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JP3963246B2 - 車輪用軸受 - Google Patents

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JP3963246B2
JP3963246B2 JP2000023814A JP2000023814A JP3963246B2 JP 3963246 B2 JP3963246 B2 JP 3963246B2 JP 2000023814 A JP2000023814 A JP 2000023814A JP 2000023814 A JP2000023814 A JP 2000023814A JP 3963246 B2 JP3963246 B2 JP 3963246B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車等における車輪用軸受に関し、特に回転検出用のエンコーダ格子を一体化した密封構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、図15に示すように転動体103を介して転接する内方部材101および外方部材102間にシール装置105を設けた車輪用軸受において、シール装置105にエンコーダ格子106を一体化させたものが提案されている(例えば、特開平6−281018号)。シール装置105は、各々断面L字状とされた第1,第2のシール板107,108を内方部材101および外方部材102にそれぞれ嵌合させ、第2のシール板107にリップ109を設けたものである。第1のシール板107は、スリンガと呼ばれる。エンコーダ格子106は、磁性体粉が混入された弾性部材であり、第1のシール板107に加硫接着されている。エンコーダ格子106は、円周方向に交互に磁極が形成されたものであり、対面配置された磁気センサ110で検出される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
スリンガとなるシール板107と回転輪となる内方部材101とは、圧入状態に嵌合しているが、その嵌合部111から微量の水が軸受内部へ浸入する恐れがある。このような水の浸入が生じると、シール板107,108に錆が発生し、シールリップの摩耗が生じる。また、内部のグリースが劣化し、軸受寿命が低下する。
そこで、エンコーダ格子106を構成する弾性部材をシール板107の内径面まで延ばし、嵌合部111のシール性を向上させることを考えた。しかし、エンコーダ格子106を構成する弾性部材は、磁性体粉が混入されたものであり、高価になるうえ、適切なシール性を得ることが難しい。また、シール板107の内方部材101との嵌合部111に厚いゴム層を形成すると、嵌合力が不足し、シール板107の抜けや軸受内への移動が生じる恐れがある。上記嵌合部111にパッキングを介在させた場合も、抜けや移動の問題が発生する。
弾性部材を介在させる代わりに、シール板107自体の材質を柔らかなものとして密着性を向上させることは可能であるが、そのような材質は非磁性体であるため、エンコーダ格子106の磁気コアとなる機能が得られず、磁束密度が不足する。
【0004】
シール板107の防錆性については、一般的に使用されるSUS430等の耐食性の劣る磁性材に代えて、SUS304相当の耐食性を有する磁性ステンレス(SUS430MA、SUS430にニオブ,Ni等を添加して耐食性を向上させたもの)を使用することで対応でき、磁束密度についても、SUS430MAではSUS430と同様に得られる。しかし、材質が高価であるうえ、このような材質を用いても、水の浸入は防げず、グリースの劣化による軸受寿命の低下は防げない。
【0005】
この発明の目的は、シール板の嵌合部における水の浸入が防止できて、軸受寿命の向上が図れ、シール板の抜けや移動の問題が生じず、かつ磁束密度の確保が容易な車輪用軸受を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明における第1の発明の車輪用軸受は、内方部材および外方部材と、これら内外の部材間に収容される複数の転動体と、上記内外の部材間の端部環状空間を密封するシール装置とからなる車輪用軸受において、
上記シール装置は、上記内方部材と外方部材のうちの互いに異なる部材に各々取付けられた金属製の第1および第2の環状のシール板を有し、両シール板は、各々円筒部と立板部とでなる断面L字状に形成されて互いに対向し、第1のシール板は上記内方部材および外方部材のうちの回転側の部材に圧入状態に嵌合され、立板部は軸受外方側に配されると共に、この立板部に磁性体粉が混入された弾性部材が加硫接着されて、この弾性部材は周方向に交互に磁極が形成され、第2のシール板は上記内方部材および外方部材のうちの固定側の部材に圧入状態に嵌合され、上記立板部に摺接するサイドリップと円筒部に摺接するラジアルリップとを一体に有し、この第2のシール板の円筒部と上記第1のシール板の立板部の先端とを僅かな径方向隙間をもって対峙させ、
上記第1のシール板の上記回転側の部材との嵌合部に、上記立板部に接着した弾性部材と異なる材質からなる弾性部材を介在させたことを特徴とする。上記弾性部材は、上記第1のシール板の上記ラジアルリップが摺接する円筒部の内径面と上記回転側の部材との嵌合部に配置することが良い。
の構成によると、第1のシール板の立板部に、磁性体粉の混入された弾性部材が加硫接着され、周方向に交互に磁極が形成されているため、この弾性部材でいわゆるエンコーダ格子が構成され、これに対面する磁気センサで回転検出を行うことができる。
内外の部材間のシールについては、第2のシール板に設けられた各シールリップの摺接と、第2のシール板の円筒部に第1のシール板の立板部先端が僅かな径方向隙間で対峙することで構成されるラビリンスシールとで得られる。
第1のシール板と内方部材1との嵌合部については、弾性部材が介在することで、嵌合部の形状・面粗さによって生じる微小隙間が埋められ、水の浸入防止性が高められる。この弾性部材は、エンコーダ格子となる磁性体粉入りの弾性部材とは異なる材質からなるため、適切な材質を選択することで、高い密封性能が得られる。そのため、浸入水でグリースが劣化することがなく、軸受寿命が向上する。また、このように嵌合部の弾性部材でシール性が確保されるため、第1のシール板の材質が制限されず、磁性体を用いることで、その立板部に設けられた弾性部材によるエンコーダ格子の磁束密度を高めることができる。
【0007】
この発明において、上記第1のシール板の嵌合部に介在させた弾性部材は、上記第1のシール板に施したゴムのコーティング層であっても良い。
嵌合部の弾性部材がコーティング層であると、第1のシール板の嵌合部における嵌合力が、弾性部材で低下することが防止される。そのため、シール性の向上を図りながら、第1のシール板の抜けや移動が防止される。
【0008】
この発明において、上記第1のシール板の嵌合部に介在させた弾性部材は、上記第1のシール板に塗布した防錆能を有する塗料の層であっても良い。
このように、嵌合部の弾性部材が塗料の層、つまり塗膜層であっても、第1のシール板の嵌合部における嵌合力が、弾性部材で低下することが防止され、シール性の向上を図りながら、第1のシール板の抜けや移動が防止される。また、この塗料は、防錆能を有するものとしたため、第1のシール板の防錆性が得られ、錆の発生の問題を生じることなく、第1のシール板に磁性体を選定することができる。
上記塗料は、ポリエチレン系ゴム塗料であっても良い。
【0009】
この発明において、上記第1のシール板の嵌合部に介在させた弾性部材は、上記第1のシール板に塗布した防錆能を有する接着剤の層であっても良い。この接着剤は、嫌気性室温硬化型樹脂接着剤であっても良い。
このように接着剤の層を介在させた場合、嵌合部の形状・面粗さによって生じる微小隙間を接着剤が埋め、シール板の嵌合力が増大するうえ、気密性が向上する。嫌気性室温硬化型樹脂接着剤は、空気に触れても硬化速度が遅く、その反面、嵌合面等の空気に触れない部分では、室温でも比較的早く硬化する。したがって、第1のシール板と、これが嵌合した内方部材または外方部材との締め代を少なくし、組立性を向上させることができる。
【0012】
この発明において、上記第1のシール板の円筒部と立板部とのつなぎ部に、上記立板部から内径側へ延びて折返された重合部を設け、上記内方部材の端部外径に段差をもって小径となる段付部を設け、第1のシール板は上記内方部材に嵌合させて上記段付部内に上記重合部を配置し、上記段付部の側壁面と上記重合部との間に、上記異なる材質の弾性部材となるリング状のゴム部材を介在させても良い。
このように重合部と段付部を設けて嵌め合うことで、水の浸入経路が蛇行状になり、軸受内部への水の浸入が生じ難くなる。また、重合部と段付部の側面の間にリング状のゴム部材を介在させることで、密封性が確保される。さらに、重合部を設けることにより、第1のシール板自体の剛性が上がると共に、プレス工程において、素材の弾性域(スプリングバック)を極力残さないようにでき、後工程の熱処理やゴム加硫の際の高温化によっても、変形を抑えることができる。そのため、第1のシール板の形状精度が高められ、嵌合による密封性が一層向上する。
【0013】
この発明において、上記内方部材の端部外径に段差をもって小径となる段付部を設け、この段付部の外径面に第1のシール板の円筒部を嵌合させ、この円筒部の先端と上記段付部の壁面との間に、上記異なる材質の弾性部材となるリング状のゴム部材を介在させても良い。
この構成の場合、リング状のゴム部材からなる弾性部材が段付部の壁面に弾性接触することにより、嵌合部から塵埃等が侵入しても、この弾性部材によって軸受内部への侵入を阻止できる。また、シール板の円筒部の大部分が内方部材に直接に嵌合するため、高い嵌合力が得られ、シール板の抜けや移動の防止性に優れる。
【0014】
この発明の上記各構成のものにおいて、上記第1のシール板の円筒部に、内径側へ突出する係止部を形成し、この係止部を、上記内方部材の外径面に設けた環状溝に係止させても良い。このように係止部と環状溝とを係止させることで、シール板の軸方向の移動が阻止される。そのため、シール板の嵌合部に弾性部材を介在させながら、シール板の抜けや移動が確実に防止される。
上記係止部は、第1のシール板の円筒部の先端に形成した折曲片であっても良い。このように係止部を円筒部の先端の折曲片とすることで、簡単に形成することができる。また、係止部が円筒部の先端に設けられるため、係止部が障害とならずに、円筒部を内方部材に嵌合させることができる。
上記係止部は、第1のシール板の円筒部の略中央に形成した周方向に点在する複数の凸部であっても良い。このように、係止部を点在した凸部とすることで、係止部の形成が簡単に行え、また係止部の形成によって、嵌合面積が低下することが回避される。
上記係止部は、第1のシール板の円筒部の略中央に円周方向に沿って形成した突条であっても良い。このように、係止部を突条とした場合も、係止部の形成が簡単に行える。また、係止が突条であると、その係止によるシール板の移動防止効果が高い。
【0021】
【発明の実施の形態】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。図1に示すように、この車輪用軸受は、内方部材1および外方部材2と、これら内外の部材1,2間に収容される複数の転動体3と、内外の部材間の端部環状空間を密封するシール装置5とからなる。内方部材1および外方部材2は、転動体3の軌道面1a,2aを有しており、各軌道面1a,2aは溝状に形成されている。内方部材1および外方部材2は、各々転動体3を介して互いに回転自在となった内周側の部材および外周側の部材のことであり、軸受内輪および軸受外輪の単独であっても、これら軸受内輪や軸受外輪と別の部品とが組合わさった組立部材であっても良い。また、内方部材1は、軸であっても良い。転動体3は、ボールまたはころからなり、この例ではボールが用いられている。
【0022】
図3は、車輪用軸受の全体構成の一例を示す。この車輪用軸受は複列の転がり軸受、詳しくは複列のアンギュラ玉軸受とされていて、その軸受内輪は、ハブ輪6と、このハブ輪6の端部外径に嵌合した別体の内輪1Aとで構成される。これらハブ輪6および別体内輪1Aに各転動体列の軌道面が形成されている。上記の別体内輪1Aが、図1の例における内方部材1となる。ハブ輪6には、等速自在継手7の一端(例えば外輪)が連結され、ハブ輪6のハブ部6aに車輪(図示せず)がボルト8で取付けられる。等速自在継手7は、その他端(例えば内輪)が駆動軸に連結される。外方部材2は、フランジ2bを有する軸受外輪からなり、ナックル等からなるハウジング10に取付けられる。外方部材2は、両転動体列の軌道面を有するものとされている。転動体3は各列毎に保持器4で保持されている。内方部材1と外方部材2の間の環状空間は、一端、つまり車軸中央側の端部が上記のシール装置5で密封されている。外方部材2とハブ輪6との間の環状空間の端部は、別のシール装置13で密封されている。
【0023】
シール装置5は、図1,図2に示すように、内方部材1と外方部材2に各々取付けられた第1および第2の環状のシール板11,12を有する。これらシール板11,12は、各々内方部材1および外方部材2に圧入状態に嵌合させることで取付けられている。両シール板11,12は、各々円筒部11a,12aと立板部11b,12bとでなる断面L字状に形成されて互いに対向する。
第1のシール板11は、内方部材1および外方部材2のうちの回転側の部材である内方部材1に嵌合され、スリンガとなる。第1のシール板1の立板部11bは、軸受外方側に配され、磁性体粉が混入された弾性部材14が加硫接着されている。この弾性部材14は、エンコーダ格子となるものであり、周方向に交互に磁極N,S(図2)が形成され、いわゆるゴム磁石とされている。磁極N,Sは、ピッチ円PCDにおいて、所定のピッチpとなるように形成されている。このエンコーダ格子となる弾性部材14に対面して、図1のように磁気センサ15を配置することで、車輪回転速度の検出用のロータリエンコーダが構成される。
【0024】
第2のシール板12は、第1のシール板11の立板部11bに摺接するサイドリップ16aと円筒部11aに摺接するラジアルリップ16b,16cとを一体に有する。これらリップ16a〜16cは、第2のシール板12に加硫接着された弾性部材16の一部として設けられている。これらリップ16a〜16cの枚数は任意で良いが、図1の例では、1枚のサイドリップ16aと、軸方向の内外に位置する2枚のラジアルリップ16c,16bとを設けている。この外側のラジアルリップ16bは、例えば、図14に示すようにサイドリップに代えても良く、また省略しても良い。
【0025】
第2のシール板12の円筒部12aと第1のシール板11の立板部11bの先端とは僅かな径方向隙間をもって対峙させ、その隙間でラビリンスシール17を構成している。
【0026】
第1のシール板11は、強磁性体等の磁性体の鋼板、例えばフェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)や、防錆処理された圧延鋼板等が用いられる。第2のシール板12は、鋼板、例えば非磁性体であるオーステナイト系のステンレス鋼板(SUS304系等)や、防錆処理された圧延鋼板等が用いられる。例えば、第1のシール板11をフェライト系のステンレス鋼板とし、第2のシール板12をオーステナイト系のステンレス鋼板としても良い。
【0027】
第1のシール板11の内方部材1との嵌合部18には、立板部11bに接着した弾性部材14とは異なる材質からなる弾性部材20を介在させている。この弾性部材20は、薄膜やリング状ゴム部材など、各種のものが採用できる。弾性部材20の各種の具体例を説明する。
【0028】
弾性部材20を薄膜とする場合の例を、製法と共に説明する。一般的には、シール板にゴムを加硫接着する場合、シール板に熱硬化性の接着剤を塗布し、その後、ゴム剤を加硫接着する方法が採られる。しかし、この例のようにエンコーダ格子とするゴム部材14と、これと異質のパッキングとなるゴム部材20とを形成する場合は、これら異質のゴム剤を同時に金型内に注入して成形することができない。
【0029】
そのため、例えば、図4に示すように、シール板11に磁性ゴムを接着剤21で加硫接着して弾性部材14とした後(図4(A))、嵌合部18のみにスプレー等でゴムのコーティング層を形成することで、弾性部材20としても良い(B)。
【0030】
この薄膜の弾性部材20は、樹脂塗料の層であっても良い。例えば、シール板11に、図4の例と同様に、磁性ゴムを接着剤21で加硫接着して弾性部材14とした後、嵌合部18のみにスプレー等で薄膜の樹脂塗料を塗布することで、弾性部材20としても良い。樹脂塗料には、ポリエチレン系のゴム塗料等が用いられ、塗膜の膜厚は、例えば20μmを狙い厚さとして塗布する。
【0031】
薄膜の弾性部材20は、接着剤層であっても良い。この場合も、シール板11に、図4の例と同様に、磁性ゴムを接着剤21で加硫接着して弾性部材14とした後、嵌合部18のみにスプレー等で薄膜の接着剤を塗布することで、弾性部材20とする。この接着剤は、防錆能を有するものであって、樹脂性接着剤が好ましく、さらに嫌気性室温硬化型樹脂接着剤であることが好ましい。
このように嵌合部18に接着剤層からなる弾性部材20を設けた場合、嵌合部18の面粗さによって生じる微小隙間を接着剤が埋め、シール板11の内方部材11への嵌合力を増大するだけでなく、気密性を向上させる。嫌気性室温硬化型樹脂接着剤は、空気に触れても硬化速度が遅く、その反面、嵌合面等の空気に触れない部分では、室温でも比較的に早く硬化する。したがって、シール板11と内方部材1との圧入の締代を少なくし、組立性を向上させることができる。
嫌気性室温硬化型樹脂接着剤としては、例えば日本ロックタイト株式会社製のロックタイトリティニングコンパウンド680(商品名)や、ロックタイト603(商品名)等が使用できる。
【0033】
なお、上記実施形態では、第2のシール板12は外方部材2に直接に嵌合させたが、例えば図5に示すように、第2のシール板12と外方部材2との嵌合部23間にも、弾性部材24を介在させても良い。この弾性部材24も、薄膜状のものであっても、リング状ゴム部材であっても良い。弾性部材24を薄膜状とする場合に、内方部材1の嵌合部18の弾性部材20と同じ材質のものが使用でき、ゴムをコーティング層、塗料の塗布層、接着剤層のいずれとしても良い。
【0034】
図6は参考提案例を示す。この例は、図1の例において、薄膜状の弾性部材20を設ける代わりに、内方部材1における第1のシール板11の嵌合する外径面部に環状溝25を形成し、この環状溝25内にリング状ゴム部材からなる弾性部材20Aを装着したものである。このように設けた弾性部材20Aの外径が、内方部材1の外径よりも僅かに突出するように設定し、シール板11の円筒部11aを圧入することにより、嵌合部18からの泥水等の浸入を、この弾性部材20Aで阻止することができる。
このリング状ゴム部材の弾性部材20Aとしては、Oリング等が使用でき、この他にリップ付きの軸シール等を用いることができる。
【0035】
図7に示す実施形態は、図1の例において、薄膜状の弾性部材20を設ける代わりに、次の構成を設けたものである。第1のシール板11の円筒部11aと立板部11bとのつなぎ部に、立板部11bから内径側へ延びて折返された重合部11cを設ける。重合部11cは、シール板11のプレス加工で形成する。内方部材1の端部外径に段差をもって小径となる段付部26を設ける。第1のシール板11は、円筒部11aを内方部材1に嵌合させ、段付部26内に重合部11cを配置する。段付部26の側壁面と重合部11cとの間に、リング状のゴム部材からなる弾性部材20Bを介在させる。弾性部材20BにはOリングまたはリップ付きの軸シール等を用いることができる。
このように重合部11cと段付部26を設けて嵌め合うことで、水の浸入経路が蛇行状になり、軸受内部への水の浸入が生じ難くなる。また、重合部11cと段付部26の側面の間にリング状のゴム部材からなる弾性部材20Bが介在するため、密封性が確保される。さらに、重合部11cを設けることにより、第1のシール板11自体の剛性が上がると共に、プレス工程において、素材の弾性域(スプリングバック)を極力残さないようにでき、後工程の熱処理や弾性部材14のゴム加硫の際の高温化によっても、変形を抑えることができる。そのため、第1のシール板11の形状精度が高められ、嵌合による密封性が一層向上する。
【0036】
図8に示す実施形態は、図1の例において、薄膜状の弾性部材20を設ける代わりに、次の構成を設けたものである。内方部材1の端部外径に段差をもって小径となる段付部27を設ける。この段付部27の外径面に第1のシール板11の円筒部11aを嵌合させる。この円筒部11aの先端と段付部27の側壁面および底壁面との間に、リング状のゴム部材からなる弾性部材20Cを介在させる。リング状のゴム部材からなる弾性部材20Cとしては、Oリング等が用いられる。段付部27の半径方向の深さは、円筒部11aの板厚と同程度か、それ以下とされている。円筒部11aの先端面11aaは、内径側が小径となる傾斜面とされている。
このように、リング状のゴム部材からなる弾性部材20Cを段付部27の壁面に弾性接触させることにより、嵌合部18から水や塵埃等が侵入しても、この弾性部材20Cによって軸受内部への侵入を阻止できる。円筒部先端面11aaを傾斜面とすれば、シール板11の圧入が容易になると共に、弾性部材20Cを内径方向に弾性変形させられるため、外れ防止や、パッキングとしての効果を向上させることができる。また、シール板11の円筒部11aの大部分が内方部材1に直接に嵌合するため、高い嵌合力が得られ、シール板11の抜けや移動の防止性に優れる。
【0037】
図9,図10に示す実施形態は、図1の例において、次の構成を追加したものである。すなわち、第1のシール板11の円筒部11aに、内径側へ突出する係止部11dを形成し、この係止部11dを、内方部材1の外径面に設けた環状溝28に係止させたものである。係止部11dは、円筒部11aの先端に設けたた折曲片からなり、環状溝28は、溝底面の片方が軌道面1aに続く段付部からなる。
このように環状溝28に係止部11dを係合させることで、第1のシール板11の軸方向の移動が阻止できる。第1のシール板11の組立に際しては、図10に鎖線で示すように、円筒部11aの先端を弾性に抗して外径側へ撓ませた状態でシール板11を圧入する。係止部11dが環状溝28に達すると、係止部11dは円筒部11aの弾性復元力で環状溝28に係合する。
【0038】
図11,図12に示す実施形態は、図1の例において、次の構成を追加したものである。すなわち、第1のシール板11の円筒部11aに、内径側へ突出する係止部11eを形成し、この係止部11eを、内方部材1の外径面に設けた環状溝29に係止させたものである。係止部11eは、第1のシール板11の円筒部11aの略中央に形成した周方向に点在する複数の凸部である。環状溝29は、内方部材1の外径面における軌道面1aと幅面との中間に形成されており、V溝等の溝断面形状とされている。この凸部からなる係止部11eは、少なくとも円周方向の3箇所にあれば良い。また、この凸部からなる係止部11eは、図示のような円形であっても、三角形状であっても良く、さらに切り起こし片であっても良い。
このように複数の係止部11eを環状溝29に係合させるようにした場合も、第1のシール板11の軸方向の移動が阻止できる。
【0039】
第1のシール板11に、係止部11eとして複数の点在した凸部を設ける代わりに、図13に示すように円筒部11aの略中央に円周方向に沿って形成した突条からなる係止部11fを設け、この係止部11fを内方部材1の環状溝29に係合させても良い。
なお、図9〜図13の例のように係止部11d,11e,11fを設ける構成とする場合に、弾性部材20は、図1の例などで前述した各種の薄膜状のものであっても、またリング状のゴム部材であっても良い。
【0048】
【発明の効果】
この発明の車輪用軸受は、第1のシール板の回転側の部材との嵌合部に、このシール板の立板部に接着したエンコーダ格子となる弾性部材と異なる材質の弾性部材を介在させたため、シール板の嵌合部だけでなく、内方部材と連結部材との衝合部における水の浸入が防止できて、軸受寿命の向上が図れ、シール板の抜けや移動の問題が生じず、かつ磁束密度の確保が容易という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の一実施形態にかかる車輪用軸受の部分断面図である。
【図2】 そのエンコーダ格子となる弾性部材の部分正面図である。
【図3】 同車輪用軸受の全体例の断面図である。
【図4】 その第1のシール板の製造工程例の説明図である。
【図5】 この発明の他の実施形態にかかる車輪用軸受の部分断面図である。
【図6】 参考提案例にかかる車輪用軸受の部分断面図である。
【図7】 この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受の部分断面図である。
【図8】 この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受の部分断面図である。
【図9】 この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受の部分断面図である。
【図10】 その第1のシール板の組立方法の説明図である。
【図11】 この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受の部分断面図である。
【図12】 その第1のシール板の部分斜視図である。
【図13】 その第1のシール板の変形例の部分斜視図である。
【図14】 この発明のさらに他の実施形態にかかる車輪用軸受におけるシール装置の部分断面図である。
【図15】 従来例の断面図である。
【符号の説明】
1…内方部材
2…外方部材
3…転動体
5…シール装置
6…ハブ輪
7…等速自在継手
11…第1のシール板
12…第2のシール板
11a,12a…円筒部
11b,12b…立板部
11c…重合部
11d,11e,11f…係止部
14…弾性部材
16a〜16c…リップ部
18…嵌合部
20,20A,20B,20C…弾性部材
26…段付部
29…環状溝
30…突出片
31…連結部材
32,33…段付部
35…連結部材
N,S…磁極

Claims (12)

  1. 内方部材および外方部材と、これら内外の部材間に収容される複数の転動体と、上記内外の部材間の端部環状空間を密封するシール装置とからなる車輪用軸受において、
    上記シール装置は、上記内方部材と外方部材のうちの互いに異なる部材に各々取付けられた金属製の第1および第2の環状のシール板を有し、両シール板は、各々円筒部と立板部とでなる断面L字状に形成されて互いに対向し、第1の環状のシール板は上記内方部材および外方部材のうちの回転側の部材に圧入状態に嵌合され、上記第1の環状のシール板の立板部は軸受外方側に配されると共に、この立板部に磁性体粉が混入された弾性部材が加硫接着されて、この弾性部材は周方向に交互に磁極が形成され、第2の環状のシール板は上記内方部材および外方部材のうちの固定側の部材に圧入状態に嵌合され、上記第1の環状のシール板の立板部に摺接するサイドリップと上記第1の環状のシール板の円筒部に摺接するラジアルリップとを一体に有し、この第2の環状のシール板の円筒部と上記第1の環状のシール板の立板部の先端とを僅かな径方向隙間をもって対峙させ、
    上記第1の環状のシール板の上記ラジアルリップが摺接する円筒部の内径面と上記回転側の部材との嵌合部に、上記第1の環状のシール板の立板部に接着した弾性部材と異なる材質からなる弾性部材を介在させたことを特徴とする車輪用軸受。
  2. 上記第1の環状のシール板の嵌合部に介在させた弾性部材は、上記第1の環状のシール板に施したゴムのコーティング層である請求項1に記載の車輪用軸受。
  3. 上記第1の環状のシール板の嵌合部に介在させた弾性部材は、上記第1の環状のシール板に塗布した防錆能を有する塗料の層である請求項1に記載の車輪用軸受。
  4. 上記塗料が、ポリエチレン系ゴム塗料である請求項3に記載の車輪用軸受。
  5. 上記第1の環状のシール板の嵌合部に介在させた弾性部材は、上記第1の環状のシール板に塗布した防錆能を有する接着剤の層である請求項1に記載の車輪用軸受。
  6. 上記接着剤が、嫌気性室温硬化型樹脂接着剤である請求項5に記載の車輪用軸受。
  7. 内方部材および外方部材と、これら内外の部材間に収容される複数の転動体と、上記内外の部材間の端部環状空間を密封するシール装置とからなる車輪用軸受において、
    上記シール装置は、上記内方部材と外方部材のうちの互いに異なる部材に各々取付けられた第1および第2の環状のシール板を有し、両シール板は、各々円筒部と立板部とでなる断面L字状に形成されて互いに対向し、第1の環状のシール板は上記内方部材および外方部材のうちの回転側の部材に嵌合され、第1の環状のシール板の立板部は軸受外方側に配されると共に、この立板部に磁性体粉が混入された弾性部材が加硫接着されて、この弾性部材は周方向に交互に磁極が形成され、第2の環状のシール板は上記第1の環状のシール板の立板部に摺接するサイドリップと上記第1の環状のシール板の円筒部に摺接するラジアルリップとを一体に有し、この第2の環状のシール板の円筒部と上記第1の環状のシール板の立板部の先端とを僅かな径方向隙間をもって対峙させ、
    上記第1の環状のシール板の上記回転側の部材との嵌合部に、上記第1の環状のシール板の立板部に接着した弾性部材と異なる材質からなる弾性部材を介在させ、
    上記第1の環状のシール板の円筒部と立板部とのつなぎ部に、この立板部から内径側へ延びて折返された重合部を設け、上記内方部材の端部外径に段差をもって小径となる段付部を設け、第1の環状のシール板は上記内方部材に嵌合させて上記段付部内に上記重合部を配置し、上記段付部の側壁面と上記重合部との間に、上記異なる材質の弾性部材となるリング状のゴム部材を介在させたことを特徴とする車輪用軸受。
  8. 内方部材および外方部材と、これら内外の部材間に収容される複数の転動体と、上記内外の部材間の端部環状空間を密封するシール装置とからなる車輪用軸受において、
    上記シール装置は、上記内方部材と外方部材のうちの互いに異なる部材に各々取付けられた第1および第2の環状のシール板を有し、両シール板は、各々円筒部と立板部とでなる断面L字状に形成されて互いに対向し、第1の環状のシール板は上記内方部材および外方部材のうちの回転側の部材に嵌合され、第1の環状のシール板の立板部は軸受外方側に配されると共に、この立板部に磁性体粉が混入された弾性部材が加硫接着されて、この弾性部材は周方向に交互に磁極が形成され、第2の環状のシール板は上記第1の環状のシール板の立板部に摺接するサイドリップと第1の環状のシール板の円筒部に摺接するラジアルリップとを一体に有し、この第2の環状のシール板の円筒部と上記第1の環状のシール板の立板部の先端とを僅かな径方向隙間をもって対峙させ、
    上記第1の環状のシール板の上記回転側の部材との嵌合部に、上記第1の環状のシール板の立板部に接着した弾性部材と異なる材質からなる弾性部材を介在させ、
    上記内方部材の端部外径に段差をもって小径となる段付部を設け、この段付部の外径面に第1の環状のシール板の円筒部を嵌合させ、この円筒部の先端と上記段付部の壁面との間に、上記異なる材質の弾性部材となるリング状のゴム部材を介在させたことを特徴とする車輪用軸受。
  9. 上記第1の環状のシール板の円筒部に、内径側へ突出する係止部を形成し、この係止部を、上記内方部材の外径面に設けた環状溝に係止させた請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の車輪用軸受。
  10. 上記係止部が、第1の環状のシール板の円筒部の先端に形成した折曲片である請求項9に記載の車輪用軸受。
  11. 上記係止部が、第1の環状のシール板の円筒部の略中央に形成した周方向に点在する複数の凸部である請求項9に記載の車輪用軸受。
  12. 上記係止部が、第1の環状のシール板の円筒部の略中央に円周方向に沿って形成した突条である請求項9に記載の車輪用軸受。
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