防衛省が開発を進めている純国産ジェット戦闘機の試験機X2が2016年4月22日に初飛行した。機体だけでなくジェットエンジンも国産化した戦闘機は戦後初で、同省は今後、テスト飛行を重ねながら性能評価を実施。その結果を基にレーダーや熱センサーに捉えられにくいステルス性能を持つ超音速戦闘機の国産化を目指す。
航空自衛隊は戦後、米国製の機体を主力戦闘機として導入してきた。16年度中に配備が始まる予定の次期主力戦闘機も米ロッキード・マーチン社製のステルス機F35Aだが、同省はその先を見据え、機体・エンジンの国産を前提とした「将来戦闘機」構想を既にまとめている。X2は「先進技術実証機(ATD-X)」として開発が進められてきた機体で、16年1月にX2という型式名称を与えられた。同省はその性能評価を通じ、将来戦闘機構想のベースとなる技術の開発を進める計画だ。
ステルス技術とは、レーダー波の反射を妨げる機体デザインやレーダー波を吸収する素材、ジェットエンジンの高温排気を減らす工夫などを組み合わせ、敵から発見されにくくする軍用テクノロジーを意味する。ただし、これを戦闘機に応用する場合、ステルス性能を追求するあまり戦闘機に本来求められる高い機動性やデータ収集能力、攻撃力を犠牲にすることはできない。技術的に矛盾する幾つもの課題をクリアするには、その国の総合的な工業力が問われ、何よりも多額の開発資金が必要になる。
16年現在、ステルス機の実用化に成功したのは米国だけで、これまでにF117とF22を配備している。このうちF117は既に退役したものの、1989年12月のパナマ侵攻作戦や91年の湾岸戦争などで実戦投入された。世界的な軍事プレゼンス維持を目的に、米国はステルス機の開発に多額の資金を注ぎ込んでおり、F117、F22の経験を踏まえた最新鋭のF35の配備を進めている。そのため、米国はステルス戦闘機の分野で圧倒的優位に立っているが、近年はロシアとインドがステルス戦闘機T50の共同開発を進めているほか、中国もJ20、J35といったステルス試験機を飛行させるなど、特に極東周辺国が米国を激しく追随する動きを見せ始めた。
防衛省は航空自衛隊の次期主力戦闘機として、当初は米国製F22を想定したものの、米国の思惑から導入できず、結果的にF35Aに落ち着いた経緯がある。主力戦闘機の機種選定が他国の政治情勢に左右されるのは、長期的な安全保障戦略を組み立てる上で好ましいはずはなく、将来戦闘機計画が純国産を目指すのも当然と言える。
X2の開発は09年度にスタート、機体は三菱重工業が主体となり、主翼と尾翼を富士重工業、操縦席周辺は川崎重工業が分担した。エンジンは、初めて国内開発される戦闘機用のアフターバーナー(エンジン排気に燃料を吹き付けて再度燃焼させる出力増加装置)付きで、IHIが開発を進めていた。およそ1年をかけて9回の地上試験が行われ、16年4月、初飛行にこぎ着けた。今後、防衛装備品の研究開発を担当する防衛装備庁に納入され、さらに2年程度の飛行試験を実施、収集したデータを基に「将来戦闘機」を純国産とするか、国際共同開発とするかについての判断を行う方針だ。
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