図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しないロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリプーリ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリプーリ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する入力側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42cおよび出力側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されており、入力側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側油圧シリンダ46cの油圧(ベルト挟圧Pd)が油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、入力側油圧シリンダ42cの油圧(変速制御圧Pin)が生じるのである。
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧回路の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST例えば入力側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を駆動するための指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB例えばベルト挟圧Pdを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御させる為のライン油圧制御指令信号SPL例えばライン油圧PLを調圧するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」(図3参照)のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジションおよび「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「L」ポジションは車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、変速比γが連続的に変化させられるように入力側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116、変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とする推力比コントロールバルブ118、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120等を備えている。
ライン油圧PLは、エンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)122によりリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷、変速制御圧Pin、ベルト挟圧Pd等に応じた値に調圧されるようになっている。
より具体的には、プライマリレギュレータバルブ122は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート122iを開閉してオイルポンプ28から発生される作動油圧を出力ポート122tを経て吸入油路124へ排出するスプール弁子122aと、そのスプール弁子122aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング122bと、そのスプリング122bを収容し且つスプール弁子122aに閉弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLTを受け入れる油室122cと、スプール弁子122aに開弁方向の推力を付与するためにオイルポンプ28から発生される作動油圧を受け入れる油室122dとを備えている。
このように構成されたプライマリレギュレータバルブ122において、スプリング122bの付勢力をFS、油室122cにおける制御油圧PSLTの受圧面積をa、油室122dにおけるライン油圧PLの受圧面積差をbとすると、次式(1)で平衡状態となる。
PL×b=PSLT×a+FS ・・・(1)
従って、ライン油圧PLは、次式(2)で表され、制御油圧PSLTに比例する。
PL=PSLT×(a/b)+FS/b ・・・(2)
このように、プライマリレギュレータバルブ122とリニアソレノイド弁SLTとは、油圧指令値としてのライン油圧制御指令信号SPLに基づいてオイルポンプ28から吐出される作動油をライン油圧PLに調圧する調圧装置として機能する。
モジュレータ油圧PMは、制御油圧PSLTおよびリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの元圧となるものであると共に、電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PDS1およびソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PDS2の元圧となるものであって、ライン油圧PLを元圧としてモジュレータバルブ126により一定圧に調圧されるようになっている。
出力油圧PLM2は、ライン油圧PLを元圧としてライン圧モジュレータNO.2バルブ128により制御油圧PSLTに基づいて調圧されるようになっている。
前記マニュアルバルブ120において、入力ポート120aには出力油圧PLM2が供給される。そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、出力油圧PLM2が前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、出力油圧PLM2が後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路および入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
前記変速比コントロールバルブUP114は、軸方向へ移動可能に設けられることによりライン油圧PLを入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側可変プーリ42へ供給可能且つ入出力ポート114kを閉弁するアップシフト位置と入力側可変プーリ42が入出力ポート114jを介して入出力ポート114kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子114aと、そのスプール弁子114aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング114bと、そのスプリング114bを収容し且つスプール弁子114aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室114cと、スプール弁子114aにアップシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室114dとを備えている。
また、変速比コントロールバルブDN116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116jが排出ポートEXと連通させられるダウンシフト位置と入出力ポート116jが入出力ポート116kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aにダウンシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室116dとを備えている。
このように構成された変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116において、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子114aがスプリング114bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート114jと入出力ポート114kとが連通させられ、入力側可変プーリ42(入力側油圧シリンダ42c)の作動油が入出力ポート116jへ流通することが許容される。また、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子116aがスプリング116bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート116jと入出力ポート116kとが連通させられ、推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが入出力ポート114kへ流通することが許容される。
また、制御油圧PDS1が油室114dへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子114aがその制御油圧PDS1に応じた推力によりスプリング114bの付勢力に抗してアップシフト位置側へ移動させられ、ライン油圧PLが制御油圧PDS1に対応する流量で入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側油圧シリンダ42cへ供給されると共に、入出力ポート114kが遮断されて変速比コントロールバルブDN116側への作動油の流通が阻止される。これにより、変速制御圧Pinが高められ、入力側可変プーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。
また、制御油圧PDS2が油室116dへ供給されると、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子116aがその制御油圧PDS2に応じた推力によりスプリング116bの付勢力に抗してダウンシフト位置側へ移動させられ、入力側油圧シリンダ42cの作動油が制御油圧PDS2に対応する流量で入出力ポート114jから入出力ポート114kさらに入出力ポート116jを経て排出ポートEXから排出される。これにより、変速制御圧Pinが低められ、入力側可変プーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。
このように、ライン油圧PLは変速制御圧Pinの元圧となるものであって、制御油圧PDS1が出力されると変速比コントロールバルブUP114に入力されたライン油圧PLが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて変速制御圧Pinが高められて連続的にアップシフトされ、制御油圧PS2が出力されると入力側油圧シリンダ42cの作動油が排出ポートEXから排出されて変速制御圧Pinが低められて連続的にダウンシフトされる。
例えば図4に示すようにアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力回転速度である目標入力軸回転速度NIN *との予め記憶された関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて設定される目標入力軸回転速度NIN *と実際の入力軸回転速度(以下、実入力軸回転速度という)NINとが一致するように、それ等の回転速度差(偏差)ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速がフィードバック制御により実行される、すなわち入力側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給および排出により両可変プーリ42、46のV溝幅が変化させられて変速比γがフィードバック制御により連続的に変化させられる。
図4の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN *が設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NIN *は目標変速比γ*(=NIN */NOUT)に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められる。
また、制御油圧PDS1は変速比コントロールバルブDN116の油室116cに供給され、制御油圧PDS2に拘らずその変速比コントロールバルブDN116を閉じ状態としてダウンシフトを制限する一方、制御油圧PDS2は変速比コントロールバルブUP114の油室114cに供給され、制御油圧PDS1に拘らずその変速比コントロールバルブUP114を閉じ状態としてアップシフトを禁止するようになっている。つまり、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないときはもちろんであるが、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されるときにも、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116は何れも原位置に保持されている閉じ状態とされる。これにより、電気系統の故障などでソレノイド弁DS1、DS2の一方が機能しなくなり、制御油圧PDS1または制御油圧PDS2が最大圧で出力され続けるオンフェール時となった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
前記挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経て出力側可変プーリ46および推力比コントロールバルブ118へベルト挟圧Pdを供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力されたベルト挟圧Pdを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室110eとを備えている。
このように構成された挟圧力コントロールバルブ110において、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧PLが連続的に調圧制御されることにより、出力ポート110tからベルト挟圧Pdが出力される。このように、ライン油圧PLはベルト挟圧Pdの元圧となるものである。なお、出力ポート110tと出力側油圧シリンダ46cとの間の油路には油圧センサ130が設けられており、この油圧センサ130によりベルト挟圧Pdが検出される。
例えば図5に示すように伝達トルクに対応するアクセル開度Accをパラメータとして変速比γとベルト挟圧力Pd*とのベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された関係(ベルト挟圧力マップ)から実際の変速比γおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて決定(算出)されたベルト挟圧力Pd*が得られるように出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdが調圧され、このベルト挟圧Pdに応じてベルト挟圧力Pd*すなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。
前記推力比コントロールバルブ118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート118iを開閉してライン油圧PLを入力ポート118iから出力ポート118tを経て変速比コントロールバルブDN116へ推力比制御油圧Pτを供給可能にするスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するためにベルト挟圧Pdを受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート118tから出力された推力比制御油圧Pτを受け入れるフィードバック油室118dとを備えている。
このように構成された推力比コントロールバルブ118において、油室118cにおけるベルト挟圧Pdの受圧面積をa、フィードバック油室118dにおける推力比制御油圧Pτの受圧面積をb、スプリング118bの付勢力をFSとすると、次式(3)で平衡状態となる。
Pτ×b=Pd×a+FS ・・・(3)
従って、推力比制御油圧Pτは、次式(4)で表され、ベルト挟圧Pdに比例する。
Pτ=Pd×(a/b)+FS/b ・・・(4)
そして、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないか、或いは所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2がともに供給されて、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116が何れも原位置に保持されている閉じ状態とされたときには、推力比制御油圧Pτが入力側油圧シリンダ42cに供給されることから、変速制御圧Pinが推力比制御油圧Pτと一致させられる。つまり、推力比コントロールバルブ118により変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係に保つ推力比制御油圧Pτすなわち変速制御圧Pinが出力される。
例えば、入力軸回転速度センサ56や車速センサ58の精度上所定車速V’以下の低車速状態では入力軸回転速度NINや車速Vの検出精度が劣ることから、このような低車速走行時や発進時には回転速度差(偏差)ΔNINを解消するための変速比γのフィードバック制御に替えて、例えば制御油圧PDS1および制御油圧PDS2を共に供給せず変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116を何れも閉じ状態とする所謂閉じ込み制御を実行する。これにより、低車速走行時や発進時には変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とするようにベルト挟圧Pdに比例する変速制御圧Pinが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて、車両停車時から極低車速時における伝動ベルト48のベルト滑りが防止されると共に、このとき例えば最大変速比γmaxに対応する推力比τ(=出力側油圧シリンダ推力WOUT/入力側油圧シリンダ推力WIN;WOUTはベルト挟圧Pd×出力側油圧シリンダ46cの受圧面積S46、WINは変速制御圧Pin×入力側油圧シリンダ42cの受圧面積S42)より大きな推力比τが可能なように上記式(4)の右辺第1項の(a/b)やFS/bが設定されていると、最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’にて良好な発進が行われる。また、上記所定車速V’は、所定回転部材の回転速度例えば入力軸回転速度NINが検出不可能な回転速度となる車速Vとして予め定められたフィードバック制御を実行可能な下限の車速であって、例えば2km/h程度に設定されている。
図6は、車速Vをパラメータとして変速比γと推力比τとの予め求められて記憶された関係であって、図示の関係になるように上記式(4)の右辺第1項の(a/b)が設定された場合の一例を示す図である。図6の一点鎖線で示した車速Vのパラメータは入力側油圧シリンダ42cおよび出力側油圧シリンダ46cにおける遠心油圧を考慮して算出した推力比τであり、実線との交点(V0、V20、V50)にて閉じ込み制御時に保持可能な所定の変速比としての変速比γが求められる。例えば、この図6に示すように本実施例の無段変速機18においては、車速Vが0km/hすなわち車両停止中の閉じ込み制御時に所定の変速比として最大変速比γmaxが保持可能である。
図7は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、目標入力回転設定手段150は、例えば図4に示すような予め記憶された変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NIN *を設定する。
変速制御手段152は、実入力軸回転速度NINが前記目標入力回転設定手段150によって設定された目標入力軸回転速度NIN *と一致するように、回転速度差ΔNIN(=NIN *−NIN)に応じて無段変速機18の変速をフィードバック実行する。すなわち、入力側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量を制御することにより両可変プーリ42、46のV溝幅を変化させる変速制御指令信号(油圧指令)STを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
ベルト挟圧力設定手段154は、例えば図5に示すような予め実験的に求められて記憶されたベルト挟圧力マップから、実際のアクセル開度Accおよび電子制御装置50により実際の入力軸回転速度NINおよび出力軸回転速度NOUTに基づいて算出される実変速比γ(=NIN/NOUT)で示される車両状態に基づいてベルト挟圧力Pd*を設定する。つまり、ベルト挟圧力設定手段154は、ベルト挟圧力Pd*が得られる為の出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを設定する。
ベルト挟圧力制御手段156は、前記ベルト挟圧力設定手段154により設定されたベルト挟圧力Pd*が得られる為の出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdに調圧する挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力Pd*を増減させる。
油圧制御回路100は、上記変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて入力側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出量を制御すると共に、上記挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧力Pd*が増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを調圧する。
エンジン出力制御手段158は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段158は、アクセル開度Accに応じたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ76へ出力してエンジントルクTEを制御する。
また、エンジン出力制御手段158は、燃費を向上させるために、所定の条件が成立したときにエンジン12への燃料を遮断するフューエルカット制御手段として機能する。
具体的には、エンジン出力制御手段158は、スロットル弁開度θTHが略全閉であったり或いは2〜3%程度以下の微開であったりするようなスロットルオフの車両減速走行時に、エンジン回転速度NEが例えば1400rpm程度に予め定められたフューエルカット開始回転速度NEKを越え且つエンジン回転速度NEが低下に向かっている走行状態となってから所定の遅延時間TFC経過した等の所定の条件が成立したときに、フューエルカット作動が開始されるようにエンジン12への燃料供給の停止指令SFCを燃料噴射装置78に出力する。
その後、エンジン出力制御手段158は、減速走行と共にエンジン回転速度NEが予め定められたフューエルカット復帰回転速度NEF以下となるとフューエルカット作動が終了するようにエンジン12への燃料供給の停止指令SFCの出力を中止する。フューエルカット作動が解除させられると、燃料供給が再開されてエンジン12が速やかに起動される。このフューエルカット復帰回転速度NEFは、燃料供給が再開されたときにエンジン12が速やかに起動されるための予め実験的に求めて記憶されたエンジン回転速度判定値であって、例えば550rpm程度のアイドル回転速度NIDLやそれ以下の300〜500rpm程度のエンジン回転速度NEが設定されている。
上記所定の遅延時間TFCやフューエルカット開始回転速度NEKとフューエルカット復帰回転速度NEFとの回転速度差は、フューエルカット制御の開始・終了判定を安定化するヒステリシスを設ける為の判定条件である。つまり、アクセルオン・オフによるフューエルカット作動のビジー切替えやエンジン回転速度NE変化に伴うフューエルカット作動のビジー切替えを防止する為に設けられている判定条件である。
ところで、変速性能例えば変速応答性を良好なものとする為に変速比γがフィードバック制御されるときに必要な変速制御圧Pin(以下、Pin圧という)およびベルト挟圧力Pd*を発生させる為のベルト挟圧Pd(以下、Pd圧という)を確保できるよう、それらPin圧やPd圧の元圧であるライン油圧PLを設定する必要がある。
つまり、ライン油圧PLがPin圧やPd圧よりも比較的高いと変速応答性が良くベルト滑りも生じ難いが、必要以上に高いと燃費が悪化する要因となる。また、ライン油圧PLがPin圧より低いと変速応答性が低下する要因となったり、ライン油圧PLがPd圧よりも低いとベルト滑りが生じ易くなる要因となる。
そこで、ライン油圧設定手段160は、ソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2による入力側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量制御とリニアソレノイド弁SLSによるPd圧の制御とは独立してリニアソレノイド弁SLTにより制御されるライン油圧PLを、Pin圧とPd圧とのいずれか高い方の油圧に基づいて設定する。
例えば、ライン油圧設定手段160は、Pin圧とPd圧とのそれぞれにライン油圧PLの制御精度や車両状態を考慮した所定の余裕値を加えた油圧のいずれか高い方の油圧に基づいてライン油圧PLを設定する。
図8は、ライン油圧PLを設定する考え方の一例を説明するための図である。図8に示すように、所定の余裕値として予め実験的に求めて定められた基準余裕値EXは、Pin圧においてはPin圧基準余裕値EXinであり、Pd圧においてはPd圧基準余裕値EXdである。このように、基準余裕値EXは、Pin圧とPd圧とではそれぞれ異なる値が設定される。そして、Pin圧にPin圧基準余裕値EXinを加えた油圧とPd圧にPd圧基準余裕値EXdを加えた油圧とのいずれか高い方の油圧が必要なライン油圧PLすなわち目標のライン油圧(以下、目標ライン油圧)PL *として設定される。
目標ライン油圧PL *の設定について以下により詳細に説明する。
Pd圧は、ベルト挟圧力Pd*が得られる為のPd圧となるようにベルト挟圧力制御手段156による挟圧力制御指令信号SBに従ってリニアソレノイド弁SLSを作動させて直接的に調圧制御される油圧である。よって、目標ライン油圧PL *の設定に用いられるPd圧は、前記ベルト挟圧力設定手段154により設定されたベルト挟圧力Pd*が得られる為のPd圧がそのまま用いられる。
一方、Pin圧は、目標入力軸回転速度NIN *(或いは目標変速比γ*)となるようにフィードバック制御される際の作動油の流量制御およびベルト挟圧力制御により結果として生じさせられる油圧であって、直接的に調圧制御されるものではない。よって、目標ライン油圧PL *の設定に用いられるPin圧は、推定値として算出される。
前述したように、出力側油圧シリンダ46cの推力をWOUT、入力側油圧シリンダ42cの推力をWINとすると、推力比τは、次式(5)で表され、
τ=WOUT/WIN ・・・(5)
出力側油圧シリンダ46cの受圧面積をS46、入力側油圧シリンダ42cの受圧面積をS42とすると、出力側油圧シリンダ推力WOUTおよび入力側油圧シリンダ推力WINは、それぞれ次式(6)、(7)で表され、
WOUT=Pd×S46 ・・・(6)
WIN=Pin×S42 ・・・(7)
式(5)〜(7)から、Pin圧は、次式(8)で表される。
Pin=(Pd×S46)/(τ×S42) ・・・(8)
入力側油圧推定値算出手段162は、上記式(8)に従って、推力比τ、前記ベルト挟圧力設定手段154により設定されたPd圧、および受圧面積をS46、S42に基づいてPin圧の推定値(以下、推定Pin圧という)を算出する。
推力比算出手段164は、前記図6に示すような車速Vをパラメータとして変速比γと推力比τとの予め求められて記憶された関係(推力比特性、マップ)から、実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τを算出する。
Pd圧は、前述したように、ベルト挟圧力Pd*が得られる為のPd圧となるように直接的に調圧制御される油圧である。よって、ライン油圧設定手段160は、前記ライン油圧制御指令信号SPLと実際のライン油圧PLとのばらつきのみを考慮して、すなわちライン油圧制御指令信号SPLに対して実際のライン油圧PLがばらついたとしてもその実際のライン油圧PLがPd圧を上回るように、予め実験的に定められて記憶されたPd圧基準余裕値EXdを設定する。
一方、Pin圧は、前述したように、直接的に調圧制御されるものではなく、推定値として算出される油圧である。また、一定の変速比γに維持するようにフィードバック制御を行うにはある程度の余裕代が必要である。よって、ライン油圧設定手段160は、前記ライン油圧制御指令信号SPLと実際のライン油圧PLのばらつきのみを考慮して設定されたPd圧基準余裕値EXdよりも大きくなるように、予め実験的に定められて記憶されたPin圧基準余裕値EXinを設定する。このように、Pin圧とPd圧とではそれぞれ異なる基準余裕値EXが設定される。
また、ライン油圧設定手段160は、車両状態(走行状態)に基づいてそれぞれPd圧基準余裕値EXdおよびPin圧基準余裕値EXinを変更しても良い。
例えば、ライン油圧設定手段160は、作動油温が低温となる低油温時には、通常の作動油温となる通常油温時に比較してライン油圧制御指令信号SPLに対する実際のライン油圧PLの制御精度が低下することから、通常油温時に比較して大きなPd圧基準余裕値EXdおよびPin圧基準余裕値EXinを設定する。上記通常油温は、例えば暖機完了後の油温が想定される。
また、ライン油圧設定手段160は、一定の変速比γが維持されるような定常走行時には、変速比γを変化させる変速時に比較して変速比γの変動が極めて小さく、変速比γを変化させる為の余裕分が小さくて済むことから、変速時に比較して小さなPd圧基準余裕値EXdおよびPin圧基準余裕値EXinを設定する。
また、ライン油圧設定手段160は、急変速が必要となるような走行時には、すなわち変速比γの変化速度が所定値を超えて変速比γが変化させられる急変速時には、変速比γを大きく変化させる為に大きな余裕分が必要であることから、通常変速時や定常走行時に比較して大きなPd圧基準余裕値EXdおよびPin圧基準余裕値EXinを設定する。この通常変速は、変速比γの変化速度が所定値を超えない範囲で変速比γが変化させられる変速であり、急変速時は、図4の矢印Aに示すようなアクセルペダル68の急戻し操作が行われて急増速であるオフアップシフトが実行される走行時や、矢印Bに示すような目標入力軸回転速度NIN *の下限値に沿って変速比γが変化させられて急増速となる走行時等が想定される。
そして、前記ライン油圧設定手段160は、前記ベルト挟圧力設定手段154により設定されたPd圧に前記Pd圧基準余裕値EXdを加算した油圧値をPd圧用ライン油圧PLdとして算出し、前記入力側油圧推定値算出手段162により算出された推定Pin圧に前記Pin圧基準余裕値EXinを加算した油圧値をPin圧用ライン油圧PLinとして算出し、このPd圧用ライン油圧PLdとPin圧用ライン油圧PLinとのいずれか高い方のライン油圧を択一的に選択し、その選択した高い方のライン油圧を目標ライン油圧PL *として設定する。尚、図8に示すように、ライン油圧PLが伝動ベルト48の許容負荷を超えないための予め実験的に求めて定められたライン油圧MAXガードを上限として目標ライン油圧PL *は設定される。このライン油圧MAXガードは、伝動ベルト48の許容負荷に替えて或いは加えて、燃費を考慮して定められても良い。
ライン油圧制御手段166は、例えば図9に示すようにライン油圧制御指令信号SPLとそのライン油圧制御指令信号SPLに基づいて調圧されるライン油圧PLとの予め記憶された関係(ライン油圧特性)から前記ライン油圧設定手段160により設定された目標ライン油圧PL *に基づいてその目標ライン油圧PL *が得られるためのライン油圧制御指令信号SPL(制御電流)を油圧制御回路100へ出力してライン油圧PLを調圧させる。
油圧制御回路100は、上記ライン油圧制御指令信号SPLに従ってリニアソレノイド弁SLTを作動させてライン油圧PLを調圧する。
図9のライン油圧特性は、ライン油圧制御指令信号SPLとそのライン油圧制御指令信号SPLに基づいて駆動させられるノーマルオープン型のリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTとの関係、および制御油圧PSLTとその制御油圧PSLTに基づいてプライマリレギュレータバルブ122により調圧されるライン油圧PLとの関係を、ライン油圧制御指令信号SPLとライン油圧PLとの関係で表したものでもあり、予め実験的に求められた油圧特性である。
ここで、車両が駆動状態にあるときと被駆動状態にあるときとでは推力比τが異なる。すなわち、駆動状態にあるときと被駆動状態にあるときとでは、被駆動状態にあるときの方が実際のPin圧(以下、実Pin圧という)が低く、図6に示すような推力比特性が異なる。そのため、車両が駆動状態にあるか或いは被駆動状態にあるかを考慮して異なる推力比特性から推力比τを求め、推定Pin圧を算出する必要がある。
記憶手段168は、車両が駆動状態にあるときの推力比τを求める為の駆動時の推力比特性(以下、駆動時マップという)と、車両が被駆動状態にあるときの推力比τを求める為の被駆動時の推力比特性(以下、被駆動時マップという)とを記憶する。
前記推力比算出手段164は、車両が駆動状態にあるときには駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τを算出する一方で、車両が被駆動状態にあるときには被駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τを算出する。
しかしながら、車両の駆動状態から被駆動状態への切り替わりに際し、被駆動判定フラグがオンとされたときに駆動時マップから被駆動時マップへ切り替えてその被駆動時マップから推力比τを算出すると、駆動状態の実Pin圧(以下、駆動時実Pin圧という)から被駆動状態の実Pin圧(以下、被駆動時実Pin圧という)への低下には応答遅れがあることから、実Pin圧が被駆動時実Pin圧へ低下するよりも前に推定Pin圧が被駆動時マップから求めた推力比τに基づいて算出した推定Pin圧(以下、被駆動時推定Pin圧という)とされて、駆動時実Pin圧から被駆動時実Pin圧となる過程においては実Pin圧よりも推定Pin圧が低くなり、無段変速機18の制御性が低下する可能性がある。例えば、推定Pin圧が実Pin圧よりも低くなると、比較的小さな目標ライン油圧PL *が設定されてPin圧に必要なライン油圧PLが不足する可能性がある。上記被駆動判定フラグは、例えば前記フューエルカット作動の所定の条件の1つである、スロットル弁開度θTHが略全閉であったり或いは2〜3%程度以下の微開であったりするようなスロットルオフの車両減速走行中である条件が成立したときに電子制御装置50によりオンとされる。
そこで、スロットルオフの車両減速走行から所定の遅延時間TFC経過したことを条件とするフューエルカット作動が開始されたときに駆動時マップから被駆動時マップへ切り替えてその被駆動時マップから推力比τを算出する。これにより、被駆動時実Pin圧に確実に低下しているときに、推定Pin圧として被駆動時推定Pin圧が算出される。
より具体的には、フューエルカット状態判定手段170は、前記エンジン出力制御手段158から出力される停止指令SFCに基づいてエンジン12がフューエルカット状態にあるか否かを判定する。また、フューエルカット状態判定手段170は、停止指令SFCが出力されていることによりエンジン12がフューエルカット状態にあると判定したときには、フューエルカットフラグをオンとする。
前記推力比算出手段164は、車両の駆動状態から被駆動状態への切り替わりに際して、車両が駆動状態にあるか或いは被駆動状態にあるかに依って推力比τを算出するのではなく、前記フューエルカット状態判定手段170によりエンジン12がフューエルカット状態にないと判定されたときには駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τを算出する一方で、フューエルカット状態判定手段170によりエンジン12がフューエルカット状態にあると判定されたときには被駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τを算出する。
つまり、推力比算出手段164は、車両の駆動状態から被駆動状態への切り替わりに際し、被駆動判定フラグがオンとされたときに駆動時マップから被駆動時マップへ切り替えてその被駆動時マップから推力比τを算出するのではなく、フューエルカットフラグがオンとされたときに駆動時マップから被駆動時マップへ切り替えてその被駆動時マップから推力比τを算出する。
図10は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち車両が駆動状態にあるか或いは被駆動状態にあるかを考慮して異なる推力比特性から推力比τを求め、推定Pin圧を算出する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図11は、図10のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートである。
図10において、先ず、前記フューエルカット状態判定手段170に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、燃料噴射装置78に出力されるエンジン12への燃料供給の停止指令SFCに基づいてエンジン12がフューエルカットされているか否かが判定される。この停止指令SFCが出力されると、フューエルカットフラグがオフからオンとされる。
図11のt1時点は、駆動状態にある車両が被駆動状態とされて被駆動判定フラグがオンとされたことを示している。図11のt1時点以降に示すように、駆動時実Pin圧から被駆動時実Pin圧への変化は、車両の駆動状態から被駆動状態への切り替わりに対して応答遅れがある。
次いで、前記推力比算出手段164に対応するS2において、前記図6に示すような推力比特性から、実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τが算出される。より具体的には、停止指令SFCが出力されておらず前記S1の判断が否定される場合はS21において、駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τが算出される。一方、停止指令SFCが出力されて前記S1の判断が肯定される場合はS22において、被駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τが算出される。
次いで、前記入力側油圧推定値算出手段162に対応するS3において、 Pin=(Pd×S46)/(τ×S42) に従って、前記S2にて算出された推力比τ、前記ベルト挟圧力設定手段154により設定されたPd圧、および受圧面積をS46、S42に基づいて推定Pin圧が算出される。
図11のt2時点は、フューエルカットフラグがオフからオンとされたことを示している。図11の一点鎖線はフューエルカットフラグがオンとされたときに被駆動時マップへ切り替えられて被駆動時推定Pin圧が算出される場合であり、破線は被駆動判定フラグがオンとされたときに被駆動時マップへ切り替えられて被駆動時推定Pin圧が算出される場合である。破線においては、被駆動時実Pin圧へ低下する前に推定Pin圧が被駆動時推定Pin圧とされるので、被駆動時実Pin圧へ低下するまでは推定Pin圧が実Pin圧よりも低くなっている。一方、フューエルカットフラグで被駆動時マップへ切り替えられる本実施例の一点鎖線においては、フューエルカットフラグがオンとされるまで推定Pin圧は駆動時マップから求めた推力比τに基づいて算出した推定Pin圧(以下、駆動時推定Pin圧という)とされるので、推定Pin圧が実Pin圧よりも低くなることが回避される。
上述のように、本実施例によれば、推力比算出手段164により、フューエルカット状態判定手段170によりエンジン12がフューエルカット状態にないと判定されたときには駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τが算出される一方で、フューエルカット状態判定手段170によりエンジン12がフューエルカット状態にあると判定されたときには被駆動時マップから実際の車速Vおよび実変速比γに基づいて推力比τが算出されるので、車両の駆動状態から被駆動状態への切り替わりのタイミングよりも遅れたタイミングで実行されるエンジン12のフューエルカットに基づいて推力比τを求める為のマップ(推力比特性)が切り替えられることとなり、駆動状態から被駆動状態への切り替わりのタイミングよりも応答遅れがある実Pin圧が実際に低下したタイミングでそのマップが切り替えられる。よって、推力比τに基づいて算出される推定Pin圧が実Pin圧よりも低くなることが回避されて、推定Pin圧に基づいて無段変速機18が制御される際の制御性が向上する。
また、本実施例によれば、ライン油圧制御手段166により推定Pin圧に基づいてライン油圧PLが制御されるので、Pin圧に必要なライン油圧PLが不足することが回避される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。