[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

ドウデュース(競走馬)

登録日:2024/01/02 Tue 07:01:26
更新日:2024/12/23 Mon 08:43:50NEW!
所要時間:約 32 分で読めます


タグ一覧
10億超え 22年クラシック世代 4年連続GⅠ勝利 Do Deuce G1馬 Legendary Ace おドウ どうどす イクイノックスに勝った馬 イクイノックスのライバル キーファーズ グランプリホース サラブレッド ダービー馬 ドウデュース ハーツクライ産駒 ハーツクライ産駒の集大成 ハーツクライ自慢の息子 ピッチ走法 プール好き 一勝より一生 不運の名馬 主人公属性 人馬のドラマ 人馬共無事(松島オーナー含む) 令和のオグリキャップ 令和のスペシャルウィーク 健康優良日本男児 凱旋門賞に挑んだ馬 勝局在望 千両役者 友道康夫 名実況製造機 夢のヒーロー 大器晩成 大食漢 天皇賞馬 戸崎圭太 所要時間30分以上の項目 挫折 日本総大将 最優秀2歳牡馬 武豊 武豊の脳を焼きまくった存在 武豊最強の相棒(2020年代編) 水泳部 牡馬 競走馬 輸送太り 逆境に定評のある奴 逆襲のダービー馬 逆襲の末脚 逆襲ゲージ 道草を食う←文字通り 鋼のメンタル 鹿毛


ともに、見る夢。

2024年 JRA・ヒーロー列伝 No97 ドウデュースより


ドウデュース(Do Deuce)とは日本競走馬

目次

【データ】

誕生:2019年5月7日
父:ハーツクライ
母:ダストアンドダイヤモンズ
母父:Vindication
調教師:友道康夫 (栗東)
馬主:キーファーズ
生産者:ノーザンファーム
産地:安平町
セリ取引価格:-
通算戦績:16戦8勝(内訳8-1-1-6)
獲得賞金:17億7289万3800円
主な勝鞍:'21朝日杯FS、'22東京優駿(日本ダービー)、'23有馬記念、'24天皇賞(秋)、'24ジャパンカップ、'23京都記念

【誕生】

2019年5月7日生まれの鹿毛の牡馬。父はハーツクライ、母はダストアンドダイヤモンズ。
父のハーツクライは2005年の有馬記念で国内で唯一かの三冠馬「衝撃の英雄」ディープインパクトを破った馬であり、国際GⅠレースであるドバイシーマCにも勝利した名馬。
種牡馬としてもディープには及ばぬまでも大成功を収めていたが、2020年の種付けを最後に種牡馬を引退。よって、ドウデュースはハーツクライにとって最後期産駒の1頭となる。

【馬主・株式会社キーファーズ】

ドウデュースを語る上で必ず触れなければならないのが、同馬の主戦騎手である武豊と、馬主である株式会社キーファーズとその代表である松島正昭の関係である。
武豊といえば、リーディングジョッキーを18回獲得し、GⅠ勝利は国内外含めると120回以上、JRAのレースでは合計4400勝を超える名手。これらは全てJRA騎手の歴代最多記録であり、現役でありながら既に伝説の域に入っているジョッキーであることがお分かりだろう。
歴代の騎乗馬にも、オグリキャップディープインパクトキタサンブラックらを始めとする名馬たちがズラリと並ぶ。
それ故にメディアへの露出頻度と知名度も高く「競馬をよく知らない人でも名前を知っている騎手」の一番手に挙げられることも少なくない。

そんな武豊にはもちろん大勢のファンがおり、そのうちの一人だったのが松島オーナーである。彼の本業は京都を主な営業エリアとする自動車ディーラーの持株会社「マツシマホールディングス」の代表。
この企業は一族経営で、先代の代表は松島の父だったのだが、この頃からGⅠで騎手に送られる優勝賞品として自社で扱っている車両を提供する(松島の父はこの時プレゼンターを務めた)など、過去より競馬界とは繋がりのある企業であった。
松島は知人を通じて武騎手と知り合ってからも、しばらくは一人の友人兼ファンとして交流を続けていたが、松島が馬券を沢山買っては外していることを知った武騎手に「そこまでするなら馬を買ったほうがいい」と助言されたことをきっかけにキーファーズを立ち上げて馬主事業を開始。

「武豊を世界一のレース凱旋門賞で勝たせる」ことを目標*1に、海外の生産牧場や調教師と交流を持ち、武豊の海外遠征を全面的にバックアップ。日本でもセレクトセールで高額馬を積極的に落札し、その鞍上を武豊に任せていた。いわばレベル100の推し活。
海外でも、アイルランドを本拠地にGⅠ・1勝を含む重賞7勝を挙げたブルームをクールモアと共同所有していたりする。ちなみにこのブルーム、2021年のジャパンカップに参戦している。
当然そうしたことをやっていれば金もどんどん飛んでいく。松島オーナーを馬主の道に誘ったのは武豊なのは先述の通りだが、松島オーナーは彼の想像の何倍もの金額を馬主業に投資し続けてしまい、武豊は「俺、マズいことを言っちゃったのかな」と思ったとか。

しかし、そんな中キーファーズにやって来た「ダストアンドダイヤモンズの19」はセレクトセールや他のセリに出された形跡もなく、様々な競馬サイトのデーターベースを見ても落札価格が書かれていない。これは、生産牧場などの売り手が、常連客に直接馬を勧めて購入可能させる「庭先取引」で購入されたことを意味しており、言い換えればこの馬はノーザンファームのお墨付きだった1頭としてやって来たことになる*2

そして、ダストアンドダイヤモンズの19は「する(Do)+テニス用語(デュース)(勝利目前の意味)」(キーファーズ公式より)を由来*3ドウデュースと名付けられ、既に日本ダービー2勝の実績を誇っていた友道康夫調教師の厩舎に預けられた。

「勝てそうになる」と言えば縁起はいいが、勝ち切れなくもなりそうな名前ではあったが、成績を見るに要らぬ心配だったようだ。そして、彼自身は水泳部として扱われがちである。詳しくは余談にて

余談ではあるが、キーファーズは勝負服が「袖白縦縞」いわゆる透過処理した画像の背景によく見られる白と灰色のチェッカー柄なため、一部の競馬ファンからは「勝負服がスケスケじゃん」とネタにされている。一応袖は違う模様ではある

【戦歴】

武豊の、キーファーズの悲願

2021年9月5日に小倉競馬場の新馬戦芝1800mでデビュー。もちろん鞍上は武豊騎手。デビュー戦を勝利すると、続くリステッドレースのアイビーステークスも完勝。滑り出しは順調そのもの。

無敗のまま2021年の3レース目となった朝日杯FSでは、同じく無敗であり、既に重賞勝ちを経験しているジオグリフとセリフォスを相手に勝利し、初の重賞勝利を初のGⅠレースで飾って見せた*4。しかも鞍上の武豊騎手は、これまで中山競馬場で開催されていた「朝日杯3歳ステークス」の時代を含めてもこのレースこれまで勝利がなく、22回目の挑戦でついに叶った朝日杯初制覇
そして、馬主のキーファーズにとっても、親交の深い武騎手と共に勝ち取った念願の国内GⅠの初制覇だった。
さらに、この勝利が評価され、同年のJRA賞において、最優秀2歳牡馬に選出された。

この年の朝日杯はドウデュース以外にも、ジオグリフが皐月賞、セリフォスがマイルCS、ダノンスコーピオンがNHKマイルと、3歳になってからGⅠを勝利した馬が4頭もおり、かなりレースのレベルが高かった。その他では4着アルナシームが中京記念(GⅢ)、6着トウシンマカオが京阪杯(GⅢ)、8着プルパレイがファルコンS(GⅢ)、9着トゥードジボンが関屋記念(GⅢ)と4頭が後の重賞馬となっており、出世馬の豊作ぶりから伝説の朝日杯との呼び声も大きい*5

HERO IS COMING −逆襲の末脚−

3歳は弥生賞から始動するも、アイビーSで下した後の菊花賞馬アスクビクターモアの2着。
皐月賞は上がり最速を出すも位置取りが後ろすぎたかジオグリフの3着に。無敗から一転して連敗を喫してしまう。
続くダービーでは、ドウデュースとジオグリフに加え、皐月賞2着のイクイノックスと4着のダノンベルーガを含めた4頭が人気で抜き出ており、彼らが単勝3~6倍の中にひしめいていた。
レース本番、逃げたデシエルトとこれを追うアスクビクターモアが作る1000m通過58.9のハイペースに対して、ドウデュースは後方4番手から乗ると、最終直線で驚異の末脚を発揮。その後ろから猛追するイクイノックスを躱し、前年シャフリヤールが記録したレコードを更新(勝ち時計2:21.9、前年比-0.6)しての勝利となった。

「武豊の想いが、ドウデュースに伝わった!!

ドウデュース、逆襲の末脚!!」
(フジテレビ実況 倉田大誠アナ)

これでハーツクライ産駒はワンアンドオンリーに続きダービー2勝目。そして、朝日杯勝ち馬のダービー制覇はナリタブライアン以来の28年ぶり。武豊騎手は9年ぶり且つ前人未到のダービー6勝目*6、キーファーズは初のクラシック戴冠。コロナによる入場規制が大幅に緩和された府中で、破顔の武豊をユタカコールが迎えた。
更にこのダービー、故障で本レースを最後に引退したロードレゼルを除く17頭が重賞馬となり、ロードレゼルも野馬追に転向して成果を上げているという近年有数のハイレベル世代であることを証明した。
ちなみに口取り式の際、松島オーナーは完全に放心状態で綱を持てていない写真が撮られており、『口取れてない式』と言われ、以降もドウデュースが大舞台を勝つ度に魂が抜けることになる。そしてドウデュースはレース後放牧に出したら僅かな期間で42kg太った

夢の舞台と挫折

その後は海外競走を視野に入れており、ダービー前から登録していた凱旋門賞に関しても、キーファーズの松島正昭代表がダービーの勝利を受けて挑戦を宣言した。……しかしここからが苦難の始まりだった

元々は1か月もフランスに送ったら放牧と勘違いしかねないくらい呑気な性格なので直行予定だったがドウデュースがあまりにも短期間で太るのでコースを経験させたいとの判断で前哨戦ニエル賞への出走を決意。レースでは右手前のまま最後まで走ってしまい、また馬場に足を取られて伸びあぐね、シムカミルの4着に終わった。

次走、凱旋門賞では世界の怪物達との戦いであると同時に、国内現役最強馬とされるタイトルホルダー、昨年のフォワ賞馬であるディープボンド、海外長距離重賞2勝馬のステイフーリッシュといった国内の強豪古馬3頭との初対決ともなった。しかしレース開始前に土砂降りの雨が襲い、ただでさえ前日の大雨で悪化した馬場は更に極悪化。
適性差、そしてアルピニスタをはじめとする欧州馬との大きな実力差を痛感させられるブービー敗退(19着)、日本馬内でも最下位という結果に終わった。
その後ジャパンカップを予定していたが、万全の状態で出走することが難しいと判断されて回避し、翌年まで休養することになった。

襲いかかる試練の数々

4歳になってからの始動戦は京都記念*7。1番人気に支持されるものの、凱旋門賞の大敗から立ち直れているのかわからないこと、ダービー馬がマツミドリ以来75年間もこのレースで勝っていないジンクス、古馬初戦のGⅡということで叩きとして仕上げ途中の馬体で出てくる見込みが高かったこと、実際にダービーと比較して18kgも馬体重が増えていたことなど、決して不安材料は少なくなかった。
しかし、スタートしてすぐに後方3番手に控えると、向正面から4コーナーにかけて大外から進出していき、最終直線で好位につけると、そこから鞭を入れてダービーと同じ自慢の末脚を披露。残り200mであっさり先頭に立つと、あとは後続馬たちを引き離す一方。終わってみれば、2着に3馬身半の差をつけての完勝でレースを終えた。尚、その裏で同レースに出走していたひとつ上の皐月賞馬エフフォーリアは心房細動により競走中止、引退することになった。

そしていよいよ、春の大目標であるドバイターフへ向け出国、馬体の仕上がりはこれまでで最高潮であり、調教も順調そのもの。ここで凱旋門賞で失敗に終わった海外挑戦のリベンジを期待されていた。ところが、レース2日前に足の腫れが原因でドクターストップがかかり、無念の出走取消に。その後は怪我の療養も踏まえてか、夏いっぱいまで休養に当てることとなった。

この休養中に秋のプランが友道調教師から発表され、天皇賞(秋)で始動するとのこと。その後はジャパンカップ、そして状態に問題がなければ有馬記念へと、秋古馬三冠全てへの出走を予定していることが明らかとなった。

…余談だが弥生賞でドウデュースに勝ち、皐月賞5着・日本ダービー3着を経て菊花賞を勝ったアスクビクターモアは、ジオグリフとの再戦となるも揃ってイクイノックスに屈した宝塚記念後、休養中の8月に酷暑による熱中症で急逝。ドウデュースとの再戦は叶わなかった。

同期で争った菊花賞馬の急逝という悲運が起こりつつも、いよいよ天皇賞(秋)、ドウデュースの脚部不安も完治し、前年覇者のイクイノックスとダービー以来の対決。陣営もそれに備えて、満を持してドウデュースを仕上げてきた。

ところが、レース当日にドウデュースの陣営に再びアクシデントが襲う。なんと、武豊騎手が第5レース終了後に下馬し、馬具を外そうとしたところ、直前まで乗っていた馬に蹴られてしまい、右脚を負傷*8。これ以降のレースで武騎手が騎乗予定の馬はすべて乗り替わりになってしまった。
当然その馬の中には、第11レースの天皇賞に出走するドウデュースも含まれていた。
主戦騎手を欠いたまま迎えた天皇賞(秋)では、乗り替わった戸崎圭太騎手がイクイノックスをマークしながらレースを進めるものの、久しぶりのレースゆえか、あるいはいつもと違う騎手に戸惑ったのか、終始掛かりっぱなし。結局、イクイノックスのレコード勝ちを前に、直線途中で力尽きて7着。国内のレースで初めて馬券内どころか掲示板すら外す不本意な結果に終わってしまう。

このレースはハナを切ったジャックドールが前半1000mを57.7秒というかなり速いタイムで逃げており、イクイノックスはそれを3番手で追走していたため、ドウデュースは同じペースに付き合わざるを得なかった。それに先述の掛かりが加わったことで脚を貯められなかったことがこの大敗につながってしまった。

しかし、後方から差し脚を伸ばした馬たちも結局イクイノックスに追いつけなかったことを鑑みるに、序盤で勝ち馬に引き離され過ぎてしまえばその時点で勝負権を失っていた可能性も高く、戸崎騎手の乗り方を間違いと断言することもできない。
これはひとえにこれだけのペースで2000mを驀進し続けても余力を残していたイクイノックスが強すぎたということに尽きるだろう。

次走はジャパンカップ。ここではイクイノックスに加え、今年牝馬三冠を達成したリバティアイランド、中長距離のGⅠで3勝を上げているタイトルホルダー、同期の二冠牝馬スターズオンアースらが、メンバーとして顔を揃えていた。
一方のドウデュースは、武騎手の右脚が完治していないことから、戸崎騎手が継続騎乗することに。結果はイクイノックス、リバティアイランド、スターズオンアースに次ぐ4着と、タイトルホルダーに先着こそしたがリベンジを果たすことはできなかった。なんの因果かその勝ちタイムはダービーの記録を0.1秒上回る2:21.8*9

結局このレース限りでイクイノックスは引退。彼との対戦戦績は1勝3敗。
かつてしのぎを削った"天才"との間には、既に埋めようのない差が出来てしまっていた
ただ、人馬含め万全な状態のドウデュースは、名実ともに最強馬となっていたイクイノックスやその他強豪ライバル相手にどこまで食らいつけたのか?という疑問に対する答えは最後まで出ることはなかった

しかし、天皇賞と比べて明らかに折り合いがついていたこと、勝ち馬に次ぐ上がりタイムを出せていたこと、前走よりも着順そのものは良くなっていたことなど、レース内容に関しては、悲観的な事ばかりではなかった。

逆襲の末脚、再び −千両役者、ここに在り−

そして、4歳最後のレース有馬記念。イクイノックスはジャパンカップを最後に引退し、リバティアイランドも回避で現役二強が不在となったが、それでも出走メンバーの層は非常に厚いものだった。

ラストランのタイトルホルダーやスターズオンアースに加え、2021年のダービー馬シャフリヤール、この年の皐月賞馬ソールオリエンス、ダービー馬のタスティエーラ、天皇賞(春)を制したジャスティンパレスといった、出走するGⅠホースは8頭が揃い、GⅠこそ未勝利なものの宝塚記念2着から凱旋門賞に挑戦し4着に好走したスルーセブンシーズもいるなど、オッズは7番人気までが単勝10倍以下、まさに誰が勝ってもおかしくないレース。

そんなハイレベルなレースの渦中に飛び込もうという最中、ドウデュースの陣営に吉報が届く。鞍上に武豊が戻ってきたのだ。このときにはレース2週間前に調教に跨がれるまでに右脚が回復し、1週間前に開催されたGⅠの朝日杯FSではエコロヴァルツで2着に入るなど、好調ぶりをアピールしていた。
武騎手自身、有馬記念前のインタビューでもドウデュースに乗りたいという気持ちがリハビリの支えになっていたことを語っており、その上で「必ずいいレースをしたい」と意気込んでいた。とはいえ当人のコンディションは「完治はしてないがなんとか騎乗できる」というギリギリの状況だったことが後に明かされており*10、一部では「ドウデュースの有馬記念がなければ年明けに復帰するつもりだった」とも。
当日の騎乗は有馬記念の一鞍だけ。何の偶然か、当年と同じクリスマスイブ(24日)に開催された2017年の有馬記念、キタサンブラックが有終の美を飾った一戦と同じ臨戦態勢であった。

そして、意気込みそのままに迎えたレース。スタートからタイトルホルダーが逃げながらレースを引っ張り、スターズオンアースがそこから離れて2番手。ドウデュースはスタートこそやや出遅れたものの、武騎手はそれを利用して1周目の4コーナーから最初の直線までの間に一度最後方の集団までドウデュースを下げながら折り合いをつける。
タイトルホルダーはいつも通りのペースで逃げる一方、大外枠から脚を使って2番手にいたスターズオンアースはスローペースで脚を貯めていたため、先頭と2番手の差が少しずつ開いていった。
その様子を見た武騎手は2周目の3コーナーからドウデュースにゴーサインを出し、4コーナーで外から馬群を一気に飲み込むと、2番手にいたスターズオンアースと叩き合いをしながら逃げるタイトルホルダーを猛追。残り100m地点でタイトルホルダーを捉えると、スターズオンアースを半馬身振り切ってゴール板前を最初に駆け抜けた。

「並んだ!捉えた!!

ドウデュースだ!!!

武豊だあああああ!!!」
(フジテレビ実況 アオシマバクシンオー青嶋達也アナ)

これでドウデュースは3度目のGⅠ勝利。武豊騎手にとっては4度目の有馬記念制覇*11
さらに、有馬記念制覇の最年長記録をマークすることにもなった*12
京都記念の勝利以降、人馬共に怪我で思うようなレースができなかった鬱憤をこの年最後のレースで晴らしてみせた。
ドウデュースと共に馬券内に入ったスターズオンアース、タイトルホルダーは奇しくも全員ジャパンカップの掲示板組。ターフを去った世界王者から次世代のバトンを引き継いだかのようなレースだった。

武騎手はこれまでこのレースを最後に引退する馬での勝利が3回*13あるが、この後も現役続行する馬での有馬記念勝利は今回が初となる。
また、ドウデュースはこの勝利により中央競馬におけるシュヴァルグランの獲得賞金を追い抜き、ハーツクライ産駒の賞金王に躍り出た*14
さらに、ダービーと有馬を勝った馬というのは規格外の力を持つ三冠馬を除けば何と30年前トウカイテイオーまで遡ることになり、東京2400と中山2500という適性の大きく離れた舞台を勝つ対応力の高さもアピールすることになった。またこの勝利により、ダービーの1着・2着の合計GⅠ勝数が歴代最多となった*15

なお、ドウデュースの勝ちタイムは2分30秒9。前年勝利したイクイノックスより実に1.5秒も速いタイムである。
展開や馬場状態に大きな違いがなければここまで極端なタイム差が出ることはまずなく*16、別レースのタイム差の比較にほとんど意味はない。
しかし、主戦騎手が復帰したタイミングでようやく本来のパフォーマンスを取り戻すことができたという点に関しては相手関係と勝利という結果を見る限り明らかであり、「ここにイクイノックスがいたらどうなっていただろう…」と、考えてしまうファンがいるのも無理はないだろう。

そんなレース後、JRAが公開したジョッキーカメラの映像にはこのような発言が残されていた。
「もう1回行こう」「フランス行こう」
どのくらい本気で言ったのかは定かではない*17が、凱旋門賞へのリベンジ宣言と各所で大いに話題となったのは言うまでもない。
現時点では実際にフランス再挑戦するかは明言を避けているものの、2024年シーズンはまず前年出走すら叶わなかったドバイに再び登録。
その後、ドバイターフへの招待を受託し、今回は前哨戦を挟まず直行することが明らかとなった。

かつてまともに走れず、世界の壁の高さを実感した舞台を再び目指す陣営の策は如何に。

ドウデュースも、私も、帰ってきました!
(2023有馬記念 勝利騎手インタビューより)

世界へのリベンジ、されど壁は厚く

5歳になっての初戦は予定通りドバイターフ。さすがに今回は馬体検査を無事通過。
パドックで馬っ気をぶらつかせ水をかけられたりする茶目っ気を見せつつ日本と海外双方のオッズは1番人気に。
しかしゲートで出遅れ後方からの競馬となったうえ馬群に分厚く覆われてしまい、武騎手の手腕をもってしても道中の抜け道を見付けられず、最終直線で馬群が割れた隙をつくも5着。
レース後、武豊も悔しさに満ちたコメントを残した。

とはいえ、このまま黙っているつもりはなく、次走に宝塚記念を選択…に加え凱旋門賞への登録まで表明。
宝塚に向けてのファン投票では前年のイクイノックスを上回る23万8367票を獲得し堂々の1位。

迎えた宝塚記念。今回は阪神競馬場のリフレッシュ工事のため京都での開催、更に出走馬は13頭と比較的少数。
前走の結果がアレだったため疲労面は問題なく、ドウデュース自身は京都初であるが武豊の京都戦績の高さも相まって同期のジャスティンパレス(鞍上クリストフ・ルメール)との二強ながらも1番人気に。
しかし今年の6月後半は梅雨入りの影響でここ数日雨。レース前には止んだとはいえ当日も雨で重馬場、しかも内がかなり荒れており仮柵で外に寄せられることに加え枠番は4枠4番。
レース本番はゲートを出るなり最後方から進めるも、前走の焼き直しが如き前壁で荒れた内側を走らざるをえず、更に追い討ちをかけるかのように雨まで降り出してしまう。
結局、直線で馬群が横にバラけたところをインコースから追い上げたが、荒れに荒れた重馬場では厳しく6着。勝ったのは皮肉にも同じ後方から進めながらも外枠故に無事な大外を回れた同期の8枠12番ブローザホーン(鞍上菅原明良)*18。ちなみにジャスティンパレスは更に遅れて10着。


逆襲の決戦へ

宝塚での結果を鑑みてか、下半期は凱旋門賞へは出走せず国内に専念、更に今年一杯で引退する方針が発表された。
現役終盤は去年同様、秋古馬三冠路線を皆勤し、武豊も三連勝を目指すことを告げた。


Round1:天皇賞(秋)〜ダービー馬の逆襲、グランプリホースの意地〜


秋初戦は予定通り秋の天皇賞。このレースの出走馬は、この年の中距離GⅠで最も豪華な顔ぶれと言っても差し支えなかった。ソールオリエンスタスティエーラジャスティンパレスら有馬記念で対決したメンバーに加えて、リバティアイランドがドバイSC以来の復帰。この年の大阪杯を制したベラジオオペラなど、多くの強敵と戦うことになった。
近い時期に別レースへ出走する馬を除いて、2000m路線では日本を代表する馬が一堂に会することとなった。
……ただ一頭、この年の皐月賞をレコードタイムで制し、ダービーで2着に入った世代の代表ジャスティンミラノを除いて。

ジャスティンミラノは、ドウデュースと同じ友道厩舎に所属している馬であり、順調ならこのレースで2頭の同門対決が実現するはずだった。しかし、レースの2週間前にジャスティンミラノは屈腱炎を発症し、やむを得ず天皇賞を回避。結局この対決は幻に終わってしまった。ゆえにドウデュースは、自身の不甲斐ない春の走りを清算するためだけでなく、同じ厩舎の後輩の無念を晴らすためにも負けるわけにはいかなかったのだ

友道厩舎と武豊騎手は、総力を挙げてドウデュースを仕上げた。放牧から戻って以降は調教を順調にこなし、輸送後に発表された当日の馬体重は504kg。有馬記念を勝ったときが506kgだったのだから、それに負けない仕上げと言ってよかった。パドックを歩くドウデュースの様子も堂々としたもので、このレースにおけるベストターンドアウト賞*22は、ドウデュースを担当する前川和也調教助手が選ばれた。

1番人気はリバティアイランド。ドウデュースはそれに次ぐ2番人気、3番人気はGⅠ連勝中のルメール騎手が跨る重賞連勝馬レーベンスティール。この3頭が単勝5倍以内のオッズでせめぎ合っており、4番人気以降が12倍以上の単勝オッズを記録していたため、中心は上記の3頭と考えられていた。

そして、ドウデュースの枠番は4枠7番。7番といえば、武騎手が2017年にキタサンブラックとこのレースを制した時と同じゲート番であり、イクイノックスが昨年、一昨年とこのレースを2連覇したときも、どちらも7番ゲートからの発走だった。それゆえか、陣営も枠順を知るなり「最高の枠番」とコメント。
当日の東京競馬場は、時折小雨がぱらつくが、馬場に影響を与えるほどではなく、芝コースは良馬場。ドウデュースが力を発揮するために必要な条件は整っていた。

そしていよいよ発走。ドウデュースは7番ゲートから好スタートを切った。ドバイのような出遅れはない。しかし、武騎手はすぐさま手綱を抑えて内に切れ込み、ジャスティンパレスの真後ろ、後方2番手まで位置を下げて折り合いをつけた。
一方、前方では大方の予想通りホウオウビスケッツが逃げ、その様子をタスティエーラやベラジオオペラなど、先行脚質の馬たちが見る展開。リバティアイランドもその中にいた。馬群は固まり気味で1000m通過。この時点で59秒9前年より2秒以上も遅い。
もっとも、これは前年がひたすらにハイペースすぎただけであり、本年の中盤は緩めども緩みすぎずある程度の負荷のかかる内容となっていた。

直線を向くと、スローペースに落としたホウオウビスケッツがスパートをかけ、その後ろの先行馬たちが追い比べを仕掛ける展開に。更に後ろの集団は差し脚をなかなか伸ばせず、ソールオリエンスやジャスティンパレスは馬群を割るのに苦労していた。残り400を切っても前が止まる様子はない。このとき、ドウデュースは最後方の近くで大外に進路を確保し、レーベンスティールをようやく競り落としたところだった。
残り200を切ったところで、大本命のリバティアイランドがまさかの脱落。先行勢で一番外にいたタスティエーラの伸びが良く、ホウオウビスケッツを捉えにかかろうとした…

まさにその時だった


外からきたきたドウデュース!


外からきたきた!ドウデュース!!


タスティエーラのさらに外から、2年前のダービーで見せたものを上回る末脚を炸裂させたドウデュースが追い込んできた。

残り250m地点で武騎手の鞭に応えて一気に加速し、残り50mの地点で先頭に立つと、1と1/4馬身の差をタスティエーラにつけ、最初にゴール板前を通過。秋初戦を最高の形で飾ってみせた。


最後の秋は譲れない!!!


ドウデュース!!!!


武豊騎手負傷による乗り替わりで満足にいけなかった去年のリベンジを果たすと共にひとつ下のダービー馬タスティエーラとのワンツーフィニッシュ*23を飾り、これで武豊騎手は史上最多タイ*24となる秋天7勝目*25を飾った。
またドウデュースは、史上7頭目*26の4年連続GⅠ勝利・また史上4頭目かつ牡馬では史上初となった2~5歳での4年連続GⅠ勝利*27となった。
また、友道厩舎にとっても、秋の盾を手にするのはこれが初めてであり、この勝利で秋古馬三冠*28と春秋天皇賞制覇*29を同時に達成するという、メモリアルな勝利となった。
獲得賞金も約12億7300万円とハーツクライ産駒トップに躍り出た。
ちなみにこのレース、その裏で横山親子が5着〜7着を独占する(5着マテンロウスカイ(典弘)、6着ベラジオオペラ(和生)、7着ソールオリエンス(武史))という珍記録も生じている。


勝ちタイムは1分57秒3。昨年のレコードタイムには及ばないものの、ウオッカダイワスカーレットがデットヒートを繰り広げてレコードを更新した2008年の0.1秒落ちなので、これでもかなり速い方である。

ただし、このレースの展開は決してドウデュースに向いていたとは言えなかった。というのも、上記の勝ちタイムと1000m通過時の59秒9という値から計算すると、後半の1000mは57秒4。即ち前半より2秒5も速いペースで流れていたことになる。前半遅めで後半速めという流れは、逃げ先行勢の終いの脚に余裕を与え、差し追い込みが届かないケースが多い。実際、2着は道中3〜4番手にいたタスティエーラ、3着は逃げ粘ったホウオウビスケッツが入っており、「前が残る」決着となった。

それでもドウデュースは、ほぼ最後方からの直線一気という作戦でこのレースを勝ちきった。その勝因は大きく分けて2つ。

まず、鞍上の武豊騎手冷静すぎる神騎乗が勝利を手繰り寄せたのは疑いようがない。世界屈指の体内時計をもつ武騎手は当然レース中にペースが遅めであることを見抜いていたし、それは他の優れたジョッキーも把握していた。
しかし彼が違ったのは、「スローだから前目に行く」というセオリーを半ば無視し、ひたすらドウデュースの強みを生かそうとした所にあった。他馬が盛大に動く中ギリギリのギリギリまで追い出しを待ち、ドウデュースの脚を溜め続けていた。

そして、もう一つの要因は、武騎手の完璧な騎乗によって引き出されたドウデュースの末脚が、恐らくは騎手の想像すらも超える凄まいものであった事である。武騎手は30年以上のジョッキー人生の中で、末脚自慢の名馬たちに数多く跨ってきた。しかし、今回のドウデュースで体験した末脚は、これまで積み上げた数多のGⅠ勝利の中でも経験したことないものだったはずだ。
なにせ、ドウデュースの上がり3ハロンは自身最速となる32秒5。もちろんこのレース最速であり、次点の馬が33秒0だったのだから、他馬に0.5秒以上も差をつけた豪脚であった。
これは、2年前のイクイノックスが叩き出した32秒7を上回る………どころかJRAGⅠの勝ち馬史上最速記録である*30
後日公開されたC・ルメール騎乗のレーベンスティールのジョッキーカメラにて、その一頭だけ違う末脚を垣間見ることができるので必見。
ドウデュースのカメラじゃなく?と思われるかもしれないがよりにもよって肝心のドウデュースのジョッキーカメラはキックバックによる泥がピンポイントでカメラに直撃しているので…

結果、前目につけるべく脚を使った他馬の末脚が鈍る中、一頭だけ桁違いの末脚を発動させ、最後に勝利をかっさらうことに成功。武騎手のドウデュースに対する信頼と、それに応えたドウデュースのコンビネーションがなした業であったといえよう。

尚、武騎手はレース後のインタビューでは「引退撤回しても良いかも(笑)」と述べていた。そしてドウデュースもいつも通り飼葉完食&馬っ気という平常運転ぶりで翌日には平然と調教再開。そして馬主の松島オーナーは、この時の優勝レイを持参してまで応援演説した知事候補が大撃沈した

Round2:ジャパンカップ〜日本総大将、その血の運命(いんねん)

素晴らしい初戦を飾ったドウデュースの2戦目は前年4着だったジャパンカップ。
秋天から引き続きジャスティンパレスとソールオリエンスが参戦を表明、さらに今年はアイルランドからディープインパクトのラストクロップであるオーギュストロダンが、ドイツからファンタスティックムーンがラストランとして参戦を表明するほか、欧州最高格のレースKGⅣ&QESにてそのオーギュストロダンや凱旋門賞馬ブルーストッキングを破ったフランスの刺客ゴリアット、同期の二冠牝馬スターズオンアースや本年の二冠牝馬チェルヴィニア、更には前年の菊花賞馬ドゥレッツァや本年の凱旋門賞に挑んだシンエンペラー、宝塚を制したブローザホーンも参戦する等、秋天に引けを取らないメンバーが並ぶなか、ドウデュースは日本総大将として彼らを迎え撃つことになった。同時に、後輩であるジャスティンミラノが復帰叶わず引退することが発表されたため、より負けられない戦いとなった。

かかるプレッシャーは決して小さくないが、当のドウデュースは絶好調。1週前追い切りでも抜群の動きを見せ、武豊騎手が「スピード違反で捕まるわ」と舌を巻く抜群の手応え。
発表された枠順は14頭立てのうち3枠3番。そして背負うは1番人気。後方脚質に不利な内枠ではあったが、ドウデュースなら…

迎えた本番。今回は典型的な逃げ馬が不在の中レースはスタート。そんな中でハナを切ったのは、何とこれまで差し競馬で結果を残してきたシンエンペラー。その後ろもなんと差し馬のソールオリエンスが追走するという構図に。一方のドウデュースは五分のスタートを切ったが、直後に後方2〜3番手に控える。ここまでは前走と同じパターン。
そんな中、向正面で、道中5番手前後にいたドゥレッツァがハナを奪う。鞍上の世界的名手ビュイック騎手がペースが遅いことを察した好騎乗だったが、それを裏付けるかのように、1000m通過62秒台という、まるで未勝利戦のようなスローペース。*31シンエンペラーが2番手に控えた道中、やや前進気勢を見せるドウデュースを苦労して宥める武豊。

そして第4コーナーからスパートを開始し、一気に外から位置を押し上げる。最終直線でも大外に進路を取り、残り400mで先頭のドゥレッツァに競りかける。

なんと坂越えで決めるのか!?

他馬の走りを残像に変える!!

そして、ドウデュースは秋天に続いて日本の2400mのGⅠとしては歴代最速タイとなる、上がり3F32秒7*32の末脚を発揮。スパートをかけたのが、残り4Fの地点からだったことを考えると、凄まじいという他ない。
その後、シンエンペラーとドゥレッツァが盛り返すものの、その追撃をクビ差で振り切り1着をもぎ取った。

ドウデュースだドウデュースだ!!!


これが武豊の信じた末脚!!!



これでドウデュースはGⅠ5勝、武豊もジャパンカップ通算5勝で単独トップ。友道厩舎はシュヴァルグランに続くジャパンカップ2勝目。

勝ちタイムは、2分25秒5。ハッキリ言って遅い。ダービーを勝ったときが、2分21秒9。前日に同じコースで開催された条件戦ですら2分24秒7なのだから、とてつもなく遅い。しかし、それが逆にドウデュースの凄さを裏付ける結果となった。

タイムを詳細に分析すると、前半の1200mは1分14秒5。これらから計算すると、後半の1200mは1分11秒0。つまり、後半のほうが3秒5も速いという露骨なスローペースである。仮に後半と同じペースで前半を走っていた場合の勝ち時計は、2分22秒0と、先のダービーと互角のタイムになるため、今回の勝ちタイムそのものが遅かった原因は、やはり前半の流れが異様にスローだったからと断言できるだろう。
そして、ドウデュースに次ぐ2着は、レース前半を引っ張ったシンエンペラーと後半を先導したドゥレッツァが同着という結果*33。特に、シンエンペラーは33秒1というドウデュースに次ぐ上がり3Fタイムを記録している。
つまり、今回のジャパンカップは、前半の異様に遅いペースを利用して前の馬たちが脚を残し、逃げ先行馬が残るのが当たり前の展開だった。そう考えると、差し追い込み馬たちが勝ち負けになることなど、不可能である「はずだった」。
しかも、ドウデュースが道中最後方に控えていたとき、目の前にいたのは最低人気のカラテ。客観的に見てメンバー的に力が劣る相手が前では、進路が開くことも期待できずがんじがらめの状態だった。

では、このような圧倒的不利な展開の中、彼はどのように勝ちをもぎ取ったのか。
ポイントは鞍上武騎手の、信頼に満ちた「賭け」にあった。
超絶スローペースを読みとった武騎手は残り4F、つまりレースのラスト3分の1というかなり速い段階でドウデュースにゴーサインを出し、先頭集団を飲み込んでそのまま押し切るという判断を下す。
前走では逆にギリギリまで脚をためることに専念して勝利を手にしていたことを思えばかなり大胆な作戦であるし、そもそも、残り800mというスパートの距離自体、並の馬ならゴール板前にたどり着くより先に力尽きてしまうような長さである。だが、ドウデュースを知り尽くしていたこの男は、この馬の脚が持ちこたえるギリギリの閾値を把握していた。*34
早めのスパートの分、流石のドウデュースも最後は疲弊し失速するも、最後は二頭の二着馬をクビ差振り切り優勝。計算と信頼に満ちた一世一代の決断に、ドウデュースが見事応えた勝利であったと言える。

また、なんの因果か、勝ち時計は武豊が初めてジャパンカップを勝った99年と全く同じであった。さらに、3枠3番で勝ったのは1997年のピルサドスキー以来、そしてダービー馬による天皇賞秋、ジャパンカップ、有馬記念の勝利という史上初の勝ち鞍となった。*35


FINAL Round:有馬記念〜全てを喰らう千両役者、最終演舞(ラストダンス)

天皇賞・秋、ジャパンカップを制し、遂に秋古馬三冠へリーチをかけた同馬。次走はかねてから有馬記念を予定していた。だが、秋に入ってから既に2レースで豪脚を見せており、どの程度馬が消耗しているのか定かでないことから「状態に問題がなければ」という前置きが陣営からされており、前年のイクイノックス同様、ジャパンカップが引退レースになる可能性も残っていた。

しかし、ドウデュースは相変わらずタフだった。レースが終わってすぐに青草をほおばりだし、次の日も食欲に衰えは見られない。結局、レースから2日後にはもうプール調教を再開し、陣営からも有馬記念への出走と同レース限りでの引退が正式に発表された。

これでドウデュースはゼンノロブロイ以来20年ぶりの快挙を果たすべく、昨年制した暮れの中山をもう一度目指すこととなった。

このレースには、エリザベス女王杯で復活を遂げた同期の秋華賞馬スタニングローズ、3年前のダービーを制したシャフリヤールが同じくラストランを公言。その他、今年のダービーを制したダノンデサイル、菊花賞を制したアーバンシック、牝馬ながら春のクラシック路線に挑んだホープフルステークス覇者レガレイラ、GⅠ出る度にとんでもない奴とぶつかってしまうプログノーシス、史上初の白毛馬による有馬参戦となるハヤヤッコ、7歳ながらも中長距離で息の長い走りを見せてきたディープボンドが既に参戦を表明。また、スターズオンアース、ジャスティンパレス、ブローザホーン、ダノンベルーガ、シュトルーヴェも続投。

そして、ドウデュース自体も天皇賞秋・ジャパンカップ連勝で秋古馬三冠制覇に王手をかけ、もし有馬も勝った場合は総獲得賞金でイクイノックスどころかウシュバテソーロも超え日本調教馬1位になる。
ドウデュースと同じ主戦武豊のダービー馬として挑戦したスペシャルウィークがあと一歩のところで達成できなかった大記録。そんな25年前の忘れ物を武豊と共に手にすることが出来るのであろうか…?

その期待はこのレースのファン投票にも表れており、ドウデュースへ集まった投票はなんと47万8415票。2位のダノンデサイルは28万票程度であるため、当然圧倒的な1位。おまけに、これまでの最多得票が2022年のタイトルホルダーが獲得した36万8304票だったので、歴代最多得票数を10万票以上更新するという、期待だけでなく、この馬の人気も裏付けるものとなった。

そして追い切りでも期待に違わぬ超絶タイムを叩き出しており、余程のことがなければ期待通りの結果になり得るだろう。
名古屋大賞典でヤマニンウルスに騎乗するため、前年同様に武豊欠席となった枠順抽選会では奇しくもキタサンブラックの引退レースと同じ1枠2番を引き当てた。脚質上、枠の優位性が低いうえ鞍上横山典弘騎手のダノンデサイル、鞍上ルメール騎手のアーバンシックが両隣にいるため決して楽な競馬にはならないかもしれないが、それを乗り越えてこそのドウデュース。

強敵揃う中、彼は武豊初の有馬連覇、秋古馬三冠、そしてライバルに並ぶGI6勝目を挙げ、有終の美を飾れるか注目されていたが…


夢の終わり:残酷なる神〜運命は突然に〜

枠順が決まった翌朝、プールへ向かう際に右前肢にハ行が見られ、まさかの出走取消。予定されていた引退式も中止となってしまった。

既に翌年種牡馬入りが決まっている以上、無理に現役続行して予定を狂わせるわけにもいかず、事実上の引退が発表された。皮肉にも前年、秋古馬三冠にリーチをかけたイクイノックスがコンディション維持の都合で有馬記念に向かわず引退したように、自身も有馬記念を前に(勝利目前に)ターフを去ることになってしまった。

ついぞGⅠ勝ち数も総獲得賞金もライバルに届くことは叶わなかった。しかし国内分に限ればドウデュースもイクイノックスもGⅠ5勝づつ、獲得賞金もドウデュースは約17億5300万、イクイノックスは約17億5600万と互角であり、紛うことなき世代トップクラスであることは疑う余地がない。
取消や劣悪馬場、鞍上交代等、決して順風満帆とはいかなかった現役生活であったが、逆境に立ち向かい続けたドウデュース。そんな彼は『世界最強』となったイクイノックスと双璧を成す、まさに『世代最高』のヒーローであった。

余談だが、その有馬記念でダービー馬2頭を下し勝者となったレガレイラの鞍上は、前年の秋2戦で武騎手に代わってドウデュースと組んだ戸崎圭太だった。*36


AfterStory〜夢を託して〜

引退後は社台スタリオンステーションにて種牡馬入り。
突然の引退ではあったが、陣営は武豊騎手に有馬の出走取り消しを電話で伝えた際、「4年後ドウデュースの産駒が入ってくると思うので、その時またお願いします」とも伝え、互いに前を向いたという。
しれっと武豊の4年以上の現役続行明言でもある。下手したら60歳超えちゃうって…でも大井の的場文男騎手だって60代ジョッキーだしあり得なくもないのが恐ろしい…


【余談】

この記事で体重のことが再三言及されていることからわかる通り、ドウデュースはオグリキャップスペシャルウィークを彷彿とさせる大食漢である。
レースに向かう途中であろうがなんならパドック中であろうがなんならスタート直前だろうが文字通り道草を食う、凱旋門賞を目指す飛行機の中では用意されていた機内食を到着まで延々食べ続け(て、スタッフをドン引きさせ)る、挙句の果てにフランスでもシャワー中に生垣を食い始める、と大食いエピソードについては枚挙にいとまがない。
好き嫌いも少ない*37のか食べてるもののレパートリーも豊富、美味しくないので他の馬は殆ど食べない寝藁まで食べてしまったり、挙句の果てには砕いて餌に混ぜたりして摂取させるサプリメントを手のひらに乗せて差し出してもそのまま食べたりと口に入れられて消化出来るものならとりあえず食うくらいに大食い。

そして、同時にそれは彼らを思い出す程に大物感溢れる一頭であるとも言える。というのも、競走馬は競馬場へ輸送すると馬運車や飛行機内に長時間閉じ込められるストレスで痩せてしまうことも多いのだが、ドウデュースの場合は上記の通り輸送中にひたすら食事を口にしているからなのか、競馬場についたあとの方が、逆に体重が増えているということも珍しくないのだ。おかげで輸送太りというドウデュース位にしか使われないであろうパワーワードが生まれる始末。
秋3レース目という過酷な条件で出走した有馬記念でも同じ事が起きており、そこを勝ちきったのだから、この食欲が馬体のタフさを支えている面もあるだろう。
5歳になってからは精神的にも成長したのか、2度目のジャパンカップにむけての輸送前には敢えて飼い葉を少し残し、輸送後に飼い葉を完食するという自己調整による身体作りまでやってのけているようになった。それでも前走より体重を増やした上でレースを勝ち、翌日にはもう飼い葉を頬張っているのだから、相変わらずタフである。

ガレる事と無縁というのは管理する側にとってありがたい話なのだが、これは「放っておくと簡単に太ってしまう」という難点と表裏一体。
その為しょっちゅうプールに入れられていることが報告されているのだが、結果プールに慣れてしまい流されて遊ぶことを覚えてしまったのだとか
激ズブな葦毛のG13勝馬とは真逆である



「Wiki篭りの追記・修正が、アニヲタWikiに伝わった!」
この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 鹿毛
  • Do Deuce
  • ドウデュース
  • 競走馬
  • サラブレッド
  • ハーツクライ産駒
  • キーファーズ
  • 牡馬
  • G1馬
  • 最優秀2歳牡馬
  • ダービー馬
  • グランプリホース
  • 武豊
  • 22年クラシック世代
  • 戸崎圭太
  • おドウ
  • 逆襲の末脚
  • 逆襲のダービー馬
  • イクイノックスのライバル
  • 大食漢
  • 令和のオグリキャップ
  • 令和のスペシャルウィーク
  • 挫折
  • プール好き
  • 道草を食う←文字通り
  • 友道康夫
  • 鹿毛
  • 10億超え
  • イクイノックスに勝った馬
  • 凱旋門賞に挑んだ馬
  • 主人公属性
  • 千両役者
  • 逆境に定評のある奴
  • 天皇賞馬
  • 逆襲ゲージ
  • 水泳部
  • ハーツクライ自慢の息子
  • 健康優良日本男児
  • ハーツクライ産駒の集大成
  • 4年連続GⅠ勝利
  • 日本総大将
  • 輸送太り
  • 武豊最強の相棒(2020年代編)
  • 所要時間30分以上の項目
  • Legendary Ace
  • 大器晩成
  • ピッチ走法
  • 名実況製造機
  • 勝局在望
  • 鋼のメンタル
  • 武豊の脳を焼きまくった存在
  • 人馬のドラマ
  • 人馬共無事(松島オーナー含む)
  • 不運の名馬
  • 一勝より一生
  • どうどす
  • 夢のヒーロー

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年12月23日 08:43

*1 ただし、松島オーナーの目的はあくまで武豊が騎手を続ける上でのサポートを馬主としておこうなうことであり、自分の馬で武豊が勝つことではない。よって、凱旋門賞勝利に関しても武豊が勝てればそれでよく、自分の持ち馬に乗せることに関してはこだわっていない。

*2 もちろん、庭先取引で購入した馬が優秀とは限らず、ドウデュース以前にキーファーズがノーザンファームから庭先取引で手に入れたいマイラプソディは重賞1勝に留まった。また、高額購入した馬が走らなかった場合、補填として別の馬を売り手が庭先で勧めるという話もあるが、ドウデュースがこのケースだったかはハッキリしていない。

*3 後に京都弁で「どうどす」を捩って美術家の名和晃平氏によって命名されたことが明かされた。

*4 ちなみに、誕生日の関係で令和生まれ初のGⅠ馬でもある。前週の阪神JF勝ち馬サークルオブライフの誕生日は3月24日なので平成生まれ。

*5 他の朝日杯では2017年も2着ステルヴィオがマイルCS、3着タワーオブロンドンがスプリンターズS、4着ケイアイノーテックがNHKマイルC、5着ダノンスマッシュが高松宮記念、香港スプリントと、掲示板内から後のGⅠ馬を4頭輩出しているため、あちらも2021年に負けず劣らずの豊作だったと言える。

*6 過去のダービー勝ちは1998年のスペシャルウィーク、1999年のアドマイヤベガ、2002年のタニノギムレット、2005年のディープインパクト、2013年のキズナ。ちなみに次点は3勝(2018年のワグネリアン、2020年のコントレイル、2021年のシャフリヤール)している福永祐一騎手(現調教師)と、同じく3勝(2009年のロジユニヴァース、2014年のワンアンドオンリー、2024年のダノンデサイル)の横山典弘騎手。なお横山氏は武豊より一歳年上。どういうことなの・・・

*7 この時は京都競馬場がリフレッシュ工事中だったため阪神競馬場での開催。

*8 しかもその馬を所有していたのは松島オーナーの娘が代表を務める一口馬主クラブ「インゼルレーシング」。後に武騎手・松島オーナーの両人が語ったところによると武騎手は「競馬にケガはつきもの」とそこまで気にしてなかった様子な一方、松島オーナーは「生きた心地がしなかった」「えらいことになった」と相当に憔悴されていたそうである。

*9 詳しくは後述するが、同じレースですら、年によって馬場状態が大きく異なり、それだけで大きなタイム差が生じることもこともあるので、それに加えて季節まで異なるダービーとジャパンカップのタイムを比べるのは、勝ち馬同士の実力を図る意味では公平と言えず、無意味であるいうことは留意しておくべきだろう。

*10 本人曰く、痛みのピークを10とすればレース前は3くらいだったがレース後は5くらいになっていたそうな。

*11 これは池添謙一騎手と並ぶ有馬記念の最多勝利記録。

*12 さらに言うと、武豊は90年のオグリキャップでの勝利で最年少記録もマークしており、最年少・最年長両方の記録を保持する形になった。

*13 90年オグリキャップ、06年ディープインパクト、17年キタサンブラック

*14 海外競馬を含めた総獲得賞金は、シュヴァルグランの方がまだ若干上。ただしシュヴァルグランは7歳いっぱいまで走って稼いだのに対して、ドウデュースは4歳いっぱいで互角の金額を稼いでおり、5歳のうちにこちらの記録も更新される可能性は十分にある。

*15 これまでの最多が2007年のウオッカ、アサクサキングスによる合計8勝

*16 実際この日の中山の馬場は過去にも類を見ないほどの高速馬場となっており、同日の3勝クラス競走グレイトフルSのタイムは一年前より1.8秒も短くなっている。この有馬記念はドウデュースの実力に加え、高速馬場や展開が向いての勝利だったと評する声も多い。

*17 実際に松島オーナー自身はドバイへのリベンジはともかく凱旋門賞に関しては最初に聞いた時「えっ?」と思ったとのこと。

*18 ちなみに馬も騎手も初GⅠ制覇、かつ『2024年上半期の平地GⅠ級競走は全て違う騎手が勝つ』というジンクスまで継続。これは次のスプリンターズSまで13戦連続で続くが、秋華賞をルメール騎手が制したことによりひと段落ついた。

*19 管理場馬英ダービー勝利に6度導いた伝説の調教師で、このレース名も彼の功績を称える目的で名付けられた。

*20 ガリレオなど数多くの名馬を管理したエイダン・オブライエン調教師の息子。なお、上記のヴィンセントが引退する際に管理馬をエイダンが引き継いだため勘違いされやすいが、ヴィンセントにはエイダン&ジョセフ親子との血縁関係はない。

*21 日本からは坂井瑠星騎手の鞍上でシンエンペラーが参戦したが彼も12着に終わった。

*22 『最もよく躾けられ、最も美しく手入れされた出走馬を担当する競馬関係者』に贈られる賞。JRA所属の専門家(元調教師など)がパドックを歩く出走馬のできを評価したうえで受賞者を決めている。

*23 ダービー馬によるワンツーフィニッシュは3例目。

*24 戦前から戦後にわたって活躍し、日本における騎手の騎乗フォームに大きなブレークスルーをもたらした、伝説の騎手保田隆芳に並ぶ記録。

*25 過去成績は1989年スーパークリーク、1997年エアグルーヴ、1999年スペシャルウィーク、2007年メイショウサムソン、2008年ウオッカ、2017年キタサンブラック。

*26 過去の達成馬はメジロマックイーンメジロドーベルアグネスデジタル、ウオッカ、ブエナビスタゴールドシップ

*27 牝馬ではメジロドーベル、ウオッカ、ブエナビスタが達成。

*28 ジャパンカップは2017年にシュヴァルグランが、有馬記念は先述の通り2023年にドウデュースが制している。

*29 春の天皇賞は、2008年のアドマイヤジュピタと、2021年のワールドプレミアで2勝をあげている。

*30 「勝ち馬」という制約を外せば、2019年安田記念で後方から恐ろしい追い込みを見せた九冠馬アーモンドアイ(3着)の32.4秒がある。つまり1600mの上がり最速に匹敵する脚を2000mで、しかもより重いハンデを背負って発揮したということになる。

*31 実際、武騎手もこのレース後に厩務員に対し「未勝利戦みたいにペース遅かった」と証言している様子がジョッキーカメラに捉えられていた

*32 具体的には2010年の日本ダービーにてエイシンフラッシュの繰り出した上がり3ハロンと同等。また、この時ドウデュースは瞬間的にだが69km/hを出している。

*33 JRAG1で2着同着は22年エリザベス女王杯のウインマリリンとライラックの2頭が2着同着だった以来である。

*34 ジョッキーカメラでも「有馬では去年700からもった」と話しており、ある種確信めいた判断であったといえる

*35 この偉業、これまでダービー単冠馬どころか二冠馬・三冠馬ですら最低1つは落としている。

*36 戸崎騎手の有馬記念制覇は2014年のジェンティルドンナ以来。

*37 数少ない苦手なものには塩があり、スポーツドリンクに相当するもので塩分を補っているとのこと。