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JP4237208B2 - 圧電素子及びその駆動方法、圧電装置、液体吐出装置 - Google Patents

圧電素子及びその駆動方法、圧電装置、液体吐出装置 Download PDF

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Description

本発明は圧電素子及びその駆動方法に係り、特に圧電体の結晶構造と駆動条件とに関するものである。本発明はまた、圧電素子とこの駆動を制御する制御手段とを備えた圧電装置、及びこの圧電装置を用いた液体吐出装置に関するものである。
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電体と、圧電体に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載されるアクチュエータ等として使用されている。
圧電体材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト構造を有する複合酸化物が知られている。かかる材料は電界無印加時において自発分極性を有する強誘電体であり、従来の圧電素子では、強誘電体の分極軸に合わせた方向に電界を印加することで、分極軸方向に伸びる「圧電効果」を利用することが一般的であった(従来技術1)。すなわち、従来は、電界印加方向と分極軸方向とが合うように、材料設計を行うことが重要とされてきた(分極軸=電界印加方向)。
しかしながら、強誘電体の上記圧電効果を利用するだけでは歪変位量に限界があり、より大きな歪変位量が求められるようになってきている。
一方、電子機器の小型軽量化・高機能化に伴い、これに搭載される圧電素子においても小型軽量化・高機能化が進められるようになってきている。例えば、インクジェット式記録ヘッドでは、高画質化のために、圧電素子の高密度化が検討されており、それに伴って圧電素子の薄型化が検討されている。圧電素子を薄型化すると、従来と同様に電圧を印加しても圧電体にかかる電界印加強度は増すこととなり、従来と同じ材料設計をそのまま適用しても充分な圧電効果は得られない。
強誘電体の上記圧電効果による圧電特性(電界印加強度と歪変位量との関係)は概略、図11の曲線Q(従来技術1)に示すような関係にあることが知られている。曲線Qには、ある電界印加強度Exまでは電界印加強度の増加に対して歪変位量が直線的に増加するが、電界印加強度Exを超えると、電界印加強度の増加に対する歪変位量の増加が著しく小さくなり、歪変位量がほぼ飽和することが示されている。
従来は、電界印加強度の増加に対して歪変位量が直線的に増加する電界印加強度0〜Exの範囲内で使用されてきた(材料にもよるが、例えば、Ex=5〜100kV/cm程度、最大電界印加強度=0.1〜10kV/cm程度)。しかしながら、圧電素子を薄型化すると、従来と同様に電圧を印加しても圧電体にかかる電界印加強度は増すから、例えば0〜Ey(Ey>Ex)の範囲内で使用することになる。この場合の実質的な圧電定数は破線Q’で示す傾きで示され、0〜Exの範囲内の圧電定数よりも小さく、本来素子が持っている圧電特性が充分に発揮されない。
特に、最小電界印加強度と最大電界印加強度との差を従来と同様レベルとする場合、例えばEx〜Eyの範囲内で使用する場合には、ほとんど歪変位のない範囲内で使用することとなり、圧電素子として充分な機能が得られない。
かかる背景下、特許文献1には、電界印加により圧電体を相転移させる圧電素子が提案されている(従来技術2)。該文献には、相転移膜と、電極と、相転移膜をキュリー点Tc付近の温度Tに調整する発熱体とを備える圧電素子が開示されている(請求項1参照)。相転移膜としては、正方晶系と菱面体晶系との間、又は菱面体晶系或いは正方晶系と立方晶系との間で転移する膜が挙げられている(請求項2参照)。
特許文献1に記載の圧電素子では、強誘電体の圧電効果と相転移に伴う結晶構造の変化による体積変化とにより、従来よりも大きな歪変位量が得られるとされている。
特許第3568107号公報
特許文献1には、相転移膜として、いずれも強誘電体である正方晶系と菱面体晶系との間で相転移する膜と、強誘電体である菱面体晶系或いは正方晶系と常誘電体である立方晶系との間で転移する膜とが挙げられている。しかしながら、特許文献1に記載の圧電素子(従来技術2)は、キュリー点Tc付近で使用するものである。キュリー点Tcは強誘電体と常誘電体との相転移温度に相当するものであるから、キュリー点Tc付近で使用する場合には、正方晶系と菱面体晶系との間で相転移する膜はあり得ない。したがって、特許文献1に記載の圧電素子は、強誘電体と常誘電体との間の相転移を利用するものにしかならない。かかる素子では、常誘電体が自発分極性を有しないので、相転移後には電界印加により分極軸方向に伸びる圧電効果は得られない。
特許文献1に記載の圧電素子の圧電特性は概略、図11の曲線R(従来技術2)に示すものとなる。ここでは、比較しやすいよう、相転移前の圧電特性は強誘電体の圧電効果のみを利用する上記従来技術1の曲線Qと同様としてある。曲線Rには、相転移前は強誘電体の圧電効果により電界印加強度の増加に対して歪変位量が直線的に増加し、相転移が開始する電界印加強度E1から相転移が略完了する電界印加強度E2までは、相転移に伴う結晶構造の変化によって歪変位量が増加し、常誘電体への相転移が略完了する電界印加強度E2を超えると、強誘電体の圧電効果が得られなくなるので、それ以上電界を印加しても、歪変位量は増加しないことが示されている。
強誘電体の圧電効果のみを利用する従来技術1と同様、圧電素子を薄型化すると、歪変位量のない電界印加強度の高い範囲を含めて使用することとなり、有効ではない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、大きな歪変位量が安定的に得られ、薄型化にも対応可能な、圧電素子及びその駆動方法を提供することを目的とするものである。本発明はまた、上記圧電素子と、この駆動を制御する制御手段とを備えた圧電装置を提供することを目的とするものである。
本発明の圧電素子は、圧電性を有する圧電体と、該圧電体に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子において、
前記圧電体は、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、前記第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が該第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶からなり、
最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)を充足する条件で、駆動されるものであることを特徴とするものである。
Emin<E1<Emax・・・(1)
(式中、電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。)
本発明の圧電素子において、前記圧電体は、電界無印加時において第1の強誘電体結晶のみからなる多結晶でもよいし、電界無印加時において第1の強誘電体結晶と結晶系の異なる他の強誘電体結晶とが混合した多結晶でもよい。
本明細書において、「第1の強誘電体結晶が結晶配向性を有する」とは、Lotgerling法により測定される配向率Fが、80%以上であることと定義する。
配向率Fは、下記式で表される。
F(%)=(P−P0)/(1−P0)×100・・・(i)
式(i)中、Pは、配向面からの反射強度の合計と全反射強度の合計の比である。(001)配向の場合、Pは、(00l)面からの反射強度I(00l)の合計ΣI(00l)と、各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(00l)/ΣI(hkl)})である。例えば、ペロブスカイト結晶において(001)配向の場合、P=I(001)/[I(001)+I(100)+I(101)+I(110)+I(111)]である。
P0は、完全にランダムな配向をしている試料のPである。
完全にランダムな配向をしている場合(P=P0)にはF=0%であり、完全に配向をしている場合(P=1)にはF=100%である。
なお、「背景技術」の項において挙げた特許文献1(従来技術2)に結晶配向性について言及されていないように、従来は、圧電体として不均一構造のセラミックス焼結体が用いられており、結晶配向性を有する圧電体を用いるという発想がなかった。
本発明の圧電素子は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(2)を充足する条件で、駆動されるものであることが好ましい。
Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
(式中、電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。)
本明細書において、「第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度E2」とは、それ以上電界を印加してもそれ以上相転移が起こらない電界強度を意味している。E2以上の電界強度を印加しても、第1の強誘電体結晶の一部が相転移せずに残る場合がある。
本発明の圧電素子において、前記第1の強誘電体結晶の分極軸方向が、前記電極による電界印加方向とは異なる方向であることが好ましい。特に、前記電界印加方向が、前記第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しいことが好ましい。
本明細書において、「電界印加方向が、第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しい」とは、電界印加方向と第2の強誘電体結晶の分極軸方向とのずれが±20°以内と定義する。
「背景技術」の項において、強誘電体の圧電効果のみを利用する従来一般的な圧電素子(従来技術1)では、強誘電体の分極軸に合わせた方向に電界を印加することが重要とされてきたことを述べた。これをそのまま、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶に相転移させる本発明の系に適用すると、相転移前の第1の強誘電体結晶の分極軸に合わせて電界を印加することになる。
本発明の圧電素子では、従来技術1とは異なり、第1の強誘電体結晶の分極軸方向と電界印加方向とを変え、好ましくは電界印加方向を第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略一致させることで、「エンジニアードドメイン効果」等が得られ、好ましい。
「単結晶体のエンジニアードドメイン効果」は、“Ultrahigh strain and piezoelectric behavior in relaxor based ferroelectric single crystals”, S.E.Park et.al., JAP, 82, 1804(1997)に記載されている。
上記文献には、PZN-8%PT単結晶体について、第1の強誘電体結晶(菱面体晶系)から第2の強誘電体結晶(正方晶系)へ相転移させる際に、第1の強誘電体結晶の分極軸方向と電界印加方向とを変え、電界印加方向を第2の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせて相転移を行うことで、電界印加方向を第1の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせるよりも大きな変位量が得られることが、「エンジニアードドメイン効果」として記載されている。
上記文献図17に記載の圧電特性を図12に示しておく。上記文献には、StepAとStepBの範囲内、すなわち相転移が略完了するまでの範囲内について、エンジニアードドメイン効果により、電界印加方向を第1の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせるよりも大きな変位量が得られることが記載されている。エンジニアードドメイン効果が起こる理由については、明らかにされていない。
ただし、上記文献には、相転移後の圧電特性については特に議論はなされていない。また、多結晶体自体について言及がなく、本発明で用いる結晶配向性を有する多結晶体については一切言及がなされていない。また、最小電界印加強度と最大電界印加強度とを特定の範囲内に設定して駆動するようなことについても言及がなされていない。すなわち、上記文献には、「単結晶体のエンジニアードドメイン効果」は報告されているが、単にその効果が報告されているだけで、多結晶体への応用、圧電素子としての具体的な利用等については、言及されていない。
本発明の圧電素子において、前記第1の強誘電体結晶と前記第2の強誘電体結晶との組合せとしては、前記第1の強誘電体結晶が、正方晶系結晶、斜方晶系結晶、及び菱面体晶系結晶のうちいずれかであり、前記第2の強誘電体結晶が、正方晶系結晶、斜方晶系結晶、及び菱面体晶系結晶のうちいずれかであり、かつ前記第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系である組合せが挙げられる。
強誘電体結晶の分極軸は以下の通りである。
正方晶系:<001>、斜方晶系:<110>、菱面体晶系:<111>
電界印加方向は通常、圧電体の厚み方向(圧電体の表面に対して垂直方向、すなわち配向方向)である。
上記分極軸を考慮すれば、電界印加方向(配向方向)が相転移後の第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しくなる、第1の強誘電体結晶と第2の強誘電体結晶との組合せとしては、
(1)前記第1の強誘電体結晶が略<001>方向に結晶配向性を有する菱面体晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が正方晶系結晶である組合せ、
(2)前記第1の強誘電体結晶が略<111>方向に結晶配向性を有する正方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が菱面体晶系結晶である組合せ、
(3)前記第1の強誘電体結晶が略<001>方向に結晶配向性を有する斜方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が正方晶系結晶である組合せ、
(4)前記第1の強誘電体結晶が略<110>方向に結晶配向性を有する正方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が斜方晶系結晶である組合せ、
(5)前記第1の強誘電体結晶が略<110>方向に結晶配向性を有する菱面体晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が斜方晶系結晶である組合せ、
(6)前記第1の強誘電体結晶が略<111>方向に結晶配向性を有する斜方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が菱面体晶系結晶である組合せが挙げられる。
本明細書において、第1の強誘電体結晶が略<abc>方向に結晶配向性を有するとは、配向率Fが80%以上と定義する。
本発明の圧電素子において、前記圧電体としては、1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ものが挙げられる。
前記圧電体としては、下記一般式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ものが好ましい。
一般式ABO
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,La,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
本発明の圧電素子において、前記圧電体の前記第1の強誘電体結晶から前記第2の強誘電体結晶への相転移温度が、−50〜200℃の範囲にあることが好ましい。
本発明の圧電素子において、前記圧電体は厚み20μm以下の圧電膜であることが好ましい。前記圧電体は、粒子配向セラミックス焼結体からなるものでもよい。
本発明の圧電素子の駆動方法は、圧電性を有する圧電体と、該圧電体に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子の駆動方法において、
前記圧電体は、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、前記第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が該第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶からなり、
最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)を充足する条件で、駆動することを特徴とするものである。
Emin<E1<Emax・・・(1)
(式中、電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。)
本発明の圧電素子の駆動方法において、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(2)を充足する条件で、駆動することが好ましい。
Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
(式中、電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。)
本発明の圧電装置は、
圧電性を有する圧電体と、該圧電体に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子と、
該圧電素子の駆動を制御する制御手段とを備えた圧電装置において、
前記圧電体は、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、前記第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が該第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶からなり、
前記制御手段は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)を充足する条件で、前記圧電素子を駆動するものであることを特徴とするものである。
Emin<E1<Emax・・・(1)
(式中、電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。)
本発明の圧電装置において、前記制御手段は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(2)を充足する条件で、前記圧電素子を駆動するものであることが好ましい。
Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
(式中、電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。)
本発明の液体吐出装置は、上記の本発明の圧電装置と、液体が貯留される液体貯留室及び該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口を有する液体貯留吐出部材とを備えたことを特徴とするものである。
本発明の圧電素子は、
圧電体として、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶を用い、
最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)、好ましくは下記式(2)を充足する条件で、駆動する構成としている。
Emin<E1<Emax・・・(1)
Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
(式中、電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。)
本発明の圧電素子では、圧電体の相転移に伴う結晶構造の変化による体積変化が得られ、しかも、圧電体は相転移前後のいずれにおいても強誘電体結晶からなるので、相転移前後のいずれにおいても強誘電体の圧電効果が得られ、上記式(1)、(2)のいずれを充足する条件で駆動するにせよ、トータルとして大きな歪変位量が得られる。
本発明の圧電素子では、相転移前の強誘電体結晶である第1の強誘電体結晶を配向性結晶としているので、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が安定的に進行し、大きな歪変位量が安定的に得られる。
上記構成では、バルク単結晶を用いる場合に比して、製造容易性、コスト、形状設計自由度等の点で有利である。また、薄膜化する場合には、高価な単結晶基板を用いる必要がないので、基板選択の幅が広がり、コストやプロセス選択性等の点で有利である。
同じ化学式組成の圧電体で比較すれば、本発明の圧電素子は、最大電界印加強度Emaxが、強誘電体の圧電効果のみを利用する従来一般的な圧電素子(「背景技術」の従来技術1)の最大電界印加強度と同等又はそれよりも高い条件で駆動するものであり、従来と同様の電圧を印加しても高い電界印加強度となる薄型の圧電素子にも適用可能なものである。すなわち、本発明の圧電素子は、薄型化にも対応可能なものである。
本発明の圧電素子においては、第1の強誘電体結晶の分極軸方向が、電界印加方向とは異なる方向であることが好ましい。特に、電界印加方向が、第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しいことが好ましい。かかる構成とすることで、「エンジニアードドメイン効果」が発現し、また相転移が効率よく進行するので、より大きな歪変位量が安定的に得られ、好ましい。
「圧電素子」
「圧電素子、圧電アクチュエータ、及びインクジェット式記録ヘッド」
図面を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子、及びこれを備えた圧電アクチュエータ(圧電装置)、及びインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図1はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
図1に示す圧電素子1は、基板11の表面に、下部電極12と圧電体13と上部電極14とが順次積層された素子である。圧電体13は圧電性を有する無機化合物多結晶からなり、下部電極12と上部電極14とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。
基板11としては特に制限なく、シリコン,ガラス,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),アルミナ,サファイヤ,シリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板11としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
下部電極12の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。上部電極14の主成分としては特に制限なく、下部電極20で例示した材料,Al,Ta,Cr,Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。下部電極12と上部電極14の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
圧電アクチュエータ(圧電装置)2は、圧電素子1の基板11の裏面に、圧電体14の伸縮により振動する振動板16が取り付けられたものである。圧電アクチュエータ2には、圧電素子1を駆動する駆動回路等の制御手段15も備えられている。
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、圧電アクチュエータ2の裏面に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)21及びインク室21から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)22を有するインクノズル(インク貯留吐出部材)20が取り付けられたものである。
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子1に印加する電界強度を増減させて圧電素子1を伸縮させ、これによってインク室21からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
基板11とは独立した部材の振動板16及びインクノズル20を取り付ける代わりに、基板11の一部を振動板16及びインクノズル20に加工してもよい。例えば、基板11がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板11を裏面側からエッチングしてインク室21を形成し、基板自体の加工により振動板16とインクノズル20とを形成することができる。
本実施形態において、圧電体13は、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶からなり、所定の電界強度E1以上の電界印加により、第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶により、構成されている。
本実施形態における圧電体13の圧電特性(電界印加強度と歪変位量との関係)は概略、図2の曲線Pに示すものとなる(図12(“Ultrahigh strain and piezoelectric behavior in relaxor based ferroelectric single crystals”, S.E.Park et.al., JAP, 82, 1804(1997)、図17)を参照)。
電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。通常はE1<E2であるが、E1=E2もあり得る。
図2に示す如く、圧電体13は、電界印加強度E=0〜E1(相転移前)では、第1の強誘電体結晶の圧電効果により、電界印加強度の増加に伴って歪変位量が直線的に増加し、電界印加強度E=E1〜E2では、相転移に伴う結晶構造の変化による体積変化が起こり、E=0〜E1の範囲内よりも大きい傾きで、電界印加強度の増加に伴って歪変位量が直線的に増加し、電界印加強度E≧E2(相転移後)では、第2の強誘電体結晶の圧電効果により、電界印加強度の増加に伴って歪変位量が直線的に増加する圧電特性を有するものである。
圧電体13では、相転移に伴う結晶構造の変化による体積変化(電界印加強度E=E1〜E2の範囲)が起こり、しかも、圧電体13は相転移前後のいずれにおいても強誘電体結晶からなるので、相転移前後のいずれにおいても強誘電体の圧電効果が得られ、電界印加強度E=0〜E1、E=E1〜E2、E≧E2のいずれの範囲内においても、大きい歪変位量が得られる。
本実施形態では、上記特性を有する圧電体13を制御手段15によって、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)を充足する条件で、駆動する構成としている。すなわち、最小電界印加強度Eminは相転移が起こらない範囲内(0でもよい)とし、最大電界印加強度Emaxは少なくとも一部が相転移する範囲内として、駆動する構成としている。かかる構成では、第1の強誘電体結晶の圧電効果と、圧電体13の相転移に伴う結晶構造の変化による体積変化とが得られ、大きな歪変位量が得られる。
Emin<E1<Emax・・・(1)
本実施形態では、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(2)を充足する条件で、駆動する構成とすることが好ましい。すなわち、最小電界印加強度Eminは相転移が起こらない範囲内(0でもよい)とし、最大電界印加強度Emaxは第1の強誘電体結晶が略完全に第2の強誘電体結晶に相転移する範囲内として、駆動する構成とすることが好ましい。かかる構成では、第1の強誘電体結晶の圧電効果と、圧電体13の相転移に伴う結晶構造の変化による体積変化と、第2の強誘電体結晶の圧電効果とが得られ、大きな歪変位量が得られる。図2には、Emin及びEmaxが下記式(2)を充足する場合について図示してある。
Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
「背景技術」において、図11に示したように、強誘電体の圧電効果のみを利用する従来一般的な圧電素子(従来技術1)では、ある電界印加強度Exまでは電界印加強度の増加に対して歪変位量が直線的に増加するが、電界印加強度Exを超えると、電界印加強度の増加に対する歪変位量の増加が著しく小さくなり、歪変位量がほぼ飽和するため、電界印加強度の増加に対して歪変位量が直線的に増加する電界印加強度0〜Exの範囲内で使用されてきたことを述べた。
同じ化学式組成の圧電体で比較すれば、圧電体13では、従来技術1では歪変位量がほぼ飽和する前に相転移が開始する(E1≦Ex)。
本実施形態の圧電素子1は、最大電界印加強度Emax(>E1)が、強誘電体の圧電効果のみを利用する従来一般的な圧電素子(従来技術1)の最大電界印加強度と同等又はそれよりも高い条件で、駆動するものであり、従来と同様の電界を印加しても高い電界印加強度となる薄型の圧電素子にも適用可能なものである。
圧電体13の組成としては上記結晶条件を充足するものであれば特に制限されない。圧電体13としては、1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ものが挙げられる。
圧電体13としては、下記一般式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ものが好ましい。
一般式ABO
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,La,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
上記一般式で表されるペロブスカイト型酸化物としては、
チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
電気特性がより良好となることから、圧電体13は、Mg,Ca,Sr,Ba,Bi,Nb,Ta,W,及びLn(=ランタニド元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,及びLu))等の金属イオンを、1種又は2種以上含むものであることが好ましい。
PZT等では、立方晶系と正方晶系と菱面体晶系との3種の結晶系があり、チタン酸バリウム等では、立方晶系と正方晶系と斜方晶系と菱面体晶系との4種の結晶系がある。
立方晶系は常誘電体であるので、第1の強誘電体結晶は、正方晶系結晶、斜方晶系結晶、及び菱面体晶系結晶のうちいずれかであり、第2の強誘電体結晶は、正方晶系結晶、斜方晶系結晶、及び菱面体晶系結晶のうちいずれかであり、かつ第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系である。PZT等では、上記のように斜方晶系がないので、第1の強誘電体結晶と第2の強誘電体結晶は、一方が正方晶系で他方が菱面体晶系となる。
一般に、強誘電体を含む誘電体全般のギブス自由エネルギーGは下記式で表され、ある組成の誘電体の結晶系は、応力、電場、温度により一義的に決まる。
G=U+Xixi−EiPi−TS
(U:内部エネルギー、Xi:応力、xi:歪、Ei:電場、Pi:分極、T:温度、S:エントロピー)
チタン酸バリウム(BaTiO)における温度Tとギブス自由エネルギーGと結晶系との関係を図3に示す。菱面体晶系と斜方晶系との相転移温度は−80℃程度、斜方晶系と正方晶系との相転移温度は10℃程度、正方晶系と立方晶系との相転移温度は120℃程度である。PZTは、斜方晶系がないことを除けば、傾向としては同様である。
圧電体13の形態は適宜設計され、膜でも焼結体でもよい。本実施形態の圧電素子1は、圧電体13が厚み20μm以下の薄い圧電膜である場合に有効である。いずれの形態を採るにせよ、本実施形態では、相転移前の第1の強誘電体結晶が結晶配向性を有するよう、圧電体13を形成する。かかる圧電体13としては、配向膜(1軸配向性を有する膜)、エピタキシャル膜(3軸配向性を有する膜)、あるいは粒子配向セラミックス焼結体が挙げられる。
配向膜は、スパッタ法、MOCVD法、及びパルスレーザデポジッション法等の気相法;ゾルゲル法及び有機金属分解法等の液相法などの公知の薄膜形成方法を用い、一軸配向性結晶が生成される条件で成膜することで、形成できる。例えば、(100)配向させる場合は、下部電極として(100)配向したPt等を用いればよい(後記実施例1を参照)。
エピタキシャル膜は、基板及び下部電極に圧電膜と格子整合性の良い材料を用いることにより形成できる。エピタキシャル膜を形成可能な基板/下部電極の好適な組合せとしては、SrTiO/SrRuO、及びMgO/Pt等が挙げられる。
粒子配向セラミックス焼結体は、ホットプレス法、シート法、及びシート法で得られる複数のシートを積層プレスする積層プレス法等により、形成できる。
本実施形態の圧電素子1では、相転移前の強誘電体結晶である第1の強誘電体結晶を配向性結晶としているので、電界印加強度E=0〜E1の範囲(相転移前)においては、第1の強誘電体結晶の圧電効果が圧電体13全体に渡って均等に安定的に起こり、電界印加強度E=E1〜E2の範囲においては、圧電体13全体に渡って第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が安定的に進行し、電界印加強度E≧E2の範囲(相転移後)においては、第2の強誘電体結晶の圧電効果が圧電体13全体に渡って均等に安定的に起こる。したがって、上記式(1)、(2)のいずれを充足する条件で駆動するにせよ、大きな歪変位量が安定的に得られる。
上記構成では、バルク単結晶を用いる場合に比して、製造容易性、コスト、形状設計自由度等の点で有利である。また、薄膜化する場合には、高価な単結晶基板を用いる必要がないので、基板選択の幅が広がり、コストやプロセス選択性等の点で有利である。
「背景技術」の項において、強誘電体の圧電効果のみを利用する従来一般的な圧電素子(従来技術1)では、強誘電体の分極軸に合わせた方向に電界を印加することが重要とされてきたことを述べた。これをそのまま、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶に相転移させる本実施形態の系に適用すると、相転移前の第1の強誘電体結晶の分極軸に合わせて電界を印加することになる。
本実施形態では、従来技術1の電界印加方向を採用するのではなく、第1の強誘電体結晶の分極軸方向を、電極12、14による電界印加方向と異なる方向とすることが好ましい。かかる構成とすることで、「エンジニアードドメイン効果」が得られ、好ましい。
「エンジニアードドメイン効果」は、第1の強誘電体結晶の分極軸方向と電界印加方向とを変えることにより、電界印加方向を第1の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせるよりも大きな変位量が安定的に得られる効果である。
すなわち、第1の強誘電体結晶の分極軸方向と電界印加方向とを変えた場合には、電界印加強度E=0〜E1の範囲内において、電界印加強度の増加に対する歪変位量の増加の傾き(圧電定数)が、エンジニアードドメイン効果により、電界印加方向を第1の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせるよりも大きくなる。
また、第1の強誘電体結晶の分極軸方向が電界印加方向とは異なる方向である構成、特に、電界印加方向が第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しい構成では、「エンジニアードドメイン効果」に加えてさらなる効果も得られる。
本発明者は、電界印加方向を相転移後の第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しくすると、第1の強誘電体結晶から分極軸の異なる第2の強誘電体結晶への相転移が、最も効率よく進行することを見出している。これは、分極軸と電界印加方向とが合う方が結晶的に安定であり、第1の強誘電体結晶がより安定な第2の強誘電体結晶へ相転移しやすくなるためと推察される。
電界印加強度E2以上の電界を印加しても、第2の強誘電体結晶に相転移せずに第1の強誘電体結晶の一部が残る場合があるが、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が効率よく進行することで、電界印加強度E2以上の電界を印加した際に、第2の強誘電体結晶に相転移せずに残る第1の強誘電体結晶の割合を少なくすることができ、安定的にすべての第1の強誘電体結晶を第2の強誘電体結晶に相転移させることも可能である。この結果として、電界印加強度E=E1〜E2の範囲内において、電界印加方向を第1の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせるよりも、大きな歪変位量が安定的に得られる。
また、第2の強誘電体結晶に相転移後は、電界印加方向と分極軸とが略一致することになるので、電界印加強度E≧E2において、第2の強誘電体結晶の圧電効果が効果的に発現し、電界印加方向を第1の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせるよりも、大きな歪変位量が安定的に得られる。
上記効果は、少なくとも第1の強誘電体結晶の分極軸方向が電界印加方向とは異なる方向であれば得られ、電界印加方向が相転移後の第2の強誘電体結晶の分極軸方向に近い程、顕著に発現する。
要約すれば、第1の強誘電体結晶の分極軸方向と電界印加方向とを変え、好ましくは電界印加方向を第2の強誘電体結晶の分極軸方向に合わせて相転移を行うことで、以下の効果が得られる。
(a)電界印加強度E=0〜E1の範囲内において、「エンジニアードドメイン効果」により、より大きな歪変位量が安定的に得られる。
(b)電界印加強度E=E1〜E2の範囲内において、相転移が効率よく進行するため、より大きな歪変位量が安定的に得られる。
(c)電界印加強度E≧E2の範囲内において、第2の強誘電体結晶の圧電効果が効果的に発現するため、より大きな歪変位量が安定的に得られる。
すなわち、いずれの電界印加強度の範囲内においても、より大きな歪変位量が安定的に得られる。
以下、電界印加方向が相転移後の第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しくなる、第1の強誘電体結晶と第2の強誘電体結晶との組合せについて、具体的に説明する。
強誘電体結晶の分極軸は以下の通りである。
正方晶系:<001>、斜方晶系:<110>、菱面体晶系:<111>
電界印加方向は通常、圧電体13の厚み方向(圧電体13の表面に対して垂直方向、すなわち配向方向)である。
上記分極軸を考慮すれば、電界印加方向(配向方向)が相転移後の第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しくなる、第1の強誘電体結晶と第2の強誘電体結晶との組合せとしては、
(1)第1の強誘電体結晶が略<001>方向に結晶配向性を有する菱面体晶系結晶であり、第2の強誘電体結晶が正方晶系結晶である組合せ、
(2)第1の強誘電体結晶が略<111>方向に結晶配向性を有する正方晶系結晶であり、第2の強誘電体結晶が菱面体晶系結晶である組合せ、
(3)第1の強誘電体結晶が略<001>方向に結晶配向性を有する斜方晶系結晶であり、第2の強誘電体結晶が正方晶系結晶である組合せ、
(4)第1の強誘電体結晶が略<110>方向に結晶配向性を有する正方晶系結晶であり、第2の強誘電体結晶が斜方晶系結晶である組合せ、
(5)第1の強誘電体結晶が略<110>方向に結晶配向性を有する菱面体晶系結晶であり、第2の強誘電体結晶が斜方晶系結晶である組合せ、
(6)第1の強誘電体結晶が略<111>方向に結晶配向性を有する斜方晶系結晶であり、第2の強誘電体結晶が菱面体晶系結晶である組合せが挙げられる。
本実施形態の圧電素子1では、基本的には、圧電体13の第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移は、電界印加強度を変化させるだけで実施されるように、設計を行うことが好ましい。すなわち、圧電体13の組成及びいずれの結晶系間の相転移を採用するかは、使用環境温度に相転移温度を有する系となるよう、決定することが好ましい。ただし、必要に応じて、素子温度が相転移温度となるよう、調温することは差し支えない。いずれにせよ、相転移温度又はその近傍で駆動することで、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が効率よく起こり、好ましい。
従来は、圧電素子は常温で使用されることが一般的であり、常温での使用を前提に設計されてきたが、今後は、より高温の環境下(例えば、車のエンジン周り、CPU周り等の用途では80℃以上、インクジェット用途でもインク粘度低減のため40〜80℃になり得る)、より低温の環境下(例えば、冷蔵庫内等)でも、使用される可能性がある。具体的には、今後は−50〜200℃の使用環境温度を考慮して材料を設計していくことが好ましい。
本実施形態では、上記使用環境温度を考慮すれば、圧電体13の第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移温度が、−50〜200℃の範囲にあることが好ましい。
使用環境温度が相転移温度である条件では、PZTでは、(1)第1の強誘電体結晶が略<100>方向に結晶配向性を有する菱面体晶系結晶であり、第2の強誘電体結晶が正方晶系結晶である組合せの場合、組成や厚みにより異なるが、E1=10〜150kV/cm程度、E2=30〜300kV/cm程度である。
同じ化学式組成の圧電体13で比較すれば、本実施形態の圧電素子1は、最大電界印加強度Emax(>E1)が、強誘電体の圧電効果のみを利用する従来一般的な圧電素子(「背景技術」の従来技術1)の最大電界印加強度(通常0.1〜10kV/cm程度)と同等又はそれよりも高い条件(例えば100kV/cm以上)で、駆動するものであり、従来と同様の電圧を印加しても高い電界印加強度となる薄型の圧電素子にも適用可能なものである。
薄膜にかかる応力には、成膜時の内部応力に加え、基板との熱膨張係数差による応力があるが、一般的に−10〜+10GPaの範囲で材料設計すれば良い。
圧電体13が、電界無印加時において第1の強誘電体結晶のみからなる多結晶である場合について説明したが、圧電体13は、電界無印加時において第1の強誘電体結晶と結晶系の異なる他の強誘電体結晶とが混合した多結晶であってもよい。この場合にも、第1の強誘電体結晶のエンジニアードドメイン効果による圧電歪や第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移に伴う体積変化による歪変位が得られる。
本実施形態の圧電素子1は、圧電体13として、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶を用い、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが上記式(1)、好ましくは上記式(2)を充足する条件で、駆動する構成としている。
本実施形態の圧電素子1では、圧電体13の相転移に伴う結晶構造の変化による体積変化が得られ、しかも、圧電体13は相転移前後のいずれにおいても強誘電体結晶からなるので、相転移前後のいずれにおいても強誘電体の圧電効果が得られ、上記式(1)、(2)のいずれを充足する条件で駆動するにせよ、トータルとして大きな歪変位量が得られる。
本実施形態の圧電素子1では、相転移前の強誘電体結晶である第1の強誘電体結晶を配向性結晶としているので、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が安定的に進行し、大きな歪変位量が安定的に得られる。
上記構成では、バルク単結晶を用いる場合に比して、製造容易性、コスト、形状設計自由度等の点で有利である。また、薄膜化する場合には、高価な単結晶基板を用いる必要がないので、基板選択の幅が広がり、コストやプロセス選択性等の点で有利である。
本実施形態の圧電素子1は、最大電界印加強度Emaxが、強誘電体の圧電効果のみを利用する従来一般的な圧電素子の最大電界印加強度と同等又はそれよりも高い条件で、駆動するものであり、従来と同様の電界を印加しても高い電界印加強度となる薄型の圧電素子にも適用可能なものである。すなわち、本実施形態の圧電素子1は、薄型化にも対応可能なものである。
本実施形態の圧電素子1においては、第1の強誘電体結晶の分極軸方向が、電界印加方向とは異なる方向であることが好ましい。特に、電界印加方向が、第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しいことが好ましい。かかる構成とすることで、「エンジニアードドメイン効果」が発現し、また相転移が効率よく進行するので、より大きな歪変位量が安定的に得られ、好ましい。
「インクジェット式記録装置」
図4及び図5を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図4は装置全体図であり、図5は部分上面図である。
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)3K,3C,3M,3Yを有する印字部102と、各ヘッド3K,3C,3M,3Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド3K,3C,3M,3Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3である。
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図4のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図4上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図4の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図5を参照)。各印字ヘッド3K,3C,3M,3Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド3K,3C,3M,3Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド3K,3C,3M,3Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット記記録装置100は、以上のように構成されている。
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
(100)MgO基板の表面に、スパッタ法にて厚み0.2μmの(100)Pt下部電極を形成した。次いで、パルスレーザデポジッション法にて、圧電体として厚み5μmのPbZr0.55Ti0.45薄膜を形成した。さらにその上に、厚み0.2μmのPt上部電極を形成して、本発明の圧電素子を得た。
上記圧電膜を成膜した時点で、得られた圧電膜の電界印加X線回折(電界印加XRD)測定を行ったところ、電界無印加時に<001>方向に配向性を有する菱面体晶系結晶(第1の強誘電体結晶)であり(配向率95%)、<001>方向に電界を印加することで、正方晶系結晶(第2の強誘電体結晶)に相転移することが確認された。本実施例では、電界印加方向は相転移後の結晶の分極軸に一致している。
第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度E1=110kV/cm、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度E2=160kV/cmであった。
カンチレバーを用いて、最小電界印加強度Emin=50kV/cm(<E1)〜最大電界印加強度Emax=200kV/cm(>E2)における圧電定数d31を求めたところ、190pm/Vであった。本実施例の駆動条件は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが上記式(2)を充足する条件である。
(比較例1)
基板として(111)MgO基板を用い、(111)Pt下部電極を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較用の圧電素子を得た。
得られた圧電膜に対して実施例1と同様に電界印加XRD測定を行ったところ、電界無印加時に<111>方向に配向性を有する菱面体晶系結晶(分極軸方向に配向)であり(配向率90%)、実施例1と同様に電界を印加しても相転移が起こらなかった。
実施例1と同様に、最小電界印加強度Emin=50kV/cm〜最大電界印加強度Emax=200kV/cmにおける圧電定数d31を求めたところ、120pm/Vであった。
(実施例2)
表面にTiO密着層を20nm形成したSiO/Si基板の表面に、スパッタ法にて厚み0.2μmのPt下部電極を形成した。次いで、スパッタ法にて、圧電体として厚み2.4μmのPbZr0.46Ti0.42Nb0.12薄膜を形成した。さらにその上に厚み0.2μmのPt上部電極を形成して、本発明の圧電素子を得た。
得られた圧電膜に対して実施例1と同様に電界印加XRD測定を行ったところ、電界無印加時に<001>方向に配向性を有する菱面体晶系結晶(第1の強誘電体結晶)であり(配向率99%)、<001>方向に電界を印加することで、正方晶系結晶(第2の強誘電体結晶)に相転移することが確認された。本実施例では、電界印加方向は相転移後の結晶の分極軸に一致している。電界無印加時のXRDパターンを図6に示す。
ダイアフラム型圧電素子を得て、この素子の電界−変位曲線を求めた。電界−変位曲線には、相転移が開始する電界印加強度E1と相転移が終了する電界印加強度E2とにおいて、電界−変位曲線の傾きが変化する変曲点が見られた。第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界印加強度E1=45kV/cm、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界印加強度E2=68kV/cmであった。この結果は、電界印加XRD測定の結果と一致しており、電界−変位曲線と電界印加XRD測定の結果から、相転移が起こっていることが確認された。
最小電界印加強度Emin=0kV/cm(<E1)〜最大電界印加強度Emax=60kV/cm(>E1)で駆動したときの電界−変位曲線を図7に示す。この駆動条件は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが上記式(1)を充足するが、上記式(2)を充足しない条件である。
最小電界印加強度Emin=0kV/cm(<E1)〜最大電界印加強度Emax=100kV/cm(>E2)で駆動したときの電界−変位曲線を図8に示す。この駆動条件は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが上記式(2)を充足する条件である。
図7と図8との比較から、上記式(2)を充足する条件で駆動することで、より大きな変位量が得られることが示された。最小電界印加強度Emin=0kV/cm(<E1)〜最大電界印加強度Emax=100kV/cm(>E2)における圧電定数d31を求めたところ、250pm/Vであった。
(比較例2)
圧電膜の組成をPbZr0.42Ti0.46Nb0.12とした以外は、実施例2と同様にして、比較用の圧電素子を得た。
得られた圧電膜に対して実施例1と同様に電界印加XRD測定を行ったところ、電界無印加時に<100> / <001>方向に配向性を有する正方晶系結晶(分極軸方向に配向)であり(配向率99%以上)、実施例2と同様に電界を印加しても相転移が起こらなかった。電界無印加時のXRDパターンを図9に示す。
ダイアフラム型圧電素子を得て、この電界−変位曲線を求めた。実施例2と同様に、最小電界印加強度Emin=0kV/cm〜最大電界印加強度Emax=100kV/cmにおける圧電定数d31を求めたところ、150pm/Vであった。
(実施例1,2と比較例1,2との比較)
実施例1と比較例1との比較、及び実施例2と比較例2との比較から、圧電体として、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶からなり、所定の電界強度以上の電界印加により、第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する多結晶を用い、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが上記式(1)、好ましくは上記式(2)を充足する条件で駆動することで、大きい歪変位量が得られることが示された。
(実施例3)
スパッタ法にて、圧電体として厚み5.0μmのPbZr0.44Ti0.44Nb0.12薄膜を形成し、酸素雰囲気下で650℃のアニール処理を施した後、上部電極を形成した以外は、実施例2と同様にして、本発明の圧電素子を得た。
得られた圧電膜に対して実施例1と同様に電界印加XRD測定を行ったところ、電界無印加時に<001>方向に配向性を有する菱面体晶系結晶(第1の強誘電体結晶)と、<100> / <001>方向に配向性を有する正方晶系結晶とが混合した多結晶であり、<001>方向に電界を印加することで、菱面体晶系結晶の一部が正方晶系結晶(第2の強誘電体結晶)に相転移することが確認された。電界印加XRD測定の結果を図10に示す。図10には、正方晶系結晶を符号T、菱面体晶系結晶を符号Rで表し、それぞれの結晶の回折ピークを示してある。
図10には、電界印加強度の増加に伴って、菱面体晶系結晶の回折ピークであるR(002)がシフトしている様子が示されている。これは、電界印加の増加に伴って菱面体晶系結晶の格子が電界印加方向に伸びて、格子定数が増大したことによるものである(エンジニアードドメイン効果による圧電歪)。図10にはまた、電界印加強度の増加に伴って、正方晶系結晶の回折ピークであるT(200)及びT(002)のピーク強度が大きくなっている様子が示されている。これは、電界印加の増加に伴って菱面体晶系結晶の一部が正方晶系結晶に相転移したことによるものである。
実施例1と同様に、カンチレバーを用いて、最小電界印加強度Emin=0kV/cm(<E1)〜最大電界印加強度Emax=100kV/cm(>E2)における圧電定数d31を求めたところ、250pm/Vであった。
本発明の圧電素子は、インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ、及び超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ、及び強誘電メモリ(FRAM)等に好ましく利用できる。
本発明に係る実施形態の圧電素子及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造を示す要部断面図 図1の圧電素子における圧電体の圧電特性を示す図 チタン酸バリウムにおける温度TとギブスエネルギーGと結晶系との関係を示す図 図1のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図 図4のインクジェット式記録装置の部分上面図 実施例2で得られた圧電膜の電界無印加時のXRDパターン 実施例2で得られた圧電素子について、Emin=0kV/cm(<E1)〜Emax=60kV/cm(>E1)で駆動したときの電界−変位曲線 実施例2で得られた圧電素子について、Emin=0kV/cm(<E1)〜Emax=100kV/cm(>E2)で駆動したときの電界−変位曲線 比較例2で得られた圧電膜の電界無印加時のXRDパターン 実施例3の電界印加XRD測定結果を示す図 従来の圧電素子における圧電体の圧電特性を示す図 PZN-8%PT単結晶体のエンジニアードドメイン効果を示す図
符号の説明
1 圧電素子
2 圧電アクチュエータ(圧電装置)
3,3K,3C,3M,3Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
12、14 電極
13 圧電体
15 制御手段
20 インクノズル(インク貯留吐出部材)
21 インク室(液体貯留室)
22 インク吐出口(液体吐出口)
100 インクジェット式記録装置

Claims (21)

  1. 圧電性を有する圧電体と、該圧電体に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子において、
    前記圧電体は、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、前記第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が該第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶からなり、
    最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)を充足する条件で、駆動されるものであることを特徴とする圧電素子。
    Emin<E1<Emax・・・(1)
    (式中、電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。)
  2. 最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(2)を充足する条件で、駆動されるものであることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
    Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
    (式中、電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。)
  3. 前記第1の強誘電体結晶の分極軸方向が、前記電極による電界印加方向とは異なる方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。
  4. 前記電界印加方向が、前記第2の強誘電体結晶の分極軸方向に略等しいことを特徴とする請求項3に記載の圧電素子。
  5. 前記第1の強誘電体結晶が、正方晶系結晶、斜方晶系結晶、及び菱面体晶系結晶のうちいずれかであり、
    前記第2の強誘電体結晶が、正方晶系結晶、斜方晶系結晶、及び菱面体晶系結晶のうちいずれかであり、かつ前記第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の圧電素子。
  6. 前記第1の強誘電体結晶が略<001>方向に結晶配向性を有する菱面体晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が正方晶系結晶であることを特徴とする請求項5に記載の圧電素子。
  7. 前記第1の強誘電体結晶が略<111>方向に結晶配向性を有する正方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が菱面体晶系結晶であることを特徴とする請求項5に記載の圧電素子。
  8. 前記第1の強誘電体結晶が略<001>方向に結晶配向性を有する斜方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が正方晶系結晶であることを特徴とする請求項5に記載の圧電素子。
  9. 前記第1の強誘電体結晶が略<110>方向に結晶配向性を有する正方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が斜方晶系結晶であることを特徴とする請求項5に記載の圧電素子。
  10. 前記第1の強誘電体結晶が略<110>方向に結晶配向性を有する菱面体晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が斜方晶系結晶であることを特徴とする請求項5に記載の圧電素子。
  11. 前記第1の強誘電体結晶が略<111>方向に結晶配向性を有する斜方晶系結晶であり、前記第2の強誘電体結晶が菱面体晶系結晶であることを特徴とする請求項5に記載の圧電素子。
  12. 前記圧電体が、1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の圧電素子。
  13. 前記圧電体が、下記一般式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ことを特徴とする請求項12に記載の圧電素子。
    一般式ABO
    (式中、A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,La,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
    B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
    O:酸素原子、
    Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
  14. 前記圧電体の前記第1の強誘電体結晶から前記第2の強誘電体結晶への相転移温度が、−50〜200℃の範囲にあることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の圧電素子。
  15. 前記圧電体が、厚み20μm以下の圧電膜であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の圧電素子。
  16. 前記圧電体が、粒子配向セラミックス焼結体からなることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の圧電素子。
  17. 圧電性を有する圧電体と、該圧電体に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子の駆動方法において、
    前記圧電体は、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、前記第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が該第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶からなり、
    最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)を充足する条件で、駆動することを特徴とする圧電素子の駆動方法。
    Emin<E1<Emax・・・(1)
    (式中、電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。)
  18. 最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(2)を充足する条件で、駆動することを特徴とする請求項17に記載の圧電素子の駆動方法。
    Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
    (式中、電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。)
  19. 圧電性を有する圧電体と、該圧電体に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子と、
    該圧電素子の駆動を制御する制御手段とを備えた圧電装置において、
    前記圧電体は、電界無印加時に結晶配向性を有する第1の強誘電体結晶を含み、所定の電界強度E1以上の電界印加により、前記第1の強誘電体結晶の少なくとも一部が該第1の強誘電体結晶とは異なる結晶系の第2の強誘電体結晶に相転移する特性を有する無機化合物多結晶からなり、
    前記制御手段は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(1)を充足する条件で、前記圧電素子を駆動するものであることを特徴とする圧電装置。
    Emin<E1<Emax・・・(1)
    (式中、電界強度E1は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が開始する最小の電界強度である。)
  20. 前記制御手段は、最小電界印加強度Emin及び最大電界印加強度Emaxが下記式(2)を充足する条件で、前記圧電素子を駆動するものであることを特徴とする請求項19に記載の圧電装置。
    Emin<E1≦E2<Emax・・・(2)
    (式中、電界強度E2は、第1の強誘電体結晶から第2の強誘電体結晶への相転移が略完全に終了する電界強度である。)
  21. 請求項19又は20に記載の圧電装置と、
    液体が貯留される液体貯留室及び該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口を有する液体貯留吐出部材とを備えたことを特徴とする液体吐出装置。
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