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JP2008069474A - 補強材・放熱材に適する炭素繊維集合体 - Google Patents

補強材・放熱材に適する炭素繊維集合体 Download PDF

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JP2008069474A JP2006247999A JP2006247999A JP2008069474A JP 2008069474 A JP2008069474 A JP 2008069474A JP 2006247999 A JP2006247999 A JP 2006247999A JP 2006247999 A JP2006247999 A JP 2006247999A JP 2008069474 A JP2008069474 A JP 2008069474A
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Abstract

【課題】成形材料全体としての熱伝導性が極めて高く、しかも機械特性に優れる炭素繊維強化材料の開発。
【解決手段】平均直径が1〜20μmの範囲、繊維長が1〜100μm、アスペクト比が1乃至100であるピッチ系炭素繊維Aと、繊維平均直径が2〜40μmの範囲、平均繊維長が0.1〜150mmの炭素繊維Bとを、繊維A対繊維Bとの重量比が1対99乃至99対1の比率となるように混合して得られる炭素繊維集合体であって、該炭素繊維集合体におけるピッチ系炭素繊維Aの六角網面成長方向の微結晶サイズが5nm以上であり、該炭素繊維集合体はその厚さが0.05〜5mmであって、その空隙率が50〜95体積%であるピッチ系炭素繊維を含む集合体を平面状に成形してなる炭素繊維集合体。
【選択図】なし

Description

本発明は、繊維長を異にするピッチ系炭素繊維を混用して強化材原料に用いる炭素繊維集合体に関わり、また当該炭素繊維集合体にマトリックスを含浸して得られる炭素繊維強化複合材料に関する。さらに詳しくは、補強材としての性能に加え、熱伝導性に優れたピッチ系炭素繊維をその繊維長を変えて混用することにより、炭素繊維充填率が高く、機械特性や熱伝導性に優れた炭素繊維集合体を得ると共に、マトリックスと複合して使用することにより、その優れた性能を一層発現できる炭素繊維強化複合材料に関する。
高性能の炭素繊維は鎖状高分子であるセルローズ、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(PAN)等を原料とする繊維形状の鎖状高分子に由来する炭素繊維と、環状炭化水素からなる石油・石炭等のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。前者の鎖状高分子由来の炭素繊維は、炭化処理を施すのみで強靭な繊維として利用できる。
そして、殊にPAN系炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高い性能を有効的に利用し、航空・宇宙機材用途、建築・土木資材用途、スポーツ・レジャー用具などに広く用いられている。これに対し、後者のピッチ系炭素繊維は、高温度の熱処理である黒鉛化処理を経た際に、その特性が発揮され、黒鉛結晶の性能が発現する。
つまり、前者の炭化繊維と後者の黒鉛化繊維とを比較すると、後者は、黒鉛結晶として結晶自体は小さく単結晶ではないものの、微結晶として網面構造を有することから、顕著な異方性を呈するので、黒鉛化(結晶化)が充分に進むと、この黒鉛化繊維の方が炭化繊維よりも電気伝導率、熱伝導率が高く、機械的特性も優れてくる。
そこで、単に強化材料としての炭素繊維複合材料の役割から、黒鉛化繊維、即ちピッチ系炭素繊維としての熱伝導性をも利用し、複合材料としての蓄熱性や放熱性を利用することによって、この炭素繊維複合材料の総合的利用の途が拓ける期待がある。
昨今、一方で、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されているが、畜熱性を応用して暖房、保温等に炭素繊維を適用し得る可能性がある。また、他方で、高速化に伴う電子計算機のCPUの発熱や集積回路のジュール熱による発熱が問題になっているが、これらを解決するためには、熱を効率的な伝達経路により処理することや有効な放熱手段を開発する必要がある。つまり、これらの課題に対し、所謂ヒートマネジメントを達成する要請がある。
かような観点から、炭素繊維を見直すと、一般に炭素繊維は、通常の有機合成高分子に比較しての熱伝導率が高いが、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さくヒートマネジメントの観点からは必ずしも好適な材料であるとは言えない。これに対して、ピッチ系炭素繊維はPAN系炭素繊維に較べて高熱伝導率を達成しやすい長所を潜在的に備える。
ところで、炭素繊維の高い熱伝導率を効果的に利用するためには、炭素繊維集合体の間隙を充填できる何らかのマトリックスとなる材料を介在させ、しかる状態において、炭素繊維が高充填率でかつ熱伝導を維持するためのネットワーク構造を形成していることが好ましい。ネットワーク構造が三次元的に形成されている場合には、成形体の面内方向のみならず厚さ方向に対しても炭素繊維固有の高い熱伝導が達成されるため、例えば放熱板の用途には非常に効果的であると考えられる。ところが、従来から用いられている炭素繊維を織物状にしてマトリックスと複合化した複合材は、面内の熱伝導率は向上しているものの、厚さ方向の熱伝導は、炭素繊維のネットワーク形成が充分にできないことから、熱伝達が不充分であり、放熱性が良好であるとは言い難い。
このような理由から、抜本的に炭素繊維の熱伝導率を改善しようとする試みが多数なされている。例えば、特許文献1には、一方向に引揃えた炭素繊維に黒鉛粉末と熱硬化性樹脂を含浸した機械的強度の高い熱伝導性成形品が開示されている。また、特許文献2においては、炭素繊維の物性向上を課題として、熱伝導度等の物性を改良させることが開示されているものの、成形体の熱物性の明確な性能向上が果たされているか否かの点に関しては検討が充分に為されておらず、詳細は不明としか言いようがない。
特開平5−017593号公報 特開平2−242919号公報
上記のように、炭素繊維の高熱伝導率化という観点から素材開発が進みつつある。もっとも、ヒートマネジメントの観点からは、成形体としての熱伝導性が高く、優れた放熱効果を備えることが必要となる。そこで、適切な熱伝導率を有し、さらに成形体中の炭素繊維含有率を高めることが可能となる炭素繊維強化材及び成形材料全体としての熱伝導性が極めて高く、しかも機械特性に優れる炭素繊維強化複合材料が強く望まれてくる。
本発明者らは、炭素繊維強化複合材料の面内方向及び厚さ方向の双方向における熱伝導度を向上させることを試み、特定の熱伝導率及び形状を有するピッチ系炭素繊維において抄紙された炭素繊維集合体に樹脂等のマトリックスを含浸せしめた場合に、含浸処理された複合材料中に占める炭素繊維の充填率が増加し、しかも厚さ方向の熱伝導率が著しく改善されることを見出し、本発明に到達したものである。
即ち、請求項1に関わる発明は、単繊維の平均直径(D1)が1〜20μmの範囲であり、かつD1に対する繊維直径分布(S1)の比(CV1)が5〜20%の範囲にあり、単繊維の平均繊維長(L1)が1〜100μm以下、平均直径(D1)に対する平均繊維長の比、即ちアスペクト比が1〜100であるピッチ系炭素繊維A(単に短繊維Aと云うことがある)と、繊維平均直径(D2)が2〜40μmの範囲であり、かつD2に対する繊維直径分布(S2)の比(CV2)が5〜20%の範囲にあり、単繊維の繊維長(L2)が0.1〜150mmである炭素繊維B(単に短繊維Bと云うことがある)とを、短繊維A対短繊維Bとの重量比が1対99乃至99対1の比率となるように混合して得られる炭素繊維集合体であって、該炭素繊維集合体における短繊維Aの六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズが5nm以上である炭素繊維集合体である。
また、請求項2に関わる発明は、炭素繊維集合体に占める短繊維Aの真密度が1.5〜2.5g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が少なくとも200W/(m・K)である請求項1に記載の炭素繊維集合体である。
さらに、請求項3に関わる発明は、請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体の厚さ方向の熱伝導率が少なくとも3W/(m・K)であると特定している。そして、この炭素繊維集合体はその厚さが0.05〜5mmであって、その空隙率が50〜95体積%であるピッチ系炭素繊維を含む特徴がある。
即ち、上述の本発明における課題は、短繊維Aは、その繊維の平均直径(D1)が1〜20μmの範囲であり、繊維長(L1)が100μm以下であり、かつ六角網面の成長方向に由来する微結晶粒サイズが5nm以上であるピッチ系炭素繊維集合体に占める短繊維Aの含有率が1乃至99重量%であり、加えて、短繊維Aの炭素含有率が80重量%以上であり、炭素繊維Bを含む炭素繊維集合体全体の厚みが0.05〜5mmであって、その炭素繊維集合体の空隙率が50〜95体積%であるピッチ系炭素繊維集合体によって達成される。
更に、本発明では、ピッチ系炭素繊維Aの真密度が1.5〜2.5g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が200W/(m・K)以上である。 請求項1に記載のピッチ系炭素繊維Aを有効的に混用すると、炭素繊維Bを含めた集合体全体の厚さ方向の熱伝導率が3W/(m・K)以上に達するので、放熱性に優れたピッチ系炭素繊維を含む炭素繊維集合体が得られる。
また、本発明では、ピッチ系炭素繊維集合体にマトリックスを含浸させて得られる炭素繊維強化複合材料として使用される場合が多い。実施態様としては、マトリックスが熱可塑性樹脂を含有する炭素繊維強化複合材料のとき、ピッチ系炭素繊維集合体がマトリックス樹脂に対して体積分率で10〜80体積%を占めるように形成する。
炭素繊維強化複合材料は、平板状に成形した炭素繊維集合体における厚さ方向の熱伝導率が少なくとも1W/(m・K)である。この炭素繊維強化複合材料の基材である炭素繊維混合体はピッチ系炭素繊維である短繊維Aと炭素繊維(PAN系炭素の如き非ピッチ系炭素繊維を少量含んでもよい)からなる短繊維Bから構成されたマトリクス樹脂を含む複合材料である。つまり、炭素繊維強化複合材料の基材となる炭素繊維の混合体では短繊維Bはピッチ系炭素繊維を含むことが好ましい。
炭素繊維強化複合材料では、例えば、マトリックスは熱可塑性樹脂であり、その例示として、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、芳香族ポリアミド類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリ乳酸類が特定できる。このような本発明の炭素繊維強化複合材料は平板状(平面状)に成形されたシート状物における厚さ方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上を呈する。
マトリックスには、例えば、熱硬化性樹脂又はその前駆体を適用することができ、熱硬化性シリコーン系エラストマー、不飽和ポリエステル系エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂及び熱硬化型ポリエーテルエーテルケトン樹脂を例示できる。
更に、本発明では、炭素繊維集合体をバインダーの存在下において乾式又は湿式法によりシート状に抄紙して、炭素含有率が80重量%以上であり、厚みが0.05〜5mmの範囲であって、空隙率が50〜95体積%である繊維集合体を得る工程を含むピッチ系炭素繊維集合体の製造方法を含む。
また、本発明は、バインダーとして、使用量の少なくとも1重量%が炭素質として炭素繊維集合体内部に残存し得るものを用い、抄紙後に不活性ガス雰囲気下500〜1000℃の温度範囲で焼成処理を施し、さらに1000℃〜3500℃の温度にて黒鉛化処理する工程を含む炭素繊維集合体の製造方法である。
ピッチ系炭素繊維集合体にマトリックス樹脂を含浸させる工程では、含浸を真空状態において加圧条件下で実施することが可能である。
加えて、炭素繊維強化複合材料を主たる材料とする特定用途として、電子部品用放熱板、熱交換器、湿式太陽電池用対向電極材、電磁波遮蔽用基材及び固体研磨材が挙げられる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、炭素長繊維とピッチ系炭素短繊維とを効果的に併用・混用することによって、含浸されたマトリックスの存在下の成形体において、熱伝導率の分布が成形体の平面内のみならず、成形体の厚さ方向にもほぼ同等になることから、電子部品用放熱板や熱交換器等の熱伝導効率を高めるとともに、筐体などに必要となる機械的強度を高め、成形体としての軽量化を達成できる。
きわめて微細な短繊維Aの存在は、繊維同士の接触機会を増大させ、このため熱伝導率が増加し、しかも熱伝導率は方向性(異方性)がなく均質である利点を備えている。
熱伝導・熱伝達に異方性のない成形材料は、成形が容易で、格別な条件設定や注意が不要となる利点を有する。成形体としても部品としても、均質で互換性に富む利点がある。
次に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
請求項1の発明は、単繊維の平均直径(D1)が1〜20μmの範囲であり、単繊維の平均繊維長(L1)が1〜100μm、平均直径(D1)に対する平均繊維長の比、即ちアスペクト比が1〜100であるピッチ系炭素短繊維Aと、繊維平均直径(D2)が2〜40μmの範囲であり、単繊維の平均繊維長さ(L2)が0.1〜150mmである炭素短繊維Bとを、短繊維A対短繊維Bとの重量比が1対99乃至99対1の比率となるように混合して得られる炭素繊維集合体であって、該炭素繊維集合体におけるピッチ系炭素繊維短繊維Aの六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズが5nm以上であり、該炭素繊維集合体はその厚さが0.05〜5mmであって、その空隙率が50〜95体積%であるピッチ系炭素繊維を含む混合体を平面状に成形してなる炭素繊維集合体である。
本発明の繊維長を異にする長短2種類の炭素繊維を得る原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンの如き縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチの如き縮合複素環化合物等を挙げることができる。なかんずく、ナフタレンやフェナントレンのような縮合多環炭化水素化合物が好ましく、光学的異方性を呈するピッチ、すなわちメソフェーズピッチが特に好ましい。これらは、その1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることが熱伝導性の高い炭素繊維を得るうえで望ましい。
なお、短繊維Bには入手できれば市販の直鎖状高分子(例えばPAN繊維)由来の炭素繊維を利用することもできる。マトリックスにこのような炭素繊維を使用してネットワーク構造を形成して、そのネットワーク構造を伝熱経路とする場合である。
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができる。原料ピッチとしては軟化点が250℃以上350℃以下の範囲のピッチが好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生するので好ましくない。また、軟化点が350℃より高いものはピッチの熱分解が生じやすく、繊維状に成形し難く,したがって紡糸・製糸に適さない。
原料ピッチはメルトブロー法により紡糸され、その後不融化処理、さらに焼成加工よって、三次元ランダムシート(マット)状の炭素繊維集合体とすることができる。要すれば、さらに高温度において黒鉛化(結晶化)できる。
以下夫々の製造・加工工程について説明する。
本発明においては、前述の適切な軟化点を備えたメゾフェースピッチの如き好ましいピッチ原料から紡糸ノズルを用いてピッチ繊維を得る。
この工程において使用される紡糸ノズルの形状については格別な制約はないものの、ノズル孔のラウンド長と孔径の比(いわゆるL/D)が20以下のものが好ましく用いられ、更に好ましくは15よりもさらに小さいものが用いられる。
本発明のように、炭素繊維の繊維長を変えるためには、或いは同様に、繊維径を変えるにも、このノズル孔のラウンド長と孔径の比を変えることによって達成できる。また、紡糸時のノズルの温度を適宜変化させても長短の繊維長の異なる繊維を容易に得ることができる。さらに後述する加熱ガスの吹き付け速度を変えることによっても、ピッチ繊維の繊維長と繊維径を変えることが可能である。ノズルの形状、ピッチの溶融粘度、細化条件等を含め、これら紡糸条件は試行錯誤により好適条件を決定でき、原料ピッチの選択と共に経験的に条件設定が可能である。
一般には、紡糸温度についても特段の制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2〜80Pa・s、好ましくは5〜30Pa・sになる温度であればよい。
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維(即ち、炭素繊維の前駆体に該る)は、100〜450℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって細化・繊維化される。吹き付けるガスは空気又は窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガスを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気で充分である。
繊維化(細化)のガスは加熱空気以外に燃焼ガス(二酸化炭素)が利用できることは言うもでもない。この加温ガスはその温度、吹き付け速度等を適宜選んで長短の繊維長を持つピッチ繊維とすることもできる。この場合の細化条件も試行錯誤法により条件が設定できる。
かくして得られたピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され、連続的な三次元ランダム形状を有するシート状物になり、さらにクロスラッピングなどを施してシート状物をランダムに積層することも可能である。
このようにして得られた三次元ランダムなピッチ繊維シート状物は、公知の方法で不融化を実施できる。即ち、不融化工程は、空気のみで処理するか、又は空気に少量の第三成分であるオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素若しくは臭素等を添加したガスを用いて処理するものであり、不融化温度を150〜400℃に設定することにより達成される。ピッチ系繊維の不融化では、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。
この不融化工程に継いで、ピッチ繊維シート状物は500〜3500℃で焼成・黒鉛化処理されて、黒鉛化(炭素)繊維として安定する。つまり、三次元ランダム形状を有するピッチ系炭素繊維集合体となる。この不融化ピッチ繊維の焼成工程は、真空中又は窒素、アルゴン若しくはクリプトン等の不活性ガス中で実施される。通常は常圧の窒素中で実施することが望ましく、コストの安い窒素が常用される。
ピッチ系繊維の焼成(黒鉛化)温度は、炭素繊維として高い熱伝導率を得るためには、2300〜3500℃の高温度を選択して黒鉛化を高めることが好ましい。さらに好ましくは2500〜3500℃の温度にする。焼成処理の際に黒鉛製容器に入れて黒鉛化すると、外部からの物理的、化学的作用の影響を遮断できるので好適な態様となる。黒鉛製容器は不融化処理を終えたピッチ繊維シート状物を所定量収納することができる容量であれば、その大きさ、形状に特に制約はない。もっとも、焼成処理中、又はその後の冷却中に、炉内の酸化性のガス又は炭素蒸気との反応によるピッチ系炭素繊維集合体の損傷を防ぐために、蓋付きの気密性の高いものを使用することが好ましい。
ここで、本発明で得られるピッチ系炭素繊維集合体は三次元ランダム形状である。短繊維Bを骨格とし、粉末に近い形状の短繊維Aを三次元ランダム形状に分散させたものであって、短繊維同士が相互に密着した状態になっていて、しかもピッチ系炭素繊維集合体を構成する各々の繊維(短繊維Bも短繊維Aも)が特定の方向に配向していない。このようにピッチ系炭素繊維集合体が三次元ランダム形状となることから、得られる炭素繊維強化複合材料はあらゆる方向(全方向)に等価に伝熱させ得る性質を有し、本発明の課題を達成でき、好ましい実施形態となる。
これに対し、各々の繊維が特定の方向に配向した炭素繊維束(UD材)を用いて炭素繊維強化複合材料を製造した場合には、特定の方向には熱伝導しやすいが、それ以外の方向については熱伝導率が低いという問題が生じるので、このような炭素繊維集合物は熱伝導性の観点からは好ましいとは云えない。もっとも、かような異方性炭素繊維集合物は機械的強度においても方向性を有しているため、この性能を活かすように重用されることは言うまでもない。
本発明で用いるピッチ系炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズが5nm以上である。黒鉛結晶の大きさ、即ち六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズは、公知の方法によって求めることができ、例えばX線回折法によって得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。微結晶のサイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生する場所がこの黒鉛結晶であることに起因している。六角網面の微結晶サイズは、望ましくは20nm以上であり、さらに望ましくは30nm以上である。
ピッチ系炭素繊維集合体を構成する炭素短繊維Aの繊維径は1〜20μmである。繊維径が1μm以下の場合には、繊維の形状が保持できなくなることがあり生産性が低くなる。逆に、繊維径が20μm以上になると、紡糸や細化の工程で、冷却ムラが発生し、この繊維のムラが原因となって、加熱条件が同一であっても不融化工程での繊維自体の温度ムラが大きく増幅され、部分的に繊維同士の融着が惹起される懸念が増大する。したがって、繊維径は好ましくは3〜17μmであり、さらに望ましくは5〜15μmである。
炭素短繊維の製造方法としては、従来から知られている製造方法で得られたポリアクリロニトリル系炭素繊維が使用できないものではない。しかしながら、ピッチ系炭素繊維そのもの加え、ピッチ系炭素繊維をバインダーの存在下又は不存在下においてシート状に成形し、得られた当該炭素繊維集合体を公知の粉砕手段により粉砕することによっても得られる。この粉砕方法は特に限定されないが、ビクトリーミル、ジェットミル、高速回転ミル等の粉砕機、切断機等が好ましく使用され、粉砕を効率よく行うためには、ブレードを取付けたロータを高速に回転させることにより、繊維軸に対して直角方向に繊維を寸断する方法が適切である。粉砕によって生じる炭素繊維の平均長さは、ロータの回転数、ブレードの角度等を調整することにより制御できる。さらに、篩により、所望の繊維長に分別できる。
炭素繊維の繊維径や繊維長のサイズの調整は篩の目の粗さを組み合わせることによって達成することも好ましく実施しうる。また本発明の炭素繊維は、篩分けを終えたピッチ繊維を2300〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的な炭素繊維としてもよい。
本発明の炭素短繊維の形状について補説する。炭素短繊維の長さは、上述した篩い分けを行った場合、直径及び径の分散率は紡糸工程によってほぼ一意的に決定される。そして、炭素繊維の直径は紡糸された際のピッチ繊維(原糸)の繊維直径より1〜2μm小さい値となる。これは不融化及び焼成処理に起因して繊維が少量痩せるためである。
次に、ピッチ系炭素繊維集合体を構成する炭素短繊維Bの繊維長は150mm以下である。AB両繊維とも繊維長が0.01mmを下回ると繊維としてのハンドリングがやや困難になる。一方、繊維長が150mmを超えると繊維の交絡が著しく増大し、やはりハンドリング性が低下する。好ましくは120mm以下、さらに好ましくは100mm以下である。
本発明で用いられる炭素短繊維Bの原料としては、既に述べたとおり、ピッチ系炭素繊維が望ましいが、ポリアクリロニトリル繊維由来の炭素繊維はその繊維長及び繊維径が均一にできる点で本発明の炭素繊維集合体を構成する長繊維の一部に利用できる。このような理由から、ピッチ系炭素繊維とポリアクリロニトリル繊維由来の炭素繊維とを混用する場合がある。しかしながら、熱伝導率を高く維持すべき観点からピッチ系炭素短繊維の配合率は高水準を保つべきである。
ピッチ系炭素短繊維Bと短繊維Aの混合比は、重量で1:99〜99:1の範囲とすることができるが、より好ましくは、20:80〜80:20である。ピッチ系炭素繊維集合体におけるAB各繊維の混合比が5wt%以下であると厚さ方向の熱伝導性が充分に発現できず、95wt%以上であると炭素繊維事態の充填率を高められないため好ましくない。
ピッチ系炭素繊維集合体の真密度は、焼成・黒鉛化温度に依存するが、1.5〜2.5g/ccの範囲のものが好ましい。より好ましくは、1.6〜2.5g/ccである。また、ピッチ系炭素繊維集合体を構成するピッチ系炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は200W/(m・K)以上であり、より好ましくは、300W/(m・K)以上である。また、集合体自体の厚さ方向の熱伝導率は3W/(m・K)以上である。
次に、本発明では炭素短繊維と炭素長繊維とを混用した不織布に、熱硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂前駆体を含浸させて炭素繊維強化複合材料とする。
ピッチ系炭素繊維集合体に含浸せしめるマトリックス(母材)樹脂として熱硬化性樹脂前駆体であるか熱硬化性樹脂であり、前駆体(モノマー、重合触媒等を含む)の場合には含浸させた後に重合処理する。
熱硬化性樹脂の例として、熱硬化性シリコーン系エラストマー、不飽和ポリエステル系エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂及び熱硬化型ポリエーテルエーテルケトン樹脂の群より選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む。これらは、1種で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、たとえば、2種類以上の高分子材料からなるポリマーアロイを使用することもできる。
ピッチ系炭素繊維集合体が母材樹脂に対して占める体積分率は通常10〜80体積%程度である。本発明における炭素繊維強化複合材料中のピッチ系炭素繊維強化材の割合としては、3〜60体積%、好ましくは5〜50体積%である。ピッチ系炭素繊維強化材の割合が3%以下であると所望の熱伝導率を得ることができず、60%以上であると成型が困難となるため好ましくない。
このようにして得られる炭素繊維強化複合材は平板状に整形した状態における厚さ方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上となる。本発明における炭素繊維強化複合材料は、複合材料としての熱伝導率が高いものが望ましいが、表裏への熱拡散より算出される熱伝導率が1W/(m・K)以上である。より望ましくは2W/(m・K)以上、さらに望ましくは5W/(m・K)以上である。
本発明では、炭素短繊維をピッチ系炭素短繊維集合体へ分散せしめる方法としては特に限定はない。ピッチ系炭素短繊維Aの中へ炭素短繊維Bをドライブレンドする方法、炭素短繊維Bを液体分散材中に分散させた後に該分散液をピッチ系炭素短繊維Aに浸漬させ、その後前記液体分散材を乾燥等のウェットブレンド手段により除去できる。逆に、ピッチ系短繊維を炭素短繊維Bからなる不織布状集合体へ分散せしめる方法も全く同様であって、ドライブレンド又はウェットブレンドが適用できる。
本発明における炭素繊維集合体にマトリックス樹脂を浸漬させる方法としては特に限定はないが、マトリックス樹脂が常温で液状の場合にはミキサー等の混練装置により実施し得る。またマトリックス樹脂が常温で固体の場合には加温により溶融状態として二軸押出機等の混練装置により実施し得る。
本発明において炭素繊維強化複合材料を得るための成形方法としては特に限定はなく、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法などが挙げられるが、下記の2つの方法で実施することができる。
第1の方法としては、上記方法において、炭素繊維をマトリックス樹脂中へ分散し、その後炭素繊維が分散されたマトリックス樹脂をピッチ系炭素繊維集合体中へ炭素繊維とともに導入する方法である。
マトリックスが硬化触媒を含めて熱硬化性樹脂又はその前駆体が常温で液状の場合には金型内にあらかじめ仕込まれたピッチ系炭素繊維集合体に対し、RIM法、RTM法などにて導入し、マトリックス樹脂を硬化させることにより、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
またマトリックス樹脂が常温で固体の場合には、上記方法で炭素繊維をマトリックス樹脂中への分散したのち、金型内にあらかじめ仕込まれたピッチ系炭素繊維集合体に対し射出成形することにより炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
また炭素繊維の分散されたマトリックス樹脂をあらかじめ平面状などの形状に加工し、ピッチ系炭素繊維集合体と積層させた状態でプレス成形することにより、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
なお、真空プレス成形時には、ボイド(空隙)の発生を抑制する目的で真空状態にて成形することが好ましい。
第2の方法としては、上記方法で炭素短繊維をピッチ系炭素繊維集合体へ分散し、その後マトリックス樹脂をピッチ系炭素繊維集合体の中へ導入する方法が挙げられる。マトリックス樹脂が常温で液状の場合には金型内にあらかじめ仕込まれた炭素繊維の分散されたピッチ系炭素繊維に対し、RIM法、RTM法などにて導入し、マトリックス樹脂を硬化させることにより、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
またマトリックス樹脂が常温で固体の場合には、金型内にあらかじめ仕込まれた炭素繊維の分散されたピッチ系炭素繊維集合体に対し射出成形することにより炭素繊維強化複合材料が得られる。
またマトリックス樹脂をあらかじめ平面状などの形状に加工し、炭素繊維の分散されたピッチ系炭素繊維集合体と積層させた状態でプレス成形することによっても炭素繊維強化複合材料が得られる。
また、この場合も、真空プレス成形時には、ボイドの発生を抑制する目的で真空状態にて成形することも第1の方法と同様である。
ピッチ系炭素繊維集合体及び/又は炭素短繊維は、表面処理したのちサイジング剤を添着させてもよい。
表面処理の方法としては電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものでもよい。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの手段によって金属やセラミックスを表面に被覆させたものでもよい。
サイジング剤はピッチ系炭素繊維集合体及び/又は炭素短繊維に対し0.1〜15重量%、好ましくは0.4〜7.5重量%サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコール単独又はこれらの混合物を用いることができる。
なお、補説すると、炭素短繊維Aの製造方法としては従来から知られている製造方法で得られたポリアクリロニトリル系炭素繊維やピッチ系炭素繊維、また本発明に記載のピッチ系炭素繊維を粉砕処理することによっても得られる。
粉砕方法は特に限定されないが、ビクトリーミル、ジェットミル、高速回転ミル等の粉砕機、切断機等が好ましく使用され、粉砕を効率よく行うためには、ブレードを取付けたロータを高速に回転させることにより、繊維軸に対して直角方向に繊維を寸断する方法が適切である。粉砕によって生じる炭素繊維の平均長さは、ロータの回転数、ブレードの角度等を調整することにより制御される。
次に、本発明の炭素繊維の形状について述べる。炭素長繊維Bの長さは、上述した篩い分けで決まるが、繊維直径は紡糸工程によってほぼ一意的に決定される。そして、炭素繊維Bの直径は紡糸された際の原糸の直径より1〜2μm小さい値となる。
本発明の第二の課題は、ピッチ系炭素繊維集合体にマトリックス樹脂を含浸させて得られた炭素繊維強化複合材料を提供することである。
本発明で用いるマトリックス樹脂としては特に限定はなく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用し得るが、形状自由度や生産性の点から熱可塑性樹脂が好ましく使用できる。
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリアミド類、アラミド類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類の群よりなるいずれか一つ以上の高分子樹脂組成物が好適に用いられるが、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸類(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル)、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー等が挙げられる。そして、高分子樹脂組成物は、1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、2種以上の高分子材料からなるポリマーアロイを使用してもよい。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。そして、これらは、1種で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、2種類以上の高分子材料からなるポリマーアロイを使用することもできる。
本発明における炭素繊維強化複合材料中のピッチ系炭素繊維集合体の割合としてはマトリックス樹脂に対して体積分率で10〜80体積%であるのが好ましい。体積分率が低くなれば炭素繊維強化複合材料の熱伝導性が低下するため所望の物性を得ることができなくなる。また体積分率が高くなれば熱伝導率は向上するものの成型が困難となる。
本発明において炭素繊維以外の熱伝導性フィラーも必要に応じて使用する事もできる。具体的には酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、銀、金、銅、アルミニウムなどの金属もしくは合金、グラファイト、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。
本発明で用いられる樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、炭化珪素およびシリカなどの非繊維状充填材が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。
本発明における炭素繊維強化複合材料は、複合材料としての熱伝導率が高いものが望ましいが、表裏への熱拡散より算出される熱伝導率が少なくとも1W/(m・K)であり、より好ましくは2W/(m・K)以上、さらに好ましくは3W/(m・K)以上である。
本発明の更なる課題は、ピッチ系炭素繊維又はその前駆体をバインダーの存在下にて抄紙して得られる炭素含有率が80重量%以上であり、厚みが0.05〜5mmで、空隙率が50〜95体積%であるピッチ系炭素繊維集合体の製造方法を提供することである。
本発明にて用いられるバインダーとしては繊維状、ファイブリッド状(微細フィルム状)、パルプ状、および粒子状のものから少なくとも1種類を選んで使用することができる。バインダーはピッチ系炭素繊維も又はその前駆体に絡み易く抄紙性を向上させることが要件となるが、バインダー自体は熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。
バインダーの使用量としてはピッチ系炭素繊維A若しくはその前駆体に対し1〜20重量%であり、好ましくは3〜15重量%である。これらの範囲を逸脱すると抄紙後のハンドリング性が悪かったりするため好ましくない。
ピッチ系炭素繊維又はその前駆体の抄紙方法としては、大量の分散液中に繊維を分散させて救い上げる湿式抄紙法と、空気流中で繊維を分散させた後この繊維分散空気流の吹付け等により薄層を形成させて、さらに積層させる乾式法となどがある。もっとも、繊維の分散性や生産性を考慮すれば湿式抄紙法で実施するのが好ましい。
抄紙されたシート状集合体はその後カレンダー処理もしくは焼成処理などの加工も必要に応じて実施され、バインダーの選定もこれらの加工方法に合わせることが好ましい。
カレンダー処理を行う場合にはポリアミド、アラミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好ましく、また焼成処理を行う場合にはPVA、アラミド、フェノール樹脂などの比較的残炭率の高い樹脂を好ましく使用できる。
焼成処理は、先ず不活性ガス雰囲気下500℃〜1000℃の温度にて行い、その場合得られるピッチ系炭素繊維集合体の炭素含有率は95重量%以上となる。また、要すれば、さらに高温度(1000℃超)で焼成を続けるとよい。
本発明において炭素繊維強化複合材料を得るための成形方法としては特に限定はなく、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法などが挙げられ、下記の2つの方法で実施できる。
具体的な方法としては、例えば金型内にあらかじめ仕込まれたピッチ系炭素繊維集合体に対し、常温もしくは加温により液状となったマトリックス樹脂をRIM法、RTM法などにて導入し、マトリックス樹脂を固化若しくは硬化させることにより、炭素繊維強化複合材料が得られる。
また別の方法としては金型内にピッチ系炭素繊維集合体およびマトリックス樹脂を仕込み、マトリックス樹脂を熔融含浸させて、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
後者の場合マトリックス樹脂はシート状など金型内に仕込み易い形状にするとよく、またマトリックス樹脂を真空状態で加圧条件にて含浸させると、脱ガス性や含浸性の点から好ましい。
また、ピッチ系炭素繊維集合体は、表面処理した後サイジング剤を添着させてもよい。
表面処理の方法としては電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものでもよい。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの方法によって金属やセラミックスを表面に被覆させたものでもよい。
サイジング剤はピッチ系炭素繊維集合体に対し0.1〜15重量%、好ましくは0.4〜7.5重量%サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコール単独又はこれらの混合物を用いることができる。
本発明の炭素繊維強化複合材料を主たる材料とする成型品の用途は、電子部品用放熱板や熱交換器である。
具体的には半導体素子や電子部品が発生する熱を効果的に外部へ放散させるための放熱部材、伝熱部材あるいはそれらの構成材料等として、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、ヒートパイプ、筐体等に成形加工して用いることができる。
また本発明の炭素繊維強化複合材料は電波吸収材料や導電性材料としても使用する事ができる。
本発明の炭素繊維の熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、特に炭素繊維複合材料の厚み方向の熱伝導率を向上させることを目的としているので、レーザーフラッシュ法が望ましい。レーザーフラッシュ法では、比熱容量Cp(J/gK)と熱拡散率α(cm/sec)を測定し、別に測定した密度ρ(g/cc)から、熱伝導度λ(W/cmK)をλ=α・Cp・ρで求め、単位換算を実施し得ることができる。
一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、成形体にすると、欠陥の発生・空気の混入・予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は急激に低減する。したがって、炭素繊維複合材料としての熱伝導率は実質的に1W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。しかし、本発明では三次元ランダムマット状炭素繊維を用いることでこれを解決し、炭素繊維複合材料として1W/(m・K)以上を達成できる。望ましくは、2W/(m・K)以上であり、さらに望ましくは5W/(m・K)以上である。
このようにして得られた炭素繊維強化複合材料は、ヒートマネジメントの用途に好適に用いることができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素繊維Aの直径は、焼成を経た繊維を走査型電子顕微鏡下800倍で任意の10視野を抽出して撮影し求めた。
(2)ピッチ系炭素繊維Aの糸長は、焼成を経た繊維を抜き取り測長器で測定した。
(3)ピッチ系炭素繊維Aの繊維軸方向の熱伝導率は、焼成後の糸の抵抗率を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式(1)より求めた。
[数1]
K=1272.4/ER−49.4 (1)
ここで、Kは炭素繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは炭素繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
(4)炭素繊維強化複合材料の厚み方向の熱伝導率はレーザーフラッシュ法にて測定した。
(5)三次元ランダムマット状炭素繊維の結晶サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
[実施例1]
短繊維Aの製造
生産コストを抑えて、合理的に長短2種類の繊維長を有する炭素繊維集合体を得るには、同一のピッチ原料を用い、ほぼ同一の条件でピッチ繊維を紡糸する。スピナレット、紡糸温度、時間当たりの吐出量、スリットからの加熱ガスの温度・噴出速度、噴出位置等の条件をほとんど変更しないで、金網ベルト上にピッチ繊維を捕集し、要すれば、クロスラッピングにより目付けを調整し、さらにバインダーで軽く接着して、圧延プレスを加え、不融化処理して、さらに焼成処理を施してから、ミリング装置を用いてこのピッチ繊維を短繊維化して、短繊維Aを得る。
短繊維Aと短繊維Bとの混合繊維集合体の調製
ついで、先に金網ベルト上に捕集してある長繊維Bからなるピッチ系炭素繊維とブレンドして、平坦状の混合繊維集合体を得る。このシート状に調整する際、ポリビニルアルコール(PVA)繊維等の水膨潤性有機高分子をバインダーに替えて部分的に使用する湿式抄紙法を適用すること、又は空気量を利用して短繊維Aと短繊維Bとをバインダー代わりの熱可塑性樹脂を介在させて混合して融着せしめる乾式抄紙法を適用できる。
爾後、要すれば、不融化、焼成処理、黒鉛化処理等の諸工程を経て、マトリクスと混用できる複合化材料用炭素繊維集合体が得られる。
具体的に実施例を示す。
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が284℃であった。直径0.2mmの円形断面孔の紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、熔融ピッチを牽引して平均直径13μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された長繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付250g/mのマット状ピッチ繊維とした。
このマット状ピッチ繊維を空気中で170℃から310℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したマット状ピッチ繊維を700℃で焼成しその後粉砕装置にて短繊維化し、その後さらに3000℃で焼成することによりピッチ系炭素繊維を得た。ピッチ系炭素繊維の平均直径(D1)は11μm、D1に対する繊維直径分散の比(CV1)は12%であった。平均繊維長(L1)は80μmであった。六角網面の成長方向の微結晶サイズは46nmであった。繊維軸方向の熱伝導率は590W/(m・K)であった。また、ピッチ系炭素短繊維の真密度は2.1g/ccであった。
次に前記のピッチ系炭素短繊維A70重量部と、焼成を済ませた状態の炭素長繊維B(平均繊維長8.5mm)20重量部と、バインダーとして平均繊維長5mmのPVA繊維(商品名ビニロン)10重量部とを抄紙し、その後窒素雰囲気下1500℃で焼成処理することによりピッチ系炭素繊維集合体を得た。
ピッチ系炭素繊維集合体の炭素含有率は99重量%、厚みは1.2mm、空隙率は85体積%であった。
次にマトリックス樹脂として株式会社三洋化成製マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムを用い、ピッチ系炭素繊維集合体を強化材として、成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で1mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚み方向の熱伝導率を測定したところ、4.5W/(m・K)であった。
[実施例2]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が284℃であった。直径0.2mmの円形断面孔のスピナレットを使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径13μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された長繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付255g/mのマット状ピッチ繊維とした。
このマット状ピッチ繊維を空気中で170℃から305℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したマット状ピッチ繊維を700℃で焼成しその後粉砕装置にて短繊維化し、その後さらに2900℃で焼成することによりピッチ系炭素短繊維Aを得た。ピッチ系炭素繊維の平均直径(D1)は11μm、D1に対する直径分散の比(CV1)は11%であり、平均繊維長(L1)は50μmであった。六角網面の成長方向の微結晶サイズは42nmであった。繊維軸方向の熱伝導率は510W/(m・K)であった。また、ピッチ系炭素繊維Aの真密度は2.1g/ccであった。
次にピッチ系炭素短繊維A70重量部と、焼成を済ませた状態の炭素短繊維B(平均繊維長8.5mm)20重量部と、バインダーとして平均繊維長10mmのポリエチレンテレフタレート繊維10重量部とを抄紙し、その後280℃でカレンダー処理を行ってピッチ系炭素繊維集合体を得た。
ピッチ系炭素繊維集合体の炭素含有率は90重量%、厚みは1.2mm、空隙率は70体積%であった。
次にマトリックス樹脂としてポリカーボネート(商品名:パンライト)フィルムを用い、ピッチ系炭素繊維強化材を成形体の体積比率として35%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で1mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、4.3W/(m・K)であった。
[比較例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が285℃であった。直径0.2mm円形断面孔の紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、熔融ピッチを牽引して平均直径10μmのピッチ系長繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付250g/mの三次元ランダム形状を有するピッチ繊維マットとした。
このピッチ繊維マットを空気中で170℃から295℃まで平均昇温速度7℃/分で昇温して不融化を行った。不融化した三次元ランダムマットを800℃で焼成した。焼成後のピッチ系炭素繊維マットを構成するピッチ系炭素繊維の平均直径(D1)は9μm、D1に対する糸直径分散の比(CV1)は18%であった。平均繊維長(L1)は40μmであった。六角網面の成長方向の微結晶サイズは3nmであった。繊維軸方向の熱伝導率は、35W/(m・K)であった。
次にピッチ系炭素繊維70重量部と、バインダーとして平均繊維長5mmのPVA繊維(商品名ビニロン)10重量部とを抄紙することによりピッチ系炭素繊維集合体を得た。
ピッチ系炭素繊維集合体の炭素含有率は65重量%、厚みは1.5mm、空隙率は80体積%であった。
次にマトリックス樹脂として株式会社三洋化成製マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムを用い、ピッチ系炭素繊維集合体を強化材として成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で1mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、1W/(m・K)未満であり、熱伝導率の小さい値となった。
[比較例2]
実施例1において、ピッチ系炭素繊維集合体を用いること無く、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂単体を成形体として、その厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、1W/(m・K)未満となった。

Claims (11)

  1. 単繊維の平均直径(D1)が1〜20μmの範囲であり、かつD1に対する繊維直径分布(S1)の比(CV1)が5〜20%の範囲にあり、単繊維の平均繊維長(L1)が1〜100μm、平均直径(D1)に対する平均繊維長の比、即ちアスペクト比が1〜100であるピッチ系炭素繊維Aと、
    繊維平均直径(D2)が2〜40μmの範囲であり、かつD2に対する繊維直径分布(S2)の比(CV2)が5〜20%の範囲にあり、単繊維の平均繊維長さ(L2)が0.1〜150mmである炭素繊維Bとを、
    短繊維A対長繊維Bとの重量比が1対99乃至99対1の比率となるように混合して得られる炭素繊維混合体であって、
    該炭素繊維混合体におけるピッチ系炭素繊維短繊維Aの六角網面の成長方向に由来する微結晶サイズが5nm以上である炭素繊維集合体。
  2. 炭素繊維短繊維Aの真密度が1.5〜2.5g/ccの範囲であり、該短繊維Aの繊維軸方向の熱伝導率が200W/(m・K)以上である、請求項1に記載の炭素繊維集合体。
  3. 短繊維Aと短繊維Bとが混合された混合体の厚さ方向の熱伝導率が3W/(m・K)以上であり、該炭素繊維混合体はその厚さが0.05〜5mmであって、その空隙率が50〜95体積%であるピッチ系炭素繊維を含む請求項1又は2に記載の炭素繊維集合体。
  4. 短繊維Bがピッチ系炭素繊維を含む請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維集合体であって、該炭素繊維集合体に合成樹脂からなるマトリックスを含浸させて得られる炭素繊維強化複合材料。
  5. マトリックスが熱可塑性樹脂である請求項4に記載の炭素繊維強化複合材料。
  6. マトリックスが熱硬化性樹脂又はその前駆体を含有する請求項4に記載の炭素繊維強化複合材料。
  7. 炭素繊維集合体がマトリックスに対して体積分率で10〜80体積%を含有してなる請求項4に記載の炭素繊維強化複合材料。
  8. 平板状に成形した状態における厚さ方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上である請求項4〜7のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料。
  9. ピッチ系炭素繊維混合体をバインダーの存在下にて捕捉して、炭素含有率を80重量%以上となる不織布状の繊維集合体を形成し、継いで圧延処理を施すか又は施さずに、その厚みを0.05〜5mmとなるように調整し、さらに空隙率を50〜95体積%に調製してなる平面状集合体を得る工程を含む炭素繊維集合体の製造方法。
  10. その使用量の少なくとも1重量%が炭素質として焼成後に炭素繊維集合体内に残存し得るバインダーを用いて不織布状集合体を形成し、ついで不活性ガス雰囲気下において500〜1000℃の温度により焼成処理を施し、1000℃〜3500℃の範囲の所定温度でおいて焼成処理及び/又は黒鉛化処理を施してなる請求項9に記載のピッチ系炭素繊維集合体の製造方法。
  11. マトリックス樹脂の含浸処理を真空状態かつ加圧条件下において実施する炭素繊維強化複合材料の製造方法。
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