ヘッジファンドの利益の源泉は、市場のゆがみを突くことと言われます。市場のゆがみには、これを修復する力が作用し、そのエネルギーを利用して投資利益を上げるやり方です。その市場のゆがみ、という点では、今日の日本の金融市場は、近年にない大きなゆがみがあり、それだけ投資の妙味があるとみられます。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年12月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
歪みの源泉は“まさかのインフレ”
日本の金融市場をゆがめている最大の要因は、インフレについての現実と市場の認識の乖離が大きくなっていることです。つまり、2021年から進行したインフレに対して、市場がいつまでも「インフレのない世界」のイメージから脱却できないために、市場の金利水準がいまだにインフレのない世界に引っ張られて低位にあることです。
日本のCPIは2021年から上昇率が高まり、2022年4月以降は政府日銀の物価安定目標2%を上回る状況が続いています。
従来の認識からすれば、2021年から長期金利が先行して上昇し、これを追うように短期の政策金利も引き上げられるところ。ところが、市場はバブル崩壊後の資産デフレ、失われた30年のイメージが染みついていて、金利上昇がイメージできずにいます。
つまり、現実の物価が上昇を始めても、市場も政策当局も「インフレになるはずがない」と信じて疑いません。このため、債券市場のみならず、金融当局も「デフレ対応」を続けました。特に、アベノミクスの旗頭、黒田日銀は、長年大規模緩和を続けながら物価が一向に上がらない状況を見てきただけに、物価が上がり始めても「これは一時的」といって異次元緩和を続けました。
日本だけでなく、ほぼ世界中で低インフレ低金利に慣れてしまったため、突然のインフレに理解が及ばず、対応できませんでした。
現実にはコロナのパンデミックで物流が途絶え、コロナに危機感を持った主要国がこぞって大規模な財政支援と大規模金融緩和で流動性を大量供給したことから、資源価格を先導役に、インフレが急伸してしまいました。
最も対応が遅れた日本
それでも欧米の中央銀行は22年になって遅ればせながら金利を引き上げ、インフレ抑制に動きました。しかし、ほぼ同じタイミングでインフレが高まり始めた日本ではいつまでも「一時的な現象」と見て動きませんでした。しかも日銀が国債を大量に買い入れていたため、長期金利も低いままでした。
そこでまず「望ましい政策金利」の水準を考えてみましょう。
Next: 最大のゆがみ相場は国債?日本市場に投資妙味