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JP6347506B2 - 油性菓子の製造方法 - Google Patents

油性菓子の製造方法 Download PDF

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JP6347506B2
JP6347506B2 JP2014040079A JP2014040079A JP6347506B2 JP 6347506 B2 JP6347506 B2 JP 6347506B2 JP 2014040079 A JP2014040079 A JP 2014040079A JP 2014040079 A JP2014040079 A JP 2014040079A JP 6347506 B2 JP6347506 B2 JP 6347506B2
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Description

本発明は、耐熱性を有する油性菓子の製造方法に関する。
油性菓子は、カカオ豆由来原料(カカオマス、ココアパウダー、ココアバターなど)、砂糖などの糖類、生乳を原料とする粉末食品(全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、乳糖など)、植物油脂(ココアバター代用油脂など)、およびレシチンなどの乳化剤、香料等を配合して製造される。また、油性菓子は、構造上、カカオマス固形分や糖類、生乳を原料とする粉末食品などの固体粒子が、油脂中に分散した状態を呈している。
油性菓子は、味や香りが良いこと以外に、滑らかな口溶けを有しているため、嗜好品としての価値が高い。この滑らかな口溶けは、油性菓子に配合される油脂の融解性に依存している。例えば、ココアバターは油性菓子に配合される代表的な油脂の1つであるが、前記油脂の融点は32℃前後であり、人の体温付近で急速に融け始め、32〜35℃では完全に融解し、滑らかな口溶けを有する油性菓子を製造するために適している。
一方、ココアバターや同様の性質を持つ油脂を配合した油性菓子は、35℃を超えるような日や、40℃を超える地域では簡単に融解してしまう。その結果、油性菓子の形が崩れたり、融解して手や衣服等に付着し、商品価値が無くなる課題があった。さらに、一度融解した油性菓子は、テンパリングせずに冷やし固めると、表面が白くなり、口溶けが悪くなるファットブルームを生じる課題があった。
上記のような課題を解決するために、世界中で多くの耐熱油性菓子が開発されてきた。代表的なものに、ココアバターに代わる油脂として、融点34〜42℃といった高融点の各種油脂が開発されたが、口中で完全に融解しないため、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われ、嗜好性が低下していた。
また、油性菓子の総油分が40〜50重量%といった高油分の油性菓子や、乳脂を多く含む油性菓子では、一般的な油性菓子よりも耐熱性がないことが課題であった。
そこで、耐熱性を向上させるために、一般的な油性菓子の総油分(30〜35重量%)を下回る量まで総油分を減らすことが試みられたが、油性菓子の粘度上昇や、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われ、嗜好性が低下していた。
さらに、油性菓子生地を成形後、湿度の高い環境下に数週間保管して吸湿させたり、直接水をスプレーして耐熱性を向上させる方法も開発されたが、いずれも表層のみが硬化し、油性菓子の中心部まで耐熱性を付与することはできなかった。また、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われると共に、長期間の保管が必須であった。
特許文献1には、成形時に非結晶状態の油脂が30%以上含まれる流動性を有する油性菓子生地に、液状アルコール或いはアルコール溶液を油性菓子生地の2〜15%添加し、均一に混合し、成形することを特徴とする油性菓子の製造方法が記載されている。
しかし、一般的な油性菓子の成形は、油性菓子生地を、流動性を有したままデポジッター等の成形機で流し込み成形するが、特許文献1の成形は、油性菓子生地に液状アルコールを加え、粘度を上昇させることで、形状が保てる程硬く変質させて油性菓子生地を押し出して成形している。
また、一般的に油性菓子生地に水分の多い液状アルコール或いは大量のアルコール溶液を加えると、著しく増粘してダマができ、砂のようにざらついた状態になるなど、油性菓子特有の滑らかな口溶けを維持することはできなかった。
特許文献2には、油性菓子生地の製造工程中の原材料を混合する工程で、生乳を原料とする粉末食品(全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、乳糖など)を含む油性菓子原料に、最終チョコレート様食品に対する水分が0.9〜2.7重量%となるように含水食品(酒類を含む)を加え、一定温度で数時間コンチングすることで非結晶乳糖の一部を結晶化させて製造した油性菓子生地が記載されている。
しかし、一般的に、原材料のコンチング時に酒類を混合すると、高温長時間のコンチングおよび後工程のレファイニングによって、酒類に含まれるエタノールは揮発してしまう。また、特許文献2は、15.0%以上の水分を含む素材を原材料として使用することが好ましいとされ、酒類中の水分を必須成分としており、エタノール成分についての記載はない。
また、特許文献2には、全乳糖に対する非結晶乳糖の割合が100重量%である油性菓子生地が記載されているが、エタノールを加えることにより、油性菓子の耐熱性に与える影響についての開示はない。
特許文献3には、50.1℃に加温した油性菓子生地に、96%濃度のエタノール溶液を16.3重量%添加した後、混合し、40℃に加温した型に入れて成形した油性菓子を、40℃で3日間加温し、エタノールを蒸発させた耐熱油性菓子が記載されている。
また、油性菓子生地に96%濃度のエタノール溶液を9重量%添加した後、成形し、50℃で5日間加温し、エタノールを蒸発させた耐熱油性菓子も記載されている。
しかし、前記耐熱油性菓子を製造したところ、多量のエタノール溶液を油性菓子生地に均一に混合させるため、撹拌時間が伸び、流動性のあった油性菓子生地は、エアレーションチョコレート様の流動性のない油性菓子生地となってしまった。このため、型に流し込むような成形方法は、機械で行うことはできなかった。また、エタノールを蒸発させた油性菓子は、噛むとほろほろと崩壊し、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われてしまった。
さらに、高濃度のエタノールを多量に添加するため、エタノールを蒸発させる高温保管工程を省略すると、エタノールの刺激で舌が痺れ、油性菓子として食することができなかった。
特許文献3には、実施形態として油性菓子生地410gにエタノールを60g、40gまたは20g添加(油性菓子生地中に含まれるエタノール含有率としては、12.8重量%、8.9重量%、4.7重量%)できることが記載されている。
しかし、いずれの添加量であっても、油性菓子生地は増粘し、成形後の油性菓子の食感は噛むとほろほろと崩壊し、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われてしまった。
特開昭57−186443号公報 WO2011/125644 WO2011/010105
本発明は、高温条件下で保管・流通しても、形が崩れたり、融解して手や衣服等に付着したりせずに食することができ、油性菓子本来の滑らかな口溶けを失うことなく、耐熱性を有する油性菓子の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、アモルファス糖を含有した油性菓子生地に、エタノール溶液を均一に混合し、ただちに成形、固化させた後、一定期間保管することによって、油脂の融点を超える40℃での耐熱性があり、油性菓子本来の滑らかな口溶けを失うことなく、耐熱性を有する油性菓子の製造が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、
(1)アモルファス糖を5〜40重量%含有した油性菓子生地を、28〜36℃に保ち、エタノール溶液を添加し均一に混合し、ただちに成形し、冷却固化させ、得られた油性菓子の40℃での強度が150〜700gfになるよう、温度5〜23℃、湿度20〜60%RHの大気雰囲気下に1日以上保管することを特徴とする油性菓子の製造方法。
(2)前記油性菓子生地のSFC(固体脂含量)が、15℃で55〜90%、25℃で35〜80%、35℃で0〜15%であることを特徴とする、前記(1)に記載の油性菓子の製造方法。
(3)前記エタノール溶液が、95.0〜99.8容量%エタノールであることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の油性菓子の製造方法。
(4)前記成形工程において、成形直後の油性菓子に含まれるエタノール含有量が、0.9〜4.0重量%であることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の油性菓子の製造方法。
(5)前記保管工程において、保管日数が、1〜5日であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の油性菓子の製造方法。
(6)a)アモルファス糖を5〜40重量%含有し、かつSFCが、15℃で55〜90%、25℃で35〜80%、35℃で0〜15%である油性菓子生地を、
b)28〜36℃に保ち、
c)95.0〜99.8容量%エタノール溶液を添加して均一に混合し、
d)ただちに成形し、冷却固化させた、
e)成形直後のエタノール含有量が、0.9〜4.0重量%である油性菓子を、
f)包装し、
g)前記油性菓子の40℃での強度が、150〜700gfとなるよう、
温度5〜23℃、湿度20〜60%RHの大気雰囲気下に1〜5日間保管することを特徴とする油性菓子の製造方法、に関するものである。
本発明により、高温条件下で保管・流通しても、形が崩れたり、融解して手や衣服等に付着したりせずに食することができ、油性菓子本来の滑らかな口溶けを失うことなく、耐熱性を有する油性菓子を得ることができる。
本発明を実施するための形態を以下詳細に説明する。
本発明における耐熱油性菓子とは、40℃で保管・流通しても、保形性があり、融解して手や衣服等に付着したりせずに食することができ、油性菓子本来の口溶けを失わない、油性菓子のことをいう。
本発明における耐熱性は、強度、保形性、可搬性、付着性の4項目を基に評価した。さらに、耐熱油性菓子として受け入れられる品質かどうか、耐熱性評価と口溶けの評価を合わせ、総合的に評価した。なお、耐熱油性菓子としての総合的な品質評価のことを、以下、総合評価という。
耐熱油性菓子の総合評価は、油性菓子生地をおよそ5gの直方体(短辺20mm、長辺38mm、厚さ7mm、以下、測定サンプルという)に成形して冷却固化し、一定期間保管した後、40℃の恒温器で2時間加温し、ただちに行った。
1)強度の測定方法および評価基準
強度とは、以下の方法で測定した油性菓子の最大応力のことを指す。本実施形態の測定方法は、測定機器にFUDOHレオメーターRTC-3010D-CWを用い、進入速度を2cm/分に設定し、直径3mmの円筒状のプランジャーが、測定サンプルに3mm進入するまでの数値(測定単位はgf)で表した。
本発明の耐熱油性菓子の強度は、150〜700gf必要であり、好ましくは200〜650gf、より好ましくは250〜600gfである。150gf未満である場合は、可搬性がなく好ましくない。また、700gfを上回る場合は、保形性、可搬性はともにあり、付着性もないが、食感がボソボソしたり、クッキー様のサクサクとしたものとなり、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われて好ましくない。
2)保形性の評価方法および評価基準
測定サンプルの形状が保持されているか、加温前後の形状を写真で比較し、評価した。評価は2回行い、1回目の評価(以降、静置評価という)は、加温前の形状と、40℃2時間加温した後の形状を比較し、評価した。2回目の評価(以降、移動後の評価という)は、加温前の形状と、可搬性の評価後の形状を比較し、移動により測定サンプルが変形したか否か評価した。
評価はAまたはBで示し、Aは、静置評価で変形がなく、移動後の評価でも変形がないものとした。Bは、静置評価または移動後の評価のいずれか、または両方で、目視で確認できる1mm以上の変形があったものとした。
本発明の保形性は、前記Aの基準を満たすことが好ましい。
3)可搬性の評価方法および評価基準
測定サンプルを親指と人差し指で挟むように持ち、喫食行動に相当する50cm以上移動して評価した。
評価はA〜Cで示し、Aは保形性を保ち、かつ測定サンプル全量を50cm以上移動できた場合、Bは測定サンプル全量を25cm以上移動できた場合、Cは測定サンプル全量を25cm移動できなかった場合とした。
本発明の可搬性は、前記AまたはBの基準を満たすことが好ましい。
4)付着性の評価方法および評価基準
測定サンプルに人差し指を3秒間押し当て、押し当てた指をただちに白紙に押し当て、前記白紙に付着した油脂や着色の有無を評価した。
評価はAまたはBで示し、Aは白紙に油脂の付着や着色がない場合、Bは白紙に油脂の付着または着色がある場合とした。
本発明の付着性は、前記Aの基準を満たすことが好ましい。
5)耐熱性の評価基準
前記1)〜4)の評価を基に、耐熱性を評価した。評価はA〜Cで示し、AまたはBは耐熱性あり、Cは耐熱性なしとした。
A:強度250gf以上700gf以下、保形性A、可搬性A、付着性Aを満たす場合
B:強度150gf以上250gf未満、かつ可搬性AまたはBを満たす場合
C:AまたはBに該当しないものすべて
6)口溶けの評価方法および評価基準
測定サンプルを喫食し、油性菓子本来の滑らかな口溶けを有しているか官能評価により評価した。
評価はAまたはBで示し、Aは滑らかな口溶けを有する場合、Bはざらつき、カリカリとした食感になるなど、滑らかな口溶けを有しない場合とした。
本発明の口溶けは、前記Aの基準を満たすことが好ましい。
7)耐熱油性菓子としての総合的な品質評価の評価基準
前記5)、6)の評価を総合し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。なお、評価はA〜Cで示し、AまたはBは耐熱油性菓子としての品質と認められるものであり、Cは耐熱油性菓子としての品質であると受け入れられないものとした。
A:耐熱性A、口溶けAである場合
B:耐熱性B、口溶けAである場合
C:耐熱性C、口溶けBいずれか1つに該当する場合
本発明でいう油性菓子とは、日本国公正取引委員会認定のルールであるチョコレート類の表示に関する公正競争規約でいうチョコレート、準チョコレート、チョコレート製品に限定されるものでなく、前記ルールに該当しないテンパータイプ、ノンテンパータイプのファットクリーム等、あらゆる種類の油性菓子を用いることができる。本発明の指すチョコレートとは、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートなど、いずれのチョコレートでもよい。
本発明では、前記油性菓子に必要によりカカオ豆由来原料(カカオマス、ココアパウダー、ココアバター等)、糖類、生乳を原料とする粉末食品、油脂原料、乳化剤、香料等を加えることもできる。
さらに、これらに果物や野菜等を粉末化したもの、豆類(アーモンド、ヘーゼルナッツ、ゴマ等)、穀類(米、麦等)、ドライフルーツ(レーズン、オレンジ等)、焼成菓子(クッキー、ビスケット等)などの可食物を組み合わせることもできる。
本実施形態の油性菓子は、上記原料を混合した後、レファイニング(微細化)工程、コンチング工程、必要に応じてテンパリング工程、成形工程、耐熱性を付与するための保管工程を経て製造される。
本実施形態において、油性菓子に用いる油脂原料とは例えば、ショートニング、バター、マーガリン、ラード、菜種油、大豆油、コーン油、オリーブオイル、パーム油、落花生油、米油、綿実油、ヒマワリ油、シア脂、ベニバナ油、ヤシ油、パーム核油、ゴマ油、粉末油、ココアバター、ココアバター代用脂等が挙げられる。上記原料を1種で用いてもよいし、2種以上を使用してもよい。
本発明の油性菓子は滑らかな口溶けを特徴としているが、口溶けは油性菓子に含まれる油脂によって決められる。また、口溶けは、官能評価以外に油脂の固体脂含量(SFC)を測定することによって評価することができる。SFCは、パルスNMRを用いて測定することができ、所定の温度における全油脂中の固体脂の比率を百分率で表したものである。
口溶けのよい油性菓子は、低温で固体であり、口中に入れると急激に融解しはじめ、体温付近の温度で完全に融解することが望ましい。つまり、油性菓子生地中に含まれる油脂のSFCが、15℃で55〜90%、25℃で35〜80%、35℃で0〜15%であることが好ましい。
本発明におけるアモルファス糖は、非晶質の糖を指す。アモルファス糖としては、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、乳糖などの糖類を、噴霧乾燥法や凍結乾燥法などの既知の方法によりアモルファス化して用いることができる。
本発明においてアモルファス糖には、骨格形成力が高く、入手が容易でかつ常温流通可能なアモルファス乳糖が好ましい。また、一般的なショ糖や乳糖は結晶糖であるが、アモルファス乳糖は、生乳を原料とする粉末食品、例えば、アモルファス乳糖そのもの、あるいは全粉乳や脱脂粉乳、ホエイパウダー等にも含まれている。
なお、アモルファスショ糖は吸湿が激しく、噴霧乾燥法で製造することは困難であり、凍結乾燥法で製造すると高価なため多量に添加することは難しい。また、アモルファスオリゴ糖は、エタノール溶液の添加による骨格形成が起こらないため、好ましくない。
アモルファス糖は、結晶化した状態と比較して不安定な状態にあり、流通・保管中に吸湿などにより結晶化し、固結することが知られている。そのため、全粉乳やホエイパウダー等を噴霧乾燥する際、固結防止策として、乳糖の一部を結晶化させる場合がある。
よって、油性菓子を製造する前に、配合する生乳を原料とする粉末食品中の乳糖のアモルファス化度を測定することが好ましい。
なお、アモルファス乳糖の含有量は、生乳を原料とする粉末食品中の結晶乳糖の割合を測定し、前記食品中の全乳糖から結晶乳糖の量を引いて求めることができる。
乳糖中のアモルファス乳糖を定量する方法として、例えばX線回折測定法がある。X線回折測定法では、結晶質成分から生じるピーク強度と非晶質成分から生じるハローの強度比から定量分析を行うことができる。また、熱刺激電流測定では非晶質成分のガラス転移に伴う脱分極スペクトルから、低濃度の非晶質成分の分析ができる。
本実施形態では、X線回折測定方法を用いた。具体的には、粉体をサンプルセルにセットし、下記の装置、および条件にて測定を行った。測定後の解析は、装置に付属の解析ソフトを用い、得られたX線回折プロファイルから多重ピーク分離を行い、さらに下記計算式を用いて結晶化度を算出した。
X線回折装置:RINT Ultima III((株)リガク製)
管球:銅管球
計測時間:0.5秒/0.02°
走査角度:2θ/θ=5°〜40°
計算式:結晶化度(%)=100×結晶性ピークの面積/(結晶性ピークの面積+非晶質ピークの面積)
計算式:アモルファス化度(%)=100−結晶化度(%)
本発明において、生乳を原料とする粉末食品中の乳糖は、アモルファス化していることが好ましい。アモルファス乳糖は、油性菓子生地中に好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%含有されていることが好ましい。
なお、アモルファス乳糖の含有量が5重量%を下回る場合、耐熱性を得るために必要なエタノール溶液の添加量が増加する。エタノール溶液の添加量が一定量を超えると、油性菓子生地が増粘して成形が困難になる上に、本発明の特徴とする口溶けの良さは失われてしまう。また、前記アモルファス乳糖の含有量が40重量%を上回る場合、エタノール溶液の添加により耐熱性は得られるが、硬い外殻をもった油性菓子が形成され、食感が硬く、口溶けが悪く好ましくない。
本発明の油性菓子生地の粘度は、BH型粘度計を用いて測定した。測定条件は、スピンドルNo.4、回転数は12rpmとした。測定温度は、油性菓子生地を55℃の湯煎で融解し、テンパリングしない場合は40℃に、テンパリングした場合は30℃とした。
一般的に成形は、デポジッター等を用いて、油性菓子生地を型に流し込む方法で行われる。そのため、油性菓子生地には流動性があることが好ましく、テンパリング後の30℃での粘度は、10000〜80000cPが好ましく、15000〜60000cPがより好ましく、20000〜40000cPがさらに好ましい。
また、油性菓子生地の粘度が80000cPを超えると、油性菓子生地がデポジッターのノズルに詰まる、もしくは型の隅まで油性菓子生地が入らない、気泡が入るなど外観不良が生じて好ましくない。
本発明で使用されるエタノール溶液には、食用エタノールが用いられる。エタノール溶液中のエタノール濃度は、95.0〜99.8容量%であることが好ましく、より好ましくは96.0〜99.8容量%、さらに好ましくは97.0〜99.8容量%であり、最も好ましくは98.0〜99.8容量%である。
また、油性菓子生地に添加されるエタノール溶液が、エタノール濃度95.0容量%を下回る場合、エタノール溶液中に存在する微量な水の影響により、油性菓子生地の粘度が上昇し、成形が困難となる。同様に、油性菓子生地にブランデーなどの洋酒を添加した場合、多くの洋酒はアルコール濃度が低く、洋酒中に存在する水の影響により油性菓子生地の増粘やダマを形成し、口溶けが悪く好ましくない。さらに、油性菓子に必要のない洋酒の風味が付与されるなど好ましくない。
本発明において、エタノール溶液は、油性菓子生地の粘度が80000cPを上回らない量、添加されることが好ましい。
一般的なスイートチョコレート(カカオマス50.0重量%、砂糖37.0重量%、ココアバター12.5重量%、乳化剤0.5重量%)であれば、99.5容量%のエタノールを16重量%加えると100000cPとなり好ましくない。
一般的なミルクチョコレート(砂糖42.0重量%、カカオマス20.0重量%、全粉乳20.0重量%、ココアバター17.5重量%、乳化剤0.5重量%)であれば、99.5容量%のエタノールを4重量%加えると90000cPとなり好ましくない。
すなわち、油性菓子生地の種類により、エタノール溶液を添加した場合の粘度が異なることから、添加量は適宜調整されることが好ましい。
一般的に、油性菓子生地に水を添加すると激しく増粘することが知られている。さらに水を添加することで、油性菓子生地に含まれる糖類が水に溶解し、骨格を形成し、耐熱性が向上することも知られている。
しかし、水に油性菓子生地中の成分(砂糖、生乳を原料とする粉末食品、等)が溶解して、これら成分が再結晶化すると、比較的大きい糖骨格ができ、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われてしまう。
また、従来技術に耐熱性があると記載されていても、油性菓子表面部分しか耐熱性がないもの、保形性があるように見えても、手で触れると形が崩れたり、融解して手や衣服等に付着するものもあった。
一方、エタノールは水と比較して油性菓子生地に混合しても粘度が上昇しにくく、生地中に均一に混合することができる。また、エタノールは油性菓子生地中の成分を溶解し難いため、構造上、均一に微細な糖骨格をつくることができ、滑らかな口溶けを維持することができる。さらに、油性菓子生地全体に骨格が形成されることから、強度が増し、高温条件下で保管・流通しても、形が崩れたり、融解して手や衣服等に付着したりせずに食することができる。
油性菓子生地へのエタノール溶液の添加は、成形直前に行われることが好ましい。特に成形直前にエタノール溶液を添加することで、エタノールの揮発を防ぎ、成形時に一定のエタノール含有量を保つことができる。
なお、30℃付近に保たれた油性菓子生地に、冷暗所で保管された10℃のエタノール溶液を添加すると、油性菓子生地の温度は急激に下がり、粘度が上昇することがある。このため、エタノール溶液は密封容器で20〜35℃程度に加温し、油性菓子生地に添加されることが好ましい。
エタノールは揮発しやすく、油性菓子生地に添加した直後から揮発が始まる。そのため、油性菓子生地にエタノールを均一に混合する際は、エタノールを添加した油性菓子生地を解放状態で長時間撹拌したり、成形せずに保管することは好ましくない。
エタノールが揮発しないよう撹拌時間を短くする、揮発しにくい容器内で混合する、または、ただちに成形することが好ましい。
なお、パンコーティングなど長時間にわたり油性菓子生地を成形する場合は、複数回に分けてエタノールを添加することが好ましい。
本発明において、エタノール溶液を添加した油性菓子生地は、ただちに成形され冷却固化されることが好ましい。ただちにとは、4時間以内であることが好ましく、2時間以内であることがさらに好ましく、1時間以内であることが最も好ましい。なお、揮発しにくい容器内で油性菓子生地を保管するなど、エタノールが揮発しない条件であれば、この時間に限定されるものではない。
本発明において、成形直後の油性菓子生地に含まれるエタノール量は、油性菓子生地に対し、0.9〜4.0重量%であることが好ましく、0.9〜3.5重量%であることがさらに好ましく、0.9〜2.2重量%であることが最も好ましい。
さらに、油性菓子生地に含まれるエタノール溶液量が0.9重量%を下回ると、本願の定義する耐熱性は得ることができない。一方、エタノール溶液を油性菓子生地中に過剰に添加し、成形直後の油性菓子生地中に含まれるエタノール溶液量が4.0重量%を超えると、耐熱性は得られるが、硬い外殻をもった油性菓子が形成され、食感が硬く、口溶けが悪く好ましくない。また、高濃度のエタノールを添加するため、エタノール臭くなり好ましくない。
ただし、エタノールの添加量は、油性菓子の組成に合わせて調整する必要がある。
本実施形態において、油性菓子に含まれるエタノール量は、紫外部吸光度測定法を用いて測定した。測定は、油性菓子を融解し、蒸留水で100倍希釈し、研究用試薬F-キット エタノール(株式会社J.K.インターナショナル製)を用い、下記の条件で行った。
波長:340nm
光路長:1cm
測定温度:20℃
油性菓子生地にエタノール溶液を混合し、成形、冷却して得られた油性菓子は、耐熱性を向上させる目的で、保管工程が必要である。保管温度は、油性菓子が融解しない23℃以下の温度で行われるが、5〜23℃であることが好ましく、13〜20℃であることがより好ましい。
また、耐熱性を向上させるためには、成形直後の油性菓子中に一定量のエタノールが維持されていることが必要であり、エタノールの揮発を促進するような40℃や50℃、またはそれ以上の温度での保管は好ましくない。
本発明において湿度とは、RH(相対湿度)を指す。保管湿度は、20〜60%RHが好ましく、60%RHより高い環境下で保管を続けると、油性菓子の口溶けを悪化させてしまう。
前記保管工程は、40℃2時間加温した油性菓子の強度が150gfを超えるまでの期間行う。エタノールによる糖骨格は保管日数が長くなるにつれて強固になるが、例えば23℃5日保管を超えると、骨格形成はゆるやかになる。また、5日を超えて保管してもよいが、2週間を超えると生産性が悪くなるため、保管日数は短い方が好ましい。すなわち、1〜5日間で耐熱性を獲得させることが好ましい。
なお、一般的に油性菓子は5〜23℃で保管されるが、本発明はアモルファス糖とエタノール添加による骨格形成のために行われる保管であり、製品出荷前の一時的な保管や、油性菓子のブルームを抑制するための保管、油性菓子にブルームが発生しないか確認する保管とは異なるものである。
保管中はエタノールの揮発を防ぐために油性菓子を包装することが好ましいが、一度耐熱性を獲得した後には、油性菓子中のエタノールを揮発させても構わない。揮発は解放状態で保管を続けてもよいし、油性菓子の香りが飛ばない程度に脱気してもよいし、包装材の中にシリカゲルを入れてもよい。
本発明の耐熱油性菓子は、一般的な板チョコレートの他に粒状チョコレート、釜掛け(パンコーティング)チョコ、センタークリーム入りチョコレート、豆類入りチョコレート、糖衣掛けチョコレート、チョコレートバー、クッキーやスナック等の焼き菓子と組み合わせたチョコスナック等としても利用できる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に記載がない場合、成形は、およそ5gの直方体(短辺20mm、長辺38mm、厚さ7mm)の型を用いて行った。
本実施形態で使用する砂糖および乳糖は、一般流通品であるアモルファス化度0%のものを使用した。
また、生乳を原料とする粉末食品中の乳糖量は、炭水化物量に99.8%を掛けた数値とした(朝倉書店出版『ミルク総合事典』第3刷(1998年)より)。生乳を原料とする粉末食品中の炭水化物量は、いわゆる差し引き法(水分、たんぱく質、脂質及び灰分の合計を100から差し引いた値)により算出した。
生乳を原料とする粉末食品中のアモルファス化度は、X線回折測定方法により測定した。以下に、本実施例で使用した生乳を原料とする粉末食品中の乳糖量およびアモルファス化度を示した。
アモルファスショ糖は吸湿が激しく保管が困難なため、水溶液中に砂糖と脱脂濃縮乳を溶解し、噴霧乾燥法により製造した。
脱脂濃縮乳を40%加えて製造したものをアモルファスショ糖60、脱脂濃縮乳を20%加えて製造したものをアモルファスショ糖80とした。
〔糖類〕
・砂糖:アモルファス化度0%((株)明治フードマテリア製)
・アモルファスショ糖60(アモルファスショ糖60%、脱脂濃縮乳40%の混合物、乳 糖含有量20.6%):アモルファス化度100%
・アモルファスショ糖80(アモルファスショ糖80%、脱脂濃縮乳20%の混合物、乳 糖含有量10.3%):アモルファス化度100%
アモルファス乳糖は、水溶液中に乳糖を溶解し、噴霧乾燥法により製造した。
〔生乳を原料とする粉末食品〕
・乳糖(乳糖99.8重量%):アモルファス化度0%
・アモルファス乳糖(乳糖含有量99.8重量%):アモルファス化度100%
・ホエイパウダーA(乳糖含有量75.5重量%):アモルファス化度18%((株)明 治製)
・ホエイパウダーB(乳糖含有量76.9重量%):アモルファス化度100%(森永乳 業(株)製)
・脱脂粉乳(乳糖含有量51.5重量%):アモルファス化度100%((株)明治製)
・全粉乳(乳糖含有量38.1重量%):アモルファス化度100%((株)明治製)
本実施例で使用されるエタノール溶液の比重は0.8とした。また、油性菓子生地には、24℃に加温されたエタノール溶液を添加した。
本発明における耐熱性は、強度、保形性、可搬性、付着性の4項目を基に評価した。また、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、耐熱性評価と口溶けの評価を合わせ、総合的に評価した。
〔強度〕
(0028)段落に記載の最大応力の数値を、gfで表した。
〔保形性〕
A:静置評価で変形がなく、移動後の評価でも変形がない
B:静置評価または移動後の評価のいずれか、または両方で、目視で確認できる1mm以上の変形がある
〔可搬性〕
A:保形性を保ち、かつ測定サンプル全量を50cm以上移動できる
B:測定サンプル全量を25cm以上移動できる
C:測定サンプル全量を25cm移動できない
〔付着性〕
A:白紙に油脂の付着や着色がない
B:白紙に油脂の付着または着色がある
〔耐熱性〕
A:強度250gf以上700gf以下、保形性A、可搬性A、付着性Aを満たす場合
B:強度150gf以上250gf未満、かつ可搬性AまたはBを満たす場合
C:AまたはBに該当しないものすべて
〔口溶け〕
A:口溶けが良い(滑らかな口溶け)
B:口溶けが悪い(ざらつき、カリカリとした食感あり)
〔総合評価〕
A:耐熱性A、口溶けAである場合
B:耐熱性B、口溶けAである場合
C:耐熱性C、口溶けBいずれか1つに該当する場合
<試験例1〜6>
〔アモルファス乳糖量と耐熱性の関係〕
生乳を原料とする粉末食品を植物油脂と混合し、レファイナーを用いて微細化した後、エタノールを添加して成形、冷却固化させた油脂混合物を、包装し、20℃湿度40%RHで1日保管し、40℃2時間加温した後ただちに耐熱性を評価した。結果は表1に示した。
試験例1
結晶乳糖を配合した油脂混合物は、エタノールを添加しても耐熱性が向上しなかった。
試験例2
アモルファス乳糖を70g配合した油脂混合物は、エタノールの添加によって耐熱性が向上したが、強度が700gfを上回り、組織が硬化してしまった。
試験例3、4、6
アモルファス乳糖含有量が多い程、エタノールの添加によって耐熱性が向上した。
試験例5
アモルファス乳糖含有量の低いホエイパウダーAを配合した油脂混合物は、成形後20℃湿度40%RHで1日保管した条件では、耐熱性の基準は満たさなかった。
<比較例1、2>
〔一般的な油性菓子の耐熱性検証〕
スイートチョコレート(カカオマス50.0g、砂糖37.0g、ココアバター12.5g、乳化剤0.5g)とミルクチョコレート(砂糖42.0g、カカオマス20.0g、全粉乳20.0g、ココアバター17.5g、乳化剤0.5g)をそれぞれ55℃の湯煎で融解し、テンパリング後に成形、冷却固化させ、包装し、20℃で1日保管した。前記チョコレートは、40℃ではなく、各温度帯で2時間加温した後ただちに耐熱性および口溶けを評価した。
恒温器の温度は、28.0、30.0、30.2、30.5、31.0、31.5、32.0℃とし、成形品は1度のみ使用し、温度を変える度に新しい成形品を用いた。結果は表2に示した。
<比較例1,2>
比較例1、2に記載のチョコレートは、いずれも30.5℃までしか耐熱性がなかった。
<比較例3〜7、実施例1〜4>
〔水またはエタノールの添加による粘度、耐熱性の変化〕
ミルクチョコレート(砂糖42.0g、カカオマス20.0g、アモルファス乳糖含有量が8%である全粉乳20.0g、ココアバター17.5g、乳化剤0.5g)300gを55℃の湯煎で融解し、テンパリング後(生地温度30℃)、水または99.5容量%エタノールを添加し、均一に混合した。
エタノールを添加したミルクチョコレート生地のうち、50gはただちに成形、冷却固化させ、包装し、20℃湿度50%RHで1日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。なお、前記ミルクチョコレート生地の粘度が90000cPを上回った群は、流し込み成形ができなかったことから、ヘラで型に生地を押し込み、成形した。
エタノールを添加したミルクチョコレート生地のうち、250gは30℃での粘度を測定した。評価結果は表3に示した。
比較例4、5
いずれの例も、水の添加により、チョコレート生地は激しく増粘し、流し込み成形することができなかった。また、比較例5は、ざらつきが生じ、滑らかな口溶けが失われてしまった。
比較例6、7
エタノールの添加による著しい粘度上昇はみられなかったが、エタノール添加量が0.8gでは、耐熱性は向上しなかった。また、エタノールを1.6g添加した場合、保管日数が1日では、強度は増したが、耐熱性の基準は満たさなかった。
実施例1〜3
エタノール添加量が2.4gを超えると、強度が250gfを超え、保形性および可搬性があり、付着性もなかった。また、エタノールを添加しても、ざらつきは生じず、滑らかな口溶けを有していた。
実施例4
エタノール添加量が4.8gを超えると、粘度が著しく上昇したが、強度が250gfを超え、保形性および可搬性があり、付着性もなかった。また、エタノールを添加しても、ざらつきは生じず、滑らかな口溶けを有していた。しかし、エタノール臭が強く風味が悪かった。
<比較例8〜10、実施例5>
〔アモルファス乳糖に対するエタノール添加量の検討〕
スイートチョコレート(カカオマス40.0g、砂糖45.0g、ココアバター14.5g、乳化剤0.5g)100gを55℃の湯煎で融解し、アモルファス乳糖を添加した。前記アモルファス乳糖は、前記スイートチョコレート生地100gに対し、それぞれ0、5、10、20g添加し、均一に混合した。前記チョコレート生地をテンパリングした後(生地温度32℃)、99.5容量%エタノールを2.4g添加し、均一に混合し、成形、冷却固化後、包装し、20℃湿度60%RHで1日保管した。前記油性菓子を40℃で2時間加温し、耐熱性を評価し果は表4に示した。
比較例8、9
アモルファス乳糖含有量が5.0重量%を下回ると、エタノールを添加しても強度が150gfを上回らなかった。
実施例5
強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
比較例10
強度が700gfを上回り、保形性および可搬性はあり、付着性はなかったが、食感がボソボソする、クッキー様の食感となるなど、口溶けが悪かった。
<比較例11、12、実施例6、7>
〔総油脂量42重量%の油性菓子を用いた保管日数の検討〕
スイートチョコレート(カカオマス40.0g、アモルファス乳糖40.0g、ココアバター19.5g、乳化剤0.5g)100gを55℃で融解し、テンパリング後(生地温度30℃)、99.5容量%エタノールをそれぞれ0、0.8、1.6、2.4g添加し、均一に混合した後、ただちに成形し、冷却固化させた。成形して得られた油性菓子を包装し、20℃湿度20%RHで3、90日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。表5に結果を記した。
比較例11
アモルファス乳糖含有量が40重量%であっても、エタノールを添加しないと耐熱性は向上しなかった。
比較例12
アモルファス乳糖含有量が40重量%であっても、エタノール添加量が0.8gを下回ると、耐熱性は向上しなかった。
実施例6
成形後3日保管しても強度は90gfであったが、成形後90日保管すると、強度が150gfを超え、耐熱性の基準を満たした。保管日数が伸びる程、耐熱性が向上するが、90日保管では生産性が悪かった。
実施例7
成形後3日保管することで耐熱性が得られ、成形後90日保管することで、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
総油脂量40%を超える油性菓子に対しても、アモルファス乳糖およびエタノールの添加が耐熱性を向上させた。
<比較例13〜17、実施例8〜11>
〔総油脂量35重量%の油性菓子を用いた保管日数の検討〕
スイートチョコレート(カカオマス45.0g、砂糖45.0g、ココアバター9.5g、乳化剤0.5g)中に含まれる砂糖を、一部アモルファス乳糖に代替した3種類のスイートチョコレートを製造した。砂糖からアモルファス乳糖への代替は、10、20、30gとした。
前記スイートチョコレート100gを55℃で融解し、テンパリング後(生地温度30℃)、99.5容量%エタノールをそれぞれ0.8、1.6、2.4g添加し、均一に混合した後、ただちに成形し、冷却固化させた。成形して得られた油性菓子を包装し、20℃湿度20%RHで1、2、5日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。表6に99.5容量%エタノールを0.8g添加した結果を、同様に表7に1.6g、表8に2.4g添加した結果を記した。
比較例13〜15
砂糖をアモルファス乳糖10、20、30gに代替したスイートチョコレートに、エタノールを0.8g添加した群は、成形後5日保管しても、耐熱性は向上しなかった。
比較例16
砂糖10gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを1.6g添加した場合、保管日数が1日、2日、5日と伸びる程、強度は増したが、耐熱性の基準は満たさなかった。
実施例8
砂糖20gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを1.6g添加した場合、成形後2日保管することで耐熱性が得られ、成形後5日保管することで、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
実施例9
砂糖30gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを1.6g添加した場合、成形後2日以上保管することで、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
実施例10
砂糖10gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを2.4g添加した場合、成形後1日以上保管することで耐熱性が得られ、成形後5日保管すると、強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、口溶けは滑らかだった。
実施例11
砂糖20gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを2.4g添加した場合、成形後1日保管することで強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、口溶けは滑らかだった。しかし、成形後2日以上保管すると強度が700gfを上回り、チョコレートの食感が硬くなり、滑らかさが失われてしまった。
比較例17
砂糖30gをアモルファス乳糖に代替したスイートチョコレートに、エタノールを2.4g添加した場合、成形後1日以上保管すると、強度が700gfを上回り、チョコレートの食感が硬くなり、滑らかさが失われてしまった。そして、900gfを超えた場合、カリカリとした食感となっていた。
<比較例18、実施例12、13>
〔成形時に必要なエタノール量の検討〕
ミルクチョコレート(砂糖42.0g、カカオマス20.0g、アモルファス乳糖を8g含有した全粉乳20.0g、ココアバター17.5g、乳化剤0.5g)300gを55℃の湯煎で融解し、32℃に温度調節し、BOB脂(1,3-dibehenoyl-2-oleoyl glycerolのβ2型結晶)を用いてテンパリングした後、99.5容量%エタノールを2.4g添加して混合した。前記混合は、ミキサーを用いて200回転/分で行い、1、3、5分間撹拌した直後に成形し、冷却固化させた。成形後の油性菓子は包装し、23℃湿度30%RHで3日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。評価結果は表9に記した。
比較例18、実施例12、13
チョコレート生地中にエタノールを均一に分散するには撹拌が欠かせないが、撹拌時間が増えるとエタノールが揮発して減少し、耐熱性が低下した。すべての例でエタノールは2.4g添加していたが、成形直後のエタノール含有量を測定すると、撹拌時間5分でエタノール含有量は0.5gまで減少し、耐熱性を付与することができなかった。
本発明では成形時に一定のエタノールが存在していることが必要であり、エタノール添加後はエタノールが揮発しないよう短時間で混合する、または揮発しにくい容器内で混合することが必要とされる。さらに、エタノールが均一に分散した直後にただちに成形される必要がある。
<比較例19>
〔特許文献3との比較〕
特許文献3に記載のミルクチョコレート(砂糖50.4重量%、ココアバター代用脂27.3重量%、脱塩ホエイ13.9重量%、ココアバター6.6重量%、カカオマス1.0重量%、乳化剤0.5重量%、バニリン0.2重量%)102.5gを50℃に加温した、96%容量エタノール溶液を16.3重量%添加した後、均一に混合し、40℃に加温した型に入れて成形した油性菓子を、40℃で3日保管した後、さらに40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。評価結果は表10に記した。
比較例17
エタノールを19.5重量%添加することから、均一に混合するための撹拌時間が伸び、滑らかなチョコレートが、空気を抱き込み流動性のないホイップ状となった。また、流動性がないため、デポジッターを用いた成形はできず、型に押し込むように成形した。
40℃3日保管後のチョコレートは、ほろほろと崩壊するような食感となり、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われていた。
また、ホイップ状のチョコレートは組織が脆く、強度の測定値が、1回目110gf、2回目330gf、3回目170gfと測定誤差が大きくなった。
同様に、油性菓子生地中に含まれるエタノール含有率を、19.5重量%、12.8重量%、8.9重量%、4.7重量%としたミルクチョコレートを、20℃湿度30%RHで3日保管した。
その結果、エタノール添加量が多いために、滑らかなチョコレートが、空気を抱き込み流動性のないホイップ状となり、ほろほろと崩壊するような食感となり、油性菓子本来の滑らかな口溶けが失われていた。さらに、20℃保管ではエタノールが揮発しないため、エタノール臭が強く風味が悪かった。
<実施例14、比較例20、21>
〔アモルファスショ糖の効果検証〕
ミルクチョコレート(砂糖またはアモルファスショ糖、脱脂粉乳、カカオマス、ココアバター、乳化剤、配合は表10参照)100gにエタノールを2.4g添加し、テンパリング後(生地温度30℃)、99.5容量%エタノールを2.4g添加し、均一に混合した後、ただちに成形し、冷却固化させた。成形して得られた油性菓子を包装し、20℃湿度30%RHで5日保管した後、40℃2時間加温し、耐熱油性菓子として好ましい品質かどうか、総合的に評価した。表11に結果を記した。
実施例14
強度が250gfを上回り、保形性および可搬性があり、付着性もなく、さらに口溶けは滑らかだった。
比較例20、21
実施例12の砂糖をアモルファスショ糖に置き換えたところ、実施例12と比較して強度が著しく増加した。しかし、アモルファス乳糖と比べ、大きな糖骨格が形成され、ガリガリとした食感となり好ましくなかった。

Claims (5)

  1. アモルファス糖を5〜40重量%含有した油性菓子生地を、28〜36℃に保ち、エタノール溶液を添加し均一に混合し、ただちに成形し、冷却固化させ、得られた油性菓子の40℃での強度が150〜700gfになるよう、温度5〜23℃、湿度20〜60%RHの大気雰囲気下に1日以上保管することを特徴とする油性菓子の製造方法であって、成形直後の油性菓子に含まれるエタノール含有量が0.9〜4.0重量%であることを特徴とする、油性菓子の製造方法
  2. 前記油性菓子生地のSFC(固体脂含量)が、15℃で55〜90%、25℃で35〜80%、35℃で0〜15%であることを特徴とする、請求項1に記載の油性菓子の製造方法。
  3. 前記エタノール溶液が、95.0〜99.8容量%エタノールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の油性菓子の製造方法。
  4. 前記保管工程において、保管日数が、1〜5日であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の油性菓子の製造方法。
  5. a)アモルファス糖を5〜40重量%含有し、かつSFCが、15℃で55〜90%、25℃で35〜80%、35℃で0〜15%である油性菓子生地を、
    b)28〜36℃に保ち、
    c)95.0〜99.8容量%エタノール溶液を添加して均一に混合し、
    d)ただちに成形し、冷却固化させた、
    e)成形直後のエタノール含有量が、0.9〜4.0重量%である油性菓子を、
    f)包装し、
    g)前記油性菓子の40℃での強度が、150〜700gfとなるよう、
    温度5〜23℃、湿度20〜60%RHの大気雰囲気下に1〜5日間保管することを特徴とする油性菓子の製造方法。
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