第162回 睡眠の専門医が教える、睡眠不足の賢い解消法
睡眠不足、不眠、眠気、夜勤(交替勤務)、夜間頻尿、睡眠薬、認知症……。
一般向けの講演会では企画側からテーマについて要望をいただくことが多い。上のリストはその一例で、中でも睡眠不足は群を抜いてリクエストが多い。聴講者から事前に質問が送られてくることもあり、その中でも「睡眠不足の悪影響」「睡眠不足の解消法」「短時間睡眠法」などがやはり人気だ。「科学的に証明された短時間睡眠法はありません」と回答して失望を買うこともしばしばだが、せめて睡眠不足を解消するにはどのような眠り方をしなくてはならないかしっかりと勉強して帰宅していただくことにしている。
睡眠不足は英語では「sleep loss」もしくは「sleep debt」と記載されることが多い。後者は日本語では睡眠負債と翻訳され、以前流行語大賞にノミネートされたこともある。負債と表現するのは睡眠不足の悪影響が借金のように蓄積するためである(第9回「眠気に打ち克つ力 その3 ―知らぬ間に膨れあがる寝不足ローンにご用心」)。
その借金返済にかかる時間は当然ながら返済額に依存して長くなる。
睡眠不足に陥ると眠気のほか、認知パフォーマンス、免疫、代謝機能の低下など様々な悪影響が生じる。これらの悪影響を残さずに前日の疲労をしっかり回復するのに要する睡眠時間、すなわち「必要睡眠時間」には大きな個人差がある(第4回「譲れない眠り、「必要睡眠量」を測る」)。したがってあくまでも平均であるが、20代、30代の若い世代では毎日コンスタントに8時間30分程度眠る必要があることが私たちの以前の研究で明らかになっている。実際、第9回で紹介した米国ペンシルベニア大学が同じく20〜30代の健康被験者を対象にして行った研究でも、1日8時間の睡眠では不足で、実験が行われた2週間にわたって認知パフォーマンスが悪化し続け、負債が積み上がることが示されている。
ちなみに私たちの研究に参加した被験者たちは、実験参加前の睡眠時間が平均7時間30分であることがウェアラブルデバイスで確認されており、事前調査では日中に眠気を感じておらず睡眠不足とは思っていないと回答していた。
では、実験で明らかになった必要睡眠時間8時間30分との差1時間にはどのような意味があるのか?
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