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JP5615769B2 - リチウム二次電池 - Google Patents

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Description

本発明は、リチウム二次電池用の正極材およびリチウム二次電池に関する。
リチウム二次電池には、特にプラグインハイブリッド自動車用電池に採用する場合に、発熱反応による電池の発火や破裂を起こさないという高い安全性を維持しながら、低コスト化、低体積化、軽量化、および高出力化が必要とされている。このため、リチウム二次電池には、高容量かつ高安全であることが要求され、このような要求を満たすための正極材が必要である。
特許文献1に記載のリチウムイオン二次電池では、異種元素が正極活物質の表面のみに存在しており、内部短絡時に高度な安全性を確保している。
特許文献2に記載の非水電解質二次電池では、Li−Ni−Mn系の正極活物質とLi−Ni−Co系の正極活物質を混合し、高温保存時の信頼性を向上させている。
特許文献3に記載の非水電解液二次電池では、リチウム含有化合物の表面をリチウム含有化合物の微粒子で被覆することで、電極充填性を高めながら大きな反応面積を確保している。
特開2006−302880号公報 特開2009−224097号公報 特開平9−35715号公報
従来のリチウム二次電池の正極材では、プラグインハイブリッド自動車用の電池に要求される特性、すなわち高容量かつ高安全を達成できていない。
例えば、特許文献1に記載のリチウムイオン二次電池では、異種元素が正極活物質の表面のみに存在しているため、昇温した際に起こる結晶格子中からの酸素放出を低減させることができず、充電状態の安全性の確保に課題がある。
特許文献2に記載の非水電解質二次電池では、Li−Ni−Mn系にMnが20%以上含まれているため、容量が低下し、プラグインハイブリッド自動車用電池に適しているとは言えない。
特許文献3に記載の非水電解液二次電池では、正極材が熱安定性を改善できる置換元素を含んでいないため、電池の安全性の確保という点で課題がある。
本発明は、プラグインハイブリッド自動車用電池に要求される高容量かつ高安全のリチウム二次電池を達成できる正極材と、高容量かつ高安全のリチウム二次電池を提供することを目的とする。
本発明による正極材は、組成式Li1.1+xNiM1M2(M1はMoまたはWを表し、M2はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x≦0.1、0.7≦a<0.98、0.02≦b≦0.06、0<c≦0.28)で表される第1の正極活物質と、組成式Li1.03+xNiTiM3(M3はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.03≦x≦0.07、0.7≦a≦0.8、0.05≦b≦0.1、0.1≦c≦0.25)で表される第2の正極活物質を含み、前記第1の正極活物質と前記第2の正極活物質との合計に対する前記第1の正極活物質の割合は、質量比で30%以上であることを特徴とする。
本発明によると、プラグインハイブリッド自動車用電池に要求される高容量かつ高安全のリチウム二次電池を達成できる正極材と、高容量かつ高安全のリチウム二次電池を提供することができる。
実施例1および比較例1における試作電池の示差走査熱量測定の結果を示すグラフ。 リチウム二次電池の断面図。
リチウム二次電池は、プラグインハイブリッド自動車用の電池に採用するためには、高容量かつ高安全という特性を持つことが要求される。リチウム二次電池において、この特性は、正極材の性質と密接な関係がある。組成式LiMO(Mは遷移金属)で表される層状系の正極活物質において、高容量を得るためには、遷移金属層中のNi含有量を増やす必要がある。
しかし、Ni含有量が多い正極材は、充電状態での構造安定性が低い。従って、内部短絡などにより電池の温度が上昇した際に、正極活物質中から放出された酸素と電解液とが比較的低温で反応し、大きな発熱反応が起こる。この発熱反応により、電池が発火したり破裂したりすることが懸念される。
本発明によるリチウム二次電池用の正極材は、このような課題を解決するものであり、組成式Li1.1+xNiM1M2(M1はMoまたはWを表し、M2はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x≦0.1、0.7≦a<0.98、0.02≦b≦0.06、0<c≦0.28)で表される第1の正極活物質と、組成式Li1.03+xNiTiM3(M3はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.03≦x≦0.07、0.7≦a≦0.8、0.05≦b≦0.1、0.1≦c≦0.25)で表される第2の正極活物質を含むことを特徴とする。第1の正極活物質と第2の正極活物質との合計に対する第1の正極活物質の割合は、質量比で30%以上である。
本発明によるリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵放出可能な正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極と、セパレータとを備え、正極には本発明による正極材を用いる。
Ni含有量が多い正極活物質は、高容量が得られるが、充電状態での熱安定性が低いという欠点がある。そこで、Ni含有量が多い正極活物質に、MoまたはWを添加して第1の正極活物質とし、充電状態での熱安定性を改善した。さらに、Ni含有量が多い別の正極活物質に、Tiを添加して第2の正極活物質とした。第1の正極活物質と第2の正極活物質を混合させた正極材を用いることで、充電状態での熱安定性をさらに改善できる。Mo、W、およびTiは、最大発熱値を低減でき、充電状態の熱安定性を向上できる元素である。
MoまたはWとTiとを直接混ぜた場合には、焼成してもうまく混合せず、正極活物質の作製が困難である。そこで、本発明では、第1の正極活物質にMoまたはWを添加し、第2の正極活物質にTiを添加し、その後で第1の正極活物質と第2の正極活物質を混合させて正極材とした。
本発明による正極材は、Ni含有量が多くて添加元素(Mo、W、またはTi)を含まない正極活物質と比較すると、電解液と共に昇温した際の発熱量が大幅に低減するため、電池が昇温した際に発火および破裂に至る可能性を低減し、安全性を向上することができる。
本正極材を用いることにより、昇温した際に発火や破裂に至る可能性を低減させ安全性を向上したリチウム二次電池の正極材およびリチウム二次電池を提供することができる。
ここで、第1の正極活物質について説明する。
第1の正極活物質のLi含有量、すなわちLiの遷移金属に対する割合(上記の組成式中の1.1+x)は、1.03以上1.2以下(−0.07≦x≦0.1)である。1.03未満(x<−0.07)では、Li層中に存在するLiの量が少なく、層状の結晶構造を維持できなくなり、容量が低下する。1.2より大きいと(x>0.1)、複合酸化物における遷移金属の量が減少し、容量が低下する。
第1の正極活物質のNi含有量は、上記の組成式中のaで表され、0.7≦a<0.98である。a<0.7では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。a≧0.98では、他の元素(特にM2)の含有量が減少し、熱安定性が低下する。
第1の正極活物質のM1の含有量は、上記の組成式中のbで表され、0.02≦b≦0.06である。b<0.02では、充電状態での熱安定性を改善することができない。b>0.06では、結晶構造が不安定になり、容量が低下する。
第1の正極活物質のM2の含有量は、上記の組成式中のcで表され、0<c≦0.28である。c>0.28では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
次に、第2の正極活物質について説明する。
第2の正極活物質のLi含有量、すなわちLiの遷移金属に対する割合(上記の組成式中の1.03+x)は、1.00以上1.1以下(−0.03≦x≦0.07)である。1.00未満(x<−0.03)では、Li層中に存在するLiの量が少なく、層状の結晶構造を維持できなくなり、容量が低下する。1.1より大きいと(x>0.07)、複合酸化物における遷移金属の量が減少し、容量が低下する。
第2の正極活物質のNi含有量は、上記の組成式中のaで表され、0.7≦a≦0.8である。a<0.7では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。a>0.8では、他の元素(特にM3)の含有量が減少し、熱安定性が低下する。
第2の正極活物質のTiの含有量は、上記の組成式中のbで表され、0.05≦b≦0.1である。b<0.05では、充電状態での熱安定性を改善することができない。b>0.1では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
第2の正極活物質のM3の含有量は、上記の組成式中のcで表され、0.1≦c≦0.25である。c<0.1では、充電状態における構造が不安定になる。c>0.25では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
(正極活物質の作製)
後述する実施例および比較例で用いた第1の正極活物質と第2の正極活物質の作製方法を説明する。第1の正極活物質と第2の正極活物質は、ともに同様の方法で作製した。実施例および比較例では、後で示す表1と表2に記載したように、14種類の第1の正極活物質と16種類の第2の正極活物質を作製した。
原料として、酸化ニッケル、酸化コバルトを使用した。さらに、表1と表2に記載した組成に合わせて、二酸化マンガン、酸化モリブテン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、および酸化マグネシウムの中から1つまたは2つを選んで使用した。これらの酸化物を所定の原子比となるように秤量し、純水を加えてスラリーとした。
このスラリーを、平均粒径が0.2μmとなるまでジルコニアのビーズミルで粉砕した。このスラリーにポリビニルアルコール(PVA)溶液を固形分比に換算して1wt.%添加し、さらに1時間混合した後、スプレードライヤ−により造粒および乾燥させた。
この造粒粒子に対し、Liと遷移金属との比が1.1:1となるように水酸化リチウムおよび炭酸リチウムを加えた。
次に、造粒粒子に水酸化リチウムおよび炭酸リチウムを加えて得られた粉末を800℃で10時間焼成することにより、層状構造の結晶を形成した。その後、この結晶を解砕して正極活物質を得た。分級により粒径30μm以上の粗大粒子を除去した後、この正極活物質を用いて正極を作製した。
本発明による第1の正極活物質と第2の正極活物質の作製方法は、上記の方法に限定されず、共沈法など、他の方法を用いてもよい。
表1に、実施例および比較例で合成した第1の正極活物質の金属の組成比を示し、表2に、実施例および比較例で合成した第2の正極活物質の金属の組成比を示す。表1と表2では、それぞれ第1の正極活物質と第2の正極活物質の遷移金属の含有量の合計を100としたときの、Liの含有量と各種の遷移金属の含有量を示している。実施例および比較例では、正極活物質1−1〜1−14までの14種類の第1の正極活物質と、正極活物質2−1〜2−16までの16種類の第2の正極活物質を作製した。
Figure 0005615769
Figure 0005615769
(正極材の作製)
実施例および比較例で用いた正極材の作製方法を説明する。実施例および比較例では、表3に記載したように、上述のように作製した14種類の第1の正極活物質と16種類の第2の正極活物質とを用いて、30種類の正極材を作製した。表3には、実施例1〜16と比較例1〜16における、第1の正極活物質と第2の正極活物質の組み合わせと混合比(質量比)を記載した。
Figure 0005615769
まず、第1の正極活物質と第2の正極活物質を、表3に記載したように組み合わせて、表3に記載した混合比(質量比)となるように秤量して混合した。
混合した正極活物質と炭素系導電剤とを、質量比で85:10.7になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。正極活物質と導電剤との混合材料とN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解した結着剤を、混合材料と結着剤の質量比が95.7:4.3になるように混合してスラリーとした。このスラリーが正極材である。
(試作電池の作製)
実施例1〜16と比較例1〜16では、上述のように作製した30種類の正極材を用いて正極を作製し、32種類の試作電池を作製した。
正極の作製方法を説明する。均一に混合したスラリー(正極材)を、厚み20μmのアルミ集電体箔上に塗布した後、120℃で乾燥し、プレスにて電極密度が2.7g/cmになるように圧縮成形して電極板を得た。その後、電極板を直径15mmの円盤状に打ち抜き、正極を作製した。
負極は、金属リチウムを用いて作製した。非水電解液は、体積比で1:2のEC(エチレンカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)の混合溶媒に、1.0モル/リットルのLiPFを溶解させたものを用いた。
実施例1〜16と比較例1〜16では、以上のように作製した32種類の試作電池(第1の正極活物質と第2の正極活物質の組み合わせと混合比は表3に示している)に対して、充放電試験と示差走査熱量測定を行った。
(充放電試験)
試作電池に対し、0.1Cで、上限電圧を4.3V、下限電圧を2.7Vとした充放電を3回繰り返して初期化した。さらに、0.1Cで、上限電圧4.3V、下限電圧2.7Vの充放電を行い、放電容量を測定した。
(示差走査熱量測定)
試作電池を4.3Vまで定電流/定電圧で充電した後、取り出した正極をDMCで洗浄した。この後、正極を直径3.5mmの円盤状に打ち抜き、サンプルパンに入れ、電解液を1μl(リットル)加え、密封して試料とした。
この試料を室温から400℃まで5℃/minで昇温させたときの、発熱挙動を調べた。
表4〜9には、実施例1〜16および比較例1〜16における充放電試験と示差走査熱量測定の結果として、容量比と最大発熱値比を示す。また、用いた第1の正極活物質と第2の正極活物質の組み合わせも示す。表79には、さらに括弧書きで混合比も示した。表7において、混合比が記載されていないものは、第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比は、質量比で50:50である。
充放電試験の結果で、実施例1〜16と比較例1〜16では、得られた放電容量を比較例1の放電容量で除した値を容量比として、表4〜9に示す。
示差走査熱量測定の結果で、実施例1〜16と比較例1〜16では、得られた発熱の最大値(最大発熱値)を比較例1の最大発熱値で除した値を最大発熱値比として、表4〜9に示す。
Figure 0005615769
Figure 0005615769
Figure 0005615769
Figure 0005615769
Figure 0005615769
Figure 0005615769
表4について説明する。表4は、実施例1〜4と比較例1〜4を比べた表である。実施例1〜4と比較例〜4において、第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比は、質量比で50:50である。比較例1では、第1の正極活物質を用いず、第2の正極活物質2−1のみを用いた。
実施例1では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−1は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。第2の正極活物質2−2は、組成式のM3としてCoを用い、Liの含有量が103%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Tiの含有量は10%である。
実施例2では、第1の正極活物質1−2と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−2は、組成式のM1としてWを、M2としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Wの含有量は4%である。
実施例3では、第1の正極活物質1−3と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−3は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は12%、Mnの含有量は4%、Moの含有量は4%である。
実施例4では、第1の正極活物質1−4と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−4は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は8%、Mnの含有量は8%、Moの含有量は4%である。
比較例1では、第1の正極活物質を用いず、第2の正極活物質2−1のみを用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−1は、Tiを含まず、組成式のM3としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は60%、Coの含有量は20%、Mnの含有量は20%である。
比較例2では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−3を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−3は、Tiを含まず、Zrを含み、組成式のM3としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Zrの含有量は10%である。
比較例3では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−4を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−4は、Tiを含まず、Alを含み、組成式のM3としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Alの含有量は10%である。
比較例4では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−5を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−5は、Tiを含まず、Mgを含み、組成式のM3としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Mgの含有量は10%である。
表4より、実施例1〜4は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が半分以下という結果が得られた。放電容量が大きい値を示したのは、実施例1〜4で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が80%と多いためだと考えられる。また、最大発熱値が比較例1の半分以下と大幅に低減できたのは、第1の正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(MoまたはW)が遷移金属層中に4%存在しており、さらに第2の正極活物質に、第1の正極活物質と発熱温度範囲が異なり、かつ最大発熱値を減少できるTiが10%存在していたためだと考えられる。
また実施例3、4より、第1の正極活物質の組成式のM2としてCoとMnを用いても、Coを用いた場合と同様に、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できることがわかった。
一方、比較例1では、MoまたはWを含有する第1の正極活物質を用いていないために最大発熱値を低減できず、第2の正極活物質2−1のNiの含有量が60%と少ないために放電容量を向上できなかった。また、比較例2〜4では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の半分以下に低減することを両立できなかった。比較例2〜4では、第2の正極活物質にTiが含まれていないために、発熱量を低減する効果が小さかった。
以上より、第1の正極活物質を用い、第1の正極活物質と第2の正極活物質にNiを遷移金属のうち80%含有させ、第1の正極活物質にMoまたはWを遷移金属のうち4%含有させ、第2の正極活物質にTiを遷移金属のうち10%含有させると、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できることがわかった。
表5について説明する。表5は、実施例5、6と比較例5を比べた表である。実施例5、6と比較例5において、第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比は、質量比で50:50である。
実施例5では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−6を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−6は、組成式のM3としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Coの含有量は15%、Mnの含有量は5%、Tiの含有量は10%である。
実施例6では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−7を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−7は、組成式のM3としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Coの含有量は10%、Mnの含有量は10%、Tiの含有量は10%である。
比較例5では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−8を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−8は、組成式のM3としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Coの含有量は5%、Mnの含有量は15%、Tiの含有量は10%である。
表5より、実施例5、6は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が半分以下という結果が得られた。実施例5、6は、第2の正極活物質のNiの含有量が70%以上と多く、Coの含有量がMnの含有量以上であるためだと考えられる。
一方、比較例5では、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できなかった。比較例5では、第2の正極活物質において、MnがCoより多く存在したために放電容量が大幅に低下した。
以上より、第2の正極活物質において、Niを遷移金属のうち70%含有させ、Coの含有量がMnの含有量以上であると、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できることがわかった。
表6について説明する。表6は、実施例7〜9と比較例6〜8を比べた表である。実施例7〜9と比較例6〜8において、第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比は、質量比で50:50である。
実施例7では、第1の正極活物質1−6と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−6は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は18%、Moの含有量は2%である。
実施例8では、第1の正極活物質1−7と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−7は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は14%、Moの含有量は6%である。
実施例9では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−9を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−9は、組成式のM3としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Coの含有量は15%、Mnの含有量は10%、Tiの含有量は5%である。
比較例6では、第1の正極活物質1−5と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−5は、組成式のM1を含まず、M2としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は20%である。
比較例7では、第1の正極活物質1−8と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−8は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は12%、Moの含有量は8%である。
比較例8では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−10を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−10は、組成式のM3としてCoとMnを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Coの含有量は5%、Mnの含有量は10%、Tiの含有量は15%である。
表6より、実施例7〜9は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が半分以下という結果が得られた。放電容量が大きい値を示したのは、実施例7〜9で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が70%以上と多く、第1の正極活物質においてMoの含有量が6%以下であり、第2の正極活物質においてTiの含有量が10%以下であるためだと考えられる。また、最大発熱値が小さいのは、第1の正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(Mo)が遷移金属層中に2%以上存在しており、さらに第2の正極活物質に、第1の正極活物質と発熱温度範囲が異なり、かつ最大発熱値を減少できるTiが5%以上存在していたためだと考えられる。
一方、比較例6〜8では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の半分以下に低減することを両立できなかった。比較例6では、第1の正極活物質において、Moを含有していないため、熱安定性を向上できず最大発熱値を半減できなかった。比較例7では、第1の正極活物質において、Moの含有量が8%と多いために放電容量が大幅に低下した。また、比較例8では、第2の正極活物質において、Tiの含有量が15%と多く、MnがCoより多く存在したために放電容量が大幅に低下した。
以上より、第1の正極活物質にMoを遷移金属のうち2%以上6%以下含有させ、第2の正極活物質にTiを遷移金属のうち5%以上10%以下含有させると、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できることがわかった。なお、実施例1、2の結果(表4)からわかるように、Moの代わりにWを用いてもよい。Wも充電状態の熱安定性を向上できる元素であるからである。
表7について説明する。表7は、実施例10〜13と比較例9〜12を比べた表である。実施例10〜13と比較例9〜11では、第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比は、質量比で50:50である。比較例12では、第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比は、質量比で20:80である。

実施例10では、第1の正極活物質1−10と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−10は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が103%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。
実施例11では、第1の正極活物質1−11と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−11は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が120%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。
実施例12では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−12を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−12は、組成式のM3としてCoを用い、Liの含有量が100%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Tiの含有量は10%である。
実施例13では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−13を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−13は、組成式のM3としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Tiの含有量は10%である。
比較例9では、第1の正極活物質1−9と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−9は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が100%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。
比較例10では、第1の正極活物質1−12と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−12は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が125%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。
比較例11では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−11を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−11は、組成式のM3としてCoを用い、Liの含有量が97%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Tiの含有量は10%である。
比較例12では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−14を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比は、質量比で20:80である。第2の正極活物質2−14は、組成式のM3としてCoを用い、Liの含有量が115%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は10%、Tiの含有量は10%である。
表7より、実施例10〜13は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が半分以下という結果が得られた。放電容量が大きい値を示したのは、実施例10〜13で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が80%と多いためだと考えられる。さらに、Liの含有量が、第1の正極活物質では103%以上120%以下であり、第2の正極活物質では100%以上110%以下であるためだと考えられる。また、最大発熱値が小さいのは、第1の正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(Mo)が遷移金属層中に4%存在しており、さらに第2の正極活物質に、第1の正極活物質と発熱温度範囲が異なり、かつ最大発熱値を減少できるTiが10%存在していたためだと考えられる。
一方、比較例9〜12では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の半分以下に低減することを両立できなかった。比較例9では、第1の正極活物質において、Liの含有量が100%と少ないため、放電容量が小さかった。比較例10では、第1の正極活物質において、Liの含有量が125%と多いため、放電容量が小さかった。比較例11では、第2の正極活物質において、Liの含有量が97%と少ないため、放電容量が小さかった。比較例12では、第2の正極活物質において、Liの含有量が115%と多いため、放電容量が小さかった。
以上より、第1の正極活物質にLiを103%以上120%以下含有させ、第2の正極活物質にLiを100%以上110%以下含有させると、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できることがわかった。
表8について説明する。表8は、実施例14と比較例13〜15を比べた表である。第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比(質量比)は、50:50である。
実施例14では、第1の正極活物質1−13と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−13は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Coの含有量は26%、Moの含有量は4%である。
比較例13では、第1の正極活物質1−14と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質1−14は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は60%、Coの含有量は36%、Moの含有量は4%である。
比較例14では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−15を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−15は、組成式のM3を用いず、遷移金属のうち、Niの含有量は90%、Tiの含有量は10%である。
比較例15では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−16を用いて正極材を作製した。第2の正極活物質2−16は、組成式のM3としてCoを用い、遷移金属のうち、Niの含有量は60%、Coの含有量は30%、Tiの含有量は10%である。
表8より、実施例14は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が半分以下という結果が得られた。放電容量が大きい値を示したのは、実施例14で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が70%以上と多いためだと考えられる。また、最大発熱値が小さいのは、第1の正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(Mo)が遷移金属層中に4%存在しており、さらに第2の正極活物質に、第1の正極活物質と発熱温度範囲が異なり、かつ最大発熱値を減少できるTiが10%存在していたためだと考えられる。
一方、比較例13〜15では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の半分以下に低減することを両立できなかった。
比較例13では、第1の正極活物質において、Niの含有量が60%と少なすぎるため、放電容量が小さかった。比較例14では、第2の正極活物質において、Niの含有量が90%と多すぎるため、熱安定性を向上できなかった。比較例15では、第2の正極活物質において、Niの含有量が60%と少なすぎるため、放電容量が小さかった。
以上より、第1の正極活物質と第2の正極活物質において、Niの含有量が60%以下の場合には放電容量が低下することがわかった。また、第2の正極活物質において、Niの含有量が90%以上であると、最大発熱値を比較例1の半分以下に低減することができないことがわかった。
表9について説明する。表9は、実施例15、16と比較例16を比べた表である。
実施例15では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比(質量比)は、70:30である。
実施例16では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比(質量比)は、30:70である。
比較例16では、第1の正極活物質1−1と第2の正極活物質2−2を用いて正極材を作製した。第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比(質量比)は、20:80である。
表9より、実施例15、16は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が半分以下という結果が得られた。放電容量が大きい値を示したのは、実施例15、16で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が80%と多く、さらに、放電容量の大きい第1の正極活物質の、第1の正極活物質と第2の正極活物質との合計に対する割合が、質量比で30%以上であるためだと考えられる。また、最大発熱値を比較例1の半分以下へ大幅に低減できたのは、第1の正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(Mo)が遷移金属層中に4%存在しており、さらに第2の正極活物質に、第1の正極活物質と発熱温度範囲が異なり、かつ最大発熱値を減少できるTiが10%存在していたためだと考えられる。
一方、比較例16では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の半分以下に低減することを両立できなかった。比較例16では、放電容量の大きい第1の正極活物質の、第1の正極活物質と第2の正極活物質との合計に対する割合が、質量比で20%と少なかったため、全体としての放電容量が小さくなった。
以上より、第1の正極活物質と第2の正極活物質との合計に対する第1の正極活物質の割合が、質量比で30%以上であると、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できることがわかった。
表4〜9に示した結果から、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立するためには、次のような第1の正極活物質と第2の正極活物質を含み、第1の正極活物質と第2の正極活物質との合計に対する第1の正極活物質の割合が質量比で30%以上である正極材を用いるのがよいことがわかった。
第1の正極活物質は、Li含有量を103%以上120%以下とし、遷移金属層中のNiの含有量を60%より大きく98%未満とし、第1の正極活物質を表す組成式のM1としてMoまたはWを用い、遷移金属層中のM1の含有量を2%以上6%以下とし、組成式のM2としてCoを用いるか、またはMnとCoを用いる。
第2の正極活物質は、Li含有量を100%以上110%以下とし、遷移金属層中のNiの含有量を70%以上80%以下とし、遷移金属層中のTiの含有量を5%以上10%以下とし、第2の正極活物質を表す組成式のM3としてCoを用いるか、またはMnとCoを用いる。
図1は、実施例1および比較例1における試作電池の示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。横軸は温度で、縦軸は熱流であり、実施例1の結果を符号1で、比較例1の結果を符号2で示している。図1からわかるように、実施例1による試作電池は、比較例1による試作電池と比べて全体的に発熱量が小さい。このことから、実施例1で用いた正極材は、比較例1で用いた正極材よりも、発熱反応による最大発熱値が小さく、高い安全性を示すことがわかる。
図2は、本発明の実施例によるリチウム二次電池の断面図である。図2に示すリチウム二次電池12は、集電体の両面に正極材料を塗布した正極板3と、集電体の両面に負極材料を塗布した負極板4と、セパレータ5とを有する電極群を備える。本実施例では、正極板3と負極板4は、セパレータ5を介して捲回され、捲回体の電極群を形成している。この捲回体は、電池缶9に挿入される。
負極板4は、負極リード片7を介して、電池缶9に電気的に接続される。電池缶9には、パッキン10を介して、密閉蓋部8が取り付けられる。正極板3は、正極リード片6を介して、密閉蓋部8に電気的に接続される。捲回体は、絶縁板11によって絶縁される。
なお、電極群は、図2に示したような捲回体でなくてもよく、セパレータ5を介して正極板3と負極板4を積層した積層体でもよい。
リチウム二次電池12の正極板3として、本実施例で示した正極材を塗布して作製した正極を用いることにより、高容量かつ高安全のリチウム二次電池を得ることができる。従って、本発明によれば、プラグインハイブリッド自動車用の電池に要求される高容量、高出力かつ高安全を達成できる正極材、およびリチウム二次電池を提供することができる。
本発明は、リチウム二次電池の正極材、およびリチウム二次電池に利用でき、特に、プラグインハイブリッド自動車用のリチウム二次電池に利用可能である。
1…実施例1による試作電池の示差走査熱量測定の結果、2…比較例1による試作電池の示差走査熱量測定の結果、3…正極板、4…負極板、5…セパレータ、6…正極リード片、7…負極リード片、8…密閉蓋部、9…電池缶、10…パッキン、11…絶縁板、12…リチウム二次電池。

Claims (3)

  1. 組成式Li1.1+xNiM1M2
    (M1はMoまたはWを表し、M2はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x≦0.1、0.7≦a<0.98、0.02≦b≦0.06、0<c≦0.28)で表される第1の正極活物質と、
    組成式Li1.03+xNiTiM3
    (M3はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.03≦x≦0.07、0.7≦a≦0.8、0.05≦b≦0.1、0.1≦c≦0.25)
    で表される第2の正極活物質を含み、
    前記第1の正極活物質と前記第2の正極活物質との合計に対する前記第1の正極活物質の割合は、質量比で30%以上である、
    ことを特徴とする正極材。
  2. 前記第2の正極活物質がM3としてCoとMnを含む場合は、Coの含有量がMnの含有量以上である請求項1記載の正極材。
  3. リチウムを吸蔵放出可能な正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極と、セパレータとを備えるリチウム二次電池において、
    前記正極は、請求項1記載の正極材を用いることを特徴とするリチウム二次電池。
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