最近、実家を掃除していたら子供の頃に遊んだベーゴマが出てきた。ベーゴマとは、鋳物で作られた小さなコマのことである。
大正時代から高度経済成長期の頃に流行った遊びであり、筆者が小学生の頃(2000年頃)にはベーゴマを進化させた「ベイブレード」がムーブメントを巻き起こした。しかし、筆者はベイブレードよりも旧ベーゴマのゴツゴツした鉄の質感にひかれた。ただ、誰も勝負してくれないので、ひとりで回して遊んでいた。
久しぶりに見るベーゴマとともに、そんな苦い記憶がよみがえってきた。あのときできなかったベーゴマでの熱い勝負を、今こそかなえるときなんじゃないか? そこで調べてみたところ、東京だけでもベーゴマのイベントは割と頻繁に行われているようだ。というわけで、久しぶりにベーゴマで遊んでみることにした。
まずは、ベーゴマをするためにベーゴマのイベントを探してみた。すると「東京ベーゴマ」というブログを発見。「東京ベーゴマ」では、東京近辺で行われるイベントの紹介やベーゴマ初心者に向けたベーゴマの楽しみ方・魅力を発信しているようだ。
しかも、今度「マイベーゴマを作って、世代を超えた真剣勝負」というイベントも企画されているではないか……!
というわけで、今回は「東京ベーゴマ」の管理人が開催しているベーゴマイベントに参加してみることにした。なお、開催場所は大森にある「大田文化の森」という区の施設である。
杉浦明人(すぎうら あきと)さん
こちらが東京ベーゴマ管理人の杉浦さん。2016年にベーゴマと出合い、その魅力にとりつかれてしまったという。
「今日は1日中ベーゴマが楽しめるイベントになってますよ。午前はオリジナルのベーゴマを作ってもらい、午後からはベーゴマの大会が行われます。ぜひ、小野さんも自分で作ったオリジナルベーゴマを使って大会に出場してみてくださいね!」
まさにベーゴマ三昧の1日である。約20年ぶりのベーゴマに腕が鳴る。
というわけで、午前のプログラムである「オリジナルベーゴマ」を作っていこう。参加者は思い思いに色を塗ったり、飾り用のパーツでベーゴマをデコったりしている。
地域の方々が30名ほど参加していた
いっぽう、上級者と思しきみなさんは、ちょっと雰囲気が違う。大会に向け、ひたすらベーゴマを削っている(ベーゴマは削り方によって攻撃力や防御力がアップする)。
コツは手元から前方向へ押し出すように削るとのこと
さっそく、筆者もデコってみよう。
はじめに、マニキュアジェルから好きな色を選び、ベーゴマの表面を塗っていく。
赤は好きな色です
塗り終えたら、UVライトで2分ほど乾かす。待っている間に、ベーゴマを飾るデコパーツを選んでいく。
宇宙船みたいでかわいい
シールやラメ、ラインストーンなど色鮮やかなパーツが用意されていた。ここは初心者らしく、強さよりも見た目から入ろう。
10分以上、悩んでいます
とはいえ、どれもかわいくて迷っちゃうな〜♪
乾かしたベーゴマにUVレンジ液を垂らし、つまようじを使って伸ばしていく。この液体が表面を固め、デコパーツをベーゴマにくっつけてくれる。
UVレジン液は薄く全面に広げることがポイント
こちらは赤羽ベーゴマクラブの方のコレクションベーゴマ
うつくしい……。ぜひ筆者もこのクオリティに迫りたいところだ。
となりのお友達の作品を参考にしつつ……
デコパーツをピンセットで配置
そして、アドバイスをいただきながら最後にUVレンジ液をたっぷりと垂らし、UVライトで15分ほど乾かせば……
完成です
こちらが筆者のオリジナルベーゴマ、「ヘーゴマ」である。なお、「平」の字は、筆者の名前「洋平」に由来している。我ながらベリークールだと思う。
午前のプログラムが終わり、しばしの昼休憩。ここで、杉浦さんにベーゴマについて気になるアレコレを聞いてみた。
休みの日は、ほとんどベーゴマの予定で埋まっているそう
――2016年にベーゴマにハマったそうですが、どんなきっかけだったんですか?
「たまたま親子で門前仲町の商店街を歩いていたとき、ベーゴマ遊びをしてるおじちゃんたちに遭遇したんです。このときはまだ一度もベーゴマで遊んだ経験がなかったのですが、興味本位で参加してみたら思いのほか楽しかったんですよね。しかも、勝ったらベーゴマをいただけたんですよ。以来、ベーゴマについて調べるようになり、床(とこ)の作り方、ベーゴマクラブの存在、加工の仕方など徐々に知識を増やしていきました」
――調べていくうちに、どんどん興味が湧いていったと。
「はい。それで初めて『赤羽ベーゴマクラブ』さん主催の大会に出場しました。そしたら、なんとビギナーズラックで優勝してしまったんですよね。それから『あれ、俺ってすごいんじゃない?』と思い込んでしまい(笑)、一気にハマっていきました。なにより、幼稚園児から80代のおじいちゃんまでが手加減なしで戦える遊びって魅力的じゃないですか?」
――ベーゴマって、大人も子供も強さは同じなんですか?
「年齢は関係ないですね。ベーゴマの勝敗って、半分は運ですから。ベーゴマで勝つには、床に落とす場所が肝心なんです。だから、初心者が適当に投げ入れた場所がうまい具合に相手の懐に入って押し出すこともあれば、たまたま投げ入れた瞬間に相手をはじいてしまうこともあります。この、何が起こるかわからないのがベーゴマの醍醐味のひとつですね」
ベーゴマの戦場、床(とこ)
――では、勝敗を左右する残り半分の要素は?
「基本的にはベーゴマの加工が重要になります。鉄ヤスリで削ることによって摩擦を軽減させ、よりベーゴマを回転させることができるんです。ちなみに紙ヤスリや砥石で磨けば、顔が映り込むぐらいきれいにもなりますよ」
――だから、みんな削っていたんですね! どう削れば強くなるんですか?
「一般的なベーゴマのルールとしては、長く回るor相手をはじいたら勝ちになります。そう考えると、中心が取れているベーゴマは軸が安定しているため長く回り、有利と言えます。
ただ、上級者になると、あえて軸をちょっとだけズラしたり、重心を低くしたり、ルールの範囲内で先端に細工をします。中心が取れているベーゴマは安定しているぶん、当たるとはじかれやすいんです。ところが、軸がズレているベーゴマは台の上を動き回り、スピードも速いため、相手を追いかけて相撲のように後ろから押し出すことができます」
――すごい! 攻撃力も防御力も高い、と。
「ただ、デメリットもあって、後半になればなるほど軸がズレているベーゴマの回転は遅くなります。回転が遅くなるとはじかれやすいので、長期決戦には向きません」
――戦略に合わせて加工の仕方も変わると。奥深い……。
「ですから、どのような加工がいいかは一概に言えませんね。中心が取れているベーゴマでも加工の仕方によっては、相手が近づいてきた際に返り討ちにする『待ち駒』にすることができますから。ほかにも、裏面を寝かして削り、相手の下に潜り込ませる加工もあります。ベーゴマって下からの攻撃に弱いんですよ。しかし、この加工をやりすぎると、ベーゴマ自体が軽くなってしまうので致命的。言わずもがな、重さがないとはじかれやすいですからね。まあ、この加工の微調整が難しく、そして楽しいんですけどね」
杉浦さんのベーゴマ。なお、杉浦さんの息子さんは200個ほど持っているそう
―― いろんなタイプのベーゴマを持っていると、やっぱり有利に戦えるんですか?
「試合のルールによりますが、基本的にベーゴマは1つの大会で1つ、もしくは2つしか使用できないのでベーゴマの数は関係ありません。ただ、ベーゴマには『ホンコ』という試合があって、勝ったら相手のベーゴマをもらうことができます。そして、苦労して獲った相手のベーゴマの形を見て、加工の仕方を勉強するんです。たくさんのベーゴマを手に入れて研究すれば加工技術の幅は広がりますよね。ちなみに、上級者は対戦する可能性がある相手の試合をチェックし、ベーゴマがどんな動きをするのかチェックします。そして、偵察結果をふまえ自分のベーゴマをどの角度でどこに入れれば、相手を倒せるのかを考えるんです」
すぐ人にベーゴマをあげちゃう杉浦さん。筆者もベーゴマをいただきました
――杉浦さんがハマった理由、完全に理解しました! これはおもしろい!
「ベーゴマを初めてやった人でも勝つときは勝ちますし、加工を頑張った人でも負けるときは負けます。しかも、それが子供からご年配の方まで本気になれて、初代面だろうが、年齢性別関係なく、遊べる。こんな魅力的な遊び、なかなかないですよ」
休憩明け、いよいよ大会が幕を開けた。最初のプログラムは「名人戦」。過去の優勝者と対戦し、勝利ポイントを集めるとベーゴマがもらえるという。
名人戦の様子
……しかし、久しぶりにやってみると、バトル以前に回すこともままならない。端っこでこっそり練習していると……
見かねた参加者の方が投げ方のコツを伝授してくれた。
「初めての方は、力まずに水平に投げるとベーゴマが回りやすいです。イメージとしては、前に『投げる』のではなく、『引く』ことを意識してください」
なるほど〜
そして、この日のメインである「リーグ戦」がスタート。みなさん、すんごく強い。
リーグ戦の様子
リーグ戦は総当たりの1対1
でも、おれには師匠直伝の「水平投げ」がある。
どりゃ!!
ヘーゴマの初陣
惜しくも敗退……
やっぱり!
しかしながら、奇跡的に一度だけ勝つことができ(1勝4敗)、3ポイントをゲット。正直、まともな勝負にすらならないと思っていたので、この成績は誇らしい。この喜びを20年前の自分に伝えたい。
リーグ戦の結果表
というわけで、久しぶりのベーゴマは思った以上に奥深く、老若男女が夢中になれる遊びということがわかった。年齢を超えたコミュケーションツールとして、生涯の趣味として、ぜひみなさんにもオススメしたい。
【取材協力】
東京ベーゴマ
https://www.tokyo-beigoma.com/