図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の車両用無段変速機18(CVT。以下「無段変速機18」と表す。)、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しないロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径(ベルト巻付け径)が可変の駆動側プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径(ベルト巻付け径)が可変の従動側プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、固定回転体42aと可動回転体42bとの間のV溝幅を変更する推力を付与する駆動側油圧アクチュエータとしての駆動側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42cおよび固定回転体46aと可動回転体46bとの間のV溝幅を変更する推力を付与する従動側油圧アクチュエータとしての従動側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されており、駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の巻付け径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる、すなわち無段変速機18の変速が行われる。また、従動側油圧シリンダ46cの油圧であるセカンダリ圧Pd(以下、「ベルト挟圧Pd」という)が油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、駆動側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリ圧(以下、「変速圧」という)Pinが生じるのである。なお、上記無段変速機18の変速比γは、入力軸回転速度センサ56により検出される入力軸回転速度Ninと出力軸回転速度センサ58により検出される出力軸回転速度Noutとから算出される。
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。本発明の変速制御装置に対応する電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)Ninを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)Noutすなわち出力軸回転速度Noutに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧回路の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST例えば駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を駆動するための指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB例えばベルト挟圧Pdを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量を制御させる為のロックアップ制御指令信号例えば油圧制御回路100内の前記ロックアップコントロールバルブの弁位置を切り換える図示しないオンオフソレノイド弁DSUを駆動するための指令信号やロックアップクラッチ26のトルク容量を調節するソレノイド弁DS2を駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTやリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」(図3参照)のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジションおよび「N」ポジションは動力伝達経路をニュートラル状態とし車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「L」ポジションは動力伝達経路を動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態とし車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、伝動ベルト48が滑りを生じないように従動側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、リニアソレノイド弁SLTにより調圧された第1油圧としての制御油圧PSLTを出力する第1位置とライン圧モジュレータNO.2バルブ122からの第2油圧としての出力油圧PLM2を出力する第2位置とに切り換えられる切換弁として機能するクラッチアプライコントロールバルブ112、変速比γが連続的に変化させられるように駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁として機能する変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116、変速圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とする推力比コントロールバルブ118、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120等を備えている。
また、ライン油圧PLは、エンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28(図1参照)から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(調圧弁)124によりリニアソレノイド弁SLTからの信号圧PSLT或いはリニアソレノイド弁SLSからの信号圧PSLSに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。上記出力油圧PLM2は、ライン油圧PLを元圧として前記ライン圧モジュレータNO.2バルブ122によりリニアソレノイド弁SLTからの信号圧PSLT或いはリニアソレノイド弁SLSからの信号圧PSLSに基づいて調圧されるようになっている。出力油圧PLM3は、制御油圧(信号圧)PSLTおよび信号圧PSLSの元圧となるものであって、ライン油圧PLを元圧としてライン圧モジュレータNO.3バルブ126により一定圧に調圧されるようになっている。モジュレータ油圧PMは、電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PDS1およびソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PDS2の元圧となるものであって、出力油圧PLM3を元圧としてモジュレータバルブ128により一定圧に調圧されるようになっている。
前記マニュアルバルブ120において、入力ポート120aにはクラッチアプライコントロールバルブ112から出力された係合油圧PAが供給される。そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、係合油圧PAが前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、係合油圧PAが後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路および入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
前記クラッチアプライコントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能に設けられることにより制御油圧PSLTを入力ポート112iから出力ポート112sを経て係合油圧PAとしてマニュアルバルブ120へ供給し且つ信号圧PSLSを入力ポート112jから出力ポート112tを経てライン圧モジュレータNO.2バルブ122およびプライマリレギュレータバルブ124へ供給する第1の油路を構成する第1位置(CONTROL位置)と出力油圧PLM2を入力ポート112kから出力ポート112sを経て係合油圧PAとしてマニュアルバルブ120へ供給し且つ制御油圧PSLTを入力ポート112iから出力ポート112tを経てライン圧モジュレータNO.2バルブ122およびプライマリレギュレータバルブ124へ供給する第2の油路を構成する第2位置(NORMAL位置)とに位置させられるスプール弁子112aと、そのスプール弁子112aを第2位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング112bと、スプール弁子112aに第1位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室112cと、スプール弁子112aに第1位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる径差部112dとを備えている。
このように構成されたクラッチアプライコントロールバルブ112において、例えば所定の低車速時や車両停止時等にシフトレバー74が「N」ポジションから「D」ポジション或いは「R」ポジションへ操作されるガレージシフト(N→Dシフト或いはN→Rシフト)が行われ、所定圧以上の制御油圧PDS1が油室112cへ供給され且つ所定圧以上の制御油圧PDS2が径差部112dへ供給されると、中心線より右側半分に示す第1位置側に切り換えられて制御油圧PSLTがマニュアルバルブ120を介して前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1に供給される。これにより、ガレージシフト時のクラッチC1やブレーキB1の係合過渡油圧が第1の電磁弁としてのリニアソレノイド弁SLTによって調圧される。例えば、制御油圧PSLTは、N→Dシフト或いはN→RシフトにおいてクラッチC1やブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するための油圧であって、クラッチC1或いはブレーキB1が滑らかに係合させられ、係合時のショックが抑制されるように、予め定められた規則に従って調圧される。
また、例えばガレージシフト後のクラッチC1やブレーキB1が係合させられた定常時等に、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2のうち少なくとも一方の供給が停止させられると、中心線より左側半分に示す第2位置側に切り換えられて出力油圧PLM2がマニュアルバルブ120を介して前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1に供給される。これにより、ガレージシフト後のクラッチC1やブレーキB1の係合が出力油圧PLM2によって保持される。例えば、出力油圧PLM2は、クラッチC1やブレーキB1を完全係合状態とするための所定油圧であって、少なくとも予め定められた一定圧に調圧されると共に信号圧PSLTに応じた油圧分を加えて調圧される。
このように、クラッチアプライコントロールバルブ112は、クラッチC1或いはブレーキB1への油圧の供給油路を、ガレージシフト時には前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するために制御油圧PSLTを供給する第1油路と、定常時にはクラッチC1或いはブレーキB1を完全係合状態とするために出力油圧PLM2を供給する第2油路とのいずれかに、第2の電磁弁としてのソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2からの制御油圧PDS1および制御油圧PDS2に基づいて切り換える切換弁として機能する。
尚、本実施例では、リニアソレノイド弁SLTの出力油圧を制御油圧PSLTと信号圧PSLTとで2通りの記載をしているが、ガレージシフト時の係合過渡油圧を制御油圧PSLTとし、ライン油圧PLを調圧するためのパイロット圧を信号圧PSLTとして明確に区別して用いる。すなわち、リニアソレノイド弁SLTは、クラッチアプライコントロールバルブ112が第1位置に切り換えられているときには前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するために制御油圧PSLTを出力し、クラッチアプライコントロールバルブ112が第2位置に切り換えられているときにはライン油圧PLを調圧するために信号圧PSLTを出力する。また、この信号圧PSLTはプライマリレギュレータバルブ124によりライン油圧PLを調圧するためのパイロット圧であり、クラッチC1或いはブレーキB1を係合するために直接的にそれら係合装置の油圧アクチュエータに供給される油圧でないことから、上記出力油圧PLM2よりも小さな油圧とされている。
前記変速比コントロールバルブUP114は、軸方向へ移動可能に設けられることによりライン油圧PLを入力ポート114iから入出力ポート114jを経て駆動側プーリ42へ供給可能且つ入出力ポート114kを閉弁するアップシフト位置と駆動側プーリ42が入出力ポート114jを介して入出力ポート114kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子114aと、そのスプール弁子114aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング114bと、そのスプリング114bを収容し且つスプール弁子114aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室114cと、スプール弁子114aにアップシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室114dとを備えている。
また、変速比コントロールバルブDN116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116jが排出ポートEXと連通させられるダウンシフト位置と入出力ポート116jが入出力ポート116kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aにダウンシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室116dとを備えている。
このように構成された変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116において、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子114aがスプリング114bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート114jと入出力ポート114kとが連通させられ、駆動側プーリ42(駆動側油圧シリンダ42c)の作動油が入出力ポート116jへ流通することが許容される。また、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子116aがスプリング116bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート116jと入出力ポート116kとが連通させられ、推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが入出力ポート114kへ流通することが許容される。
また、制御油圧PDS1が油室114dへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子114aがその制御油圧PDS1に応じた推力によりスプリング114bの付勢力に抗してアップシフト位置側へ移動させられ、ライン油圧PLが制御油圧PDS1に対応する流量で入力ポート114iから入出力ポート114jを経て駆動側油圧シリンダ42cへ供給されると共に、入出力ポート114kが遮断されて変速比コントロールバルブDN116側への作動油の流通が阻止される。これにより、変速圧Pinが高められ、駆動側プーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。
また、制御油圧PDS2が油室116dへ供給されると、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子116aがその制御油圧PDS2に応じた推力によりスプリング116bの付勢力に抗してダウンシフト位置側へ移動させられ、駆動側油圧シリンダ42cの作動油が制御油圧PDS2に対応する流量で入出力ポート114jから入出力ポート114kさらに入出力ポート116jを経て排出ポートEXから排出される。これにより、変速圧Pinが低められ、駆動側プーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。
このように、制御油圧PDS1が出力されると変速比コントロールバルブUP114に入力されたライン油圧PLが駆動側油圧シリンダ42cへ供給されて変速圧Pinが高められて連続的にアップシフトされ、制御油圧PDS2が出力されると駆動側油圧シリンダ42cの作動油が排出ポートEXから排出されて変速圧Pinが低められて連続的にダウンシフトされる。
例えば図4に示すような車両の運転性と燃費性とを両立するように実験的に求められた、アクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力回転速度である目標入力軸回転速度Nintとの関係(変速マップ)が予め記憶されており、その関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて所定回転部材としての入力軸36の目標入力軸回転速度Nintが設定される。そして、その設定された目標入力軸回転速度Nintと実際の入力軸回転速度Nin(以下、目標入力軸回転速度Nintとの関係で紛らわしい場合には「実入力軸回転速度Nin」と表す)とが一致するように、それ等の回転速度差(偏差)ΔNin(=Nint−Nin)に応じて無段変速機18の変速がフィードバック制御により実行される、すなわち駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給および排出により両可変プーリ42、46のV溝幅が変化させられて変速比γがフィードバック制御により連続的に変化させられる。
図4の変速マップは変速条件に相当するもので、アクセル開度Accや車速Vなどをパラメータとする実験的に定められた演算式などでもよく、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度Nintが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度Noutに対応するため、入力軸回転速度Ninの目標値である目標入力軸回転速度Nintは目標変速比γ*(=Nint/Nout)に対応し、無段変速機18の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で定められる。
但し、入力軸回転速度Ninの目標値として目標入力軸回転速度Nintをそのまま設定しても良いが、好適には、加速走行時や減速走行時(コースト走行時)や変速過渡時等の走行状態に応じて目標入力軸回転速度Nintを処理した値である基本目標入力軸回転速度Nint_bcを設定し、その基本目標入力軸回転速度Nint_bcに基づいて最終的な入力軸回転速度Ninの目標値である過渡目標入力軸回転速度Nint_trsを設定する。従って、この場合には、その過渡目標入力軸回転速度Nint_trsと実入力軸回転速度Ninとが一致するように、それ等の回転速度差(偏差)ΔNint_trs(=Nint_trs−Nin)に応じて無段変速機18の変速がフィードバック制御により実行される。
また、制御油圧PDS1は変速比コントロールバルブDN116の油室116cに供給され、制御油圧PDS2に拘らずその変速比コントロールバルブDN116を閉じ状態としてダウンシフトを制限する一方、制御油圧PDS2は変速比コントロールバルブUP114の油室114cに供給され、制御油圧PDS1に拘らずその変速比コントロールバルブUP114を閉じ状態としてアップシフトを禁止するようになっている。つまり、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないときはもちろんであるが、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されるときにも、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116は何れも原位置に保持されている閉じ状態とされる。これにより、電気系統の故障などでソレノイド弁DS1、DS2の一方が機能しなくなり、制御油圧PDS1または制御油圧PDS2が最大圧で出力され続けるオンフェール時となった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
前記挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経て従動側プーリ46および推力比コントロールバルブ118へベルト挟圧Pdを供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力されたベルト挟圧Pdを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室110eとを備えている。
このように構成された挟圧力コントロールバルブ110において、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧PLが連続的に調圧制御されることにより、出力ポート110tからベルト挟圧Pdが出力される。
例えば図5に示すように伝達トルクに対応するアクセル開度Accをパラメータとして変速比γと必要油圧(ベルト挟圧力)Pd*とのベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された関係(ベルト挟圧力マップ)から実際の変速比γおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて決定(算出)されたベルト挟圧力Pd*が得られるように従動側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdが制御され、このベルト挟圧Pdに応じてベルト挟圧力すなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。
前記推力比コントロールバルブ118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート118iを開閉してライン油圧PLを入力ポート118iから出力ポート118tを経て変速比コントロールバルブDN116へ推力比制御油圧Pτを供給可能にするスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するためにベルト挟圧Pdを受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート118tから出力された推力比制御油圧Pτを受け入れるフィードバック油室118dとを備えている。
このように構成された推力比コントロールバルブ118において、油室118cにおけるベルト挟圧Pdの受圧面積をa、フィードバック油室118dにおける推力比制御油圧Pτの受圧面積をb、スプリング118bの付勢力をFSとすると、次式(1)で平衡状態となる。
Pτ×b=Pd×a+FS ・・・(1)
従って、推力比制御油圧Pτは、次式(2)で表され、ベルト挟圧Pdに比例する。
Pτ=Pd×(a/b)+FS/b ・・・(2)
そして、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないか、或いは所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2がともに供給されて、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116が何れも原位置に保持されている閉じ状態とされたときには、推力比制御油圧Pτが駆動側油圧シリンダ42cに供給されることから、変速圧Pinが推力比制御油圧Pτと一致させられる。つまり、推力比コントロールバルブ118により変速圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係に保つ推力比制御油圧Pτすなわち変速圧Pinが出力される。
例えば、入力軸回転速度センサ56や車速センサ58の精度上、所定の変速比検出下限車速V’以下の低車速状態では入力軸回転速度Ninや車速Vの検出精度が劣ることから、このような低車速走行時や発進時には回転速度差(偏差)ΔNinを解消するための変速比γのフィードバック制御に替えて、例えば制御油圧PDS1および制御油圧PDS2を共に供給せず変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116を何れも閉じ状態とする所謂閉込み制御を実行する。これにより、低車速走行時や発進時には変速圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とするようにベルト挟圧Pdに比例する変速圧Pinが駆動側油圧シリンダ42cへ供給されて、車両停車時から極低車速時における伝動ベルト48のベルト滑りが防止されると共に、このとき例えば最大変速比γmaxに対応する推力比τ(=従動側油圧シリンダ推力WOUT/駆動側油圧シリンダ推力WIN;WOUTはベルト挟圧Pd×従動側油圧シリンダ46cの受圧面積、WINは変速圧Pin×駆動側油圧シリンダ42cの受圧面積)より大きな推力比τが可能なように上記式(2)の右辺第1項の(a/b)やFS/bが設定されていると、最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’にて良好な発進が行われる。また、上記所定の変速比検出下限車速V’は、後述の変速制御手段152が上記フィードバック制御を実行するか上記閉込み制御を実行するかを選択するための車速Vに関する判定値であって本発明の所定車速に対応しており、所定回転部材の回転速度例えば入力軸回転速度Ninが検出不可能な回転速度となる車速Vとして予め定められた前記フィードバック制御の実行可能な下限の車速であって、例えば2km/h程度に設定されている。
図6は、車速Vをパラメータとして変速比γと推力比τとの予め求められて記憶された関係であって、図示の関係になるように上記式(2)の右辺第1項の(a/b)が設定された場合の一例を示す図である。図6の一点鎖線で示した車速Vのパラメータは駆動側油圧シリンダ42cおよび従動側油圧シリンダ46cにおける遠心油圧を考慮して算出した推力比τであり、実線との交点(V0、V20、V50)にて閉込み制御時に保持可能な所定の変速比としての変速比γが求められる。例えば、この図6に示すように本実施例の無段変速機18においては、車速Vが前記変速比検出下限車速V’以下ないしは0km/hすなわち車両停止中の閉込み制御時に所定の変速比として最大変速比γmaxが保持可能である。
図7は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、変速制御手段152は、例えば図4に示すような予め記憶された変速マップ(変速条件)に従って、実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて目標変速比γ*(=Nint/Nout)に対応する目標入力軸回転速度Nintを逐次設定する。
そして、変速制御手段152は、無段変速機18の変速比γが目標変速比γ
*になるように駆動側プーリ42における伝動ベルト48の巻付け径(有効径)を制御するフィードバック制御を実行することにより、無段変速機18の変速を行う。実入力軸回転速度Ninに着目して表現すれば、変速制御手段152は、実入力軸回転速度Ninが上記設定した目標入力軸回転速度Nintと一致するように、すなわち回転速度差(偏差)ΔNin(=Nint−Nin)を解消するように、その回転速度差ΔNinに応じて無段変速機18の変速を上記フィードバック制御により実行する。すなわち、変速制御手段152は、駆動側油圧シリンダ(駆動側油圧アクチュエータ)42cに対する作動油の給排を制御して無段変速機18の変速を行う、具体的には、駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量Q
CVTを制御する上記フィードバック制御の実行により両可変プーリ42、46のV溝幅を変化させる変速制御指令信号(油圧指令)S
Tを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。ここで、上記フィードバック制御において、上記駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量Q
CVTは変速時の変速比γの変化速度(変速速度)に対応しており、例えば、下記式(3)の制御式によって決定される。具体的に、変速制御手段152は、その式(3)により決定される上記作動油の流量Q
CVTが正である場合には、その流量Q
CVTで駆動側油圧シリンダ42cの作動油が入出力ポート114jから入出力ポート114kさらに入出力ポート116jを経て排出ポートEXから排出されるように、その作動油の流量Q
CVTに応じた制御油圧P
DS2をソレノイド弁DS2から出力させ、無段変速機18のダウンシフトを実行する。また、変速制御手段152は、上記作動油の流量Q
CVTが負である場合には、その流量Q
CVT(絶対値)でライン油圧P
Lが入力ポート114iから入出力ポート114jを経て駆動側油圧シリンダ42cへ供給されるように、その作動油の流量Q
CVT(絶対値)に応じた制御油圧P
DS1をソレノイド弁DS1から出力させ、無段変速機18のアップシフトを実行する。
ここで、上記式(3)の制御式で右辺第1項は比例項であり右辺第2項は積分項である。上記式(3)の「KP」は比例ゲイン、「KI」は積分ゲインをそれぞれ示しており、上記式(3)とその比例ゲインKPおよび積分ゲインKIは、車両の確保すべき走行性能や無段変速機18の機械的性能に基づいて予め実験的に設定されたものである。上記比例ゲインKP、積分ゲインKIの何れも上記フィードバック制御における変速時の変速比γの変化速度を決定する変速ゲインであると言えるが、本実施例では説明を簡潔にし理解を容易にするため比例ゲインKPを「変速ゲイン」と表現することとする。上記式(3)、比例ゲインKP、および積分ゲインKIは、例えば、変速制御手段152に予め記憶されている。また、上記比例ゲイン(変速ゲイン)KPは後述の変速ゲイン変更手段176により変更されることがあるが、その変更が行われない定常時すなわち非過渡状態での変速では、比例ゲインKPには、車両の確保すべき走行性能や無段変速機18の機械的性能に基づいて予め実験的に定められた変速ゲインの定常値KRGが設定されている。
ベルト挟圧力設定手段154は、例えば図5に示すような予め実験的に求められて記憶されたベルト挟圧力マップから、実際のアクセル開度Accおよび電子制御装置50により実際の入力軸回転速度Ninおよび出力軸回転速度Noutに基づいて算出される実変速比γ(=Nin/Nout)で示される車両状態に基づいてベルト挟圧力Pd*を設定する。つまり、ベルト挟圧力設定手段154は、ベルト挟圧力Pd*が得られる為の出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを設定する。なお、車速Vが前記変速比検出下限車速V’以下である場合は上記実変速比γは算出できないので、例えばその場合、ベルト挟圧力設定手段154は、その実変速比γは最大変速比γmaxであるとみなしてベルト挟圧力Pd*やベルト挟圧Pdを設定する。
ベルト挟圧力制御手段156は伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧Pdを調圧する。具体的には、ベルト挟圧力制御手段156は、前記ベルト挟圧力設定手段154により設定されたベルト挟圧力Pd*が得られるように従動側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力Pd*を増減させる。
油圧制御回路100は、上記変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出量を制御すると共に、上記挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧力Pd*が増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを調圧する。
また、変速制御手段152は、前述の機能に加え、車速Vが前記変速比検出下限車速(所定車速)V’以下であることを条件として、通常の変速制御としての回転速度差ΔNinを解消するための変速比γの前記フィードバック制御を行わず、駆動側油圧シリンダ(駆動側油圧アクチュエータ)42c内に作動油を閉じ込めた状態として、駆動側油圧シリンダ42cの推力WINおよび従動側油圧シリンダ(従動側油圧アクチュエータ)46cの推力WOUTを所定の推力比τ(=WOUT/WIN)とする閉込み制御、言い換えれば、推力比コントロールバルブ118により変速圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係に保つ閉込み制御を実行する。すなわち、本実施例では、上記閉込み制御時の所定の推力比τは無段変速機18の変速比γを所定の変速比としての最大変速比γmaxで保持可能な推力比τとされているので、変速制御手段152は、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116を閉じ状態とすることによって、駆動側油圧シリンダ42c内に作動油を閉じ込めた状態として無段変速機18の変速比γを所定の変速比(最大変速比γmax)とする低車速用の変速制御のための変速指令(閉込み制御指令)信号ST’を油圧制御回路100へ出力して上記所定の変速比である最大変速比γmaxを成立させる。
油圧制御回路100は、上記閉込み制御指令信号ST’に従って変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116が閉じ状態とされるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させず、推力比コントロールバルブ118から変速圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係に保つ推力比制御油圧Pτを出力する。
エンジン出力制御手段158は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段158は、アクセル開度Accに応じたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ76へ出力してエンジントルクTEを制御する。
シフトポジション判定手段160は、レバーポジションPSHに基づいてすなわち各レバーポジションPSHのON信号に基づいて現在のレバーポジションPSHを判定したり、シフトレバー74の操作履歴を判定する。例えば、シフトポジション判定手段160は、レバーポジションPSHに基づいてN→Dシフト判定、N→Rシフト判定、「D」ポジション判定、「N」ポジション判定、「R」ポジション判定等を行う。
係合制御手段162は、前記シフトポジション判定手段160によりN→Dシフト或いはN→Rシフトが行われたと判定されたガレージシフト時には、クラッチアプライコントロールバルブ112を第1位置側へ切り換えると共に、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の過渡的な係合状態を制御するために係合ショックが抑制されるように係合油圧を緩やかに上昇させるための制御油圧PSLTを出力し且つライン油圧PLを調圧するために信号圧PSLSを出力するガレージシフト指令信号SAを油圧制御回路100へ出力する。例えば、係合制御手段162は、リニアソレノイド弁SLTをデューティー制御するための指令信号SLTDUTYとして係合過渡油圧指令圧pcltexcを油圧制御回路100へ出力する。
油圧制御回路100は、ガレージシフト時には上記ガレージシフト指令信号SAに従って、クラッチアプライコントロールバルブ112が第1位置側へ切り換えられるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2を出力すると共に、予め定められた規則に従って前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1が係合されるようにリニアソレノイド弁SLTを作動させて制御油圧PSLTを出力し且つエンジン負荷等に応じてライン油圧PLが調圧されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させて信号圧PSLSを出力する。
また、係合制御手段162は、ガレージシフト後例えばガレージシフト開始から所定時間経過後や制御油圧PSLTが所定の係合油圧以上となった後等の定常時には、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ出力油圧PLM2を供給して完全係合状態とするためにクラッチアプライコントロールバルブ112を第2位置側へ切り換えると共に、ライン油圧PLを調圧するために信号圧PSLTを出力する定常制御指令信号SA’を油圧制御回路100へ出力する。例えば、係合制御手段162は、リニアソレノイド弁SLTをデューティー制御するための指令信号SLTDUTYとしてライン圧指令圧plctgtを油圧制御回路100へ出力する。
油圧制御回路100は、定常時には上記定常制御指令信号SA’に従って、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ出力油圧PLM2が供給されて完全係合状態とされるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を同時に作動させずにクラッチアプライコントロールバルブ112を第2位置側へ切り換えると共に、エンジン負荷等に応じてライン油圧PLが調圧されるようにリニアソレノイド弁SLTを作動させて信号圧PSLTを出力する。
このように、リニアソレノイド弁SLTは、ガレージシフト時にはクラッチアプライコントロールバルブ112の第1位置において、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1が係合されるように制御油圧PSLTを出力する(クラッチ圧モードという)。また、リニアソレノイド弁SLTは、定常時にはクラッチアプライコントロールバルブ112の第2位置において、ライン油圧PLが調圧されるように信号圧PSLTを出力する(ライン圧モードという)。また、このクラッチ圧モードにおいては、所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2が出力されていることから、前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ制御油圧PSLTが供給されると同時に、所定の変速比となるように推力比コントロールバルブ118による閉込み制御が行われる。
つまり、ガレージシフト時には変速を行う必要がないことから、そのガレージシフトが行われたときには、クラッチアプライコントロールバルブ112を第1位置に切り換えるための信号油圧としての所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2を通常は無段変速機18の変速を制御するために作動させるソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2から出力させると共に、所定の変速比となるように推力比コントロールバルブ118による閉込み制御が行われる。
ここで、前述したように、本実施例の無段変速機18においては、車両停止中の閉込み制御時には変速比γが最大変速比γmaxとされる、すなわち無段変速機18の伝動ベルト48が最減速位置に戻された状態(以下、「最減速状態」という)とされる。上記閉込み制御においては推力比制御油圧Pτが駆動側油圧シリンダ42cに供給されていることから、閉込み制御後の車両発進の際に駆動側プーリ42の回転に伴ってアップシフトが生じるおそれがある。
そこで、前記変速制御手段152は、後述の最減速判断手段166により無段変速機18が最減速状態にあると判断されて車両停止した後の車両発進の際には、通常の変速制御が実行可能となる車速Vが変速比検出下限車速V’を超えるまで通常の変速制御に先だって、閉込み制御に替えて、ダウンシフト時と同様に駆動側油圧シリンダ42c内の作動油を排出することにより駆動側プーリ42のV溝幅を最大幅に維持させるデューティダウン制御の為のデューティダウン制御指令信号ST”を油圧制御回路100へ出力して無段変速機18の最減速状態を維持させる発進時変速制御手段としての機能を備える。
油圧制御回路100は、上記デューティダウン制御指令信号ST”に従ってソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて駆動側油圧シリンダ42cから作動油を排出する。これによって、無段変速機18のアップシフトが防止されて変速比γが最大変速比γmaxに維持される。
最減速判断手段166は、無段変速機18(伝動ベルト48)が車両停止状態において最減速状態にあるか否かを判断する。最減速判断手段166は、車両停止中には入力軸回転速度Ninおよび出力軸回転速度Noutの何れも零であるため自動変速機18の変速比γを算出できないので、例えば、車両減速走行中に変速比検出下限車速V’を超えている車速Vにおいて既に変速比γが最大変速比γmaxとなっている状態で車両停止したか否か、或いは車両減速走行中に変速比検出下限車速V’を超えている車速Vにおいて変速比γが最大変速比γmaxとなっていないものの車両停止時には最大変速比γmaxとなっていると推定される最大変速比γmax近傍の所定変速比γmax’になっているか否かに基づいて上記判断をする。なお、上記無段変速機18の最減速状態は、理想的には変速比γが最大変速比(最低車速側変速比)γmaxである変速状態であるが、上述のように車両停止中の変速比γは車両停止直前の車両状態から推定されるものであり機械的ばらつき等も考慮して、実際にはある程度の変速比幅を有するものである。そこで本実施例では、上記最減速状態とは、最大変速比γmaxを最大値とした所定の変速比幅を有し、変速比γが最大変速比γmaxである変速状態を含んだ、その変速比γが最大変速比γmaxである場合と同等の発進性能を確保できる変速状態であるとする。従って、最減速判断手段166は、上述のように無段変速機18(伝動ベルト48)が車両停止状態において最減速状態にあるか否かを判断するが、具体的には、無段変速機18の変速比γが、上記最減速状態の有する上記所定の変速比幅における最小値である実験的に設定された最減速状態判定値Lγmax以上であるか否かを判断する。
ところで、車両の急停車やABS(アンチロック・ブレーキ・システム)作動などにより、無段変速機18が車両停止状態において最減速状態となる位置にまで伝動ベルト48が戻らずに停止してしまう所謂ベルト戻り不良が生じる場合がある。このようなベルト戻り不良が生じた発進時に前記変速比検出下限車速V’以上となって閉込み制御から変速比γのフィードバック制御へ切り換えられると、変速比γが速やかに最大変速比γmaxとされるように入力側油圧シリンダ42c内から作動油が急速に排出されることから、伝動ベルト48の緩みやそれに起因するベルト滑りなどが生じるおそれがある。そこで、そのようなベルト滑りが発生することを未然に防止する制御が本実施例では実行され、その制御機能の要部ついて以下に説明する。
変速制御判断手段170は、変速制御手段152が無段変速機18の変速における前記フィードバック制御の実行中であるか、或いは、前記閉込み制御の実行中であるかを判断する。ここで、前述したように変速制御手段152は、無段変速機18が車両停止状態において最減速状態にある旨を否定する否定判断が最減速判断手段166によりなされた場合には、車速Vが変速比検出下限車速(所定車速)V’を超えていれば無段変速機18の変速における前記フィードバック制御を実行し、車速Vが変速比検出下限車速V’以下であれば前記閉込み制御を実行するので、具体的に変速制御判断手段170は、車速Vが変速比検出下限車速V’を超えたか否かを判断し、車速Vが変速比検出下限車速V’を超えていれば上記フィードバック制御の実行中である旨の判断をし、車速Vが変速比検出下限車速V’以下であれば上記閉込み制御の実行中である旨の判断をする。なお、変速制御判断手段170は、上記車速Vについての判断に替えて、油圧制御回路100の作動状態に基づいて、上記フィードバック制御の実行中であるか上記閉込み制御の実行中であるかを判断してもよい。
変速ゲイン変更手段176は、最減速判断手段166により前記否定判断がなされた場合すなわち無段変速機18が車両停止状態において前記最減速状態にはないと判断された場合には、最減速判断手段166により上記否定判断とは逆の肯定判断がなされた場合の前記変速ゲインKPの定常値KRGに対して変速ゲインKPを低下させる。変速ゲイン変更手段176は、上記フィードバック制御の実行中にも上記閉込み制御の実行中にも区別無く上記変速ゲインKPを低下させるが、上記フィードバック制御の実行中にのみ上記変速ゲインKPを低下させてもよい。変速ゲイン変更手段176が変速ゲインKPを定常値KRGに対して低下させるときの低下量は、ベルト滑りを未然に防止しつつ車両の発進性能を損なわないように予め実験的に定められている。
上述のように変速ゲイン変更手段176は、所定の条件のもと専ら車両の発進に際し変速ゲインKPを低下させるが、前記変速比検出下限車速V’を超えた車速Vでの車両走行中において、目標入力軸回転速度Nintと実入力軸回転速度Ninとの回転速度差(偏差)ΔNin(=Nint−Nin)が予め定められた偏差許容判定値LGP以下になった場合もしくは上記回転速度差ΔNinが偏差許容判定値LGP以下である場合には、変速ゲイン変更手段176は前記変速ゲインKPの低下を解除する。ここで、無段変速機18の変速の前記フィードバック制御では、実入力軸回転速度Ninが目標入力軸回転速度Nintに一致して上記回転速度差ΔNinが零となるのが理想的ではあるが実際には一致しない場合もあり得るので、その回転速度差ΔNinの判断ではある程度の許容幅をもつことが必要であり、上記偏差許容判定値LGPは、実入力軸回転速度Ninが目標入力軸回転速度Nintに一致したとみなしても差し支えなく車両発進時のベルト滑り発生のおそれが解消したと判断できる実験的に求められた上記回転速度差ΔNinについての限度値である。
ベルト挟圧力制御手段156は、前述の機能に加え、最減速判断手段166により前記否定判断がなされた場合すなわち無段変速機18が車両停止状態において前記最減速状態にはないと判断された場合には、無段変速機18が車両停止状態において最減速状態にある旨を肯定する前記肯定判断が最減速判断手段166によりなされた場合に対してベルト挟圧Pdを高くする。すなわち、図5に示すようなベルト挟圧力マップに基づいてベルト挟圧力設定手段154によって設定されたベルト挟圧力Pd*が得られるベルト挟圧Pd(以下、「ベルト挟圧Pdの定常値Pd_rg」という)に対してベルト挟圧Pdを高くする。このとき、ベルト挟圧力制御手段156は一律にベルト挟圧Pdを高くするのではなく、変速制御判断手段170の判断に基づき、変速制御手段152が前記閉込み制御を実行する場合つまり閉込み制御中である場合には、駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の給排による無段変速機18の変速を行う場合つまり前記フィードバック制御中である場合と比較して、相対的にベルト挟圧Pdを低くする。例えば、最減速判断手段166により上記否定判断がなされた場合において、ベルト挟圧力制御手段156は、変速制御判断手段170により上記無段変速機18の変速のフィードバック制御中であると判断された場合には、最減速判断手段166により上記肯定判断がなされた場合に対してベルト挟圧Pdを高くし、すなわち、ベルト挟圧Pdをその定常値Pd_rgに対して高くし、一方、変速制御判断手段170により上記閉込み制御中であると判断された場合には、最減速判断手段166により上記肯定判断がなされた場合に対してベルト挟圧Pdを変更しない、すなわち、ベルト挟圧Pdをその定常値Pd_rgに対して変更しない。なお、ベルト挟圧力制御手段156は、最減速判断手段166により前記否定判断がなされた場合において上記閉込み制御中に、無段変速機18のアップシフトが生じない程度で、最減速判断手段166により上記肯定判断がなされた場合に対してベルト挟圧Pdを高くしても差し支えない。ベルト挟圧力制御手段156が上記無段変速機18の変速のフィードバック制御中および上記閉込み制御中にベルト挟圧Pdをその定常値Pd_rgに対して高くするときのそれぞれの上昇量は、ベルト滑りを未然に防止しつつ車両の発進性能や燃費性能を損なわないように予め実験的に定められている。
上述のようにベルト挟圧力制御手段156は、所定の条件のもと専ら車両の発進に際しベルト挟圧Pdをその定常値Pd_rgに対して高くするが、前記変速ゲイン変更手段176の場合と同様に、前記変速比検出下限車速V’を超えた車速Vでの車両走行中において、前記回転速度差ΔNinが前記偏差許容判定値LGP以下になった場合もしくは上記回転速度差ΔNinが偏差許容判定値LGP以下である場合には、ベルト挟圧力制御手段156は上記ベルト挟圧Pdを高くすることを解除する。
図8は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち車両発進に際してベルト滑りの発生を未然に防止するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。好適には、図8のフローチャートは車両発進に際して実行される。
先ず、最減速判断手段166に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SA1においては、車両停止時においてベルト戻り不良ではないか否か、すなわち、無段変速機18が車両停止状態において最減速状態にあるか否かが判断される。具体的には、無段変速機18の変速比γが前記最減速状態判定値Lγmax以上であるか否かが判断される。このSA1の判断が肯定的である場合、すなわち、上記変速比γが最減速状態判定値Lγmax以上であることにより無段変速機18が車両停止状態において最減速状態にあると判断された場合にはSA5に移る。一方、このSA1の判断が否定的である場合、すなわち、車両停止時においてベルト戻り不良であると判断された場合にはSA2に移る。
変速制御判断手段170に対応するSA2においては、無段変速機18の変速における前記フィードバック制御の実行中であるか、すなわち、前記閉込み制御の実行中ではないかが判断される。このSA2の判断が肯定的である場合、すなわち、上記フィードバック制御の実行中である場合にはSA3移る。一方、このSA2の判断が否定的である場合、すなわち、上記閉込み制御の実行中である場合にはSA4に移る。
ベルト挟圧力制御手段156および変速ゲイン変更手段176に対応するSA3においては、前記フィードバック制御における変速ゲインKPがその定常値KRGに対して低下させられる。そして、ベルト挟圧Pdがその定常値Pd_rgに対して高くされる。
変速ゲイン変更手段176に対応するSA4においては、上記SA3と同様に、上記変速ゲインKPがその定常値KRGに対して低下させられるが、上記SA3とは異なり、ベルト挟圧Pdはその定常値Pd_rgに対して変更されない。なお、このSA4におけるベルト挟圧Pdの定常値Pd_rgに対する上昇量が上記SA3におけるベルト挟圧Pdの定常値Pd_rgに対する上昇量よりも小さければ、このSA4において、無段変速機18のアップシフトが生じない程度にベルト挟圧Pdをその定常値Pd_rgに対して高くしても差し支えない。
上記SA3およびSA4において開始された前記変速ゲインKPの低下およびベルト挟圧Pdを高くすることは、前記回転速度差ΔNinが偏差許容判定値LGP以下になった場合に解除される。
SA5においては、上記変速ゲインKPが低下させられることはなく定常値KRGである通常変速ゲインとされる。また、ベルト挟圧Pdが高くされることはなくその定常値Pd_rgのままとされる。
上述のように、本実施例によれば、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧Pdを調圧するベルト挟圧力制御手段156は、最減速判断手段166により前記否定判断がなされた場合すなわち無段変速機18が車両停止状態において前記最減速状態にはないと判断された場合には、最減速判断手段166により肯定判断がなされた場合に対してベルト挟圧Pdを高くするので、車両発進時に無段変速機18の変速比γを最大変速比γmaxにするようにダウンシフトが実行されたとしても、それにより生じるおそれがある、ベルト挟圧Pdに対応した可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力の過渡的な低下に起因したベルト滑りが発生することを未然に防止できる。また、ベルト挟圧力制御手段156は上述のようにベルト挟圧Pdを高くする場合に一律にベルト挟圧Pdを高くするのではなく、変速制御判断手段170の判断に基づき、前記閉込み制御中である場合には、無段変速機18の変速における前記フィードバック制御中である場合と比較してベルト挟圧Pdを低くするので、その閉込み制御中にアップシフトが生じてしまう可能性を低減し車両の発進不良を抑制できる。
また、本実施例によれば、例えば、最減速判断手段166により前記否定判断がなされた場合において、ベルト挟圧力制御手段156は、変速制御判断手段170により上記無段変速機18の変速のフィードバック制御中であると判断された場合には、最減速判断手段166により前記肯定判断がなされた場合に対してベルト挟圧Pdを高くし、一方、変速制御判断手段170により上記閉込み制御中であると判断された場合には、最減速判断手段166により上記肯定判断がなされた場合に対してベルト挟圧Pdを変更しない。このようにした場合には、上記閉込み制御中には推力比τの変化に起因したアップシフトによる車両の発進不良を抑制し、更に、車両発進時に無段変速機18の変速比γを最大変速比γmaxにするように上記フィードバック制御によりダウンシフトが行われたとしても、それにより生じるおそれがある可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力の過渡的な低下に起因したベルト滑りが発生することを未然に防止できる。
また、本実施例によれば、変速ゲイン変更手段176は、最減速判断手段166により前記否定判断がなされた場合すなわち無段変速機18が車両停止状態において前記最減速状態にはないと判断された場合には、最減速判断手段166により前記肯定判断がなされた場合の前記変速ゲインKPの定常値KRGに対して変速ゲインKPを低下させるので、車両発進時に無段変速機18の変速比γを最大変速比γmaxにするように上記フィードバック制御によりダウンシフトが行われたとしても、そのときの変速比γの変化速度(変速速度)が上記変速ゲインKPの低下によって緩やかになり、その結果、上記ダウンシフトにより生じるおそれがある可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力の過渡的な低下に起因したベルト滑りが発生することを未然に防止できる。
また、本実施例によれば、変速制御手段152は、車速Vが前記変速比検出下限車速(所定車速)V’以下であることを条件として、変速比γの前記フィードバック制御を行わず、駆動側油圧シリンダ42c内に作動油を閉じ込めた状態として、駆動側油圧シリンダ42cの推力WINおよび従動側油圧シリンダ46cの推力WOUTを所定の推力比τ(=WOUT/WIN)とする前記閉込み制御を実行する。そして、その閉込み制御時の上記所定の推力比τは無段変速機18の変速比γを所定の変速比としての最大変速比γmaxで保持可能な推力比τとされているので、通常は上記変速比γが最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’とされて車両が停止し、次の発進時には良好な発進性能を得ることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、前記変速比検出下限車速V’を超えた車速Vでの車両走行中において、前記回転速度差ΔNinが前記偏差許容判定値LGP以下になった場合等に、ベルト挟圧力制御手段156は前記ベルト挟圧Pdを高くすることを解除し、変速ゲイン変更手段176は前記変速ゲインKPの低下を解除するが、車速Vが所定の車速判定値LV以上になった場合、或いは、入力軸回転速度Ninが入力軸回転速度判定値LNin以上になった場合にそれらの解除が行われてもよい。上記入力軸回転速度判定値LNinおよび車速判定値LVは、車両発進時においてベルト滑りが生じるおそれのある期間が経過したことを判断するための実験等により求められた判定値である。
また、前述の実施例においては、無段変速機18はその変速比γが連続的に変化させられるものであったが、例えば無段変速機18の変速比γを連続的にではなく敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
また、前述の実施例において、前記走行用動力源であるエンジン12としては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジンが広く用いられる。更に、補助的な走行用動力源として、電動機等がエンジン12に加えて用いられても良い。或いは、走行用動力源として電動機のみが用いられてもよい。
また、前述の実施例において、無段変速機18の変速比γは油圧制御によって変化させられるが、電動のアクチュエータなどにより変速比γが変化させられてもよい。
また、前述の実施例では、理解を容易にするため前記式(3)における比例ゲインKPが変速ゲインと称され、変速ゲイン変更手段176はその比例ゲインKPを変更するが、積分ゲインKIを変更してもよいし、比例ゲインKPと積分ゲインKIとの両方を変更してもよい。
また、前述の実施例において、上記式(3)の右辺は比例項と積分項とから構成されているが、この式(3)はあくまでも無段変速機18の変速速度を決定するための制御式の例示であり、例えば微分項などのその他の項が上記右辺に含まれていてもよいし、上記積分項が無い制御式であってもよい。また、上記式(3)の左辺は駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量QCVTであるが、上記無段変速機18の変速速度に関係するパラメータであれば特に限定されるものではない。
また、前述の実施例において、所定回転部材の回転速度として例示した入力軸回転速度Ninやそれに関連する目標入力軸回転速度Nintなどは、それら入力軸回転速度Ninなどに替えて、エンジン回転速度NEやそれに関連する目標エンジン回転速度NE *など、或いはタービン回転速度NTやそれに関連する目標タービン回転速度NT *などが用いられても良い。従って、入力軸回転速度センサ56等の回転速度センサは、制御する必要がある回転速度に合わせて適宜備えられれば良い。
また、前述の実施例において、流体伝動装置としてロックアップクラッチ26が備えられているトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26は必ずしも設けられなくてもよく、またトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式動力伝達装置が用いられてもよい。
また、前述の実施例において、可変プーリ42,46は、そのV溝幅を変更する推力を付与する油圧シリンダ42c,46cをそれぞれ備えて構成されているが、油圧シリンダ42c,46cがその可変プーリ42,46とは一体的ではなく別個の構成部品として無段変速機18に備えられていてもよい。
また、前述の実施例において、前記変速制御手段152は、最減速判断手段166により無段変速機18が最減速状態にあると判断されて車両停止した後の車両発進の際には、車速Vが変速比検出下限車速V’を超えるまで通常の変速制御に先だって前記デューティダウン制御を実行するが、そのようにデューティダウン制御を実行するのではなく前記閉込み制御を実行することも考え得る。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。