「プラごみ防止条約」合意ならず なぜ決裂したのか、焦点は

海洋汚染対策は待ったなし、条約の早期実現を

2024.12.28

 世界中の人々にとって身近で便利なプラスチック。その生産と消費の量は増加し、環境中に流出すると分解されにくいことから、プラスチックごみ(プラごみ)による環境汚染は深刻化する一方だ。危機感を共有した国際社会は2022年から国連の下、プラごみ汚染を防止するための国際条約づくりを進めてきた。

 条約を策定するための政府間交渉委員会(INC)の「最終局面」と位置付けられた5回目の会合が11月25日から12月2日まで、韓国・釜山で170カ国以上が参加して開かれた。しかし、最大の焦点だったプラスチックの生産規制を巡って厳しい規制を求める欧州連合(EU)や島しょ国などと、プラスチック原料となる石油の産油国などとの溝は最後まで埋まらなかった。このため交渉委員会は条約案への合意を先送りすることを決めた。

 この国際条約づくりの目標期限だった「2024年内の合意」は残念ながら実現しなかった。だが、プラごみの汚染防止は待ったなしだ。25年の早い段階での交渉再開とプラごみを規制するための道筋を盛り込んだ条約の早期成立が待たれる。

「持続可能な開発に関する国際研究所」(IISD)が撮影した第5回政府間交渉委員会の開会セッションの様子(IISD提供)
「持続可能な開発に関する国際研究所」(IISD)が撮影した第5回政府間交渉委員会の開会セッションの様子(IISD提供)
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4回の会合で条文の骨格固まる

 2022年2~3月にケニア・ナイロビで開かれた第5回国連環境総会で「プラスチック汚染を終わらせる」との決議を採択。「プラごみ汚染に関する法的拘束力のある国際約束」、つまりプラごみ防止条約を24年までに策定することが決まり、条約内容を協議する政府間交渉委員会が設けられた。

 政府間交渉委員会の1回目の会合がウルグアイのプンタ・デル・エステで2022年11月28日から12月2日まで、2回目がフランス・パリで23年5月29日から6月2日まで、3回目がケニア・ナイロビで同年11月13日から19日まで、そして4回目がカナダ・オタワで24年4月23日から29日までそれぞれ開かれた。そして毎回、先進国、発展途上国、新興国合わせて国連加盟国の大半が参加してきた。

 環境省や「地球環境戦略研究機関」(IGES)などによると、1回目会合で多くの参加国は汚染対策に向けた決意を表明。2回目はプラごみを減らすための具体的な手法について各国の意見が出され、3、4回目会合で次第に条文案がまとまっていった。この間、プラごみ汚染を防止するために各国が「循環経済」を実現させることを共有するなど、世界的なプラごみ汚染を何とか食い止めようとの各国の機運は一定程度盛り上がったという。

 4回目会合までに条文案にはプラスチックの生産、使用・消費、廃棄物(ごみ)管理のほか、国別行動計画の策定や資金に関する項目が盛り込まれ、条文原案の骨格が固まった。しかし、生産規制など各国の経済に大きな影響を与える条項についての協議は進まなかったようだ。

第5回目の政府間交渉委員会が開かれた韓国・釜山の高層ビル群(UNEP提供)
第5回目の政府間交渉委員会が開かれた韓国・釜山の高層ビル群(UNEP提供)
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妥協案でも折り合わずに先送りに

 政府間交渉委員会事務局である国連環境計画(UNEP)の文書や環境省関係者などによると、韓国・釜山で開かれた今回の5回目会合は、プラごみの削減や環境流出の防止で条文案の整理が進んだ。レジ袋に代表される使い捨てプラや、有害と指摘される化学物質を含むプラ製おもちゃの製造を禁止する案などが提案された。しかし、最大の焦点だった生産規制に関する条項については、最初から意見の隔たりが大きかったという。

 EUやアフリカ、中南米、島しょ国など100カ国以上は、プラごみ汚染を抜本的に減らすためには生産段階から規制する必要があるとの考えを強調した。

 一方、生産規制が石油の輸出量減少につながることを恐れる産油国の中東諸国やロシアなどの反対姿勢はかたくなで、会合開始早々から「条約はあくまで廃棄物対策に絞るべきだ。生産制限は対象外にすべきだ」などと主張。会合は当初から空転したという。

 会合の終盤に生産規制に関わる部分は条約案に盛り込まず、条約の第1回締約国会議で削減目標を設定する、などとする「妥協案」が提案された。今回会合で議長を務めたルイス・バジャス氏も複数回、議長案を提示したが、「生産規制推進派」と「反対派」双方の隔たりは大きく、妥協点を見つけることはできなかった。結局「合意先送り」という形になってしまった。

第5回政府間交渉委員会に参加した各国代表らの様子(UNEP提供)
第5回政府間交渉委員会に参加した各国代表らの様子(UNEP提供)
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