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JP6776136B2 - 耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線、および、該二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品 - Google Patents

耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線、および、該二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品 Download PDF

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Description

本発明は、耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線、および、該二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品に関する。
従来、ボルト用ステンレス製品は、SUS304およびSUS316を代表とするオーステナイト系ステンレス鋼線を素材として、該素材を加工および成型することにより製造されてきた。前記のようなオーステナイト系ステンレス鋼線から製造されたステンレス製品は、強度および耐応力腐食性の低下が懸念される。そこで、強度および耐応力腐食性を向上させるため、化学組成を所定の範囲に調整し、かつ、金属組織をオーステナイトおよびフェライトの二相組織に調整した二相ステンレス鋼ボルトが検討されてきた(例えば、特許文献1および2)。
特開2012−188727号公報 特開2009−91636号公報
これまでの二相ステンレス鋼線は、耐熱ボルト用として幅広く使用されていなかった。例えば、特許文献1の二相ステンレス鋼ボルトは、塩素イオンが多く腐食が厳しい環境における高強度化および高耐応力腐食割れ性を達成したものである。また、特許文献2の二相ステンレス鋼ボルトは、冷間鍛造性に優れ、かつ、高強度および高耐食性を達成したものである。しかしながら、特許文献1および2では、耐熱性が充分に検討されていなかった。
また、耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線には、耐475℃脆化および耐リラクセーション特性が要求される。しかしながら、従来の二相ステンレス鋼線は、耐475℃脆化および耐リラクセーション特性を充分に満たしていなかった。
本発明は、このような現状に鑑み、耐475℃脆性および耐リラクセーション特性に優れる耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線、および、該二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品を提供することを目的とする。
本発明は、二相ステンレスに一次伸線および光輝焼鈍(以下、BAと言う)と二次伸線およびBAとを組み合わせた製造方法を適用した。その結果、フェライト相(α相)における平均結晶粒径が15.0μm以下、α相を35.0〜60.0vol.%含み、かつ、伸線軸方向に平行な断面において、{100}面、{110}面および{111}面のα相に対する、{100}面および{111}面のα相の面積比率が0.10〜0.70となることにより、475℃における熱処理後の衝撃値が100J/cm以上、475℃の残留せん断ひずみが0.3%以下となる二相ステンレス鋼線が得られた。すなわち、耐475℃脆性および耐リラクセーション特性に優れた二相ステンレス鋼線が得られた。これにより、二相ステンレス鋼線は、耐熱ボルトへの適用が可能となった。
本発明の要旨は、下記に示す耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線、および、該二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品にある。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.01〜0.10%、
Si:0.05〜3.0%、
Mn:0.05〜10.0%、
Ni:0.5〜10.0%、
Cr:15.0〜29.0%、
Cu:0.05〜3.0%、
Mo:0.05〜6.0%、
N:0.01〜0.35%未満、
V:0〜2.5%、
B:0〜0.012%、
Al:0〜3.0%、
Co:0〜2.5%、
W:0〜2.5%、
Ga:0〜0.05%、
Sn:0〜2.5%、
Ti:0〜1.0%、
Nb:0〜2.5%、
Ta:0〜2.5%、
Ca:0〜0.012%、
Mg:0〜0.012%、
Zr:0〜0.012%、
REM:0〜0.05%、ならびに、
残部:Feおよび不純物であり、
金属組織が、オーステナイト相およびフェライト相から構成される複相組織を有し、かつ、体積%で、前記フェライト相を35.0〜60.0%含み、
前記フェライト相における平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
伸線軸方向に平行な断面において、前記フェライト相は、{100}面、{110}面および{111}面のフェライト相に対する、{100}面および{111}面のフェライト相の面積比率が0.10〜0.70である、耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線。
(2)前記化学組成が、質量%で、
V:0.1〜2.5%、
B:0.0010〜0.012%、
Al:0.001〜3.0%、
Co:0.05〜2.5%、
W:0.05〜2.5%、
Ga:0.0004〜0.05%、
Sn:0.01〜2.5%、
Ti:0.03〜1.0%、
Nb:0.04〜2.5%、
Ta:0.04〜2.5%、
Ca:0.0004〜0.012%、
Mg:0.0004〜0.012%、
Zr:0.0004〜0.012%、および、
REM:0.0004〜0.05%、
から選択される1種以上を含有する、上記(1)に記載の耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線。
(3)上記(1)または(2)に記載の耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品。
本発明によれば、耐475℃脆性および耐リラクセーション特性に優れる耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線、および、該二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品を提供することができる。
1.二相ステンレス鋼線
(化学組成)
以下に、まず、本実施形態に係る二相ステンレス鋼線の化学組成について説明する。各元素の作用効果と、含有量の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.01〜0.10%
Cは、耐リラクセーション特性を高める元素である。前記効果を得るため、C含有量は0.01%以上とする。一方、C含有量が0.10%を超えると、伸線加工時に縦割れが生じるおそれがある。そのため、C含有量は0.10%以下とする。C含有量は、0.02%以上であることが好ましい。また、C含有量は、0.05%以下であることが好ましい。
Si:0.05〜3.0%
Siは、脱酸を行うことにより、脱酸生成物を少なくして、耐リラクセーション特性を確保する元素である。前記効果を得るため、Si含有量は0.05%以上とする。一方、Si含有量が3.0%を超えると、前記効果が飽和するだけでなく、伸線加工性が低下することにより、伸線加工時に縦割れが生じるおそれがある。そのため、Si含有量は3.0%以下とする。Si含有量は、0.1%以上であることが好ましい。また、Si含有量は、1.2%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましい。
Mn:0.05〜10.0%
Mnは、高価なNiの代替元素として有効であり、Nの溶解度を高める効果を有する。前記効果を得るため、Mn含有量は0.05%以上とする。一方、Mn含有量が10.0%を超えると、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性が低下する。そのため、Mn含有量は10.0%以下とする。Mn含有量は、0.1%以上であることが好ましい。また、Mn含有量は、5.0%以下であることが好ましく、4.0%以下であることがより好ましく、3.5%以下であることがさらに好ましい。
Ni:0.5〜10.0%
Niは、靭性を確保する元素である。前記効果を得るため、Ni含有量は0.5%以上とする。一方、Ni含有量が10.0%を超えると、耐リラクセーション特性が低下する。そのため、Ni含有量は10.0%以下とする。Ni含有量は、1.0%以上であることが好ましい。また、Ni含有量は、7.5%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがより好ましい。
Cr:15.0〜29.0%
Crは、耐食性および耐酸化性を確保する元素である。前記効果を得るため、Cr含有量は15.0%以上とする。一方、Cr含有量が29.0%を超えると、耐475℃脆化特性が低下する。そのため、Cr含有量は29.0%以下とする。Cr含有量は、18.0%以上であることが好ましい。また、Cr含有量は、26.0%以下であることが好ましく、25.0%以下であることがより好ましい。
Cu:0.05〜3.0%
Cuは、耐リラクセーション特性に寄与させることができ、かつ、伸線性を向上させる元素である。前記効果を得るため、Cu含有量は0.05%以上とする。一方、Cu含有量が3.0%を超えると、熱間加工性不良が起きる。そのため、Cu含有量は3.0%以下とする。Cu含有量は、0.08%以上であることが好ましい。また、Cu含有量は、2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。
Mo:0.05〜6.0%
Moは、耐食性および耐リラクセーション特性を向上させる元素である。前記効果を得るため、Mo含有量は0.05%以上とする。一方、Mo含有量が6.0%を超えると、前記効果が飽和するだけでなく、硬質なσ相の生成によって伸線加工性が低下することにより、伸線加工時に縦割れが生じるおそれがある。そのため、Mo含有量は6.0%以下とする。Mo含有量は、0.5%以上であることが好ましい。また、Mo含有量は、4.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。
N:0.01〜0.35%未満
Nは、耐リラクセーション特性を高める元素である。前記効果を得るため、N含有量は0.01%以上とする。一方、N含有量が0.35%以上であると、伸線加工性が低下することにより、伸線加工時に縦割れが生じるおそれがあるだけでなく、製鋼プロセスで窒素のブローホールが生成することにより、製造性を大幅に劣化させる。そのため、N含有量は0.35%未満とする。N含有量は、0.10%以上であることが好ましい。また、N含有量は、0.30%以下であることが好ましく、0.20%以下であることがより好ましい。
V:0〜2.5%
Vは、炭窒化物を形成して結晶粒径を微細にして、鋼線の耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を改善させるため、含有させてもよい。しかしながら、V含有量が2.5%を超えると、粗大介在物が生成し、伸線加工性および耐475℃脆化特性が低下する。そのため、V含有量は2.5%以下とする。V含有量は0.1%以上であることが好ましい。また、V含有量は、1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
B:0〜0.012%
Bは、粒界強度を向上させて、鋼線の耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を向上させるため、含有させてもよい。しかしながら、B含有量が0.012%を超えると、粗大なボライド、ボロカーバイド等の生成により、伸線加工性および耐475℃脆化特性が低下する。そのため、B含有量は0.012%以下とする。一方、B含有量は、耐リラクセーション特性および耐475℃脆化特性を向上させるため、0.0010%以上であることが好ましい。また、B含有量は、0.0050%以下であることが好ましく、0.0030%以下であることがより好ましい。
Al:0〜3.0%
Alは、脱酸を促進して介在物清浄度レベルを向上させるため、含有させてもよい。しかしながら、Al含有量が3.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、粗大な介在物が生成することにより、耐475℃脆化特性が劣化する。そのため、Al含有量は3.0%以下とする。一方、Al含有量は、脱酸を促進して介在物清浄度レベルを向上させるため、0.001%以上であることが好ましい。また、Al含有量は、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。
Co:0〜2.5%
Coは、鋼線の耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を向上させる効果を有するため、含有させてもよい。しかしながら、Co含有量が2.5%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、鋼線の耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性が劣化するおそれがある。そのため、Co含有量は2.5%以下とする。一方、Co含有量は、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を向上させるため、0.05%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましい。また、Co含有量は、1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましい。
W:0〜2.5%
Wは、耐食性を向上させるのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、W含有量が2.5%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性が劣化するおそれがある。そのため、W含有量は2.5%以下とする。一方、W含有量は、耐食性を向上させるため、0.05%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましい。また、W含有量は、2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。
Ga:0〜0.05%
Gaは、耐食性を向上させるのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Ga含有量が0.05%を超えると、熱間加工性を低下させるだけでなく、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性も低下する。そのため、Ga含有量は0.05%以下とする。一方、Ga含有量は、耐食性を向上させるため、0.0004%以上であることが好ましい。また、Ga含有量は、0.03%以下であることが好ましい。
Sn:0〜2.5%
Snは、耐食性を向上させるのに有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Sn含有量が2.5%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性が劣化するおそれがある。そのため、Sn含有量は2.5%以下とする。一方、Sn含有量は、耐食性を向上させるため、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。また、Sn含有量は、1.0%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。
Ti:0〜1.0%
Nb:0〜2.5%
Ta:0〜2.5%
Ti、NbおよびTaは、炭窒化物を形成して結晶粒径を微細にして、鋼線の耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を改善するため、含有させてもよい。しかしながら、これら各元素の含有量がそれぞれ規定する上限値を超えると、粗大介在物が生成することにより、鋼線の耐475℃脆化特性が低下するおそれがある。そのため、Ti含有量は1.0%以下、Nb含有量は2.5%以下、Ta含有量は2.5%以下とする。一方、Ti含有量は、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を向上させるため、0.03%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。また、Ti含有量は、0.7%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。Nb含有量は、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を向上させるため、0.04%以上であることが好ましく、0.08%以上であることがより好ましい。また、Nb含有量は、1.5%以下であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましい。Ta含有量は、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性を向上させるため、0.04%以上であることが好ましく、0.08%以上であることがより好ましい。また、Ta含有量は、1.5%以下であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましい。
Ca:0〜0.012%
Mg:0〜0.012%
Zr:0〜0.012%
REM:0〜0.05%
Ca、Mg、ZrおよびREMは、脱酸のため、含有させてもよい。しかしながら、これら各元素の含有量がそれぞれ規定する上限値を超えると、粗大介在物が生成して鋼線の耐475℃脆化特性が低下するおそれがある。そのため、Ca含有量は0.012%以下、Mg含有量は0.012%以下、Zr含有量は0.012%以下、REM含有量は0.05%以下とする。一方、Ca含有量は、脱酸による効果を得るため、0.0004%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。また、Ca含有量は、0.010%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。Mg含有量は、脱酸による効果を得るため、0.0004%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。また、Mg含有量は、0.010%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。Zr含有量は、脱酸による効果を得るため、0.0004%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。また、Zr含有量は、0.010%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。REM含有量は、脱酸による効果を得るため、0.0004%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。また、REM含有量は、0.03%以下であることが好ましい。
REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。これらは単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
本実施形態に係る二相ステンレス鋼線は、上記の元素を含有し、残部はFeおよび不純物である化学組成を有する。「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
代表的な不純物としては、O、S、P等が挙げられる。通常、鉄鋼の製造プロセスでは、不純物としてO、SおよびPが、それぞれ0.0001〜0.1%の範囲で混入する。なお、O、SおよびPは可能な限り低減することが好ましく、O含有量は0.04%以下であることが好ましく、S含有量は0.001%以下であることが好ましく、P含有量は0.04%以下であることが好ましい。
以上で説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で他の元素を含有させることが出来る。その他の成分については、本発明で特に規定するものではないが、一般的な不純物元素であるZn、Bi、Pb、Se、Sb、H等は可能な限り低減することが好ましい。これらの元素は、本発明の課題を解決する限度において、その含有割合が制御される。そのため、Zn含有量は0.01%以下、Bi含有量は0.01%以下、Pb含有量は0.01%以下、Se含有量は0.01%以下、Sb含有量は0.05%以下、H含有量は0.01%以下であることが好ましい。
(金属組織)
フェライト相の体積率:35.0〜60.0%
本実施形態に係る二相ステンレス鋼線は、金属組織が、オーステナイト相およびフェライト相(α相)から構成される複相組織を有し、かつ、体積%で、前記フェライト相を35.0〜60.0%含む。フェライト相の体積率が35.0%未満であると、フェライト相にCr、Si等が濃化し、耐475℃脆化特性が劣化する。そのため、フェライト相の体積率は35.0%以上とした。フェライト相の体積率は、40.0%以上であることが好ましい。一方、フェライト相の体積率が60.0%を超えると、耐リラクセーション特性が低下するため、フェライト相の体積率は60.0%以下とする。フェライト相の体積率は、55.0%以下であることが好ましく、50.0%以下であることがより好ましい。本実施形態に係る二相ステンレス鋼線は、オーステナイト相およびフェライト相以外の相として、σ相、窒化物、炭化物等を含んでいてもよい。オーステナイト相およびフェライト相以外の相の体積率は、5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
フェライト相の平均結晶粒径:15.0μm以下
フェライト相の平均結晶粒径は、耐475℃脆化特性および耐リラクセーション特性に寄与する。フェライト相の平均結晶粒径が15.0μmを超えると、すべり変形が起き難くなり、耐475℃脆化特性が劣化することに加え、細粒化による長範囲応力場の効果が低減することにより、耐リラクセーション特性が低下する。そのため、表層のフェライト相の平均結晶粒径は15.0μm以下とする。フェライト相の平均結晶粒径は、10.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。なお、本発明において、結晶粒径とは、15°以上の方位差を有する結晶粒の界面を結晶粒界として、AREA法を用いて算出した値をいう。
伸線軸方向に平行な断面における{100}面および{111}面のフェライト相の面積比率:0.10〜0.70
結晶方位を記述する代表的な面として{100}、{110}および{111}がある。フェライト相(α相)の伸線軸方向に平行な断面における変形集合組織では、通常{110}面が主である。しかし、二相ステンレス鋼のように硬質なオーステナイト相(γ相)が複相状に存在する場合、α相の結晶回転によって{110}面以外の方位が見受けられる。α相に複数の結晶方位が有る場合、ランダム方位粒界の存在は、見かけの結晶粒径を小さくする。そのため、α相のランダム方位化は、耐475℃脆化および耐リラクセーション特性を向上させる。ランダム性の指標として、伸線軸方向に平行な断面における、{100}面、{110}面および{111}面のα相に対する、{100}面および{111}面のα相の面積比率A値を用いる。具体的には、A値=({100}面のα相の面積+{111}面のα相の面積)/({100}面のα相の面積+{110}面のα相の面積+{111}面のα相の面積)である。A値が0.10未満であると、伸線軸方向に平行な断面における{110}面の割合が大きくなるため、上記理由により耐475℃脆化および耐リラクセーション特性が低下する。そのため、A値は0.10以上とする。一方、A値が0.70を超えると、伸線軸方向に平行な断面における{100}面および{111}面の割合が大きくなるため、α相のランダム性が認められなくなる。その結果、耐475℃脆化および耐リラクセーション特性が劣化する。A値は、0.30以上であることが好ましく、0.50以下であることが好ましい。なお、本発明において、A値は、伸線軸方向をRDとして該RD方向における結晶面の解析を行い、主要な<001>、<101>および<111>の方位成分をクリアランス20°以内の部分のみ表示させ、RD//{100}、{110}、{111}量を測定することにより算出した。
2.二相ステンレス鋼線の製造方法
次に、本実施形態に係る二相ステンレス鋼線の製造方法の一例について説明する。なお、本実施形態に係る二相ステンレス鋼線の製造方法は、下記製造方法に限定されるものではない。
本実施形態に係る二相ステンレス鋼線は、例えば、一次伸線およびBA、ならびに、二次伸線およびBAを施すことにより得られる。具体的には、本実施形態に係る二相ステンレス鋼線は、固溶化熱処理された鋼線に対して、一次伸線を行う一次伸線工程と、前記一次伸線を行った鋼線に、一次熱処理を行う一次熱処理工程(一次BA)と、前記一次熱処理を行った鋼線に対して、二次伸線を行う二次伸線工程と、前記二次伸線を行った鋼線に、二次熱処理を行う二次熱処理工程(二次BA)とを経て製造される。
前記一次伸線の減面率は、伸線加工性の観点から、90%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。一方、前記一次伸線の減面率は、次の一次BAにおけるγ相の生成を促進させる観点から、30%以上であることが好ましい。
前記一次BAの温度は、γ相の生成を促進させる観点から、1000℃以下であることが好ましい。一方、前記一次BAの温度が800℃未満であると、窒化物およびσ相の析出によって二次伸線の加工性が劣化する場合がある。そのため、前記一次BAの温度は、800℃以上であることが好ましい。前記一次BAの温度は、850℃以上であることがより好ましく、950℃以下であることがより好ましい。
前記一次BAの時間は、γ相の生成を促進させることにより、平均α粒径の粗大化を抑制させる観点から、3分以上であることが好ましい。前記一次BAの時間は、30分以上であることがより好ましく、300分以上であることがさらに好ましく、1000分以上であることが特に好ましい。
前記二次伸線の減面率は、伸線加工性の観点から、90%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。一方、前記二次伸線の減面率は、α相の析出サイトを増大させる観点から、1%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
前記二次BAの温度は、α相を析出させる観点から、950℃以上であることが好ましい。一方、前記二次BAの温度が1300℃を超えると、α粒径が粗大化する場合がある。そのため、前記二次BAの温度は、1300℃以下であることが好ましい。前記二次BAの温度は、1050℃以上であることがより好ましく、1150℃以下であることがより好ましい。
前記二次BAの時間は、α粒径が粗大化することを抑制する観点から、5分以下であることが好ましい。前記二次BAの時間は、1分以下であることがより好ましく、0.5分以下であることがさらに好ましく、0.1分以下であることが特に好ましい。
以上の製造方法により、金属組織が、オーステナイト相およびフェライト相から構成される複相組織を有し、かつ、体積%で、前記フェライト相を35.0〜60.0%含み、前記フェライト相における平均結晶粒径が15.0μm以下であり、伸線軸方向に平行な断面における前記フェライト相は、{100}面、{110}面および{111}面のフェライト相に対する、{100}面および{111}面のフェライト相の面積比率が0.10〜0.70である二相ステンレス鋼線を得ることができる。なお、当該鋼線をボルト部品に適用することにより、耐475℃脆性および耐リラクセーション特性に優れる耐熱ボルト部品を提供することができる。
以下に本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例である。本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1および表2には、鋼種A〜BGの化学組成、α相の体積率(α量)、α相中の平均結晶粒径(平均α粒径)、A値を示す。
これらの化学組成の鋼は、ステンレス鋼の安価溶製プロセスであるAOD溶製を想定し、100kgの真空溶解炉にて溶解し、φ180mmの鋳片に鋳造した。そして、その鋳片を1100℃で200分の加熱後、φ22.0mmまで熱間の線材圧延を行い、1050℃で熱間圧延を終了した。その直後に水冷、または、熱間圧延終了から連続して、溶体化処理として1050℃で3分のインライン熱処理を実施して水冷した。その後、酸洗を行うことにより線材とした。線材に対して、一次伸線減面率が55%となるように伸線(一次伸線)した後、900℃で1500分熱処理(一次BA)を施した。その後、二次伸線減面率が55%となるよう伸線(二次伸線)し、1120℃で0.02分の熱処理(二次BA)を施すことにより、φ10.0mmの鋼線を作製した。
そして、鋼線製品におけるα量、平均α粒径、A値、衝撃値および残留せん断歪を測定した。評価結果を表1〜4に示す。
次に、α量、平均α粒径、A値、衝撃値および残留せん断歪に影響を及ぼす一次伸線およびBA、ならびに、二次伸線およびBAの影響を調査した。
表1に示す鋼種Nと同様の化学組成を有するφ180mmの鋳片から前記同様に線材を作製した。次に、作製した線材を表5に示す各伸線減面率(一次伸線率)で一次伸線し、BA(一次BA)を施した後、各伸線減面率(二次伸線率)で二次伸線し、BA(二次BA)を行った。これにより、φ10.0mmの鋼線を作製した。なお、線材の一次伸線前の線径は、鋼線の最終線径がφ10.0mmとなるように変化させた。そして、得られた鋼線のα量、平均α粒径、A値、衝撃値および残留せん断歪を測定した。なお、試験No.89の鋼線は一次伸線後に縦割れが生じ、試験No.90及び94の鋼線は二次伸線後に縦割れが生じたため、α量、平均α粒径、A値、衝撃値および残留せん断歪の測定は行わなかった。評価結果を表5に示す。
なお、上述の実施例において、鋼線のα量は、「製品」を直流磁束計にて10000 Oeの磁場を付与することにより測定した飽和磁化値、および、以下の(A)〜(D)式を用いて算出した。飽和磁化値の測定には、直流磁化特性試験装置(メトロン技研(株)製)を用いた。
α量(vol.%)={σs/σs(bcc)}×100 ・・・ (A)
BCC(vol.%)=α’+α ・・・ (B)
σs(bcc)=2.14−0.030Creq ・・・ (C)
Creq=Cr+1.8Si+Mo+0.5Ni+0.9Mn+3.6(C+N)+1.25P+2.91S・・(D)
ここで、σsは製品の飽和磁化値(T)、σs(bcc)はγが100%マルテンサイト(α’)変態した時の飽和磁化値(計算値)を示す。
また、実施例において、鋼線の平均α粒径はFE−SEM/EBSD(JSM−700F/日本電子(株)製)解析によって測定した。解析場所は表層部(表層から0.2mm)とし、100×100μmの視野を5視野測定した。なお、結晶粒径は、15°以上の方位差を有する結晶粒の界面を結晶粒界として、AREA法を用いて算出した。
実施例において、鋼線のA値は、FE−SEM/EBSD(JSM−700F/日本電子(株)製)解析によって測定した。解析場所は表層部(表層から0.2mm)とし、100×100μmの視野を5視野測定した。そして、伸線軸方向をRDとして該RD方向における結晶面の解析を行い、主要な<001>、<101>および<111>の方位成分をクリアランス20°以内の部分のみ表示させ、RD//{100}、{110}、{111}量を測定することにより、A値を算出した。
実施例において、鋼線の衝撃値は、JIS Z 2242のシャルピー衝撃試験での衝撃値とした。ここで、鋼線の衝撃値は、100J/m以上を合格とした。なお、衝撃試験用の鋼線には、さらに、475℃で100時間の熱処理を施した。
鋼線の耐リラクセーション特性は、475℃における捻りリラクセーション試験にて残留せん断歪を測定することにより、評価した。捻りリラクセーション試験の条件は、チャック間距離Lを100mmとし、せん断歪が0.78%となる治具に試験片を取り付け、475℃にて24時間保持した。試験完了後、治具から試験片取り出し、試験片の捻り角度変化量Δθ[deg]を測定した。そして、残留せん断歪(=D0×Δθ/(2L)×100)[%]を算出することにより、耐リラクセーション特性の指標とした。なお、鋼線の残留せん断歪は、0.30%以下を合格とした。
表3〜5から明らかなように、本発明例の鋼線は、衝撃値が100J/m以上であり、かつ、残留せん断歪が0.30%以下であった。
本発明の二相ステンレス鋼線は、耐475℃脆性および耐リラクセーション特性に優れる。そのため、本発明の二相ステンレス鋼線は、耐熱用のボルト製品、例えば、自動車用ボルト、産業機器用ボルト、家電用ボルト等として、好適に用いることができる。また、本発明の二相ステンレス鋼線は、鋼線材として使用することもできる。

Claims (3)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.10%、
    Si:0.05〜3.0%、
    Mn:0.05〜10.0%、
    Ni:0.5〜10.0%、
    Cr:15.0〜29.0%、
    Cu:0.05〜3.0%、
    Mo:0.05〜6.0%、
    N:0.01〜0.35%未満、
    V:0〜2.5%、
    B:0〜0.012%、
    Al:0〜3.0%、
    Co:0〜2.5%、
    W:0〜2.5%、
    Ga:0〜0.05%、
    Sn:0〜2.5%、
    Ti:0〜1.0%、
    Nb:0〜2.5%、
    Ta:0〜2.5%、
    Ca:0〜0.012%、
    Mg:0〜0.012%、
    Zr:0〜0.012%、
    REM:0〜0.05%、ならびに、
    残部:Feおよび不純物であり、
    金属組織が、オーステナイト相およびフェライト相から構成される複相組織を有し、かつ、体積%で、前記フェライト相を35.0〜60.0%含み、
    前記フェライト相における平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
    伸線軸方向に平行な断面における前記フェライト相は、{100}面、{110}面および{111}面のフェライト相に対する、{100}面および{111}面のフェライト相の面積比率が0.10〜0.70であり、
    475℃における熱処理後の衝撃値が100J/cm 以上、475℃の残留せん断ひずみが0.3%以下である、耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    V:0.1〜2.5%、
    B:0.0010〜0.012%、
    Al:0.001〜3.0%、
    Co:0.05〜2.5%、
    W:0.05〜2.5%、
    Ga:0.0004〜0.05%、
    Sn:0.01〜2.5%、
    Ti:0.03〜1.0%、
    Nb:0.04〜2.5%、
    Ta:0.04〜2.5%、
    Ca:0.0004〜0.012%、
    Mg:0.0004〜0.012%、
    Zr:0.0004〜0.012%、および、
    REM:0.0004〜0.05%、
    から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線。
  3. 請求項1または2に記載の耐熱ボルト用二相ステンレス鋼線を用いた耐熱ボルト部品。
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