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JP2003034848A - 耐食性および耐熱性に優れた細径ばね用高強度高靭性ステンレス鋼線並びにその製造方法 - Google Patents

耐食性および耐熱性に優れた細径ばね用高強度高靭性ステンレス鋼線並びにその製造方法

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Publication number
JP2003034848A
JP2003034848A JP2001223280A JP2001223280A JP2003034848A JP 2003034848 A JP2003034848 A JP 2003034848A JP 2001223280 A JP2001223280 A JP 2001223280A JP 2001223280 A JP2001223280 A JP 2001223280A JP 2003034848 A JP2003034848 A JP 2003034848A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
stainless steel
steel wire
wire
strength
corrosion resistance
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Withdrawn
Application number
JP2001223280A
Other languages
English (en)
Inventor
Soshiyun Hou
蘇春 方
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kobelco Wire Co Ltd
Original Assignee
Shinko Wire Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Shinko Wire Co Ltd filed Critical Shinko Wire Co Ltd
Priority to JP2001223280A priority Critical patent/JP2003034848A/ja
Publication of JP2003034848A publication Critical patent/JP2003034848A/ja
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 優れた耐食性と耐熱性を発揮しつつ、ステン
レスばね用鋼線B種以上〜ピアノ線並みの強度を備えた
ステンレス鋼線、およびこの様なステンレス鋼線を製造
する為の有用な方法等を提供する。 【解決手段】 C:0.01〜0.04%、Si:3〜
4.5%、Mn:1.0超〜2.5%、Cu:0.5〜
2.5%、Ni:5.5〜10.5%、Cr:15〜2
2%、Mo:0.5〜2.5%およびNb:0.1〜
0.45%を夫々含有すると共に、オーステナイト相と
フェライト相の2相混合組織を呈し、且つ引張強さが2
000MPa以上で線径が1.0mm以下である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、細径コイルばねの
素材として用いられる高強度高靭性ステンレス鋼線およ
びその製造方法に関し、殊に耐食性と耐熱性を優れたも
のとした2相ステンレス鋼線、およびその様なステンレ
ス鋼線を製造する為の有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】工業用機器や自動車を始めOA機器、家
電製品等の様々な分野でコイルばねが広く使用されてい
る。これらの製品は、よりコンパクト化・軽量化、より
高い耐久性が常時求められており、それに応じてコイル
ばねについても上記の特性が要求されている。こうした
ことから、高強度・高靭性を有する細径ばね(コイルば
ね)の役割がますます重要になっている。しかも、製品
の高性能化に伴って、使用環境もますます厳しくなって
おり、こうした要求に対応するためには、細径ばねにお
いても高強度および高靭性であることに加えて、高耐食
性や高耐熱性も要求される様になっている。
【0003】上記の様な各種用途に使用されているステ
ンレス鋼線は、殆どがオーステナイト系であり、その代
表的な鋼種としてはSUS304やSUS316が知ら
れている。このうちSUS304では、加工硬化率(単
位伸線加工度の強度上昇率)が比較的大きいが、伸線加
工過程において鋼線表面に脆いマルテンサイト相ができ
やすく、一般に80%の伸線加工度(減面率)を越える
と、表面加工マルテンサイトの量が70%にもなり、絞
り(面縮率)が急激に低下するので、高い伸線加工度を
望むことができず、強度上昇するにも制限がある。ま
た、耐食性がそれほど高くないこともSUS304にお
ける欠点である。
【0004】一方、SUS316の場合には、耐食性に
関してはSUS304鋼に比べて優れているものの、強
度の点でSUS304よりも低いという問題がある。こ
うしたことから、上記SUS316に所定量のNを添加
して強度を高めたステンレス鋼の提案されているが(例
えば、SUS316−N)、いずれの鋼種についてもピ
アノ線の強度レベルに達していないのが実状である。ま
た、Cの含有量を極端に多くして強度的に硬鋼線の強度
レベルにした鋼種も知られているが(例えば、SUS3
02)、こうした鋼種では耐食性や靭性を犠牲にする結
果となっている。しかも、これまで開発された鋼種で
は、いずれも或る程度の耐熱性を有するものとなってい
るが、400℃を超える様な雰囲気における高温強度に
関しては急激に低下するという欠点がある。
【0005】こうした状況の下で、オーステナイト/フ
ェライトの2相を持つステンレス鋼による鋼線について
も開発されており(例えば、特公平3−9180号)、
こうした2相ステンレス鋼線においては、高靭性および
高耐食性が発揮できるものとなっている。しかしなが
ら、こうした2相ステンレス鋼線においては、ステンレ
スばね線B種(WPB)以上〜ピアノ線並みの高強度を
発揮することができないのが実状である。
【0006】上述の如く、これまで開発されているばね
用ステンレス鋼線では、高耐食性、高靭性、高強度およ
び高耐熱性のいずれをも同時に満足させたものが存在し
なかった。こうしたことから、上記特性を兼ね備えたス
テンレス鋼線の実現が望まれているのが実状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこうした状況
の下になされたものであって、その目的は、優れた耐食
性と耐熱性を発揮しつつ、ステンレスばね用鋼線B種以
上〜ピアノ線並みの強度および靭性を備えたステンレス
鋼線、およびこの様なステンレス鋼線を製造する為の有
用な方法等を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成し得た
本発明のステンレス鋼線とは、C:0.01〜0.04
%(質量%の意味、以下同じ)、Si:3〜4.5%、
Mn:1.0超〜2.5%、Cu:0.5〜2.5%、
Ni:5.5〜10.5%、Cr:15〜22%、M
o:0.5〜2.5%およびNb:0.1〜0.45%
を夫々含有すると共に、オーステナイト相とフェライト
相の2相混合組織を呈し、且つ引張強さが2000MP
a以上で線径が1.0mm以下である点に要旨を有する
ものである。
【0009】上記本発明のステンレス鋼線においては、
更にN:0.05〜0.25%を含有すると共に、引張
り強さが2100MPa以上であるものが好ましい。
【0010】また上記の様なステンレス鋼線を製造する
に当たっては、鋼線の伸線加工過程において、中間熱処
理と共にまたはその代りにニッケルめっきまたは潤滑性
皮膜コーティングを施して伸線加工を行なう様にすれば
良い。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明者らは、上記目的を達成す
ることのできるばね用ステンレス鋼線の実現を目指して
様々な角度から検討した。その結果、オーステナイト/
フェライト相の2相混合組織を呈するステンレス鋼を素
材鋼とし、その化学成分組成(特に、Si,Cu,N
b)を厳密に規定すると共に、この鋼材を用いて線径を
1.0mm以下にして引張強さを2000MPa以上に
した鋼線においては上記目的が見事に達成されることを
見出し、本発明を完成した。
【0012】従来の2相ステンレス鋼は、強度的にオー
ステナイト系ステンレス鋼よりも低いのが一般的であ
り、その原因の一つとしては2相中のフェライト相がオ
ーステナイト相と比べて加工硬化率が低いことにあると
考えられる。これに対して、フェライト強化元素である
Siを高めに含有させた鋼種も知られているが(前記特
公平3−9180号)、3%以下の含有ではその効果が
発揮されず、また3%を超えて含有させると冷間加工性
が却って低下するという問題がある。
【0013】そこで本発明者らは、高強度を維持しつつ
高靭性、高耐食性および高耐熱性を発揮するステンレス
鋼線を実現するべく様々な角度から検討した。その結
果、3%以上のSiを含有させると共に、所定量のCu
とNbとを同時に含有させ、必要によって更にNを含有
させる様にすれば、上記の要求特性のいずれをも満足さ
せ得る2相ステンレス鋼線が得られることが判明したの
である。
【0014】本発明の2相ステンレス鋼線は、上述の如
く、基本的にSi含有量を比較的高めに設定すると共
に、所定量のCuとNbを含有させ、必要によってNを
含有させる点に化学成分としての特徴を有するものであ
るが、これらの成分を含めて本発明のステンレス鋼線に
おける化学成分組成の範囲限定理由は下記の通りであ
る。
【0015】C:0.01〜0.04% Cは、鋼線の強度向上に有効な成分であり、こうした効
果を発揮させるためには、0.01%以上含有させる必
要がある。また、C含有量を0.01%未満に低減する
ことは製造コストの上昇を招くことになる。しかしなが
ら、C含有量が過剰になると、炭化物が粒界で析出し易
くなり、耐食性が低下するので0.04%以下にする必
要がある。
【0016】Si:3〜4.5% 一般に、例えばSUS329J1の様な2相ステンレス
鋼は、2相中のフェライト相は加工硬化が小さいことが
知られている。このフェライト相は伸線加工性の向上に
寄与することになるが、同じ伸線加工度においてSUS
304に比べて2相ステンレス鋼の強度が低くなる原因
にもなる。これに対して、Siはフェライト相に固溶さ
れ、加工硬化の少ないフェライト相を強化する作用を発
揮すると共に、耐熱性向上にも寄与する。
【0017】本発明者らが、上記の作用を発揮するSi
の含有量について繰り返し実験した結果、Si含有量を
3〜4.5%としたものが最適な特性を発揮し得ること
を見出した。即ち、Si含有量が3%未満になると、固
溶強化の作用が発揮されにくく、4.5%を超えて含有
されると、線材圧延や冷間伸線加工が極端に困難になる
のである。また、コイルばねの場合には、ばね成形後に
おいてばねのねばり性を引き出すために低温時効処理を
必要とする。本発明のばね用ステンレス鋼線ではこうし
た低温時効処理特性においても優れている必要がある
が、上記のにSiを含有させたステンレス鋼線では、低
温時効処理による強度上昇幅が一般のオーステナイト系
ステンレス鋼に比べて大きなものとなる。Siは一般的
な作用である脱酸作用を発揮するのは勿論のこと、素材
の耐熱性向上にも寄与する。尚、Si含有量は3.5%
以上であることが好ましく、好ましい上限は4.2%で
ある。
【0018】Mn:1.0超〜2.5% Mnは、脱酸および脱硫の作用があると共に、オーステ
ナイト安定化元素であるので、オーステナイト/フェラ
イト2相のバランスを維持する上で後述するNiと同様
の効果を発揮することになる。従来の2相ステンレス鋼
においては、Mnは1%以下含有するものであるが、本
発明のステンレス鋼線においては、Siとのバランスを
図るという理由から、上記の効果を発揮させる為には、
Mnは1.0%を超えて含有させる必要がある。しかし
ながら、あまり過剰になると加工性を損なうので、2.
5%以下とすべきである。尚、Mn含有量の好ましい下
限は1.5%であり、好ましい上限は2.0%である。
【0019】Cu:0.5〜2.5% Cuは鋼線の冷間加工性を向上させる一方、耐食性をも
向上させる作用を発揮する。即ち、本発明のステンレス
鋼線においては、Siを3%以上と比較的多目に含有さ
せるものであるが、それに伴って加工性の低下を予想さ
れることになる。そこで本発明では、こうした加工性の
低下を、Cuを含有させることによって補うものであ
る。こうした効果を発揮させるためには、Cu含有量は
0.5%以上とする必要があるが、Cu含有量が過剰に
なって2.5%を超えると熱間加工性が劣化することに
なる。尚、Cu含有量の好ましい下限は1%であり、好
ましい上限は2%である。
【0020】Ni:5.5〜10.5% Niはオーステナイト形成元素であり、本発明の2相ス
テンレス鋼線に所定量(例えば20体積%以上)のオー
ステナイトを形成するには、5.5%のNiを含有させ
る必要がある。しかしながら、Niは高価な元素である
ので経済性を考慮してその上限は10.5%程度にする
必要がある。
【0021】Cr:15〜22% Crはステンレス鋼における基本成分であり、フェライ
ト成形元素でもある。本発明の2相ステンレス鋼に所望
の耐食性を附与するには、Crは少なくとも15%以上
含有させる必要がある。しかしながら、Crを過剰に含
有させるとコストが上昇する割にはその効果が飽和する
ので22%以下とする必要がる。
【0022】Mo:0.5〜2.5% Moは、ステンレス鋼の耐食性の向上させる上で重要な
元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mo
は0.5%以上含有させる必要がある。しかしながら、
過剰に含有させるとコスト上昇を招くことから2.5%
以下とする必要がある。
【0023】Nb:0.1〜0.45% Nbは、結晶粒の微細化に寄与する元素であり、結晶粒
の微細化によって鋼線の靭性を向上させることができ
る。また、結晶粒の微細化を図ることによって、間接的
に材料の冷間加工性の向上にも寄与し、これによって前
記Cuと同様にSiを多量含有させることによる冷間加
工性劣化をも補うことができる。また、Nbを含有させ
ることによって、耐食性および耐熱性をより優れたもの
とすることができることを、本発明者らは実験によって
確認できた。こうした効果を発揮させる為には、Nb含
有量は0.1%以上とする必要があるが、0.45%を
超えると効果が飽和することになる。尚、Nb含有量の
好ましい下限は0.2%であり、好ましい上限は0.4
%である。
【0024】本発明の2相ステンレス鋼線における基本
的な化学成分組成は上記の通りであり、残部は実質的に
Feからなるものであるが、必要によってNを含有させ
ることも有効である。Nを含有させるときの範囲限定理
由は下記の通りである。尚、「実質的にFe」とは、本
発明のステンレス鋼線にはFe以外にその特性を阻害し
ない程度の微量成分(許容成分)を含み得るものであ
り、こうした許容成分としては、例えばPやS等の不可
避不純物等が挙げられ、これらの不可避不純物について
は、いずれも0.04%程度の含有であれば許容でき
る。
【0025】N:0.05〜0.25% NはCと同様に格子間固溶原子であり、固溶強化に有効
に寄与する成分である。またNの含有は、ステンレス鋼
線の耐食性向上に有効に作用し、Moの代りに耐食性向
上の役割を果たすことも考えられる。更に、Nは耐熱性
を向上させるのにも有効である。こうした効果が発揮さ
れるのは、Nの含有によって結晶粒内に均一に数十ナノ
メータの微細な窒化物や炭窒化物が生成され、粒界上で
の欠Cr層の形成による耐食性の低下を防止すると共
に、加熱時の粒成長の抑制によって耐熱性向上にも貢献
すると考えることができる。こうした効果を発揮させる
ためには、Nの含有量は0.05%以上とすることが好
ましいが、過剰に含有させると加工性を低下させるので
0.25%以下とすることが好ましい。また、上記の程
度にNを含有させることによって、本発明のステンレス
鋼線の強度を2100MPa以上に向上させることがで
きる。
【0026】本発明者らは、かねてよりオーステナイト
/フェライトの2相ステンレス鋼線について研究を進め
ており、この様な組織を有するステンレス鋼線では優れ
た耐食性と高疲労強度を発揮することを見出している
(前記特公平3−9180号)。そして、更に検討した
結果、上記の様に化学成分組成を調整した2相組織のス
テンレス鋼線においては、高強度と共に高伸線加工性を
も発揮し得るものとなることが判明したのである。こう
した効果が発揮される理由については、その全てを解明
し得た訳ではないが、次の様に考えることができた。
【0027】前述の如く、2相ステンレス鋼では、一般
に冷間加工時の加工硬化率(単位冷間加工度当たりの強
度上昇率)がオーステナイト系ステンレス鋼よりも低い
ものとなる。これは2相中のフェライト相は、オーステ
ナイト相よりも加工硬化率が小さいことによるものであ
る。これに対して、Siは主にフェライト相中に固溶す
るので、Siを多量に含有させると、フェライト相がS
iによって強化され、加工硬化率が上昇し、その結果と
して3%以上のSiを含有している本発明のステンレス
鋼線においては従来の2相スレンレス鋼線よりも高い強
度が得られることになる。
【0028】また、オーステナイト/フェライトの2相
組織では、冷間加工によって層状組織となる。そして、
2相の間に強度差が存在するので、オーステナイト相に
おいて加工マルテンサイトが生じにくく、その結果とし
て95%以上の強伸線加工が可能になると考えられる。
尚、本発明の2相ステンレス鋼線中におけるオーステナ
イト/フェライトの比率は、オーステナイト:20〜8
0体積%、残部:フェライト程度が適当であり、この範
囲を外れると、2相ステンレス鋼線としての上記特性を
発揮することができなくなる。
【0029】本発明の2相ステンレス鋼線は、その線径
が1.0mm以下である必要があるが、この理由は次の
通りである。伸線加工によって得られた鋼線は、寸法依
存性を有するものである。即ち、同じ成分を有する線材
を用いて、同じ加工度の伸線を行なっても線径(最終線
径)の細い鋼線の方が強度的により高くなる。例えば、
固溶化処理後の線径:4mmのステンレス鋼線を2mm
まで伸線加工する場合と、同2mmから1mmまで伸線
加工する場合では、伸線加工度としては75%で同じで
あるが、最終線径が1mmの方が同2mmのものよりも
強度が高くなる。これは、伸線加工と固溶化処理によっ
て線径が細ければ細いほど金属組織が微細化するからで
ある。こうしたことから、本発明の2000MPa以上
の高強度で高靭性のステンレス鋼線を得るには、その線
径を1mm以下とする必要がある。
【0030】ところで、コイルばねの場合には、常に捻
り変形を受けるので、ばね線には捻り特性が良好である
ことも重要な要件である。この捻り特性は、伸線加工に
よってできたファイバー組織の形態に強く影響されるこ
とになる。即ち、伸線加工度が低い場合には、伸線加工
によってできたファイバー組織が充分に発揮していない
状態であるので、捻回値が一旦急激に低下することにな
る。そして、2相ステンレス鋼線の場合には、伸線前の
捻回値は50回以上であるが、20〜60%程度の伸線
加工を行なうことによって、捻回値が10回以下に一旦
低下することになる。充分な伸線加工を行なわない段階
では、捻回値が低いままであり、いわゆる捻回回復現象
が生じない。これに対して、充分な伸線加工を行うこと
によって(鋼種によっては90%以上の伸線加工が必
要)、ファイバー組織の発達に伴う捻回値の上昇が認め
られることになる。
【0031】本発明の2相ステンレス鋼線を製造するに
当たっては、鋼線の伸線加工過程において中間熱処理と
共にまたはその代りにニッケルめっきまたは潤滑性皮膜
コーティングを施して伸線加工を行なう様にすれば良い
が、その理由は次の通りである。
【0032】本発明の2相ステンレス鋼線は、Siを3
%以上含有するものであるが、Si含有量が3%以上に
なると通常のオーステナイト系ステンレス鋼線よりも伸
線加工が困難になるのも事実である。実際のところ、細
径ばねの製造工程において、伸線加工度は80〜90%
程度が限界であり、引続き伸線加工をするには、繰り返
し中間固溶化熱処理が必要になる。この様な固溶化熱処
理では、再結晶が進行して前の伸線加工で導入された加
工硬化組織が消失してしまい、結局、ほぼ伸線前の強度
レベルに戻り、高強度が得られなということになってし
まう。
【0033】こうした不都合を回避するという観点か
ら、本発明方法では鋼線の伸線加工過程において中間熱
処理と共にまたはその代りにニッケルめっきまたは潤滑
性皮膜コーティングを施して伸線を行なう様にしたので
ある。このうち、ニッケルめっきは前工程の伸線で得ら
れた強度を損することなく、潤滑剤としても作用するの
で、トータルの伸線加工度を比較的容易に上げることが
できるのである。このときのニッケルめっきの回数は、
用途や目的に応じて異なるが、こうしたニッケルめっき
を行なうことによってトータル伸線加工度が99%以上
にすることも可能である。また前記潤滑性皮膜コーティ
ングもニッケルめっきと同様の作用を発揮するものであ
るが、こうした潤滑性皮膜の種類としては、シュウ酸塩
皮膜やリン酸塩皮膜等が挙げられる。
【0034】こうした工程を採用することによって、ば
ね用ステンレス鋼線B種〜ピアノ線並みの強度を示しな
がら、捻回値が20以上の高靭性で、しかも高耐食性の
ばね用ステンレス鋼線が実現できたのである。尚、ばね
用ステンレス鋼線の製造においては、ばね成形時の潤滑
性を付与する為に、最終仕上げ伸線工程前にニッケルめ
っきを行なう場合が多いので、ばね製造工程においてニ
ッケルめっきは特殊な工程ではなく、既設の設備を利用
することが可能である。
【0035】以下、本発明を実施例によって更に詳細に
説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のもの
ではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することは
いずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0036】
【実施例】下記表1に示す化学成分組成の鋼(A〜I)
を用いて直径:5.50mmの線材を作製した。これら
の線材を、2相系については1050℃、オーステナイ
ト系については1150℃で、夫々固溶化処理を行なっ
た。そして、各線材を酸洗、表面コーティング処理を行
なってから、伸線に供して各種鋼線とした。このとき、
寸法効果を確認する為に、各鋼種の最終仕上げ線径を
0.9,0.4、0.08(mm)の3サイズとした。
【0037】
【表1】
【0038】細径ステンレス鋼線を伸線加工する場合
に、加工硬化の為に鋼線が硬くなっていき、引き続いて
伸線加工を行なうのに途中で1回乃至数回の中間熱処理
(固溶化処理)を行なうのが普通である。しかしなが
ら、一旦固溶化処理を行なうと、再結晶によってそれま
での加工硬化の効果が損なわれることになる。そこで、
本発明では前述の如く、加工硬化の効果を保持しながら
引き続き伸線加工ができる様に、中間熱処理と共に(中
間熱処理を極力減らし)またはその代りにニッケルめっ
き、或は潤滑性皮膜コーティング処理を行なうことにし
たのである。
【0039】このとき、比較の為にSUS304および
SUS316(表1の鋼種H,I)についても同様に工
程を試みたが、これらの鋼種については伸線加工度は8
5%程度を超えると、絞りが20%程度となり、たとえ
ニッケルめっきや潤滑性皮膜コーティング処理を行なっ
ても引き続き伸線するのには耐えられないので、85%
前後の伸線加工度を与えた後、中間固溶化処理を行なっ
た。そして、最終仕上げ伸線工程においてニッケルめっ
きを施した。中間熱処理工程とニッケルめっき或は潤滑
性皮膜コーティング処理の回数の関係について、各鋼種
を比較して下記表2に示す。尚、下記表2に示した伸線
加工度は、最終固溶化処理後のトータル伸線加工度を言
う。
【0040】
【表2】
【0041】表2の結果から明らかなように、SUS3
04,SUS316の場合には、線径:0.9mmまで
伸線する場合に、1回の固溶化処理+1回のニッケルめ
っき、また線径:0.4mmまで伸線する場合に、計2
回の固溶化処理+1回のニッケルめっき、更に線径:
0.08mmまで伸線するの場合に、計4回の固溶化処
理と1回のニッケルめっきを必要とした。
【0042】これに対して、本発明のステンレス鋼線
(表1の鋼種A〜E)では、オーステナイト/フェライ
トの2相が伸線加工によって層状ファイバー組織となる
ので、伸線加工が進行するにつれて層状ファイバー組織
が発達し、却って強靭性となる結果が得られた。
【0043】図1は、本発明のステンレス鋼線(鋼種
A,B)における伸線加工度に伴う捻回値の変化を、従
来鋼(SUS304,SUS316)と比較して示した
ものである。尚、「伸線加工度」とは、下記(1)式に
よって求められる値を意味し、「捻回値」とは、線の片
端を固定し、他の端を回転させたときに破断するときの
回転数を意味する[但し、ゲージレングスを100d
(d:線径)とする]。 伸線加工度={[伸線前線径(d0)−伸線後線径(di)]/d0} ×100(%) …(1) この結果から明らかなように、95%以上の伸線加工で
引張強さが上昇すると共に、捻回値も30回程度まで回
復していることが分かる。
【0044】図2は、本発明のステンレス鋼線(鋼種
A,B)における伸線加工に伴う絞りの変化を、従来鋼
(SUS304,SUS316)と比較して示したグラ
フである。尚、「絞り」とは、下記(2)式によって求
められる値である。この結果から明らかなように、本発
明鋼線では95%以上伸線しても30%以上の絞り値を
示しているのに対し、SUS304やSUS316では
85%を超える伸線を行なうと、絞りは20%程度にな
り、伸線限界に近づいていることが分かる。 絞り={[伸線前の線の断面積(A0)−破断時の線の断面積(Ai)]/A0} ×100(%) …(2)
【0045】これらの結果を踏まえ、本発明のステンレ
ス鋼線(鋼種A,B)の場合には、線径:0.9mmま
で伸線加工するのに、固溶化処理を省略し、1回のニッ
ケルめっきのみで行なった。また、線径:0.4mmま
で伸線する場合には、1回の固溶化処理+1回のニッケ
ルめっき、更に線径:0.08mmまで伸線加工する場
合には、1回の固溶化処理+2回のニッケルめっき或は
潤滑性皮膜コーティング処理を行なった。即ち、本発明
の鋼線を製造する場合には、オーステナイト系のSUS
304やSUS316の場合に比べて、中間固溶化処理
の回数を減らし若しくは無くし、加工硬化による強化効
果が最大限に発揮されることになる。
【0046】下記表3は、各鋼線の室温引張特性(n=
3の平均値)と捻回値(n=10の平均値)を示したも
のである。SUS304やSUS316に比べて本発明
の鋼線の場合には、引張強度は勿論のこと、捻回値も高
くなっていることが分かる。
【0047】
【表3】
【0048】ところで、ばねメーカにおいては、ばね鋼
線を用いてコイルばねに成形してから、ばねのねばり性
を引き出すために、低温時効処理を行なうのが一般的で
ある。こうした工程を想定して、各鋼線の低温時効処理
後の引張強さについても調査した。本発明鋼線の場合に
は、時効処理による引張強さの上昇が大きいことも大き
な特徴である。SUS304やSUS316の場合に
は、400℃、10分間の時効処理による引張強さの上
昇が5〜8%程度であるのに対して、本発明の鋼線の場
合には、15%以上も上昇したことを確認できた。コイ
ルばねは必ず低温時効処理を行なうものであるので、本
発明の鋼線におけるこうした特性はコイルばねにとって
明らかに有利である。
【0049】この効果をより分かり易く説明する為に、
図3に示す様に、本発明の鋼線とSUS304やSUS
316の引張強さに対する低温時効処理温度(いずれも
10分の処理時間)の影響を整理した。その結果から明
らかなように、各時効処理温度において本発明鋼線の引
張強さの上昇値が比較材よりも大きく、特に300℃を
超えるとその差が顕著になっていることが分かる。
【0050】前記図3は、各鋼線における耐熱性の結果
をも示すものである。即ち、本発明の鋼線においては、
600℃までの時効処理では時効処理後の強度はいずれ
も室温強度よりも上昇していることが分かる。これに対
して、SUS304の場合には、600℃の時効処理で
は時効処理後の強度は室温強度よりも約9%も低下した
ものとなっており、その上昇率が本発明の鋼線と比べて
低くなっていることが分かる。また、SUS316の場
合にて、600℃までの時効処理では、時効後の強度は
室温強度よりも上昇しているが、その上昇率は本発明の
鋼線と比べて小さいものである。即ち、本発明の鋼線の
耐熱製は従来のオーステナイト鋼線(SUS304やS
US316)の耐熱性に比べて優れたものとなっている
ことが分かる。
【0051】下記表4は、各鋼線を海水中に浸漬して腐
食させたときの腐食減量を比較して示したものである
が、本発明の鋼線はSUS316以上の耐食性を有して
いることが分かる。
【0052】
【表4】
【0053】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されており、耐
食性と耐熱性に優れた高強度・高靭性ばね用ステンレス
鋼線が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】伸線加工度に伴う捻回値の変化を示したグラフ
である。
【図2】伸線加工度に伴う絞りの変化を示したグラフで
ある。
【図3】引張強度に対する時効熱処理温度の影響を示し
たグラフである。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.01〜0.04%(質量%の意
    味、以下同じ)、Si:3〜4.5%、Mn:1.0超
    〜2.5%、Cu:0.5〜2.5%、Ni:5.5〜
    10.5%、Cr:15〜22%、Mo:0.5〜2.
    5%およびNb:0.1〜0.45%を夫々含有すると
    共に、オーステナイト相とフェライト相の2相混合組織
    を呈し、且つ引張強さが2000MPa以上で線径が
    1.0mm以下であることを特徴とする耐食性および耐
    熱性に優れた細径ばね用高強度高靭性ステンレス鋼線。
  2. 【請求項2】 更にN:0.05〜0.25%を含有す
    ると共に、引張り強さが2100MPa以上である請求
    項1に記載の細径ばね用高強度高靭性ステンレス鋼線。
  3. 【請求項3】 請求項1または2に記載の細径ばね用高
    強度高靭性ステンレス鋼線を製造するに当たり、鋼線の
    伸線加工過程において、中間熱処理と共にまたはその代
    りにニッケルめっきまたは潤滑性皮膜コーティングを施
    して伸線加工することを特徴とする耐食性および耐熱性
    に優れた高強度高靭性ばね用ステンレス鋼線の製造方
    法。
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