【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】 ◆最も早い新G1は5月 いささか旧聞に属するが、2025年のヨーロッパ平地競走の重賞格付けが、2月18日にヨーロピアン・パターン・コミッティーから発表になった。イギリスやアイルランドの…
【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】
◆最も早い新G1は5月
いささか旧聞に属するが、2025年のヨーロッパ平地競走の重賞格付けが、2月18日にヨーロピアン・パターン・コミッティーから発表になった。イギリスやアイルランドの芝平地シーズン開幕を間近に控えているこのタイミングで、25年に新たにG1として施行される3競走の背景をご紹介しておきたい。
開催時期の最も早い新G1が、フランスのパリロンシャン競馬場を舞台に5月26日に行われるヴィコンテッスヴィジエ賞(芝3100m)だ。
1859年に3200m戦として創設された一戦が前身。1837年に創設され、1843年から4000m戦として施行されるようになったカドラン賞とともに、フランスにおける古馬のステイヤーが目標とするレースとして開催されてきた。
20世紀の勝ち馬には、ニンバス(1914年)、アドミラルドレイク(1935年)、シャントゥール(1946年)、バックスキン(1977年)、ゴールリヴァー(1981年)など、往時のフランスを代表する名馬や名種牡馬の名が並んでいる。
近年は、アガ・カーン4世の生産所有馬で、通算13もの重賞を制したヴァジラバドが2016年から2018年までこのレースを3連覇。2022年はスカジーノが制して前年に続く連覇を達成。2023年はヴェルトハイマー兄弟の自家生産馬でアンドレ・ファーブルが管理するソーバーが優勝。2024年は同じアンドレ・ファーブルの管理馬で、秋にはG1凱旋門賞に駒を進めることになったセヴェナズナイトが優勝を飾っている。
昨年のこのレースで3着だったのが、ダイワメジャー産駒のダブルメジャーだ。2023年、2024年と秋のG1ロワイヤルオーク賞(芝3100m)を連覇しているのを含めて、フランスにおけるこの路線の重賞を5勝しているダブルメジャー(セン5)は、今季も現役に留まっており、シーズン序盤の目標はG1ヴィコンテッスヴィジエ賞になるはずだ。
続いてご紹介する新G1は、ヨーク競馬場を舞台とした夏の名物開催「イボア・ミーティング」最終日の8月23日に組まれている、7FのG1シティオブヨークSだ。
創設は1978年で、英国のレースとしては歴史の浅い一戦だ。ところが、近年の発展には目を瞠るものがあり、2016年に準重賞からG3への格上げを果たすと、2019年にはG2に昇格。そして2025年にはG1昇格と、わずか10年足らずの間で急成長を遂げた。
その背景にあったのが、このレースを育てたいというヨーク競馬場の明確なビジョンだった。このレースがまだ準重賞だった2015年、準重賞としては最高額となる総賞金10万ポンドで施行。以降、格付けが上がるとともに賞金も増額され、2025年は総賞金60万ポンドで施行される。
競馬発祥の地・イギリスには昨年まで、古馬が走れる7F(1400m)のG1が存在しておらず、ヨーロッパ全域を見渡しても、秋にパリロンシャン競馬場で行われるG1フォレ賞があるのみだった。
ヨーク競馬場が目指した、シティオヴヨークSをイギリスで最初の、古馬も走れる7FのG1にしたいという悲願が、ついに実現したわけである。同時に、ヨーク競馬場のイボア開催は4日に渡って施行されるが、インターナショナルS、ヨークシャーオークス、ナンソープSと、G1に格付けされたレースは3つしかなかった。イボア開催最終日にもG1を、というヨーク競馬場のもう1つの悲願も、達成されたわけである。
2022年と2023年のこのレースは、ラルフ・ベケット厩舎のキンロスが連覇。ロンシャン競馬場のG1フォレ賞や、アスコット競馬場のG1英チャンピオンズスプリントSを制した実績もあるのがキンロスで、同馬の連覇はこのレースに箔をつけることになった。24年はオッズ34倍の伏兵ブリージが優勝。春に制したG3プリンセスエリザベスSに続く、2度目の重賞制覇となっている。
このコラムでも何度か書いてきたと思うが、イギリスの中では平坦なのがヨーク競馬場で、日本調教馬に適した馬場となっている。日本にも1400mのG1はないだけに、この距離が得意な馬の遠征が実現して欲しいと思う。
最後に、今年は10月18日に予定される、アスコット競馬場を舞台としたブリティッシュチャンピオンズデーに組み込まれた、英チャンピオンズロングディスタンスC(芝16F)も、今年からG1に昇格となる。
レースの前身となったのが、1873年にニューマーケット競馬場を舞台に18ハロン戦として創設されたジョッキークラブCである。第1回競走の勝ち馬は、フランス産馬のフラジオレットだった。
1958年まで距離18Fで施行された後、1959年に12F戦に衣替え。しかし、この距離でのジョッキークラブCはわずか4回施行しただけで、1963年に16ハロン戦に再変更。1970年代に入ってヨーロッパでパターン制が導入されると、G3の格付けを得て、イギリスの競馬カレンダーではシーズン最後の長距離重賞という位置付けが定着した。
2011年に、アスコット競馬場を舞台としたブリティッシュチャンピオンズデーが設立されると、ジョッキークラブCはニューマーケット競馬場からアスコット競馬場に移設。名称が英チャンピオンズロングディスタンスCに改められ、距離も15F209yに変わった。
移設初年度の2011年は、この年のカルティエ賞最優秀ステイヤーに選出されたフェイムアンドグローリーが優勝。2014年にG2に格上げになった後も、オーダーオブセントジョージ(2017年)、ストラディバリウス(2018年)といったチャンピオンたちが制覇。2020年から2022年までは、ホリー・ドイルが手綱をとるトゥルーシャンが3連覇。2024年はキプリオスが制し、7戦無敗のシーズンを締めくくっている。
ロングディスタンスCの昇格により、ブリティッシュチャンピオンズデーは、1日にG1競走が5つという、ますます豪華な競馬の1日となっている。