクとして演算する(図10のミニマムセレクト部B1034参照)。すなわち、モータ指令トルクは、制限前モータ指令トルクを過渡運転モータ動力上限値で制限した値である。
なお、本実施形態において、過渡運転状態とは、タービン回収動力が目標タービン回収動力よりも所定値以上低い状態、又はモータ動力が定常時目標運転モータ動力上限値よりも所定値以上高い状態を意味する。
次に、本実施形態における燃料電池システム100における各種制御について、図9〜図14に示すブロック図を参照して詳細に説明する。なお、図9〜図14に示す各ブロックの機能は、コントローラ20により実現される。
図9は、燃料電池システム100における空気系制御の全体の機能の概要を示すブロック図である。
図示のように、コントローラ20は、目標スタック電流算出部B100と、暫定目標空気圧力演算部B101と、マックスセレクト部B101´と、暫定目標空気流量演算部B102と、マックスセレクト部B102´と、本実施形態における定常状態判定部及び出力配分調節部としての空気系制御部B103と、ミニマムセレクト部B104と、燃焼器水素量調節弁制御部B105と、を有している。
目標スタック電流算出部B100には、燃料電池システム100の外部からの要求として、当該燃料電池システム100が搭載された車両の走行にかかる走行用電力が入力される。具体的には、図示しないアクセルペダルセンサで検出されるアクセルペダルの踏込み量に基づく走行用電力が入力される。また、目標スタック電流算出部B100には、補機消費電力の推定値が入力される。
目標スタック電流算出部B100は、上記走行用電力と補機消費電力の推定値を加算して目標スタック電力を算出し、図3のステップS112〜S114で説明した処理にしたがい、目標スタック電流を算出する。
さらに、目標スタック電流算出部B100は、算出した目標スタック電流を、暫定目標空気圧力演算部B101、暫定目標空気流量演算部B102、及び空気系制御部B103に出力する。
暫定目標空気圧力演算部B101には、目標スタック電流が入力される。暫定目標空気圧力演算部B101は、予め定められたマップに基づいて、目標スタック電流から、燃料電池スタック10内の電解質膜の湿潤状態を考慮する前の暫定目標空気圧力を演算する。暫定目標空気圧力演算部B101は、演算した暫定目標空気圧力をマックスセレクト部B101´に出力する。
マックスセレクト部B101´には、暫定目標空気圧力と湿潤要求目標空気圧力が入力される。なお、湿潤要求目標空気圧力は、燃料電池スタック10内における電解質膜の湿潤状態を適切に維持する観点から定まる空気圧力の目標値である。そして、マックスセレクト部B101´は、上記暫定目標空気圧力と上記湿潤要求目標空気圧力の内の大きい方を、最終的な目標空気圧力として空気系制御部B103に出力する。
暫定目標空気流量演算部B102には、目標スタック電流が入力される。暫定目標空気流量演算部B102は、予め定められたマップに基づいて、目標スタック電流から、燃料電池スタック10内の電解質膜の湿潤状態を考慮する前の暫定目標空気流量を演算する。
マックスセレクト部B102´には、暫定目標空気流量と湿潤要求目標空気流量が入力される。なお、湿潤要求目標空気流量は、燃料電池スタック10内における電解質膜の湿潤状態を適切に維持する観点から定まる空気流量の目標値である。そして、マックスセレクト部B102´は、上記暫定目標空気流量と上記湿潤要求目標空気流量の内の大きい方を、最終的な目標空気流量として空気系制御部B103に出力する。
空気系制御部B103には、目標スタック電流、目標空気圧力、目標空気流量、空気流量検出値、目標タービン入口温度前回値、モータ回転数検出値、空気圧力検出値、HFR測定値、目標冷却水温度、冷却水温度検出値、スタック電圧検出値、及びシステム要求出力が入力される。
本実施形態において、空気系制御部B103は、これら入力された値に基づいて、電動モータ60の出力及びタービン回収動力を制御する。具体的に、空気系制御部B103は、入力された各値に基づいて、指令ノズルリフト量及びモータ指令トルクを算出して電動モータ60のトルク及びノズルベーン開度をフィードバック制御するとともに、制限前目標タービン入口温度を演算しミニマムセレクト部B104に出力する。
図10は、空気系制御部B103の詳細な機能を示すブロック図である。図示のように、空気系制御部B103は、タービン回収動力推定部B1031と、演算部B1032と、空気系アクチュエータ制御部B1033と、ミニマムセレクト部B1034と、演算部B1035と、モータ出力上限値設定部202と、目標タービン入口温度算出部B1039と、を有している。
タービン回収動力推定部B1031には、空気圧力検出値、空気流量検出値、及び目標タービン入口温度前回値が入力される。タービン回収動力推定部B1031は、これら値及び図示しない記憶部に記憶されたタービン入口温度前回値からタービン回収動力の推定値(以下では、「推定タービン回収動力」とも記載する)を算出する。
具体的に、先ず、タービン回収動力推定部B1031は、以下に示す離散系における一時遅れの近似式(1)を用いてタービン入口温度の推定値Tt_in_eを求める。
ただし、
Tt
_in_e(n−1):タービン入口温度前回値 [℃]
Tt
_in_t:目標タービン入口温度前回値 [℃]
ts:時定数 [sec]
t
samp:制御演算周期 [sec]
である。なお、時定数tsは、実験等により予め定められる。
そして、タービン回収動力推定部B1031は、推定したタービン入口温度から推定タービン回収動力を算出する。具体的に、タービン回収動力推定部B1031は、以下の式(2)に基づいて推定タービン回収動力POt_eを算出する。
ただし、
PO
t_e:推定タービン回収動力 [kW]
Q
in:空気流量検出値 [NL/min]
M
air:空気の式量 [g/mol]
cp
air:空気の定圧比熱 [kJ/(g・K)]
V
sta:標準状態における体積(=22.414) [L]
η
cp:タービン効率
T
t_in_e:タービン入口温度の推定値[℃]
T
sta:標準状態における絶対温度(=273.15) [K]
P
t_in:タービン入口空気圧力 [kPa_a]
P
t_out:タービン出口空気圧力 [kPa_a]
γ:比熱比
60:秒分間の単位変換係数
1000:m
3とL(リットル)の単位変換係数
である。
タービン入口空気圧力Pt_inは、空気圧力検出値及び空気流量検出値に基づいて算出される。
図11は、タービン入口空気圧力Pt_inの算出機能を示すブロック図である。タービン回収動力推定部B1031は、タービン入口空気圧力Pt_inの演算を行う機能として、図に示す圧損演算ブロックB301と、演算部B302と、を有している。
圧損演算ブロックB301には、空気流量検出値が入力される。圧損演算ブロックB301は、空気流量と圧損ΔPの関係を示す圧損マップを有している。圧損演算ブロックB301は、この圧損マップに基づいて、入力された空気流量検出値から燃料電池スタック10の圧損ΔPを演算し、演算部B302に出力する。
演算部B302には、空気圧力検出値と圧損ΔPが入力される。演算部B302は、空気圧力検出値から圧損ΔPを減算してタービン入口空気圧力Pt_inを求める。
タービン出口空気圧力Pt_outとしては、例えば大気圧(≒101[kpa])を用いる。外気の圧力が変動する場合には、図示しない大気圧センサにより検出された圧力検出値をタービン出口空気圧力Pt_outとしても良い。
タービン効率ηcpは、タービン入口空気圧力Pt_in及びタービン出口空気圧力Pt_outに基づいて算出される。
図12は、タービン効率ηcpの算出機能を示すブロック図である。タービン回収動力推定部B1031は、タービン効率ηcpの算出を行う機能として、図に示す演算部B401と、タービン効率演算ブロックB402と、を有している。
演算部B401には、タービン入口空気圧力Pt_in及びタービン出口空気圧力Pt_outが入力される。演算部B401は、空気圧力比Pt_in/Pt_outを演算し、タービン効率演算ブロックB402を出力する。
タービン効率演算ブロックB402には、空気圧力比Pt_in/Pt_outが入力される。タービン効率演算ブロックB402は、空気圧力比Pt_in/Pt_outとタービン効率ηcpの関係を示すタービン効率マップを有している。タービン効率演算ブロックB402は、このタービン効率マップに基づいて、入力された空気圧力比Pt_in/Pt_outからタービン効率ηcpを演算する。
図10に戻り、タービン回収動力推定部B1031は、算出した推定タービン回収動力を演算部B1032に出力する。
演算部B1032には、推定タービン回収動力と、回転数センサ72からのモータ回転数検出値が入力される。演算部B1032は、推定タービン回収動力からモータ回転数検出値を除して、タービン62で回収されるトルクであるタービン回収トルクの推定値(以下では、「推定タービン回収トルク」とも記載する)を算出する。そして、演算部B1032は、算出した推定タービン回収トルクを減算部300に出力する。
空気系アクチュエータ制御部B1033には、目標空気圧力、目標空気流量、空気圧力検出値、及び空気流量検出値が入力される。空気系アクチュエータ制御部B1033は、入力された空気圧力検出値及び空気流量検出値が、それぞれ、目標空気圧力及び目標空気流量に近づくように、指令ノズルリフト量及び目標コンプレッサトルクを算出する。
また、空気系アクチュエータ制御部B1033は、算出した指令ノズルリフト量をノズルベーン34に出力するとともに、算出した目標コンプレッサトルクを減算部300及び演算部B1035に出力する。
減算部300は、空気系アクチュエータ制御部B1033で算出された目標コンプレッサトルクから演算部B1032で算出された推定タービン回収トルクを減算し、ミニマムセレクト部B1034に出力する。
そして、ミニマムセレクト部B1034には、制限前モータ指令トルクと過渡時モータトルク上限値が入力される。ここで、制限前モータ指令トルクとは、減算部300において目標コンプレッサトルクから推定タービン回収トルクを減算して得られる値である。
また、過渡時モータトルク上限値は、燃料電池システム100が過渡運転状態である場合に、電動モータ60の動力が到達し得る最大のモータトルクとして設定される値であり、記憶部301にあらかじめ記憶されている。過渡時モータトルク上限値は、例えば、電動モータ60の仕様などに応じて設定されるいわゆる短時間定格である。
そして、ミニマムセレクト部B1034は、制限前モータ指令トルクと過渡時モータトルク上限値の内の小さい方を、モータ指令トルクとして電動モータ60に出力する。
演算部B1035には、空気系アクチュエータ制御部B1033で算出された目標コンプレッサトルク、及びモータ回転数検出値が入力される。演算部B1035は、目標コンプレッサトルクにモータ回転数検出値を乗じて、目標コンプレッサ動力を算出する。演算部B1035は、目標コンプレッサ動力を減算部302に出力する。
本実施形態におけるモータ出力上限値設定部202は、上述した定常運転状態における電動モータ60の出力上限値であるモータ出力上限値を設定する。
具体的に、モータ出力上限値設定部202は、発電電力要求最大モータ動力算出部B1036と、スタック出力制限値算出部203と、演算部B1037と、ミニマムセレクト部B1038と、目標タービン入口温度算出部B1039と、を有している。
発電電力要求最大モータ動力算出部B1036には、目標スタック電流が入力される。発電電力要求最大モータ動力算出部B1036は、所定の発電電力要求最大モータ動力マップに基づいて目標スタック電流から、発電電力要求最大モータ動力を算出する。
図13は、発電電力要求最大モータ動力マップの概要を示している。図に示すマップでは、目標スタック電流が増加して所定値I1に到達するまで、すなわちシステム要求出力が相対的に低い低〜中負荷領域では発電電力要求最大モータ動力マップが一定値に設定されている。これにより、システム要求出力が相対的に低い状態では、コンプレッサ64への要求動力が目標モータ出力より低く目標タービン回収動力がマイナスとなり、燃焼器32への燃料供給が停止されることとなる。
一方、目標スタック電流が所定値I1に達した以降、すなわちシステム要求出力が相対的に高い高負荷領域においては、発電電力要求最大モータ動力が減少している。これは、システム要求出力が相対的に高い状態においては目標タービン回収動力を相対的に増加させて、発電電力要求最大モータ動力を減少させ電動モータ60の消費電力のさらなる低減を図るためである。これにより、燃料電池スタック10の発電電力から電動モータ60を含む補機類で消費される電力を差し引いて得られる燃料電池システム100のシステム出力を向上させることができる。
図10に戻り、発電電力要求最大モータ動力算出部B1036は、算出した発電電力要求最大モータ動力をミニマムセレクト部B1038に出力する。
図14は、スタック出力制限値算出部203の構成を示すブロック図である。
図示のように、スタック出力制限値算出部203は、温度要求スタック電流制限値算出部B501と、HFR要求電流制限値算出部B502と、ミニマムセレクト部B503と、演算部B504と、を有している。
温度要求スタック電流制限値算出部B501には、目標冷却水温度と冷却水温度検出値が入力される。温度要求スタック電流制限値算出部B501は、冷却水温度検出値と目標冷却水温度の偏差が所定値以下となるように算出されるスタック電流の制限値を温度要求スタック電流制限値として算出する。
HFR要求電流制限値算出部B502には、HFR測定値が入力される。HFR要求電流制限値算出部B502は、所定のHFR−電流制限値マップに基づき、HFR測定値からHFR要求スタック電流制限値を算出する。
図に示すHFR−電流制限値マップでは、HFR測定値が大きくなるほど(電解質膜がより乾燥するほど)HFR要求スタック電流制限値が小さくなる。これは、電解質膜が乾燥すると電解質膜の劣化を防止する観点から、燃料電池スタック10から取り出す電流を減少させるためである。
一方で、HFR値が相対的に低い状態(電解質膜の湿潤度が相対的に高い状態)では、燃料電池スタック10からより多くの電流を取り出すことができるので、HFR要求スタック電流制限値は相対的に大きくなる。
ミニマムセレクト部B503には、温度要求スタック電流制限値及びHFR要求スタック電流制限値が入力される。ミニマムセレクト部B503は、これら値の内の小さい方をスタック電流制限値として演算部B504に出力する。
演算部B504には、スタック電流制限値及びスタック電圧制限値が入力される。演算部B504は、これら値を相互に乗算することでスタック出力制限値を算出し、演算部B1037に出力する。
図10に戻り、演算部B1037には、スタック出力制限値、補機消費電力、及びシステム要求出力が入力される。ここで、補機消費電力は、燃料電池システム100における電動モータ60以外の補機(例えば、各種バルブやポンプ等)の消費電力である。
演算部B1037は、スタック出力制限値から上記電動モータ60以外の補機消費電力及びシステム要求出力を減算し、出力制限要求モータ動力として演算する。演算部B1037は、演算した出力制限要求モータ動力をミニマムセレクト部B1038に出力する。
ミニマムセレクト部B1038には、最大モータ動力、発電電力要求最大モータ動力、及び出力制限要求モータ動力が入力される。ミニマムセレクト部B1038は、これら値の内の最小値を目標モータ動力として減算部302に出力する。
すなわち本実施形態では、最大モータ動力、発電電力要求最大モータ動力、及び出力制限要求モータ動力の内の最小値が、電動モータ60の動力の目標値である目標モータ動力として定められることとなる。したがって、本実施形態では、目標モータ動力が定常時目標運転モータ動力上限値に相当する。
目標タービン入口温度算出部B1039には、減算部302において目標コンプレッサ動力から目標モータ動力を減算した値が目標タービン回収動力として入力される。したがって、本実施形態では、目標タービン回収動力は、コンプレッサ64で必要とされる動力に対して電動モータ60で得られる動力が不足する分として算出されることとなる。
また、目標タービン入口温度算出部B1039には、目標空気圧力及び目標空気流量が入力される。
そして、目標タービン入口温度算出部B1039は、目標タービン回収動力、目標空気圧力、及び目標空気流量に基づいて、制限前目標タービン入口温度を算出する。ここで、制限前目標タービン入口温度は、後述するタービン62の部品の耐熱温度等を考慮した制限がかかる前のタービン入口温度も目標値である。
目標タービン入口温度算出部B1039は、具体的に、タービン回収動力推定部B1031で用いた式(2)を用いて、目標タービン回収動力、目標空気圧力、及び目標空気流量から制限前目標タービン入口温度を算出する。
すなわち、式(2)のPOt_eに目標タービン回収動力を代入し、Qinに目標空気流量を代入する。そして、図11に示したタービン入口空気圧力Pt_inの算出ロジックにおいて、「空気圧力検出値」及び「空気流量検出値」をそれぞれ、目標空気圧力及び目標空気流量に置き換えて、タービン入口空気圧力Pt_inを算出する。また、タービン出口空気圧力Pt_outとしては大気圧を用いる。このようにして得られた各値を式(2)に適用すれば、式(2)のTt_in_eを求めることができるので、これを制限前目標タービン入口温度とすることができる。
目標タービン入口温度算出部B1039は、算出した制限前目標タービン入口温度をミニマムセレクト部B104に出力する。
図9に戻り、ミニマムセレクト部B104には、空気系制御部B103から出力される制限前目標タービン入口温度、及び許容上限温度が入力される。ここで、許容上限温度とは、部品の耐熱温度を考慮して定められるタービン入口温度の上限温度であり、記憶部303に予め記憶されている。
ミニマムセレクト部B104は、制限前目標タービン入口温度と許容上限温度の内の小さい方の値を、目標タービン入口温度として燃焼器水素量調節弁制御部B105に出力する。
燃焼器水素量調節弁制御部B105には、目標タービン入口温度、空気流量検出値、空気圧力検出値、スタック出口温度、スタック電流検出値、供給水素圧力、及び冷却水温度(水素温度)が入力される。
燃焼器水素量調節弁制御部B105は、入力された各値に基づいて、燃焼器水素量調節弁49の開度の目標値である目標水素供給弁開度を算出し、燃焼器水素量調節弁49に出力する。具体的に、燃焼器水素量調節弁制御部B105は、予め定められた目標タービン入口温度、目標空気流量、及び燃焼器水素量調節弁49の開度の関係を規定したマップに基づいて、目標タービン入口温度及び目標空気流量から燃焼器水素量調節弁49の目標水素供給弁開度を算出する。
以上説明した制御構成を有する燃料電池システム100の作動状態について説明する。
図15は、システム要求出力に応じた燃料電池システム100の各パラメータの変化を示している。具体的に、図15(a)はシステムのネット出力の変化を示しており、図15(b)はモータ消費電力及びタービン回収動力の変化を示している。また、図15(c)、図15(d)、及び図15(e)はそれぞれ、システム効率の変化、タービン入口温度の変化、及び燃焼器32への水素供給量を表している。さらに、図15(b)における一点鎖線は、定常時目標モータ動力上限値を示している。
また、図15(a)〜図15(e)においては、目標スタック電流が所定値I1以上のシステム要求出力が相対的に高い高負荷領域において、定常時目標モータ動力上限値を減少させないと仮定した場合における各量の変化を破線で示す。
図示のように、スタック電流が所定値I0以下のシステム要求出力が相対的に低い低負荷領域では、燃焼器32が作動しておらず、タービン入口温度及び燃焼器水素量調節弁49の開度が一定値をとっている(図15(d)及び(e)参照)。したがって、タービン回収動力は相対的に少なくなり、コンプレッサ64の動力をモータ消費電力で賄う割合が高くなるため、システム効率が比較的高くなっている(図15(b)及び(c)参照)。
スタック電流が所定値I0〜I1の中負荷領域では、モータ動力が、図上一点鎖線で示した目標モータ動力の上限値(定常時目標運転モータ動力上限値)に静定し、これ以上上昇しなくなる。一方で、モータ動力の増加は停止してもシステム要求出力が増加を続ければ、目標コンプレッサ動力は増加していく。したがって、この目標コンプレッサ動力を満たすべく、燃焼器32を作動させて燃焼ガスの温度を向上させ、タービン回収動力を向上させてタービン62で賄うコンプレッサ64の動力を増加させる。
次に、スタック電流が所定値I1以上である高負荷領域では、図10における発電電力要求最大モータ動力算出部B1036のロジックにしたがい、定常時目標運転モータ動力上限値が低下した値に設定される(図15(b)参照)。これに伴い、モータ動力が、低下した定常時目標運転モータ動力上限値に向かって減少する。さらに、このモータ動力の低下をタービン回収動力で補うべく、燃焼器32への水素供給量をより増加させて、タービン回収動力をより増加させる(図15(b)、(d)、及び(e)参照)。
したがって、高負荷領域においてモータ動力(モータ消費電力)を減少させつつも、システム100のネット出力をより増加させることができる(図15(a)参照)。すなわち、本実施形態にかかる燃料電池システム100では、高負荷領域においてタービン回収動力をより向上させて、モータ消費電力を大きく低減し、システム出力を向上させることができるので、燃料電池スタック10のサイズの小型化を図ることができる。
図16は、本実施形態の燃料電池システム100の制御における経時的な流れの一例を示すタイムチャートである。
図示のように、本実施形態の燃料電池システム100では、時刻t1〜t2においては、タービン回収動力が目標タービン回収動力にほぼ一致しており(定常運転状態)、スタック電流が相対的に低くシステム要求出力が小さい低負荷領域である(図16(a)参照)。また、時刻t1〜t2では、モータ動力が定常時目標モータ動力上限値を下回っている。すなわち、モータ動力から定常時目標モータ動力上限値を減算して得られる動力超過量が負の値となっている。
この定常運転状態且つ低負荷領域では、モータ動力が不足しておらず、タービン回収動力が目標タービン回収動力にほぼ一致しており、燃焼器32が非作動状態である。したがって、タービン回収動力及びタービン入口温度は相対的に低い値をとっている(図16(c)及び図16(f)参照)。
次に、時刻t2において燃料電池スタック10の負荷(スタック電流)が増加し始める(図16(a)参照)。すなわち、燃料電池スタック10へのシステム要求出力が増加し始める。したがって、燃料電池スタック10への負荷の増加に応じて空気圧力及び空気流量が上昇する(図16(c)及び図16(d)参照)。そして、負荷の増加に合わせて、燃焼器32が作動し、タービン入口温度及びタービン回収動力の増加が開始される(図16(c)及び図16(f)参照)。
時刻t3において、目標タービン回収動力がタービン回収動力を上回り、モータ動力が定常時目標モータ動力上限値を上回る過渡運転状態に移行する(図16(b)及び図16(c)参照)。図16(b)の一点鎖線で示すように、過渡運転状態では、定常時目標モータ動力上限値よりも大きい過渡時目標モータ動力上限値(図10の「過渡時目標モータトルク最大値」参照)まで、モータ動力の上昇が許容される。
一方で、図10の発電電力要求最大モータ動力算出部B1036のマップにしたがい、定常目標モータ動力上限値としてより減少した値が設定される(図16(b)参照)。したがって、モータ動力はより低い値に制限されることとなる。これに伴い、タービン回収動力を増加させるべく目標タービン回収動力がより高い値に設定される(図16(c)参照)。
一方で、図16(c)に破線で示すように、時刻t3以降において目標タービン回収動力が高く設定されるが、実際のタービン回収動力は応答遅れによって目標タービン回収動力に到達するまでにタイムラグが生じる。したがって、本実施形態では、上述のように、時刻t3以降においては、モータ動力の上限値として定常時目標モータ動力上限値よりも大きい過渡時目標モータ動力上限値を設定する。これにより、モータ動力が負荷の増大に応じて定常時目標モータ動力上限値を超えて上昇することを許容し、応答遅れによるタービン回収動力の不足を補っている。
時刻t4において、モータ動力が最大となるとともに(図16(b)参照)、燃料電池スタック10に対する負荷が最大となる。すなわち、システム要求出力が最大となる(図16(a)参照)。以降は、負荷が最大の状態で時刻t6まで静定する。また、タービン回収動力は徐々に目標タービン回収動力に向かって増加していく(図16(c)参照)。一方、図10のモータ出力上限値設定部202の制御ロジックにしたがい、目標モータ動力が定常目標モータ動力上限値に制限されているので、モータ動力は定常目標モータ動力上限値に向かって低下する(図16(b)参照)。すなわち、コンプレッサ64の動力を確保するにあたり、電動モータ60による動力の割合に対して、タービン回収動力の割合を高くなって行くこととなる。
時刻t5において、モータ動力及びタービン回収動力がそれぞれ、定常目標モータ動力上限値及び目標タービン回収動力に静定する(図16(b)及び図16(c)参照)。すなわち、燃料電池システム100の状態が定常運転状態に移行する。ここで、時刻t5〜t6の間の定常運転状態では、低下された定常目標モータ動力上限値が設定されているので、モータ動力はこの低下された定常目標モータ動力上限値に制限される一方で、このモータ動力の制限分がタービン回収動力により補われることとなる。すなわち、コンプレッサ64の動力を確保するにあたり、電動モータ60による動力の割合に対して、タービン回収動力の割合がより一層高くなる。
時刻t6において、負荷が低下し始め(図16(a)参照)、負荷の低下に合わせて要求されるモータ動力及び目標タービン回収動力は低下する。そして、本実施形態では、時刻t6で定常時目標モータ動力上限値を、低下前(時刻t3以前)の値に復帰させる。
さらに、負荷の低下に合わせて空気圧力及び空気流量が低下するので(図16(d)及び図16(e)参照)、タービン回収動力が低下して目標タービン回収動力に静定する(図16(c)参照)。一方、タービン入口温度については、燃焼器32が非作動状態とされてからやや遅れをともない緩やかに減少していき、時刻t7で目標タービン入口温度に静定する(図16(f)参照)。
時刻t8〜t10において、再び、燃料電池スタック10の負荷を増加させる(図16(a)参照)。また、時刻t9において燃料電池システム100の状態が過渡運転状態に移行する。この時刻t8〜t10では、上述した時刻t2〜t4の場合よりも負荷増加量(システム要求出力)が少ない。
したがって、時刻t10〜時刻t12は中負荷領域となる。ここで、高負荷領域に移行する前の時刻t3では、定常目標モータ動力上限値をより低い値に設定していたが、中負荷領域(時刻t10〜t12)では、定常目標モータ動力上限値を減少させることなく維持したままとなっている。したがって、図16(b)から明らかなように、高負荷領域であった時刻t4〜時刻t5と比較すると、時刻t11においてモータ動力の値が低下していない定常時目標モータ動力上限値に静定することとなる。したがって、モータ動力が比較的高く維持される一方で、タービン回収動力が比較的低い値に設定される(図16(c)参照)。
このように、システム要求出力がそれほど高くない場合には、コンプレッサ64に供給する動力に対して、タービン回収動力に対する電動モータ60の動力の割合を高負荷領域の場合と比較して高くし、よりシステム効率を向上させることができる。すなわち、燃料電池スタック10に対して多大な負荷を与えないと考えられる中負荷領域では、電動モータ60の動力の割合を相対的に高くしても、燃料電池スタック10の発電電力が極端に大きくはならないので、むしろシステム効率を向上させる観点から電動モータ60の動力の割合を高くする。
以上説明した本発明の第1実施形態にかかる燃料電池システム100及び燃料電池システム100の制御方法によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態による燃料電池システム100は、燃料電池としての燃料電池スタック10のアノード極に燃料(水素)を供給する燃料供給装置としての高圧タンク40、スタック用水素供給通路44、及びスタック供給水素調圧弁48と、燃料電池スタック10のカソード極に酸化剤としての空気を供給する酸化剤供給装置と、燃料電池スタック10の運転状態を検出する運転状態検出部としてのHFR測定装置18、エアフローメータ26、空気圧力センサ28、スタック出口温度センサ30、電流センサ51、及び電圧センサ52と、運転状態検出部からの信号により上記燃料供給装置及び上記酸化剤供給装置を制御する運転制御装置としてのコントローラ20と、を備える。
この燃料電池システム100では、上記酸化剤供給装置は、コンプレッサ64と該コンプレッサ64を駆動する電動モータ60と、を備える。そして、コントローラ20は、システムが定常運転状態であるか否かを判定する定常状態判定部としての空気系制御部B103と、定常状態判定部による判定結果に基づいて、電動モータ60の出力上限値である定常時目標モータ動力上限値(図16(b)参照)を設定するモータ出力上限値設定部202(図10参照)として機能する。
これにより、燃料電池システム100が定常運転状態であるか否かに応じて、電動モータ60の出力を定常時目標モータ動力上限値以下に制限することができる。したがって、燃料電池システム100を電動モータ60の消費電力を削減することができ、電動モータ60のサイズを小型化することができる。結果として、燃料電池システム100全体の小型化に資することとなる。
特に、本実施形態では、上述のように電動モータ60の消費電力を削減できるので、電動モータ60に電力を供給する燃料電池スタック10の出力も削減されることとなり、スタックサイズの小型化を図ることができる。これにより、電動モータ60及び燃料電池スタック10の双方の小型化が図られ、より一層燃料電池システム100全体の小型化に資することができる。
また、本実施形態では、電動モータ60とは独立してコンプレッサ64を駆動するタービン62と、水素と空気(酸素)を燃焼させてタービン62を駆動するための燃焼ガスを生成する燃焼器32と、をさらに備える。そして、コントローラ20は、燃料電池スタック10への要求負荷(目標スタック電流)に応じて電動モータ60の出力であるモータ出力及びタービン回収動力の出力配分を調節する出力配分調節部としての空気系制御部B103と、空気系制御部B103により定められるタービン回収動力に基づいて、燃焼器32への燃料供給量を制御する燃料供給制御部としての目標タービン入口温度算出部B1039及び燃焼器水素量調節弁制御部B105をさらに備えている。
これにより、燃料電池スタック10への要求負荷を満たすにあたり、電動モータ60により得られる動力とタービン62の回収動力の割合を好適に調節することができる。特に、出力配分調節が行われた結果、必要されるタービン回収動力に基づいて、燃焼器32への燃料供給量を好適に制御することができる。
さらに、燃料電池システム100において、上記出力配分調節部としての空気系制御部B103は、モータ出力と定常時目標モータ動力上限値の差(図16(b)のモータ動力超過量)が所定値以下となるようにタービン回収動力を調節する(図10のモータ出力上限値設定部202及び減算部302)。
これにより、モータ出力が定常時目標モータ動力上限値を超えないように、タービン回収動力を好適に調節することができる。したがって、モータ出力を定常時目標モータ動力上限値に制限している状況においても、負荷の要求をより確実に満たすことができる。
また、本実施形態の燃料電池システム100では、上記出力配分調節部としての空気系制御部B103は、燃料電池への要求負荷(目標スタック電流)に基づいて目標コンプレッサ動力を算出し、目標コンプレッサ動力から定常時目標モータ動力上限値を減算することで目標タービン回収動力を算出する(図10の減算部302参照)。さらに、燃料供給制御部としての目標タービン入口温度算出部B1039及び燃焼器水素量調節弁制御部B105は、調節されたタービン回収動力に基づいて燃焼器32への燃料供給量の目標値である目標燃料供給量に相当する目標水素供給弁開度を算出し、算出された目標水素供給弁開度に基づいて燃焼器32への燃料供給量(燃焼器水素量調節弁49の開度)を制御する。
これにより、目標コンプレッサ動力に対し、モータ出力が定常時目標モータ動力上限値を超えないように制限しつつ、燃焼器32への水素供給量を調節してタービン回収動力を調節することができる。すなわち、目標コンプレッサ動力に対してモータ出力を比較的低く制限しつつ、不足分をタービン回収動力によって補うように、燃焼器32への水素供給量を調節することができる。したがって、コンプレッサ64で必要とされる動力に対して、モータ出力を比較的低くすることができるので、電動モータ60の消費電力の最大値をより抑えて、電動モータ60や燃料電池スタック10のさらなる小型化を図ることができる。
さらに、本実施形態において定常運転状態とは、電動モータ60の出力から定常時目標モータ動力上限値を減算した値であるモータ出力超過量(モータ動力超過量)が所定値以下(実質的にゼロ)の場合である(特に図16(b)の時刻t5〜t6及び時刻t11〜時刻t12参照)。
このような燃料電池システム100の定常運転状態はタービン回収動力が目標タービン回収動力と略一致する状態に相当することとなる。したがって、定常時目標モータ動力上限値をより適切なシーンで設定することができる。
また、本実施形態の燃料電池システム100では、コントローラ20は、システム要求出力を算出するシステム要求出力算出部200をさらに有する。そして、モータ出力上限値設定部202は、システム要求出力を加味して定常時目標モータ動力上限値を設定する(図10参照)。
これにより、定常時目標モータ動力上限値をシステム要求出力の大小に応じてより適切に設定することができる。
さらに、システム要求出力算出部200は、車両のアクセルペダルの操作量に基づいてシステム要求出力を算出する(図9のシステム要求出力算出部参照)。
これにより、燃料電池システム100を搭載した車両の負荷状態に応じてシステム要求出力を算出することができる。すなわち、アクセルペダルの踏み込み量が比較的大きい高負荷領域、及びアクセルペダルの踏み込み量が比較的小さい低・中負荷領域等の車両の負荷状態をより確実に検出して、当該負荷状況に応じて本実施形態にかかる制御をより好適に実行することができる。
さらに、モータ出力上限値設定部202としてのモータ出力上限値設定部202は、システム要求出力が相対的に高い場合に、定常時目標モータ動力上限値を低く設定する(図10の発電電力要求最大モータ動力算出部B1036、演算部B1037、及び図13,図15における目標スタック電流がI1以上の領域参照)。
これにより、システム要求出力が相対的に高い高負荷領域においても、コンプレッサ64の要求動力に対して寄与するモータ動力を低下させることができ、モータ消費電力をより削減することができる(図16(b)の時刻t4〜時刻t6)。結果として、高負荷領域においてモータ動力を減少させることができる。したがって、電動モータ60の出力をより小さくして電動モータ60のさらなる小型化を図ることができる。
また、本実施形態では、燃料電池スタック10の発電電力の内、電動モータ60で消費される電力の割合をより削減することができる。したがって、燃料電池スタック10の発電電力当りのシステム出力(ネット出力)をより向上させることができるので、燃料電池スタック10のサイズのさらなる小型化が実現される。
さらに、本実施形態による燃料電池システム100では、モータ出力上限値設定部202としてのモータ出力上限値設定部202は、上記運転状態検出部としての水温センサ88により検出された冷却水温度、及びHFR測定装置18により検出されたHFR測定値に基づいて燃料電池スタック10の出力制限値としてのスタック出力制限値を算出し(スタック出力制限値算出部203)、算出されたスタック出力制限値とシステム要求出力と、を比較し(図10の演算部B1037)する。そして、モータ出力上限値設定部202は、スタック出力制限値に対してシステム要求出力が大きいほど、定常時目標モータ動力上限値を低く設定する(図10の演算部B1037及びミニマムセレクト部B1038)。
これにより、燃料電池スタック10の運転状態に応じたスタック出力制限値とシステム要求出力の差が小さいとき、すなわち燃料電池スタック10において発電可能な上限電力の多くをシステム出力(車両の走行等)に使用する必要がある場合には、定常時目標モータ動力上限値を低くして電動モータ60に供給する電力を低減することができる。したがって、燃料電池スタック10の運転状態に基づいて必要に応じて、より多くの割合のスタック発電電力をシステム出力に使用することができる。
なお、スタック出力制限値については、上記燃料電池スタック10の運転状態に加えて、燃料電池スタック10のサイズに応じた制限値を加味しても良い。具体的には、例えば、燃料電池の運転状態に基づいて算出される上記スタック出力制限値と、燃料電池スタック10のサイズに応じた制限値と、の小さい方を選択して実際に用いるスタック出力制限値とすることができる。
また、本実施形態では、定常時目標モータ動力上限値を低くして電動モータ60の出力を制限した場合でも、タービン回収動力でこれを補い、より確実に目標コンプレッサ動力を確保することができる。
さらに、本実施形態による燃料電池システム100では、モータ出力上限値設定部202は、電動モータ60の連続定格動力である最大モータ動力、燃料電池スタック10の要求負荷(目標スタック電流)に基づいて設定される負荷要求最大モータ動力としての発電電力要求最大モータ動力、及びスタック出力制限値のうち、最も小さい値を定常時目標モータ動力上限値として設定する。
これにより、電動モータ60の連続定格等の最大モータ動力、要求発電電力に応じた発電電力要求最大モータ動力、及び燃料電池スタック10の運転状態等に応じた出力制限値を全て満足するように、定常時目標モータ動力上限値を定めることができる。したがって、これら3つの要素に応じて電動モータ60の消費電力を好適に制限することができる。
以上説明したように、本実施形態では、燃料電池スタック10にカソード極に空気を供給するコンプレッサ64を電動モータ60で駆動する燃料電池システム100の制御方法が提供される。そして、この制御方法では、コントローラ20は、システム100が定常運転状態であるか否かを判定し(図10の空気系制御部B103)、定常運転状態であるか否かの判定結果に基づいて電動モータの出力上限値を設定する(図10のモータ出力上限値設定部202)。
これにより、燃料電池システム100が定常運転状態であるか否かに応じて、電動モータ60の出力を定常時目標モータ動力上限値以下に制限することができる。したがって、燃料電池システム100を電動モータ60の消費電力を削減することができ、電動モータ60のサイズを小型化することができる。結果として、燃料電池システム100全体の小型化に資することとなる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、本実施形態の図16においては、定常時目標モータ動力上限値を定常運転状態且つ高負荷となる時刻t5より以前の時刻t3で低くしているが、定常運転状態且つ高負荷となる時刻t5に合わせて定常時目標モータ動力上限値を低くするようにしても良い。また、時刻t5以前、例えばモータ動力超過量が予め定められた0以上の所定値以下となった段階で定常時目標モータ動力上限値を低く設定するようにしても良い。
また、本実施形態では、図16に示すように、定常時目標モータ動力上限値が時刻t4〜時刻t5で低下させた値をとる以外は、時間変化に対してほぼ一定の値となっている。しかしながら、例えば、システム要求出力の連続的な増加(減少)に応じて定常時目標モータ動力上限値を連続的に減少(増加)させるようにしても良い。
また、上記実施形態では、過渡時モータトルク上限値としては、電動モータ60の仕様などに応じて予め定められる短時間定格を用いているが、これに限られず、モータトルクの最大値として好適な種々の値を用いることができる。
一例として、過渡時モータトルク上限値を、電動モータ60の温度、電動モータ60の図示しないインバータの温度、短時間定格、電動モータ60の動力が目標モータ動力(定常運転モータ電力上限値)以上となる時間、インバータの電流制限値、電動モータ60の回転数変化率、及び電動モータ60やそのインバータの冷却水温度等に基づいて得られる固定値又は可変値としても良い。
また、本実施形態における「コンプレッサ64」は、カソードガス供給通路22を介して燃料電池スタック10のカソード極に空気を供給する機能を果たしている。したがって、このような機能を果たすことができるならば、「コンプレッサ64」は、一般的な意味で認識されている「コンプレッサ」(有効吐出し圧力が200kPa以上の圧縮機)以外にも、適宜、ブロワ等の他の圧縮機や送風機に代えることもできる。
さらに、本実施形態における「タービン62」は、燃料電池スタック10にカソードガス排出通路24を介して接続されている。より具体的には、カソードガス排出通路24に設けられた燃焼器32で燃料電池スタック10からのカソード排ガスを水素とともに燃焼させ、生成した燃焼ガスをタービン62に供給するようにしている。しかしながら、これに限られず、例えば、タービン62をカソードガス排出通路24とは別系統に構成するようにしても良い。例えば、任意のガス供給源からのガスをタービン62へ供給する供給系統、及びタービン62へのガスの供給流量及び温度を調節する機構を別途設けるようにしても良い。