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JP5653269B2 - 耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材と鋼線、並びに、それらの製造方法。 - Google Patents

耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材と鋼線、並びに、それらの製造方法。 Download PDF

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JP5653269B2 JP2011067910A JP2011067910A JP5653269B2 JP 5653269 B2 JP5653269 B2 JP 5653269B2 JP 2011067910 A JP2011067910 A JP 2011067910A JP 2011067910 A JP2011067910 A JP 2011067910A JP 5653269 B2 JP5653269 B2 JP 5653269B2
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Description

本発明は、耐食性、強度、及び延性に優れ、磁性を有するステンレス鋼線材と鋼線に関する。特に、本発明は、成分組成及び熱処理により、熱間で微量のオーステナイト相を生成させ、且つ、有害な析出物を抑制したステンレス鋼線材と鋼線、及びそれらの製造方法に関する。
従来、線材及び鋼線から加工されるねじ、金網等の加工部品で耐食性が必要な場合は、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼線が使用されてきた。しかしながら、高価なニッケルを8%以上含有するため高コストであり、また、磁性を必要とする部品に対しては適用できなかった。
そのため、これらの部品に対し、低コスト化させた高純フェライト系ステンレス鋼線材や高靱性化されたフェライト系ステンレス鋼線材の適用が検討されてきた(特許文献1、2)。しかしながら、熱処理ままの強度が低く、製品の耐食性に劣っていた。
一方、近年、フェライト系ステンレス鋼にNi及びCuを添加し、強度と耐食性を改善したフェライト系ステンレス鋼材が提案されている(特許文献3)。しかしながら、Cr含有量が高く、延性や製造性が悪い。例えば、金網、ファスナー等の製品においては、550MPa以上の引張強さが求められるが、このような高強度製品を加工する場合、全伸びで15%以上、破断絞りで60%以上という高い延性を備えていることが必要となる。これらの用途への適用には強度を維持しつつ延性が求められるため、特許文献3の技術では製造性が悪くなり、安価な適用が困難となる。
そのため、従来のフェライト系ステンレス鋼線材及び鋼線では、延性と製造性を満足して高強度・高耐食性の特性を兼ね備えることができなかった。
特開2006−16665号公報 特許第2817266号公報 特開2011−1592号公報
本発明の目的は、従来の着磁性を維持したまま、優れた強度と耐食性を確保しつつ延性及び製造性を大幅に改善し、着磁性を必要とするねじ、金網等の素材である高強度・高延性で高耐食性のステンレス鋼線材及び鋼線、並びに、それらの製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、Cr量を規定し、成分バランスにより熱間でオーステナイト相を微量に析出させることを見出した。また、製造条件も制御してラーフェス相の析出を抑制させることで強度を維持しつつ製造性及び延性を大幅に改善できることも見出した。さらに、Cr炭窒化物抑制元素と共にNi及びCuを添加し、Ni及びCuリッチな旧γ相を分散させることで鋭敏化を抑制しつつ腐食量を大幅に抑制できることを見出した。
(1)質量%で、
C:0.003〜0.03%、
Si:0.05〜1.0%、
Mn:0.05〜1.0%、
P:0.04%以下、
S:0.005%以下、
Ni:1.0%超、3.5%以下、
Cu:0.05〜1.5%、
Cr:16.0%以上、20.0%未満、
N:0.003〜0.03%及び
Al:0.001〜0.3%
を含有し、更にNb:0.05〜1.0%、Ti:0.01〜0.5%、及びV:0.03〜1.0%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、(a)式で表されるγ値が1.0〜30.0であることを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
γ=700[C]+800[N]+20[Ni]+10[Cu]+10[Mn]
−6[Cr]−9[Si]−9[Mo]−37[Al]+60 ------(a)
ここで、[C]、[N]、[Ni]、[Cu]、[Mn]、[Cr]、[Si]、
[Mo]、及び[Al]は、質量%で表した各元素の含有量とする。
(2)更に、質量%で、Mo:0.05〜3.0%及びSn:0.05〜0.4%の1種又は2種を含有することを特徴とする上記(1)に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
(3)更に、質量%で、B:0.0001〜0.010%を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
(4)更に、質量%で、Co:0.05〜3.0%を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
(5)質量%で、Feの抽出残渣量が0.1%以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
(6)質量%で、
C:0.003〜0.03%、
Si:0.05〜1.0%、
Mn:0.05〜1.0%、
P:0.04%以下、
S:0.005%以下、
Ni:1.0%超、3.5%以下、
Cu:0.05〜1.5%、
Cr:16.0%以上、20.0%未満、
N:0.003〜0.03%及び
Al:0.001〜0.3%
を含有し、更にNb:0.05〜1.0%、Ti:0.01〜0.5%、及びV:0.03〜1.0%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、(a)式で表されるγ値が1.0〜30.0であることを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
γ=700[C]+800[N]+20[Ni]+10[Cu]+10[Mn]
−6[Cr]−9[Si]−9[Mo]−37[Al]+60 ------(a)
ここで、[C]、[N]、[Ni]、[Cu]、[Mn]、[Cr]、[Si]、
[Mo]、及び[Al]は、質量%で表した各元素の含有量とする。
(7)更に、質量%で、Mo:0.05〜3.0%及びSn:0.05〜0.4%の1種又は2種を含有することを特徴とする上記(6)に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
(8)更に、質量%で、B:0.0001〜0.010%を含有することを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
(9)更に、質量%で、Co:0.05〜3.0%を含有することを特徴とする上記(6)〜(8)のいずれかに記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
(10)質量%で、Feの抽出残渣量が0.1%以下であることを特徴とする上記(6)〜(9)のいずれかに記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
(11)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のステンレス鋼線材の製造方法であって、焼鈍工程において850〜1100℃で2〜300分保定し、5℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材の製造方法。
(12)上記(6)〜(10)のいずれかに記載のステンレス鋼線の製造方法であって、焼鈍工程において850〜1100℃で2〜300分保定し、5℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線の製造方法。
本発明によれば、耐食性、強度及び延性に優れ、かつ磁性を有するステンレス鋼を、製造性高く提供することができる。そして、本発明によれば、耐食性に優れた着磁性を有するねじ、金網等の高強度・高耐食部品を安価に得ることができる。
先ず、本発明の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の説明において、成分組成の%は、特に断りのない場合には、質量%のことを意味する。
また、本発明において、ステンレス鋼線材とは、伸線加工前の線状素材のことをいい、ステンレス鋼線とは、ステンレス鋼線材を伸線加工して得られた加工品のことをいう。本発明のステンレス鋼線材と、それから得られるステンレス鋼線とは、成分組成が共通するので、成分組成の限定理由は同じである。
C及びNは、鋼の強度を確保するため、それぞれ0.003%以上添加する。一方、C及びNは、Nb、Ti、及びVの少なくとも1種と結合して炭窒化物を形成するが、0.03%を超えて添加すると、Cr炭窒化物が生成して、耐食性及び延性が劣化する。そのため、上限を0.03%とする。好ましい範囲は、0.005〜0.02%以下である。
Siは、脱酸のため0.05%以上添加する。しかしながら、1.0%を超えて添加すると延性および製造性が劣化する。そのため、上限を1.0%に限定する。好ましい範囲は、0.1〜0.4%である。
Mnは、脱酸のため0.05%以上添加する。しかしながら、1.0%を超えて添加すると耐食性および冷間加工性が劣化する。そのため、上限を1.0%に限定する。好ましい範囲は、0.1〜0.5%である。
Pは不可避的に混入する元素であり、延性を劣化させるため、0.04%以下に限定する。好ましくは、0.025%以下である。なお、Pの含有量は低い程好ましいが、過剰な低減は精錬コストの上昇を招くため、0.001%以上とする。
Sは不可避的に混入する元素であり、延性または耐食性をも劣化させるため、0.005%以下に限定する。好ましくは、0.003%以下である。なお、Sの含有量は低い程好ましいが、過剰な低減は精錬コストの上昇を招くため、0.0001%以上とする。
Niは、耐食性を向上させるため、また、熱間域で微量にオーステナイト相を生成させて熱間製造性を向上させるとともに強度、延性を確保するため、1.0%を超えて添加する。しかしながら、3.5%を超えて添加すると強度が高くなり過ぎ、延性が劣化する。そのため、上限を3.5%に限定する。好ましい範囲は、1.5〜3.0%である。なお、本発明の熱間とは、鋼線材や鋼線の製造工程における熱間圧延工程、及び焼鈍工程等で高温状態にある間のことを意味し、その温度は850〜1100℃である。
Cuは、耐食性を向上せるため、また、熱間域で微量にオーステナイト相を生成させて熱間製造性を向上させるとともに強度、延性を確保するため、0.05%以上添加する。しかしながら、1.5%を超えて添加すると強度が高くなり過ぎ、延性が劣化する。そのため、上限を1.5%に限定する。好ましい範囲は、0.2〜1.2%である。
Crは、耐食性を確保するため16.0%以上添加するが、20.0%以上添加すると線材表面疵が多発し、熱間製造性が劣化する。そのため、上限を20.0%未満に限定する。好ましい範囲は17.0%〜19.5%である。
Alは、脱酸を行って製造性を確保すると共に、微細な窒化物(AlN)により微細フェライト粒を得て延性を確保するため、0.001%以上添加する。しかしながら、0.3%を超えて添加すると逆に延性が劣化する。そのため、上限を0.3%に限定する。好ましい範囲は、0.002%〜0.08%である。
Nb、Ti、及びVは、選択元素であり、炭化物を形成してCを固定することで、Cr炭化物の生成を抑制し、耐食性,靱性を向上させる。そのため、Nb:0.05%以上、Ti:0.01%以上、及びV:0.03%以上の1種又は2種以上を添加する。しかしながら、Ni、Ti、及びVのうち、いずれかが、Nb:1.0%超、Ti:0.5%超、及びV:1.0%超で添加されると、粗大炭化物が形成されるため逆に延性が劣化する。そのため、上限を、それぞれNb:1.0%、Ti:0.5%、及びV:1.0%に限定する。好ましい範囲は、それぞれ、Nb:0.2%〜0.6%、Ti:0.05〜0.3%、及びV:0.1〜0.7%である。
下記(a)式のγ値は、熱間域でのオーステナイト相の体積分率に寄与し、γ値が1.0未満では熱間域でオーステナイト相が生成せず、熱間疵が生成する。また、線材や鋼線の強度が低くなる。一方、γ値が30を超えると線材や鋼線の強度が高くなり過ぎ、延性が劣化する。そのため、γ値の範囲を1.0〜30.0に限定する。好ましい範囲は、3.0〜15.0である。
γ=700[C]+800[N]+20[Ni]+10[Cu]+10[Mn]
−6[Cr]−9[Si]−9[Mo]−37[Al]+60 ------(a)
ここで、[C]、[N]、[Ni]、[Cu]、[Mn]、[Cr]、[Si]、
[Mo]、及び[Al]は、質量%で表した各元素の含有量とする。
なお、不可避的不純物とは、スクラップやスラグから混入するごく微量な元素であり、例えば、0.003%以下のCa、Mg、Pb、及びBiである。
Mo及びSnは、耐食性を向上させる。したがって、必要に応じて、Mo:0.05%以上、及びSn:0.05%以上の1種又は2種を添加する。しかしながら、Mo及びSn添加量のいずれかが、Mo:3.0%超、Sn:0.4%超であると、延性が劣化する。好ましくは、Mo:0.1〜2.5%、Sn:0.1〜0.3%である。
Bは、粒界のP偏析を抑制し、延性を更に向上させるため、必要に応じて0.0001%以上添加する。しかしながら、0.010%を超えて添加すると粗大ボライドにより逆に延性および製造性が劣化する。そのため、上限を0.010%に限定する。好ましい範囲は、0.001〜0.008%である。
Coは、耐食性および延性を向上せるため、必要に応じて、0.05%以上添加する。しかしながら、3.0%を超えて添加すると強度が高くなり過ぎ、延性が劣化する。そのため、上限を3.0%に限定する。好ましい範囲は、0.2〜1.5%である。
本発明は、ラーフェス相の析出を抑制し、延性(全伸び、破断絞り)をさらに向上させることができる。ラーフェス相は延性(全伸び、破断絞り)に有害だからである。ラーフェス相の析出量は、後述する方法で測定できる鋼線材又は鋼線のFe抽出残渣量に対応する。Fe抽出残渣量が0.1%超であると延性が劣化する。そのため、鋼線のFeの抽出残渣量を0.1%以下に限定する。好ましくは、0.07%以下である。ラーフェス相は少ない程好ましく、後述する本発明のステンレス鋼線材及びステンレス鋼線の製造方法において、冷却速度が速い程ラーフェス相が減少する。焼鈍温度と冷却速度を本発明の範囲内で調整することで、0%にすることが可能である。
次に、本発明のステンレス鋼線材及びステンレス鋼線の製造方法について説明する。
本発明のステンレス鋼線材及びステンレス鋼線の製造工程は、焼鈍工程を除き、一般的に行われている工程を有する。例えば、ステンレス鋼線材の製造工程は、鋳造工程、熱間線材圧延工程、焼鈍工程、及び酸洗工程を有する。また、本発明のステンレス鋼線の製造工程は、該ステンレス鋼線材を伸線加工する工程、及び焼鈍工程を有する。
本発明においては、後述する焼鈍工程における熱処理条件と冷却条件を具備していればよく、必要に応じて各工程を何度か繰り返し行うことや、酸洗などの処理工程を付加してもよい。
本発明のステンレス鋼線材及びステンレス鋼線の焼鈍工程において、熱処理を850℃未満で実施すると、ラーフェス相が析出し、延性を劣化させるばかりか、熱処理時にオーステナイト相が析出しないため、強度が低く、また、耐食性に有効なNi及びCu濃度のリッチ相がマトリックスに微細分散させることができず、耐食性も劣化する。一方、1100℃を超える場合もオーステナイト相が析出しない。そのため、850℃〜1100℃で熱処理することが必要である。好ましい範囲は、900〜1050℃である。
上記熱処理の保定時間は2分未満では熱間圧延または伸線の加工歪みが残存し、延性が低下する。一方、300分を超えると結晶粒が粗大化し、製品加工時に肌荒れが発生する。そのため、2〜300分に限定する。好ましい範囲は、3〜100分である。
上記熱処理において、保定後の冷却速度は、5℃/s未満ではラーフェス相が析出して延性が劣化する。そのため、5℃/s以上に限定する。好ましくは10℃/s以上である。なお、冷却速度は速い程好ましいが、急冷方法として一般的な水冷を用いることが製造性を考慮すると好ましい。また、水冷は冷却速度を水の流量や水冷の手法(例えば、噴霧や水槽浸漬)により調整することが出来るが、工業的に実施可能な冷却速度の上限は500℃/sである。なお、500℃未満では元素の拡散が起こり難いことから、本冷却速度の温度範囲は保定温度(熱処理温度)から500℃までの温度区間における平均冷却速度とする。
これまで説明した組成成分、製造条件によって製造される本発明のステンレス鋼線材及びステンレス鋼線は、550〜800MPaの引張強さにおいて、全伸びで15%以上、破断絞りで60%以上という特性を発現する。そして、本発明のステンレス鋼線材及びステンレス鋼線は、金網やファスナー等、高強度と高延性が求められる製品に用いて特に好適である。
次に、本発明を実施例でさらに説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1に示す成分組成の鋼を、100kgの真空溶解炉で溶解し、φ180mmの鋳片に鋳造した。その鋳片をφ5.5mmまで熱間線材圧延を行い、1000℃で熱延を終了した。その後、1000℃で5分保定の連続焼鈍を施して、水冷(冷却速度:100℃/s)で室温まで冷却した。
Figure 0005653269
そして、酸洗を行い線材とした後、表面疵、Fe抽出残渣量、耐食性、機械的性質(引張強さ、全伸び、及び破断絞り)を調査した。その後、更に、φ3.85mmまで冷間伸線加工を施した後、1050℃(オーステナイト系ステンレス鋼線で実施される温度)でストランド焼鈍(光輝焼鈍,5分保定,冷却速度:30℃/s)を施し鋼線とした後、鋼線のFeの抽出残渣、耐食性、機械的性質(引張強さ、全伸び、及び破断絞り)を再度調査した。
製造性は、ステンレス鋼線材の表面疵で評価した。そして、線材の表面疵は、酸洗後の線材コイルを表面観察により調査した。深さ0.1mm以上の疵がない場合は表面疵の評価を良好とし、疵がある場合は表面疵の評価を不良とした。
Feの抽出残渣量(質量%)は、ストランド焼鈍後の鋼線の表層を#500研磨した3gの伸線試験材を非水溶液中(3%のマレイン酸+1%のテトラメチルアンモニウムクロイド+残部メタノール)で電解(100mV定電圧)して、マトリックスを溶解し、0.2μm穴径のフィルターでろ過して、Feの析出物であるラーフェス相を抽出した。そして、強酸にて抽出したラーフェス相を溶解し、通常の原子吸光法による化学分析にてFeの抽出残渣量を測定した。
耐食性は、ステンレス鋼線の平滑な表面に加え、実製品の隙間腐食も想定し、ステンレス鋼線を長さ100mmに切断後、表層を#500で研磨し、10本をシリコンゴムで結束を行って隙間部を作り、JIS Z 2371の塩水噴霧試験に従い、100時間噴霧試験を実施し、発銹するか否かで評価した。無発銹及び点錆レベルであれば耐食性を良好、流れ錆及び前面発銹の場合は耐食性を不良とした。
機械的性質は、JIS Z 2241の引張試験での引張強さと破断伸びにて評価した。破断伸びの標点間距離は50mmとした。
これらの評価結果を表2に示す。なお、表面疵(製造性)、耐食性については、良好を○、不良を×で示した。
Figure 0005653269
表2から明らかなように、本発明のステンレス鋼線材及びステンレス鋼線No.1〜20はいずれも、表面疵の評価が良好であった。また、Feの抽出残渣量が0.1%以下であることから、ラーフェス相の量は0.1%以下であった。さらに、耐食性も良好であった。そして、引張強さが550MPa以上であり、かつ全伸びが15%以上、破断絞りが60%以上であった。
これに対し、比較例No.21〜41は、成分組成が本発明の範囲から外れるため製造性、Feの抽出残渣量、耐食性、引張強さ、全伸び、及び破断絞りのうち、少なくとも1つが劣っていた。
次に、特性に及ぼす焼鈍条件(温度、保定時間、及び冷却速度)の影響を調査した。表1の本発明例Aの成分組成を有する線材圧延ままのステンレス鋼線材及びφ3.85mmのステンレス鋼線(伸線まま)を用いて調査した。これらのステンレス鋼線材及びステンレス鋼線について、焼鈍温度を700〜1200℃、保定時間を1〜400分、及び冷却速度(500℃までの平均冷却速度)を3〜500℃/sの範囲でそれぞれ変化させ、供試材を作製した。これらの供試材を、前述の方法で、鋼線のFeの抽出残渣量、耐食性、引張強さ、全伸び、及び破断絞りを評価した。評価結果を表3に示す。
Figure 0005653269
表3から明らかなように、焼鈍温度を850℃〜1100℃の範囲として、2〜300分の範囲で保定し、5℃/s以上の冷却速度で冷却した本発明例No.42〜57はいずれも、Feの抽出抽出残渣量、耐食性、引張強さ、全伸び、及び破断絞りに優れていた。
これに対し、焼鈍条件、保定時間、及び保定後の冷却速度の少なくともいずれかが本発明例から外れている比較例No.58〜67は、Feの抽出抽出残渣量、耐食性、引張強さ、全伸び、及び破断絞りのうち、少なくとも1つが劣っていた。
上述したように、本発明により、耐食性、強度及び延性に優れるフェライト系ステンレス鋼線材または鋼線を安価に製造でき、着磁性を有する金網、ねじ等の高強度・高耐食部品を安価に提供することができ、産業上極めて有用である。

Claims (12)

  1. 質量%で、
    C:0.003〜0.03%、
    Si:0.05〜1.0%、
    Mn:0.05〜1.0%、
    P:0.04%以下、
    S:0.005%以下、
    Ni:1.0%超、3.5%以下、
    Cu:0.05〜1.5%、
    Cr:16.0%以上、20.0%未満、
    N:0.003〜0.03%及び
    Al:0.001〜0.3%
    を含有し、更にNb:0.05〜1.0%、Ti:0.01〜0.5%、及びV:0.03〜1.0%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、(a)式で表されるγ値が1.0〜30.0であることを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
    γ=700[C]+800[N]+20[Ni]+10[Cu]+10[Mn]
    −6[Cr]−9[Si]−9[Mo]−37[Al]+60 ------(a)
    ここで、[C]、[N]、[Ni]、[Cu]、[Mn]、[Cr]、[Si]、
    [Mo]、及び[Al]は、質量%で表した各元素の含有量とする。
  2. 更に、質量%で、Mo:0.05〜3.0%及びSn:0.05〜0.4%の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
  3. 更に、質量%で、B:0.0001〜0.010%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
  4. 更に、質量%で、Co:0.05〜3.0%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
  5. 質量%で、Feの抽出残渣量が0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材。
  6. 質量%で、
    C:0.003〜0.03%、
    Si:0.05〜1.0%、
    Mn:0.05〜1.0%、
    P:0.04%以下、
    S:0.005%以下、
    Ni:1.0%超、3.5%以下、
    Cu:0.05〜1.5%、
    Cr:16.0%以上、20.0%未満、
    N:0.003〜0.03%及び
    Al:0.001〜0.3%
    を含有し、更にNb:0.05〜1.0%、Ti:0.01〜0.5%、及びV:0.03〜1.0%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、(a)式で表されるγ値が1.0〜30.0であることを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
    γ=700[C]+800[N]+20[Ni]+10[Cu]+10[Mn]
    −6[Cr]−9[Si]−9[Mo]−37[Al]+60 ------(a)
    ここで、[C]、[N]、[Ni]、[Cu]、[Mn]、[Cr]、[Si]、
    [Mo]、及び[Al]は、質量%で表した各元素の含有量とする。
  7. 更に、質量%で、Mo:0.05〜3.0%及びSn:0.05〜0.4%の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項6に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
  8. 更に、質量%で、B:0.0001〜0.010%を含有することを特徴とする請求項6又は7に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
  9. 更に、質量%で、Co:0.05〜3.0%を含有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
  10. 質量%で、Feの抽出残渣量が0.1%以下であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線。
  11. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のステンレス鋼線材の製造方法であって、焼鈍工程において850〜1100℃で2〜300分保定し、5℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線材の製造方法。
  12. 請求項6〜10のいずれか1項に記載のステンレス鋼線の製造方法であって、焼鈍工程において850〜1100℃で2〜300分保定し、5℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする耐食性、強度、及び延性に優れるステンレス鋼線の製造方法。
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