以下に、本発明にかかるモータ制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
実施の形態1にかかるモータ制御装置1の概略構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1は、実施の形態1にかかるモータ制御装置の一構成例を示す図である。図2は、座標軸の定義を示す図である。図3は、変数名の定義を示す図である。
以下の説明に使用する座標軸では、図2に示すように、d軸がロータの磁束軸(N極側が+方向)であり、q軸がd軸と直交する軸であり、θeが電気角で表したロータの推定位置(U軸を基準とした推定角度)であり、ωeが電気角で表したロータの推定角速度であるものとする。また、z軸はd軸とq軸との双方に直交する仮想軸であるものとする。また、以下の説明に使用する主な変数名を図3に示す。
図1に示すように、実施の形態1にかかるモータ制御装置1は、駆動部10、電流検出部50、位相/角速度検出部20、及び電圧指令生成部30を備える。
電動機Mには、U,V,W相の各相の巻線が巻回され、各相の巻線に交流電圧が印加される。駆動部10は、電気角で120°ずつ位相がずれた交流電圧を各相の巻線に供給することにより、電動機Mを駆動する。駆動部10の内部構成は、後述する。
電流検出部50は、少なくとも2相の電流の振幅を検出(ピックアップ)する。具体的には、電流検出部50は、電流センサ51、及び電流センサ52を含む。電流センサ51は、U相の電流iUの振幅を検出し位相/角速度検出部20へ供給する。電流センサ52は、W相の電流iWの振幅を検出し位相/角速度検出部20へ供給する。電流センサ51、及び電流センサ52は、それぞれ、電流値をAD変換してデジタルコンピュータで制御可能な信号として位相/角速度検出部20へ供給しても良い。なお、電流検出部50は、例えば、CTであってもよいし、シャント抵抗を用いる等、他の電流検出手段であってもよい。
位相/角速度検出部20は、検出されたU相電流iu、W相電流iwと、iu,iwから算出されるV相電流ivとを電流検出部50から受け、電流ベクトル(iu,iv,iw)に応じて、推定位置θe及び推定角速度ωmを求める。
具体的には、位相/角速度検出部20は、3相−2相変換器(u,v,w/d−q)21、軸誤差演算処理部22、PLL制御器23、及び変換器25、及び積分器61を含む。
3相−2相変換器(u,v,w/d−q)21は、U相電流iuの振幅の検出値を電流センサ51から受け、W相電流iwの振幅の検出値を電流センサ52から受け、V相電流ivを他の相の電流から算出し、推定位置θeを積分器61から受け、例えば、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iu,iv,iw)を回転座標系(d−q座標系)における電流ベクトル(Id,Iq)へ変換する。回転座標系(d−q座標系)は、互いに交差するd軸とq軸とを有する。
なお、電流ベクトル(Id,Iq)における各成分は、検出された電流ベクトル(iu,iv,iw)から変換されたものなので、検出値と見做すことができる。以下では、単にd軸電流Id、q軸電流Iqと呼ぶことにする。
3相−2相変換器21は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを電圧指令生成部30及び軸誤差演算処理部22へ出力する。
軸誤差演算処理部22は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを3相−2相変換器21から受け、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を電圧指令生成部30から受け、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に応じて、ロータの実際の位置と推定位置とのズレである軸誤差Δθを求め、PLL制御器23へ出力する。
なお、ロータの回転位置は、以下では、センサレス方式で推定する場合について例示的に説明しているが、例えば、センサ(エンコーダ)による検出値を受けて認識する場合については、「推定角速度」を「実角速度」と読み替えれば、以下の説明をそのまま適用できる。
PLL制御器23は、軸誤差Δθに応じて、直前に推定した推定角速度ωeを修正し、積分器61及び変換器25へ出力する。
積分器61は、推定角速度ωeを積分することにより、固定座標系(UVW座標系)における推定位置θeを算出し、駆動部10及び電圧指令生成部30へそれぞれ出力する。
変換器25は、固定座標系(UVW座標系)における推定角速度ωeを極対数Pn(Pnをモータ極対数とする)で割る(極対数の逆数1/Pnをかける)ことにより、機械角で表したロータの推定角速度ωmを求め、電圧指令生成部30へ出力する。
電圧指令生成部30は、d軸電流Id、q軸電流Iq、推定位置θe、及び推定角速度ωmを位相/角速度検出部20から受け、d軸電流指令値Id0*及び角速度指令ωm*を外部(例えば、図示しない上位のコントローラ)から受け、d軸電流Id、q軸電流Iq、推定位置θe、推定角速度ωm、及び角速度指令ωm*に応じて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成して駆動部10及び位相/角速度検出部20へ出力する。なお、電圧指令生成部30の詳細は、後述する。
駆動部10は、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を電圧指令生成部30から受け、推定位置θeを位相/角速度検出部20から受け、電動機Mを駆動するための直流電圧Vdcを外部(例えば、図示しない上位のコントローラ)から受け、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*、推定位置θe、及び直流電圧Vdcに応じて、3相の交流電圧をU相、V相、W相の各相の巻線を介して電動機Mへ供給することにより、電動機Mを駆動する。
具体的には、駆動部10は、2相−3相変換器(d−q/u,v,w)11、PWM変調器12及びインテリジェントパワーモジュール(IPM)13を有する。
2相−3相変換器(d−q/u,v,w)11は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令Vq*、すなわち回転座標系(d−q座標系)における電圧指令ベクトル(Vd*,Vq*)を電圧指令生成部30から受け、推定位置θeを積分器61から受け、例えば、推定位置θeに応じて、回転座標系(d−q座標系)における電圧指令ベクトル(Vd*,Vq*)を固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(Vu*,Vv*,Vw*)へ変換する。
PWM変調器12は、固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(Vu*,Vv*,Vw*)、すなわちU相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*を2相−3相変換器11から受け、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*をPWM信号に変換してインテリジェントパワーモジュール13へ供給する。これにより、PWM変調器12は、インテリジェントパワーモジュール13を介して外部から供給される電圧(直流電圧Vdc)を3相交流電圧に変換して電動機Mを駆動する。
インテリジェントパワーモジュール13は、例えば図示しない複数のスイッチング素子を有し、PWM信号をPWM変調器12から受け、PWM信号に従って複数のスイッチング素子を所定のタイミングでスイッチング動作させることで電力変換動作を行い、生成された3相の交流電圧を電動機Mへ供給することにより、電動機Mを駆動する。
電圧指令生成部30は、減算器32、速度制御器33、q軸電流補正値演算処理部100、減算器35、減算器45、d軸電流制御器36、q軸電流制御器46、非干渉化制御器41、減算器37、加算器47、及び加算器43を備える。
減算器32は、角速度指令ωm*を外部から受け、推定角速度ωmを演算部20から受け、角速度指令ωm*から推定角速度ωmを減算し、減算結果を角速度差分Δωmとして速度制御器33及びq軸電流補正値演算処理部100へ出力する。
速度制御器33は、例えば、積分器及び比例器を有し、角速度差分Δωmに応じて、積分器及び比例器を用いてq軸電流指令値Iq0*を生成する。
q軸電流補正値演算処理部100は、角速度差分Δωmを減算器32から受け、推定位置θeを位相/角速度検出部20から受け、角速度差分Δωmからq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)を算出し、加算器43へ出力する。このq軸電流補正値演算処理部100の詳細な構成及び動作については後述する。
加算器43は、q軸電流指令値Iq0*を速度制御器33から受け、q軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)をq軸電流補正値演算処理部100から受け、q軸電流指令値Iq0*とq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)とを加算し、その加算結果をq軸電流指令補正値Iq*として減算器45へ出力する。
減算器35は、d軸電流指令値Id0*を外部から受け、d軸電流検出値Idを位置/速度検出部20から受け、d軸電流指令値Id0*からd軸電流検出値Idを減算し、その減算結果をd軸電流制御器36へ出力する。
減算器45は、q軸電流指令補正値Iq*を加算器43から受け、q軸電流検出値Iqを位置/速度検出部20から受け、q軸電流指令補正値Iq*からq軸電流検出値Iqを減算し、その減算結果をq軸電流制御器46へ出力する。
d軸電流制御器36は、例えば、積分器及び比例器を有し、減算器35からの出力に応じて、積分器及び比例器を用いてd軸電圧指令値Vd**を生成する。
q軸電流制御器46は、例えば、積分器及び比例器を有し、減算器45からの出力に応じて、積分器及び比例器を用いてq軸電圧指令値Vq**を生成する。
非干渉化制御器41は、q軸電圧指令値Vq**とd軸電圧指令値Vd**とを非干渉化する。具体的には、非干渉化制御器41は、d軸電流検出値Idを位相/角速度検出部20から受け、推定角速度ωeを位相/角速度検出部20から受け、d軸電流検出値Idに応じて、q軸電圧指令値Vq**を非干渉化するための非干渉化補正値Vqaを求め、非干渉化補正値Vqaを加算器47へ出力する。また、非干渉化制御器41は、q軸電流検出値Iqを位相/角速度検出部20から受け、推定角速度ωeを位相/角速度検出部20から受け、q軸電流検出値Iqに応じて、d軸電圧指令値Vd**を非干渉化するための非干渉化補正値Vdaを求め、非干渉化補正値Vdaを減算器37へ出力する。
減算器37は、d軸電圧指令値Vd**をd軸電流制御器36から受け、非干渉化補正値Vdaを非干渉化制御器41から受け、d軸電圧指令値Vd**から非干渉化補正値Vdaを減算し、その減算結果を非干渉化後のd軸電圧指令値Vd*として駆動部10及び演算部20へ出力する。
加算器47は、q軸電圧指令値Vq**をq軸電流制御器46から受け、非干渉化補正値Vqaを非干渉化制御器41から受け、q軸電圧指令値Vq**と非干渉化補正値Vqaとを加算し、その加算結果を非干渉化後のq軸電圧指令値Vq*として駆動部10及び演算部20へ出力する。
つぎに、本実施の形態にかかる制振制御について、図4及び図5を参照して説明する。
モータ制御装置1により制御される電動機Mは、例えば、IPM(Interior Permanent Magnetic)モータであり、IPMモータの基本的な電圧電流方程式は、下記(1)式、(2)式により表される。
上記(1)式、(2)式において、pは微分演算子である。
また、このときのIPMモータに発生する出力トルクTMは、下記(3)式により表される。
上記(3)式において、Pn×φe×Iqの項がマグネットトルクを示し、Pn×(Ld−Lq)×Id×Iqの項がリラクタンストルクを示している。(3)式に表されるように、マグネットトルクは、q軸電流Iqに比例し、リラクタンストルクは、q軸電流Iqとd軸電流Idとの積に比例する。
図4は、IPMモータの出力トルク発生ブロック、及び、出力トルクと負荷トルクとの差分と角速度との関係を示すブロック図である。図4中のsはラプラス平面を示している。また、図4では、IPMモータの干渉化電圧項の後ろから記述している。
図4から、IPMモータの出力トルクTMと負荷トルクTLとの差分(以下、「脈動トルク」という)と角速度ωmとの関係は、定数Jを慣性モーメントとすると、下記(4)式により表される。
図5は、シングルロータリーコンプレッサの回転角度に対する負荷トルクの第1の変動例を示す図である。
上記(1)式、(2)式は、回転座標系においてIPMモータが低負荷トルク時に一定速度で運転が行われている状態では、全ての項が直流値となるが、脈動トルクが発生する場合は、回転角速度の変動が発生する。
本実施の形態では、回転角速度の変動分から脈動トルクを相殺する電流成分を算出してq軸電流Iqに重畳することで、周期的な負荷トルクの変動に伴う回転速度変動を抑制する。
負荷トルクの変動成分には、基本波成分に加えて、高調波成分も含まれている。図5に示す第1の変動例では、負荷トルクの変動成分の基本波成分の振幅を100%とすると、高調波成分の振幅の割合は、第2調波成分の振幅は約25%、第3調波成分の振幅は約8%である。
なお、図示はしていないが、例えば、ツインロータリーコンプレッサでは、負荷トルクの変動成分の基本波成分よりも第2調波成分の方が多く含むことが考えられる。従って、ツインロータリーコンプレッサの場合には、基本波成分よりも第2調波成分を抑制する方がより制振効果が高い。このように、IPMモータが適用される装置によって、負荷トルクの変動成分に多く含まれる調波成分が異なる。
従って、負荷トルクの変動成分により多く含まれる調波成分を相殺することで、高い制振効果を得ることができる。
電動機Mから出力される出力トルクTMと負荷トルクTLとの差分をΔTとすると、このΔTは、ロータの脈動を引き起こす脈動トルクである。脈動トルクΔTは、下記(5)式により表される。
脈動トルクΔTは、回転角θmに対して特定の位置(回転角度)に応じて周期的に変動するので、その変動に伴う時間領域におけるロータの速度変化の空間高調波を下記(6)式で定義する。
上記(6)式において、kは高調波成分の次数を示している。Δωmkは変動速度のk調波成分を示し、ωmkはk調波成分の振幅を示し、θmkはk調波成分の回転角を示し、φkはk調波成分の位相項を示している。k=1である場合には、脈動トルクの基本波における値を示し、k=2である場合には、脈動トルクの第2調波における値を示し、k=3である場合には、脈動トルクの第3調波における値を示している。また、k=0である場合には、直流値を示すものとする。以下の説明においても同様である。
(5)式のsは時間微分を表すので、特定の第k調波における脈動トルクΔTkは、下記(7)式により表すことができる。
ここで、脈動トルクΔTを打ち消すように出力トルクをΔTMだけ補正することを考えた場合、補正後の出力トルク(TM+ΔTM)と負荷トルクTLとの関係は、下記(8)式となる。
上記(8)式に対し、特定の第k調波成分を分離したとすると、下記(9)式が得られる。
上記(9)式の演算結果が0となれば、出力トルクの補正トルク成分ΔTMの第k調波成分ΔTMkにより脈動トルクΔTの第k調波成分ΔTkが相殺されることとなる。このとき、補正出力トルクΔTMの第k調波成分を生成するq軸電流補正値ΔIqk、すなわち、q軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)の換算式は、下記(10)式で表される。
上記(10)式の位相項を0(Φ=0)とすると、下記(11)式、(12)式が得られる。
上記(10)式に示すq軸電流補正値ΔIqkを生成して、q軸電流指令値Iq0*に重畳することにより、(11)式に示すq軸電圧Vq’を生成することができる。
本実施の形態では、図1に示すように、位相/角速度検出部20によりロータの推定位置θm及び推定角速度ωmを求める構成としている。そこで、位相/角速度検出部20により得られる推定位置θe及び推定角速度ωmを用いて、脈動トルクに伴うロータの速度変動の特定の調波成分(k調波)からq軸及びq軸と直交する軸上の成分、すなわち直交成分を抽出し、その直交成分を位相変換してq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)として生成するq軸電流補正値演算処理部100を具備し、このq軸電流補正値演算処理部100から出力されるq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)を速度制御器33から出力されるq軸電流指令値Iq0*に重畳する構成としている。
q軸電流補正値演算処理部100の構成及び動作について、図1、図2、及び図6を参照して説明する。図6は、実施の形態1にかかるモータ制御装置のq軸電流補正値演算処理部の一構成例を示す図である。
本実施の形態では、図2に示すように、d−q座標系に直交する仮想的な軸(z軸)を導入しており、q軸電流補正値演算処理部100では、角速度指令ωm*と推定角速度ωmとの差分である角速度差分Δωmに含まれる速度変動のk調波成分をz軸成分ωzk及びq軸成分ωqkに直交分解して脈動トルクの基本周期毎に逐次推定する。これら推定値(ωqk,ωzk)をq軸へ写像(位相変換)することで、脈動トルクに基づくq軸上の速度変動を抑制するq軸電流を補正値ΔIqkとして算出する。すなわち、q軸電流補正値演算処理部100による制御がd軸に影響しない構成としている。
q軸電流補正値演算処理部100は、図6に示すように、q軸側変動成分演算部101及びq軸側復調部102を備えている。
q軸側変動成分演算部101は、z軸相関処理部101a及びq軸相関処理部101bを含み構成され、z軸相関処理部101aは、z軸周波数分離器103及びz軸繰り返し制御器105を備え、q軸相関処理部101bは、q軸周波数分離器104及びq軸繰り返し制御器106を備えている。
q軸側復調部102は、位相変換器107、及び補正ゲイン108を備えている。
まず、q軸側変動成分演算部101の動作について説明する。
z軸周波数分離器103は、減算器32から出力される角速度差分Δωmのz軸成分の第k調波成分を分離する。
q軸周波数分離器104は、減算器32から出力される角速度差分Δωmのq軸成分の第k調波成分を分離する。
角速度差分Δωmは、電動機Mにおけるロータの機械角での角速度指令ωm*と推定角速度ωmとの差分であり、この脈動トルクに伴うロータの脈動(ロータの回転角度に応じた周期的な変動)を抑制する制振制御では、時間高調波ではなく空間高調波を制御することとなる。このため、z軸周波数分離器103及びq軸周波数分離器104は、バンドパスフィルタではなく相関器で構成され、相関演算処理が行われる。
z軸周波数分離器103及びq軸周波数分離器104は、ロータの速度変動の基本波成分の1周期で相関演算処理を行う。z軸側の相関演算処理式を下記(13)式に示し、q軸側の相関演算処理式を下記(14)式に示す。
上記(13)式、(14)式において、機械角で表したロータの推定位置θmは、位相/角速度検出部20から入力される電気角で表したロータの推定位置θeから得ることができる。以下の説明においても同様である。
上記(13)式、(14)式において、k=1の場合、すなわち、ロータの速度変動の基本波成分を制振制御対象とする場合には、ロータの速度変動の基本波周期における0〜2πまでの区間を相関処理演算区間とする。また、例えば、k=3の場合、すなわち、ロータの速度変動の第3調波成分を制振制御対象とする場合には、ロータの速度変動の第3調波周期における0〜6πまでの区間を相関処理演算区間とする。つまり、本実施の形態では、制振制御対象とする調波成分に依らず、ロータの速度変動の基本波成分の1周期、つまり、例えばシングルロータリーコンプレッサでも、ツインロータリーコンプレッサでも、ロータの機械角における1回転周期で相関演算処理を行う。
上記(13)式、(14)式をサンプリング周期tsで離散演算処理する離散式とすると、それぞれ下記(15)式、(16)式となる。
上記(15)式、(16)式において、nは相関処理演算の基点である0から2kπまでの区間におけるサンプリング点を示している。
上記(15)式、(16)式の二乗項が(10)式の二乗項に相当する。これら(15)式、(16)式により、時間高調波が空間高調波に変換され、空間高調波における単一の第k調波成分に分離される。
なお、図1、図6、及び上記(13)式〜(16)式では、角速度指令ωm*と推定角速度ωmとの差分である角速度差分Δωmをq軸電流補正値演算処理部100の入力とした例を示したが、角速度差分Δωmに代えて、推定角速度ωmをq軸電流補正値演算処理部100の入力としてもよい。この場合には、上記(13)式〜(16)式は下記(17)式〜(20)式にそれぞれ置き換えられる。
なお、推定角速度ωmをq軸電流補正値演算処理部100の入力とする場合には、ダイナミックレンジが大きくなることや、加減速時に速度制御の影響を受け易いことから、角速度差分Δωmをq軸電流補正値演算処理部100の入力とするのが好ましい。
本実施の形態では、上記(15)式あるいは上記(19)式をz軸周波数分離器103における演算式とし、上記(16)式あるいは上記(20)式をq軸周波数分離器104における演算式とする。
z軸繰り返し制御器105は、z軸周波数分離器103の出力に対し、時間L(秒)毎に補正量を加算して誤差修正を行う。本実施の形態では、この時間Lを脈動トルク成分の基本波周期とする。具体的には、z軸繰り返し制御器105は、z軸周波数分離器103の出力に対し、脈動トルク成分の基本波周期の1周期前における出力値(z軸成分(ωzk))を修正誤差量として加算して出力する。
また、同様に、q軸繰り返し制御器106は、q軸周波数分離器104の出力に対し、脈動トルク成分の基本波周期毎に補正量を加算して誤差修正を行う。具体的には、q軸繰り返し制御器106は、q軸周波数分離器104の出力に対し、脈動トルク成分の基本波周期の1周期前における出力値(q軸成分(ωqk))を修正誤差量として加算して出力する。
このプロセスを繰り返すことにより、z軸周波数分離器103及びq軸周波数分離器104の演算結果が0になるように帰還ループが形成され、脈動トルクに伴うロータの速度変動の振幅及び位相が逐次修正される。
上述のように、本実施の形態では、ロータの速度変動の基本波周期で相関処理演算及び誤差修正を行うようにしている。このため、演算処理に必要なメモリを節約することができる。
なお、q軸側変動成分演算部101では、ベクトル制御と同様に、ロータの回転位相(θm)に同期して演算処理が行われるので、相関処理演算の基点から時間Lが経過した時点(すなわち、脈動トルク成分の基本波周期における0〜2πまで経過した時点)で、脈動トルクに伴うロータの速度変動のθm=0におけるz軸成分及びq軸成分である第k調波の直交成分(ωqk,ωzk)の推定位相が確定する。この直交成分(ωqk,ωzk)は、k調波のθm=0におけるq軸成分とz軸成分である。従って、この直交成分を用いると、(6)式の初期位相φは、φ=tan−1(ωqk)/(ωzk)と表せる。脈動トルクに伴うロータの速度変動の第k調波の位相は、初期位相φとロータの推定位置θmとの加算値となる。
つぎに、q軸側復調部102の動作について説明する。
ロータの速度変動を相殺する制振電流は、d−q座標上の電流i、すなわち、id,iqとして扱うこととなるので、ロータの回転に応じて変動する電流値とする必要がある。
q軸側復調部102は、q軸側変動成分演算部101から出力される直交成分(ωqk,ωzk)を後述するように位相変換して、q軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqkを生成する。
まず、直交成分(ωqk,ωzk)をθだけ回転する回転行列の一般式を下記(21)式に示す。
ここで、脈動トルクに伴うロータの速度変動と、脈動トルクを相殺する相殺トルクとの関係について述べる。
一般に、トルクは、加速度に比例する。また、(6)式、(7)式から分かるように、ロータの速度変動成分を表す角速度差分Δωmは、加速度に比例する脈動トルクΔTよりπ/2だけ位相が遅れる。従って、ロータの速度変動を生み出す脈動トルクの位相は、ロータの推定位置θmよりπ/2進角する。
この脈動トルクを相殺するためには、脈動トルクの位相に対して位相反転した相殺トルクを発生させる必要がある。従って、相殺トルクは、上述した脈動トルクの位相を反転(つまり、位相を180°(±π)ずらす)させればよい。
また、(3)式に示すように、トルクと電流とは比例関係にある。以上から、相殺トルク発生電流(q軸補正電流ΔIq)の位相は、脈動トルクに伴うロータの速度変動成分の初期位相に対して、ロータの推定位置θmからπ/2−πあるいはπ/2+πだけずれた位相となる。従って、q軸側復調部102の位相変換器107での位相変換は、上記(21)式の回転行列を用いて表すと、下記(22)式のように表現できる。
本実施の形態では、q軸側補正交流成分qrを得るため、下記(23)式を位相変換器107における演算式とする。
上記(23)式で得られたq軸側補正交流成分qrに対し、補正ゲイン108を適用することで、q軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)が生成される。
補正ゲイン108は、繰り返し制御において逐次推定される値を収束させる修正量を決定するものであり、収束値と収束速度とを決定する機能を有している。
補正ゲイン108の演算式は、(10)式から下記(24)式で与えられる。なお、(10)式では負値表記であるが、この負号は脈動トルクのq軸電流変動成分に対して位相反転していることを示すものであり上記(22)式において導入しているので、(24)式では正値表記となる。
上記(24)式において、Id0はリラクタンストルクを発生するための負電流であり変数であるが、ロータの脈動を抑制する制振制御を行う必要がある低回転領域では、d軸電流の変化はq軸電流の変化に対して小さく、例えば、エアコンのコンプレッサ等に適用する場合の加減速では制振制御の収束速度の違いによる影響も小さいので、下記(25)式に示す定数値kRに置き換え、逐次修正処理として扱ってもよい。つまり、補正ゲイン108は、繰り返し制御における安定性を補償するためのゲインを兼ね、発振しない程度で任意の値とできる。
このとき、q軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)は、下記(26)式で表せる。
上記(26)式のように生成されたq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)を、図1に示す加算器43においてq軸電流指令値Iq0*に加算することで、脈動トルクの速度変動の第k調波成分を抑制することができ、周期的な負荷トルクの変動に伴う回転速度変動を抑制することができる。
以上のように、実施の形態1では、位相/角速度検出部20により得られる推定位置θe(θm)及び推定角速度ωmを用いて、脈動トルクに伴うロータの速度変動の特定の調波を抽出し、その特定調波(第k調波)を位相変換してq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqkをq軸電流補正値として生成するq軸電流補正値演算処理部100を具備し、このq軸電流補正値演算処理部100から出力されるq軸電流補正値ΔIqkを速度制御器33から出力されるq軸電流指令値Iq0*に重畳する構成とし、q軸側変動成分演算部101において、推定角速度ωmあるいは角速度指令ωm*と推定角速度ωmとの差分である角速度差分Δωmを、脈動トルクに伴うロータの速度変動の基本波成分の1周期に亘り積分して相関処理演算及び誤差修正を行い、q軸側復調部102において、q軸側変動成分演算部101の出力である脈動トルクに伴うロータの速度変動に基づく復調処理を行い、q軸電流補正値ΔIqkを生成する。従って、事前にトルクパターンを作成する必要はなく、また、フーリエ変換やフーリエ逆変換等の複雑な処理や、多くのフィルタやメモリ等も不要である。すなわち、多大な開発工数を要することなく、より簡易な制御で、周期的な負荷脈動に伴う回転速度変動を抑制することができ、振動や騒音を低減することができる。
また、実施の形態1では、d軸及びq軸の双方に直交する仮想軸としてz軸を導入し、推定角速度ωmあるいは角速度指令ωm*と推定角速度ωmとの差分である角速度差分Δωmに含まれるk調波の速度変動をz軸成分ωzk及びq軸成分ωqkに直交分解して脈動トルクの基本波周期毎に逐次推定し、これら推定値をq軸へ写像(位相変換)することで、脈動トルクに基づくq軸上の速度変動を抑制するq軸電流を補正値ΔIqkとして算出する。このため、q軸電流補正値演算処理部100における制御がd軸に影響することを防ぐことができる。
実施の形態2.
実施の形態1では、負荷トルクの変動成分に含まれる特定の調波成分を相殺することにより、脈動トルクに伴うロータの速度変動を抑制する構成について説明したが、本実施の形態では、q軸電流補正値演算処理部を多重化した構成について説明する。
図7は、q軸電流補正値演算処理部を多重化したブロック図である。図7に示す例では、脈動トルクの速度変動の基本波成分を制御対象としたq軸電流補正値演算処理部100−1、第2調波成分を制御対象としたq軸電流補正値演算処理部100−2、及び、第N調波成分を制御対象としたq軸電流補正値演算処理部100−Nが並列接続された例を示している。
図8は、シングルロータリーコンプレッサの回転角度に対する負荷トルクの第2の変動例を示す図である。
実施の形態1において説明した図5に示す第1の変動例とは異なるものの、図8に示す変動例においても、負荷トルクの変動成分の基本波成分の振幅を100%とすると、第2次調波成分の振幅は約22%、第3次調波成分の振幅は約18%である。
この図8に示す第2の変動例では、図5に示す第1の変動例よりも第3調波成分が多く含まれ、同じシングルロータリーコンプレッサでも負荷トルクの変動成分に含まれる調波成分の比率が異なっていることがわかる。
また、図5に示す第1の変動例、及び、図8に示す第2の変動例の何れも負荷トルクの変動曲線の頂点部が鋭角になっている。
図9は、負荷トルクの変動成分の基本波成分と第2調波成分との合成波形例を示す図である。図9に示す例では、負荷トルクの変動成分の基本波成分の振幅を100%としたとき、第2調波成分の振幅が50%である場合の例を示している。
図5に示す第1の変動例、及び、図8に示す第2の変動例では、負荷トルクの変動曲線は、上部が鋭角になり、下部は平坦になるようなカーブを描いている。ここで、負荷トルクの変動成分の基本波成分及び第2調波成分の位相を図9に示すような関係とすると、基本波成分と第2調波成分との合成波形は、図5に示す第1の変動例、及び、図8に示す第2の変動例と同様のカーブを描く。従って、負荷トルクの変動曲線が、図5に示す第1の変動例、及び、図8に示す第2の変動例のように、上部が鋭角になり、下部は平坦になるようなカーブを描く場合には、脈動トルクの速度変動の基本波成分に加えて、第2調波成分を制振制御対象とすると、より制振効果を高めることができる。
このように、脈動トルクの速度変動に含まれる複数の調波成分を制御対象とし、図7に示すように、q軸電流補正値演算処理部100を多重化することにより、更なる制振効果の向上が期待できる。
また、本実施の形態では、図7に示すq軸電流補正値演算処理部100−1,100−2,100−Nは、何れも脈動トルクの速度変動の基本波成分の1周期で相関処理演算及び誤差修正を行うので、ある特定の次数の調波成分の制御結果が他の次数の調波成分の制御に影響することなく、安定した制振制御を行うことができる。
なお、脈動トルクの速度変動の高次高調波成分まで制御対象とするのは、制御の安定性の面において得策とは言えず、また、処理速度を考えると、制振制御に用いるマイコン等の制御手段のコスト面においても不利である。また、図5に示す第1の変動例、及び図8に示す第2の変動例を考慮すれば、高次高調波成分による影響は小さいと考えられる。従って、負荷トルクの変動への影響が大きい低次数の調波成分を制御対象とするようにすればよい。
以上のように、実施の形態2では、脈動トルクの速度変動に含まれる複数の調波成分を制御対象とし、q軸電流補正値演算処理部100を多重化した構成としているので、更なる制振効果の向上が期待できる。
また、実施の形態2では、q軸電流補正値演算処理部100−1,100−2,100−Nは、何れも脈動トルクの速度変動の基本波成分の1周期で相関処理演算及び誤差修正を行うので、ある特定の次数の調波成分の制御結果が他の次数の調波成分の制御に影響することなく、安定した制振制御を行うことができる。
実施の形態3.
実施の形態1では、q軸電流を制御することにより、脈動トルクに伴うロータの速度変動を抑制する構成について説明したが、本実施の形態では、q軸電流に加えて、d軸電流を制御することにより、周期的な負荷トルクの脈動に伴う回転速度変動の抑制効果を高める構成について説明する。
図10は、実施の形態3にかかるモータ制御装置の一構成例を示す図である。また、図11は、実施の形態3にかかるモータ制御装置のd軸電流補正値演算処理部の一構成例を示す図である。なお、実施の形態1と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図10に示すように、実施の形態3にかかるモータ制御装置1aは、図1に示す実施の形態1の構成に加えて、d軸電流補正値演算処理部200及び加算器42を電圧指令生成部30の構成要素として備えている。
d軸電流補正値演算処理部200は、d軸電流検出値Id及び推定位置θeを位相/角速度検出部20から受け、d軸電流検出値Idからd軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdk(d軸電流補正値)を算出し、加算器42へ出力する。
加算器42は、d軸電流指令値Id0*を外部から受け、d軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdkをd軸電流補正値演算処理部200から受け、d軸電流指令値Id0*とd軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdk(d軸電流補正値)とを加算し、その加算結果をd軸電流指令補正値Id*として減算器35aへ出力する。
減算器35aは、d軸電流指令補正値Id*を加算器42から受け、d軸電流検出値Idを位置/速度検出部20から受け、d軸電流指令補正値Id*からd軸電流検出値Idを減算し、その減算結果をd軸電流制御器36へ出力する。
実施の形態1において説明したように、脈動トルクに伴うロータの速度変動を抑制するq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)をq軸電流指令値Iq0*に重畳すると、干渉化によりd軸側に回転に伴う誘起電圧が発生する。このq軸電流の補正制御に伴ってd軸側に発生する誘起電圧により、d軸電流の脈動が発生する。
実施の形態1において説明した(12)式の第3項を相殺するようにd軸電圧を制御することにより、q軸電流指令値Iq0*へのq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)の重畳によるd軸電流の脈動を抑制することができるものと考えられるが、実施の形態1のようにして得たq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)は、位相/角速度検出部20やq軸電流補正値演算処理部100の制御遅れによる誤差を含んでいるため、このq軸補正電流ΔIqの第k調波成分ΔIqk(q軸電流補正値)をq軸電流指令値Iq0*に注入することで、d軸電流に与える影響が大きくなることが考えられる。
従って、本実施の形態では、図10に示すように、3相−2相変換器21から出力されるd軸電流検出値Id及び位相/角速度検出部20により得られる推定位置θeを用いて、d軸上での電流変動の特定の調波(k調波)からd軸及びd軸と直交する軸上の成分、すなわち直交成分を抽出し、その直交成分を位相変換してd軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdk(d軸電流補正値)として生成するd軸電流補正値演算処理部200を具備し、このd軸電流補正値演算処理部200から出力されるd軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdk(d軸電流補正値)をd軸電流指令値Id0*に重畳する構成としている。
d軸電流補正値演算処理部200の構成及び動作について、図10及び図11を参照して説明する。
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、d−q座標系に直交する仮想的な軸(z軸)を導入しており、d軸電流補正値演算処理部200では、d軸電流検出値Idに含まれるd軸電流変動のk調波成分をd軸成分ωdk及びz軸成分ωzkに直交分解(Iddk,Idzk)してd軸上での電流変動の基本周期毎に逐次推定する。これら推定値(ωdk,ωzk)をd軸へ写像(位相変換)することで、d軸上での電流変動を抑制するd軸電流を補正値ΔIdkとして算出する。すなわち、d軸電流補正値演算処理部200による制御がq軸に影響しない構成としている。
d軸電流補正値演算処理部200は、図11に示すように、d軸側変動成分演算部201及びd軸側復調部202を備えている。
d軸側変動成分演算部201は、d軸相関処理部201a及びz軸相関処理部201bを含み構成され、d軸相関処理部201aは、d軸周波数分離器203及びd軸繰り返し制御器205を備え、z軸相関処理部201bは、z軸周波数分離器204及びz軸繰り返し制御器206を備えている。
d軸側復調部202は、位相変換器207、及び補正ゲイン208を備えている。
まず、d軸側変動成分演算部201の動作について説明する。
d軸周波数分離器203は、3相−2相変換器21から出力されるd軸電流検出値Idのd軸成分の第k調波成分を分離する。
z軸周波数分離器204は、3相−2相変換器21から出力されるd軸電流検出値Idのz軸成分の第k調波成分を分離する。
これらd軸周波数分離器203及びz軸周波数分離器204も、実施の形態1において説明したz軸周波数分離器103及びq軸周波数分離器104と同様に、バンドパスフィルタではなく相関器で構成され、相関演算処理が行われる。
d軸周波数分離器203及びz軸周波数分離器204は、d軸上での電流変動の基本波成分の1周期で相関演算処理を行う。d軸側の相関演算処理式を下記(27)式に示し、z軸側の相関演算処理式を下記(28)式に示す。
上記(27)式、(28)式において、k=1の場合、すなわち、d軸上での電流変動の基本波成分を制振制御対象とする場合には、d軸上での電流変動の基本波周期における0〜2πまでの区間を相関処理演算区間とする。また、例えば、k=3の場合、すなわち、d軸上での電流変動の第3調波成分を制振制御対象とする場合には、d軸上での電流変動の第3調波周期における0〜6πまでの区間を相関処理演算区間とする。つまり、本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、制振制御対象とする調波成分に依らず、d軸上での電流変動の基本波成分の1周期で相関演算処理を行う。
上記(27)式、(28)式をサンプリング周期tsで離散演算処理する離散式とすると、それぞれ下記(29)式、(30)式となる。
上記(29)式、(30)式において、nは相関処理演算の基点である0から2kπまでの区間におけるサンプリング点を示している。これら(29)式、(30)式により、時間高調波が空間高調波に変換され、空間高調波における単一の第k調波成分に分離される。
本実施の形態では、上記(29)式をd軸周波数分離器203における演算式とし、上記(30)式をz軸周波数分離器204における演算式とする。
d軸繰り返し制御器205は、d軸周波数分離器203の出力に対し、時間L(秒)(脈動電流成分の基本波周期)毎に補正量を加算して誤差修正を行う。具体的には、d軸繰り返し制御器205は、d軸周波数分離器203の出力に対し、脈動電流成分の基本波周期の1周期前における出力値(d軸成分(Iddk))を修正誤差量として加算して出力する。
また、同様に、z軸繰り返し制御器206は、z軸周波数分離器204の出力に対し、d軸上での電流変動の基本波周期毎に補正量を加算して誤差修正を行う。具体的には、z軸繰り返し制御器206は、z軸周波数分離器204の出力に対し、d軸上での電流変動の基本波周期の1周期前における出力値(z軸成分(Idzk))を修正誤差量として加算して出力する。
このプロセスを繰り返すことにより、d軸周波数分離器203及びz軸周波数分離器204の演算結果が0になるように帰還ループが形成され、d軸上での電流変動の振幅及び位相が逐次修正される。
上述のように、本実施の形態では、d軸上での電流変動の基本波成分の1周期で相関処理演算及び誤差修正を行うようにしている。このため、演算処理に必要なメモリを節約することができる。
なお、d軸側変動成分演算部201では、ベクトル制御と同様に、ロータの回転位相θmに同期して演算処理が行われるので、相関処理演算の基点から時間Lが経過した時点(すなわち、d軸上での電流変動の基本波周期における0〜2πまで経過した時点)で、d軸上での電流変動の第k調波のθm=0におけるd軸成分とz軸成分である直交成分(Iddk,Idzk)が確定する。この直交成分(Iddk,Idzk)は、k調波のθm=0におけるd軸成分とz軸成分である。従って、この直交成分を用いると、(6)式の初期位相φは、φ=tan−1(Idzk)/(Iddk)と表せる。d軸上での電流変動の第k調波位相は、初期位相φとロータの推定位置θmとの加算値となる。
つぎに、d軸側復調部202の動作について説明する。
d軸上での電流変動を相殺する制振電流は、d−q座標上の電流i、すなわち、Id,Iqとして扱うこととなるので、ロータの回転に応じて変動する電流値とする必要がある。
d軸側復調部202は、d軸側変動成分演算部201から出力される直交成分(Iddk,Idzk)を後述するように位相変換して、d軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdkを生成する。
まず、直交成分(Iddk,Idzk)をθだけ回転する回転行列の一般式を下記(31)式に示す。
d軸補正電流の第k調波成分ΔIdkは、実施の形態1において説明した(12)式の第3項を相殺する電流であるので、この(12)式の第3項が余弦関数であることから、d軸上での電流変動の位相は、d軸に対してπ/2だけ遅角していることがわかる。また、d軸上での電流変動を相殺する制振電流、すなわちd軸補正電流ΔIdは、d軸上での電流変動に対して位相反転した関係となる。
すなわち、d軸補正電流ΔIdの位相は、d軸上での電流変動の初期位相に対して、ロータの推定位置θmから−π/2−πあるいは−π/2+πだけずれた位相となる。従って、d軸側復調部202の位相変換器207での位相変換は、上記(31)式の回転行列を用いて表すと、下記(32)式のように表現できる。
本実施の形態では、d軸側補正交流成分drを得るため、下記(33)式を位相変換器207における演算式とする。
上記(33)式で得られたd軸側補正交流成分drに対し、補正ゲイン208を適用することで、d軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdk(d軸電流補正値)が生成される。
d軸電流補正値演算処理部200は、入力電流に対し電流を出力する構成であるため、変換係数は1となる。従って、補正ゲイン208は、繰り返し制御における逐次修正の安定性を補償するためのステップゲインとする。あるいは、繰り返し制御の安定性に問題がなければ、定数値kR’として扱ってもよい。
このとき、d軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdk(d軸電流補正値)は、下記(34)式で表せる。
上記のように生成されたd軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdk(d軸電流補正値)を、図10に示す加算器42においてd軸電流指令値Id0*に加算することで、実施の形態1において説明したq軸電流の補正制御に伴ってd軸側に発生する誘起電圧により発生するd軸上での電流変動の第k調波成分を抑制することができ、周期的な負荷トルクの変動に伴う回転速度変動の抑制効果を高めることができる。
さらに、d軸電流補正値演算処理部200を多重化した構成も考えられる。図12は、d軸電流補正値演算処理部を多重化したブロック図である。
図12に示す例では、d軸上での電流変動の基本波成分を制御対象としたd軸電流補正値演算処理部200−1、第2調波成分を制御対象としたd軸電流補正値演算処理部200−2、及び、第N調波成分を制御対象としたd軸電流補正値演算処理部200−Nが並列接続された例を示している。
実施の形態2において説明したq軸電流補正値演算処理部100の多重化に加え、図12に示すように、d軸電流補正値演算処理部200を多重化し、d軸上での電流変動に含まれる複数の調波成分を制御対象とすることにより、更なる制振効果の向上が期待できる。
また、本実施の形態では、図12に示すd軸電流補正値演算処理部200−1,200−2,200−Nは、何れもd軸上での電流変動の基本波成分の1周期で相関処理演算及び誤差修正を行うので、ある特定の次数の調波成分の制御結果が他の次数の調波成分の制御に影響することなく、安定した制振制御を行うことができる。
図13は、基本波成分と第2調波成分とを制御対象とし、q軸電流補正とd軸電流補正とを実施した際の制振特性の一例を示す図である。図13において、横軸はコンプレッサの差圧を示し、縦軸はコンプレッサの差圧に対する振動振幅を示している。また、図13において、実線で示すグラフは、制振制御を行っていない場合の特性例を示し、破線で示すグラフは、制振制御を行った場合の特性例を示している。
図13に示すように、制振制御を行った場合には、回転数が22(rps)、35(rps)の何れの場合においても極めて高い制振効果が得られており、特に、回転数が22(rps)の低回転領域における効果が際立っている。
以上のように、実施の形態3では、3相−2相変換器21から出力されるd軸電流検出値Id及び位相/角速度検出部20により得られる推定位置θe(θm)を用いて、d軸上での電流変動の特定の調波を抽出し、その特定調波(第k調波)を位相変換してd軸補正電流ΔIdの第k調波成分ΔIdkをd軸電流補正値として生成するd軸電流補正値演算処理部200を具備し、このd軸電流補正値演算処理部200から出力されるd軸電流補正値ΔIdkをd軸電流指令値Id0*に重畳する構成とし、d軸側変動成分演算部201において、d軸電流検出値Idを、d軸上での電流変動の基本波成分の1周期に亘り積分して相関処理演算及び誤差修正を行い、d軸側復調部202において、d軸側変動成分演算部201の出力であるd軸上での電流変動に基づく復調処理を行い、d軸電流補正値ΔIdkを生成する。従って、実施の形態1において説明したq軸電流の補正制御に伴ってd軸側に発生する誘起電圧により発生するd軸上での電流変動の第k調波成分を抑制することができ、周期的な負荷トルクの変動に伴う回転速度変動の抑制効果を高めることができる。
また、実施の形態3では、実施の形態1と同様に、d及びq軸の双方に直交する仮想軸としてz軸を導入し、d軸電流検出値Idに含まれるk調波のd軸上での電流変動をd軸成分Iddk及びz軸成分Idzkに直交分解してd軸上での電流変動の基本波周期毎に逐次推定し、これら推定値をd軸へ写像(位相変換)することで、d軸上での電流変動を抑制するd軸電流を補正値ΔIdkとして算出する。このため、d軸電流補正値演算処理部200における制御がq軸に影響することを防ぐことができる。
また、実施の形態3では、d軸上での電流変動に含まれる複数の調波成分を制御対象とし、d軸電流補正値演算処理部200を多重化した構成とすることにより、更なる制振効果の向上が期待できる。
また、実施の形態3では、d軸電流補正値演算処理部200−1,200−2,200−Nは、何れもd軸上での電流変動の基本波成分の1周期で相関処理演算及び誤差修正を行うので、ある特定の次数の調波成分の制御結果が他の次数の調波成分の制御に影響することなく、安定した制振制御を行うことができる。
なお、上述した実施の形態では、シングルロータリーコンプレッサやツインロータリーコンプレッサ等の圧縮機に用いるIPMモータを対象としており、モータに流れる電流から角速度と回転角度とを所謂センサレス方式で推定する構成としたが、ロータの回転位置をセンサ(エンコーダ)で直接検出する構成であっても適用可能であり、実施の形態において説明した制振制御を行うことにより、周期的な回転速度変動を抑制することが可能である。
また、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。