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ジェンティルドンナ(競走馬)

登録日:2021/08/10 (火) 00:00:16
更新日:2024/12/18 Wed 10:46:49
所要時間:約 15 分で読めます





三冠馬の遺伝子。



ジェンティルドンナ(Gentildonna)とは、日本の元競走馬、繁殖牝馬。
アパパネに続く史上4頭目の三冠牝馬にして史上5頭目のGⅠ7勝馬であり、ディープインパクトの代表産駒の1頭。
GⅠ級レース勝利数43と2018年クラシック世代に次ぐ多さを誇り、GⅠ連覇馬を頻発させた2012年クラシック世代*1の中でも、実力筆頭とされる名牝馬である。

メディアミックス作品『ウマ娘 プリティーダービー』での扱いは当該項目参照。 →ジェンティルドンナ(ウマ娘 プリティーダービー)


目次

【データ】

誕生:2009年2月20日
父:ディープインパクト
母:ドナブリーニ
母父:Bertolini
調教師:石坂正 (栗東)
馬主:サンデーレーシング
生産者:ノーザンファーム
産地:安平町
セリ取引価格:-
獲得賞金:13億2,621万円 (中央)
通算成績:19戦10勝 [10-4-1-4]

主な勝ち鞍

  • GⅠ
    • 牝馬三冠(桜花賞・オークス・秋華賞、2012年)
    • ジャパンカップ(2012・2013年)
    • ドバイシーマクラシック(ドバイ開催、2014年)
    • 有馬記念(2014年)
  • GⅡ
    • ローズステークス(2012年)
  • GⅢ
    • シンザン記念(2012年)

【誕生】

2009年2月20日にノーザンファームで誕生。
父はご存じ無敗の三冠馬にして七冠馬ディープインパクト。ジェンティルドンナは2年目の産駒に当たる。
母のドナブリーニもイギリスでGⅠを勝った実績馬で、サンデーサイレンス系種牡馬をつけるべく輸入された繁殖牝馬である。
全姉ドナウブルーも重賞を2勝している。

名前はイタリア語で「貴婦人」という意味。良血の才媛にふさわしいなんとも美麗な名前なのだが、この名前はのちに色んな意味でネタにされることになる

【戦歴】

デビュー

2歳の秋、姉と同じ栗東の石坂正厩舎に入厩。デビュー前の調教でも優れた動きを見せていたため、石坂調教師は「いつでも勝てる」と思っていたという。

11月に京都競馬場の新馬戦芝1600mでデビュー。ミルコ・デムーロ騎手を鞍上に迎え、1番人気に支持されたが不良馬場にやられて逃げ馬を捕らえられず2着。
その後、未勝利戦を勝利して休養に入る。


3歳 ~波乱万丈のクラシック~

貴婦人の進撃

まず桜の丘で乱を鎮め
樫の渓谷を平定すると
いま秋華の郷も制圧。
乙女の国を統べる者が
ここに誕生した。

だが女領主は満足を知らぬ。
まだ見ぬ強敵を求めて
新たな荒野へ飛び出していく。
波の向こうへ漕ぎ出していく。
貴婦人の進撃は続く。

―――JRA「名馬の肖像」ジェンティルドンナ(2017年)
年が明けた初戦は未勝利を勝ったばかりの身でありながら牡馬混合GⅢシンザン記念に出走。
今度はクリストフ・ルメール騎手に乗り替わり、トウケイヘイローに次ぐ2番人気。
道中で掛かったりもしたが、先行集団から直線で力強い末脚で抜け出し、牡馬勢に完勝した。
重賞初勝利を決め、クラシックに名乗りを上げる。

さて、桜花賞に向けて賞金もしっかり積み立てられたのだが、ここで熱発を起こすアクシデントが発生。
ジェンティルは桜花賞直行かと思われたが、陣営は「本番で納得いくまで仕上げよう」と考え、桜花賞トライアルのチューリップ賞に出走。鞍上はしばらくタッグを組むことになる岩田康誠騎手に乗り替わり。
結果、やはり本調子でなかったようでハナズゴールの4着に敗戦。しかし、石坂調教師は「本番前に1度使えたことが大きなプラスになった」と語った。

迎えた本番の桜花賞では2歳女王ジョワドヴィーヴルに次ぐ2番人気。馬体も牡馬顔負けのマッチョになった。
しかし、レースでは中団やや後ろから前をうかがい、最後の直線では伸びあぐねるジョワドヴィーヴルを尻目にシンザン記念のような力強い末脚で一気に先頭に躍り出て、ディープ産駒仲間のヴィルシーナら後続を力でねじ伏せ勝利(2着ヴィルシーナ)。
2番人気を跳ね返す強い走りで見事GⅠ初制覇となった。

次はオークス…だが、ここでまたもやアクシデント。
2週間前のNHKマイルカップで岩田騎手が騎乗停止を食らい、急遽川田将雅騎手が代打を務めることに。
この乗り替わりと当時のディープ産駒につきまとっていた距離不安説、姉と鞍上がマイラーだったことや府中未経験だったことなどが不安視され、なんと3番人気にまで評価を落とす。さすがにヴィルシーナより人気ないのはどうなんだ?

なのだが、ここで過小評価に怒った…のかは分からないが、ジェンティルはものすごいパフォーマンスを見せる。
後方集団からレースを進め、最後の直線で大外ぶんまわしで一気に他馬をちぎり捨てるという父のダービーを思わせる圧巻の走り。
ヴィルシーナら先頭集団を並ぶ間もなくあっという間にかわし、そのまま後続を5馬身置き去りにして大圧勝(2着ヴィルシーナ)。
しかも勝ち時計は従来のレースレコードを1.7秒更新する2.23.6。同年のダービーを上回るタイムを叩き出した。
距離不安とか諸々の不安を嘲笑うような凄まじいレースであった。

休養を挟み、休み明け初戦はローズステークスに出走。
岩田騎手を再び迎えてここをあっさり勝利(2着ヴィルシーナ)。三冠へ向けて上々の滑り出しを見せた。

そして秋華賞ではもはや彼女の実力を疑う者はおらず、三冠達成の期待をかけられて1.3倍の圧倒的1番人気。2番人気はここまでジェンティルの2着になり続けたヴィルシーナであり、完全に二強対決となった。
返し馬で騎手を振り落とすというアクシデントもあったりしたが、レースではしっかり折り合いがついて中団の好位を追走するいつもの戦法。
だが、中盤でチェリーメドゥーサが後方から勝負の大逃げに打って出て、レースは一気に波乱の展開に。
最後の直線でもチェリーメドゥーサがまだ大きくリードしており、一瞬「まさか」と思わせたが、そこからヴィルシーナとともに一気に追い上げにかかる。
最後はヴィルシーナと馬体を接した叩き合いになり、2頭ほぼ横一直線でゴールイン。
写真判定の結果、ハナ差…なんと7cm差でジェンティルドンナが競り勝ち、史上4頭目の牝馬三冠、そして史上初の父娘三冠を達成した。
ヴィルシーナとは都合4度目のワンツーフィニッシュ。哀れヴィルシーナはシルバーコレクターの名を授かってしまった*2
いや、特に秋華賞の7cm差はマジで泣いていいレベルだが…メイショウドトウ先輩がそっち見てるぞ

ジャパンカップ ~三冠馬対決~

晴れて三冠牝馬となったジェンティルドンナは古馬との初対決になんとジャパンカップを選択。
ここでは凱旋門賞馬ソレミアが来日し、他にも秋天で久しぶりのGⅠ勝利をあげたエイシンフラッシュ、春天を勝ったビートブラック、青葉賞を制しダービーに秋天と僅差2着だった同期フェノーメノ、そして何より三冠馬オルフェーヴルが参戦。
実にGⅠ馬9頭、そして出走馬全てが重賞勝ち馬というとてつもないメンバーが出そろった。
このトンデモメンバーに加え、不利な外枠15番を引かされ、しかも激痩せ。不安要素は多くあったがクラシックの勝ちっぷり(特にオークス)を評価され3番人気に。
レースでは案の定ルーラーシップが立ち遅れるのを尻目にぽんとスタートを決め、3番手辺りにつける先行策。それに対してオルフェーヴルは後方集団を進む。
そして直線に入り、内を進んでいたジェンティルドンナは先頭からタレてきたビートブラックと外から内にササりながら追い上げてきたオルフェーヴルに挟まれ、一時進路を失ってしまう
……も、直後横にいたオルフェーヴルにタックルをかまして進路をこじ開ける
ぶつかられたオルフェーヴルも一瞬失速するも、すぐに立て直してそこから熾烈なたたき合い(物理)になり、3番手以下を完全に突き放して2頭並んでゴールイン。
ハナ差でジェンティルドンナがオルフェーヴルを下し、史上初の3歳牝馬によるジャパンカップ制覇を達成した。
ついでに親子のJC制覇はルドルフ・テイオーとスペ・ブエナに続いて3組目で、かつジェンティルドンナ・オルフェーヴル・ルーラーシップ(3着)と
クラブ法人「サンデーレーシング」所属馬がレースのトップ3を独占する事になった。
…なのだが、このタックル騎乗には20分以上の長い審議が行われ、馬はお咎めなしだったがジェンティル鞍上の岩田騎手は開催2日の騎乗停止になった。
岩田はこの後相当怒られたようであり勝利インタビューでは思いっきりしょげている様子が確認できる
「あのタックルはさすがにない、降着ものだ」「ササってきたオルフェも悪い。どっちもどっち」などと審議の賛否は今でも分かれているが、
「アメリカでやれ*3」と言いたくなるような壮絶な戦いは一見の価値あり。
ちなみにこのレース、オルフェとジェンティルはこんな取っ組み合いをしながら上がり3F32秒台の脚を使っていた。
タックルの是非を抜きにしても相当強いパフォーマンスであることには違いないだろう。

そしてジェンティルは三冠とJC勝利が評価され、日本ダービー以外の皐月・菊花・有馬など5勝を挙げ最優秀3歳牝馬に満票で選ばれ、
例年ならば間違いなく代表馬であったろうゴールドシップを差し置き、この年の年度代表馬に輝いた。
3歳牝馬が年度代表馬になるのは史上初のことだった(この他には2018年のアーモンドアイのみ)。

4歳 ~世界の壁とスランプ、そして連覇~

4歳になったジェンティルは父の無念を晴らすべく凱旋門賞を大目標に据え、年明け初戦はドバイシーマクラシックにぶっつけで出走。
オルフェーヴルを破ったことが世界でも高く評価され、1番人気に支持される。
しかし、レースでは3番手辺りにつけて先行するも、外を回された上にかかり気味になり、折り合いを欠いてしまう。
そんな具合で最後の直線に差し掛かり、先行集団から抜け出したセントニコラスアビーに外から馬体を合わせに行こうとしたが、
道中リズムを悪くしたせいか日本でのレースのような最後の伸びが見られず、なかなか前を捕まえられない。
それでも持ち前の勝負根性で2着に粘ったものの、1着とは2馬身近く離されてしまった。世界の壁を感じる惜敗であった。

帰国後は宝塚記念に出走。出走予定だったオルフェーヴルが肺出血を起こして回避した結果、
二冠馬ゴールドシップと春天でGⅠ初制覇を果たしたフェノーメノとともに三強を形成。4歳馬頂上決戦の様相を呈する中、ジェンティルは1番人気に支持される。
レースでは上手くスタートを決めて3番手辺りに付ける先行策。出遅れたフェノーメノにリードを取り、好展開を作る材料を揃えていく。
ところが誤算が生じる。通常ならば、いつも通り後方から行くと思われたゴールドシップが発走直後から猛加速。
コイツの祖父ばりの先行策を仕掛けて彼女の左後方にマークして競りかけてくるという想定外の展開に持ち込まれてしまう。
そして第3コーナーで5番手付近にいたフェノーメノが仕掛け、12世代の三強が並ぶ形となって最後の直線に突入。
台風で荒れた内の道を嫌った岩田騎手は外に持ち出すべく横につけていたゴルシにまたタックルを敢行
しかし、南関出身の内田博幸騎手らしくどうせ来ると読んでいたこともあったのと、タフネスが取り柄の500kg巨漢馬のゴルシはビクともせず、逆に跳ね返されて失速してしまい万事休す。
逆にアレはそのまま荒れた馬場の上り坂を苦にせずぐんぐん伸びて捉えられなかったばかりか、前にいたダノンバラードにも先着を許し3着。
勝ったゴルシには3馬身半も離されてしまった。ついでにゴルシ伝説がまた一つ増えた
岩田騎手は「あんな馬に先行されたら勝てるわけがない」と述べた。
この連敗で凱旋門賞挑戦も白紙になってしまい、秋は国内に専念することに。

復権を懸ける秋の初戦は天皇賞(秋)。得意の府中という事で1番人気。
1000m58.4秒というハイペースでかっ飛ばす2番人気トウケイヘイローを見る形で2番手を追走。
最後の直線でトウケイヘイローをかわして先頭に立ち、そのまま押し切りを図ろうとしたが、
突如覚醒したジャスタウェイの次元の違う末脚にあっという間に置いてけぼりにされ、4馬身離された2着。
ハーツクライの血の因果はここから始まったんだろうか

4歳になって勝ちきれないレースが続き限界説が囁かれる中、次走は連覇を狙ってジャパンカップに出走。
これまで手綱を務めてきた岩田騎手はここで降板となり、短期免許で来日していた世界の名手ライアン・ムーア騎手に乗り替わり。
ここには因縁のゴールドシップも参戦したが、あちらに府中苦手説がつきまとったためか1番人気に支持される。
レースは逃げ馬不在とあって前評判通りスローな展開となり、各馬折り合いに苦しむ中ジェンティルは上手く折り合って5番手辺りを追走。
直線で早めに進出して前にいたデニムアンドルビーをかわすと、ゴルシが沈むのをよそにそのまま先頭を押し切り、どっと押し寄せてくる後続勢を寄せ付けず勝利。
実に1年前のジャパンカップ以来の勝利となり、史上初のジャパンカップ連覇を達成した。

疲れもあったのか有馬記念は回避。この年は結局1勝のみとなってしまったものの、負けたレースもちゃんと好走していたためか最優秀4歳以上牝馬に選ばれた。

5歳 ~逆襲のドバイと長い低迷~

5歳春は前年同様ドバイを目標にし、その叩き台として福永祐一騎手を鞍上に京都記念に出走。圧倒的1番人気に支持され、ここを一叩きしていざ世界へ!
…といきたかったが、なんと6着福永ァ!生涯初めて掲示板を外してしまい、ドバイ遠征を不安視する声も囁かれた。

そして迎えたドバイシーマクラシック。鞍上は再びムーア騎手が務めることになり、不安説もある中2番人気に支持される。
好スタートを切って逸脱馬に接触したりもしたが、特に影響なく中団やや後ろからレースを進める。
しかし、最後の直線で前が壁になり、さらに横からはシリュスデゼーグルに内に押し込まれるという絶体絶命の状況。
ほとんど進路を塞がれてしまいこのまま沈むかと思われたが、横が空いた一瞬の隙をついてものすごい横っ飛びで外に飛び出す。
そこから内で溜めていた脚を炸裂させ、壁になっていた先頭集団を横からかわし、1馬身抜け出して勝利。
ムーア騎手渾身の好騎乗で前年の雪辱を晴らし、日本の牝馬としては初めてのドバイGⅠ制覇*4となった。
なお不利を受けまくったためか、ムーア騎手は勝ったのにレース後キレ散らかしていたという…不利を受けてもコレとは
ちなみに、秋天で敗れたジャスタウェイの方もドバイデューティーフリーで圧勝し、親子2代でのドバイ制覇を成し遂げている。2頭揃っての凱旋となった。

帰国後は宝塚記念に出走。オークスぶりに川田騎手とのコンビが復活し、陣営もかなり気合を入れて臨んだ。
しかし、この日は良馬場とは言え直前ににわか雨が降った為やや馬場が荒れていた。その中でレースは開始される。
レースはヴィルシーナ・フェイムゲーム・カレンミロティックと続き中団で様子を見る。牝馬三冠でペースメーカーとなってくれたヴィルシーナがいる、これで万全…!
ところがまたしても想定外の事態が発生、ゴールドシップ(白いアレ)が去年同様に進出して来たのである。またお前かよ…
このレースから乗り替わった横山典弘騎乗のゴルシが、彼女をマークするどころか、一気に3番手カレンミロティックをマークする形で上がって来たのである。
この為、止む無くゴールドシップを見ながらレースを進めざるを得なかった。が、帰国後の疲れが残っていたか渋った馬場が悪かったのか
ヴィルシーナではなくアレのペースに翻弄される形になってしまったからか、最後の直線でびっくりするほど伸びがなかった。
反面最後の坂で加速し置き去りにしてゴールした白いアレの宝塚連覇の偉業を後ろで苦虫を嚙み潰しながら祝福する9着に撃沈。ついでにヴィルシーナ(3着)にも敗北
レース後、川田騎手は「ゲートを上手に出て、道中はリズムよく走っていた。折り合いもついていました。前に壁をつくってくれとの指示だったので、
向正面でゴールドシップに目標を切り換えたけど、3コーナーで手応えが怪しくなった。ゴール前はバタバタで、止まりそうになった。
無事でいてくれればいいですが…」とコメント。あのドバイで燃え尽きたのかは分からないが、とにかくらしくないレースであった。
それ以前に阪神ではココを根城にして無類の強さを誇った(何なら岩田すら後に阪神大賞典で騎乗して連覇した)仁川の鬼、しかもスタミナ勝負では分が悪かった。

秋は前年同様秋天から始動。今度は戸崎圭太騎手に乗り替わり。イスラボニータに次ぐ2番人気に支持される。
レースではいつもの先行策で粘り強くレースを進め、直線でイスラボニータを競り落としたが、
ゴール前で悲願の初タイトルに燃える同期スピルバーグにかわされてしまい惜しい敗北。2年連続の2着となった。

次は3連覇がかかるジャパンカップへ出走。そして結果次第ではこれで引退になると発表された。
またまた乗り替わってムーア騎手が鞍上。3連覇の期待をかけられ1番人気に支持される。
レースは好スタートからいい位置で競馬をするも、雨が残って渋った馬場になったせいでスタミナ勝負になり苦戦。
直線で抜け出した道悪巧者エピファネイアを捕らえられず、更にジャスタウェイとスピルバーグにもかわされて4着。3連覇はならなかった。
陣営はこの敗戦を「不完全燃焼」とし、引退を撤回。次の有馬記念で引退することとなった。

有馬記念 ~別れの挨拶は「初めまして」とともに~

ラストランの有馬記念。ファン投票は1位のゴールドシップに次ぐ55699票を集めた。
しかし、ジェンティルドンナはあろうことか中山は未経験。周りのメンツもゴルシやジャスタといった同期のトップホースに加えて、
ジャパンカップで完膚なきまでに打ちのめされたエピファネイア、春天連覇を達成したフェノーメノ、この年のダービー馬ワンアンドオンリー、
そしてクラシックを共に戦った戦友ヴィルシーナなど、出走16頭のうち実にGⅠ馬が10頭、残り6頭もすべてGⅡを勝っておりGⅠでの2着があるという超豪華な顔ぶれ。
まさに優駿達が繰り広げるドリームレースに相応しい、豪華絢爛な有馬の中でもまさにドリームレースの様相を呈していた。
だが、ここ最近の連敗も相まって「ジェンティルは終わった」「こいつが来たら事故だ」と断じる馬券師も多かった。
4番人気にはなったものの、距離適性が怪しいジャスタウェイ(3番人気・単勝4.6倍)からも離れた単勝8.7倍とあまり信頼されていなかった。
鞍上はムーア騎手の短期免許が切れたため、戸崎騎手に戻った。
この年の有馬記念はJRA史上初めて、指名された馬の関係者が枠順を選択する方式が採用され、ジェンティルドンナはなんと1番最初に選択権を得るという豪運を発揮。父の引退レースと同じ2枠4番という絶好枠を獲得した。
レースではヴィルシーナがゆるっと逃げを打ってスローペースになり、ジェンティルはエピファネイアを見る形で3番手を追走。
3~4コーナーでヴィルシーナが失速するとエピファネイアが先頭に立ち、ジェンティルも抜け出して前に出る。
一気に捲ってきたゴールドシップも前に来てこの3頭の追い比べに。
そして直線に入るとジェンティルがエピファを捕らえて先頭に立ち、後方から追い込んできたジャスタウェイの追撃も振り切って4分の3馬身押し切って勝利。初めての中山の晴れ舞台で見事に有終の美を飾った。

「勝ったのはジェンティルドンナ!」
「『こんにちは』と『さようなら』を同時にやってのけました中山競馬場!」
「絵になる乙女、ジェンティルドンナ!」
―――2014年有馬記念実況(塩原恒夫)


この勝利によって当時GⅠ最多タイの7勝目をマークし、獲得賞金はブエナビスタを抜いて当時の牝馬トップ、全体でもあのテイエムオペラオーに次ぐ順位になった。
また、中山未出走馬の有馬勝利は1997年のシルクジャスティス以来17年ぶり、更にはディープインパクト産駒としては初めての有馬制覇となった。
更に更に、父でも成しえなかったJRA主要4競馬場(東京、中山、京都、阪神)のGⅠ完全制覇を牝馬として史上初めて達成*5
記録尽くしの勝利となった。

「落ち目で迎えた有馬記念を鬼のようなメンツの中で4番人気から勝利する」というシナリオはジェンティルと同じ無敗の三冠馬代表産駒奇跡の復活劇に通じるものがある。なんの因果か枠順までまったく一緒である。はたしてこれは偶然か。

レース後、すぐに引退式を実施。全く似合ってないことでネタにされたピンクの帽子を被っておめかしし、ターフに別れを告げた。

そしてドバイと有馬の勝利が評価されたか2度目の年度代表馬に選出された。地味に隔年の年度代表馬は史上初である。
2016年には顕彰馬にも選出された。

【引退後】

引退後はノーザンホースパークで繁殖牝馬として活動して行く事となり、手始めにキングカメハメハ(1番仔・2番仔)が付けられる事になった。
以降モーリス(3番仔・5番仔)、ロードカナロア(4番仔)と交配している。

中でもモーリスとの間に生まれた3番仔であるジェラルディーナは遅咲きではあるものの、三冠牝馬デアリングタクトやステイゴールド産駒や
ドリジャ・オルフェ・ゴルシ産駒など有力馬勢揃いの中で開催された、2022年のオールカマー(GⅡ)を制覇、さらにはエリザベス女王杯を制して
見事にGⅠホースの座を頂き、有馬記念では3着入りと凄まじい実力を見せた。重馬場・阪神が得意と言う所は母親と全く逆である。

なおジェンティルドンナは母親のドナブリーニ一族のように放任主義ではなく、寧ろ子供と一緒にいる子煩悩な姿がノーザンホースパークのTwitterなどで写真としておさめられている。
ゴリラなんて言われてた時代がウソのような微笑ましい姿である

【総評】

前から安定して競馬ができるレースセンスとジェンティルドンナ(貴婦人)という名前がギャグに思えてくるほどの鬼の勝負根性が持ち味。
3歳のジャパンカップや5歳のドバイシーマクラシックのような豪快で力強いレースはまさにその勝負根性がなせる業である。
ゆえについたあだ名は「婦人」。他にも「吉田沙保里」やら「アネキ(アネゴ)」、「アニキ」、果ては「ゴリラ*6」とか色々言われている。貴婦人とは何だったのか

勝っても負けてもレースぶりがやや地味だったのとコテコテのエリートの生まれだったこと、
更に岩田のオヤジのせいではあるがオルフェにタックルをかまして勝った&(負けたが)同様にゴルシにタックルして負けたダーティーなイメージが尾を引いてしまっているのか
ファンからの人気はこれほどの実績を残した名馬にしてはやや低め(とは言え特にゴールドシップが目立って人気だったと言う事情もあり、実際彼女には女性を中心に数多いファンがいた)。
しかし、何よりも彼女が最強且つ人気を集めたのは、個性と強さを兼ね備えた馬が揃った豪華で屈強極まる歴代屈指の最強世代と言われた同期の面々、
そしてオルフェーヴルら11世代らに対し、偉大な父に追いつき追い越せと牝馬レースを使うことなく牡馬相手の王道路線を真正面から戦い抜き、
その中でGⅠを4勝して牝馬三冠と合わせ7勝したからこそ彼女を「名牝」「史上最強牝馬候補」たらしめ、「ディープインパクト産駒最高傑作」と呼ぶには十分すぎるほどの実績を持つ所以である。
特にこいつら相手にコンスタントに勝ちと連対を稼いできた事からも、人気があって文句なしに強いのだが、色々珍迷馬のイメージが強い白いアレと比べて12世代の筆頭とされる場合も多く、まさに時代が生んだ文句なしの歴史的名牝と言っていいだろう(時代が違えば評価はまた変わっていたかも知れない)。

【フィクション作品への登場】

始まりの桜花賞では姉ドナウブルー、ヴィルシーナが叔父に心配されていたオークスを挟んでローズS~2012年末までは引退直後の先代三冠牝馬アパパネの元から飛んできた「鳥のアパパネ」に助けられ栄光を勝ち取った牝馬として登場。
ジャパンカップ時の鍔迫り合いも描写されたが、鬱々とするヴィルシーナをこっそり励ます事もあり、ドバイ遠征時には天皇賞(秋)時爆発で唐突に自分を吹き飛ばしたジャスタウェイのアレな格好を一喝。彼を元のジャスタウェイへと戻した。
その一方でジャスタウェイだけでなく、2013年宝塚記念時にはダノンバラード・2014年天皇賞(秋)時にはスピルバーグと妙なノリで入ってくる馬に邪魔される傾向もあった。

アニメ3期3話においてゴールドシップの口から"貴婦人"の別名で初言及。同話ラストで、トゥインクル・シリーズを去るゴルシがドリームトロフィーリーグでの対決を誓う相手としてオルフェーヴルとともに名前が明言された。
その後、アニメ3期完結と合わせて公開されたアプリ版イベントストーリー「ワタシモミンナノ」内において、ヴィルシーナがその名前に言及したことにより、アプリ版世界でも存在していることが確定。
そして、2024年2月22日放送の3周年記念ぱかライブにて正式発表、3.5周年を迎える2024年8月24日に育成実装。

強さこそ正義の実力至上主義者で、自分にも他者にも一切の甘さを持たないタイプ。
史実の美しくも筋骨隆々とした馬体を翻案してか、貴婦人という異名通りのデザインながらなかなかのナイスバディの持ち主。体重も「パワフル」と圧巻。
なのだが突き抜けた方向に筋肉隆々の要素が盛られてもいる…

【余談】

  • 石坂調教師曰く性格は割とやんちゃだったらしく、その分手がかかって人懐こい一面もあったんだとか。しかし、繁殖に上がってからは担当者が「人のいう事聞かん」と音を上げているようで、やはり我の強い一面もあるのだろう。
    とはいえ、ジェンティルは同期の白いのとは対照的に気性難とかとは無縁であり、騎手に従順な馬であった(白いアレが種牡馬になってから大人しくなったの含めてまるで真逆の性格である)。その辺りも彼女の強みである。
    その他ではかなり「親バカ」な一面があるんだとか。ちょっと意外な気がするのは現役のイメージとの乖離からだろうか。

  • 同期のゴールドシップは宝塚で一度捻られて以降めちゃくちゃ嫌っていたらしく、トレセンで出会う度に睨みつけていたらしい。どうも2013年の宝塚で彼を追い抜いたところゴルシの癪に障り、彼女をマークするように追い掛け回された挙句タックルしても効かずヒネられたのが余程アレだったのだろう。
    なお当のゴルシはジェンティルの事はまるで気にしていなかったのだが。もっとも、あっちは本来牝馬を見ると興奮して立ち上がるとまで言われた無類の女好きだった事を考えると、ジェンティルだけ無反応且つブチ抜かされて先行策をし出したのはゴルシなりに何か思うところがあったのかもしれない。と言うより女とみなされてなかったんじゃないか?
    ちなみにゴルシとの対決成績は2勝2敗。また、直接対決の全てでどっちかが優勝している。

  • ここまで読んで気づいたかもしれないが、この馬は乗り替わりが激しいことでも有名。生涯で計8名もの騎手が騎乗し、うち6名で勝利した。
    GⅠ勝ちは岩田×3、ムーア×2、川田と戸崎1回ずつである。彼女にとって騎手はリュックでしかなかったのかもしれない*7。ちなみに岩田はムーアに乗り替わった際相当ショックだったらしく、調整ルームお風呂場で「俺のジェンティルー!」と叫んだらしい。

  • JRA広報誌「優駿」曰く、ファンレターの約9割が女性からのものだったらしい。
    '12クラシック世代筆頭に強豪牡馬がうようよいた時代に、王道路線に真っ向から勝負を挑んでいく姿が「男社会の中でバリバリ働くスーパーウーマン」というように映ったのだろうか。

  • なおジェンティルドンナ自体は阪神・京都が苦手*8であり、牝馬三冠のうち桜花・秋華とローズS(GⅡ)の勝因として「スローペースになったこと」がよく挙げられるが、そのスローペースを作っていたのは他ならぬ戦友ヴィルシーナである。と言うか牝馬三冠とローズSの4戦の2着馬はそれぞれヴィルシーナであり、彼女がスローペースを作っていた事から苦手な阪神・京都を制覇して主要4場制覇と言う記録を作る事が出来たと言ってもある意味過言ではない。ラストランの有馬記念でも同様であり、自ら動いてライバルに華を持たせたのだろうか。尊い…のではあるがヴィルシーナはある意味泣いていい。と言っても彼女はヴィクトリアマイルで連覇を果たしてはいるのでメンツは保たれてはいるが。



追記・修正は牡馬クラシック三冠馬をぶっ飛ばしてからお願いします。

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最終更新:2024年12月18日 10:46

*1 もはや説明不要のGⅠ6勝馬・芦毛の暴君こと宝塚記念のゴールドシップ、春の天皇賞を連覇した生粋のステイヤー・マメチンことフェノーメノ、大魔神こと佐々木主浩が馬主で(だいたいドンナのせいだが)準三冠馬を記録したヴィクリトリアマイルのヴィルシーナ、同じくヴィクトリアマイル連覇の7歳牝馬初GⅠウィナーでスプリンターズステークスも制したストレイトガール、ダートレースを無双しJRA賞最優秀ダートホースを獲得した東京大賞典のホッコータルマエと言ったGⅠ連覇馬、そしてドバイデューティフリー(現在のドバイターフ)で歴代最速の1分45秒台を叩き出した圧勝劇によりWBRRレーティング世界1位となったジャスタウェイなど怪物が勢揃いしていた世代でもある。

*2 1952年の変則準三冠牝馬タカハタと1958年の牡馬準三冠カツラシユウホウ以来3例目で、一着二着まで同馬は史上初。

*3 アメリカでは競り合いの際ぶつけ合い等がよく発生する。特に1989年の米プリークネスステークスでは祖父サンデーサイレンスvsイージーゴアが400mにも渡る馬体横並び…しかも顔まで近づけ噛みつかんがばかりの超接近戦でお互いメンチを切り合う取っ組み合いを展開したレースは有名。

*4 ちなみにドバイシーマでは1998年の初開催より牝馬の勝利は4頭しかおらず、彼女は2:27.25と牡馬並みの牝馬勝ち鞍最速タイムである。

*5 牡馬を見ても、他はテイエムオペラオーとオルフェーヴルのみ。ディープは2006年開催の宝塚記念が(阪神競馬場に外回りコースを新設する工事を行っていた影響で)京都開催だったせいで阪神を取りこぼしている。

*6 2000年代後半よりウオッカ、ダイワスカーレットが古馬混合GⅠをぶっちぎる活躍を見せ、現在でもアーモンドアイやリスグラシュー、クロノジェネシス、ラヴズオンリーユー、グランアレグリアと言った牝馬が古馬混合GⅠを制覇するのもおかしくない時代柄、彼女たちは俗に「ゴリラウーマン(ゴリウー)」と尊称で呼ばれるが、特に彼女は牝馬三冠以降、牝馬限定戦に一切出ない牡馬のローテそのものだった事から「ゴリウー界筆頭」扱いされる。

*7 一応、岩田騎手やムーア騎手、川田騎手は「ガシガシ追える剛腕系騎手」と言う共通点があるし、戸崎騎手も岩田騎手と同じく地方から中央に転入した騎手でそう言う追い方を心得ている。そういう騎手が合っていたのだろうか

*8 阪神での勝ち鞍は未勝利戦と桜花・ローズS。以降の宝塚記念で2戦しているが双方白いアレに敗れている。京都での勝ち鞍はGⅢシンザン記念と秋華で、以降の出走は14年京都記念(6着)のみである。