JP6562500B2 - 表面処理アルミニウム材とその製造方法 - Google Patents
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このような真空装置用材料としては、従来から主としてステンレス材が用いられてきたが、ステンレス鋼製の真空装置は、重量が重く土台に大掛かりな工事が必要であり、またステンレスは熱伝導性が十分でなく作動時のベーキングに時間が係るという課題があった。さらに、ステンレス鋼の成分であるクロム(以下、Crと示す。)などの重金属が、何らかの要因でプロセス中に放出されて汚染源となるおそれもあった。そこで、ステンレス鋼よりも軽量で、熱伝導性に優れると同時に重金属汚染のおそれのないAl又はAl合金製の真空装置の開発が活発化している。
さらに、CVD装置などの真空装置内部には、反応ガスやエッチングガスとして塩素やフッ素などのハロゲン元素を含む腐食性のガスが導入されることから、腐食性ガスに対する耐食性が要求されている。また、熱プラズマCVD装置などの場合には、このような腐食性のガスに加えてハロゲン系のプラズマも発生するので、プラズマに対する耐食性(耐プラズマ性)も重要となる。
この特許文献4で開示された従来の発明によって作製された表面処理アルミニウム材の陽極酸化皮膜層及び水和アルミナ皮膜層の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図10に示す。
すなわち、上述の従来の技術においては、アウトガスの抑制と耐食性、耐摩耗性の向上の両方を満足することができないという課題があった。
上記構成の表面処理アルミニウム材においては、陽極酸化皮膜層の上に緻密な水和アルミナ皮膜層を形成し構造算術平均粗さをRa=10nm以下とすることで、処理表面積を減少させるように作用し、特にアウトガスの抑制能力とエッチング耐性を高めるように作用する。
上記構成の表面処理アルミニウム材においては、陽極酸化皮膜層の上に緻密で2μm以上20μm以下という膜厚の水和アルミナ皮膜層を形成する構造とすることで、陽極酸化皮膜層に形成される複数の微細孔を水和アルミナ皮膜層で封孔しながら耐摩耗性を発揮し、真空装置内に導入される腐食性の塩素ガスやプラズマが陽極酸化皮膜層やアルミニウム基材を腐食するのをより確実に抑制するという作用を有するとともに、水和アルミナ皮膜層自身の強度を向上させ耐久性を持たせるという作用を有する。
さらに、半導体デバイスのエッチング装置内において、エッチング耐性を強化して汚染物質の発生を抑制するように作用する。
上記構成の表面処理アルミニウム材の製造方法においては、電解液の溶存アルミニウム濃度を0−5g/リットルと低濃度にすることで電解液の活性度を高めるという作用を有する。また、電解液の温度を低温の0−20℃とすることで、陽極表面に形成される陽極酸化皮膜層の成分である酸化アルミニウムAl2O3に対する電解液の溶解度を下げ、酸化アルミニウムが電解液中に溶出するのを抑制するという作用を有する。さらに、電解液にシュウ酸等の酸を含有させることで電解液の液性を酸性にするという作用を有する。
また、封孔処理工程における加熱蒸気又は高温水の温度上昇は、100℃までの到達時間を20分以上かけて上昇温度の速度をコントロールすることにより、蓄積されていた大量のアルミニウムイオンを溶出させることなく、厚膜化するように作用する。また、結晶化が始まると考えられる80℃から100℃までの上昇時間を5分以上かけるように温度制御することで表面の結晶化が抑制され、水和アルミナ皮膜層の表面を平滑化するように作用する。
図1は本発明の実施の形態に係る表面処理アルミニウム材の概念図である。図1において、本実施の形態における表面処理アルミニウム材1は、素地となるアルミニウムあるいはアルミニウム合金からなるアルミニウム基材2と、陽極酸化皮膜層3と、水和アルミナ皮膜層4の3層で構成され、図8に示す従来の表面処理アルミニウム材13の陽極酸化皮膜層15の上にさらに緻密かつ硬度の高い水和アルミナ皮膜層4を形成させたものである。陽極酸化皮膜層3及び水和アルミナ皮膜層4の形成工程については後述する。
しかも、本願出願人によって過去に開発された表面処理アルミニウム材(図10参照)よりも極めて厚膜であり、しかも、平滑性に優れている。従って、CVD装置やPVD装置及び特に半導体デバイス製造用のエッチング装置内で、励起したハロゲンガスによる装置内壁のダメージや劣化、汚染物質の発生によるウェーハの汚染を抑制して純度を高めることができる。
従って、処理1の表面処理アルミニウム材における水和アルミナ皮膜層4の表面積が処理6よりも明らかに大きくなることが予想され、また、水和アルミナ皮膜層4表面の算術平均粗さ(Ra)も処理1の方が明らかに大きくなることが予想される。
図2に示されるように一見して従来技術と本実施の形態に係る表面処理アルミニウム材の相違は明らかであるが、これらの表面処理アルミニウム材の断面形態や表面形態の詳細な特性については、実施例を参照しながら後述する。
図3は本発明の実施の形態に係る表面処理アルミニウム材製造方法の工程を示すフローチャートである。
図3において、ステップS1及びステップS2はそれぞれ陽極酸化処理工程及び封孔処理工程を示す。これらの各工程については図1及び図4を用いて説明する。
陽極酸化処理を行う場合には、図4に示すように、10−50g/リットルのシュウ酸等の酸及び溶存濃度0−5g/リットルのアルミニウムイオンを含んだ酸性の電解液7を電解槽6に入れ、引掛け9を介してこの電解槽6に陽極となるワーク8、すなわち、図1のアルミニウム基材2に相当するアルミニウムあるいはアルミニウム合金と、陰極12を浸して100−150Vの直流電圧をワーク8及び陰極12に通電する。符号10は電源装置である。なお、電解液7には、シュウ酸の他、リンゴ酸、メロン酸、マロン酸、硫酸、りん酸又は酒石酸などアルミニウムの陽極酸化処理に通常用いられる酸であればよい。また、1つの酸を単独で使用してもよいし、混合酸の状態で使用してもよい。
電解槽6中では電流の向き11の方向へ電流が流れるので、アルミニウム基材2であるワーク8からアルミニウムイオンがワーク8表面上に発生する。加えて、水の電気分解により陽極、つまり、ワーク8及び陰極12からそれぞれ酸素及び水素が発生するため、ワーク8の表面ではアルミニウムイオンが発生した酸素によって酸化され複数の微細孔を有した酸化アルミニウムの膜をワーク8、すなわち、アルミニウム基材2上に形成する。これが陽極酸化皮膜層である。なお、本発明の表面処理アルミニウム材の製造方法の陽極酸化処理工程の電解液条件は、本願出願人が開発して既に特許文献4に開示された電解液条件と同一である。
このステップS1の作用効果については、特許文献4に既に開示したとおりであるが、再度説明すると以下のとおりである。
そして、電解液7の温度を下げることによって、酸化アルミニウム膜の表面での反応活性を抑制している。但し、電解液7の温度の低下による反応活性の抑制効果は酸化アルミニウム膜内部では弱いため、酸化アルミニウムの皮膜の微細孔5の内壁面は従前に比べ活性化され、後の封孔処理工程において形成される緻密な水和アルミナ皮膜層4の素となるアルミニウムイオンあるいは有機アルミニウムイオンが微細孔5内に充満することになるのである。
すなわち、通常以上の大きさの電圧を電極に印加することで電流を通常よりも多く流してジュール熱を増加させ、ワーク8のアルミニウムの活性を電気的及び熱的にも高めて、ワーク8上のアルミニウムイオンがより大量に電解液7中へと溶出可能な状態をつくっておくのである。また、このアルミニウムイオンは、酸化アルミニウム皮膜の微細孔5内にも充満されることになるのは上述のとおりである。
通常よりも5℃から30℃程度液温を低く維持することで、電解液7の溶解度を下げることに加えて、発生するジュール熱を除去してワーク8表面を冷却する効果を有している。ワーク8表面での反応活性を抑制すると共に、ワーク8から電解液7へアルミニウムイオンが溶出すると同時にワーク8表面上で形成される酸化アルミニウムの皮膜が、電解液7に再び溶解することを防止するのである。
封孔処理は、これを施すことによって陽極酸化皮膜の成分である酸化アルミニウムの一部が水分を吸収してベーマイト(Al2O3・H2O)やバイヤライト(Al2O3・3H2O)からなる水和物へと変化し、さらに、これらが膨張して陽極酸化皮膜層3の微細孔5を封孔し表面処理アルミニウム材の耐食性と耐磨耗性を向上させるものである。
本実施の形態では、まず、ステップS2−1では高温水あるいは加圧蒸気の初期温度設定として60℃以下の温水としている。
これは特許文献4に開示されている発明のように陽極酸化処理を施したワークであっても、封孔処理時に適切な温度管理を行わなければ水和アルミナ皮膜層4が成長しないことによるものである。
具体的には、特許文献4に開示されている方法であっても、水和アルミナ皮膜層4の中は、針状結晶同士が緻密に埋まっており、それにより膜を形成しているが、封孔処理時の温度を低温時から徐々に制御しないことによれば、急激な加熱により大量のアルミイオン付近の水分が急激に蒸発してしまう。この水分の急激な蒸発は、アルミニウムイオンの濃度が不均一のまま結晶化させることになり、それが針状の結晶の成長を促してしまい、結果的に結晶の表面積を大きくしてしまう。さらに、水和アルミナ皮膜層4の膜厚はせいぜい1μm程度しか成長できず、均一に陽極酸化皮膜層3を覆うことができないため、また、前述のとおり針状の結晶であることによる表面積の拡大と相まって、アウトガスの発生を抑制できていなかった。
その後に、徐々に昇温させるがその上昇温度の速度も制御する。具体的には図3のステップS2−2に示すとおり、100℃までの昇温時間を20分以上かける昇温制御工程を備えており、さらに、ステップS2−3で示すとおり80℃から100℃で5分以上の定温制御工程を設けている。この80℃から100℃での5分以上の定温処理とは、80℃から100℃のいずれかの温度で昇温を停止し、その温度で一定に保ちながら5分間以上維持する処理を意味している。
そして、ステップS2−4に示すとおり、初期温度制御工程から昇温制御工程、定温制御工程を併せた全体の暴露処理としては、30分間以上処理を行うというものである。
このようにステップS2の封孔処理工程で初期温度のコントロール及び上昇温度の速度をコントロールすることにより、蓄積されていた大量のアルミニウムイオンを溶出させることもなく、厚膜化することができる。なお、このような初期温度制御工程、昇温制御工程及び定温制御工程を併せることで膜の緻密化も可能であるので、厚膜化に対する応力発生の緩和にも寄与していると考えられる。
また、結晶化が始まると考えられる80℃から100℃までの昇温に5分間以上かけるように温度制御することにより表面の結晶化が抑制され、水和アルミナ皮膜層4の表面の平滑化が可能となるのである。
なお、封孔処理に用いられる超純水の温水は、高温状態あっては沸騰水でもよいし、加熱蒸気であってもよい。さらに、加圧蒸気は、飽和水蒸気であってもよいし、未飽和の水蒸気であってもよい。
比較の目的で、同一の材料及び寸法を備えた試料を用いながら、同一の電解液条件で陽極酸化処理工程を終了した後、本発明による封孔処理と特許文献4の技術による封孔処理を行い、それぞれ得られた表面処理アルミニウム材を用いて比較検討を行った。
その後、封孔処理工程では、表2に示されるとおり試料番号1乃至4については特許文献4に開示される従来の封孔処理方法を採用し、試料番号5乃至7については本発明の封孔処理方法を採用して行った。
なお、本実施例では試料としてアルミニウム合金を用いたが。アルミニウムであっても同様の陽極酸化処理と封孔処理が可能である。
図2については既に説明したとおりである。
封孔処理を従来処理とした処理1(図5(a))では、表面粗さがRa=17.43nmであり、一方、本発明における封孔処理を施した処理6(図5(b))では表面粗さがRa=7.84nmとなっているので大幅(半分以下)に平滑性が向上していることがわかる。さらに、本発明における封孔処理に加えて研磨処理を施した場合(図5(c))には表面粗さがRa=2.12nmとなっており、研磨処理によってナノオーダーで表面が平滑化されることが確認された。
このような研磨処理は、一般的なバフ研磨やスラリー研磨による処理であり、これらを施すには2μm程度の膜厚が必要であり、本実施の形態に係る表面処理アルミニウム材ではその膜厚が十分であることから、研磨処理を施すことができた。
図6より、(a)の処理1では水和アルミナ皮膜層が0.5μm以上ではあるものの1μm以下であり、針状の結晶が確認できるが、(b)の処理6、(c)の処理7では、針状の結晶が発見できず、厚膜化していることが確認できる。
図7から水和アルミナ皮膜層が厚膜化するためには、封孔処理開始の温度から100℃までの昇温速度を時間を20分以上長くとりつつ、しかも100℃での定温処理に5分以上時間をかけていることが重要であることが確認できる。すなわち、図3における封孔処理条件としてのステップS2−1,S2−2,S2−3,S2−4それぞれが水和アルミナ皮膜層の厚膜化には関わっていることが理解できる。
表3は、JISH8633−2:2013に準拠したりん酸-クロム酸水溶液浸せき試験の結果から、本実施の形態に係る表面処理アルミニウム材製造方法の封孔処理工程を施した表面処理アルミニウム材についての耐食性能を示すものである。試験では、表面処理アルミニウム材の試料から適当な大きさの試験片を切出し、吊り下げ用の孔を開けたものを試験に用いた。
表3に示すりん酸−クロム酸による試料の質量減少量は反応ガスやエッチングガスとして真空装置内に導入される腐食性のガスに腐食されるアルミニウムイオンの量を示すものであり、各試料のアルミニウム基材表面に形成される皮膜の酸に対する腐食性が大きいと高濃度のアルミニウムイオンがりん酸−クロム酸溶液中に溶解する。つまり、りん酸−クロム酸溶液中へのアルミニウム溶解量が大きくなる。反対に皮膜の腐食性が小さいとりん酸−クロム酸溶液中へのアルミニウム溶解量は小さくなる。従って、表3の酸溶液中へのアルミニウム溶解量を見ると、JIS規格によると皮膜溶解量が30mg/dm2以下ならよいとのことであるが、本実施の形態に係る表面処理アルミニウム材製造方法の封孔処理工程を施した表面処理アルミニウム材の単位面積当たりの質量減がほぼ0であり非常に良好であった。すなわち、本発明によって製造された表面処理アルミニウム材は耐食性が特に優れていることがわかる。
表4に封孔処理を従来処理とした処理1、本実施の形態に係る封孔処理を施した処理5及び処理6によって製造された表面処理アルミニウム材について、耐プラズマ性及びガス放出特性を測定した結果を示す。
これらの評価に用いた試料は全て表3の耐食性の評価に用いたものと同様のものである。
表4に示す耐プラズマ性はプラズマCVD装置を用いて、エッチングガスはCF4(2.0×10−2Pa)、投入電力は50Wでエッチング時間60分としてエッチング深さとマスキングした箇所の高低差を表面粗さ形状測定機で評価したものであり、高さの差が少ないものほどCF4ガス(フッ化炭素ガス)で腐食されておらず耐プラズマ性が大きいと言える。
表4から、従来処理よりも本発明の方が高さの差が小さい。従って、耐プラズマ性においても本発明によって製造された表面処理アルミニウム材の方が優れていることが理解できる。
表4から、従来処理の試料と比較し、本発明の試料では窒素と思われるガスが減少し、さらに厚膜化した処理6では最小の値を示した。
Claims (3)
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、このアルミニウム基材表面上に形成される陽極酸化皮膜層と、この陽極酸化皮膜層上に形成される水和アルミナ皮膜層とを有し、前記陽極酸化皮膜層の内部に形成される微細孔は前記水和アルミナ皮膜層で封孔され、前記陽極酸化皮膜層上に形成される水和アルミナ皮膜層の膜厚が2μm以上20μm以下であることを特徴とする表面処理アルミニウム材。
- 前記水和アルミナ皮膜層の表面の算術平均粗さがRa=10nm以下であることを特徴とする請求項1記載の表面処理アルミニウム材。
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材を電解液に浸漬して通電する陽極酸化処理工程と、前記アルミニウム基材を加熱蒸気又は95℃以上の高温水を用いて封孔する封孔処理工程とを有する表面処理アルミニウム材製造方法であって、前記電解液の溶存アルミニウム濃度は0−5g/リットルであり、前記電解液の温度は0−20℃であり、前記電解液はシュウ酸、リンゴ酸、メロン酸、マロン酸、硫酸、りん酸又は酒石酸のいずれか1の酸又はこれらの混合酸を10−50g/リットル含有し、前記封孔処理工程における加熱蒸気又は高温水の温度上昇は、100℃までの到達時間を20分以上かつ80℃から100℃までの上昇時間を5分以上に管理されることを特徴とする表面処理アルミニウム材製造方法。
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