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2024年は1995年とシンクロするのか?阪神淡路大震災とその後の大事件が砕いた日本の経済回復=高島康司

政治の流動化

こうした先の見えない低迷に対する日本国民の怒りとストレスも、非常に高まっていた。すでに1993年7月の総選挙で与党自民党が大敗、自民党から離党し新生党を立ちあげた小沢一郎が非自民8党派の連立という荒業で政権を奪取して細川護熙政権が誕生した。「55年体制」が幕を下ろした歴史的な事件だった。93年にはバブル崩壊の傷痕があらわになり、日本経済の失速が鮮明になった時期だ。政府は景気後退にうまく対処できず、自民党政権に不信任をつきつけたのだ。

しかし、非自民が連立した細川内閣になっても政権は安定しなかった。景気の低迷が続き、羽田内閣、そして自民、さきがけ、社会党が連立した村山内閣と、安定しない短命な政権が続いた。政治の流動化である。国民の怒りは増すばかりだった。景気後退になすすべもない政権と官僚には「制度疲労」という言葉で形容された。

しかしそれでも94年になると、バブル崩壊以後の歴代政権が実施した大規模な財政支出の効果が出てきて、景気は上向いた。GDPの成長率はプラス3.2%となった。やはりもう少し我慢すれば、バブル期のような状態に戻れるのではないかという明るい雰囲気が、日本を漂い始めた。日本経済は回復しつつあるという強い実感があった。

95年の阪神淡路大震災は、このような楽観的なムードが蔓延し始めた時期に起こったのだ。村山政権の震災対応は後手後手に回り、さらに同年に発生したオウム真理教のサリン事件にも、国民のショックを和らげるような対応はできなかった。阪神淡路大震災、そしてオウム真理教のサリン事件は、バブル崩壊の痕跡から回復基調にあった日本を、先の見えない穴に突き落とした。この闇は97年の日本版金融ビッグバンで現実になって行く。

2023年の日本は実は回復過程にあった

このような29年前の状況を現在を比べて見よう。そのためには、2023年までの日本がどのような状況にあったのか、確認することが重要だ。2023年の日本は、一言で言えば、社会や経済の低迷からの回復過程にあったのだ。もちろんこれは、2020年にGDPの成長率がマイナス4.1%にまで落ち込んだコロナショックからの回復過程だけではない。実は、2008年から2009年の金融危機が引き起こした大変な社会的、経済的な痛手からの長い回復過程にあったのである。

この記事の読者は、2009年に何があったか覚えているだろうか?派遣切りと、それが作り出した膨大なホームレスが街に溢れ、どの大都市でも盛んに年越しの炊き出しが行われた時期である。また路上には若いネットカフェ難民が溢れ、非難な状況となっていた。

2009年、政府は改正労働者派遣法を施行し、企業に安定した長期雇用を義務づけた。これは3年を越える派遣契約を同一労働者に禁じ、契約期間が3年を越えると企業に直接雇用を義務づけるものだった。

しかし、2008年のリーマン・ショックで低迷していた企業は、直接雇用の人件費増加をいやがり、いっせいに雇用契約を打ち切ったのだ。これは派遣切りと呼ばれ、キャノンをはじめ名だたる大企業が膨大な数の労働者を解雇した。解雇された人々は寮や社宅の立ち退きも迫られたので、ホームレスとして路上に溢れた。これは全国的に行われたので、社会問題化した。

この時期はリーマン・ショックの金融危機の影響が大きく、日本経済の成長率はマイナス3.5%と大きく落ち込んでいた。派遣切りによる大量解雇も背景となり、失業率は急騰し、有効求人倍率は落ち込んだ。また、ホームレスの数と自殺者数も増加した。これに伴い、犯罪率も急激に上昇した。記憶にある人も多いと思うが、社会は騒然とした状態になった。その後も犯罪率は2015年まで上昇し続けた。

しかしその後、これらの数値は2015年くらいから急に下落する。ちなみに2009年は356万人あった完全失業者数は、2023年には154万人に減少している。さらにホームレス数は2009年は1万5,000人を越えていたが、2023年は約3,000人である。5分の1になっている。また、子供の貧困率の低下は著しい。2012年のピーク時には16.3%あった子供の貧困率は、11.5%に低下している。これらの動きに伴い、自殺者数も2009年よりも2023年は1万人減少している。また刑法犯の検挙数は犯罪の種類によって異なるが、3分の1から9分の1にまで減少している。

こうした数値の改善をもたらしたものは、政府のセイフティーネットの拡充もあるが、民間のNPO法人の設立ラッシュもあるだろう。2011年には全国で198法人だったNPOは、2023年には1293法人に増加している。こうした動きのお陰で、2009年にはめったに見ることのなかったフードバンク、子供食堂、一時宿泊施設はいまはいたるところで見かけるようになった。我々は2020年から21年のコロナパンデミックが引き起こした悲惨な状況ばかりが印象に残っているが、コロナ禍の一時的な中断があったとしても、日本社会の回復過程は実は続いていたと見た方がよい。

この結果、2009年頃と比べると日本社会は全体的に落ちつき、安定を取り戻しつつある。高い経済成長がなくても、相対的に安全で安定した社会状態を実現しつつあるのだ。これに伴い、日本人のメンタリティーも穏やかになっている。嫌韓・嫌中を街頭で狂ったように絶唱するネトウヨの声を聞くことはもはやほとんどなくなった。明らかに人々は穏やかになっている。

Next: 94年から95年、2009年の流動化と似てきた政治状況

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