以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池システム100の全体的な構成を示す概略図である。
(燃料電池システムの全体構成)
燃料電池システム100は、燃料電池10と、カソード給排機構12と、アノード供給機構14と、過給機16と、加熱/冷却機構17と、HFR測定装置18と、負荷装置19と、システムコントローラ20と、を備える。本実施形態において、燃料電池システム100は、車両に搭載され、燃料電池10は、車両の走行に必要な電力を発電する。過給機16は、互いに同軸に連結されたタービン62およびコンプレッサ64を備える。
燃料電池10は、複数の燃料電池セルを積層して構成され、カソード給排機構12を介して空気の供給を受けるとともに、アノード供給機構14を介して水素ガスの供給を受けて、空気と水素ガスとの化学反応により発電する。空気は、カソードガスであり、水素ガスは、アノードガスである。発電により生じた電気は、車両走行用の図示しない電動モータの駆動に使用されるほか、過給機16に備わる電動モータ60等の各種補機の駆動に用いられる。以下の説明では、燃料電池10を燃料電池スタックという。
(カソード給排機構)
カソード給排機構12は、カソードガス供給通路22と、カソード排ガス通路24と、を備える。
カソードガス供給通路22は、燃料電池スタック10に供給される空気が流れる通路である。カソードガス供給通路22は、一方の端部がコンプレッサ64のガス流出口に接続され、他方の端部が燃料電池スタック10のカソード極のガス流入口に接続されており、大気から取り込まれた空気は、コンプレッサ64により加圧された状態で燃料電池スタック10に供給される。
カソード排ガス通路24は、燃料電池スタック10のカソード極から排出されるカソード排ガスが流れる通路であり、一方の端部が燃料電池スタック10のカソード極のガス流出口に接続され、他方の端部がタービン62のガス流入口に接続されている。カソード排ガスは、エネルギーの一部がタービン62の駆動に用いられた後、タービン排気通路68を介して大気中に放出される。
本実施形態において、カソードガス供給通路22とカソード排ガス通路24とは、バイパス通路36により互いに接続されている。コンプレッサ64から吐出された空気は、一部が燃料電池スタック10に供給され、残部がカソードガス供給通路22からバイパス通路36に流入し、燃料電池スタック10を迂回して、水素燃焼器32に供給される。
バイパス通路36には、バイパス弁38が設けられている。バイパス弁38は、システムコントローラ20により開度が制御され、バイパス通路36を流れる空気の流量を調節する。具体的には、コンプレッサ64から吐出された空気の流量が燃料電池スタック10により発電のために要求される空気の流量を上回る場合に、バイパス弁38の開度を増大させ、燃料電池スタック10に供給される空気の流量を減少させることで、燃料電池スタック10の電解質膜が過度に乾燥することを防止する。
カソード排ガス通路24には、水素燃焼器32が介装されるとともに、可変ノズルベーン34が設置されている。
水素燃焼器32は、水素とカソード排ガス中の酸素とを白金等の触媒作用により燃焼させ、燃焼後の排ガス(燃焼ガス)を排出する。水素燃焼器32には、燃料電池スタック10からカソード排ガス通路24を通じてカソード排ガスが供給されるとともに、カソードガス供給通路22からバイパス通路36を通じて空気が供給され、他方で、アノード供給機構14の高圧タンク40から水素ガスが供給される。本実施形態において、水素燃焼器32には、ミキサーが内蔵されており、水素ガス、空気およびカソード排ガスがミキサーにより混合され、触媒に供給される。
本実施形態では、水素燃焼器32として触媒燃焼方式の燃焼器を採用する。これにより、拡散燃焼方式の燃焼器または希薄予混合燃焼方式の燃焼器を用いる場合と比較して、窒素化合物の発生を抑制することが可能である。しかし、水素燃焼器32には、拡散燃焼方式または希薄予混合燃焼方式の燃焼器等、触媒燃焼器以外の燃焼器を採用することができる。
可変ノズルベーン34は、過給機16のタービン62と水素燃焼器32との間に配置され、システムコントローラ20により開度(ノズルベーン開度)が制御されて、タービン62に供給される燃焼ガスの圧力を調節する。可変ノズルベーン34は、開放状態でタービン62への入口流路の有効断面積を増大させ、カソード排ガス通路24からタービン62に流入する燃焼ガスの圧力損失を相対的に減少させる。一方で、閉塞状態では、タービン62への入口流路の有効断面積を減少させ、燃焼ガスの圧力損失を相対的に増大させる。このように、可変ノズルベーン34のノズルベーン開度を減少させることで、タービン62の回収動力を増大させ、システムの運転圧力を増大させることができる。
さらに、カソード排ガス通路24には、水素燃焼器32の下流側(本実施形態では、可変ノズルベーン34の上流側)にタービンバイパス通路39が接続されている。水素燃焼器32により生成された燃焼ガスは、その一部がタービンバイパス通路39を介して加熱/冷却機構17に供給される。
ここで、燃料電池スタック10が低温状態にあるときに、燃焼ガスの熱を利用して燃料電池スタック10を暖め、暖機を促進させることが可能である。本実施形態において、加熱/冷却機構17は、熱交換器82を備え、熱交換器82に対し、燃焼ガスの一部がタービンバイパス通路39を介して供給され、熱交換器82により燃料電池スタック10の冷却水を加熱することで、燃料電池スタック10の暖機を促進させる。加熱/冷却機構17に供給された燃焼ガスは、熱交換器82で熱が回収された後、タービン排気通路68を流れる燃焼ガスと合流して、燃料電池システム100から排出される。
(アノード供給機構)
アノード供給機構14は、高圧タンク40と、水素ヒータ42と、スタック用水素供給通路44と、燃焼器用水素供給通路46と、を備える。
高圧タンク40は、燃料電池スタック10および水素燃焼器32に供給される水素ガスを高圧状態に保って貯蔵するガス貯蔵容器である。
水素ヒータ42は、熱交換器として構成され、加熱/冷却機構17で回収された熱により高圧タンク40から供給された水素ガスを加熱する。具体的には、水素ヒータ42に対し、加熱/冷却機構17の熱交換器82による加熱後の冷却水と、高圧タンク40に貯蔵されている水素ガスと、が供給され、両者の間での熱交換により水素ガスが加熱される。
スタック用水素供給通路44は、水素ヒータ42により加熱された水素ガスを燃料電池スタック10に供給する通路である。スタック用水素供給通路44は、一方の端部が水素ヒータ42のガス流出口に接続され、他方の端部が燃料電池スタック10のアノード極のガス流入口に接続されている。
スタック用水素供給通路44には、スタック供給水素調圧弁48が設けられている。スタック供給水素調圧弁48は、システムコントローラ20により開度が制御され、燃料電池スタック10に供給される水素ガスの圧力を調節する。
燃焼器用水素供給通路46は、水素ヒータ42による加熱後の水素ガスの一部を水素燃焼器32に供給する通路である。燃焼器用水素供給通路46は、一方の端部がスタック用水素供給通路44に接続され、他方の端部が水素燃焼器32のガス流入口に接続されている。
燃焼器用水素供給通路46には、燃焼器供給水素調節弁49が設けられている。燃焼器供給水素調節弁49は、システムコントローラ20により開度が制御され、水素燃焼器32に供給される水素ガスの流量(水素供給流量)を調節する。本実施形態において、燃焼器供給水素調節弁49は、比例ソレノイドにより構成されている。
燃料電池スタック10のアノード極から排出されるアノード排ガスは、循環型または非循環型等のアノード排出系により処理することが可能である。
(過給機)
過給機16は、コンプレッサ64およびタービン62を備えるとともに、電動モータ60を備える。
コンプレッサ64は、カソードガス供給通路22の入口部に設置され、燃料電池システム100に大気中の空気を導入する。既に述べたように、コンプレッサ64から吐出された空気は、カソードガス供給通路22を介して燃料電池スタック10に供給される。
タービン62は、カソード排ガス通路24とタービン排気通路68との間に設置され、水素燃焼器32から供給される燃焼ガスにより駆動される。タービン62のタービンブレードは、回転駆動軸66を介してコンプレッサ64のインペラに連結されており、タービン62の回転駆動力が回転駆動軸66を介してコンプレッサ64に伝達され、コンプレッサ64を作動させる。
ここで、コンプレッサ64の動力要求が比較的大きい場合は、タービン62へ流入する燃焼ガスの流量(タービン入口流量)、温度(タービン入口温度)および圧力(タービン入口圧力)を増大させることで、タービン62による回収動力を増大させ、コンプレッサ64に対して要求に応じた動力を供給することが可能である。先に述べた可変ノズルベーン34のノズルベーン開度を調節することで、具体的には、要求動力の増大に対してノズルベーン開度を減少させ、燃焼ガスの圧力損失を増大させることで、タービン62の回収動力を増大させることが可能である。
電動モータ(以下「コンプレッサモータ」という)60は、コンプレッサ64とタービン62との間に配置され、回転駆動軸66に対してモータトルクを印加可能に構成されている。
具体的には、コンプレッサモータ60は、筐体の内周面にステータが設けられるとともに、回転駆動軸66と同軸にロータが形成され、燃料電池スタック10および図示しないバッテリから電力の供給を受けて回転駆動軸66にモータトルクを印加し(力行モード)、タービン62によるコンプレッサ64の回転駆動を補助する。さらに、コンプレッサモータ60は、回転駆動軸66の回転動力により発電することが可能であり(回生モード)、発電した電力をバッテリに供給する。
(加熱/冷却機構)
加熱/冷却機構17は、冷却水循環流路80と、熱交換器82と、冷却水循環ポンプ84と、ラジエータ等の図示しない冷却装置と、を備える。
冷却水循環流路80は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aと冷却水出口10bとの間に接続され、冷却水出口10bから流出した冷却水を、熱交換器82を介して冷却水入口10bに循環させる通路である。換言すれば、熱交換器82による加熱後の冷却水は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aから燃料電池スタック10内部の冷却水通路に供給され、燃料電池スタック10の暖機に寄与した後、冷却水出口10bから排出される。
冷却水循環流路80には、冷却水分岐路86が接続され、冷却水出口10bを介して燃料電池スタック10から排出された冷却水の一部が、冷却水分岐路86を通じて水素ヒータ42に供給される。よって、冷却水循環流路80から分かれ、冷却水分岐路86を流れる冷却水により、高圧タンク40から燃料電池スタック10および水素燃焼器32に供給される水素ガスが加熱される。
熱交換器82は、冷却水循環流路80を流れる冷却水とタービンバイパス通路39を流れる燃焼ガスとの間で熱交換を行い、冷却水を加熱する。本実施形態では、加熱/冷却機構17に図示しない冷却装置が設けられており、燃焼ガスとの熱交換により加熱された冷却水を、この冷却装置により冷却することも可能である。
冷却水循環ポンプ84は、システムコントローラ20により出力が制御され、冷却水循環流路80を介して冷却水を循環させる。
(HFR測定装置)
HFR測定装置18は、燃料電池スタック10の正極端子と負極端子との間に接続され、燃料電池スタック10の各セルに備わる電解質膜の湿潤状態を取得する湿潤状態取得装置として機能する。本実施形態において、HFR測定装置18は、電解質膜の湿潤状態と相関のあるパラメータとして、燃料電池スタック10の内部インピーダンスを測定する。
ここで、燃料電池スタック10の内部インピーダンスは、電解質膜の含水量(水分)が少ないときほど、換言すれば、電解質膜が乾き気味になるほど、増大する傾向にある。一方で、内部インピーダンスは、電解質膜の含水量が増えるほど、換言すれば、電解質膜が濡れ気味になるほど、減少する傾向にある。このように、燃料電池スタック10の内部インピーダンスを測定することで、電解質膜の湿潤状態を把握することが可能である。
HFR測定装置18は、電解質膜の電気抵抗を検出するのに適した高周波交流電流を供給し、出力される交流電圧の振幅を当該高周波交流電流の振幅で除することで、内部インピーダンス(以下「HFR」(High Frequency Resistance)という)を算出する。算出された内部インピーダンスないしHFR測定値は、システムコントローラ20に出力される。
(負荷装置)
負荷装置19は、燃料電池スタック10の正極端子と負極端子との間に接続されており、燃料電池スタック10または図示しないバッテリから供給される電力の供給を受けて駆動する。本実施形態において、負荷装置19は、車両走行用の電動モータおよびコンプレッサモータ60等の各種補機である。
(制御システムの概略構成)
燃料電池システム100の運転は、システムコントローラ20により統合的に制御される。
本実施形態において、システムコントローラ20は、中央演算装置、読出専用メモリ、ランダムアクセスメモリおよび入出力インタフェース等を備えたマイクロコンピュータにより構成される。
システムコントローラ20には、アクセルセンサ91から運転者によるアクセルペダルの踏込量を示す信号が入力されるほか、HFR測定装置18からHFR測定値が入力される。さらに、カソード給排機構12に備わる空気流量センサ26、空気圧力センサ28およびカソード排ガス温度センサ30、アノード供給機構14に備わる水素ガス圧力センサ47、過給機16に備わる回転速度センサ72、加熱/冷却機構17に備わる冷却水温度センサ88、燃料電池スタック10と負荷装置19との間に備わるスタック電流センサ51およびスタック電圧センサ52等の検出信号が入力される。
空気流量センサ26は、カソードガス供給通路22の空気取込部に設けられ、燃料電池システム100に取り込まれる空気の流量(以下「空気流量」という)を検出する。
空気圧力センサ28は、カソードガス供給通路22において、コンプレッサ64の下流側に設けられ、カソードガス供給通路22における空気の圧力(以下「空気圧力」という)を検出する。
カソード排ガス温度センサ30は、カソード排ガス通路24において、水素燃焼器32の上流側に設けられ、燃料電池スタック10から排出されるカソード排ガスの温度(以下「スタック出口温度」という)を検出する。
水素ガス圧力センサ47は、燃焼器用水素供給通路46において、熱交換器42の下流側に設けられ、燃焼器用水素供給通路46における水素ガスの圧力、換言すれば、水素燃焼器32に供給される水素ガスの圧力(以下「供給水素圧力」という)を検出する。
回転速度センサ72は、コンプレッサモータ60に設置され、コンプレッサモータ60の回転速度(単位時間当たりの回転数を採用し、以下「モータ回転数」という)を検出する。
冷却水温度センサ88は、冷却水循環流路80において、熱交換器82の上流側(本実施形態では、冷却水出口10bの近傍)に設けられ、燃料電池スタック10から排出される冷却水の温度(以下「冷却水温度」という)を検出する。ここで、燃料電池スタック10の冷却水が水素ヒータ42により水素ガスと熱交換されることから、冷却水温度は、水素燃焼器32に供給される水素ガスの温度と略同一とみなすことができる。
スタック電流センサ51は、燃料電池スタック10の正極端子と負荷装置19の正極端子とを接続する電力線に設けられ、燃料電池スタック10から負荷装置19に出力される電流(以下「スタック電流」という)を検出する。
スタック電圧センサ52は、燃料電池スタック10の正極端子と負極端子との間に接続され、正極端子と負極端子との間の電圧である燃料電池スタック10の端子間電圧(以下「スタック電圧」という)を検出する。
システムコントローラ20は、負荷装置19の駆動ユニットと通信可能に接続されている。システムコントローラ20は、アクセルセンサ91により検出されるアクセルペダルの踏込量をもとに、燃料電池スタック10に対する要求発電電力を設定し、負荷装置19の駆動ユニットに対し、要求発電電力に応じた駆動信号を出力する。要求発電電力は、アクセルペダルの踏込量が大きくなるほど、大きな値に設定される。
さらに、システムコントローラ20は、各種検出信号に基づき、可変ノズルベーン34のノズルベーン開度、バイパス弁38の開度、スタック供給水素調圧弁48の開度、燃焼器供給水素調節弁49の開度、コンプレッサモータ60の出力および冷却水循環ポンプ84の出力を制御する。
(システムコントローラの基本動作)
システムコントローラ20の基本的な動作について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
S1では、要求負荷電力として、負荷装置19により要求される電力を算出する。本実施形態において、要求負荷電力は、車両走行用の電動モータの駆動電力として求められる電力であり、アクセルペダルの踏込量等をもとに算出する。
S2では、燃料電池スタック10が発電する電力の要求値(要求発電電力)に応じた目標スタック電流Istc_tを算出する。本実施形態において、要求発電電力は、要求負荷電力に、コンプレッサモータ60、可変ノズルベーン34および燃焼器供給水素調節弁49等の各種アクチュエータの消費電力を合算した値である。システムコントローラ20は、続くS3〜6の処理により、目標スタック電流Istc_tを実現するように、燃料電池システム10の冷却系、空気系および燃料系のそれぞれに備わるアクチュエータを制御する。
S3では、冷却系操作量を算出する。具体的には、燃料電池スタック10の電解質膜の湿潤状態を良好に維持するとの観点から、目標スタック電流Istc_tをもとに燃料電池スタック10の内部インピーダンス(HFR)の目標値を設定し、HFR測定装置18により測定される実際の内部インピーダンス(HFR測定値)が目標HFRに近付くように、湿潤要求目標空気圧力および湿潤要求目標空気流量を算出する。さらに、システムコントローラ20は、目標HFRおよびHFR測定値等をもとに、加熱/冷却機構17に備わる冷却装置(具体的には、ラジエータ)を制御する。
S4では、空気系操作量を算出する。空気系操作量の演算は、図10および11に示すフローチャート参照して後に説明する。
S5では、燃料系操作量を算出する。具体的には、目標スタック電流Istc_tをもとに燃料電池スタック10に対する供給水素圧力の目標値(目標供給水素圧力)を算出し、目標供給水素圧力に基づき、スタック供給水素調圧弁48等、燃料系に備わる各種アクチュエータに対する操作量(例えば、スタック供給水素調圧弁48の目標開度)を算出する。
S6では、冷却系、空気系および燃料系に備わる各種アクチュエータに対してそれぞれの操作量に応じた指令信号を出力する。
(システムコントローラの内部構成)
システムコントローラ20の内部構成について、空気系操作量の演算に関わる構成を中心に図4〜9を参照して説明する。
図4は、システムコントローラ20内部の全体的な構成を示すブロック図であり、図5は、空気系制御部B104の構成を示すブロック図であり、図6は、タービン回収動力推定部B1042の構成を示すブロック図であり、図9は、目標モータ出力演算部B1049の構成を示すブロック図である。
(システム全体)
図4に示すように、システムコントローラ20は、目標スタック電流演算部B101と、目標空気圧力演算部B102と、目標空気流量演算部B103と、空気系制御部B104と、最大値選択部B105およびB106と、最小値選択部B107と、を備える。
目標スタック電流演算部B101は、アクセルセンサ91により出力されたアクセルペダルの踏込量を示す信号をもとに、要求発電電力に応じたスタック電流の目標値(目標スタック電流)Istc_tを算出する。
目標空気圧力演算部B102は、目標スタック電流Istc_tを入力し、予め定められたマップを目標スタック電流Istc_tにより参照して、目標空気圧力Pair_tを算出する。目標空気圧力演算部B102は、目標空気圧力Pair_tを、目標スタック電流Istc_tが大きいときほど、大きな値として算出する。
目標空気流量演算部B103は、目標スタック電流Istc_tを入力し、予め定められたマップを目標スタック電流Istc_tにより参照して、目標空気流量Qair_tを算出する。目標空気流量演算部B103は、目標空気流量Qair_tを、目標スタック電流tIstcが大きいときほど、大きな値として算出する。
最大値選択部B105は、目標空気圧力Pair_tと湿潤要求目標空気圧力とを入力し、両者のうち大きい方を、目標空気圧力Pair_tとして出力する。湿潤要求目標空気圧力は、燃料電池スタック10の内部において、各セルの電解質膜の湿潤状態を所定に制御するのに要求される空気圧力である。
最大値選択部B106は、目標空気流量Qair_tと湿潤要求目標空気流量とを入力し、両者のうち大きい方を、目標空気流量Qair_tとして出力する。湿潤要求目標空気流量は、燃料電池スタック10の内部において、各セルの電解質膜の湿潤状態を所定に制御するのに要求される空気流量である。
空気系制御部B104は、最大値選択部B105により選択された目標空気圧力Pair_tおよび最大値選択部B106により選択された目標空気流量Qair_tを入力する。さらに、空気系制御部B104は、目標スタック電流演算部B101から目標スタック電流Istc_tを入力するほか、空気流量センサ26から空気流量検出値Qair_dを、空気圧力センサ28から空気圧力検出値Pair_dを、回転速度センサ72からモータ回転数検出値Nmtr_dを、スタック電圧センサ52からスタック電圧Vstc_dを、夫々入力する。
空気系制御部B104は、各種検出信号に基づき、ノズルベーン開度指令値CMDnv、モータトルク指令値CMDmtおよび目標タービン入口温度Tt_in_tを算出する。ノズルベーン開度指令値CMDnvは、可変ノズルベーン34に対する制御指令値であり、モータトルク指令値CMDmtは、コンプレッサモータ60に対する制御指令値である。
最小値選択部B107は、空気系制御部B103により算出された目標タービン入口温度Tt_in_tと入口温度許容限界値とを入力し、両者のうち小さい方を、目標タービン入口温度Tt_in_tとして出力する。入口温度許容限界値は、タービン62を構成する部品の耐熱性等を考慮して定められる、タービン入口温度Tt_inの上限値である。
(空気系制御部)
図5に示すように、空気系制御部B104は、コンプレッサ出力制御部B1041と、タービン回収動力推定部B1042と、目標タービン入口温度演算部B1043と、最小値選択部B1044と、除算部B1045と、乗算部B1046と、減算部B1047、B1048と、目標モータ出力演算部B1049を備える。
コンプレッサ出力制御部B1041は、目標空気圧力Pair_t、目標空気流量Qair_t、空気圧力検出値Pair_dおよび空気流量検出値Qair_dを入力する。コンプレッサ出力制御部B1041は、実際の空気圧力Pairおよび空気流量Qairがそれぞれの目標値Pair_t、Qair_tに近付くように、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tを算出するとともに、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tを達成するためのノズルベーン開度指令値CMDnvを設定する。本実施形態では、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tに基づき、目標タービン入口温度Tt_in_tが算出され、モータトルク指令値CMDmtが設定される。ノズルベーン開度指令値CMDnvおよびモータトルク指令値CMDmtは、図示しない可変ノズルベーン34の駆動ユニットおよびコンプレッサモータ60の駆動ユニットに出力される。
減算部B1047は、コンプレッサ出力制御部B1041から目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tを入力するとともに、後に述べるタービントルク推定値Ttbn_eを入力し、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tからタービントルク推定値Ttbn_eを減じた値を、目標モータトルクとして最小値選択部B1044に出力する。
最小値選択部B1044は、減算部B1047から目標モータトルクを入力するとともに、過渡時出力上限値LMTtrを入力し、目標モータトルクと過渡時出力上限値LMTtrのトルク換算値とのうち小さい方をもとに、モータトルク指令値CMDmtを設定する。本実施形態において、過渡時出力上限値LMTtrは、コンプレッサモータ60の時間定格の出力である。
タービン回収動力推定部B1042は、目標タービン入口温度前回値Tt_in_t(n−1)、空気圧力検出値Pair_d、空気流量検出値Qair_dおよびタービン出口圧力Pt_exを入力し、これらの入力情報をもとに、タービン回収動力推定値Mtbn_eを算出する。目標タービン入口温度前回値Tt_in_t(n−1)は、前回の制御実行時に目標タービン入口温度演算部B1043により算出された目標タービン入口温度である。
(タービン回収動力推定部)
図6に示すように、タービン回収動力推定部B1042は、タービン入口圧力演算部B1042aと、タービン効率演算部B1042bと、タービン入口温度演算部B1042cと、タービン回収動力演算部B1042dと、を備える。
タービン入口圧力演算部B1042aは、空気圧力検出値Pair_dおよび空気流量検出値Qair_dをもとに、タービン入口圧力Pt_inを算出する。タービン入口圧力Pt_inは、燃料電池スタック10の上流側における空気圧力Pairから燃料電池スタック10内部の空気通路における圧損ΔPを減じることにより算出する。
Pt_in=Pair_d−ΔP …(1)
図7は、空気流量Qairと圧損ΔPとの関係を示している。タービン入口圧力演算部は、空気流量検出値Qair_dにより同図に示すマップを参照して、圧損ΔPを、空気流量検出値Qair_dが大きいときほど大きな値として算出する。
タービン効率演算部B1042bは、タービン入口圧力演算部からタービン入口圧力Pt_inを入力するとともに、タービン出口圧力Pt_exを入力する。本実施形態では、タービン出口圧力Pt_exとして大気圧(≒101.3[kpa])を採用する。外気の圧力が変動し、大気圧を一概に採用することができない場合は、大気圧センサを設置し、これにより検出された圧力検出値をタービン出口圧力Pt_exとしてもよい。
タービン効率演算部B1042bは、タービン入口圧力Pt_inおよびタービン出口圧力Pt_exをもとに、タービン効率ηtを算出する。具体的には、タービン効率演算部B1042bは、タービン入口圧力とタービン出口圧力との比(タービン膨張比)=Pt_in/Pt_exを算出する。
図8は、タービン膨張比=Pt_in/Pt_exとタービン効率ηtとの関係を示している。タービン効率演算部B1042bは、タービン膨張比により同図に示すマップを参照して、タービン効率ηtを算出する。
タービン入口温度演算部B1042cは、離散系における一次遅れ応答を近似した次式(2)により、タービン入口温度Tt_inを推定する(タービン入口温度推定値Tt_in_e)。
Tt_in_e=Tt_in_e(n−1)+{(Tt_in_t−Tt_in_e(n−1)/ts)}×tsamp …(2)
ただし、
Tt_in_e:タービン入口温度推定値
Tt_in_e(n−1):タービン入口温度前回推定値
Tt_in_t:目標タービン入口温度
ts:時定数
tsamp:制御演算周期
である。
時定数tsは、実験等により予め定められ、上式(2)による実際の演算では、目標タービン入口温度Tt_in_tとして、目標タービン入口温度前回値Tt_in_t(n−1)を採用する。タービン入口温度前回推定値Tt_in_e(n−1)は、前回の制御実行時にこのタービン入口温度演算部B1042cにより算出されたタービン入口温度推定値である。
そして、タービン回収動力推定部B1042は、タービン回収動力演算部B1042dにおいて、空気流量検出値Qair_d、タービン入口圧力Pt_in、タービン効率ηt、タービン入口温度推定値Tt_in_eおよびタービン出口圧力Pt_exをもとに、次式(3)によりタービン回収動力推定値Mtbn_eを算出する。
Mtbn_e=Qair_d×{(Wair×κair)/(Vsta×60×1000)}×ηt×(Tt_in_e+Tsta)×{1−(Pt_ex/Pt_in)(γ-1)/γ} …(3)
ただし、
Mtbn_e:タービン回収動力推定値
Qair_d:空気流量検出値
Wair:空気の式量
κair:空気の定圧比熱
Vsta:標準状態における体積(=22.414[L])
ηt:タービン効率
Tt_in_e:タービン入口温度推定値
Tsta:標準状態における絶対温度(=273.15[K])
Pt_in:タービン入口圧力
Pt_ex:タービン出口圧力
γ:比熱比
60:秒分間の単位変換係数
1000:m3とL(リットル)との単位変換係数
である。
図5に戻り、除算部B1045は、タービン回収動力推定部B1042からタービン回収動力推定値Mtbn_eを入力するとともに、モータ回転数検出値Nmtr_dを入力し、タービン回収動力推定値Mtbn_eをモータ回転数検出値Nmtr_dで除した値(=Mtbn_e/Nmtr_d)を、タービントルク推定値Ttbn_eとして出力する。ここで、モータ回転数検出値Nmtr_dは、タービン62およびコンプレッサ64の回転速度を示す。
乗算部B1046は、コンプレッサ出力制御部B1041から目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tを入力するとともに、モータ回転数検出値Nmtr_dを入力し、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tとモータ回転数検出値Nmtr_dとの積の値(=Tcmp_t×Nmtr_d)を、目標コンプレッサ動力Mcmp_tとして出力する。
減算部B1048は、乗算部B1046から目標コンプレッサ動力Mcmp_tを入力するとともに、目標モータ出力演算部B1049から目標モータ出力Mmtr_tを入力し、目標コンプレッサ動力Mcmp_tから目標モータ出力Mmtr_tを減じた値(=Mcmp_t−Mmtr_t)を、目標タービン出力Mtbn_tとして出力する。
目標タービン入口温度演算部B1043は、減算部B1048から目標タービン出力Mtbn_tを入力するとともに、目標空気圧力Pair_tおよび目標空気流量Qair_tを入力し、これらの入力情報をもとに、タービン回収動力推定値Mtbn_eの演算に用いた上式(3)により、目標タービン入口温度Tt_in_tを算出する。ここで、目標タービン出力Mtbn_tは、タービン62により回収すべき動力(タービン回収動力)の目標値である。
具体的には、上式(3)のタービン回収動力推定値Mtbn_eに目標タービン出力Mtbn_tを代入し、空気流量検出値Qair_dに目標空気流量Qair_tを代入する。さらに、上式(1)において、空気圧力検出値Pair_dおよび空気流量検出値Qair_dを目標空気圧力Pair_t、目標空気流量Qair_tに夫々置き換えることで、タービン入口圧力Pt_inを算出する。タービン出口圧力Pt_exには、大気圧を採用する。このようにして得られた値を上式(3)に適用することで、上式(3)のTt_in_eを算出することができるので、これを目標タービン入口温度Tt_in_tとする。
(目標モータ出力演算部)
図9に示すように、目標モータ出力演算部B1049は、目標スタック電流Istc_tを入力し、同図に示すマップを目標スタック電流Istc_tにより参照して、目標モータ出力Mmtr_tを算出する。目標モータ出力演算部B1049は、目標モータ出力Mmtr_tを、目標スタック電流Istc_tが所定値I1以下の場合は一定値として算出し、所定値I1よりも大きい場合は目標スタック電流Istc_tが大きいときほど小さな値として算出する。
このように、低負荷時等、目標コンプレッサ動力Mcmp_tが小さく、目標モータ出力Mmtr_tと等しいかまたはこれを下回る場合は、目標タービン回収動力Mtbn_tが0以下となることで、水素燃焼器32への水素ガスの供給が停止される。さらに、目標スタック電流Istc_tが所定値I1よりも大きい場合に目標モータ出力Mmtr_tを減少させることで、モータ出力の減少分をタービン回収動力Mtbnにより補って目標コンプレッサ動力Mcmp_tを達成しつつ、コンプレッサモータ60の消費電力を低減することができるので、燃料電池システム100のネット出力を向上させることが可能となる。
さらに、目標モータ出力演算部B1049は、定常時出力上限値LMTstを入力するとともに、スタック出力制限値から補機消費電力および走行モータ駆動電力を減じた値を入力する。
本実施形態において、定常時出力上限値LMTstは、コンプレッサモータ60の連続定格の出力である。
スタック出力制限値は、燃料電池スタック10内部の湿潤状態に応じて定められ、HFR測定装置18により出力されたHFR測定値をもとに、これが大きいときほど大きな値に設定される。換言すれば、燃料電池スタック10の各セルに備わる電解質膜が湿潤状態にある場合は、電解質膜の過度な湿潤を回避するべく、スタック出力制限値を増大させて空気流量を増大させ、電解質膜が乾燥状態にある場合は、電解質膜の過度な乾燥を回避するべく、スタック出力制限値を減少させて空気流量を減少させる。
目標モータ出力演算部B1049は、目標モータ出力Mmtr_t、定常時出力上限値LMTstおよび上記減算値のうち最も小さい値を目標モータ出力Mmtr_tとして選択し、減算部B1048に出力する。
本実施形態において、タービン入口温度Tt_inの制御は、目標タービン入口温度Tt_in_tをもとに、図示しない燃焼器制御部により次のようにして行う。
燃焼器制御部は、燃焼器供給水素調節弁49の開度を制御し、水素燃焼器32における燃焼温度を調節することにより、タービン入口温度Tt_inを制御する。
具体的には、スタック出口温度に基づき、次式(4)により燃焼器入口ガス比エンタルピを算出する。
h=k0+k1×T+k2×T2+k3×T3 …(4)
ただし、
h:比エンタルピ
T:ガス温度
k0〜k3:ガス種に応じて決まる定数
である。上式(4)による実際の演算では、ガス温度Tとして、カソード排ガス温度センサ30により検出されるスタック出口温度を採用する。
ここで、水素燃焼器32に供給されるガス(以下「燃焼器入口ガス」という)は、カソード排ガス(空気)以外に、高圧タンク40から燃焼器用水素供給通路46を介して供給される水素ガスを含有する。よって、ガス種に応じて決まる上記定数k0〜k3として、空気に対応する各値と水素に対応する各値とを採用する。換言すれば、燃焼器入口ガス比エンタルピとして、空気に対応する定数k0〜k3を上式(4)に代入することにより得られる空気由来の燃焼器入口ガス比エンタルピhair(Tc_in)と、水素に対応する定数k0〜k3を上式(4)に代入することにより得られる水素由来の燃焼器入口ガス比エンタルピhH2(Tc_in)と、を算出する。
さらに、目標タービン入口温度Tt_in_tに基づき、上式(4)によりタービン入口ガス比エンタルピを算出する。
タービン入口ガス比エンタルピの演算では、上式(4)のガス温度Tとして、目標タービン入口温度Tt_in_tを採用する。
ここで、水素燃焼器32により生成された燃焼ガスは、燃焼に寄与せずに残った残留空気に加え、水素燃焼器32における触媒燃焼反応により生じた水蒸気を含有する。よって、ガス種に応じて決まる上式(4)の定数k0〜k3として、空気に対応する各値と水蒸気に対応する各値とを採用する。換言すれば、タービン入口ガス比エンタルピとして、空気に対応する定数k0〜k3を上式(4)に代入することにより得られる空気由来のタービン入口ガス比エンタルピhair(Tt_in_t)と、水蒸気に対応する定数k0〜k3を上式(4)に代入することにより得られる水蒸気由来のタービン入口温度エンタルピhH2O(Tt_in_t)を算出する。
一方で、スタック電流検出値Istc_dに基づき、下式(5)により燃料電池スタック10による発電に消費される酸素の流量である消費酸素流量mO2_consを推定する。消費酸素流量mO2_consは、燃料電池スタック10に供給される前の空気と燃料電池スタック10から排出された空気(カソード排ガス)との間における酸素流量の変化分に相当する。
mO2_cons={(I×N)/(4×F)}×Vsta×60 …(5)
ただし、
N:燃料電池のセル枚数
I:燃料電池の出力電流(=Istc_d)
F:ファラデー定数
Vsta:標準状態における理想気体1molの体積[NL]
60:秒分間の単位変換係数
である。
そして、空気由来の燃焼器入口ガス比エンタルピhair(Tc_in)、水素由来の燃焼器入口ガス比エンタルピhH2(Tc_in)、空気由来のタービン入口ガス比エンタルピhair(Tt_in_t)、水蒸気由来のタービン入口ガス比エンタルピhH2O(Tt_in_t)および消費酸素流量mO2_consをもとに、次式(6)により目標水素流量FH2_tを算出する。次式(6)は、水素燃焼器32の入口におけるガスを水素燃焼器32の出口に至るまでに目標温度まで昇温させることを想定した場合の、エネルギー保存式から導き出すことができる。
FH2_t={A+B}/C …(6)
A={hair(Tt_in_t)−hair(Tc_in)}×Qair_d
B=hair(Tc_in)×mO2_cons
C=hH2(Tc_in)+0.5×hair(Tt_in_t)−hH2O(Tt_in_t)
さらに、供給水素圧力、冷却水温度(水素ガスの温度を示す)および空気圧力をもとに、下式(7)および(10)により最大水素通過流量mH2_maxを算出する。最大水素通過流量mH2_maxは、燃焼器水素供給弁49が最大開度にある状態で燃焼器水素供給弁49を通過させることができる水素ガスの流量である。下式(7)は、燃焼器水素供給弁49にチョークが発生していない場合の最大水素通過流量mH2_maxを示し、下式(10)は、チョークが発生している場合の最大水素通過流量mH2_maxを示す。
P2/P1>(2/(γ+1))γ/(γ-1)の場合:
mH2_max=Cf×A×{2×(γ/(γ−1))×(P1×1000/ρ1−P2×1000/ρth)}1/2×(P2/Patm)×(Tsta/Tth)×1000×60 …(7)
ただし、
Cf:流量係数
P1:供給水素圧力検出値
P2:空気圧力検出値
Patm:標準状態での大気圧(=101.3[kPa])
A:オリフィス断面積
ρ1:燃焼器供給水素調節弁の入口部における水素密度
ρth:燃焼器供給水素調節弁のスロート部における水素密度
Tsta:標準状態における温度
Tth:燃焼器供給水素調節弁のスロート部における水素温度
γ:比熱比(1.4)
である。
上式(7)のρthおよびTthは、次式(8)、(9)により算出する。
ρth=ρ1×(P2/P1)1/γ …(8)
Tth=T1×(P2/P1)(γ-1)/γ …(9)
さらに、
P2/P1≦(2/(γ+1))γ/(γ-1)の場合:
mH2_max=Cf×A×{2×(γ/(γ+1))×(P1×1000/ρ1)}1/2×(Pth/Patm)×(Tsta/Tth)×1000×60 …(10)
上式(10)のPthおよびTthは、次式(11)、(12)により算出する。
Pth=P1×(2/(γ+1))γ/(γ-1) …(11)
Tth=T1×(Pth/P1)(γ-1)/γ …(12)
そして、このようにして算出された目標水素流量FH2_tおよび最大水素通過流量mH2_maxをもとに、目標水素供給弁開度を演算する。具体的には、目標水素流量FH2_tを最大水素通過流量mH2_maxで除した値(目標デューティー比に相当する)から定まる開度を目標調節弁開度とし、目標調節弁開度により燃焼器供給水素調節弁49を制御する。
(システムコントローラの動作)
システムコントローラ20の動作について、フローチャートを参照して説明する。
図10は、システムコントローラ20が実行するモータ出力制御ルーチンのフローチャートである。
S101では、目標スタック電流Istc_tを読み込む。
S102では、目標スタック電流Istc_tをもとに、目標空気流量Qair_tおよび目標空気圧力Pair_tを算出する。S102の処理は、目標空気圧力演算部B102、目標空気流量演算部B103、最大値選択部B105および最大値選択部B106により実行される。
S103では、目標空気圧力Pair_t、目標空気流量Qair_t、空気圧力検出値Pair_dおよび空気流量検出値Qair_dをもとに、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tを算出する。S103の処理は、コンプレッサ出力制御部B1041により実行される。
S104では、目標スタック電流Istc_tをもとに、目標モータ出力Mmtr_tを算出する。S104の処理は、目標モータ出力演算部B1049により実行される。S104の処理により算出される目標モータ出力Mmtr_tは、目標タービン回収動力Mtbn_tおよび目標タービン入口温度Tt_in_tの演算のために暫定的に設定されるものである。
S105では、目標コンプレッサ動力Mcmp_t(=Tcmp_t×Nmtr_d)から目標モータ出力Mmtr_tを減じることで、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tを達成するための目標タービン回収動力Mtbn_tを算出する。S105の処理は、乗算部B1046および減算部B1048により実行される。
S106では、目標タービン回収動力Mtbn_t、空気圧力検出値Pair_dおよび空気流量検出値Qair_dをもとに、目標タービン回収動力Mtbn_tを達成するための目標タービン入口温度Tt_in_tを算出する。S106の処理は、目標タービン入口温度演算部B1043により実行される。
S107では、目標タービン入口温度前回値Tt_in_t(n−1)、空気圧力検出値Pair_d、空気流量検出値Qair_dおよびタービン出口圧力Pt_exをもとに、タービン回収動力推定値Mtbn_eを算出する。S107の処理は、タービン回収動力推定部B1042により実行される。
S108では、モータトルク指令値CMDmtを設定する。モータトルク指令値CMDmtの設定は、減算部B1047および最小値選択部B1044により実行される。具体的には、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tからタービントルク推定値Ttbn_eを減じて目標モータトルクを算出し(減算部B1047)、目標モータトルクと過渡時出力上限値LMTtrのトルク換算値とのうち小さい方をもとに、モータトルク指令値CMDmtを設定する。本実施形態において、過渡時出力上限値LMTtrは、コンプレッサモータ60の時間定格の出力である。
図11は、図10のモータトルク指令値設定処理(S108)の内容を示すフローチャートである。
S201では、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tからタービントルク推定値Ttbn_eを減じることで、目標モータトルクを算出する。
S202では、モータ出力上限値LMTtrを読み込む。
S203では、モータトルク指令値CMDmtがモータ出力上限値LMTtr(のトルク換算値)以下であるか否かを判定する。モータ出力上限値LMTtr以下である場合は、今回の制御を終了し、モータ出力上限値LMTtrよりも大きい場合は、S204へ進む。
S204では、モータトルク指令値CMDmtをモータ出力上限値LMTtrに設定する。換言すれば、S108の処理により算出されたモータトルク指令値CMDmtとモータ出力上限値LMTtrのトルク換算値とのうち小さい方をもとに、モータトルク指令値CMDmtを設定するのである。
図12は、燃料電池システム100の過渡運転時(加速時)における動作を概略的に示す説明図である。
時刻t0において、比較的低速で走行している車両が、時刻t1におけるアクセルペダルの踏込操作により加速し、時刻t1〜t4の過渡期間を経て、時刻4に加速後の定速走行に移行する場合を想定する。ここで、細線がアクセル操作に対する目標値の変化を示し、太線が目標値の変化に応じた実際値の推移を示す。
時刻t0〜t1では、目標スタック電流Istc_tの達成に必要なコンプレッサ出力Mcmpがコンプレッサモータ60の出力(モータ出力)Mmtrのみにより賄われており、タービン回収動力Mtbn(推定値Mtbn_e)は、0である。換言すれば、目標モータ出力演算部B1049により求められる目標モータ出力Mmtr_tが目標コンプレッサ動力Mcmp_tに等しく、これらの目標値の差として算出される目標タービン回収動力Mtbn_t(=Mcmp_t−Mmtr_t)が0となる。図12の例では、時刻t0〜t1において、目標スタック電流Istc_tから求められる目標モータ出力Mmtr_tは、定常時出力上限値LMTstよりも小さな値として設定されている。さらに、目標タービン回収動力Mtbn_tが0であることから、燃焼器供給水素調節弁49により水素燃焼器32に対する水素ガスの供給が停止され、燃焼温度も0となる。
時刻t1において、運転者によりアクセルペダルが踏み込まれ、目標スタック電流Istc_tが増大すると、これに応じて目標タービン回収動力Mtbn_tが増大する。これは、目標コンプレッサ出力Mcmp_tが目標スタック電流Istc_tの変化に追従するように増大する一方、目標モータ出力演算部B1049により目標モータ出力Mmtr_tが定常時出力上限値LMTst以下に制限されるため、目標コンプレッサ出力Mcmp_tと目標モータ出力Mmtr_tとの差として算出される目標タービン回収動力Mtbn_tが増大するからである。
よって、本実施形態において、「過渡運転時」は、実際のタービン回収動力Mtbnが目標値(目標タービン回収動力Mtbn_t)を下回る場合として定義することができる。さらに、本実施形態では、タービン回収動力Mtbnを得るために水素燃焼器32に水素ガスを供給し、これを作動させる必要があることから、「過渡運転時」は、水素燃焼器32における実際の燃焼温度が目標値(目標燃焼温度)を下回る場合として定義することもできる。タービン回収動力Mtbnおよび燃焼温度は、定常運転に移行することで、いずれも目標値に一致する。
目標タービン回収動力Mtbn_tの増大に伴い、目標タービン入口温度Tt_in_tが増大し、水素燃焼器32に対する水素ガスの供給が開始される。しかし、水素燃焼器32に対する水素ガスの供給に遅れが存在したり、水素燃焼器32自体の筐体が冷えていたりすることで、目標タービン回収動力Mtbn_tが増大してから水素燃焼器32における燃焼温度が上昇し、タービン回収動力Mtbnに実際に変化が生じるまでには、一定の遅れが存在する。
よって、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tからタービントルク推定値Ttbneを減じた値(目標モータトルク)をもとに設定されるモータトルク指令値CMDmtが、タービン回収動力Mtbnの遅れに応じた不足分だけ増大し、タービン回収動力Mtbnの不足分をモータ出力Mmtrにより補うこととなる。ここで、本実施形態では、モータ出力Mmtrに対して過渡時出力上限値LMTtrによる制限が課せられ、過渡時出力上限値LMTtrを超えるモータ出力Mmtrの増大が禁止される。本実施形態において、過渡時出力上限値LMTtrは、コンプレッサモータ60の時間定格の出力である。目標モータ出力Mmtr_tが過渡時出力上限値LMTtrを超えていることから、目標モータ出力Mmtr_tが過渡時出力上限値LMTtrに設定され、目標モータ出力Mmtr_tが過渡時出力上限値LMTtrに減じるまでの間(時刻t1〜t2)、コンプレッサ出力Mcmpにこの制限に応じた分だけ目標値(目標コンプレッサ出力Mcmp_t)に対する不足が生じている。
モータ出力Mmtrは、水素燃焼器32における燃焼温度が上昇し、タービン回収動力Mtbnが増えるのに従って減少する。そして、モータ出力Mmtrは、タービン回収動力Mtbnが加速後の目標スタック電流Istc_tに応じた目標値(目標タービン回収動力Mtbn_t)に達する時刻t5において、加速後の目標値(目標モータ出力Mmtr_t)に収束する。
ここで、目標スタック電流の変化に対するモータ出力およびタービン回収動力の推移について、図13を参照してさらに説明する。
図13は、目標スタック電流Istc_tの増大に対する目標コンプレッサ動力Mcmp_t、タービン回収動力推定値Mtbn_eおよびモータトルク指令値CMDmt等の推移を概略的に示している。図中に示す時刻t0〜t5は、図12に示す時刻t0〜t5と対応する。図中に示す2〜10の数値は、出力ないし動力の関係を相対的に表したものであり、実際の値を示すものではない。
時刻t0では、目標コンプレッサ動力Mcmp_tは、相対値で2であり、目標スタック電流Istc_tから求められる目標モータ出力Mmtr_tも、相対値で2である。よって、目標コンプレッサ動力Mcmp_tは、コンプレッサモータ60のみにより賄われ、目標タービン回収動力Mtbn_tおよびタービン回収動力推定値Mtbn_eの相対値は、いずれも0となる。そして、目標コンプレッサ動力Mcmp_tからタービン回収動力推定値Mtbn_eを減じた相対値として算出される目標モータ出力Mmtr_tが2に設定され、コンプレッサモータ60は、モータトルク指令値CMDmtにより、目標モータ出力Mmtr_t(=2)を達成するように制御される。
時刻t1では、目標スタック電流Istc_tの増大により、目標コンプレッサ動力Mcmp_tの相対値が10に増大する。これに応じ、目標スタック電流Istc_tから求められる目標モータ出力Mmtr_tの相対値も4に増大し、目標タービン回収動力Mtbn_tが、相対値で6(=10−4)に設定される。時刻t1およびそれ以降の時刻t3、t5において、目標モータ出力Mmtr_tおよび目標タービン回収動力Mtbn_tは、夫々相対値で4、6に設定される。
ここで、目標タービン回収動力Mtbn_tの増大に対する実際のタービン回収動力の増大には遅れが存在することから、時刻t1およびt3において、タービン回収動力推定値Mtbn_eに目標タービン回収動力Mtbn_t(=6、6)に対する不足分が生じ、この不足分(=6、3)が、目標モータ出力Mmtr_tに加算される(=10、7)。そして、過渡時出力上限値LMTtrの相対値が9であることから、時刻t1では、目標モータ出力Mmtr_tが、相対値で9に制限される。
時刻t5では、タービン回収動力推定値Mtbn_eが目標タービン回収動力Mtbn_tに一致し、タービン回収動力Mtbnの不足分が解消することから、目標モータ出力Mmtr_tも、定常値(相対値で4)に一致する。
(作用効果の説明)
本実施形態では、燃料電池システム100の運転を制御するシステムコントローラ20に、コンプレッサモータ60の出力であるモータ出力Mmtrを制御する空気系制御部B103を設け、空気系制御部B103により、定常運転時では、モータ出力Mmtrを第1の出力上限値である定常時出力上限値LMTst以下に制限し、燃料電池スタック10の発電電力を増大させる過渡運転時では、モータ出力上限値を定常時出力上限値LMTstから過渡時出力上限値LMTtrに切り換え、モータ出力Mmtrの定常時出力上限値LMTtrを超える増大を許容することとした。
このように、定常運転時では、コンプレッサモータ60の出力(モータ出力Mmtr)を定常時出力上限値LMTst以下に制限することで、コンプレッサモータ60の連続的な使用が可能となる。ここで、定常運転時に設定される目標モータ出力Mmtr_tの上限値を定常時出力上限値LMTstとし(図9)、モータ出力Mmtrが低く抑えられる状態を維持することで、コンプレッサモータ60の駆動に要する電力の消費を抑制し、車両走行用の電動モータの駆動に割り振ることのできる電力を確保することが可能となる。
さらに、過渡運転時では、モータ出力Mmtrの定常時出力上限値LMstを超える増大、具体的には、コンプレッサモータ60の出力の連続定格を超える増大を積極的に許容することで、タービン回収動力Mtbnの実際の変化を待たずにコンプレッサモータ60の出力増大によりコンプレッサ64の回転速度を上昇させ、目標スタック電流Istc_tの達成に必要な空気圧力Pairおよび空気流量Qair(目標空気圧力Pair_t、目標空気流量Qair_t)を発生させることが可能となる。よって、目標スタック電流Istc_tの増大に対し、燃料電池スタック10に対する実際の供給空気流量を速やかに増大させ、過渡運転時における動作応答性を確保することができる。
そして、本実施形態では、モータ出力Mmtrの定常時出力上限値LMstを超える増大を許容することで、比較的小型のコンプレッサモータ60によっても過渡運転時における動作応答性を確保することができ、換言すれば、要求される動作応答性を確保しながら、より小型のコンプレッサモータ60を採用することが可能となる。
ここで、過渡運転時において、モータ出力上限値を定常時出力上限値LMTstよりも大きな過渡時出力上限値LMTtrに切り換えることで、定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力Mmtrの増大を許容しつつ、コンプレッサモータ60を過度な発熱による故障から保護し、所要の製品寿命を確保することができる。
本実施形態では、空気系制御部B104が「モータ出力制御部」を構成し、定常時出力上限値LMTstが「第1の出力上限値」に、過渡時出力上限値LMTtrが「第2の出力上限値」に相当する。過渡時出力上限値LMTtrは、コンプレッサモータ60の時間定格の出力とするほか、コンプレッサモータ60の異常を回避し、所要の製品寿命を確保し得る範囲で適宜に設定することが可能である。この意味で、過渡時出力上限値LMTtrの設定自体は、必須ではない。
さらに、「過渡運転時」は、実際にタービン62が生じさせている動力(タービン回収動力)Mtbnが目標値(目標タービン回収動力Mtbn_t)を下回る場合として定義することができ、タービン回収動力推定値Mtbn_eと目標値Mtbn_tとの比較によるほか、水素燃焼器32における燃焼温度により判断することが可能である。よって、「過渡運転時」は、水素燃焼器32における燃焼温度が目標値を下回る場合として定義することもできる。水素燃焼器32における燃焼温度は、タービン入口温度Tt_inから推定したり、水素燃焼器32に対する水素供給流量等から推定したりして、把握することが可能である。燃焼温度としてその推定値を採用することで、特別なセンサの増設を不要とし、部品点数の増加を回避するとともに、センサを採用した場合と比較して応答遅れを抑制することができる。
このように、本実施形態において、燃料電池システム100が定常運転状態にあるかまたは過渡運転状態にあるかの判定は、タービン回収動力推定値Mtbn_eおよび目標値Mtbn_tの関係等から実質的になされるものである。しかし、タービン回収動力推定値Mtbn_eと目標値Mtbn_tとを実際に比較するなどして、燃料電池システム100がいずれの運転状態にあるかを判定してもよい。
さらに、本実施形態では、燃料電池スタック10の要求発電電力に応じた目標スタック電流Istc_tを設定し、目標スタック電流Istc_tから目標モータ出力Mmtr_tを演算し(図9)、目標コンプレッサ出力Mcmp_tから目標モータ出力Mmtr_4を減じた値として目標タービン回収動力Mtbn_tを設定することとした。そして、タービン62が実際に発生させる動力をタービン回収動力として演算し(タービン回収動力推定値(Mtbn_e)、目標コンプレッサ動力Mcmp_tからタービン回収動力推定値Mtbn_eを減算して、目標モータ出力Mmtr_tを演算し、この目標モータ出力Mmtr_tに基づき、モータ出力を制御することとした。
このように、目標スタック電流Istc_tに応じた暫定的な目標モータ出力Mmtr_tにより目標タービン回収動力Mtbn_tを設定するとともに、タービン62が実際に生じさせる動力を推定し、タービン回収動力推定値Mtbn_eの目標値(目標タービン回収動力Mtbn_t)に対する不足分を加算した出力として、最終的な目標モータ出力Mmtr_tを設定することで、タービン62の動作に生じる遅れによらず、目標コンプレッサ出力を達成し、要求発電電力に応じた目標スタック電流を実現することができる。
ここで、目標スタック電流演算部B101が「目標発電電流設定部」を構成し、目標モータ出力演算部B1049が「第1の目標モータ出力演算部」を構成し、コンプレッサ出力制御部B1041、乗算部B1046および減算部B1048が「目標タービン回収動力設定部」を設定し、タービン回収動力推定部B1042が「タービン回収動力演算部」を構成し、減算部B1047が「第2の目標モータ出力演算部」を構成する。そして、目標スタック電流Istc_tから求められる目標モータ出力Mmtr_tが「第1の目標モータ出力」に相当し、目標コンプレッサトルクTcmp_tからタービントルク推定値Ttbn_eを減じた値をもとに算出される目標モータ出力Mmtr_tが「第2の目標モータ出力」に相当する。
さらに、本実施形態では、目標スタック電流Istc_tをもとに、目標タービン回収動力Mtbn_tを設定し、これに基づき、タービン62のガス流入部における排ガス温度(タービン入口温度Tt_in)を制御することとした。
これにより、目標スタック電流Istc_tの実現に必要なタービン62の作動条件(タービン入口温度Tt_in)を速やかに達成し、タービン62の動作に遅れが生じるのを抑制することが可能となる。
ここで、上記に加え、目標タービン入口温度演算部B1043が「タービン入口温度制御部」を構成する。
(他の実施形態の説明)
先の実施形態では、過渡時出力上限値LMTtrとしてコンプレッサモータ60の時間定格の出力を採用し、過渡時出力上限値LMTtrを一定とする場合について説明した。
しかし、過渡時出力上限値LMTtrは、状況に応じて変化させて設定することも可能である。
具体的には、過渡時出力上限値LMTtrを、コンプレッサモータ60の温度、回転速度およびインバータ電流制限値のうち少なくとも1つをもとに設定する。ここで、コンプレッサモータ60の温度は、モータ60自体の温度に限らず、モータ60を駆動するインバータの温度、モータ60またはインバータを冷却する冷却水の温度で代用することも可能である。
図14は、コンプレッサモータ60の温度(モータ温度Tmtr)と過渡時出力上限値LMTtrとの関係を示す説明図である。過渡時出力上限値LMTtrを、モータ温度Tmtrが高いときほど小さな値として設定することで、コンプレッサモータ60およびインバータの耐熱温度を超える発熱を防止し、これらの部品を熱的な観点から保護することができる。
図15は、コンプレッサモータ60の回転速度(モータ回転数Nmtr)と過渡時出力上限値LMTtrとの関係を示す説明図である。過渡時出力上限値LMTtrを、モータ回転数Nmtrの減少に応じて小さな値として設定することで、過度に大きなモータトルクの印加による損傷、換言すれば、過度な加速による損傷から回転軸を保護することができる。具体的には、コンプレッサモータ60の回転数変化率を回転軸の損傷防止等の観点から定められる最大変化率以下に制限するように、低回転域における過渡時出力上限値LMTtrを高回転域に比べて減少させる。
ここで、コンプレッサモータ60の回転数変化率dω/dtは、慣性をJcp、印加トルクをτall、回転維持トルクをτcpとすると、次式(13)により算出することができる。
dω/dt=(1/Jcp)×(τall−τcp) …(13)
高回転域では、回転維持トルクτcpが大きいことから、過渡時出力上限値LMTtrを増大させてより大きなトルクの印加を許容したとしても、回転数変化率dω/dtの上昇を抑えることが可能である。これに対し、低回転域では、回転維持トルクτcpが小さく、大きなトルクを印加した場合の回転数変化率dω/dtが大きくなることから、過渡時出力上限値LMTtrを減少させて、印加トルクτallを小さな値に制限する。
図16は、コンプレッサモータ60のインバータ電流制限値と過渡時出力上限値LMTtrとの関係を示す説明図である。過渡時出力上限値LMTtrを、インバータ電流制限値が低いときほど小さな値として設定することで、インバータに流れる電流の大きさが制限されている場合に、実際に流れる電流を当該制限値以下に抑制する。
このように、コンプレッサモータ60の温度等をパラメータとして過渡時出力上限値LMTtrを設定することで、過渡運転時におけるモータ出力Mmtrを適切に制限し、動作応答性の確保とコンプレッサモータ60の保護との両立を図ることができる。ここで、過渡時出力上限値LMTtrは、「第2の出力上限値」に相当する。
さらに、モータ出力Mmtrの制限は、過渡時出力上限値LMTtr自体によるばかりでなく、モータ出力Mmtrが過渡時出力上限値LMTtrを超えている時間により行うことも可能である。
図17は、コンプレッサモータ60について、定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力Mmtrを生じさせる時間に制限がある場合に、モータ出力制限値LMTをこの時間により制限する制御の内容を示すフローチャートである。同図に示す処理は、空気系制御部B104により実行され、図5に示す構成において、モータ出力制限値LMTを、過渡時出力上限値LMTtrに代えて最小値選択部B1044に入力する。
S301では、目標コンプレッサ駆動トルクTcmp_tとタービントルク推定値Ttbn_eとの差を読み込み、これを動力(目標モータ出力Mmtr_t)に換算する。
S302では、目標モータ出力Mmtr_tが定常時出力上限値LMTstよりも大きいか否かを判定する。定常時出力上限値LMTstよりも大きい場合は、S303へ進み、定常時出力上限値LMTst以下である場合は、S307へ進む。ここで、定常時出力上限値LMTstは、例えば、コンプレッサモータ60の連続定格の出力である。
S303では、時間カウント値aが第1の所定値SL1に達したか否かを判定する。第1の所定値SL1に達した場合は、S304へ進み、達していない場合は、S305へ進む。
S304では、モータ出力上限値LMTを定常時出力上限値LMTstに設定する。定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力を生じさせている時間が制限値に達したと判断し、モータ出力上限値LMTを強制的に定常時出力上限値LMTstに設定することで、定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力の発生を禁止するのである。
S305では、モータ出力上限値LMTを過渡時出力上限値LMTtrに設定し、定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力の発生を許容する。ただし、過渡時出力上限値LMTtrの設定により、過渡時出力上限値LMTtrを超えるモータ出力の発生は、引き続き禁止する。ここで、過渡時出力上限値LMTtrは、例えば、コンプレッサモータ60の時間定格の出力である。
S306では、時間カウント値aに所定値da1を加算する。
S307では、時間カウント値aが第2の所定値SL2に達したか否かを判定する。第2の所定値SL2に達した場合は、S308へ進み、達していない場合は、S309へ進む。第2の所定値SL2は、第1の所定値SL1よりも小さく、例えば、0である。
S308では、モータ出力上限値LMTを過渡時出力上限値LMTtrに設定する。定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力の発生を禁止すべくモータ出力上限値LMTを強制的に定常時出力上限値LMTstに設定してから充分な時間が経過したと判断し、モータ出力上限値LMTを定常時出力上限値LMTstから過渡時出力上限値LMTtrに切り換えることで、定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力の発生を再度許容するのである。
S309では、モータ出力上限値LMTを定常時出力上限値LMTstに設定し、定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力の発生を引き続き禁止する。
S310では、時間カウント値aから所定値da2を減算する。ここで、所定値da1およびda2は、いずれも適合により定められ、da1とda2とは、同一の値であっても、異なる値であってもよい。
このようにすれば、定常時出力上限値LMTstを超えるモータ出力を生じさせる時間を制限し、過度な発熱による損傷からコンプレッサモータ60を保護することができる。
以上の説明では、タービン62の駆動に水素燃焼器32により生成される燃焼ガスを採用するとともに、燃焼ガスの生成に燃料電池10の作動に関わる酸化剤(例えば、カソードオフガス)を採用した。しかし、カソード給排機構12とは独立した経路を構成し、当該経路を介してタービン62に作動ガスを供給してもよい。例えば、カソードガス供給通路22を経由せず、大気から直接取り込んだ空気を水素燃焼器32に導入し、生成された燃焼ガスをタービン62に供給するのである。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において様々な変更を成し得ることはいうまでもない。