AI研究を続けるうちに、 子どもの読解力が気になりはじめた新井さん。 その出発点は、お母さんの数学教室にありました。 ずーっと一本道 早野 大学で法律を学んだあと、 アメリカで数学基礎論を学んだ新井さんが、 いまは、国立情報学研究所におられます。 どういう経緯だったんですか? 新井 私自分は、『ヘンタイよいこ新聞』を愛読していた 高校生の頃から今まで何も変わっていないんですよ。 ずーっと一本道で来たつもりなんです。 自分ではブレていないつもりなんですけど、 そのときどきで「これは法学部です」とか 「数学です」とか言われる。 でも私は法学と数学基礎論って 同じだと思っているんです。 「言葉のことだよね」って。 そして、 言葉には社会に与える影響があると思っているんです。 糸井 いやあ、そうですね。 新井 社会に与える影響の責任を考えるのは、 法学部でも数学基礎論も一緒だと思ったから、 より厳
新井さんお手製のケーキをいただきながら 数学基礎論の話はつづきます。 (ケーキは「ミンスミート」。 干しぶどう、干しいちじく、干しプルーン、 自家製オレンジピールなどをスパイスとお酒と いっしょに1年漬けて熟成させたものだそうです) 新井 数学の危機に話を戻すと、 さっきお話したように、 数学者たちはすごく困ったんです。 それで、2千年さかのぼって、大元のもとから 「これって正しいよね、これって正しいよね」と、 ひとつひとつ洗い直していったら、 機械にもわかるぐらい精密な、 「数学とは何か」っていうことの 学問体系ができていったんですよね。 糸井 物事がややこしくなったときに、 「機械にも分かるぐらいに解きほぐす」っていう発想は あらゆる場面でされますね。 新井 そうかもしれませんね。 糸井 でも、それが逆に命取りになる場合がある。 新井 良い面と悪い面が出ますね。 で、コンピュータの原理
「はじめまして」の座談会。 少しずつ数学の本質に迫ります。 ラッセルのパラドックス 早野 アメリカで大学院まで行かれて、 そこで学んだ数学基礎論がどういうものか、 簡単に説明していただくことはできますか? 新井 数学って、たとえば物理と相性のいい「解析」とか、 いろんな分野にマッチした数学があるんですけど、 そのいろんな数学をたばねる 「全体の数学」を「数学する」ところなんです、 数学基礎論って。 早野 ええ。 新井 数学基礎論がどうして生まれたかというと、 数学が、19世紀のおわりに一度 深刻な危機に陥ったからなんです。 糸井 ほぉ。 新井 数学はギリシャ時代からずっと整備されてきて、 科学の言葉として使われてきました。 近代科学や現代科学は ぜんぶ数学の上に成り立っています。 早野 うん。 新井 それなのに、20世紀にはいってすぐ、 バートランド・ラッセルという人が 明確な形で問題を提
「ロボットは東大に入れるか」という名の 人工知能(AI)プロジェクトがあります。 通称・東ロボくんはソフトウエアなので、 体はありません。記述試験を受けるときは、 「東ロボ手くん」という筆記装置が手伝ってくれますが、 東ロボくんに姿はないのです。 IBMのワトソンや、 プロ囲碁棋士と互角の勝負をするアルファ碁と同じです。 2011年にプロジェクトが始まってから7年が過ぎ、 東ロボくんは大きく成長しました。 模擬試験で好成績をおさめるようになったのです。 でも、東ロボくんの育ての親・新井紀子さんは、 「うちの子」の偏差値があがったことを喜ぶ “教育ママ”ではありません。 なぜなら、頭のいい人工知能を育てることが プロジェクトの目的ではなかったから。 人工知能に何ができて、何ができないのか? その限界をわかりやすく示すことで、 人間はこの先どうやって生きていけばいいか、 一緒に考えたい。 新著
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