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JP5978187B2 - 柱梁溶接継手およびその製造方法 - Google Patents

柱梁溶接継手およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、建築構造物の柱梁溶接継手およびその製造方法に関する。
ビルディングなどの建築構造物の構造材料にはコンクリートや鋼が用いられている。そして、建築構造物の構造様式としては、柱部材に角形あるいは円形の鋼管、梁部材にH型鋼を用いて、柱部材と梁部材の直交部を溶接あるいはボルトによって強固に接合する鉄骨ラーメン構造形式が最も多く普及している。
例えば、日本のような地震国では建築構造物の耐震性能の向上は大きな問題であり、阪神淡路大震災で見られたような揺れによる構造崩壊は人命を守るために最も避けなければならない現象である。したがって、耐震性能向上のために、様々な研究が行われており、地震エネルギーを吸収する制震・免震ダンパーの採用や、高い衝撃吸収エネルギー性能を有する柱・梁用鋼材や梁端溶接用溶接材料の採用などが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
また、柱部材と梁部材を直交部で接合する様式では、不連続面として直交接合部が応力集中箇所になり、早期に破壊しやすい事が知られている。そのため、ボトルネックである直交接合部の耐震性能向上も多く研究されている。
図32に示すように、柱梁溶接継手100Bにおいて、柱部材31Aに梁部材2を溶接接合するための工法としては、梁部材2のウエブ3にスカラップ6、7と呼ばれる空孔が設けられるスカラップ工法が一般的である。スカラップ6、7を設ける目的は、梁部材2の上下フランジ4、5と柱部材31Aを溶接接合して、溶接金属部10と裏当て金USとからなる上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Bを形成する際に、作業的にウエブ3が邪魔になるため、ウエブ3を部分的にくり抜く必要があるからである。しかし、スカラップ6、7は最も耐震性能を劣化させる要因になっていることが知られている。そして、地震時にかかる繰り返し応力によって、スカラップ6、7と上下フランジ4、5、特に下フランジ5とスカラップ7との境界部、いわゆるスカラップ底が最も高い応力集中箇所となり、早期に下フランジ5に亀裂発生し、梁部材2全体に伝播して崩壊に至らせる。
この問題を改善するために幾つもの研究がなされてきた。例えば、スカラップの形状改善である。以前はフランジに対してスカラップ底が直角に侵入する形状であったが、応力集中を緩和するため、現在は複合円型スカラップと言われる接触角をある程度小さくした形状が採用されている。また、スカラップ形状のさらなる改良も行われている(非特許文献1参照)。しかし、いずれもさほどの耐震性能向上効果は得られていない。
これに対して、応力集中箇所を存在させない理想的ディテールとして、スカラップを用いない、いわゆるノンスカラップ工法の採用も進みつつある(非特許文献1参照)。通常のスカラップ工法では裏当て金として長尺一枚板を溶接部底に取付けるところを、ノンスカラップ工法ではウエブを挟んで短尺二枚を両側に取付けることでウエブを残したままにする工法である。しかし、ノンスカラップ工法は、梁部材の外側からしか溶接できない短所がある。
特許第3199656号公報
「鉄骨工事技術指針・工場製作編」,2007年改定版,日本建築学会
図33に示すように、鉄骨の柱梁接合を部分的なブロック(柱梁溶接継手100B)として工場内で製造する工場接合形式と呼ばれるディテールでは、(1)フランジの片側(上フランジ4)を梁部材2外側から柱部材31Aに下向溶接した後、(2)ブロック(柱梁溶接継手100B)をクレーンなどで天地反転して、(3)逆側のフランジ(下フランジ5)を同じく梁部材2の外側から柱部材31Aに下向溶接することが可能である。そのため、図36に示すように、両フランジ4、5の接合ディテールは、ウエブ3の中央線を挟んで上下対称となる。具体的には、上フランジ4の溶接接合部である上部完全溶け込み溶接部8Aと、下フランジ5の溶接接合部である下部完全溶け込み溶接部9Bにおいては、両溶接部共に、裏当て金USがスカラップ6、7側に接合された形態となる。また、図33に示すように、この工場接合形式と呼ばれるディテールでは、両フランジ4、5の溶接接合をノンスカラップ工法で施工することが可能である。
一方、耐震性能向上のニーズとは別に、鉄骨にはコストダウンのニーズも大きい。工場で柱部材と梁部材を溶接接合してブロック(柱梁溶接継手)とし、トラックで運搬して建築現場で組み上げる工場接合形式は、現場でも梁部材同士の接合が必要となり、接合作業が二度手間になる事、また、占有体積が大きいのでトラックへの積載量が少なくなることで、コストが高くなりがちである。
そこで、梁部材の付いていないシンプルな柱部材を大量にトラックに乗せ、現場で柱部材と梁部材をボルト接合と組合せて計1回溶接することで柱梁溶接継手を得る現場混用接合形式(以下、現場接合形式)の採用がコスト低減目的で増えている(非特許文献1参照)。しかし、現場接合形式の場合、柱梁溶接継手の天地反転作業ができない。したがって、下側のフランジの溶接は梁部材内側から下向姿勢で溶接せざるを得ない。上向姿勢で梁部材外側から溶接することも原理的には可能であるが、開先内の上向姿勢溶接は視認性が悪く、重力によって溶接金属が垂れ落ちてしまい易いことから、極めて能率が悪く、実用的とは言えない。図34に示すように、梁部材2の内側からの下向溶接姿勢では上述のとおり、ウエブ3が邪魔になって、溶接困難となる。
以上の理由により、現場接合形式では、図35に示すように、両フランジ4、5の接合ディテールは梁部材2の中央線を挟んで上下非対称なディテールとなる。具体的には、上部完全溶け込み溶接部8Aでは裏当て金USがスカラップ6側に接合され、下部完全溶け込み溶接部9Aでは溶接金属部10がスカラップ7側に接合される形態となる。したがって、製造コストの安い現場接合形式では、下側のフランジに梁部材外側から溶接するノンスカラップ工法が適用できず、耐震性能が劣るという問題を抱える。
また、従来、柱梁溶接継手において、もう一つの問題が存在した。すなわち、スカラップ底の次に柱−梁接合部の早期破壊を招く大きな悪影響因子として、突合せ溶接部に取付けられる裏当て金の問題である。柱梁溶接継手において、裏当て金が取付けられる理由は次のとおりである。
柱梁溶接継手では、開先の最狭隘間隔をルートギャップと一般的に呼称するが、ルートギャップがゼロだと溶込み残しが生じて全断面が溶融しない、つまり完全溶込みが出来ない場合が生じる。また、そもそも歪みなどでルートギャップが不可避的に発生することも避けられない。したがって、ほとんどの突合わせ溶接の場合、ルートギャップを設けて溶接が行われる。このルートギャップの溶接では、溶接時に溶けた鉄が溶落しやすいため、高い技量が要求される。これを避けるための手段として、開先をV型もしくはレ型にして、最深部であるルートギャップに鋼製の裏当て金を仮付けし、開先内の溶接時に母材鋼板と共に一体接合する溶接手法が良く用いられている。この溶接手法では、溶接個所となる鋼板を片側、ほとんどの場合下向にて全て溶接でき、高能率な利点がある。
しかし、この裏当て金を取付ける手段には、接合部品質として大きな短所がある。
例えば、図37に示すように、板厚の異なる鋼板A,Bを付き合わせ、板厚の薄い鋼板B側に鉛直上側に開口したレ型開先を設け、さらに底部に裏当て金USを当てて溶接を行ったとする。鋼板Aと鋼板Bは全断面で溶接され、継手としての静的な引張強度は確保される。しかし、ここで鋼板Aが固定され、鋼板Bに地震応力として曲げ方向あるいは軸方向の周期的変動に相当する力fを受けた場合、板厚が不連続である溶接部に応力集中が加わり、脆性的破壊を起こすことがある。
良く知られているとおり、柱梁溶接継手では、不連続部点の角度が小さいほど応力集中は大きくなり、容易に破壊をもたらす。図37の場合では、裏当て金USが溶接された端部であるB1やB2がいわゆる切欠き(ノッチとも呼ばれる)状を呈することになり、滑らかに母材と接するF点に対して非常に大きい応力集中箇所となる。そのため、柱梁溶接継手では、B1やB2地点から矢印で示すように亀裂が発生し、鋼板Bや突合せ溶接金属を貫通するように進展、破断に至ってしまう。したがって、裏当て金USを用いる溶接方法は、耐震性が劣りやすく、優れた継手品質とは言えない。
以上述べたとおり、従来の柱梁接合継手では、(1)スカラップ底と(2)裏当て金という二つの大きな応力集中箇所が存在し、それら片方だけの改善だけでは大きな耐震性向上は見込めない。したがって両方の問題を改善できる新たな柱梁溶接継手、溶接工法が求められていた。
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その課題は、現場形式でも工場形式でも容易で安価な作業で耐震性能にすぐれた柱梁溶接継手及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らはスカラップ有を前提とした耐震性能向上法を研究し、本発明に至った。スカラップの問題はスカラップ底の応力集中および接する梁部材のフランジ厚の板厚が薄く剛性が低いことに帰結する。そこで、スカラップ底周囲に適切に管理した肉盛溶接を施すことで、前記課題を解決した。
すなわち、前記課題を解決する本発明に係る柱梁溶接継手は、柱部材と、ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、前記ウエブの上端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された上スカラップと、前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との突合せ位置に形成した溶接金属部による上部完全溶け込み溶接部と、前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ位置に裏当て金なしで形成された架橋用裏波溶接部、及び、この架橋用裏波溶接部に開先内充填積層して形成した溶接金属部による下部完全溶け込み溶接部と、前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側、および、前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備える構成とした。
また、前記した柱梁溶接継手は、前記下部完全溶け込み溶接部では、前記架橋用裏波溶接部に接合した前記溶接金属部の頂上部が前記下スカラップ側に設けられ、前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記溶接金属部の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さである構成とした。
さらに、前記した柱梁溶接継手は、前記下部完全溶け込み溶接部では、前記架橋用裏波溶接部が前記下スカラップ側に設けられ、前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記柱部材のダイアフラム端面を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さである構成とした。
前記構成によれば、本発明の柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部を備えることによって、その形状的作用により、下スカラップに作用する応力集中を周囲に分散させる。また、柱梁溶接継手は、既存建築物が裏当て金なしの形式で構成されていれば、柱梁溶接継手に下部肉盛溶接部をさらに加えるだけで得ることができるため、補修が容易で安価となる。
なお、スカラップ底への応力に対する抵抗力を増すという点では、単に、従来のH型鋼梁部材のフランジの設計厚さを高めれば、ある程度効果はある。しかしながら、梁部材としてのコストが大幅に増すこと、完全溶け込み溶接部の厚みも増して溶接材料の使用量が増加して能率低下に繋がること、応力分散効果が全く働かないので大きな地震力が作用した際にはフランジの脆性的破壊が起きやすいこと、かつ、建築済みや途中の建物(既存建築物)には適用できないことから、本発明の柱梁溶接継手に対して劣るものである。また、本発明の柱梁溶接継手は、少なくとも下スカラップに作用する応力集中を分散させることで、従来の構造より耐震性能に優れるものである。したがって、本発明の柱梁溶接継手は、上フランジ側の構成は、裏当て金で溶接金属部を形成しても構わない。ただし、上フランジ側も裏当て金無しとし、架橋用裏波溶接と開先内充填積層溶接によって接合されるほうが好ましい。さらには、架橋用裏波溶接部に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を柱部材とは反対方向にフランジ面に沿って裏肉盛溶接を行い形成される裏肉盛部を備える方がより好ましい。
また、柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部のウエブ側の脚長(La)および下フランジ側の脚長(Ld)に、ウエブの厚さ(Tw)と同じ以上のすみ肉脚長の肉厚を増すことで、上下曲げ応力に対しての剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。
さらに、柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)を、現場接合形式では溶接金属部の頂上部よりも柱部材側に延長すること、工場接合形式では架橋用裏波溶接部を覆いダイアフラム端面を超える長さに延長することによって、接触角を小さくして応力集中を緩和するだけでなく、下部完全溶け込み溶接部における溶接金属部の余盛および架橋用裏波溶接部を応力緩和の有効厚として利用して、応力集中箇所の剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。
なお、柱梁溶接継手は、溶接金属部(現場接合形式の場合)あるいは架橋用裏波溶接部(工場接合形式の場合)を越えてさらに柱部材側に下部肉盛溶接部が延長された場合には、溶接金属部の余盛部や架橋用裏波溶接部の厚さが有効厚とはならないが、代わりに一般的にフランジ厚よりも厚いダイアフラム厚が有効厚として作用し、接触角もまたさらに小さくなって応力集中の緩和効果を高めることから、破壊を十分抑制することができる。
また、柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部の柱部材と反対側、つまり梁部材の長さ方向中央に向けての長さ(Lb)を、ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さとすることによって、応力集中を適度に分散させ、下部肉盛溶接部とウエブ界面に生じやすい亀裂の発生を抑制することができる。
さらに、前記柱梁溶接継手において、前記架橋用裏波溶接部に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を前記柱部材とは反対方向にフランジ面に沿って裏肉盛溶接を行い形成される裏肉盛部を備える構成とした。
かかる構成により、柱梁溶接継手は、柱部材から遠い側となる溶接金属部のフランジ面での溶接止端部と、裏肉盛部の柱部材から遠い側となるフランジ面での溶接止端部の距離が小さくなり、溶接金属部の溶接止端部と、裏肉盛部の溶接止端部とにかかるモーメントの値が近い値となり、応力伝達バランスがフランジ上面及びフランジ下面で上下均等に近づくため、耐震性がより改善することができる。
また、前記上スカラップの前記上フランジに当接する上スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された上部肉盛溶接部をさらに備える構成としてもよい。
そして、前記上部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記柱部材のダイアフラム端面を越える長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さである構成としてもよい。
さらに、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との間に形成した架橋用裏波溶接部に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を前記柱部材とは反対方向にフランジ面に沿って裏肉盛溶接を行い形成される裏肉盛部を備えることとしても構わない。
かかる構成により、柱梁溶接継手は、上部肉盛溶接部をさらに備え、その上部肉盛溶接部の脚長、柱部材側への長さおよび柱部材と反対側への長さが所定範囲であることによって、上スカラップにおける応力集中を周囲に分散させると共に、応力集中箇所での剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることできる。
また、柱梁溶接継手は、柱部材と、ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ位置で形成された溶接金属部による下部完全溶け込み溶接部と、前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備える構成としても構わない。
そして、前記柱梁溶接継手は、前記下部完全溶け込み溶接部において、架橋用裏波溶接部に接合した前記溶接金属部の頂上部が、前記下スカラップ側にあり、前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記溶接金属部の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さである構成としてもよい。
かかる構成により、柱梁溶接継手は、梁部材として上スカラップが形成されず下スカラップのみのウエブを使用し、そのウエブと上フランジとの溶接接合部がノンスカラップ工法で作製されていることによって、上フランジ側全体に分散作用する地震応力に対してエネルギーを弾性変形、さらに大きな場合は塑性変形として吸収することが出来て、壊れにくくすることができる。また、下フランジ側では、下部肉盛溶接部を備えることによって、下スカラップ底での応力集中を周囲に分散させると共に、応力集中箇所での剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。なお、上フランジの上部完全溶け込み溶接部は、裏当て金をウエブの両側に設置して溶接し開先内充填積層する溶接金属によるノンスカラップ工法で作製されるものであっても構わない。
さらに、前記柱梁溶接継手において、前記架橋用裏波溶接部に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を前記柱部材とは反対方向にフランジ面に沿って裏肉盛溶接を行い形成される裏肉盛部を備える構成とした。
かかる構成により、柱梁溶接継手は、柱部材から遠い側となる溶接金属部のフランジ面での溶接止端部と、裏肉盛部の柱部材から遠い側となるフランジ面での溶接止端部の距離が小さくなり、溶接金属部の溶接止端部と、裏肉盛部の溶接止端部とにかかるモーメントの値が近い値となり、応力伝達バランスがフランジ上面及びフランジ下面で上下均等に近づくため、耐震性がより改善することができる。
また、柱梁溶接継手の製造方法は、前記した柱梁溶接継手の製造方法であって、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むこととした。
さらに、柱梁溶接継手の製造方法は、前記した柱梁溶接継手の製造方法であって、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、上フランジ側および下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記上部肉盛溶接部および前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むこととした。
そして、前記梁端部突合せ溶接工程において前記架橋用裏波溶接部を形成した後に前記裏肉盛部を形成する裏肉盛溶接工程を行うこととしても構わない。
前記手順によれば、本発明の柱梁溶接継手の製造方法では、梁端部突合せ溶接工程を行うことによって、柱部材に梁部材が溶接接合され、肉盛溶接工程を行うことによって、下フランジ側の下スカラップを補強する下部肉盛溶接部、または、下スカラップと上フランジ側の上スカラップの両者を補強する下部肉盛溶接部および上部肉盛溶接部が形成される。そして、柱梁溶接継手の製造方法では、裏肉盛溶接工程を行うことで、応力伝達バランスがフランジ上面及びフランジ下面で上下均等に近づくため、耐震性がより改善することができる。
さらに、本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法は、前記肉盛溶接工程では、C≧0.15質量%、Mn≧3.0質量%、Ni≧3.0質量%、Cr≧3.0質量%のうち1つ以上を含有する溶接材料を用いて、肉盛溶接を行うことが好ましい。
かかる手順によれば、本発明の柱梁溶接継手の溶接方法は、所定の溶接材料を用いて肉盛溶接工程を行うことによって、下部肉盛溶接部、または、上部肉盛溶接部、裏肉盛部近傍に亀裂が発生しにくくなり、耐震性・耐疲労性が向上する。
また、前記した柱梁溶接継手の製造方法であって、溶接に使用される溶接ワイヤを負極とし、前記柱部材及び梁部材である母材側を正極として正極性で配電されたアーク溶接法により溶接が行われると共に、前記溶接ワイヤにフラックスとしてフッ化カルシウム又はフッ化バリウムをワイヤ外周の鋼部分を合わせた全ワイヤ重量換算で合計0.5〜10質量%含有することとしてもよい。
かかる手順により、柱梁溶接継手の製造方法では、正極性のフラックス入りワイヤであり、ソリッドワイヤでは添加できないフッ化物を適量加えることで溶融池の表面張力を高くすることで、上向き溶接を行ったときに、溶液が垂れにくくする。さらに、前記アーク溶接法は炭酸ガスシールドアーク溶接法であることが好ましい。炭酸ガスシールドアーク溶接を行うことで溶接金属部中に大気から窒素が混入して靱性が低下することを防止する。
本発明に係る柱梁溶接継手及びその製造方法は、以下に示すような優れた効果を奏するものである。
本発明に係る柱梁溶接継手によれば、優れた耐震性能を奏することができると共に、現場接合形式であっても既存建築物も含め容易で安価な補修で得ることができる。
特に、本発明に係る柱梁溶接継手によれば、鉄骨柱梁継手特有の接合ディテールを利用して、すなわち、完全溶け込み溶接部の溶接金属部の余盛と架橋用裏波溶接部、あるいは、ダイアフラム厚を有効厚として利用することによって、スカラップ底への応力集中に対する抵抗力を増加させて、耐震性能を向上させることができる。さらに、本発明の柱梁溶接継手によれば、現場接合形式であってもスカラップ底での強度(剛性)を確保できるため、柱部材と梁部材の現場への搬送を効率よく行うことができる。
また、本発明に係る柱梁溶接継手は、架橋用裏波溶接部に重ねて裏肉盛部を備えることにより、フランジ上面及びフランジ下面に伝わる応力伝達バランスが均等に近づくので、より耐震強度を向上させることができる。
また、本発明の柱梁溶接継手の製造方法によれば、耐震性能に優れ、補修性にも優れた柱梁溶接継手を製造できる。
本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の構成を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線断面図、(c)は(a)の他の形態を示すX−X線における断面図である。 (a)、(b)は本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部、(c)は柱梁溶接継手の上部肉盛溶接部の断面図、(d)は(a)、(b)のX−X線断面図、(e)は(c)のX−X線断面図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部(現場接合形式)の作用を説明する説明図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部(現場接合形式)の作用を説明する説明図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部の作用を説明する説明図で、(a)は現場接合形式、(b)は工場接合形式である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部の作用を示す説明図である。 本発明に係る柱梁溶接継手(工場接合形式)の構成を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線断面図、(c)は(a)の他の形態を示すX−X線における断面図である。 本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の他の形態の構成を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線断面図である。 本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の他の形態を示す斜視図である。 本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の他の形態を示す斜視図である。 (a)〜(c)は、本発明に係る柱梁溶接継手に裏肉盛部を形成した状態を構成をそれぞれ変えて示す断面図である。 (a)〜(d)は、本発明に係る柱梁溶接継手の裏肉盛部を設けたときの溶接金属部にかかるモーメントの状態を模式的に示す説明図である。 (a)〜(e)は、柱梁溶接継手の裏肉盛部を設けるときの好ましい条件を模式的に示す説明図である。 (a)、(b)は、本発明に係る柱梁溶接継手の他の構成を示す側面図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法を示す工程フローである。 本発明に係る柱梁溶接継手の他の製造方法を示す工程フローである。 (a)〜(e)は、本発明に係る柱梁溶接継手の架橋用裏波溶接部及び裏肉盛部の溶接工程をそれぞれ模式的に示す模式図である。 (a)〜(h)は本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部の積層要領を示す図である。 上下スカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下スカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下ノンスカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上ノンスカラップ工法、下スカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下スカラップ工法で作製され裏当て金の代わりに架橋用裏波溶接部を設け溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下スカラップ工法で作製され裏当て金の代わりに架橋用裏波溶接部を設け溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上ノンスカラップ工法、下スカラップ工法で作製され裏当て金の代わりに架橋用裏波溶接部を設け溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上ノンスカラップ工法、下スカラップ工法で作製され上フランジ側に裏当て金、下フランジ側に架橋用裏波溶接部を設け溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下スカラップ工法で作製され上フランジ側に裏当て金、下フランジ側に架橋用裏波溶接部を設け溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下スカラップ工法で作製され上フランジ側に裏当て金、下フランジ側に架橋用裏波溶接部を設け溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 柱梁溶接継手の載荷実験方法を示す側面図である。 載荷実験における荷重履歴を示す図である。 (a)は載荷実験におけるスケルトン曲線を示し、(b)は累積荷重変形の定義を示す図である。 スカラップ工法で作製した従来の柱梁溶接継手(工場接合形式)の問題点を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(工場接合形式)をノンスカラップ工法で作製する手順を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(現場接合形式)をノンスカラップ工法で作製する際の問題点を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(現場接合形式)の構成を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(工場接合形式)の構成を示す斜視図である。 (a)、(b)は、従来の柱梁溶接継手の裏当て金による亀裂の状態を模式的に示す説明図である。
以下、本発明に係る柱梁溶接継手の実施形態について、図面を参照して説明する。
柱梁溶接継手は、柱部材と梁部材とを溶接接合することによって作製される。そして、柱梁溶接継手は、溶接接合が行われる場所によって、建築現場で溶接接合を行う現場接合形式と、工場で溶接接合が行われる工場接合形式との2形式がある。
<柱梁溶接継手(現場接合形式)>
図1(a)、(b)に示すように、第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aは、柱部材31Aと、梁部材2と、上スカラップ6と、下スカラップ7と、上部完全溶け込み溶接部8Aと、下部完全溶け込み溶接部9Aと、下部肉盛溶接部13と、を備える。
(柱部材)
柱部材31Aは、既存建築物のブロックである柱梁溶接継手に使用される柱部材が用いられる。そして、柱部材31Aの構造形式は特に限定されないが、鋼管33と、その鋼管33との間に応力伝達を担う鋼板からなるダイアフラム32を水平方向に挿入した外ダイアフラム構造(梁貫通方式とも呼ばれる)が好ましい。また、鋼管33およびダイアフラム32の水平方向の断面形状は、特に限定されないが、角形または円形が一般的である。なお、鋼管33およびダイアフラム32を構成する材料は、建築物の強度を保証できれば特に限定されず、例えば、490MPa級鋼、耐火鋼またはステンレス鋼が使用される。
(梁部材)
梁部材2は、鋼板からなるウエブ3と、そのウエブ3の上端部側および下端部側に設けられた上フランジ4および下フランジ5とでH型の断面が形成された、いわゆるH型鋼である。また、梁部材2に使用されるH型鋼には、圧延(ロールフォーミング)によってH型に一体設計される通称ロールHと、フランジとウエブの平板同士をサブマージアーク溶接などの手段によってH型に組み立てられる通称ビルドHとがある。本発明の梁部材2は、ロールH、ビルドHのいずれでもよい。なお、梁部材2(ウエブ3、上下フランジ4、5)を構成する材料は、建築物の強度を保証できれば特に限定されず、例えば、490MPa級鋼、耐火鋼またはステンレス鋼が使用される。
(上スカラップ、下スカラップ)
上スカラップ6および下スカラップ7は、ダイアフラム32の側面と上フランジ4および下フランジ5の端面とを溶接接合する際に、ウエブ3が溶接作業の邪魔にならないように形成されるもので、ウエブ3の上端部および下端部を柱部材31A(ダイアフラム32)側で一部切り欠いて形成されたものである。また、上スカラップ6および下スカラップ7の形状は、溶接作業の邪魔にならないように形成されたものであれば特に限定されないが、非特許文献1に記載されたスカラップ形状が好ましい。なお、上スカラップ6および下スカラップ7の形状は、上下フランジ4、5に当接するスカラップ底での接触角が略直角の形状(非特許文献1、211頁、図4.8.6(c)参照)、スカラップ底の接触角が小さい形状(非特許文献1、211頁、図4.8.6(b)〜(e)参照)のいずれでもよいが、複合円型スカラップ(非特許文献1、211頁、図4.8.6(b)参照)が好ましい。
(上部完全溶け込み溶接部、下部完全溶け込み溶接部)
上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aは、ダイアフラム32の側面と上フランジ4および下フランジ5の端面との突合せ溶接によって、ダイアフラム32と上フランジ4および下フランジ5との間に形成されるものである。また、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aは、それぞれ溶接金属部10と架橋用裏波溶接部11とからなる。
そして、柱梁溶接継手1Aの接合形式が現場接合形式の場合には、上部完全溶け込み溶接部8Aは、梁部材2の外側からの下向溶接によって形成されるため、上スカラップ6側には架橋用裏波溶接部11が接合されている。また、下部完全溶け込み溶接部9Aは、後記する工場接合形式の場合のように上フランジ4が接合された柱梁溶接継手1Aを天地反転できず、梁部材2の内側からの下向溶接によって形成されるため、上部完全溶け込み溶接部8Aとは異なり下スカラップ7側には溶接金属部10が接合されている。したがって、上部完全溶け込み溶接部8Aと下部完全溶け込み溶接部9Aとは、ウエブ中央線を挟んで非対称なディテールとなる。また、架橋用裏波溶接部11は、ウエブ3に形成された上スカラップ6または下スカラップ7を貫通して上フランジ4または下フランジ5の幅方向に沿って延びる長尺に溶接された溶接部である。
なお、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aのそれぞれの強度は、建築物の強度を保証できれば特に限定されず、例えば、490MPa以上が好ましい。また、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aの強度の制御は、突合せ溶接の溶接条件を制御することによって行われる。また、ここで用いられている架橋用裏波溶接部11は、ルートギャップに架橋するように形成されるものであれば、1パスあるいは多パスにより形成されるものであっても構わない。そして、多パスにより架橋用裏波溶接部11が形成される場合には、当該架橋用裏波溶接部11に部分的あるいは全面的に重ねて柱部材31Aとは反対方向にフランジ面に沿って形成される。
(下部肉盛溶接部)
図2(a)、(d)に示すように、下部肉盛溶接部13は、下スカラップ7の下フランジ5に当接する下スカラップ底SLから柱部材側(ダイアフラム32側)、柱部材(ダイアフラム32)31Aと反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された溶接金属部13aからなるものである。なお、下部肉盛溶接部13は、単層の溶接金属部13aからなるものであってもよいが、多層の溶接金属部13aが積層されたものであることが好ましい。
図3に示すように、柱梁溶接継手1Aは、下部肉盛溶接部13を備えることによって、下スカラップ7に作用する応力が下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点で周囲に分散し、接点から鉛直下方への応力伝達が小さくなり、耐震性能が向上する。
また、下部完全溶け込み溶接部9Aの架橋用裏波溶接部11が梁部材(下フランジ5)の外側にある現場接合形式の柱梁溶接継手1Aにおいては、図示しないが、架橋用裏波溶接部11と、ダイアフラム32や下フランジ5との間への応力集中が防止され、亀裂発生が抑制される。このようにスカラップ底SLと裏当て金起因で生じる数カ所の応力集中が全て緩和される。
下部肉盛溶接部13は、ウエブ3の厚さ方向の両側、すなわち、ウエブ3側および下フランジ5側の脚長(LaおよびLd)、下スカラップ底SLから柱部材側(ダイアフラム32側)への長さ(Lc)、および、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)が、以下の範囲であることが好ましい。なお、下部肉盛溶接部13の脚長(LaおよびLd)、柱部材側への長さおよび柱部材と反対側への長さの制御は、肉盛溶接の溶接条件を制御することによって行われる。
図2(d)、図3、図4に示すように、下部肉盛溶接部13では、下部肉盛溶接部13のウエブ3側への脚長(La)は、ウエブ3の厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、下部肉盛溶接部13の下フランジ5側への脚長(Ld)がウエブ3の厚さ(Tw)以上の長さであること、すなわち、La≧TwかつLd≧Twであることが好ましい。
柱梁溶接継手1Aは、ウエブ3側の脚長(La)が所定範囲であることによって、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力に対向する破壊抵抗(剛性)が大きくなって、耐震性能がさらに向上する。また、柱梁溶接継手1Aは、下フランジ5側の脚長(Ld)が所定範囲であることによって、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力が分散されて逃げるため、下フランジ5に亀裂が発生するのを防止できる。
梁部材2では、原材料としてのロールH型鋼、ビルドH型鋼のいずれでもウエブ3と下フランジ5の交点には元々小脚長のすみ肉形状部3a(図2(d)参照)が存在する。本発明の下部肉盛溶接部13は、断面として、このすみ肉形状部3aに上盛りする形となる。下部肉盛溶接部13のうち、高さ方向、すなわちウエブ3側の脚長(La)は、ウエブ3の厚さ(Tw)未満の長さであると、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力に対抗できる剛性(破壊抵抗)が確保できない。一方、下部肉盛溶接部13のうち、横方向、すなわち下フランジ5側の脚長(Ld)は、ウエブ3の厚さ(Tw)未満の長さであると、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力を分散させて逃がす効果が小さく、下フランジ5に亀裂を容易に発生させる可能性がある。なお、ウエブ3側の脚長(La),下フランジ5側の脚長(Ld)は、どちらも上限を設ける必要性は無いが、ウエブ3側の脚長(La)と下フランジ5側の脚長(Ld)は同じ長さとするのが最も理想的である。
図2(a)、図5(a)に示すように、下部肉盛溶接部13では、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)は、下部完全溶け込み溶接部9Aの溶接金属部10の頂上部を越える長さであることが好ましい。これによって、柱梁溶接継手1Aは、溶接金属部10の余盛部10aの厚さと架橋用裏波溶接部11の厚さを応力に対向する有効厚Tとして使うことができるため、剛性が大きくなる。また、柱梁溶接継手1Aは、下部肉盛溶接部13の接触角θも小さくなるため、応力集中が緩和される。その結果、柱梁溶接継手1Aは、耐震性能がさらに向上する。
柱部材側への長さ(Lc)が、溶接金属部10の頂上部に届かない、すなわち、下スカラップ底SLから溶接金属部10の頂上部までの距離未満であると、下部肉盛溶接部13の接触角θが大きくなり、かつ、溶接金属部10の余盛部10aの厚さを有効厚Tとして最大限に利用することができない。その結果、下部肉盛溶接部13と下部完全溶け込み溶接部9Aあるいは下フランジ5との接点で応力集中が高くなり、また、有効厚Tの肉厚不足によって剛性が不足して、応力によって破断が発生しやすくなり、十分な耐震性能の向上効果が得られない。
下部肉盛溶接部13は、その柱部材側への長さ(Lc)が溶接金属部10を越えてさらに延長され、ダイアフラム32に達した場合でも、溶接金属部10の余盛部10aや架橋用裏波溶接部11は有効厚Tとして作用しないが、一般的に梁フランジの厚さよりも大きいダイアフラム32の厚さが有効厚Tとして作用し、かつ、接触角θもさらに小さくなるため、応力集中が緩和され、耐震性能の向上効果は高くなる。柱部材側への長さ(Lc)をさらに延長すると最終的には柱部材31Aの鋼管33(図1(b)参照)の側面に達するが、耐震性能としての短所は生じない。
図2(a)、図6に示すように、下部肉盛溶接部13は、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)が、ウエブ3の厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることが好ましい(Lb≧3×Tw)。これによって、柱梁溶接継手1Aは、下部肉盛溶接部13と下スカラップ7との接点からの応力ベクトルが、下部肉盛溶接部13(ウエブ3)の長さ方向に向かって作用し、進む間にエネルギーが十分吸収されて減衰し、ウエブ3や下フランジ5の破断を防止できるため、結果として大きな耐震性能向上効果が得られる。
柱部材31Aと反対側への長さ(Lb)が、ウエブ3の厚さ(Tw)の3倍未満(Lb<3×Tw)であると、下部肉盛溶接部13と下スカラップ7の接点からの応力ベクトルの一部は減衰せずに下部肉盛溶接部13の止端部に沿って鉛直下方に回り込むように作用し、ウエブ3や下フランジ5を破断が発生しやすくなる。したがって、耐震性能の改善効果は小さい。柱部材と反対側への長さ(Lb)は、大きいほど効果が高く、Lb≧5×Twであれば、さらに耐震性能は向上する。柱部材と反対側への長さ(Lb)はさらに長くても良いが、施工労力と費用がかかること、耐震性能の向上効果の上がり方が飽和することから、実用的では無くなる。柱部材と反対側への長さ(Lb)は、3×Tw≦Lb≦10×Twで十分である。
<柱梁溶接継手(工場接合形式)>
図7(a)、(b)に示すように、第2の実施形態の柱梁溶接継手1Bは、柱部材31Aと、梁部材2と、上スカラップ6と、下スカラップ7と、上部完全溶け込み溶接部8Aと、下部完全溶け込み溶接部9Bと、下部肉盛溶接部13と、を備える。
なお、柱部材31A、梁部材2、上スカラップ6および下スカラップ7は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1A(図1(a)、(b)参照)の場合と同様である。
(上部完全溶け込み溶接部、下部完全溶け込み溶接部)
上部完全溶け込み溶接部8Aと、下部完全溶け込み溶接部9Bとは、ダイアフラム32の側面と上フランジ4および下フランジ5の端面との突合せ溶接によって形成され、ウエブ中央線を挟んで上下対称的なディテール(図7(b)、(c)参照)となること以外は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aの場合と同様である。具体的には、上部完全溶け込み溶接部8Aは、梁部材2の外側からの下向溶接によって形成されるため、上スカラップ6側には架橋用裏波溶接部11が形成されている。また、下部完全溶け込み溶接部9Bは、工場接合形式の場合には上フランジ4が接合された柱梁溶接継手1Bを天地反転でき、梁部材2の外側からの下向溶接によって形成されるため、上部完全溶け込み溶接部8Aと同様に下スカラップ7側には架橋用裏波溶接部11が形成されている。
(下部肉盛溶接部)
図2(b)、(d)に示すように、下部肉盛溶接部13は、下スカラップ底SLから柱部材側(ダイアフラム32側)、柱部材(ダイアフラム32)と反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接によって形成され、柱部材側への長さ(Lc)の好ましい範囲が異なること以外は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aの場合と同様である。
図2(b)、図5(b)に示すように、下部肉盛溶接部13では、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)が、架橋用裏波溶接部11を越えてさらに柱部材31Aのダイアフラム32端面を越える長さであることが好ましい。これによって、柱梁溶接継手1Bは、溶接金属部10の余盛部10aの厚さと架橋用裏波溶接部11の厚さ、あるいは梁フランジよりも一般的に厚いダイアフラム厚を応力に対向する有効厚Tとして使うことができるため、剛性が大きくなる。また、柱梁溶接継手1Bは、下部肉盛溶接部13の接触角θも小さくなるため、応力集中が緩和される。その結果、柱梁溶接継手1Bは、耐震性能がさらに向上する。
柱部材側への長さ(Lc)が、架橋用裏波溶接部11を越えてダイアフラムに届かない、すなわち、下スカラップ底SLからダイアフラム32の端部を越えない距離未満であると、溶接金属部10の余盛部10aの厚さの有効厚Tとしての効果を最大限得ることができない。架橋用裏波溶接部11上に肉盛溶接端部が留まる長さでは、ダイアフラム32端面との間に狭隘部が生じ、かえって破壊しやすくなる。そのため、架橋用裏波溶接部11上に下部肉盛溶接部13を施す場合は、完全に架橋用裏波溶接部11を超えて、ダイアフラム32に達して越えることがよい。したがって、余盛部10aの厚さを最大限活用するには、間接的管理として、ダイアフラム32を越えていることを目安にできる。また、ダイアフラム32を越えていなければ、下部肉盛溶接部13の接触角θが大きいので、下部肉盛溶接部13と架橋用裏波溶接部11あるいは下フランジ5との接点で高い応力集中と、有効厚Tの肉厚不足による剛性不足により、応力によって破断しやすく、十分な耐震性能向上効果が得られない。
下部肉盛溶接部13は、ダイアフラム32を越えてさらに延長した場合でも、架橋用裏波溶接部11や溶接金属部10の余盛部10aは有効厚Tとして作用しないが、一般的に梁フランジ厚さよりも大きいダイアフラム32の厚さが有効厚Tとして作用し、かつ、さらに接触角θが小さくなるので、応力集中が緩和されて、耐震性能向上効果が高くなる。また、下部肉盛溶接部13は、さらに延長すると最終的には柱部材31Aの鋼管33(図7(b)参照)の側面に達するが耐震性能として短所は生じない。
図1(c)、図2(c)、(e)に示すように、現場接合形式の柱梁溶接継手1Aは、ウエブ3の上フランジ4側に上部肉盛溶接部12をさらに備えることが好ましい。同様に、図2(c)、(e)、図7(c)に示すように、工場接合形式の柱梁溶接継手1Bにおいても、ウエブ3の上フランジ4側に上部肉盛溶接部12をさらに備えることが好ましい。
(上部肉盛溶接部)
上部肉盛溶接部12は、上スカラップ6の上フランジ4に当接する上スカラップ底SUから柱部材31A(ダイアフラム32)側、柱部材31A(ダイアフラム32)と反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された溶接金属部12aからなるものである。なお、上部肉盛溶接部12は、単層の溶接金属部12aからなるものであってもよいが、多層の溶接金属部12aを積層したものであることが好ましい。
また、図2(c)、(e)に示すように、上部肉盛溶接部12は、下部肉盛溶接部13と同様に(図2(b)参照)、ウエブ3の厚さ方向の両側、すなわち、ウエブ3側および上フランジ4側への脚長(LaおよびLd)がウエブ3の厚さ(Tw)以上の長さ、La≧TwかつLd≧Twであって、上スカラップ底SUから柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)が、柱部材のダイアフラム32端面を越える長さであって、かつ、上スカラップ底SUから柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)がウエブ3の厚さ(Tw)の3倍以上の長さ、Lb≧3×Twであることが好ましい。
現場接合形式の柱梁溶接継手1Aおよび工場接合形式の柱梁溶接継手1Bにおいては、上部肉盛溶接部12を備えることによって、上スカラップ6にかかる応力に対する抵抗力が増加し、耐震性能がさらに向上する。具体的には、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12が所定形状を有することにより、上スカラップ6に作用する応力が上スカラップ6と上部肉盛溶接部12との接点で周囲に分散し、接点から鉛直上方への応力伝達が小さくなり、耐震性能が向上する。
また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12のウエブ3側への脚長(La)が所定範囲であることによって、上スカラップ6と上部肉盛溶接部12との接点から鉛直上方に作用する応力に対抗する破壊抵抗(剛性)が大きくなって、耐震性能が向上する。また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の上フランジ4側への脚長(Ld)が所定範囲であることによって、上スカラップ6と上部肉盛溶接部12との接点から鉛直上方に作用する応力が分散されて逃げるため、上フランジ4に亀裂が発生するのを防止できる。
また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の柱部材側への長さ(Lc)が所定範囲であることによって、溶接金属部10の余盛部10aの厚さと架橋用裏波溶接部11の厚さを応力に対抗する有効厚として使うことができるため、剛性が高くなる。また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の接触角も小さくなるため、応力集中が緩和される。その結果、柱梁溶接継手1A、1Bは、耐震性能がさらに向上する。
また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の柱部材と反対側への長さ(Lb)が所定範囲であることによって、上部肉盛溶接部12と上スカラップ6との接点からの応力ベクトルが上部肉盛溶接部12の長さ方向に向って作用し、進む間にエネルギーが十分吸収されて減衰し、ウエブ3や上フランジ4の破断を防止できるため、結果として大きな耐震性能向上効果が得られる。
<柱梁溶接継手の他の実施形態>
次に、本発明に係る柱梁溶接継手の他の実施形態について、説明する。
図8(a)、(b)に示すように、第3の実施形態の柱梁溶接継手1C(現場接合形式)は、柱部材31Aと、梁部材2と、下スカラップ7と、上部完全溶け込み溶接部8Bと、下部完全溶け込み溶接部9Aと、下部肉盛溶接部13と、を備える。
柱梁溶接継手1Cは、その柱部材31A、下スカラップ7および下部肉盛溶接部13は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1A(図1(a)、(b)参照)と同様であるが、梁部材2および上部完全溶け込み溶接部8Bは、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aと異なる。
(梁部材)
梁部材2は、前記柱梁溶接継手1Aと同様に、ウエブ3とそのウエブ3の上端部側および下端部側に設けられた上フランジ4および下フランジ5とでH型の断面が形成されたH型鋼である。しかしながら、梁部材2のウエブ3は、前記柱梁溶接継手1Aとは異なり、下端部の柱部材31A(ダイアフラム32)側の一部には切り欠きによって下スカラップ7が形成されているが、上端部側にはスカラップが形成されていないものである。
(上部完全溶け込み溶接部)
上部完全溶け込み溶接部8Bは、前記柱梁溶接継手1Aと同様に、柱部材31Aの側面と梁部材2(上フランジ4)の端面との突き合わせ溶接によって形成されたものである。しかしながら、柱梁溶接継手1Cは、ウエブ3の上端部側にスカラップが形成されていないため、いわゆるノンスカラップ工法で上部完全溶け込み溶接部8Bが形成される。したがって、上部完全溶け込み溶接部8Bは、前記柱梁溶接継手1Aの上部完全溶け込み溶接部8Aと異なり、溶接金属部10と、その溶接金属部10の底部にウエブ3の上端部を挟むように接合された2つの架橋用裏波溶接部11とからなる。そして、柱梁溶接継手1Cの2つの架橋用裏波溶接部11は、上フランジ4の幅方向に沿って延びるように溶接された部分からなり、前記柱梁溶接継手1Aの上スカラップ6を貫通して上フランジ4の幅方向に沿って延びる長尺の溶接部からなる架橋用裏波溶接部11と長さが異なる。
柱梁溶接継手1Cは、ウエブ3の上端部に応力集中箇所となりやすいスカラップが形成されていないため、上フランジ4側全体に分散作用する地震応力に対してエネルギーを弾性変形、さらに大きな場合は塑性変形として吸収することが出来て、壊れにくくすることができる。また、柱梁溶接継手1Cは、下フランジ5側には下部肉盛溶接部13を備えるため、下フランジ5側の応力集中を周囲に分散させると共に、応力集中箇所の剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。その結果、柱梁溶接継手1Cは、耐震性能がさらに向上する。
図1、図7、図8に示すように、本発明に係る現場接合形式の柱梁溶接継手1A、工場接合形式の柱梁溶接継手1B、ノンスカラップ工法で上フランジ4の溶接接合した柱梁溶接継手1Cは、ウエブ3のスカラップが形成されていない端面を、柱部材31Aの鋼管33の側面にすみ肉溶接等で接合することが好ましい。なお、すみ肉溶接等の代わりにアタッチメントを取付け、ボルトで締結することもできる。また、柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9A、9Bにおいて、上フランジ4および下フランジ5の幅方向の両側にエンドタブ14を設けることが好ましい。
本発明に係る柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、図9、図10に示すように、鋼管33内にダイアフラム32に設けた内ダイアフラム構造(柱貫通方式とも呼ばれる)の柱部材31B、または、H型鋼からなる柱部材31Cを用いてもよい。この場合、梁部材2は、ダイアフラム32ではなく、鋼管33の側面またはH型鋼側面に直接溶接接合される。なお、H型鋼である柱部材31Cには、ここでは、スティフナが上フランジ4及び下フランジ5とほぼ同じ高さ位置に設けられた構成としている(図10参照)。
本発明に係る柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、既存建築物に使用されている柱梁溶接継手、例えば、図32、図33の柱梁溶接継手100A、柱梁溶接継手100Bの下フランジ5(下スカラップ7)、または、上フランジ4(上スカラップ6)と下フランジ5(下スカラップ7)の両フランジ(両スカラップ)に、肉盛溶接によって肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、または、上部肉盛溶接部12と下部肉盛溶接部13)を設けることで作製できる。したがって、本発明の柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、既存建築物から容易で安価な補修で作製できる。
次に、図11〜図13に示すように、溶接金属部10は、架橋用裏波溶接部11に裏肉盛部111を備える構成とすることでさらに耐震強度を向上することができる。なお、既に説明した構成は同じ符号を付して説明を省略する。また、図12及び図13では、溶接金属部10を溶接する一方を鋼板Aとし、他方を鋼板Bとして説明する。なお、図11のX−X線断面は、図2(d)、(e)と同様な構成となる。
図11(a)〜(c)に示すように、架橋用裏波溶接部11は、ルートギャップに形成される溶融池の表面張力によって重力に抵抗し、ビードを形成する溶接法であり、被覆アーク溶接棒、ティグ溶接法、ガスシールドアーク溶接法等によって、過大な溶融池を作らないように低い電流条件で施工される一般的に普及した溶接法により形成される。そして、柱梁溶接継手1A,1B,1Cにおいて、裏当て金の代わりに、架橋用裏波溶接部11の構成のみより、更に有効な構成として、単なるルートギャップを架橋するための裏波溶接に留まらず、それに部分的あるいは全面的に重なるように裏肉盛溶接を施して裏肉盛部111を備えることより耐震性向上に効果が高いことを見いだした。
一般的な架橋目的の架橋用裏波溶接部では開先形状の上下非対称性があり、裏側ビード全体が応力集中箇所になっている。これは、図12(a)に示すように、振幅応力fの動作点から見て、表側溶接止端部F1にかかるモーメントF1すなわち[力×距離]は、裏側溶接止端部B1にかかるモーメントB1よりも距離が長いことから大きくなり、伝達バランスが上下均等ではなく、裏側に大きく作用することになる。また、応力伝達も表側がF1からF2にかけて経路が広がっているために緩やかであるのに対し、裏側はB1からB2にほとんど経路として広がらずに鋼板Aに達する。これらの上下非対称形状的因子から、裏側溶接部に応力が集中し、早くに亀裂が発生しやすい個所といえる。
そこで、架橋用裏波溶接部11に裏肉盛部111を設けることで、振幅応力fの動作点から見て、表側溶接止端部F1にかかるモーメントF1と、裏側溶接止端部B1にかかるモーメントB1とが振幅応力fの動作点側からの距離が近づくことになる。そのため、応力伝達バランスがフランジで上下均等に近づき、裏側への作用が実質的に小さくなる(図12(d)参照)。溶接金属部10は、前記した作用によって耐震性は大きく改善する。なお、溶接金属部10は、ルートギャップ架橋後1パス以上の水平方向への積層が必要であるが、裏側溶接止端部B1の理想的上限として、図12(d)に示すように、振幅応力fの動作点から表側溶接止端部F1と同一距離である。
また、裏肉盛部111は、鋼板B(梁フランジ)上下の突合せ溶接金属止端部への応力集中差を小さくするだけでなく、母材−溶接金属境界線の形状改善による、亀裂発生後の伝播抵抗を増加させることができる。これによって溶接止端部からの亀裂発生後に、その亀裂進展速度を低下させ、破断に至る時間を遅らせることができる。
なお、裏肉盛部111は、以下の構成とすることが更に耐震性向上に効果を高めることができる。すなわち、裏肉盛部111は、表側溶接止端部F1または裏側溶接止端部B1から亀裂が生じた場合に、その亀裂が進む方向は溶接金属−母材境界(図12(b)のB1→F1参照)、いわゆるボンド部や熱影響部(HAZ)であることが多い。これは、この裏肉盛部111の部位が溶接時に最も急冷を受ける事で硬くて脆い性質へ組織変化する性質があるためであり、相対的に鋼板の非熱影響部や溶接金属よりも亀裂抵抗が小さいことから、大きい速度で伝播する。そして溶接金属部10とフランジ端部との境界では、亀裂の方向が一直線であるとそれは顕著となる。しかし、亀裂方向が途中で大きく迂回すれば、亀裂はそれに追従することができず、溶接金属内部を進行することになる。この溶接金属部10の内部は、ボンド部や熱影響部よりも相対的に高靭性であり、亀裂伝播抵抗が高いことから、亀裂の進行速度が遅くなり、破断に至る時間は長くなる。
したがって、この亀裂の進行速度を遅くするメカニズムを実現する手段が、鋼板裏側への肉盛溶接となる。亀裂進行方向が溶接金属−母材境界線に追従しないようにするためには、境界線を途中で急峻に曲げればよい。すなわち、開先内充填溶接と裏波に付随する裏肉盛部111でそれぞれ形成される溶込み形状の違いを利用して、具体的には図13(a)に示すように、溶接金属部10と母材(フランジ端部)との境界面と、裏肉盛部111と母材(フランジ端部)との境界面における交差角度が135度以下になるように制御すれば、発生亀裂は境界線に追従できなくなる。
例えば、図13(b)に示すように、表側溶接止端部F1から亀裂発生した場合は、途中で境界部から溶接金属を通り、進展速度が小さくされた後、貫通に至る。図13(c)に示すように、逆に、裏側溶接止端部B1から亀裂発生した場合は、同じく境界部から溶接金属、さらには母材原質部を通り、進展速度が小さくされた後、貫通に至る。なお、図13(d)に示すように、境界面の角度が135度を越えた場合には、亀裂はその方向に追従する。
ここでは、溶接金属部10及び裏肉盛部111と、フランジ端部との境界面を135度以下とするために、鋼板B側裏側水平方向に、架橋用裏波溶接部11を形成した後に、1パス以上フランジ面に沿って水平に裏肉盛溶接を行うことが必要となってくる。架橋用裏波溶接部11だけでは交差面の角度が135度を越えないように制御することは困難である。なお、架橋後の最終パスの溶接条件から算出される入熱(電流×電圧×60/溶接速度、単位J/cm)も、過大であれば交差角度135度を超える場合も生じるため、開先角度などを勘案して入熱抑制することで、交差角度135度を越えないように満足させるようにする必要がある。
また、図13(b)に示すように、亀裂進行の場合はB2点が下側にあるほど、F1からの距離が長くなり、剛性が増して破断亀裂時間の長時間化に有効であることが明らかである。したがって、架橋用裏波溶接部11は裏肉盛部111の肉厚が大きいほど良く、架橋用裏波溶接部11の溶接後に鋼板A側の下側端面に沿っても肉盛施工すればより性能改善は顕著となる。
なお、図13(e)に示すように、裏側溶接止端部B1から表側溶接止端部F1方向に向けて亀裂が発生することがある。このタイプの場合、裏側溶接止端部B1がダイアフラム32(鋼板A)に近ければ、図12(b)で示したごとく、亀裂進展が溶接金属−母材境界線と合致し、脆性的金属特性領域のため、進展速度が非常に速い。しかし、図13(e)に示すように、裏肉盛部111を、鋼板B側の裏側水平方向に架橋必要パスにより形成した後、架橋後1パス以上溶接することにより、高靭性な母材原質部を貫通することにより、その亀裂進展速度を遅くすることができる。
以上説明したごとく、溶接金属部10は、裏肉盛部111を備えること、さらには形成される母材であるフランジ端部と溶接金属部10の境界面(境界線)が、135度以下の角度で交差するように選定した入熱溶接条件や肉盛長さを選定することを満足すれば、マクロ形状的応力集中改善効果と亀裂発生後の伝播抵抗増加による寿命長時間化の効果を得ることが可能となる。なお、溶込み交差角度として110度以下、さらには90度以下に制御すれば、より耐震性、耐疲労特性は向上するので好ましい。
以上説明したように、裏肉盛部111を形成した溶接金属部10を備える柱梁溶接継手1A、1B、1Cでは、現場溶接において、(1)上フランジ・スカラップ接点近傍への肉盛、(2)上フランジ突合せ溶接部の裏波溶接部に重なる肉盛、(3)下フランジ突合せ溶接部の裏波溶接部に重なる肉盛が、溶接姿勢として上向で形成される。裏波溶接は開先内から下向溶接とすることも可能であるが、上向で施工する方がむしろその後に行う上向肉盛溶接への姿勢変更に手間がないので、効率的である。これらの裏波や肉盛溶接は、従来の被覆アーク溶接棒、ティグ溶接法、ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤを用いた逆極性ガスシールドアーク溶接法でも実施することができる。しかし、能率面およびビード形状が好適とは言えず、上向姿勢で溶接金属が垂れづらく、平坦な形状を呈することで、本施工に好適な溶接法、溶接材料を開発、組み合わせることでより実用的となる。そのため、ここでは、溶接方法として、正極性のフラックス入りワイヤを使用し、ソリッドワイヤでは添加できないフッ化物を適量加えることで、溶融池の表面張力を極めて高くすることによって、裏肉盛部111の形状特性を達成させている。
また、図14(a)、(b)に示すように、柱梁溶接継手1D、1Eのように、下フランジ5に架橋用裏波溶接部11を設けていれば、上フランジ4側に裏当て金USを設ける構成としても構わない。
すなわち、図14(a)に示すように、柱梁溶接継手1Dは、上フランジ4には裏当て金USを介して溶接金属部10が形成され、上部完全溶け込み溶接部8Cを備えている。そして、柱梁溶接継手1Dは、下フランジ5側では、既に説明した下部完全溶け込み溶接部9Aを備えている。
また、図14(b)に示すように、柱梁溶接継手1Eは、上フランジ4側では、ノンスカラップであり、裏当て金USをウエブ3の両側に介して溶接金属部10が形成され、上部完全溶け込み溶接部8Cを備えている。そして、柱梁溶接継手1Eは、下フランジ5側では、既に説明した下部完全溶け込み溶接部9Aを備えている。
このように、柱梁溶接継手1D,1Eにおいて、上フランジ4側に裏当て金USを設ける構成であっても、下フランジ5側に架橋用裏波溶接部11を介して溶接金属部10が形成され、さらに、下部肉盛溶接部13が形成されることで、従来の構成のものよりも耐震性能を向上させることが可能となる。
<柱梁溶接継手の製造方法>
次に、本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法について、図15及び図16を用いて詳細に説明する。なお、柱梁溶接継手の構成については、図1、図7、図8、図9、図10を参照する。また、架橋用裏波溶接部11及び裏肉盛部111の構成については図16(a)〜(e)を参照して説明する。図17(a)〜(e)において、上フランジ4及び下フランジ5を総称して鋼板Bとし、また、柱部材31Aのダイアフラム32,31Bの鋼管33,31Cを鋼板Aとして説明している。
図15に示すように、本発明の柱梁溶接継手の第1の製造方法は、梁端部突合せ溶接工程S1と、肉盛溶接工程S2とを含み、前記工程S1、S2を行うことによって、図1、図7、図8、図9、図10に示す耐震性能に優れた柱梁溶接継手1A、1B、1Cを製造することができる。なお、ここでは、溶接金属部10は、架橋用裏波溶接部11に裏肉盛部111が設けられた構成として説明する。以下、各工程について説明する。
(梁端部突合せ溶接工程)
梁端部突合せ溶接工程S1は、柱部材31A、31B、31Cの側面に、梁部材2の上フランジ4の端面および梁部材2の下フランジ5の端面を突合せ溶接して、上部完全溶け込み溶接部8A、8Bおよび下部完全溶け込み溶接部9A、9Bを形成する工程である。
梁端部突合せ溶接工程S1において、現場接合形式では、梁部材2の上フランジ4側は、梁部材2の外側からスカラップ工法で下向溶接することによって上部完全溶け込み溶接部8Aを形成する。また、梁部材2の下フランジ5側は、梁部材2の内側からスカラップ工法で下向溶接することで下部完全溶け込み溶接部9Aが形成される。上部完全溶け込み溶接部8Aと下部溶け込み溶接部9Aとは、架橋用裏波溶接部11の配置が梁部材中央線を挟んで上下非対称なディテールとなる(図1(b)参照)。なお、梁部材2の上フランジ4側は、ノンスカラップ工法で下向溶接することで上部完全溶け込み溶接部8Bを形成してもよい(図8(b)参照)。
梁端部突合せ溶接工程S1において、工場接合形式では、梁部材2の上フランジ4側は、梁部材2の外側からスカラップ工法で下向溶接することによって上部完全溶け込み溶接部8Aを形成する。また、梁部材2の下フランジ5側は、溶接接合前の柱梁溶接継手1Bを天地反転(図23参照)して、梁部材2の外側からスカラップ工法で下向溶接することで下部完全溶け込み溶接部9Bが形成される。上部完全溶け込み溶接部8Aと下部完全溶け込み溶接部9Bとは、架橋用裏波溶接部11の配置が梁部材中央線を挟んで上下対称なディテールとなる(図7(b)参照)。
架橋用裏波溶接部11及び裏肉盛溶接工程により裏肉盛部111を形成する場合、図17(a)〜(e)に示すように、行うことができる。
すなわち、図17(a)に示すように、この例では、1パス目A1でルートギャップを架橋し、2パス目A2として、架橋用裏波溶接部11の一部に重なるように鋼板B側の裏側水平方向に肉盛して積層する。これにより鋼板B側の裏側水平方向に架橋必要パスを行った後に、架橋後1パス以上の溶接を行い、架橋用裏波溶接部11及び裏肉盛部111を実現したことになる。なお、この図17(a)では、全て上向で施工しているイメージとなっているが、仮想線で示すように、1パス目A1を開先開口側から下向で架橋用裏波溶接し、2パス目A2を上向で施工しても良い。また、図17(b)に示すように、工場接合形式の下フランジのように開先開口部が下側に位置する際には、全てトーチ下向姿勢として施工することもできる。
さらに、図17(c)に示すように、この例では、1パス目A1でルートギャップを架橋して架橋用裏波溶接部11を形成し、2パス目A2で広いウィービング溶接を行うことで、鋼板B側の裏側水平方向に架橋必要パスを行った後に架橋後1パス以上で肉盛を施して裏肉盛部111を形成している。2パス目A2は1パス目A1で形成した架橋用裏波溶接部11に対して部分的ではなく、全面的に被っているが、鋼板B側方向に肉盛していることには変わりがないので、有効である。
また、図17(d)に示すように、ルートギャップが広すぎて1パスで架橋できない場合は次のようになる。この例は、ルートギャップの鋼板A側に1パス目A1として肉盛溶接を行い、ルートギャップを狭める。次に2パス目A2としてその肉盛溶接端面と鋼板B側の裏側端面間をさらに溶接にて架橋する。さらに、3パス目A3として、鋼板B側の裏側水平方向に積層することで架橋用裏波溶接部11及び裏肉盛部111を形成している。そして、図17(e)に示すように、4パス目A4として、先に形成した裏肉盛部111にさらに肉盛り溶接して鋼板B側の裏側水平方向に、架橋必要パスを行った後に、架橋後1パス以上をして裏肉盛部111を形成している。つまり、裏肉盛部111は、架橋用裏波溶接部11の一部に1パス積層し、さらに2パス積層して肉盛した例である。
架橋用裏波溶接部11及び裏肉盛部111を溶接する場合の溶接方法としては、正極性(ワイヤ(−)&母材(+))で配電された炭酸ガスシールドアーク溶接法が使用されることが好ましい。さらに、その溶接材料は、フラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを、ワイヤ外周の鋼部分を合わせた全ワイヤ重量換算で合計0.5〜10質量%含有するフラックス入りワイヤを使用することが好ましい。最も普及しているフラックス入りワイヤは、逆極性用であり、かつアーク安定性が劣化するためフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを含有しない。一方、ここで用いられる溶接方法として、上向溶接用には正極性で配電され、内包されるフラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを含有するものが望ましい。
正極性とフッ化物を組み合わせると、上向姿勢でもより溶融池が垂れにくくなり、止端部の馴染み性が改善して応力集中を緩和させることができる。また、溶接時におけるアークの安定性も改善する。かつ溶込みが浅くなり、上向最終パスによって制御する[溶込み交差角度135度以下]を容易に得ることができる。フラックスに含有させるフッ化物としてはフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムが最も好適である。外周の鋼部分も合わせた全ワイヤ重量換算で0.5質量%未満ではアークが不安定となり、溶接が困難となる。一方、10%を超えるとスパッタが多く発生し、上向溶接時に溶接者に降り注ぐので、やはり溶接が困難となる。したがって、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムは外周の鋼部分も合わせた全ワイヤ重量換算で合計0.5〜10質量%とする。
さらに、溶接方法において、フラックス入りワイヤは炭酸ガスシールドと組合せされたガスシールドアーク溶接法であることがより好ましい。正極性で配電されフッ化物のフラックス入りワイヤは、さらにアルミニウムなどを適量添加するとシールドガスが不要で溶接が可能となる。しかし、ノンガス溶接(セルフシールドアーク溶接とも呼ばれる)では溶接金属中に大気から窒素が混入し、靭性が低くなって、肉盛溶接金属内に亀裂が発生した際にその伝播速度が高まってしまう可能性がある。そこで、炭酸ガスをシールドガスとして用いることで、窒素の混入を防ぎ、高靭性な溶接金属を得ることで、亀裂伝播速度を遅くすることができる。なお、フラックス入りワイヤについては、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムの他に、溶接金属調質のための脱酸材、あるいはアーク安定剤としてとしてC,Si,Mn,Mg,Ti,Al,Zr,P,S,K,Na,Caなどを単体元素あるいは化合物としてさらに添加して適用することができる。
また、架橋用裏波溶接部11及び裏肉盛部111の溶接の次工程となる、開先内充填突合せ溶接において、溶接方法については、特に限定されず、ソリッドワイヤあるいはフラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接法、被覆アーク溶接法、ティグ溶接法、セルフシールドアーク溶接法等が適用可能である。また、溶接材料についても、柱梁溶接継手1A、1B、1C(特に梁部材2)の強度として所定値以上(例えば、490MPa以上)を保障できれば特に限定されず、従来公知の溶接材料を用いる。さらに、溶接条件についても、前記強度が保障できるように、入熱、最大パス間温度等を制御して行う。
梁端部突合せ溶接工程S1では、柱部材31A、31B、31Cの側面に上下フランジ4、5の端面を突合せ溶接すると共に、ウエブ3のスカラップが形成されていない端面を、柱部材31A、31B、31Cの側面にすみ肉溶接等で接合することが好ましい。また、すみ肉溶接等の代わりにアタッチメントを取付け、ボルトで締結することもできる。なお、すみ肉溶接の溶接方法、溶接材料、溶接条件等は、前記突合せ溶接と同様である。
(肉盛溶接工程)
肉盛溶接工程S2は、梁端部突合せ溶接工程S1の終了後、下フランジ5側、または、上フランジ4側と下フランジ5側の両側に肉盛溶接を行って、下部肉盛溶接部13、または、上部肉盛溶接部12と下部肉盛溶接部13の両肉盛溶接部を形成する工程である。
肉盛溶接において、溶接方法については、特に限定されず、ソリッドワイヤあるいはフラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接法、被覆アーク溶接法、ティグ溶接法、セルフシールドアーク溶接法等が適用可能である。
溶接条件については、下部肉盛溶接部13、または、上部肉盛溶接部12と下部肉盛溶接部13の両肉盛溶接部が、図2(a)、(c)、(d)に示すように、スカラップ底(下スカラップ底SL、上スカラップ底SU)から柱部材(ダイアフラム32)側、柱部材(ダイアフラム32)と反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に形成されるように、入熱、最大パス間温度等を制御して行う。
肉盛溶接は、肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、上部肉盛溶接部12)の柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)、柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)、ウエブ3側およびフランジ(下フランジ5、上フランジ4)側への脚長(La、Ld)が、所定範囲となるように、入熱、最大パス間温度等を制御して行うことが好ましい。また、肉盛溶接は、多パス積層で行うことがさらに好ましい。
上部肉盛溶接部12及び下部肉盛溶接部13を形成する肉盛溶接は、図18(a)〜(h)に示すような積層要領で行うことが好ましい。図18(a)に示すように、ウエブ3の下スカラップ底から柱部材31A側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図18(b)に示すように、下スカラップ底からウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図18(c)に示すように、下スカラップ底から柱部材31Aと反対側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図18(d)に示すように、下スカラップ底から柱部材31A側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図18(e)に示すように、下スカラップ底からウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図18(f)に示すように、下スカラップ底から柱部材31Aと反対側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図18(g)に示すように、下スカラップ底から柱部材31A側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図18(h)に示すように、下スカラップ底からウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成し、下フランジ5側に積層した下部肉盛溶接部13を形成する。なお、図18(a)〜(h)は、積層要領の一例を示すもので、本発明の積層要領は図18(a)〜(h)に限定されない。また、上部肉盛溶接部12の積層要領は、前記した下部肉盛溶接部13と同様である。
溶接材料については、特に限定されないが、梁部材2と同等以上の強度を有するものを用いることが好ましい。例えば、梁部材2(H型鋼)が490MPa級であれば、溶接材料も490MPa級以上、H型鋼が590MPa級であれば、溶接材料も590MPa級以上という具合である。その理由としては、肉盛溶接によって応力に対する剛性を高める目的があるが、肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、上部肉盛溶接部12)、架橋用裏波溶接部11、裏肉盛溶接部111(裏肉盛溶接工程により形成)の溶接金属部13a、12aが低強度では剛性を高める効果が小さくなるからである。材質面も同じであり、梁部材2として耐火鋼を用いれば、溶接材料も耐火鋼用溶接材料を、梁部材2としてステンレス鋼を用いれば、溶接材料も同等成分系のステンレス鋼用溶接材料を用いるのが好ましい。
以上の通り、溶接材料としては、一般的にはH型鋼と同等以上の材料を適用するのが普通であるが、さらに耐震性能向上あるいは風などによる長周期疲労亀裂への耐性を高めるために、特殊な溶接材料を積極的に用いることもできる。鋼のマルテンサイト変態による体積膨張効果を積極的に利用して、溶接部の引張残留応力を低減、あるいはさらに圧縮方向に変えることで、これらの性能を向上させる機能性溶接材料が開発されており、これを肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、上部肉盛溶接部12)、架橋用裏波溶接部11、裏肉盛溶接部111(裏肉盛溶接工程により形成)に適用すればより高い耐震性能向上、耐疲労性向上が見込まれる。具体的には、溶接材料として、C≧0.15質量%、Mn≧3.0質量%、Ni≧3.0質量%、Cr≧3.0質量%の一つ以上を有する溶接材料を用いれば、溶接金属部13a、12aのマルテンサイト変態開始温度Ms点が500℃以下となり、引張残留応力の低減効果が起きる。
現場接合形式で溶接接合した肉盛溶接前の柱梁溶接継手に肉盛溶接を行う場合には、肉盛溶接前の柱梁溶接継手を天地反転することができないため、上フランジ4側への肉盛溶接は上向溶接となって肉盛溶接の難易度が高まるが、全姿勢溶接に適した溶接材料を用いることで難易度は低下する。
図16に示すように、本発明に係る柱梁溶接継手の第2の製造方法は、準備工程S11と、肉盛溶接工程S12とを含み、前記工程S11、S12を行うことによって、既存建築物から容易かつ安価な補修で耐震性能に優れた柱梁溶接継手1A、1B、1Cを製造することができる。以下、各工程について説明する。
(準備工程)
準備工程S11は、建築済みの建築物、または、建築中の建築物、すなわち、既存建築物から下部完全溶け込み溶接部9A、9B、または、上部完全溶け込み溶接部8A、8Bと下部完全溶け込み溶接部9A、9Bを露出させる工程である。ここで、露出させるとは、建築済みの建築物にあっては、補修箇所の建築物の外壁等の一部を開口して、建築物(柱梁溶接継手)の完全溶け込み溶接部を露出させることを意味し、また、建築中の建築物にあっては、建築物(柱梁溶接継手)の中から補修すべき完全溶け込み溶接部を特定することを意味する。なお、ここで対象となるのは裏当て金を用いず裏波溶接法が適用された溶接箇所である。
(肉盛溶接工程)
肉盛溶接工程S12は、第1の製造方法の肉盛溶接工程S2と同様である。
このようにして既存建築物の柱部材及び梁部材に柱梁溶接継手1A,1B,1Cを設けることで、(1)形状的作用によって、スカラップ底に作用する応力集中を周囲に分散させる。(2)スカラップ底はウエブ厚TWと同じ以上のすみ肉脚長の肉厚を増すことで、上下曲げ応力に対して剛性を高めて破壊抵抗を大きくする。(3)肉盛の柱側への延長は、現場接合形式では梁端溶接部の頂上より柱部材側とし、また、工場接合形式では架橋用裏波溶接部11を超えてダイアフラム端面よりも柱側へ延長長さを伸ばすことによって、接触角を小さくして応力集中を緩和するだけでなく、梁端溶接部の余盛および裏波を利用して、応力集中箇所の剛性を高めて破壊抵抗を大きくする、二つの効果がある。
なお、工場接合形式における全て、あるいは現場接合形式において溶接金属部10を超えてダイアフラム上に肉盛溶接が延長された場合は、溶接金属部10の余盛りや、架橋用裏波溶接部11の厚みが有効厚とはならないが、代わりに一般的にフランジよりも厚いダイアフラム厚が有効厚として作用し、接触角もまたさらに小さくなって応力集中の緩和効果を高めることから、破壊を十分抑制することができる。工場接合形式において、架橋用裏波溶接部11上に肉盛溶接端部が留まる長さでは、ダイアフラム端面との間に狭隘部が生じ、かえって破壊しやすくなる。そのため、裏波溶接上にスカラップ底肉盛溶接を施す場合は、完全に架橋用裏波溶接部11を超えて、ダイアフラムに達することが大事である(図11(a)、(b)参照)。さらに、(4)肉盛の柱反対側、つまり梁長さ中央に向けての延長は、ウエブ板厚の3倍以上の長さとすることによって、応力を適度に分散させ、肉盛溶接部とウエブ界面に生じやすい亀裂の発生を抑制することができる。
好ましくは、架橋用裏波溶接部11に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を柱部材31A(31B、31C)とは反対方向にフランジ面に肉盛溶接して裏肉盛部111を設けることで、フランジの上面と下面と接する突合せ溶接金属止端部の位置の違いに伴うモーメントの差が縮小して地震時応力の分散効果があるだけでなく、突合せ溶接金属、フランジの原質部、フランジの熱影響部といった組織的な脆性破壊の違いを利用した[溶込み交差角度135度以下]による亀裂伝播速度の遅延効果を容易に得ることができる。この効果はフランジ下面に沿って肉盛の積層幅を大きくするほど効果があるが、理想的には開先開口側の溶接部止端部と同じ鉛直方向距離となる。
なお、ここでいう完全溶け込み溶接部とは、継手部分の板厚全ての領域にわたっている溶込み部分のことをいう。
架橋用裏波溶接部とは、ルートギャップに掛け渡されて形成される溶接部分である。
肉盛溶接部とは、溶接金属部の頂上部を越え、又は、架橋用裏波溶接部を覆い柱部材のダイアフラム端面を越えて所定肉厚で形成される溶接部分である。
溶接金属部とは、架橋用裏波溶接部と、この架橋用裏波溶接部及び開先内充填積層して溶接された溶接部とを備えるものである。
裏肉盛部とは、架橋用裏波溶接部の一部又は全部に重なって1パス以上溶接される部分をいう。
次に、本発明の実施例について、説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、図19〜27に示す柱梁接合模擬構造体では、エンドタブ14を設けた構成として説明する。
まず、図19〜22に示すような柱梁接合模擬構造体を作製した。梁部材には490MPa級炭素鋼(SN490)からなるウエブ3(212×1025×16mm、厚さTw=16mm)と、SN490からなる上下フランジ4、5(19×995×200mm)とをすみ肉溶接したビルドH型鋼を用いた。柱部材には490MPa級であるBCR295の角形鋼管33(16×250□×205mm)に、490MPa級炭素鋼(SN490)からなるダイアフラム32(25×300□mm)を周溶接した外ダイアフラム構造の柱部材を用いた。ウエブ3の上下スカラップ6、7は、非特許文献1(P227,図4.8.20(1)参照)に従った形状とした(r=35mm、r=10mm、L=10mm)。また、SS400またはSN400からなる2枚のスティフナ21(19×212×92、半径15mmで切欠き)を梁部材の端部(柱部材と反対側)から155mmの位置にすみ肉溶接した。なお、図19は上下スカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)、図20は上下スカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)、図21は上下ノンスカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)、図22は上ノンスカラップ工法、下スカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)である。
次に、上下フランジ4、5の端部に形成されたレ型開先(開先角度:35°)を炭酸ガスシールドアーク溶接法で、溶接材料として490MPa級のソリッドワイヤ(JISZ3312、YGW11、1.2mm径)を使って、入熱25〜30kJ/cm、最大パス間温度250℃に熱管理してスカラップ工法またはノンスカラップ工法で施工し、完全溶け込み溶接部を形成した。また、裏当て金USは、図19、図20、図22のスカラップ工法ではSS400からなる長尺の鋼板(9×25×250)を用い、図21、図22のノンスカラップ工法ではウエブ3を挟むようにSS400からなる短尺の鋼板(9×25×120)を2枚用いた。
また、図23〜27は、架橋用裏波溶接部11を使用した構成について前記したものと同様に形成した。なお、図26,27は、上フランジ4側に裏当て金USを設け、下フランジ5側では、架橋用裏波溶接部11を設けた構成として形成した。
次に、表2〜4に示すように肉盛溶接のパラメータを変えて、スカラップ底周囲の肉盛溶接を行い、試料No.1〜44(柱梁溶接継手)を作製した。スカラップ底周囲の肉盛溶接は、表1に示すW1〜W8の8種の溶接ワイヤとシールドガスの組合せを用いた。W1,W2は、一般炭素鋼用炭酸ガス溶接用ソリッドワイヤ(逆極性:EP)、W3は一般炭素鋼用炭酸ガス溶接用フラックス入りワイヤ(逆極性:EP)、W4,W5は、フッ化カルシウムあるいはフッ化バリウムをフラックスの一部として用いた炭酸ガス正極溶接(EN)用フラックス入りワイヤ、W6は、高Mn添加によって、マルテンサイト変態を凝固過程で起こして体積膨張を起こし、引張残留応力を軽減する低変態温度溶接材料の一種であり、炭酸ガス逆極性(EP)用である。W7は、高Cr及び,高Ni系の低変態温度溶接材料であるが、フッ化カルシウム、フッ化バリウムを含有した炭酸ガス正極溶接(EN)用として使われるフラックス入りワイヤである。W8はフッ化カルシウムを含有し、シールドガスを用いなくても溶接可能な正極性(EN)用のセルフシールドアーク溶接法用フラックス入りワイヤである。いずれの溶接材料でも施工管理として、入熱30kJ/cm以下、最大パス間温度250℃以下に管理した。
作製した試料No.1〜44に対して、以下の手順で載荷実験を行い、耐震性能について評価した。それらの結果を表1に示す。
(載荷実験)
図29に示すように、試料に対して、2つの梁部材2の端部(スティフナ21挿入部)を固定し、柱部材31Aの中央に油圧プレスで鉛直下方向の応力を付与した。図29では試料No.1(比較例)の載荷実験を示したが、試料No.2〜26の載荷実験でも同様である。応力付与を毎回天地反転させて行うことで、正負交番変形を起こさせた。具体的な載荷方法としては、梁部材2の端部での全塑性時の変形変位δpを基準に取り、載荷振幅を1δp、2δp、4δp、6δp・・・と漸増させ正負交番とし、1δp以外の各振幅で2サイクル繰り返し、梁部材2が破断した時点で実験終了とした。載荷回数と振幅のイメージ(荷重履歴)を図30に示す。
繰り返し曲げを受ける梁部材2の荷重変位関係は図31(a)のように表すことができ、梁部材2が発揮した最大耐力を上回る負荷領域をつなぎ合わせたものは骨格曲線(スケルトンカーブ、図31(b))と呼ばれる。この曲線から得られる塑性エネルギーWを弾性エネルギー(Pp・δp)で除した値は累積荷重変形倍率ηsと呼ばれ、地震時の変形能力を評価するために、良く用いられる指数である。本発明における耐震性能の評価もこのηsを算出して定量化比較した。具体的には、ηsが9以上であれば非常に耐震性能に優れる(表2〜4では◎と記載)、ηsが7以上9未満であれば耐震性能が良好(表2〜4では○と記載)、ηsが5以上7未満であれば耐震性能がやや良好(表2〜4では△と記載)、ηsが5未満であれば耐震性能が劣る(表2〜4では×と記載)とした。
なお、溶接方法では、表1に示すように、溶接した溶接ワイヤの形態、シールドガス、極性、ワイヤ成分についてW1〜W8までの条件を設定して行った。
Figure 0005978187
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表2に示すように、試料No.1〜10は、本発明の要件を満たさない比較例である。試料No.1〜10の各構成は、それぞれ図19〜22に示す。
具体的には、試料No.1(比較例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式の柱梁溶接継手である。裏当て金を設けた溶接金属部であり、施工能率が良く、コスト的に安いが、上部および下部肉盛溶接部を備えていないため、スカラップ底と裏当て金の両応力集中部から早期破断し、ηsが5未満で耐震性能は最も低い。既存建築物の形式の一種である。
試料No.2(比較例)は、裏当て金を有し、上下スカラップが設けられた工場接合形式の柱梁継手である。梁部材の接合ディテールが上下対称となり、裏当て金が内側になるため、やや現場接合形式(試料No.1)よりも耐震性能は良いものの、上部および下部肉盛溶接部を備えていないため、スカラップ底の応力集中部から早期破断する事には変わりなく、ηsが5未満で耐震性能は低い。既存建築物の形式の一種である。
試料No.3(比較例)は、上フランジ側をノンスカラップとし、下フランジ側を裏当て金を有しスカラップとした現場接合形式の柱梁溶接継手である。上フランジ側のスカラップに起因した応力集中が消失するものの、下部肉盛溶接部を備えていないため、下フランジ側のスカラップ底がボトルネックとなるため、ηsが5未満で全く耐震性能は改善していない。
試料No.4(比較例)は、上下フランジ側をノンスカラップとした工場接合形式の柱梁溶接継手である。スカラップ底の応力集中が無いため、スカラップ底起点の破壊は防止されるが、代わりに裏当て金が応力集中箇所となって比較的早くに破断した。結果としてやや耐震性は向上する程度に留まる。
試料No.5(比較例)は、試料No.1に対して上下フランジのスカラップ底に肉盛を施した。その結果スカラップ底からの破断は抑えられたが、代わりに裏当て金が応力集中箇所となって比較的早くに破断した。結果としてやや耐震性は向上する程度に留まる。
試料No.6(比較例)は、試料No.2に対して上下フランジのスカラップ底に肉盛を施した。その結果スカラップ底からの破断は抑えられたが、代わりに裏当て金が応力集中箇所となって比較的早くに破断した。結果としてやや耐震性は向上する程度に留まる。
試料No.7(比較例)は、試料No.3に対して下フランジのスカラップ底に肉盛を施した。その結果スカラップ底からの破断は抑えられたが、代わりに裏当て金が応力集中箇所となって比較的早くに破断した。結果としてやや耐震性は向上する程度に留まる。
試料No.8(比較例)は、試料No.1に対して上下フランジに取り付く裏当て金の採用をやめ、架橋用裏波溶接部に代えると共に、裏波溶接と平行に重なるようにフランジ下面に肉盛を施した。しかし、一方のスカラップ底への応力集中箇所は改善されていないため、裏波溶接化の効果は現れず、ほとんど改善効果は無かった。
試料No.9(比較例)は、試料No.2に対して上下フランジに取り付く裏当て金の採用をやめ、架橋用裏波溶接部に代えると共に、裏波溶接と平行に重なるようにフランジ下面に肉盛を施した。しかし、一方のスカラップ底への応力集中箇所は改善されていないため、裏波溶接化の効果は現れず、ほとんど改善効果は無かった。
試料No.10(比較例)は、試料No.3に対して上下フランジに取り付く裏当て金の採用をやめ、架橋用裏波溶接部に代えると共に、裏波溶接と平行に重なるようにフランジ下面に肉盛を施した。しかし、一方のスカラップ底への応力集中箇所は改善されていないため、裏波溶接化の効果は現れず、ほとんど改善効果は無かった。
つぎに、表3、表4に示すように、試料No.11〜44は、本発明の要件を満足する実施例である。試料No.11〜44の各構成は、それぞれ図23〜28で示す。
具体的には、試料No.11(実施例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式に対して、裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、かつ、上部および下部肉盛溶接部を備えた柱梁溶接継手である。ただし、上部および下部肉盛溶接部の脚長(LaおよびLd)が好適範囲であるウエブの厚さ(Tw)よりも小さいため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。
試料No.12(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、かつ、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が好適範囲であるダイアフラム端面に満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。
試料No.13(実施例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式に対して、裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、かつ、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が好適範囲である3×Tw(ウエブの厚さ:16mm)=48mmに満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。
試料No.14(実施例)は、上フランジ側を裏当て金なしで架橋用裏波溶接部を形成した溶接金属部を有しノンスカラップ形式にして、下フランジ側にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、下部肉盛溶接部のウエブ側(高さ方向)脚長(La)が好適範囲であるウエブの厚さ(Tw=16mm)より不足して、かつ、裏肉盛部111を形成していないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。
試料No.15(実施例)は、上フランジ側を裏当て金なしで架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有しノンスカラップ形式にして、下フランジ側にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が好適範囲である溶接金属部の頂上部に満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。
試料No.16(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、裏当て金なしで架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、上フランジ側の上部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が好適範囲であるダイアフラム端面に満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。
試料No.17(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、下フランジ側のみに裏当て金なしで架橋用裏波溶接部を形成した溶接金属部を有し、かつ、下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、下部肉盛溶接部のフランジ側(幅方向)脚長(Ld)が好適範囲であるウエブの厚さ(Tw=16mm)より不足しているため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。
試料No.18(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、下フランジ側のみに裏当て金なしで架橋用裏波溶接部を形成した溶接金属部を有し、かつ、下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。試料No.17(実施例)に対して下部肉盛溶接部のフランジ側(幅方向)脚長(Ld)が大きく、好適範囲を満足するため、ηsが7以上9未満で耐震性能が良好であった。これより下部肉盛溶接部のフランジ側(幅方向)脚長(Ld)が大きい程、耐震性能が向上することがわかる。
試料No.19(実施例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式に対して、下フランジ側のみに裏当て金なしで架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、かつ、下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する下部肉盛溶接部を施したため、ηsが7以上9未満で耐震性能が良好であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.20(実施例)は、上下にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、上下フランジに裏当て金なしで架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、かつ、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する上部および下部肉盛溶接部を施したため、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。試料No.13(実施例)に対して上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が増しており、これより上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が長い程、耐震性能が向上することがわかる。
試料No.21〜23(実施例)は、試料No.20(実施例)に対して、上下フランジに裏当て金なしで架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、かつ、上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)を長くした柱梁溶接継手である。上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が長くなるにつれて、耐震性能が向上することがわかる。
試料No.24(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、上下フランジに裏当て金なしで架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、かつ、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する上部および下部肉盛溶接部を施したため、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。試料No.12(実施例)に対して上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が増しており、これより上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が長い程、耐震性能が向上することがわかる。
試料No.25〜26(実施例)は、試料No.24(実施例)に対して、上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)を長くした柱梁溶接継手である。上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が長くなるにつれて耐震性能が向上することがわかる。
試料No.27(実施例)は、No.23に対して肉盛溶接材料として一般的に用いられている逆極性フラックス入りワイヤを用いているが、特に上向姿勢での裏波溶接、および付随する肉盛溶接ビード形状が正極性用フッ化物含有フラックス入ワイヤに比べて凸になりやすいため、やや耐震性向上効果は劣った。
試料No.20〜27(実施例)は、上下フランジ側のスカラップに上部および下部肉盛溶接部を施し、かつ裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部に裏肉盛部を形成した溶接金属部を有し、柱梁溶接継手であり、試料No.4(比較例)の一般的に優れている形式として知られている裏当て金付き上下ノンスカラップ形式よりも大幅に優れた耐震性能が得られている。
試料No.28〜30(実施例)は、上フランジ側をノンスカラップとし、下フランジ側にスカラップを設けた現場接合形式に対して、裏当て金なしで架橋用裏波溶接部を有し、かつ、下フランジ側に下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する下部肉盛溶接部を施したため、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。試料No.14、28、29、30(実施例)となるに従い、下部肉盛溶接部の脚長(La、Ld)が大きくなっており、それに従い耐震性能が向上することがわかる。
試料No.31(実施例)は、No.28〜30と同じく、上フランジをノンスカラップとし、下フランジにスカラップを設けた現場接合形式に対して、裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部を有し、かつ下フランジ側に下部肉盛り溶接を施した柱梁溶接継手である。肉盛溶接材料として低変態温度溶接ワイヤを用いている。肉盛溶接の止端部の残留応力が低減され、亀裂破壊しにくくなり、耐震性はより向上した。
試料No.32(実施例)は、試料No.28〜31(実施例)と同じく、上フランジ側をノンスカラップとし、下フランジ側にスカラップを設けた現場接合形式に対して、下フランジ側に下部肉盛溶接部を施し裏当て金なしで架橋用裏波溶接部を形成した溶接金属部を有し、肉盛溶接材として低変態温度溶接ワイヤを用いている(条件W7:表1参照)。その変態温度は試料No.31(実施例)よりも低い。肉盛溶接の止端部の残留応力が低減され、亀裂破壊しにくくなり、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。この試料No.32は、試料No.31よりも優れていた。
試料No.33(実施例)は、試料No.20に対して肉盛溶接部、架橋用裏波溶接部及び裏肉盛部への適用溶接法としてフラックス入ワイヤを用いたセルフシールドアーク溶接法により形成した柱梁溶接継手である。スカラップ底や裏波溶接近傍の応力集中が緩和されたことで耐震性向上は達成されたが、セルフシールドアーク溶接法は架橋用裏波溶接部および肉盛溶接金属の靭性がガスシールドアーク溶接法よりも相対的に低いので、亀裂伝播速度が速く、No.20よりも耐震性の向上効果が若干小さかった(条件W8:表1参照)。
試料No.34〜35(実施例)は、試料No.22に対して、裏波溶接に並列する柱部材逆方向の肉盛溶接パス数を徐々に増やして3パス及び4パスとして形成した柱梁溶接継手である。上下フランジ裏側の肉盛パス数が増えるにつれ、耐震性が向上する事がわかる。これはフランジ裏側への応力集中箇所が柱逆方向へ移動し、フランジ表側とのモーメント差が縮小して応力分散効果が高まることと、フランジ裏面と肉盛接点から生じる亀裂伝播の経路として高靭性金属組織をより多く通過することによる効果である。
試料No.36(実施例)は、試料No.29の上フランジをノンスカラップとし、下フランジにスカラップを設けた現場接合形式に対して、裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部を設けたものに、さらに裏肉盛部を施したものである。この試料No.36は、さらに耐震性が向上した。裏当て金を廃して裏波溶接化するだけでなく、フランジ裏側に肉盛溶接を行うことで、応力集中箇所が柱逆方向へ移動し、フランジ表側とのモーメント差が縮小して応力分散効果が高まることと、フランジ裏面と肉盛接点から生じる亀裂伝播の経路として高靭性金属組織をより多く通過することによる効果である。
試料No.37(実施例)は、試料No.19の上フランジをノンスカラップとし、下フランジにスカラップが設けられた現場接合形式に対して、下フランジのみに裏当て金無しとして、架橋用裏波溶接部11、下部肉盛溶接部13、さらに、裏肉盛部111を施したものである。この試料No.37の構成では、下フランジ側の耐震性は向上したものの、上フランジ側がなんら耐震性向上改良処理を加えておらず、相対的に弱いため、総合的な耐震性能はやや上昇した程度に留まった。
試料No.38(実施例)は、上下にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、両スカラップ底に上部肉盛溶接部12、下部肉盛溶接部13を施し、また、裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部11を形成した。そして、試料No.38は、さらに付随してフランジ裏面となる架橋用裏波溶接部11に裏肉盛部111を施し、上部肉盛溶接部12、下部肉盛溶接部13、裏肉盛り部111を共通して低変態温度溶接ワイヤを使用したものである。この試料No.38は、スカラップ底とフランジ裏面側の両方の肉盛溶接の止端部の残留応力が低減され、亀裂破壊しにくくなり、耐震性は高かった。
試料No.39(実施例)は、上下にスカラップが設けられた工場接合形式に対して、両スカラップ底に上部肉盛溶接部12、下部肉盛溶接部13を施し、さらに裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部11とした。ただし、試料No.39は、架橋用裏波溶接部11に付随する裏肉盛部111の溶接は施していない。試料No.39は、耐震性は向上したものの、架橋用裏波溶接部側の応力集中緩和が十分ではないため、総合的な耐震性能はやや上昇したに留まった。
試料No.40(実施例)は、上下にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、両スカラップ底のそれぞれに上部肉盛溶接部12、下部肉盛溶接部13を施し、さらに裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部11とした。しかし、試料No.40は、スカラップ底の上部肉盛溶接部12及び下部肉盛溶接部13のサイズ規定を満たしておらず、また、架橋用裏波溶接部側も裏肉盛部111の溶接を施していないことから、総合的な耐震性向上効果は少しに留まった。
試料No.41(実施例)は、上フランジを裏当て金US付きノンスカラップとし、下フランジにスカラップを設けた現場接合式に対して、下フランジ側に裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部11を形成するとともにスカラップ底に下部肉盛溶接部13を設けたものである。一般的に、ノンスカラップ式は、スカラップ底に働く応力集中を消失させるため、耐震性に優れるが、次に応力集中となる裏当て金USがあるとその効果は限定的なものとなる。試料No.41は、下フランジ側の応力集中箇所が下部肉盛溶接部13を所定長さ等で適用することにより大幅に改善しているが、上フランジ側裏当て金USが相対的に弱いため、耐震性向上効果は試料No.28〜32の裏当て金無しノンスカラップ式ほどは高まらなかった。
試料No.42(実施例)は、試料No.41に対して、下フランジの架橋用裏波溶接部11に付随して裏肉盛部111を溶接して施したものである。この試料No.42は、下フランジ側の応力集中は更に緩和されて耐震性は優れるはずだが、相対的に弱い上フランジ側の裏当て金USについては変わっていないため、耐震性も殆ど変わらなかった。
試料No.43(実施例)は、上下にスカラップが設けられた工場接合形式に対して、両スカラップ底に上部肉盛溶接部12、下部肉盛溶接部13を施し、さらに裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部11とした。しかし、試料No.43は、スカラップ底の上部肉盛溶接部12及び下部肉盛溶接部13のサイズ規定を満たしておらず、また、架橋用裏波溶接部側も裏肉盛部111の溶接を施していないことから、総合的な耐震性向上効果は少しに留まった。
試料No.44(実施例)は、上下にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、両スカラップ底に上部肉盛溶接部12、下部肉盛溶接部13を施し、さらに裏当て金を廃して架橋用裏波溶接部11とした。しかし、試料No.43は、スカラップ底の上部肉盛溶接部12及び下部肉盛溶接部13のサイズ規定を満たしておらず、また、架橋用裏波溶接部側も裏肉盛部111の溶接を施していないことから、総合的な耐震性向上効果は少しに留まった。
1A、1B、1C 柱梁溶接継手
2 梁部材
3 ウエブ
4 上フランジ
5 下フランジ
6 上スカラップ
7 下スカラップ
8A、8B 上部完全溶け込み溶接部
9A、9B 下部完全溶け込み溶接部
10 溶接金属部
11 架橋用裏波溶接部
12 上部肉盛溶接部
13 下部肉盛溶接部
14 エンドタブ
31A、31B、31C 柱部材
111 裏肉盛部
SL 下スカラップ底
SU 上スカラップ底
S1 梁端部突合せ溶接工程
S11 準備工程
S2、S12 肉盛溶接工程
US 裏当て金

Claims (16)

  1. 柱部材と、
    ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、
    前記ウエブの上端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された上スカラップと、
    前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との突合せ位置に形成した溶接金属部による上部完全溶け込み溶接部と、
    前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ位置に裏当て金なしで形成された架橋用裏波溶接部、及び、この架橋用裏波溶接部に開先内充填積層して形成した溶接金属部による下部完全溶け込み溶接部と、
    前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側、および、前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備えることを特徴とする柱梁溶接継手。
  2. 前記下部完全溶け込み溶接部では、前記架橋用裏波溶接部に接合した前記溶接金属部の頂上部が前記下スカラップ側に設けられ、
    前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記溶接金属部の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項1に記載の柱梁溶接継手。
  3. 前記下部完全溶け込み溶接部では、前記架橋用裏波溶接部が前記下スカラップ側に設けられ、
    前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記柱部材のダイアフラム端面を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項1に記載の柱梁溶接継手。
  4. 前記架橋用裏波溶接部に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を前記柱部材とは反対方向にフランジ面に沿って裏肉盛溶接を行い形成される裏肉盛部を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手。
  5. 前記上スカラップの前記上フランジに当接する上スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された上部肉盛溶接部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手。
  6. 前記上部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記柱部材のダイアフラム端面を越える長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項5に記載の柱梁溶接継手。
  7. 前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との間に形成した架橋用裏波溶接部に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を前記柱部材とは反対方向にフランジ面に沿って裏肉盛溶接を行い形成される裏肉盛部を備えることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の柱梁溶接継手。
  8. 柱部材と、
    ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、
    前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との突合せ位置に開先内充填積層として形成された溶接金属部による上部完全溶け込み溶接部と、
    前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ位置に裏当て金なしで形成された架橋用裏波溶接部、及び、この架橋用裏波溶接部に開先内充填積層して形成された溶接金属部による下部完全溶け込み溶接部と、
    前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備えることを特徴とする柱梁溶接継手。
  9. 前記下部完全溶け込み溶接部において、架橋用裏波溶接部に接合した前記溶接金属部の頂上部が、前記下スカラップ側にあり、
    前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記溶接金属部の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項8に記載の柱梁溶接継手。
  10. 前記架橋用裏波溶接部に部分的あるいは全面的に重ねて1パス以上を前記柱部材とは反対方向にフランジ面に沿って裏肉盛溶接を行い形成される裏肉盛部を備えることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の柱梁溶接継手。
  11. 請求項1、2、3、8、9のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手の製造方法であって、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、
    前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする柱梁溶接継手の製造方法。
  12. 請求項5又は6に記載の柱梁溶接継手の製造方法であって、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、
    前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、上フランジ側および下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記上部肉盛溶接部および前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする柱梁溶接継手の製造方法。
  13. 前記梁端部突合せ溶接工程において前記架橋用裏波溶接部を形成した後に前記裏肉盛部を形成する裏肉盛溶接工程を行うことを特徴とする請求項11又は12に記載の柱梁溶接継手の製造方法。
  14. 前記肉盛溶接工程では、C≧0.15質量%、Mn≧3.0質量%、Ni≧3.0質量%、Cr≧3.0質量%のうち1つ以上を含有する溶接材料を用いて、肉盛溶接を行うことを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手の製造方法。
  15. 請求項11〜14のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手の製造方法であって、溶接に使用される溶接ワイヤを負極とし、前記柱部材及び梁部材である母材側を正極として正極性で配電されたアーク溶接法により溶接が行われると共に、前記溶接ワイヤにフラックスとしてフッ化カルシウム又はフッ化バリウムをワイヤ外周の鋼部分を合わせた全ワイヤ重量換算で合計0.5〜10質量%含有することを特徴とする柱梁溶接継手の製造方法。
  16. 前記アーク溶接法は炭酸ガスシールドアーク溶接法であることを特徴とする請求項15に記載の柱梁溶接継手の製造方法。
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