以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる燃料電池システム100の構成図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、カソード給排機構12と、アノード供給機構14と、熱供給機構15と、コンプレッサ50及びタービン52を有する燃焼器乾燥装置としてのコンプレッサ動力供給機構16と、スタック冷却機構17と、コントローラ20と、を有している。
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池を積層した積層電池である。燃料電池スタック10は、アノード供給機構14からのアノードガス(水素)の供給及びカソード給排機構12からのカソードガス(空気)の供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。この発電電力は、燃料電池システム100を作動するときに使用されるコンプレッサ50等の各種の補機類や、図示しない車輪駆動用のモータで使用される。燃料電池スタック10の正極端子及び負極端子には、燃料電池スタック10に形成された電解質膜の湿潤状態に相関するインピーダンスを計測するインピーダンス計測装置11が接続されている。
インピーダンス計測装置11は、燃料電池スタック10の正極端子に交流電流を供給し、燃料電池スタック10の正極端子と負極端子に生じる電圧の交流成分を検出する。そしてインピーダンス計測装置11は、供給した交流電流と検出した電圧の交流成分とに基づいて、燃料電池スタック10の交流抵抗、すなわちHFR(High frequency Resistance)を演算する。インピーダンス計測装置11は、演算したHFRをHFR計測値としてコントローラ20に入力する。なお、インピーダンス計測装置11は、燃料電池スタック10の出力電圧や出力電流などを計測してもよい。
カソード給排機構12は、カソードガス供給通路22と、カソード排ガス通路24と、を備えている。
カソードガス供給通路22は、燃料電池スタック10に供給される空気が流れる通路である。カソードガス供給通路22の一端はガスフィルタ23に接続され、他端は燃料電池スタック10に接続される。
そして、カソードガス供給通路22には、上流から順に、エアフローセンサ26と、コンプレッサ吐出温度センサ27と、アフタークーラ28と、スタック供給空気温度センサ29と、空気圧力センサ30と、が設けられている。
エアフローセンサ26は、カソードガス供給通路22において、コンプレッサ動力供給機構16のコンプレッサ50の吸気入口に設けられている。エアフローセンサ26は、コンプレッサ50に吸入される空気の流量(以下では「コンプレッサ流量」とも記載する)を検出する。以下では、このエアフローセンサ26の検出値を「コンプレッサ流量検出値」とも記載する。エアフローセンサ26で検出されたコンプレッサ流量検出値は、コントローラ20に入力される。
コンプレッサ吐出温度センサ27は、コンプレッサ50から吐出され、アフタークーラ28より上流の空気温度(以下では「コンプレッサ吐出温度」とも記載する)を検出する。
また、カソードガス供給通路22において、エアフローセンサ26とコンプレッサ吐出温度センサ27の間には、バイパス弁32を有するバイパス通路33が接続されている。このバイパス通路33は、カソードガス供給通路22とカソード排ガス通路24を連結する通路である。すなわち、バイパス通路33は、アフタークーラ28の上流から該アフタークーラ28と燃料電池スタック10をバイパスして後述する触媒燃焼器36にカソードガスを供給する通路である。
アフタークーラ28は、コンプレッサ50から吐出されて燃料電池スタック10に送られる空気を冷却する。アフタークーラ28は、水冷式の熱交換器として構成されており、スタック冷却機構17と接続されている。すなわち、アフタークーラ28により、燃料電池スタック10の冷却に用いる冷却水と燃料電池スタック10に供給すべき空気との間で熱交換が行われる。
スタック供給空気温度センサ29は、アフタークーラ28で冷却されて燃料電池スタック10に供給されるカソードガスの温度(以下では「スタック供給空気温度」とも記載する)を検出する。
空気圧力センサ30は、カソードガス供給通路22内の圧力、すなわち燃料電池スタック10に供給される空気の圧力(以下では「空気圧力」とも記載する)を検出する。空気圧力センサ30で検出された空気圧力検出値は、コントローラ20に入力される。
バイパス弁32は、燃料電池スタック10をバイパスしてカソード排ガス通路24に供給する空気流量を調節する調圧弁であり、コントローラ20によって開閉制御される。すなわち、バイパス弁32は、コンプレッサ50から供給された空気の内、バイパス通路33を介して燃料電池スタック10をバイパスしてカソード排ガス通路24に供給する空気流量を調節する弁である。
また、本実施形態では、バイパス通路33は、既に述べたようにカソード排ガス通路24における触媒燃焼器36の上流に連通されている。したがって、このバイパス通路33により、カソードガス供給通路22内の空気をカソード排ガス通路24に供給し、触媒燃焼器36に供給するカソード排ガスの酸素濃度を向上させることができる。
さらに、カソード排ガス通路24は、一端が燃料電池スタック10のカソード出口に接続されるとともに、他端がタービン52に連結されている。またカソード排ガス通路24には、熱供給機構15が設けられている。
熱供給機構15は、上述の触媒燃焼器36と、タービン入口温度センサ38と、を有している。この触媒燃焼器36とタービン入口温度センサ38は、燃料電池スタック10からタービン52に向かってこの順で、カソード排ガス通路24に設けられている。
触媒燃焼器36は、アノードガスとカソードガスを図示しないミキサで混合してなる混合ガスを、白金等による触媒作用で触媒燃焼させる。この触媒燃焼器36には、アノード供給機構14から燃焼用アノードガス供給通路64を介してアノードガスが供給される一方で、カソード排ガス通路24を介して燃料電池スタック10からカソード排ガス及びバイパス通路33から空気が供給される。したがって、触媒燃焼器36に供給されるカソードガスには、バイパス通路33を介して供給される空気と、燃料電池スタック10から排出されたカソード排ガスが含まれることとなる。
なお、本実施形態では、燃焼器として触媒燃焼器36を用いることで、拡散燃焼方式の燃焼器や希薄予混合燃焼方式の燃焼器を用いる場合と比較して、窒素化合物(Nox)の発生が抑制される。しかしながら、拡散燃焼方式の燃焼器や希薄予混合燃焼方式の燃焼器等の触媒燃焼器以外の燃焼器を用いても良い。
タービン入口温度センサ38は、触媒燃焼器36による燃焼の後に残った燃焼後ガスの温度、すなわちコンプレッサ動力供給機構16のタービン52に供給される燃焼後ガスの温度(以下では、「タービン入口温度」とも記載する)を検出する。なお、タービン入口温度センサ38で検出されたタービン入口温度の検出値は、コントローラ20に入力される。
次に、アノード供給機構14について説明する。本実施形態におけるアノード供給機構14は、高圧タンク60と、スタック用アノードガス供給通路62と、燃焼用アノードガス供給通路64と、を備えている。
高圧タンク60は、燃料電池スタック10に供給するアノードガスである水素を高圧状態に保って貯蔵するガス貯蔵容器である。
スタック用アノードガス供給通路62は、高圧タンク60から排出される水素を燃料電池スタック10に供給する通路である。スタック用アノードガス供給通路62の一端は高圧タンク60に接続され、他端は燃料電池スタック10に接続される。
また、スタック用アノードガス供給通路62には、アノードガス供給弁66と、水素圧力検出センサ67と、が設けられている。アノードガス供給弁66は、燃料電池スタック10への水素の供給量を任意に調節する調圧弁である。
水素圧力検出センサ67は、燃料電池スタック10に供給される水素の圧力(以下では、「水素圧力」とも記載する)を検出する。なお、水素圧力検出センサ67で検出された水素圧力検出値は、コントローラ20に入力される。
一方、燃焼用アノードガス供給通路64は、高圧タンク60から排出される水素の一部を、触媒燃焼器36に供給する通路である。そして、燃焼用アノードガス供給通路64は、その一端がスタック用アノードガス供給通路62に連通して分岐しており、他端が触媒燃焼器36に連結されている。
また、燃焼用アノードガス供給通路64には、触媒燃焼器36への水素供給量を任意に調節する燃焼器水素供給弁68が設けられている。燃焼器水素供給弁68は、その開度が連続的又は段階的に調節されることで触媒燃焼器36への水素供給量を適宜調節する調圧弁である。
なお、本実施形態に係る燃料電池システム100において、燃料電池スタック10からのアノード排ガスは、たとえば循環型又は非循環型の図示しないアノード排気機構により処理することができる。
次に、コンプレッサ動力供給機構16について説明する。コンプレッサ動力供給機構16は、コンプレッサ50と、タービン52と、電動モータとしてのコンプレッサ駆動モータ54と、を備えている。
コンプレッサ50は、コンプレッサ駆動モータ54及びタービン52と回転駆動軸57を介して接続されている。コンプレッサ50は、回転駆動されて外気を吸入し、カソードガス供給通路22を介して燃料電池スタック10にカソードガスを供給するように構成されている。なお、コンプレッサ50は、コンプレッサ駆動モータ54及びタービン52の一方又は双方の動力のいずれかにより駆動することができる。
タービン52は、触媒燃焼器36から供給される燃焼後ガスによって回転駆動される。そして、タービン52は、この回転駆動力を、回転駆動軸57及びコンプレッサ駆動モータ54を介してコンプレッサ50に動力を出力する。すなわち、タービン52からの回収動力でコンプレッサ50を駆動することができる。また、タービン52の駆動に使用された後の燃焼後ガスは、タービン排気通路53を介して排出される。
コンプレッサ50の動力要求が比較的大きく、タービン52による回収動力を増加させる必要がある場合などには、タービン52へ流入する燃焼後ガスの供給流量(以下では、「タービンガス流入流量」とも記載する)、温度(以下では、「タービン入口温度」)、及び圧力を増加させてコンプレッサ50へ好適に動力を供給することができる。
なお、タービン52による回収動力を、コンプレッサ50の回転駆動力だけではなく、燃料電池システム100内の他の任意の動力要求機構において使用しても良い。
コンプレッサ駆動モータ54は、回転駆動軸57の一方側でコンプレッサ50に接続されるとともに、回転駆動軸57の他方側でタービン52に接続される。コンプレッサ駆動モータ54は、図示しないバッテリ、燃料電池スタック10、及びタービン52等から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能(力行モード)、及び外力によって回転駆動されることで発電し、バッテリや燃料電池スタック10に電力を供給する発電機としての機能(回生モード)を有する。コンプレッサ駆動モータ54は、図示しないモータケースと、モータケースの内周面に固定されるステータと、ステータの内側に回転可能に配置されるロータと、ロータに設けられた回転駆動軸57と、を備える。
また、コンプレッサ駆動モータ54には、トルクセンサ55及び回転速度センサ56が設けられている。トルクセンサ55は、コンプレッサ駆動モータ54のトルクを検出する。そして、トルクセンサ55で検出されたコンプレッサ駆動モータ54のトルク検出値は、コントローラ20に入力される。
さらに、回転速度センサ56は、コンプレッサ駆動モータ54の回転速度を検出する。回転速度センサ56で検出されたコンプレッサ回転速度検出値は、コントローラ20に入力される。
次に、スタック冷却機構17について説明する。スタック冷却機構17は、冷却水循環流路76と、冷却水循環流路76を流れる冷却水を外気等と熱交換し、当該冷却水を冷却するラジエータ77と、を有している。
冷却水循環流路76は、図示しない燃料電池スタック10の冷却水通路を含む環状循環路として構成されている。この冷却水循環流路76には、冷却水循環ポンプ78が設けられており、これにより冷却水の循環が可能となっている。
そして、冷却水循環流路76を循環する冷却水は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aからスタック内に供給されるとともに、燃料電池スタック10の冷却水出口10bから排出される方向に流れる。
さらに、冷却水循環流路76には、ラジエータ77よりも上流の位置において、ラジエータバイパス三方弁80が設けられている。ラジエータバイパス三方弁80は、ラジエータ77に供給される冷却水の量を調節する。例えば、冷却水の温度が比較的高い場合には、ラジエータバイパス三方弁80を開放状態として、冷却水をラジエータ77に循環させる。一方で、冷却水の温度が比較的高い場合には、ラジエータバイパス三方弁80を閉塞状態として、ラジエータ77をバイパスするように冷却水をバイパス路80aに流す。
また、冷却水循環流路76には、燃料電池スタック10の冷却水入口10aの近傍に入口水温センサ81が設けられ、燃料電池スタック10の冷却水出口10bの近傍に出口水温センサ82が設けられている。
入口水温センサ81は、燃料電池スタック10へ流入される冷却水の温度を検出する。出口水温センサ82は、燃料電池スタック10から排出される冷却水の温度を検出する。入口水温センサ81で検出されたスタック入口水温検出値と出口水温センサ82で検出されたスタック出口水温検出値は、コントローラ20に入力される。
さらに、上述のように、冷却水循環流路76には、アフタークーラ28が接続されている。これにより、既に述べたように、冷却水循環流路76内の冷却水とカソードガス供給通路22内における燃料電池スタック10へ供給される空気との間で熱交換を行うことが可能である。したがって、例えば、燃料電池スタック10の暖機時等の熱量が要求される場合において、コンプレッサ50から吐出された高温の空気の熱により冷却水循環流路76内の冷却水を加熱することができ、熱量要求を満たすことができる。一方で、アフタークーラ28は、コンプレッサ50から吐出された高温の空気を冷却するので、空気が燃料電池スタック10の作動に好適な温度となって当該燃料電池スタック10に供給されることとなる。アフタークーラ28で交換された熱は冷却水を介してラジエータ77に運ばれ、システム外部に放熱される。
さらに、上述のように構成される燃料電池システム100は、当該システムを統括的に制御するコントローラ20を有している。
コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ20には、燃料電池システム100の各種センサからの信号の他、大気の圧力を検出する大気圧センサ111などの燃料電池システム100の作動状態を検出する各種センサからの信号や、燃料電池システム100の始動停止要求を検出する始動スイッチ112からの信号が入力される。
さらに、コントローラ20には、燃料電池スタック10に接続された負荷装置110による負荷に応じて燃料電池スタック10に要求される要求電力(以下では、単に「要求発電電力」とも記載する)に関する発電要求信号が入力される。負荷装置110は、例えば、車輪駆動用のモータや二次電池などによって構成される。本実施形態では、例えば、図示されていないアクセルペダルセンサで検出されるアクセルペダルの踏込み量を示す検出信号が大きくなるほど、負荷装置110の要求電力は大きくなるため、コントローラ20に入力される発電要求信号の信号レベルは高くなる。
コントローラ20は、これら入力信号等を用いて、コンプレッサ駆動モータ54、冷却水循環ポンプ78、及びバイパス弁32を含む各種弁32、66、68、80等の駆動制御を行う。例えば、コントローラ20は、負荷装置110の発電要求信号に基づいて、コンプレッサ流量や空気圧力の目標値や、燃料電池スタック10への水素供給圧力の目標値を算出し、その算出結果に応じて、コンプレッサ駆動モータ54のトルク(動力)や、アノードガス供給弁66の開度を制御する。
また、本実施形態では、コントローラ20は、上記要求発電電力の一部として、コンプレッサ駆動モータ54の消費電力に関連する情報も取得する。
次に、本実施形態における燃料電池システム100の制御について説明する。
図2は、本実施形態に係る燃料電池システム100を停止するための処理の概要を説明するためのタイミングチャートである。
コントローラ20は、始動スイッチ112がオフにされると、すぐにシステム停止せずに、スタック乾燥運転と、燃焼器乾燥運転と、停止VLC(Voltage Limit Control)処理を順番に行う。
スタック乾燥運転は、燃料電池スタック10の含水量を低下させるための運転である。例えば、コントローラ20は燃料電池スタック10の目標HFR(High frequency Resistance)を通常運転用の設定値よりも高い停止用設定値に切り替え、この停止用設定値に到達するまで燃料電池スタック10へのカソードガス供給流量を増大させる。ここで、燃料電池スタック10の乾燥状態を判断するためにHFRを用いるのは、燃料電池スタック10の電解質膜が乾燥しているほどHFRが大きくなるという相関関係があるからである。
なお、始動スイッチ112がオフになったときに燃料電池スタック10の内部インピーダンスが停止用設定値に達している場合、つまり燃料電池スタック10が乾燥している場合には、コントローラ20はスタック乾燥運転を実行しない。
燃焼器乾燥運転は、触媒燃焼器36の含水量を低下させるための運転であり、コンプレッサ50を作動させることにより、触媒燃焼器36内の水分を除去する(以下、「水分除去処理」ともいう)ものである。燃焼器乾燥運転の具体的な制御内容については後述する。
停止VLC処理は、カソードガスの供給を停止した後に、アノードガスのみを供給して発電を実施することで、燃料電池スタック10内のカソードガスを消費し、スタック出力電圧を制限電圧まで低下させる処理である。当該処理により、スタック出力電圧が高い状態のまま燃料電池システム100が停止されたことによって生じる燃料電池の触媒の劣化を抑制できる。
図2においては、タイミングT1において始動スイッチ(図中のIGN)112がオンからオフになり、コントローラ20はスタック乾燥運転のために電流を低下させ、カソードガス供給流量(図中の「スタック空気流量」)を増大させる。これにより、燃料電池スタック10のHFRは徐々に増大する。HFRが増大するということは、燃料電池スタック10内の含水量が低下することを意味する。
そして、タイミングT2においてHFRが目標値に達すると、つまり燃料電池スタック10が乾燥すると、コントローラ20はカソードガス供給流量を減少させ、かつ、触媒燃焼器36へのアノードガス供給量を増大させて、燃焼器乾燥運転を開始する。これにより触媒燃焼器36において発熱反応が生じるので、触媒燃焼器36の温度が上昇し、水分が除去される。
タイミングT3において触媒燃焼器36が乾燥したと判断されると、コントローラ20は燃焼器乾燥運転を終了して、停止VLC処理を開始する。そして、停止VLC処理が終了するタイミングT4において、燃料電池システム100を停止する。触媒燃焼器36が乾燥したか否かの判断の詳細については後述する。
上記のように、本実施形態では、システムを停止する際に燃焼器乾燥運転を実行する。これにより、起動時に燃焼器を乾燥させる必要がなくなるので、起動時間を短縮することができる。
また、コントローラ20は燃料電池スタック10へのカソードガス供給を停止するための停止VLC処理の開始前であって、スタック乾燥運転の終了後に、燃焼器乾燥運転を実行する。
燃焼器乾燥運転を停止VLC処理の開始前に実行するということは、燃焼器乾燥運転が終了したら停止VLC処理のために燃料電池スタック10へのカソードガス供給が停止される。このため、燃料電池スタック10から触媒燃焼器36へ液水が流入することがなくなり、次回起動時まで触媒燃焼器36の乾燥状態を維持できる。
また、停止VLC処理が完了した後に触媒燃焼運転を実行しないので、停止VLC処理終了後における燃料電池スタック10への酸素流入量を抑制し、アノードへの酸素の流入を防止できる。これにより、触媒燃焼器36の乾燥状態を維持しつつ停止VLC処理の効果を得ることができる。
さらに、燃焼器乾燥運転をスタック乾燥運転が終了した後に実行することにより、燃料電池スタック10の排液がスタック乾燥運転中に触媒燃焼器36に流入することを抑制できる。
図3は、上述した始動スイッチオフからシステム停止までの制御ルーチンを示すフローチャートである。当該制御ルーチンはコントローラ20により実行される。以下、ステップにしたがって説明する。
ステップS100で、コントローラ20は始動スイッチ112がオフか否かを判定する。オンの場合はそのまま本ルーチンを終了し、オフの場合はステップS120の処理を実行する。
ステップS110で、コントローラ20は停止VLC処理の開始前か否かを判定し、開始前であればステップS120の処理を実行し、そうでない場合は本ルーチンを終了する。
ステップS120で、コントローラ20は燃料電池スタック10が過湿潤であるか否かを判定する。燃料電池スタック10の湿潤度は、上述したようにHFRに基づいて判定する。システム停止時の目標湿潤度及びこれに対応するHFR(目標停止時HFR)を予め設定しておき、HFRが目標停止時HFRより大きい場合は燃料電池スタック10が乾燥していると判断して後述するステップS150の処理を実行する。HFRが目標HFR以下の場合には、コントローラ20はそのまま本ルーチンを終了する。
ステップS130で、コントローラ20はスタック乾燥運転を実行する。
ステップS140で、コントローラ20は燃料電池スタック10の過湿潤が解消したか否かをHFRに基づいて判定する。コントローラ20は過湿潤が解消するまでステップS130及びステップS140を繰り返す。
燃料電池スタック10の過湿潤が解消したら、コントローラ20はステップS150で触媒燃焼器36が乾燥不足か否かを判定する。当該判定は、例えば燃料電池スタック10のHFRを用いて行う。本実施形態のシステムでは、燃料電池スタック10からの排液が触媒燃焼器36に流入するので、燃料電池スタック10の湿潤度(HFR)と触媒燃焼器36の乾燥状態とに相関がある。そこで、燃料電池スタック10のHFRと触媒燃焼器36の乾燥状態との関係に基づいて、触媒燃焼器36が乾燥不足か否かの判定に用いるHFRの閾値を予め設定しておく。触媒燃焼器36が乾燥不足か否かの判定に用いるHFRの閾値は、基本的には燃料電池スタック10が過湿潤か否かの判定に用いるHFRの閾値(目標停止時HFR)と異なるものであるが、システムの仕様によっては同じ値になる場合もある。
なお、触媒燃焼器36が乾燥不足か否かの判定は、次に例示する方法で行ってもよい。
(例1)燃焼器乾燥運転の開始からの経過時間に基づく判定
この場合、燃焼器乾燥運転の開始から、所定時間が経過したら触媒燃焼器36は乾燥したと判定する。所定時間は、事前に実験等により乾燥度合と乾燥時間との関係を取得し、その関係に基づいて設定する。
(例2)触媒燃焼器36の出口における湿度(以下、単に「出口湿度」ともいう)または露点に基づく判定
この場合、触媒燃焼器36の出口湿度または露点が閾値より小さいときに触媒燃焼器36は乾燥していると判定する。閾値は、事前に実験等により、触媒燃焼器36が乾燥した状態(燃焼限界状態)における出口湿度または露点を取得し、それを閾値として設定する。
(例3)触媒燃焼器36の圧力損失に基づく判定
この場合、触媒燃焼器36の上下流の圧力差から算出した圧力損失が閾値より小さいときに触媒燃焼器36は乾燥していると判定する。カソードガス流量毎に水含有率を振って、燃焼限界状態における圧力損失を取得し、これを閾値として設定する。
(例4)触媒燃焼器36の温度に基づく判定
この場合、触媒燃焼器36の温度(触媒燃焼器温度)が閾値より低いときに触媒燃焼器36は乾燥していると判定する。すなわち、触媒燃焼器36内の水分が気化するときの気化潜熱による冷却度合に基づいて、触媒燃焼器36が乾燥しているか否かを判定する。
触媒燃焼器温度は、触媒燃焼器36の内部の温度を検出してもよいし、触媒燃焼器36の出口における流路内のガス温度を検出し、これに基づいて推定してもよい。触媒燃焼器36に流入する水素量または水素濃度に基づいて、全ての水素が反応したときの温度を予測し、その温度を閾値として設定する。なお、上記温度を実験的に求めてもよい。
フローチャートの説明に戻る。
コントローラ20は、触媒燃焼器36が乾燥不足であると判定したらステップS160で燃焼器乾燥運転を実行し、乾燥不足ではないと判定したら本ルーチンを終了する。
ステップS170で、コントローラ20は燃料電池スタック10からの液水排出の有無を判定する。液水の排出が有ると判定した場合はステップS130に戻ってスタック乾燥運転を実行し、液水の排出が無いと判定した場合はステップS180の処理を実行する。
燃料電池スタック10からの液水排出の有無は、例えば、カソード排ガス通路24に気液分離タンクを設置し、気液分離タンク内の液水の量をレベルセンサによりモニタし、レベルの上昇速度がほぼゼロになったら液水の排出が無いと判定する。レベルセンサに代えてレベルスイッチを用いることもできる。この場合、レベルスイッチのカウント回数がほぼゼロに近づいたら液水の排出が無いと判定する。
なお、液水の排出が有るか否かの判定は、レベルセンサまたはレベルスイッチを用いる他に、次に例示する方法で行ってもよい。
(例1)スタック乾燥運転時間に基づく判定
この場合、スタック乾燥運転時間の開始から所定時間が経過したら液水の排出はないと判定する。スタック乾燥運転を実行する際の運転条件における燃料電池スタック10の乾燥に要する時間(乾燥時間)と、液水の排出量との関係を実験等により取得し、その関係に基づいて所定時間を設定する。
(例2)燃料電池スタックの水収支に基づく判定
水収支とは、燃料電池スタック10に投入した水分量と生成水量との和から、燃料電池スタック10から排出される水分量を減じた量である。水収支は実測してもよいし、演算により推定してもよい。
この場合、水収支が閾値より小さいときに液水の排出はないと判定する。水収支と液水の排出量との関係を実験等により取得し、その関係に基づいて閾値を設定する。
(例3)燃料電池スタック10の湿潤度に基づく判定
この場合、湿潤度と相関のあるHFRを用い、HFRが閾値より大きいときに液水の排出はないと判定する。HFRと液水の排出量との関係を実験等により取得し、その関係に基づいて閾値を設定する。
(例4)湿度センサまたは露点センサの検出値に基づく判定
この場合、アノードまたはカソードの出口に湿度センサまたは露点センサを設け、湿度が閾値より低いとき、または露点が閾値より低いときに液水の排出が無いと判定する。湿度または露点と液水の排出量との関係を実験等により取得し、その関係に基づいてそれぞれの閾値を設定する。
(例5)カソード出口温度または冷却水温度に基づく判定
この場合、カソード出口のガス温度を検出する温度センサ、または燃料電池スタック10の冷却に用いる冷却水の温度を検出する冷却水温度センサを設けて、カソード出口のガス温度が閾値より高いとき、または冷却水温度が閾値より高いときに、液水の排出が無いと判定する。カソード出口のガス温度または冷却水温度と液水の排出量との関係を実験等により取得し、その関係に基づいてそれぞれの閾値を設定する。
(例6)光学センサを用いた判定
カソード出口に光の透過率を測定するセンサを設け、光の透過率が閾値より大きいときに液水の排出が無いと判定する。これは、液水が通過すると光の透過率が低下するという特性を利用した判定である。液水の排出量と光の透過率の変化との関係を実験等により取得し、その関係に基づいて閾値を設定する。
(例7)カソードの圧力損失に基づく判定
カソードの上下流の圧力差から圧力損失を算出し、圧力損失が閾値より小さいときに液水の排出が無いと判定する。これは、液水が排出されている場合には流路が液水で占められる分、液水が無い場合に比べて通気抵抗が大きくなるという特性を利用した判定である。この場合、液水の有無による通気抵抗の差を閾値として設定する。
(例8)スタック電流に基づく判定
スタック電流を検出し、スタック電流が閾値より小さいときに液水の排出が無いと判定する。これは、電流が小さいほど生成水が少なくなるので、必然的に液水の排出量も少なくなるという特定を利用した判定である。スタック電流と生成水量との関係を実験等により取得し、その関係に基づいて閾値を設定する。
(例9)スタック電圧に基づく判定
スタック電圧を検出し、スタック電圧が閾値より大きいときに液水の排出が無いと判定する。これはスタック電圧が高いほどスタック電流は小さくなるという特性を利用した判定であり、例8と同様の原理に基づくものである。
フローチャートの説明に戻る。
ステップS180で、コントローラ20は触媒燃焼器36が乾燥状態になった否かを判定する。当該判定はステップS150と同様に燃料電池スタック10のHFRに基づいて行う。コントローラ20は、触媒燃焼器36が乾燥状態の場合にはステップS190で燃焼器乾燥運転を終了し、乾燥状態出ない場合にはステップS170の処理に戻る。
コントローラ20は、ステップS200でカソードへの空気供給を停止し、ステップS210で停止VLC処理を実行する。
次に、上述した制御ルーチンを実行することによる効果について説明する。
図4は、燃焼器乾燥運転をシステムの再起動時ではなくシステム停止用の処理中であって、スタック乾燥運転の終了後に実行することによる効果を説明するためのタイミングチャートである。
タイミングT1で始動スイッチがオフになり、スタック乾燥運転を開始すると、燃料電池スタック10からの液水の排出量(以下、「スタック排液水量」ともいう)は、カソードガス供給量が増大した直後に増大した後、減少に転じる。燃料電池スタック10から排出された液水は触媒燃焼器36に流入するので、触媒燃焼器36の液水含有量(図中の「燃焼器液水含有量」)はスタック排液水量と同様の挙動を示す。
タイミングT2において、スタック排液水量がなくなると、つまり燃料電池スタック10が乾燥すると、燃焼器乾燥運転が開始される。これにより、燃焼器乾燥運転開始時に触媒燃焼器36に残っていた液水が除去されるので、燃焼器液水含有量が減少する。
そして、触媒燃焼器36内の水分が除去されたタイミングT3において、停止VLC処理が開始される。
このように、燃料電池スタック10を乾燥させてから触媒燃焼器36を乾燥させることにより、触媒燃焼器36が乾燥した後に燃料電池スタック10の液水が触媒燃焼器36に流入することがなくなる。すなわち、触媒燃焼器36の触媒への、液水の再付着を抑制できる。その結果、起動時まで触媒を乾燥状態に維持することができるので、起動性が向上する。この効果は、特に零度以下での起動時に顕著である。
図5は、燃焼器乾燥運転を停止VLC処理の開始前に実行する効果について説明するためのタイミングチャートである。図5は図4のタイミングチャートに、カソード平均酸素濃度のチャートを追加したものである。
燃焼器乾燥運転中は上述した通りカソードガス供給量が増加するので、カソード平均酸素濃度が高くなる。しかし、本実施形態では、燃焼器乾燥運転の終了後に停止VLC処理を実行することにより、カソード内の酸素が消費される。すなわち、燃料電池スタック10内の酸素濃度を下げた状態でシステムを停止することとなる。その結果、いわゆる水素ON域が狭まることによる燃料電池スタック10の劣化を抑制できる。
ここで、水素ON域が狭まることによる燃料電池スタック10の劣化についてより詳細に説明する。図6は水素ON域について説明するためのタイミングチャートである。タイミングT1までが燃料電池システム100を運転している領域(システム運転域)、それ以降が、燃料電池システム100が停止して何ら制御されていない領域(放置域)である。
タイミングT1で燃料電池システム100が停止されてシステム運転域から放置域に切り替わると、アノードの水素濃度が急激に低下し、カソードの水素濃度が急激に増大する。これは、システム停止直後はアノードとカソードとの水素濃度の差が大きく、アノードからカソードへの水素の透過が促進されるためである。
この水素濃度差による透過が収まった後(タイミングT2以降)、カソードの水素濃度は低下に転じる。これは、カソードに流入した水素がカソード内の酸素と触媒上で反応することによって消費されるためである。カソード内には入口配管及び出口配管から拡散によって空気(酸素)が流入するが、上述した触媒上での反応によって酸素が消費されるため、酸素濃度はほぼ0%に維持される。
一方、タイミングT2以降もアノードの水素濃度は低下し続ける。これは、カソードで上述した通り水素が消費されることで、アノードとカソードとで水素濃度差が生じ、アノードからカソードへ水素が透過するためである。
タイミングT3以降は、アノード及びカソードで酸素濃度が増大する。カソードの酸素濃度が増大するのは、空気の流入速度がアノードからの水素の透過速度より大きくなることによって酸素が触媒上で消費しきれなくなるためである。アノードの酸素濃度が増大するのは、カソードでの酸素濃度の増大によってアノードとカソードとで酸素濃度の差が生じ、カソードから酸素が透過するためである。
上記のタイミングT2からタイミングT3までが水素ON域である。
水素ON域から外れた領域、つまりタイミングT3以降に燃料電池システム100を起動すると、起動時のアノードへの水素充填時に水素と酸素との界面が形成されることによって局部電池が形成され、燃料電池スタック10の劣化を招来する。換言すると、水素ON域が長くなれば、水素ON域での起動する頻度が増えるので、局部電池が形成される頻度が低下し、燃料電池スタック10の劣化を抑制できる。
燃焼器乾燥運転を実行すると燃料電池スタック10に空気を供給することになるので、仮に、燃料電池スタック10への空気供給を停止した後に燃焼器乾燥運転を実行すると、水素ON域での水素濃度の低下速度を高めることになり、燃料電池スタック10の劣化を促進することになる。
その点、本実施形態では、上述した通りカソードの酸素濃度が低下した状態でシステムを停止するので、水素ON域が狭まることを回避可能であり、燃料電池スタック10の劣化を抑制できる。
図7は、触媒燃焼器36が乾燥したか否かを判定する手段(図3のステップS150)を有することによる効果を説明するためのタイミングチャートである。図7は図2のタイミングチャートに触媒燃焼器36の出口湿度のチャートを追加したものである。ここでは、タイミングT3において出口湿度が閾値より低くなっている。つまり、タイミングT3で触媒燃焼器36は乾燥している。
タイミングT2でスタック乾燥運転を終了するまでは、図2等のチャートと同様なので説明を省略する。
タイミングT2でスタック乾燥運転を終了して燃焼器乾燥運転を開始する。
仮に、触媒燃焼器36が乾燥したか否かを判定する手段(図3のステップS150)を備えない場合には、燃焼器乾燥運転の実行時間を一律に設定することになる。この場合、触媒燃焼器36内の水分量によっては実行時間が足りずに触媒燃焼器36が乾燥不足になるおそれがある。このような乾燥不足を回避するために、実行時間は想定し得る範囲内で最大の水分量の場合でも乾燥させ得る時間に設定される。ここでは、設定された実行時間はタイミングT2からタイミングT4までとする。
燃焼器乾燥運転の実行時間を上記のように設定すると、タイミングT3で触媒燃焼器36が乾燥しているにもかかわらず、タイミングT4まで燃焼器乾燥運転を継続することとなる。つまり、タイミングT3からタイミングT4までは無駄時間となる。
これに対し、触媒燃焼器36が乾燥したか否かを判定する手段を備え、乾燥していると判定したら直ちに燃焼器乾燥運転を終了して停止VLC処理を開始するように構成すれば、無駄時間(図7のタイミングT3〜T4)をなくすことができる。また、無駄時間をなくすことで、燃料電池スタック10の過乾燥を抑制することもできる。
次に、触媒燃焼器36からの液水排出の有無を判定する手段(図3のステップS170)を備えることの効果について、図8のタイミングチャートを参照して説明する。
図8は、燃料電池スタック10からの液水の排出の有無を判定する手段(図3のステップS170)を有することによる効果を説明するためのタイミングチャートである。なお、図8はレベルセンサを用いて液水の排出の有無を判定する場合を示している。
タイミングT2でスタック乾燥運転を終了して燃焼器乾燥運転を開始し、タイミングT3で停止VLC処理を開始する点では図2や図4と同様である。
燃料電池スタック10からの液水の排出の有無を判定する手段を備える場合には、タイミングT2の時点でレベル上昇速度がほぼゼロになっていることから液水の排出が無いと判定することができる。仮に、レベル上昇速度がタイミングT2においてほぼゼロになっていなければ、スタック乾燥運転を再開することとなる(図3のステップS170→S130)。したがって、燃料電池スタック10からの液水の排出が無くなってから燃焼器乾燥運転を終了させることができる(図3のステップS170→S180)。これにより、乾燥させた触媒燃焼器36に燃料電池スタック10から排出された液水が再付着することを防止できる。
また、燃料電池スタック10からの液水の排出の有無を判定する手段を備えない場合には、上述した触媒燃焼器36への液水の再付着を防止する為には、燃料電池スタック10からの液水の排出が無くなるまでの時間を予め設定する必要がある。これにより、無駄時間が生じて、システム停止までに要する時間が延びるおそれがある。これに対し本実施形態では燃料電池スタック10からの液水の排出の有無を判定するので、無駄時間が生じることがない。
以上述べたように、本実施形態では、車両停止時に前記燃焼器の水分を除去するコンプレッサ50と、コンプレッサ50の動作タイミングを調整するコントローラ20とを備える。そして、コントローラ20は、停車状態か否かを判断する停車判断部(S100)と、停車に伴う触媒燃焼器36への空気供給停止が実行される前の時期、つまり停止VLC処理の開始前であるか否かを判断する空気供給停止判断部(S110)と、を備える。空気供給停止判断部を備えることにより、燃焼器乾燥運転をシステム停止のためにコンプレッサ50を停止して行う停止VLC処理の開始前に実行することが可能となる。停止VLC処理の前に燃焼器乾燥運転を実行すれば、次回のシステム起動時まで触媒燃焼器36の乾燥状態を維持できるので、スタックの劣化を防止し、かつ次回のシステム起動を速やかに行うことができる。
本実施形態では、車両停止時に燃料電池スタック10の水分を除去する燃料電池乾燥装置としてのコンプレッサ50を備え、コントローラ20は燃料電池スタック10の水分除去処理が終了したか否かをさらに判断する。具体的には、コントローラ20は燃料電池スタック10からの液水の排出の有無を判断する(S170)。これにより、乾燥した触媒燃焼器36に燃料電池スタック10から排出された液水が再付着することを抑制できるので、次回のシステム起動時まで触媒燃焼器36の乾燥状態を維持できる。
本実施形態では、コントローラ20は触媒燃焼器36の水分除去処理が終了したと判定したら燃焼器乾燥運転を終了する。これにより、燃焼器乾燥運転を適切な時間だけ実行することが可能となるので、触媒燃焼器36の乾燥不足や過乾燥を抑制できる。
(第2実施形態)
第2実施形態は、燃料電池システム100の構成及び基本的な制御ルーチンは第1実施形態と同様であり、燃焼器乾燥運転の内容が第1実施形態との相違点である。以下、相違点である燃焼器乾燥運転を中心に説明する。
本実施形態の燃焼器乾燥運転では、運転中に触媒燃焼器36を燃焼乾燥させる。つまり、触媒燃焼器36に空気だけでなく水素も供給して、触媒燃焼させる。これにより、触媒燃焼器36の触媒温度が高まるので、触媒全体の乾燥を促進できる。
図9は、本実施形態の燃焼器乾燥運転について説明するためのタイミングチャートである。タイミングT2〜タイミングT4が燃焼器乾燥運転期間である。
燃料電池スタック10からの液水の排出量がゼロになったタイミングT2から、触媒燃焼器36への水素供給を開始する。これにより空気と水素との混合ガスが触媒燃焼器36に流入し、触媒燃焼が開始される。なお、図9では液水の排出量がゼロになってから触媒燃焼を開始しているが、触媒が燃焼可能な程度に乾燥していれば、後述する図11に示すように、これより前に開始してもよい。ただし、着火性の観点からは、液水の排出量がゼロになってからの方が望ましい。
燃焼器乾燥運転中も燃料電池スタック10を空気が通過するので、燃料電池スタック10のHFRは上昇し続ける。つまり燃料電池スタック10の湿潤度は低下し続ける。そこで、燃料電池スタック10の湿潤度が停止時目標スタック湿潤度に達したタイミングT3において、燃料電池スタック10の過乾燥を抑制するために、空気流量を低下させ、これに伴い供給水素量も低下させる。
そして、タイミングT4で触媒燃焼器36が乾燥したと判定されたら、燃焼器乾燥運転を終了し、停止VLC処理を開始する。
触媒燃焼器36が乾燥したか否かの判定は、第1実施形態において説明した方法の他に、下記の方法で行うことができる。
(例1)触媒燃焼器36の温度上昇速度に基づく判定
触媒燃焼器36に供給する混合ガスの濃度及び供給量が一定でも、触媒燃焼器36内の水分量が少なくなるほど温度上昇速度は速くなる。そこで、触媒燃焼器36の温度上昇速度が閾値より大きくなったら触媒燃焼器36は乾燥したと判定する。触媒燃焼器36に供給する混合ガスの水素濃度及び供給量と、触媒燃焼により発生する熱量との関係(熱量収支)に基づいて、触媒燃焼器36が乾燥した状態における温度上昇速度を予測し、これを閾値として設定する。なお、閾値を実験等により求めてもよい。
(例2)コンプレッサ駆動電力に基づく判定
触媒燃焼器36への混合カスの供給によって触媒が乾燥して燃焼部位が広がると、タービン52の回収動力が増大する。つまり、触媒が乾燥するほどコンプレッサ50の駆動をアシストする動力(アシスト量)が増大する。このため、コンプレッサ50の回転速度を一定に制御する場合には、コンプレッサ50の駆動に必要な電力は減少する。そこで、コンプレッサ50の駆動電力が閾値より小さくなったら触媒燃焼器36は乾燥したと判定する。回収効率が既知の場合には、供給した水素が全て燃焼したときの回収動力を推定し、これに基づいてアシスト量を算出して閾値を設定する。なお、閾値を実験等により求めてもよい。また、電力はトルクと回転速度との関数で表すことができるので、コンプレッサ50のトルク及び回転速度を検出し、これらに基づいてコンプレッサ駆動電力を算出してもよい。
(例3)コンプレッサ流量またはコンプレッサ吐出圧力に基づく判定
例2で説明した通り、触媒燃焼器36が乾燥するほどコンプレッサ50のアシスト量が増大する。このため、コンプレッサ50を一定電力で駆動する場合には、コンプレッサ50の回転速度が高まり、コンプレッサ50の流量及び吐出圧力が増大する。そこで、流量または吐出圧力が閾値より大きくなったら触媒燃焼器36は乾燥したと判定する。
例2と同様に供給した水素が全て燃焼した場合の回収動力を推定し、回収動力による流量または吐出圧力の増加分を算出して閾値を設定する。なお、閾値を実験等により求めてもよい。
(例4)触媒燃焼器36の下流側の水素濃度に基づく判定
触媒燃焼器36の触媒の乾燥が進むほど、燃焼部位が広くなるので、燃焼せずに触媒燃焼器36を通過する水素の量が少なくなる。
そこで、触媒燃焼器36の下流側の水素濃度(「下流側水素濃度」ともいう)を取得し、これが閾値より小さくなったら触媒燃焼器36は乾燥したと判定する。触媒の水含有率毎に、供給する水素の濃度及び流量と下流側水素濃度との関係を取得し、それに基づいて閾値を設定する。なお、供給した水素が全て燃焼した場合の下流側水素濃度(ゼロ%)を閾値としてもよい。
ここで、触媒燃焼器36への水素供給制御について説明する。
図9ではタイミングT2で水素供給を開始した後、タイミングT3まで供給量は一定であるが、これに限られるわけではない。
例えば図10に示すように、燃焼器乾燥運転の開始に伴い水素供給を開始し、その後、触媒燃焼器36の温度上昇に応じて水素及び空気の供給量を減少させてもよい。なお、図10では、燃料電池スタック10の過乾燥抑制のための制御を省略している。
このように燃焼器乾燥運転の開始当初は水素濃度が高い混合ガスを多く供給することで、触媒燃焼器36の温度を速やかに上昇させることができる。また、触媒燃焼器36の温度が高くなるにつれて、つまり触媒燃焼器36が乾燥状態に近づくにつれて、水素及び空気の供給量を減少させることにより、水素の消費を抑制できる。
なお、図10では水素供給量を一定の傾きで連続的に減少させているが、ステップ的に減少させてもよいし、傾きを変化させながら減少させてもよい。
また、図9では燃料電池スタック10の過乾燥を防止するために、タイミングT3で燃料電池スタック10の空気流量及び触媒燃焼器36への水素供給量を減少させて、触媒燃焼器36内の水素濃度を一定に維持しているが、これに限られるわけではない。
例えば、空気流量だけを減少させてもよいし、図11に示すように、空気流量を減少させた後も水素供給量を一定に維持して触媒燃焼器36内の水素濃度を上昇させてもよい。
いずれの場合も、燃料電池スタック10の空気流量が減少するので、燃料電池スタック10の過乾燥を抑制できる。
ところで、図9では、タイミングT4で触媒燃焼器36が乾燥したと判定されたら、燃料電池スタック10への空気供給を停止して停止VLC処理を開始しているが、図12に示すように、触媒燃焼器36が乾燥したと判定した後も、所定時間、燃料電池スタック10への空気供給を継続するようにしてもよい。
本実施形態のように触媒燃焼によって触媒燃焼器36を乾燥させると、燃焼中に水蒸気が発生する。触媒燃焼器36が乾燥したと判定した後も空気供給を継続することで、露点温度の低い空気によって触媒燃焼器36が掃気されるので、水蒸気の凝縮により生成された液水が触媒に付着することを抑制できる。
以上のように本実施形態では、第1実施形態と同様の効果に加えて、さらに、次の効果が得られる。
本実施形態では、触媒燃焼器36で燃焼を起こすことにより水分を除去するので、触媒燃焼器36の乾燥をより促進することができる。
また、本実施形態では、燃焼により水分が除去された触媒燃焼器36に空気を所定時間供給するので、燃焼中に発生した水蒸気を掃気することができる。その結果、水蒸気が凝縮することで生成された水分が触媒に付着することを抑制できる。
(第3実施形態)
第3実施形態は、燃料電池システム100の構成及び基本的な制御ルーチンは第1実施形態と同様であり、燃焼器乾燥運転の内容が第1実施形態との相違点である。以下、相違点である燃焼器乾燥運転を中心に説明する。
図13は、本実施形態の制御の内容を説明するためのタイミングチャートである。
本実施形態では、燃焼器乾燥運転中はバイパス弁32を開弁し、コンプレッサ50から供給される空気の一部または全量を、バイパス通路33を介して触媒燃焼器36に供給する。すなわち、図13において、タイミングT2でスタック乾燥運転を終了したら、バイパス弁32を開弁する。
これにより、コンプレッサ50からの空気流量は一定のままでも、バイパス通路33の空気流量は増加する。コンプレッサ50から吐出された空気は燃料電池スタック10を通過した空気よりも露点温度が低い、つまり乾燥しているので、バイパス通路33を介して触媒燃焼器36に空気を供給することで、触媒燃焼器36の入口における空気の湿度を、バイパス通路33を利用しない場合に比べて低下させることができる。その結果、触媒燃焼器36の乾燥に要する時間を第1実施形態の場合に比べて短縮できる。
また、バイパス通路33を利用することで、燃焼器乾燥運転中に燃料電池スタック10を通過する空気量が減少する。これにより、燃焼器乾燥運転中における燃料電池スタック10の過乾燥を抑制できる。
さらに、第2実施形態のように燃焼器乾燥運転中に触媒燃焼器36で触媒燃焼させる場合には、バイパス通路33の空気流量をより多くすると、着火性が向上する。
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。