元国税局職員の芸人による「国税局で使われる隠語」
元 国税局職員 さんきゅう倉田です。
国税局には、たくさんの隠語があります。隠語とは、特定の集団やコミュニティ、仲間の中でのみ通じる言葉で、その集団に属さない者をコミュニケーションから排除するために用います。主に、専門性の高い用語に用いられますが、卑猥な言葉などの公衆での使用を憚られる言葉も隠語に変換されることがあります。
国税局にも隠語がたくさんあります。国税局の職員たちには、17時で仕事がはねると、一目散で駅前の居酒屋に飛び込む人が多くいました。そこでは、日本酒の一升瓶を注文し、ちびちびと飲みながら、炙ったスルメやエイヒレをしがみます。会話は、アルコールが進もうと進むまいとに関わらず、仕事の話になります。
新人の根本(仮)くんが税務調査中に帳簿と現金の差異を追求しなかったとか、新人の川島(仮)くんが納税者に無断でゴミ箱を漁って証拠を見つけようとしたとか、新人の川崎(仮)くんがスーツを着ずに税務調査に行って調査先の社長に帰されたとか、新人のミスを肴にします。
国税局職員の守秘義務
しかし、職務に関することを第三者に漏らすのは、国家公務員法第100条によって禁止されています。条文には「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」とあり、違反者は最高1年の懲役又は最高50万円の罰金です。
また、国税通則法という国税局の職員と税理士さんしか知らない(かもしれない)法律にも守秘義務に関しての条文があります。
国税通則法第百二十六条
「国税に関する調査租税の徴収に関する事務に従事している者又は従事していた者が、これらの事務に関して知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用したときは、これを二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」
これらの法律があるので、国税局の外では込み入った仕事の話をしないかというと、そんなことはない。寧ろ、これでもかこれでもかとたくさんするわけです。
でも、周りに酔客に情報が知られることは良しとしませんし、国税局の職員ということも知られたくありません。なにせ、100年前から街の嫌われ者なのだから、とぼくのお世話になった統括国税調査官が言ってました。
国税局で使われる主な隠語
そこで、符丁(隠語)を用いるわけです。例えば、以下のようなものが、国税局の職員の間で使われる主な隠語です。
隠語 | 意味 |
---|---|
さんずい | 法人税 「法」の字に由来。法人課税部門を指すことも。 |
ところ | 所得税のこと。「所」の字に由来。 |
けし | 消費税のこと。「消」以下を省略したもの。 |
さん | 資産課税部門のこと。 |
せんせい | 税理士のこと。 |
おもいの | 重加算税のこと。 |
ほんてん | 国税局のこと。 |
してん | 税務署のこと。「ほんてん」と対をなす。ただ、あまり用いない。 |
かすみ | 財務省のこと。財務省が霞ヶ関にあることに由来。 |
おやじ | 税務署長のこと。 |
サブ | 副署長 のこと。税務署によっては、サブは2人以上おり、「ところのサブ」のように組み合わせて用いる。 |
ごんべん | 国税局調査部のこと。「調」の字に由来。 |
こめ | 国税局資料調査課「料」の字に由来。 |
おまつり | 確定申告期間おまつりのような騒ぎになることに由来。ダサいので若手は「かくしん」と略すことが多い。 |
B勘定 | 偽の領収証のこと。通常はA勘定。 |
たまり | 脱税資産のこと。 |
まるさ | 国税局査察部のこと。だいぶ前から廃止。 |
6階 | 国税局査察部のこと。映画【マルサの女】などで「まるさ」という言葉が有名になったため、代替案として出され採用。当時の査察部が国税局の庁舎の6階にあったことに由来。 |
おわりに
どの時代でも言えることは、その組織に寄る時間が長ければ長いほど、隠語を使う頻度が増えること。既存のコミュニティを捨てて、新たな集団に馴染んだことを意味します。だから、若い職員よりおじさんの職員の方が隠語を使います。
居酒屋で、黒いショルダーバッグを持って、「おもいの」とか「サブ」とか「さんずい」とか言っているおじさんたちがいたら、きっと国税局の職員。普段は知り得ない愉しい話が聞けるかもしれません。そっと、耳をそばだててみてはいかがでしょうか。
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