「何故?そんなにボロいバイクを直そうとする……?」なんて聞かれること、訊ねられることがありますが、答えたところで、旧車好きでなければ理解してくれないだろうし、ヘンな人だと思われても、致し方ないことだと思う。バイクいじり好きにも、様々なタイプ、趣味嗜好の方向性があるが、この10数年は、旧車の中でも「ボロ」と呼ばれて当たり前のようなバイクをメインにいじり、直し、時に「フルレストア」を楽しんできた。ここでは、サビ付いて簡単に抜けないシリンダーを抜き取った際の、テクニックとアイデアをご覧頂こう。
目次
旧車好きには避けられない道!?
「個人的に興味がある」とか「出逢ったときに興味が無くても、何だかピピッと感じるものが……」などなど、人それぞれで感受性が異なって当然だと思う。ぼくの場合は、自分の生誕年前後のモデルに興味があり、気にして見ていたうちに、縁あって修理したり、フルレストアする機会に恵まれた(?)。また、自分にとっての修行と言うか、レストア経験を積み上げる勉強のつもりで、敢えて取り組んだこともあった。このモデルは、スーパーカブの初代モデル、OHVエンジンを搭載したC100シリーズの中でも、発売直後の初期シリーズの後期モデル、1960年の後期に生産されたモデルだ。スーパーカブC100の誕生直後の極初期シリーズ(1958~60年前期)は、シリンダーをフレームパイプから吊ってマウントすることから、通称「吊りカブ」と呼ばれていた。
分解数日前からのお約束が重要!!
エンジンでもシャシーでも、分解するスケジュールを組んだら、その作業数日前から数回に渡って、ボルトやナットの緩めるネジ部分に防錆浸透オイルスプレーを吹き付けて放置しておこう。通常モデルの分解でもそうだが、ボロボロのサビだらけエンジンの場合なら、尚更必要不可欠である。何故なら、いきなり緩めることでカジリが生じ、ボルトが折れてしまうことが多いのだ。レストア作業でもっとも大変なのが、実は、ボルトやナットの取り外しなのだ。
スーパーカブC100シリーズの中でも、初期生産のエンジンは、エンジンの中味部品にデザイン的な特徴が多い。60年後期生産車でも、ご覧の通りクラッチハウジングやプライマリードリブンギヤが後の量産車と比べて大きく軽量加工されている。59年前期以前の生産車はさらに特徴的で、クランクケースには量産車ながら「砂型クランクケース」を採用していた。
ガソリンタンク内の結露が原因か?
完全なる露天保管ではなかったため、比較的程度が良い!?スーパーカブC100だったが、ガソリンタンク内に溜まった水分が燃料ホースを伝わってキャブレターへ落ち、さらに開いていた吸入バルブからエンジン内部へ侵入。鋳鉄シリンダーの内部は、ご覧の通りガッツリとサビ付いていた。こうなると分解は至極面倒になる……!!
「シリンダーの抜き取り」その一例
完全にサビ付いているシリンダーとピストンリング。もはや一体化しているので、シリンダーをコツンコツン、ピストンをコツンコツンとハンマーで叩いても、ウンともスンとも言わす簡単には抜き取ることができない。今回は、年式的な特徴にこだわってレストア修理したいので、シリンダーを壊さないように、コンロッドを曲げないように(ピストンは再利用しない)、注意深く分解した。ここで利用したのが、ベアリングやギヤプーラーと呼ばれる特殊工具だ。
防錆浸透スプレーと熱の融合
手持ちのギヤプーラーがドンピシャサイズで、鋳鉄ブロックのシリンダーに引っ掛け、ソケットレンチのコマ越しにピストンを押込むことができた。プーラーをセットしてグイッと締め上げても、まったくビクともしなかった。そこで、防錆浸透スプレーをタップリ吹き付けてから放置。1週間放置しても眼に見えた変化がなかったので、エンジンを屋外に出してから鋳鉄シリンダーをハンディガスバーナーで炙ってチンチンに温めた。さらにプーラーを締め上げると、シリンダーが僅か数ミリ、持ち上がった!!
作業開始2週間で抜けたシリンダー
バーナーで炙ると防錆浸透オイルに引火するので、炙り作業は必ず屋外で実践しよう。1週間目に熱のチカラを併用したことで、シリンダーが僅かに持ち上がったので(数ミリ)、その後は、毎日のようにバーナーで炙ってプーラーを締め上げ、テンションを掛けながらシリンダーを突っ張りつつ防錆浸透スプレーを吹き付け続けたのだ。このヒート熱を併用した作戦を始めてから1週間後、プーラーを締め上げるとシリンダーがズルズル持ち上がった!!そこで一気にプーラーを締め上げてみた!!
欠品部品が無いほど良いレストアベース
アメリカ専用輸出モデルとして1971年に生産されたホンダSL70K0。リターン式4速ミッションを搭載した元祖ホンダ横型70ccエンジンモデルだ。その後、SL70K1/K2と続き、XL70K0/K1(いずれも横型70ccエンジン搭載)へと進化。仮に、このシリーズモデルの現代版を製造したら、間違い無く人気モデルになるはずだ。のんびり作業でフルレストア完成。現在は、バイク仲間が絶好調を保ちながら走らせている。
帰宅後、ガレージで夜な夜な作業のフルレストアを楽しんだ。天候に左右されず、昼夜に関係なくバイクいじりを楽しむことができる場所=ガレージがあるのは、実に恵まれた環境である。持ち家の購入よりも先に、ガレージの所有がぼくには優先項目だった。
こんなボロバイクを美しく仕上げる気力!!
写真上の手前がビフォーで、下の写真が組み立て完成時のアフターだ。この違い、楽しくありませんか?車両は1962年に発売されたヤマハYA5デラックス。部品交換会の現場で写真上のボロと出逢い、悩みながらも出店者さんから連絡先を聞き出し、数日後に思い立ち、購入&車両を引き取りへ行った経緯のあるバイクだ。こんなボロバイクでも、フレーム骨格がしっかりしていたので、フルレストアを決意したのだ。ヤマハ空冷2スト混合ガソリン時代のバイクで、ヤマハとしてはロータリーディスクバルブを初採用したモデルでもあった。このフルレストア時には、様々なことやレストアテクニックを勉強することができた。
想定外だったのは、驚くほど数多くの「新品部品」を入手することができたことだ。このモデルのファンが少なく、ネットオークションに各種部品が出品されても、ライバルと対峙することなく、おおよそ出品価格で落札することができた。フルレストア作業自体は、ほぼ数ヶ月で完了させることができた。デザイン的なキーポイントであるホワイトウォールのタイヤは、現在、日本製旧車が流行っているタイバンコクのショップから通販購入。親日国のタイでは、60年代から日本車(新車、中古車)の輸入が盛んで、そんな歴史があることから、現在、クラシックバイクブームが到来している。タイカワサキやタイホンダがある関係で、日本車に対する信頼も厚いようだ。フルレストアしたヤマハYA5デラックスは、エンジンが好調になるまでに丸々1年を費やした。その原因は、2次空気の吸い込みによるピストンのダキツキ症状の頻発だった。Webikeマガジンのメンテナンス項目一覧にある過去記事をご覧頂くことで、トラブル回避の様子を見ることができると思います。2スト旧車ファンの方には、特に、こんな事例があることを、お知りおきいただければと思います。
- ポイント1・部品を壊さないように分解することが大切。分解スケジュールが決まったら、ボルトやナットに防錆浸透スプレーをたっぷり吹き付けておこう
- ポイント2・ ボルトやナットがどうしても緩まないときには、防錆浸透スプレーをしっかり吹き付け、ヒーターやハンディバーナーで患部周辺をしっかり熱しよう
日常的なメンテナンス中に、緩むはずのボルトやナットが緩まない……。ちゃんとした工具を使っているのに、何故!?なんて経験をしたことがあるサンデーメカニックは数多いはずだ。外せて当たり前のボルト、緩んで当たり前のナットが、思い通りにならないことは、決して珍しくはない。焦ってしまい、ボルトを折ったり、ナットをネジ切ってしまっては元も子もない。たった1本のボルトが緩まないだけでも、メンテナンスできない、部品交換できない、先へ進まない、なんてことは、サンメカあるあるのお話しだろう。ましてや、いたるところのボルトやナットが緩まない……となるのが、ボロボロ旧車の部品分解である。
ここで実践トライしているのは、焼き付きではなく、サビで固着したホンダスーパーカブC100エンジン分解である。フルレストアするつもりで購入した初期生産シリーズのC100だが、これが想像していた以上にひどい状態で、特に、エンジン内部のシリンダーとピストンリングのサビ付き固着は、固着を大きく超えて、もはや一体化しており、ビクともしない状況だった。車体に関しては、分解作業の数日前からボルトというボルト、細かなビスも含めて防錆浸透スプレーをたっぷり吹き付け、必ず緩めたい箇所、例えばアクスルナットやエンジンマウントボルトなどなど、まずはトルク抜き=ボルトやナットの緩めを先行で行い、そこへさらに防錆浸透スプレーを吹き付けることで、本作業時には、比較的容易にすべてのボルトを緩め、抜き取ることができた。
このように、バラシ始めるスケジュール数日前からボルトやナットに防錆浸透スプレーをしっかり吹き付け、トルク抜きを先行で実施。その際に、緩まないボルトやナットがある場合は、着火バーナーやヒートガンでボルトに熱を加え、さらに周囲へも熱を加えてから、ボルトやナットの隙間から防錆浸透スプレーをネジ山へ直接吹き付けることで、大きな効果=後々の作業が楽になるのだ。この段取りは、是非とも知っていて欲しいノウハウのひとつである。
また、分解作業時の工具ほど、しっかり確実な商品を利用したい。車載工具のような品質ではなく、メガネレンチやソケットレンチを利用し、ボルトの頭がナメそうな気配!?を感じた時には、あらかじめその手の箇所に威力を発揮する専用ソケット(例えばトルネードソケットなど)を準備しておくように心掛けよう。分解作業がメインなので、大トルクで一気にボルトやナットを緩められる電動ドライバーや電動インパクトレンチも使い勝手が良好。是非、お試し頂ければと思う。
今回のスーパーカブの分解でもっとも手こずったのが、前述したようにシリンダーの抜き取りだった。鋳鉄ブロックのシリンダー本体と鋳鉄製ピストンリングがガッチリ固着し、ほぼ一体化していたのだ。偶然にも手持ちのギヤプーラーを使うことができたが、マルチエンジンなどでは、今回のような分解は実に難しい。仮に、シリンダーとピストンのサビ固着があまりにひどいと気がついていたなら、分解前にスパークプラグ穴から防錆浸透スプレーを大量に吹き込み、シリンダーを外側からハンディバーナーで炙っていたと思う。分解作業時には、このような「段取り作業」が大切なことを知っていただければと思います。
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