[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】小笠原和彦『東電被曝 二〇二〇・黙示録』(風媒社 2020年7月)

目次

第1章 東葛地域からの報告

ホットスポット甲状腺がんの子どもが3人

東葛地域=松戸市野田市柏市我孫子市流山市鎌ケ谷市の6市
松戸市議増田薫
甲状腺は、いわゆる「のどぼとけ」のすぐ下にある重さ10~20g程度の小さな臓器で、全身の新陳代謝や成長の促進にかかわるホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌している。
 甲状腺の病気は、男性よりも女性に多く見られ、これらは腫瘍ができるもの(腫瘍症)とそうでないもの(非腫瘍症:甲状腺腫、バセドウ病慢性甲状腺炎「橋本病」など)に分けられる。さらに甲状腺の腫瘍のうち大部分は「良性」で、がんではない。しかしながら、中には大きくなったり、ほかの臓器に広がる「悪性」の性質を示す腫瘍があり、これを甲状腺がんという。甲状腺がんでは、通常、しこり(結節)以外の症状はほとんどないが、違和感、痛み、飲み込みにくさ、声のかすれなどの症状が出てくることがある。このため、甲状腺の病気が甲状腺がんかどうかは、診察や検査をもとに詳しく調べていくことになる。
 大人も含めて甲状腺がんは、年間、10万人に7人前後の割合で発症するとされている。組織の特徴(組織型)により、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様がん、未分化がんに大きく分類される。また、甲状腺から発生するリンパ系のがんとして悪性リンパ腫を加えて分類される場合もある。これらは悪性度(広がりやすさ、ふえやすさ)、転移の起こりやすさなどにそれぞれ異なった特徴があり、治療費も大きく異なる。
木村真三『放射能汚染地図の今』(講談社 2014年)
・検査内容は、まず一次検査として超音波(エコー) 検査を行い、検査結果は、結節(しこり)と嚢胞(のうほう。体液がたまった袋状のもの)の大きさによって、福島県独自の判断として次の4つに分類される。
①結節や嚢胞がなかったもの―A1 (医学的な問題はない)
②小さな結節や嚢胞が見つかったもの―A2 (5ミリ以下のしこり、もしくは20ミリ以下の嚢胞)
③大きな結節や嚢胞があった場合―B (5.1ミリ以上のしこり、もしくは20.1ミリ以上の嚢胞)
甲状腺の状態から判断して、ただちに二次検査が必要な場合―C
 ここでB判定またはC判定となった場合は、「二次検査」が行われる。二次検査では、問診と詳細な超音波検査に加えて、血液検査や尿検査によって甲状腺ホルモンの数値などを確認する。二次検査でさらに詳細な検査が必要とされた場合、細胞診(細い針を刺して細胞を採取し、その細胞を観察して良性か悪性かを判断すること)を行う。最終的に、甲状腺がんの疑いが強い場合は、手術をして甲状腺の一部または全部を摘出し、その組織が悪性であれば甲状腺がんと確定する。
・このことに対し、福島県県民健康調査検討委員会は「甲状腺超音波エコーの精度が向上したこと等による過剰診断(スクリーニング効果)」だと主張し、津田が次のように反論している。

「過剰では説明できないという決定的根拠は、私どもの論文(著者注 Epidemiology誌の2016年5月号)にも引用したチェルノブイリの非曝露(著者注 放射線には曝されていない)集団・低曝露集団での経験がある。そこでは、計47,203名の未成年での甲状腺検診で、甲状腺がんは全く検出されなかった。これがチェルノブイリ周辺での甲状腺がんの多発は過剰診断ではなく事故による多発であることが決着したデータである。
 —中略—
 また、検診で検出された甲状腺がん症例の90%が、がんの性格を示すリンパ節転移・遠隔転移・甲状腺外浸潤(著者注 次第におかして広がること)のいずれかが術後に判明したことも、過剰診断だけでは説明がつかない。」

それと一回目の検査では検出されなかったが、二回目の検査で検出されている人がいるので、検討委員会の主張はまちがいである。
 過剰診断についてはこのぐらいにしておきたい。
・山田國廣『初期被曝の衝撃――その被害と全貌――』(風媒社 2017年11月)
・大谷尚子、白石草、吉田由布子『3.11後の子どもと健康』(岩波書店 2017年7月)
・三田茂医師 小平→岡山県に移住
放射線管理区域 「1平方メートル当たり4万ベクレル以上」

公園内の線量を測定する

松戸市議ラッパーDELI
・0.23μSv/h(≒年間1ミリシーベルト)以上であれば除染
・「ホットスポットファインダー」=シンチレーションカウンターとGPS機能が連動 約160万円
・雨水がたまるような場所が高い=「環境濃縮」
常磐平公園 最大値0.732μSv/h

被曝の問題は、みんなの問題

・平均値はあまり意味がない 汚染はまだら状
・「被曝の問題って環境の問題だから、イデオロギーとか、それぞれの立場を超越していると思うんです」

自治を問う

松戸市役所健康推進課 指導監竹次京子、健康推進班長栄養士長吉村雅子
甲状腺検査→「心配のない方に対して、わざわざやってくださいという姿勢ではない」
松戸市検査 322人
・自己負担4370円
・診断された人には「特定非営利法人3.11甲状腺子ども基金」から給付が出る
松戸市のチラシ「福島第一原発事故による放射性ヨウ素の初期被ばくについては、「松戸市での被ばく線量は少なく、甲状腺の影響は極めて低い」というのが大方の専門家の意見のため、医学的見地から検査の必要性を見出すのは難しいと考えています。」「今回の検査は現在の甲状腺の状態を知るためのもので、原発事故における放射線の影響との関連性を評価するものではありません。」

第2章 飯舘村からの報告(その一)

写真家、安齋徹71歳

飯舘村で被災→福島県伊達市伏黒の仮設住宅
・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ『チェルノブイリの祈り――未来の物語』(2011年6月 岩波現代文書)ノーベル文学賞
山口県で写真家福島菊次郎(『ピカドン―ある原爆被災者の記録』1961年東京中日新聞)に30、40年後に生きてくるから何でも撮れと言われる
・写真家那須圭子祝島で子ども保養プロジェクト

次々に起こる奇妙な現象

・金属のにおいの雲 
・3月19日と翌日、栃木県鹿沼市鹿沼フォレストアリーナ(体育館)へ村民511名を避難させる
飯舘村3月29日京大今中哲二助教らの調査 
菅野典雄村長 原子力に詳しい東工大理工学部博士中退、善仁寺住職杉岡誠 
・正式な避難指示は4月22日、5月末までに
・「見守り隊」で1年間パトロール。これで被爆した。
・鼻血、脱毛、ダルさ

復興に向けての帰還政策

・震災前人口5850人→618人
・小中一貫校再開75名、通学予定者75名事故前の15% コシノジュンコの制服
・14億の道の駅、学校改修40億
・復興資金を使い、菅野村長によって帰還政策が打ち出されているが、安齋によれば、原発事故の直後からつい最近まで、村は御用学者を使い、放射能は危険ではない、と吹聴してまわった、というのだ。
チッソが垂れ流してきた水俣病有機水銀が原因だと認定されるまで16年の歳月がかかった。被曝についても、様々の病気が原発の事故による放射性物質と認められるまで長い歳月がかかると予想し、水俣病を引き合いに出す反原発の人たちが多いが、似ているのはそればかりではない。水俣病では田宮猛雄日本医学会会長、小林芳人東京大学名誉教授(薬学)、沖中重雄東京大学医学部教授(内科学)、勝沼晴雄東京大学医学部教授(公衆衛生学)といった御用学者が財界によって動員され、水俣病の原因は有機水銀ではない、と論陣をはった。原発についても、原発を維持し、推進しようとしている勢力によって御用学者が動員され、人体に被曝の影響はない、と被曝地でいってまわっている。その最たる人物が山下俊一である。山下は長崎大学の副学長であったが、その地位のまま福島県立医科大学の副学長に招聘されている。
・安齋によれば、御用学者がきて、「飯舘は安全だから、家の戸を開けてもよい。洗濯物を外に干してもよい。畑から作物を採ってきて食べてもいい。子どもさんは外で遊ばせてよい」といい、翌日、国によって計画的避難区域に指定され、避難が始まった、というのだ。学者のメンツは丸つぶれである。ネットで調べてみると、その学者は近畿大学教授の杉浦紳之となっていた。
原子力規制委員会田中俊一初代委員長、飯舘村復興アドバイザー、一ヶ月の半分を飯舘村で過ごす

村議会議員、佐藤八郎

共産党村議2016年村長選

震災後の飯舘村

・「村は、リスコミ(著者注 リスクコミュニケーションの略。リスコミとは、あるリスクについて関係者の間で、情報を共有したり、対話や意見交換をして意志の疎通をはかること)事業の一環で多くの専門家を招き、講演会や懇談会を開いてそれぞれの知見を村民と共有しました。また、小中学校で放射線教育を実施するためのカリキュラムもまとめ、授業を行う教員の研修会も行っています。」
・公的資料に紹介されている学者は、近畿大学教授の杉浦紳之ともう一人は山下俊一と同じ長崎大学の教授で、福島県放射線健康管理アドバイザーの高村昇である。いずれも反原発の運動をやっている人たちからは御用学者と呼ばれている。また、かつて右翼の笹川良一競艇を牛耳り、博打の儲けを財源とする日本財団が、講演会にかかわっていることが公的資料の写真でわかる。学者たちは講演会や懇談会を行い、放射能は恐くない、といってまわった。
・『飯舘村全村避難4年半のあゆみ までいの村に陽はまた昇る』(2015年)と佐藤のチラシ
◇3月12日、午前5時4分には原発から10キロ圏内に避難指示範囲が拡大。午後3時30分には1号機が爆発し、避難指示も午後6時25分に半径20㎞圏内にまで広がりました。県道12号線は避難車両で渋滞。(『あゆみ』より)
◇3/12一部電力復帰・避難受け入れ(チラシ)
◇村が設置した避難所では、職員のほか消防団や女性消防隊、婦人会、村社会福祉協議会をはじめ多くの村民が避難者(南相馬市と双葉地方)の対応にあたりました。(『あゆみ』より)
◇3/13一部水道復帰、3/14水道・電力全村復帰(チラシ)
◇県は、14日、「いちばん館」前にモニタリングポストを設置。その数値が急上昇したのは15日の正午頃からでした。(『あゆみ』より)
◇3月15日の午前1時には、村内の一部を含む、原発から30㎞圏内が屋内退避区域に指定され、「やすらぎ」には村民用の避難所を開設しました。村は一時間毎に、「いちばん館」前のモニタリングポストの数値を県の災害対策本部へ報告。測定値は、午後6時20分頃、44.74μSv時を記録します。日中の雨が夜には雪になっていました。(『あゆみ』より)
◇17日、村は行政区長に、住民の避難意向調査を至急で依頼。希望者の第一陣が栃木県鹿沼市へ緊急避難したのは15日でした。(『あゆみ』より)
20日には村内の水道水から基準値を超える放射性ヨウ素が検出され、翌日から取水制限を実施。22日・23日には県による村民対象のスクリーニング検査が実施され、検査を受けた1330人から重度の体表汚染は検出されませんでした。(『あゆみ』より)
・菅野村長、菅直人首相宛の提言書「本村は反核の旗手になるつもりはない」
・糸長浩司 建築家、農村計画学者。彼が飯舘村と今中教授を繋ぐ。杉岡氏がアテンド。

なぜ、菅野村長は村民の避難を遅らせたのか

・村長は22年も努め、自分の村作りの総決算の時期だった

飯舘村村民見習い人、伊藤延由74歳

・1943年11月生まれ。2010年から飯舘村で研修所の管理人をしながら農民見習いを始めました。人生で最高に楽しい一年でした。楽しさが最高だっただけに原発事故とその処理に対する政府、東電と村の態度は許されません。余生を反原発にかけます。
・ソフトウェア会社の研修所

大地を穢す

いんげん、山菜、蜂蜜
原発事故は大地を汚すのではなく、穢した

コミュニティーの崩壊

葛尾村松本允秀村長は避難指示前に住民を避難させた
・菅野村長、44.7μSv/hがでたとき「村民に教えるな」
飯館村のように広い家に住んでいた人には仮設の狭い家は耐えられない

野の科学者

・「自然の循環サイクルに組み込まれた放射性物質は、消す手立てがないので物理学的な半減を待つしかないんです。300年かけると千分の一になるという事実はわかっています。昨年の10月に裏山の土を持ってきて分析しているんですけど、キロあたり4万4893ベクレルありました。事故前の土壌の汚染は、10か20ベクレルです。4万4000ベクレルのうち、約10%はセシウム134なので2年で半減期を迎えるので、セシウム137だけが4万ベクレルあったとすると、30年かけて2万、60年かけて1万、90年かけて5000、ずっといって、300年たっても30ベクレルですから。もう30年たつと20ベクレルくらいになるんです」
・モニタリングポストの疑惑。33個所測ったところ、3個所は同じ値で、30箇所はモニタリングポストより高い数値が出た。
・「農地はですね、表土を5センチ剥ぎとります。それをフレコンバッグに詰め込んで表土5センチを覆土し、きれいな砂をかけます」「ちょっと農業の嗜みがある人なら、表土5センチがいかに大切な土かってことがわかるわけですよ。よい土をつくるのに10年かかる、といわれているわけです」「山へ行けばいくらでも腐葉土はあります。それを鋤き込んで、さらに堆肥を入れて土づくりをした、そのおいしいところを5センチとっちゃう」「で、山砂を入れるんです。1ヘクタールの農地から剥ぎとった土が1000トン出るんですね。このフレコンバッグが村には240万個があるといわれています」
・木材は皮、杉は芯部にたまる 薪にできない
・「長さ30センチのパイプを土中に刺し込んで土壌を採取します。5センチずつ刻んでセシウムの量を測るんです。合計で3万6878ベクレルなんですけど、98%は5センチの中に入っている。ですから、農地の表土を5センチとるというのは、ある意味正しいんですね」
「でも、この下には1500、1600、1700ベクレルがある。農地は原発の事故前は10から20ベクレルだったんです。これが汚染の実態なんですね。これはですね、すぐ近くにあるお宅の宅地です。1万8588ベクレルあるんですが、この方は事故後すぐに長野県信濃町に土地を買って農業を再開しています。そこの宅地は51ベクレルです。この51ベクレルも、福島から飛んで行ったのが入っています」
・山菜はランダム。キノコは最悪だけど、それもランダム。放射性物質は測定すればするほど不可解。理解不能

原発の事故があってよかったねぇ

・子どもを住ませるのは暴挙
飯舘村予算2010年41億。2018年は212億円。村長が国にすり寄った成果。

第3章 大熊町からの報告

母ちゃん町議

大熊町町議会議員木幡ますみ
・『原発立地・大熊町民は訴える』(2011年5月、柘植書房新社

惨事を救った

・2004年の原発モニター会議で勝俣恒久社長と言い合い

ドキュメント逃避行

・事故当日。原発を見に行く。双葉病院、老人介護施設「ドーヴィル双葉」
・11日の夜、翌日の息子の受験に備えて母子は仙台へ行く 受験は中止
・12日の夜戻る。大型バスに乗せてもらえなかった山側部落の人たちと話して 13日・14日避難、犬と猫がいたので避難が遅れる
田村市の総合体育館へ
大熊町双葉町で取り残された人たちが、自衛隊の車両によって体育館に避難してきたのは3月20日すぎだった、と木幡はいう。3月12日に一号機が爆発し、それから一週間以上が経過している。取り残された人たちは相当被曝した、といってまちがいはない。
・飼い犬の火葬後。骨を測定したらストロンチウム90が3.39ベクレル。
大熊町、小児甲状腺がんおよび疑い3人=657人に1人

第4章 浪江町からの報告

パパ、生きている

・今野寿美雄 元原発作業員 浪江町飯坂温泉の復興住宅
・京大原子核工学河野益近先生 問題は内部被ばく 1ベクレルの不溶性の放射性物質が体内に入れば、1年間で16ミリシーベルト被爆する

いまのところはね

・国や東電から放射能に関する情報を伝えられていなかった浪江町は、バスを使って3月15日ま でに海沿いに住む町民1万人をもっとも線量の高かった津島地区にある公民館や民家などに避難させている。津島地区は浪江町福島市を結ぶ国道114号線上にある山間地で、今野の息子は、公民館で放射能によって汚染された雪を食べた、という。息子だけでなく、津島地区に避難した人たちは被曝したはずだ、と今野はいう。因みにジャニーズ系アイドルのTOKIOが農業体験をした「ダッシュ村」は津島地区にあり、そこは国によって帰還困難区域に指定され、TOKIOに農業指導をしていた三瓶明雄白血病で死んでいる。
・「SPEEDIというコンピューター・シミュレーションがある。政府が130億円を投じ てつくっているシステムだ。放射線量、地形、天候、風向きなどを入力すると、漏れた放射性物質がどこに流れるかをたちまち割り出す。3月12日、1号機で水素爆発が起こる2時間前、文部科学省所管の原子力安全技術センターがそのシミュレーターを実施した。
放射性物質は津島地区の方向に飛散していた。しかし政府はそれを住民には告げなかった。 SPEEDIの結果は福島県も知っていた。」(『プロメテウスの罠 特別版』朝日新聞デジタル
福島県立医科大学 病気が2倍くらいになっているというデータ
・「食品の基準として、いま100ベクレル以下なら食べてもいい、といわれていますよね。これ発電所へ行くと100ベクレル以上のものは、放射性廃棄物として管理しなくてはいけない(著者注 福島第一原発事故が起きる前まで、原子炉等規制法によって100ベクレルが基準とされていた)。キャスト、ドラム缶に入れるんです。発電所ではそういう管理をしているんですよ」

第5章 飯舘村からの報告(その二)

野の哲学者、菅野榮子81歳

・古居みずえ監督『飯館の母ちゃんたち 土とともに』(2016年作品)
飯舘村伊達市仮設住宅 家賃支援打ち切り
・「さすのみそ」「凍み餅」

永井のくわ

放射能汚染の終わりの見えなさがストレス
・福島医大 放射線専門の病棟ができた

第6章 福島市からの報告

甲状腺がんについて

・大越良二72歳『週刊金曜日』2018年3月9日号鼎談「甲状腺がんの患者が語る」
・震災直後は高血圧(160位)、急性下痢、一週間以上の下血、3ヵ月おきの通風、心臓の痛みが20分くらい続くなど、震災前にはなかった体調不良を覚え、16年8月に福島市内の診療所で自主的に超音波の検査を受けたところ、左側の甲状腺に13ミリの結節を発見。県立医大病院での細胞診で「左葉乳頭がん、リンパ節転移の疑い」と判定され、16年12月1日に全部摘出(郭清)。
・「チラーヂンというホルモン剤を毎日、175ミリをのんでいるんですが、実際、体から出るホルモンとはちがうわけですよね。めまいがするんです。あと昔とちがうのは、体を動かすのがおっくうになってくるんですね」

原発事故に由来する病気

南相馬市立総合病院患者数の推移 P185 大山弘一という南相馬市の市会議員の方がレセプトを情報開示請求で入手

喉を切る

・穿刺吸引細胞診の痛さ、喉を切る恐怖
アイソトープ治療の辛さ

稽留流産

・大阪 医療問題研究会 早期死亡と周産期死亡が5%→20%

部落から出て行け

・放射性核種ランタン 光って見える
・『ふぁーむ庄野』1000部 「部落から出て行け」という匿名の手紙

第7章 二本松市からの報告

福島の詩人、関久雄

・「福島スタディツアー」

被曝の影響

・「取材の腰を折るようで悪いんだけど、いま、福島の状況は複雑だし、現状を肯定している人もいるわけだよ。放射能は、そんなにたいしたことはなかったんじゃないか。不安になっている人はバカ。ぼくみたいに保養とかいっている者に対して、保養は不安を煽る。いわゆる風評被害は、差別を生む行為だとバッシングされるんです。そういうことで、いまどちらかといえば、福島は全体主義で、とても物をいえる状況ではない。」

そして飯舘村

・郡山の集い 沓沢大三、飛田晋秀

43名の死者

・星野勝弥 飯舘村健康福祉課地域包括 東京から移住
・男女の出生率 女の子が多い

第8章 郡山市からの報告

見ざる聞かざる言わざる

・高校教師渡辺紀夫『週刊金曜日甲状腺がん鼎談の一人 2015年4月左葉摘出
・ペット検査 放射性物質を注射し集まる所を調べる
・「甲状腺がんが人を殺すんじゃなくて、転移して、多臓器不全(著者注 生命維持に不可欠な脳、心臓、肝臓、腎臓などの臓器のうち2臓器が正常に機能しなくなった状態)で死んじゃうんです。だから、病名は多臓器不全。2人に1人はがんで死にます、といっているけど、がんで死んだという診断書が下りる人はほとんどいないんです。わたしは甲状腺を摘出し、生きているので、お医者さんに『がん』と書いてください、と頼んだ。良性腫瘍みたいなことを書かれたら、がん保険はおりないんですよ」

第9章 最終章へ向けて

・情報開示請求 放医研職員保田浩志氏「山下先生も小児の甲状腺被ばくは深刻なレベルに達する可能性があるとの見解です」2011年3月21日

プロの写真家

福島県三春町飛田晋秀
・江戸時代、三春町は秋田家5万石の城下町として栄え、町の中には寺院が多い。樹齢千年といわれている滝桜も有名だが、先進的な小学校教育をしてきた町としても広く知られている。また、自由民権運動の発祥地でもある。それと甲状腺被曝を防ぐため、安定ヨウ素剤を備蓄していた自治体としても知られ、原発の事故後、町民に配布された。
・「わたしがこれを徹底的にやろうと思ったのは、2012年の8月に、当時、小学校2年生の女の子が、『大きくなったら、お嫁さんになれる?』って。これをいわれたときにね、わたしは本当に心臓が止まるんじゃないかと思うぐらい、声も出なくて。その子に『ごめんね』っていうだけいって、あとは車の中で号泣して帰ってきましたよ」
水俣病の患者を撮った写真家、ユージン・スミスの妻、アイリーン・美緒子・スミス水俣と福島に共通する10の手口というものを示した。
1 誰も責任を取らない/縦割り組織を利用する
2 被害者や世論を混乱させ「賛否両論」に持ち込む
3 被害者同士を対立させる
4 データをとらない/証拠を残さない
5 ひたすら時間稼ぎをする
6 被害を過少評価するような調査をする
7 被害者を疲弊させ、あきらめさせる
8 認定制度を作り、被害者数を絞り込む
9 海外に情報を発信しない
10 御用学者を呼び、国際会議を開く
福島市蓬萊町 中島未来、21歳 汚染土をどこかに運ぶトラック

最終章

福島県立医科大学附属病院みらい棟 2016年12月完成
・「福島の子どもは、大丈夫です」早野龍五×緑川早苗 / 服部美咲 シノドス2018.05.12の記事
・当初の予定では、ライターで、のちに放射線医学県民健康管理センターの広報担当に転じた田中成省を想定し、わたしは質問事項を書いてきた。福島県立医科大学々報によれば、田中は健康管理センターに所属し、特任教授になっていた。なぜ、そうなったのか、同じようなことをやっている身としては少なからず興味はあった。『ワタミの理念経営』(日経BPコンサルティング)を書いたライターの田中が、まったく畑ちがいの県立医科大学の特任教授になっていたからだ。
・特任教授、戸井田淳
・落合栄一郎「福島第一原子力発電事故による健康被害」『アジア太平洋ジャーナル』第13巻、第38号、No.2、2015年9月28日 
・病院のレセプト統計

最後に

・損害賠償訴訟に備えて

あとがき

12/10読了
 
◆要約:著者の住む東葛地域で小児甲状腺がんが3名発生したことを契機に、被災した各地で様々な人(被ばく、健康被害について発信している人)にインタビューして、健康被害の実際のところを調査するルポルタージュ
◆感想:警戒しながら読んだがなかなか面白かった。飯舘村の事情などがよくわかる。
出てくる人の意見は人それぞれ。注意して抑制的に話す人もいるし、ちょっと陰謀論気味と感じる人も出てくる。
でもこの本は、現地の生の声を集めるというのが主題なのでそれでいいと思った。
しかし、著者が重視している落合栄一郎氏のデータなどは根拠が非常に怪しいと感じる。
国はデータを隠すので、健康被害の証明は本当に難しいと感じた。

【読書メモ】山岡淳一郎『原発と権力――戦後から辿る支配者の系譜』(ちくま新書 2011年9月)

目次

はじめに

第1章 「再軍備」が押しあけた原子力の扉

すべては逆コースから始まった

巣鴨プリズンで読んだ英字紙

戦時下の日本での原子力研究

科学者の研究への知的欲求

軍人・中曾根の登場

軍備化に介入する旧陸軍

ダレスと吉田の密約

紛糾する日本学術会議

反共・再軍備の先兵として

原子力の平和利用を謳ったアイゼンハワー

原子力予算案、提出へ

第五福竜丸事件でも止まらない権力

第2章 原発導入で総理の座を奪え!

主役は正力松太郎

CIAとパイプを持ち、マイクロ波通信網を構想

保守勢力の躍進

ライバル緒方竹虎

電力界による後押し

CIA職員ワトソンの暗躍

原子力啓蒙キャンペーンとあわせた正力の選挙戦

原子力平和利用団が語るバラ色の未来

2000万を渡し、保守大合同の道へ

暴走する「副総理格」

混乱する原子力委員会

原研と原燃の科学者集団路線か、電力界と通産省の路線か

米国追従か、英国炉の導入かで揺れる

電源開発対九電力

河野一郎の横やり

資源貧国日本の国産増殖炉への憧憬

正力を踏み台にした中曾根による原子力計画

正力の末路

第3章 資源と核 交錯する外交

新潟が生み出した田中角栄

原発の地元誘致のカラク

70年からの一直線の原発建設

角栄思想を作り上げた理化学研究所

松根宗一との関係

議員立法と金脈による勢力の拡大

疑惑が残る土地売買

軍事用プルトニウムを生み出す高速増殖炉、核燃料再処理、ウラン濃縮

核兵器に触手を伸ばす日本

核、琉球、安全保障体制の関係

冷やかなキッシンジャー

日本外交の汚点

田中角栄によるトップダウン資源外交

石油・ウラン両面から攻める

アメリカからの脱却、欧州からウラン購入

混迷を見せる資源外交

田中を襲う様々な外敵

電源三法という利権づくり

国土開発の流れとしての原発

第4章 権力の憧憬 魔の轍「核燃料サイクル

下北半島を日本有数の原子力基地に

使用済み核燃料再処理の壁

自前の再処理工場を建設しろ

癒着しながら進む核燃料サイクル施設

六ヶ所村が選ばれた経緯

石油危機による転換

土地を買い占めれば、後は自由

抜け出せない轍

中曾根康弘の二度の敗戦

日本を支配する海軍人脈

原子力と中會根を結ぶ大小の政治家たち

高坂正堯の「平和問題研究会」

軍事力の増強と原子力が結びつく

もんじゅ」をめぐる不穏な事件

県知事たちの反乱

JCO事故と原子力組織改編

電力自由化を狙う経産省の改革派官僚

止まらないプルサーマル計画

19兆円の請求書

権力はここまでやってくる

終章 二一世紀ニッポンの原発翼賛体制

核武装を口にする孫世代の議員たち

保有に等しい原発の存在

メディアを抑え込む電事連

労組出身の民主党議員の姿勢

ベトナム原発を売り込め!

インフラに夢中になる政官

食い違う上関原発への視点

トリウム原子力の可能性

グーグルとスマートグリッド

あとがき

主要参考文献

【読書メモ】高木仁三郎、渡辺美紀子『新装版 食卓にあがった放射能』(七つ森書館 2011年4月)

初版は『食卓にあがった死の灰』(講談社現代新書 1990年)

目次

新装版へのまえがき 渡辺美紀

まえがき 高木仁三郎

1 食品の放射能汚染とは

1 汚染食品の衝撃

・1986年4月26日チェルノブイリ事故
・事故後半年過ぎた86年11月厚生省「食品1キロ(ないし1リットル)あたり370ベクレル」という暫定基準設定
・1987年2月 スウェーデン産のトナカイ冷凍肉 成田空港 積み戻し 背と尻の行き別れ お尻389ベクレル 背中ギリギリクリア
・トルコ産ヘーゼルナッツ、トルコ産月桂樹の葉フィンランド産の牛胃 抜き取り検査

2 放射線放射能

・光も放射線 アルファ、ベータ、ガンマ、中性子線=電離放射線
アルファ線=ヘリウムの原子核→ウラン、プルトニウムラジウムなど
ベータ線=電子か陽電子トリチウムストロンチウム90、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137など
ガンマ線=電磁波。アルファ線ベータ線に伴って放出される
同位体アイソトープ
・ベクレル=1秒間に1回原子が変化する放射能
・キュリー=ラジウム1グラムの放射能量 1キュリー=370億ベクレル 

3 放射線の人体への影響

・1シーベルトガンマ線ベータ線で1キログラムあたり1ジュールのエネルギーを与える放射線による被曝
・実効線量=全身への確率的影響 等価線量=組織・臓器ごとの確率的影響
・全身に均等にガンマ線が1ミリグレイ当たった場合 実効線量=0.12×1(骨髄)+0.12×1(結腸)+0.12×1(肺) +0.12×1(胃)・・・・+0.01×1(皮膚) =1.00×1 =1ミリシーベルト
・頭部だけに均等にエックス線が50ミリグレイ当たった場合 実効線量=0.04×50(甲状腺) +0.01×50(脳) +0.01×50(唾液腺)+0.12×50×0.1(骨髄(10%*))+0.01×50×0.15(皮膚(15%))=約3.7ミリシーベルト
・7シーベルト=99%死亡
・ガン死の危険率 1万人・シーベルト(=10ミリシーベルトを100万人が浴びた時)あたりのガン死数
ICRP=100、BEIR3報告=77~226、ロートブラットの評価=800、ゴフマンの評価=3700、放影研(1988)=1300
・労働者の年間被曝限度50ミリシーベルト ICRP=2000人に1人が死亡、ゴフマン=50人に1人死亡
・放射性核種により、臓器へのたまり方、体内に留まる期間が違う
・被曝線量(ミリシーベルト)=線量係数✕放射能摂取量(ベクレル)
・1キロあたり1000ベクレルのセシウム137で汚染した食品を毎日1.5キロずつ1年間食べ続けたとしよう。チェルノブイリ後の汚染の強いソ連の各地では十分にあり得たことのように思える。そうすると、この人の1日あたりのセシウム137摂取量は1500ベクレル、1年間で約55万ベクレル、これに線量係数 (セシウム137は100ベクレルあたり0.0014ミリシーベルト)をかけると、約8ミリシーベルトとなる。
この被曝による生涯のがん死の危険性は、表1-3に示したICRPの評価では、約1万分の1(1万人に1人)、ゴフマン流の評価では約340分の1(340人に1人)となる。1万人に1人としても、対象人口が1億人なら1万人となり、けっして無視できない確率だ。

チェルノブイリ放射能??その教訓

1 チェルノブイリ事故

チェルノブイリ事故の原因=低出力運転
・10日以上放射能の放出が続く その間に風向きも変わる

2 放射能汚染への対応

3 食卓にあがった放射能

1 環境汚染から食品へ

・まず植物、野菜 植物から動物へ
・1957年ウィンズケール原子炉事故 ミルクの廃棄
・湖の汚染 食物連鎖の濃縮
スウェーデン サーミ民族の汚染 トナカイから

2 ヨーロッパの汚染

放射能市民測定

3 ヨーロッパの食品の汚染度

・淡水魚、トナカイやシカなど野生動物の肉、きのこ類、ベリー類

4 輸入食品と放射能汚染

1 輸入食品の放射能監視体制

2 輸入食品の放射能汚染の実態

5 日本で原発事故が起こったら

1 原発過密国日本

2 事故のシミュレーション

3 食品汚染はどう進行するか

放射能にどう備えるか

1 チェルノブイリは終わらない

汚染食品を薄めて加工品に混ぜて流通させるソ連の例 ソーセージ
・食品→飼料
・アフリカへ輸出

2 自衛する市民

・基準値を厳しく 測定器を備えさせる

3 事故にどう備えるか

SPEEDI(緊急時放射能影響予測システム)
ヨウ素剤 50ミリグラム錠2錠服用し、数日間100ミリグラム量程度を服用し続ける
・何よりも迅速な避難

4 S氏との会話 ― しめくくりに代えて

・七沢潔『チェルノブイリ食糧汚染』(講談社)汚染品の転売
・トナカイの背と尻 基準は社会的なもの 自然エネルギー
11/26読了
 
◆要約:チェルノブイリ事故を受けて、心配する読者のための輸入食品の汚染状況の解説。チェルノブイリ汚染の詳細、事故後の各国の対応、日本で事故が起きた場合のシミュレーション。
◆感想:平易な説明で読みやすい。
チェルノブイリを受けての、日本で事故が起きた場合のシミュレーションが白眉。
とにかくヨウ素の初期被曝を避けること。基本は迅速に避難する。風向きが大事。
そして90年のこの時点で高木さんはSPEEDIヨウ素剤について触れているが、実際に事故が起きて、
SPEEDIヨウ素剤が機能しなかったことを天国で絶句していたのではないか。
本当に日本の「由らしむべし知らしむべからず」の愚民政策で、
日本が全然民主主義国ではなかったことが証明されてしまった。
ソ連を全く馬鹿にできない。
とにかく予防的に迅速にできるだけ遠くに避難して、ヨウ素の被曝を避けることが一番肝要だが、そんなことより
原発はさっさとやめることが一番合理的だと思った。

【読書メモ】2024年に読んで面白かった本ランキング

1位 榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』(集英社新書 2021年)

今年は長い間失業していたので例年より多くの本を読んでおり、ここに挙げた5冊はいつもならどれも1位に選んでもおかしくないレベルなのだが、これにした。
この本は本当に凄本。8月以降、福島の小児甲状腺がん多発について関心を持ち、10冊ほど集中的に読んだのだが、これが今の時点で決定版と言えるような内容。同じく読んだ、study2007『見捨てられた初期被曝』(岩波科学ライブラリー2015年)もスゴ本なのだが、その内容を地道な情報公開請求と関係者への取材でさらに深め、新事実に到達した。
あの時、避難所のスクリーニング検査で何が起こっていたのか?原災本部で、現地本部で、放医研で何が起こっていたのか?
サスペンス小説を読んでいるような趣がある。
そしてこれは過去の出来事ではなく、いままさに裁判が行われている現在進行系の重大な問題。
「仕方なかったでは済まない」。これに対してきちんと遡って処分、対応できるかによって日本の将来も変わると思っている。
 

2位 広瀬隆『億万長者はハリウッドを殺す 上・下』(講談社文庫 1989年)

期待しないで流し読みしようと思ったが、これはすごく面白かった。
タイトルではわかりにくいが、この本はJ・P・モルガン財閥とロックフェラー財閥の成り立ちからの歴史を通して、ゴールドラッシュ、金ぴか時代、人種差別、赤狩りなどアメリカの戦前・戦後の歴史を知ることが出来る。
モルガンは電信・電灯・電話・鉄道、ロックフェラーは石油(製油所とパイプライン)。インフラを握ることで富を独占し、政府、マスコミ、学問の分野に影響を及ぼし、恐慌、戦争を経てさらに富を集積し、世界を支配するまでになった。国連本部ビルの土地がロックフェラー財閥から提供されたことが象徴的。
そして、その権力にときには従い、ときには反発したハリウッド。映画を通してその時代の世相が見える。
広瀬隆さんは結構「陰謀論」にくくられることもあって、たしかに細かいところは怪しい記述も多いが、それを承知して読めば問題ない。ここまでスケールの大きな歴史を描ける人は稀有だと思う。自分が世界史に疎かったこともあってとても勉強になった。
 

3位 池上彰佐藤優『黎明 日本左翼史 左派の誕生と弾圧・転向 1867-1945』(講談社現代新書 2023年)

『黎明』、『真説』、『激動』、『漂流』の4冊すべて読んで、とても勉強になった。
明治・大正時代の社会主義運動、大逆事件とアナ・ボル論争、日本共産党コミンテルンの関係、「山川イズム」と「福本イズム」、労農派と講座派の分離、治安維持法による大弾圧、スパイの跋扈、終戦、逆コース、フルシチョフスターリン批判とハンガリー動乱新左翼安保闘争あさま山荘事件しらけ世代内ゲバ、JR民営化で総評がトドメを刺される、消費社会化とポストモダン、個人化。
日本共産党は長いことインターナショナル(コミンテルンコミンフォルム)の一支部で、いまいち日本の事情や天皇制のことをわかっていない本部の意向に逆らえなかったことがかなり悲劇を生んだんだなとわかった。
 

4位 本間龍『原発プロパガンダ』(岩波新書 2016年)

この本もスゴ本。
電力9社だけで40年間で2兆4000億円の広告費。電事連、NUMO、日本原燃、官公庁などを加えればいくらになるのかわからない。
マスメディアにとってあまりに美味しい飴であり、それを取り上げることをチラつかせることで恫喝にもなる。
「広告とは、見る人に夢を与え、企業と生活者の架け橋となって、豊かな文明社会を創る役に立つ存在だったはずだ。それがいつの間にか、権力や巨大資本が人々をだます方策に成り下がり、さらには報道をも捻じ曲げるような、巨大な権力補完装置になっていた。そしてその最も醜悪な例が、原発広告(プロパガンダ)であった。」
その中でも数少ないが、青森放送の「核まいね」、広島テレビの「プルトニウム元年」、新潟日報のスクープ、天野祐吉氏の『広告批評』などメディア人の気骨をみせた仕事もあった。
3.11以降は「安全プロパガンダ」から「安心プロパガンダ」へ。
この本を読めば、汚染水海洋放出問題などで「風評加害!」などと吹き上がっている連中の正体がよくわかる。
 

5位 若松孝二『俺は手を汚す』(ダゲレオ出版 1982年)

今年は若松孝二関連の映画を4本、本を3冊読んだが代表としてこの処女作を。
生い立ちから、映画監督となり、ピンクの黒澤明と呼ばれ、新左翼と連帯し、PFLPと連帯し、停滞期を経て『水のないプール』を撮るまで。
とにかくエネルギッシュで人間臭い。時代の空気を感じる。映画では『天使の恍惚』が面白かった。
人間の血が湧いていた、60年代の雰囲気がとてもよい。
 

その他

外山恒一『さよなら、ブルーハーツ:パンク日記』(宝島社 1993年)
広瀬隆ロシア革命史入門』(集英社インターナショナル新書 2017年)
島田荘司『奇想、天を動かす』(光文社文庫 1993年)
宮台真司ダイアローグズ 1』(イプシロン出版企画 2006年)
コリン・コバヤシ『国際原子力ロビーの犯罪 チェルノブイリから福島へ』(以文社 2013年)
菅谷昭『原発事故と甲状腺がん』(幻冬舎ルネッサンス新書 2013年)
日野行介『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書 2013年9月)
study2007『見捨てられた初期被曝』(岩波科学ライブラリー 2015年6月)
NHKメルトダウン取材班『福島第一原発事故の「真実」』(講談社 2021年2月)
『なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?UNSCEAR報告書の問題点と被ばくの深刻な現実』(耕文社 2024年3月)
坂口恭平『お金の学校』(晶文社 2021年)
中川保雄『増補 放射線被曝の歴史 アメリカ原爆開発から福島原発事故まで』(明石書店 2011年)
も面白かった。

【読書メモ】坂口恭平『お金の学校』(晶文社 2021年)

【目次】

1:オリエンテ―ション

・3LDK 70平米 家賃6万8000円。
・最高の贅沢は、自分で畑を耕して、野菜を育てて、自分で料理して、そのまま食べること 
・贅沢というのはお金を出して何かを買うことではない、わざわざやることが贅沢

2:入学金について

・遅いと駄目、面倒くさいと駄目 お金とはモノではなくて「流れ」
・気持ち悪いことは駄目 サラサラ血行が良い感じ
・楽しいこと、嬉しいこと、心地いいこと
・✕お金の流れ→◯流れというお金
・人から変に思われた方がいい まずは相手に油断させること

3:まずは企画書を書く

・大事なことはイメージ
・店名、会社名 いい名前がつけられた企画は必ずうまくいく

4:お金とは時間である

・「畑部」という会社 社員8人 全員生活保護 耕作放棄地に家を立てて畑をしている 畑の共同水道
・会社に必要なのはお金ではなく目的
生活保護は口座に入れると貯金とみなされるので、坂口にあずけて、友人の倉庫の金庫にしまっている
・13万円x12ヶ月x8年=1248万円
・時間の担保としてのお金
・必要なお金を減らす=生活の水準を下げろ、自分の水準を下げろ
・月3万円(年36万)で生きる技術
・時間のお金化、そしてお金の時間化=腐った資本主義の世界の中で、生き延びるための次の技術

5:僕の印税についての楽しい話

・楽しい=楽 面白い=直感 楽しい時間 愉快な流れ=経済
・「明確なゴールを1回、完全に設定する
・路上生活者鈴木正三さん「生活に必要な様々な量を知ると、不安がなくなる」
・目的をはっきりさせると、プロ仕様になる。すべて経費になる。
・右腕=「イメージしている原型に近い、すでに流通している物質」を見つける
・楽しいとは、リスクのことを考えないでいいほど安心できて、人々が不安だから群がるセオリーから遠く離れることができること
・楽しいと、売れなかろうが、評価されなかろうが、描ける=誰が買わなくても経済=お金になる前にすでに経済がある
・優しさ、愛情が複数の経済の間の糊

6:経済=「大丈夫、きっとうまくいくよ」と自分に声をかけること

・経済=経世済民=世を直し、民を救うこと
・お金=経済=「大丈夫、きっとうまくいくよ」と声をかけてあげること
古代ギリシア 自分を治す 自己への配慮(ソクラテス
・一つではなくいろんな戦法で戦う
・日本政策金融公庫の低金利融資500万円
レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』酋長のいちばん大事な気質は気前の良さ、次に器用なこと
・エコノミクス=オイコス(共同体)+ノモス(法)=共同体のルール

7:頭の中(お花)畑だよねあんた

・楽しくない会社は稼げなくなっていずれ潰れる
・畑こそ循環する経済の見本
・存在している事自体が経済、ハチや蝶、植物、人間もそうなのだが人間はそれに気づいていない
・畑=経済=幸福 ペンギン村のイメージ

8:文藝春秋にとっての王とは何か?

・「ここから先は有料」の馬鹿らしさ。記事って読んでほしくて書いてるんじゃないの?
・坂口は人を褒める天才 絶対に嘘を言わないこと、お世辞を言わないこと
・ハラスメントを受けたら絶対にやり返すこと。その覚悟があれば決していじめられない。
・覚悟、勇気の作り方
・全部無料にすること
・本当のことを言う人=パレーシア
・お金の品位=そのお金を使う人間の品位

9:模倣を三つ揃えると経済になる――坂口恭平の経済史1

・子供の頃文房具が大好きだった みんなのたあ坊
・模倣が2つではまだ、それぞれのものをそれぞれにパクっているやつでしかありません。模倣が1つだと俺の真似するなと怒られます。しかし、3つ合わさると、もう誰も怒れません。つまり模倣が2つではまだ流れないんですね。3つになると、流れはじめます。
・この世に模倣ではないものがないんです。かと言って模倣するだけでは、いつまでたっても、そのパイオニアが見つけ出した楽しさからは脱却できない
・模倣を3つ揃えると経済になる 週刊『ホップステップ』
・「サカリオ」キリギリスのキャラクターのレターセット。OPP袋、値札シール。

10:健康という経済――坂口恭平の経済史2

・高校2年生 「建築家」を漠然と目指していたが 初めて図書館で建築雑誌を読んで建築家を調べる 石山修武に衝撃を受ける『ドラキュラの家』
・受験勉強なし推薦で合格 ゴールを設定すると自動的にゴールすることが出来る
・高校生の坂口が影響を受けていた3人 石山修武赤瀬川原平ボブ・ディラン 3つの模倣の法則
・作家でいうと赤瀬川原平椎名誠ジャック・ケルアック 3人の文体の違い ケルアックはH・D・ソローから、ソローは鴨長明から影響を受けている 
・全員3つしていた人 ルネサンス期のダ・ヴィンチの万能人のイメージ 
・羞恥心=自我の強さの裏表 自我、自尊心が強いから恥ずかしい 羞恥心を超克すること
・現在の3つの模倣はボブ・ディラン鴨長明石牟礼道子 
・経済とは「私とは何か?」ってこと
・経済とはあなたの健康のこと 健康=前向きな力
・僕は流れを感じ、ここまで探索を続けてきました。そして、僕は泉と出会ったのです。それは健康でした。自分を自分で救うという行為でした。覚悟でした。そして、それがその健康が、まさに僕の経済となったのです。そして、経済とは自分の魂のことであると気づいたのです。
・自分の魂が震えて喜んでくれること=幸福

11:卒業式:祝辞 たかちゃんへの返礼

・4歳の頃、いつも日が暮れるまで遊んでいた親友
・世間の評価なんか屁みたいなもんです。人間に好きになる以上の力はありません。人は誰かを好きになります。何かに夢中になります。その時、その行為自体が経済となって、この大変生きづらい世界の中でのあなたが生きる時空間に、空気に、生きながらえる湧き水になるはずです。一度、見つけたら、決して手を離さないでください。
11/20読了
 
◆要約:お金とは流れ=楽しいこと。明確なゴールを設定すること。
経済=経世済民=人を助ける前にまず自分=自己への配慮=「大丈夫、きっとうまくいくよ」と自分に声をかけること=健康。
畑=植物、虫、猫=存在するだけで経済。
模倣を3つ揃えると経済になる。坂口恭平の場合、石山修武赤瀬川原平ボブ・ディラン
自己への配慮をし、「大丈夫、きっとうまくいくよ」と自分に声をかけ、3つの模倣をして、自分の好きなことに向かえば、きっとうまくいく。
◆感想:とても面白かった。坂口恭平の面目躍如といった感じ。
ただ気になったのは、これを言っては野暮は承知だが、生活保護についての記述。
畑部の例で、生活保護を貰いながら例えば1000万円貯金することが、たとえ人に預けているといっても可能なのか?
そこは気になったが、調べると生活保護受給者の貯金の限度については明確には決まっていないようなので、やり方によっては問題ないのかも知れない。
気になったのはその点だけで、それ以外はすごく共感した。
特に畑部が面白い。どんどん不耕作地が増えているいま、会社員に馴染めない人と、不耕作地をマッチングさせることはすごくいいことだと思う。
だけど、農地取得には規制があって、ハードルが高くそれが全然進んでいない。
それをしてしまうと、都市部の安い労働力が減ってしまうのでやりたくないという資本家の思惑もあると思う。
そこになんらかのブレイクスルーが必要だと思った。
自分も不耕作地を取得あるいは借りてみたいが、非常に難しい。
自分にとってもとても為になる本だった。