元国税局職員の芸人による税務調査体験談「会社員にも行われる税務調査」
元国税局職員さんきゅう倉田です。新婚旅行の行き先は「タックス・ヘイブン」です。
実は、個人事業者や会社でなくとも、税務調査があるのです。労働者の90%以上を占める給与所得者の方が、税務調査を受けた事例を紹介します。
認められない給与所得の「経費」をむりやりに
AさんはB社の取締役をしています。業務としては、取締役会への出席、社外折衝、経営管理、さらに実務部門への指導と多岐にわたり、それに伴って報酬額の70パーセントを通勤費、宿泊費、衣服費、交際費、新聞雑誌費として支出していました。
Aさんはこの金額を経費にしようと、所得税の確定申告をしました。
確定申告書には、給与収入と給与所得を記載するようになっていますが、給与所得の場合は、いわゆる「経費」は認められていません。事業所得の場合は、事業収入から経費を引いて事業所得を算出します。
しかし、給与は経費を認めない代わりに給与所得控除というものが存在します。給与収入の金額に応じて一定の額が控除される仕組みです。
Aさんは確定申告書の給与所得の欄に、給与収入から自分で支払った通勤費や宿泊費を控除した金額を記入しました。勝手に、経費を引いた金額を給与所得としたのです。
修正申告を拒否して、更正処分を受けることに
給与収入200万円から140万円も引いて給与所得60万円、さらに社会保険料や基礎控除を引いて、源泉所得税をすべて還付にするように申告しました。
現在、給与収入200万円から計算される給与所得は122万円です。本来、122万円と書いてある欄に60万円と書いてあれば、職員はすぐに気づきます。
確定申告期間が落ち着いた頃、既に所得税が還付されたAさんのところに税務署から連絡がありました。Aさんは税務署に呼ばれ、経費についての説明を求められました。
説明ののち、申告内容に誤りがある旨を説明され修正申告を提出するように促されたにもかかわらず、Aさんはこれを拒否し、更正処分を受けてしまいました。
※更正処分…所得や税額を税務署が決定すること
Aさんはこれを不服として訴えることにしました。
会社員の「特定支出控除」が認められるためには
Aさんの主張は、会社役員としてお金をたくさん使っているので、経費として認めるべきだ、よしんば認められなかったとしても「特定支出控除」の制度があるから、それを使えば一部は経費として認められるはずだ、というものでした。
結婚式の新郎の上司のスピーチより長くなるので、短く説明すると、特定支出控除とは、会社員の人に経費を認める制度なんですが、給与所得控除の1/2を超える経費がなくてはいけません。Aさんの場合は、39万円を超える経費がなければならず、39万円以上あったとしても、39万円を超えた部分しか経費にできないのです。
■特定支出控除の対象
- 通勤費
- 転居費
- 研修費
- 資格取得費
- 単身赴任の場合の帰宅旅費
- 図書費
- 衣服費
- 交際費
そして、特定支出控除を受けるためには、確定申告をするときに、経費の明細書や証明書を添付して、特定支出控除を受ける意思表示をする必要があります。
最初から、正しい処理をして、きちんと納税していれば…
Aさんは税務署からの連絡を受けて、経費が認められないことを知って、特定支出控除の存在を聞きつけて、それが認められるはずだと後から主張しました。
でも、通勤費を証明できるような書類もなく「交通費がこれだけかかりました」というメモのみで、宿泊費、衣服費、交際費に関しても、領収書の保管はなく、金額と日付のメモ書きのみでした。
個人事業主の方や勤務先の会社で経費を使っている方は、このような状況では、経費として落ちないのは、理解できると思います。経費にしようと思ったら、最低限、レシートや領収証を保管するのではないでしょうか。
それを怠り、確定申告書で恣意的に全額経費にし、あとから注意をされたら、経費がだめなら、特定支出控除の特例を受けさせろと主張し、証拠書類の提出を求められたら領収書がなくてメモ書きだけ提示する。そんな杜撰な申告で、主張が認められるわけがありません。
さらに、Aさんの自宅とB社を往復するのにかかる交通費が、たとえ、領収書がなくても当然の切符の購入のみであっても、その合計額を特定支出控除で控除しようとすると、本来受けられる給与所得控除より少なくなってしまう。なんともお粗末な主張なのでした。
Aさんは最後まで頑張りましたが、結果は伴わず、本来払うべき税金と過少申告加算税、延滞税を納めることになりました。最初から、税務署の職員に正しい処理を確認して、きちんと納税していればこんなことにはならなかったことでしょう。
職員が忌々しければ、税理士の先生に頼ることもできます。ひとりで無理をすると、Aさんのように悪い結果になってしまうかもしれません。
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