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JP2009303435A - モータ制御装置 - Google Patents

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JP2009303435A
JP2009303435A JP2008157434A JP2008157434A JP2009303435A JP 2009303435 A JP2009303435 A JP 2009303435A JP 2008157434 A JP2008157434 A JP 2008157434A JP 2008157434 A JP2008157434 A JP 2008157434A JP 2009303435 A JP2009303435 A JP 2009303435A
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Shinya Yamamoto
伸也 山本
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Sanyo Electric Co Ltd
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Abstract

【課題】負荷トルク変動に伴う振動の抑制に用いられる振動抑制信号の位相最適値を容易に設定する。
【解決手段】磁石磁束の向きに直交する軸をq軸とし、q軸に対応する、制御上の推定軸をδ軸とする。回転速度指令値(ω*)と推定回転速度(ωe)に基づく速度偏差から、δ軸電流指令値(iδ*)が生成されると共に負荷トルク変動に対応して変動する振動抑制信号(iδC)が生成される。位相調整部(31)は、推定回転速度(ωe)とモータへの印加電圧を指定するδ軸電圧指令値(vδ*)とに基づいて振動抑制信号の位相を調整する。位相調整後の振動抑制信号はδ軸電流指令値(iδ*)に重畳され、この重畳によって得られた信号に基づいてδ軸電圧指令値(vδ*)が生成される。
【選択図】図9

Description

本発明は、モータを制御するモータ制御装置に関し、特に、周期的に負荷トルクが変動する負荷を駆動するモータに対して、ベクトル制御を実行するモータ制御装置に関する。また、本発明は、そのモータ制御装置を利用したモータ駆動システム及び圧縮機に関する。
モータの負荷は、しばしば周期的な負荷変動を伴う。空気調和機等に用いられる圧縮機は、そのような負荷を含む代表例である。空気調和機に使用される密閉型圧縮機では、吸入・圧縮・吐出の各行程間における冷媒ガス圧変化が負荷トルクに作用することが知られている。この冷媒ガス圧による負荷トルクは圧縮機の回転(モータの回転)に同期して変動し、それに伴い、圧縮機の回転速度が周期的に変動することも知られている。このような圧縮機の回転速度の周期的な変動は、圧縮機自体に振動を発生させると共に、騒音の原因ともなる。
このような負荷トルク変動に起因する振動を解決するべく、様々な手法が提案されている。或る従来手法では、モータの電圧情報及び電流情報に基づく演算によってモータの回転速度を推定し、推定回転速度を用いて推定回転速度の回転周期と同じ周期を持つ付加トルク電流指令値(後述の振動抑制信号に対応)を生成することにより、速度変動の抑制を図っている(例えば下記特許文献1参照)。
この従来手法に対応する、従来のモータ駆動システムのブロック線図を図15に示す。このモータ駆動システムでは、モータの回転速度を指定する回転速度指令値ω*と速度推定部によって推定された回転速度ωeとの間の速度偏差(ω*−ωe)が求められ、その速度偏差がゼロに収束するように、q軸電流が追従すべきδ軸電流指令値iδ*が比例積分制御によって作成される。q軸電流はトルクに関与する電流であり、δ軸は、q軸に追従すべき制御上の推定軸である。一方で、図15のモータ駆動システムでは、速度偏差(ω*−ωe)から、負荷トルク変動に起因する振動を抑制するための振動抑制信号が生成され、この振動抑制信号をδ軸電流指令値iδ*に付加した値に従い、モータへの供給電流が決定される。モータへの供給電流にトルク定数KTを乗じたものはモータの発生トルクTmに相当し、発生トルクTmと負荷トルクTdisとの差分に1/Jsを乗じたものは実際の回転速度ωに相当する。ここで、Jはイナーシャであり、sはラプラス演算子である。
特開2000−41400号公報
図15のモータ駆動システムにおいて、振動を良好に抑制するためには、負荷トルクが比較的強い時に発生トルクが強められ且つ負荷トルクが比較的弱い時に発生トルクが弱められるような振動抑制信号を生成する必要がある。従って、負荷トルク変動に起因する振動の抑制の程度は、振動抑制信号(上述の付加トルク電流指令値に対応)の位相に強く依存する。
従来手法では、振動の抑制に適した位相を、実験を介して調整している。振動抑制に適した位相は、モータの特性に依存すると共に、モータの回転速度やベクトル制御に用いる制御定数(比例積分制御における比例定数や積分定数など)にも依存するため、それらに対応して、逐次、振動抑制に適した位相を実験によって求める必要がある。このように、振動抑制に適した位相を実験によって調べる作業は極めて煩雑である。
そこで本発明は、振動抑制に適した制御用パラメータ(振動抑制信号の位相に対応)の設定容易化に寄与するモータ制御装置、モータ駆動システム及び圧縮機を提供することを目的とする。
本発明に係るモータ制御装置は、周期的に負荷トルクが変動する負荷を駆動するモータに対し、前記モータの回転速度の推定を介して、ベクトル制御を実行するモータ制御装置において、前記モータの回転子に設けられた永久磁石が作る磁束の向きに直交する軸をq軸とし、q軸に対応する制御上の推定軸をδ軸とした場合、当該モータ制御装置は、推定回転速度を表す推定速度信号に基づいてδ軸電流指令信号を生成する速度制御手段と、 前記負荷トルクの変動に対応して変動するδ軸電流補正信号を生成し、前記δ軸電流補正信号を用いて前記δ軸電流指令信号を補正する補正手段と、前記モータへの供給電流のδ軸成分が補正後のδ軸電流指令信号に追従するように、前記モータへの印加電圧のδ軸成分が追従すべきδ軸電圧指令信号を生成する電流制御手段と、を備え、前記補正手段は、前記δ軸電圧指令信号に基づいて、前記δ軸電流補正信号の位相を調整することを特徴とする。
負荷トルクの変動に対応して変動するδ軸電流補正信号を用いてδ軸電流指令信号を補正すれば、負荷トルク変動に由来する振動を抑制することが可能である。但し、回転速度の推定を行う場合、推定誤差の分だけ、δ軸電流補正信号の位相が最適なものからずれうる。
一方で、δ軸電圧指令信号は、モータの実際の回転速度における変動周期と同じ周期にて変動する信号成分を有し、その信号成分の位相は、モータの実際の回転速度における変動成分の位相と、概ね一致する。このため、δ軸電圧指令信号に基づけば、上記の推定誤差を補償することが可能である。これを考慮し、上述の如くモータ制御装置を形成する。これにより、振動抑制に適したδ軸電流補正信号の位相を容易に設定することが可能となり、この設定に伴って、振動抑制の最適化も図られる。
具体的には例えば、前記補正手段は、前記δ軸電圧指令信号と前記推定速度信号に基づいて、前記δ軸電流補正信号の位相を調整する。
より具体的には例えば、前記補正手段は、前記δ軸電圧指令信号の位相情報と前記推定速度信号の位相情報に基づいて、前記δ軸電流補正信号の位相を調整する。
また具体的には例えば、前記補正手段は、前記負荷トルクの変動に対応して変動する制御信号を受け、その制御信号の周期的な変動成分を強調することによって前記δ軸電流補正信号を生成する共振型フィルタを備え、前記δ軸電圧指令信号の位相と前記推定速度信号の位相との差に基づいて前記δ軸電流補正信号の位相を調整する。
本発明に係るモータ駆動システムは、モータと、前記モータを駆動するインバータと、 前記インバータを介して前記モータに対するベクトル制御を実行する、上記の何れかに記載のモータ制御装置と、を備えたことを特徴とする。
本発明に係る圧縮機は、前記モータ駆動システムに備えられたモータの回転力を駆動源とすることを特徴とする。
本発明によれば、振動抑制に適した制御用パラメータ(振動抑制信号の位相に対応)の設定容易化に寄与するモータ制御装置、モータ駆動システム及び圧縮機を提供することが可能となる。
本発明の意義ないし効果は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下の実施の形態は、あくまでも本発明の一つの実施形態であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以下の実施の形態に記載されたものに制限されるものではない。
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。後に第1〜第4実施例を説明するが、まず、各実施例に共通する事項又は各実施例にて参照される事項について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るモータ駆動システムの概略ブロック図である。図1のモータ駆動システムは、モータ1と、PWM(Pulse Width Modulation)インバータ2と、モータ制御装置3と、を備える。
モータ1は、三相永久磁石同期モータであり、永久磁石を備えた回転子(不図示)と3相分の電機子巻線を備えた固定子(不図示)とを有している。
PWMインバータ(以下、単にインバータという)2は、モータ1の回転子位置に応じてモータ1に三相交流電圧を供給する。インバータ2によってモータ1に印加される三相交流電圧は、U相の電機子巻線への印加電圧を表すU相電圧vu、V相の電機子巻線への印加電圧を表すV相電圧vv、及び、W相の電機子巻線への印加電圧を表すW相電圧vwから成る。U相電圧vu、V相電圧vv及びW相電圧vwの合成電圧である、モータ1への、全体の印加電圧をモータ電圧(モータ端子電圧)と呼び、それを記号Vaによって表す。
モータ電圧Vaの印加によって、インバータ2からモータ1へ供給される電流のU相成分、V相成分及びW相成分、即ちU相、V相及びW相の電機子巻線に流れる電流を、夫々、U相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwと呼ぶ。U相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwの合成電流である、モータ1への、全体の供給電流をモータ電流(電機子電流)と呼び、それを記号Iaによって表す。
モータ制御装置3は、モータ電流Iaの検出値等に基づきつつ、所望のベクトル制御を実現するためのPWM信号をインバータ回路2に与える。
図2(a)及び(b)は、モータ1の解析モデル図である。以下の説明において、電機子巻線とはモータ1に設けられているものを指す。図2(a)には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。1aは、モータ1の回転子に設けられた永久磁石である。永久磁石1aが作る磁束の回転速度と同じ速度で回転する回転座標系において、永久磁石1aが作る磁束の向きに沿った軸をd軸とし、d軸に対応する制御上の回転軸をγ軸とする。d軸の向きは、永久磁石1aが作る磁束の向きに合致する。また、図2(b)に示す如く、d軸から電気角で90度だけ位相が進んだ軸をq軸とし、γ軸から電気角で90度だけ位相が進んだ軸をδ軸とする。図2(a)及び(b)において、反時計回り方向は位相の進み方向に対応している。d軸とq軸を総称してdq軸と呼び、d軸及びq軸を座標軸として有する座標系をdq座標系と呼ぶ。γ軸とδ軸を総称してγδ軸と呼び、γ軸及びδ軸を座標軸として有する座標系をγδ座標系と呼ぶ。
dq軸及びdq座標系は回転しており、その回転速度をωで表す。γδ軸及びγδ座標系も回転しており、その回転速度をωeで表す。また、dq軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たd軸の角度(位相)をθにより表す。同様に、γδ軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たγ軸の角度(位相)をθeにより表す。θ及びθeにて表される角度は、電気角における角度であり、それらは一般的に回転子位置又は磁極位置とも呼ばれる。ω及びωeにて表される回転速度は、電気角における角速度である。d軸とγ軸との間の軸誤差Δθは、Δθ=θ−θeにて表される。
以下、θ又はθeを、回転子位置と呼ぶこととし、ω又はωeを回転速度と呼ぶこととする。回転子位置及び回転速度を推定によって導出する場合、γ軸及びδ軸を制御上の推定軸と呼ぶことができる。また、θe及びωeを、それぞれ、特に、推定回転子位置及び推定回転速度とも呼び、ωを特に実回転速度とも呼ぶ。ωは、モータ1の回転子の実際の回転速度であり、ωeは、モータ1の回転子の推定回転速度である。
モータ制御装置3は、θとθeとが一致するようにベクトル制御を行う。θとθeとが一致しているとき、d軸及びq軸は夫々γ軸及びδ軸と一致する。
モータ駆動システムの制御に関与する記号を、以下のように定義する。
モータ電圧Vaのd軸成分、q軸成分、γ軸成分、δ軸成分を、夫々、d軸電圧、q軸電圧、γ軸電圧及びδ軸電圧と呼ぶと共に記号vd、vq、vγ及びvδにて表す。
モータ電流Iaのd軸成分、q軸成分、γ軸成分、δ軸成分を、夫々、d軸電流、q軸電流、γ軸電流及びδ軸電流と呼ぶと共に記号id、iq、iγ及びiδにて表す。
Φaは、永久磁石1aによる電機子鎖交磁束を表す。
d及びLqは、夫々d軸インダクタンス(電機子巻線のインダクタンスのd軸成分)、q軸インダクタンス(電機子巻線のインダクタンスのq軸成分)を表す。
aは、電機子巻線の一相当たりの抵抗値を表す。
Φa、Ld、Lq及びRaは、モータ1の特性に応じて予め定まり、モータ駆動システムの制御上のパラメータとして利用される。
γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδが追従すべき、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの目標値を、それぞれγ軸電圧指令値vγ *及びδ軸電圧指令値vδ*により表す。
γ軸電流iγ及びδ軸電流iδが追従すべき、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの目標値を、それぞれγ軸電流指令値iγ *及びδ軸電流指令値iδ*により表す。
推定回転速度ωeが追従すべき、推定回転速度ωeの目標値を回転速度指令値ω*により表す。
尚、vγは、γ軸電圧の値を表す記号としても用いられうる。vγ以外の状態量(電圧、電流に関する状態量を含む)を表す記号についても同様である。また、本明細書では、記述の簡略化上、記号(iγなど)のみの表記によって、その記号に対応する状態量などを表現している場合もある。即ち、本明細書では、例えば、「iγ」と「γ軸電流iγ」又は「γ軸電流値iγ」は同じものを指す。
モータ制御装置3では、γ軸電圧値vγ及びδ軸電圧値vδが夫々γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*に追従するように、且つ、γ軸電流値iγ及びδ軸電流値iδが夫々γ軸電流指令値iγ*及びδ軸電流指令値iδ*に追従するように、ベクトル制御がなされる。
モータ1は、周期的に負荷トルクが変動するような負荷を回転駆動する。この負荷は、例えば、圧縮機(図14参照)、洗濯機又は乾燥機(不図示)などに備えられた負荷である。圧縮機は、空気調和機などに用いられる。圧縮機では、周期的に実行される、吸入・圧縮・吐出を含む工程中の冷媒ガス圧変化が負荷トルクに作用し、これによって負荷トルクが周期的に変動する。
洗濯機又は乾燥機は、具体的には例えばドラム式洗濯機又はドラム式乾燥機である。ドラム式洗濯機では、洗濯物を収納するドラムが鉛直線と平行でない軸を回転軸として回転し、洗濯物を持ち上げ、落下によってたたき洗いを行う。このドラムをモータ1の負荷とする場合、洗濯物を持ち上げる時に負荷トルクが比較的大きくなり、そうでない時に負荷トルクが比較的小さくなるため、負荷トルクが周期的に変動する。ドラム式乾燥機についても同様である。
このような負荷を駆動する際に有益な、本実施形態に係るベクトル制御の原理を説明する。図1のモータ駆動システムの内、トルクに関する部分だけを表したブロック線図を図3に示す。本実施形態に係るモータ駆動システムには、符号101〜110にて参照される各部位が含まれていると考えることができる。図3に対応するモータ駆動システムでは、回転子位置を実測する回転子センサ(不図示)を用いないセンサレス制御(センサレスベクトル制御)が実行される。
まず、符号101〜108にて参照される各部位の機能を説明する。周期的に負荷トルクが変動する負荷を回転駆動することを想定し、その負荷トルクをTdisにて表す。
減算器101は、外部より与えられた回転速度指令値ω*から速度推定部108によって算出された推定回転速度ωeを減算することにより速度偏差(ω*−ωe)を求める。PI制御部102は、比例積分制御を用い、減算器101からの速度偏差(ω*−ωe)がゼロに収束するようにδ軸電流指令値iδ*を算出する。加算器103は、δ軸電流指令値iδ*に位相調整部110からの出力値iδC’を加えることにより、PI制御部102からのδ軸電流指令値iδ*を補正する。
補正されたδ軸電流指令値、即ち(iδ*+iδC’)は、電流制御部104によってδ軸電流iδに変換される。乗算器105は、この変換によって得られたδ軸電流iδにトルク定数KTを乗じる。これにより、(iδ*+iδC’)に基づくδ軸電流iδはモータトルクTmに変換される。また、電流制御部104は、補正されたδ軸電流指令値(iδ*+iδC’)に基づいてδ軸電圧指令値vδ*を生成する。減算器106によって、モータトルクTmから周期的な変動を有する負荷トルクTdisが減算され、乗算器107は、その減算結果(Tm−Tdis)に1/Jsを乗じる。この“1/Js”におけるJはイナーシャであり、sはラプラス演算子である。減算器106及び乗算器107を介して得られる(Tm−Tdis)/Jsは、モータの実回転速度ωを表している。速度推定部108は、回転速度ωの推定値を表す回転速度ωeを求める。
特徴的な部位である振動抑制信号生成部109及び位相調整部110の機能を、図4及び図5等を参照しつつ説明する。今、回転速度指令値ω*が一定値に保たれていることを想定する。また、id=0、となるようにベクトル制御がなされていることを想定する。図4及び図5のグラフにおいて、横軸は時間に対応し、縦軸は信号の値に対応している。図4及び図5において、直線301は、回転速度指令値ω*を信号値として有する信号の波形であり、曲線302は、推定回転速度ωeを表す信号の波形である。曲線303は、図3の振動抑制信号生成部109にて生成される振動抑制信号の波形である。振動抑制信号生成部109にて生成される振動抑制信号の信号値は、iδCにて表される。
負荷トルクが周期的に変動する場合、制御系の遅れに起因して、モータの回転速度もω*を中心として周期的に変動する。モータの回転速度の変動は、モータ駆動システムを組み込んだ機器(圧縮機など)の振動を招き、振動は騒音を招く。図3の振動抑制信号生成部109は、この振動を抑制するための振動抑制信号を、速度偏差(ω*−ωe)を基に生成する。具体的には、(ω*−ωe)の変動周期と同じ周期で変動し且つ(ω*−ωe)で表される信号の位相よりも電気角で90度だけ位相が進んだ振動抑制信号を生成する。この振動抑制信号は、トルクに関与するδ軸電流指令値iδ*への補正信号として生成される。
モータの回転速度の加速中であって且つ速度変化の大きさが最大となる時において(図4のポイント304に対応する時点において)、モータ1の発生トルクが最も大きく抑制されるように振動抑制信号が生成され、モータの回転速度の減速中であって且つ速度変化の大きさが最大となる時において(図4のポイント305に対応する時点において)、モータ1の発生トルクが最も大きく増加するように振動抑制信号が生成される。この結果、理想的には、モータの回転速度が安定し、モータ及びシステム全体の振動も最小化される。
しかしながら、センサレス制御を行う場合、モータ電流情報などに基づいて推定回転速度ωeが演算されるため、図5に示す如く、推定回転速度ωeの位相が実回転速度ωの位相からずれている可能性がある。図5において、曲線312は、実回転速度ωを表す信号の波形である。このようなずれが存在していると、推定回転速度ωeを基に生成された振動抑制信号の位相も、振動抑制に最適な位相からずれる。
推定回転速度ωeを表す信号(以下、推定速度信号と呼ぶこともある)の位相と実回転速度ωを表す信号(以下、実速度信号と呼ぶこともある)の位相との差を、位相差Δεにて表す。推定速度信号及び実速度信号は、負荷トルクの変動周期と同じ周期にて変動する信号であり、仮に位相差Δεがゼロであって且つ推定速度信号と実速度信号の振幅が等しいのであれば、推定速度信号と実速度信号は一致する。
位相差Δεは、モータ1の回転速度やベクトル制御に用いる制御定数などに依存するため、一定ではない。制御定数とは、例えば、PI制御部102の比例積分制御に用いる比例定数及び積分定数などである。図6のシミュレーション結果からも分かるように、位相差Δεは、モータ1の回転速度が大きくなるに従って大きくなる傾向を有する。図6の曲線320は、位相差Δεの、モータ1の回転速度依存性を示し、図6において、横軸はモータ1の回転速度を表し、縦軸は位相差Δεを表す。図6の横軸に付記された、回転速度の数値の単位はrps(revolutions per second)であり、図6の縦軸に付記された、位相差Δεの数値の単位は、電気角における度(degree)である。
センサレス制御では、モータの回転速度が実測によって検出されないので、実測結果に基づいて位相差Δεを検出することはできない。一方において、図7のシミュレーション結果からも分かるように、q軸電圧vqは、実速度信号及び推定速度信号と同じ周期で変動すると共に、q軸電圧vqを表す信号の位相は、実回転速度ωを表す信号の位相と略同じである。尚、図7において、直線351は回転速度指令値ω*を信号値として有する信号の波形であり、曲線352〜354は、夫々、推定回転速度ωeを表す信号の波形、実回転速度ωを表す信号の波形、及び、q軸電圧vqを表す信号の波形である。
このようなq軸電圧の特性を考慮し、本実施形態では、回転速度の変動を推定するための情報としてq軸電圧に対応するδ軸電圧の情報を参照し、その情報を用いて位相差Δεに適応した位相調整を行う。この位相調整の機能は、図3の位相調整部110が担う。位相調整部110は、電流制御部104からのδ軸電圧指令値vδ*に基づいて、信号抑制信号生成部109にて生成された振動抑制信号の位相を調整し、位相調整後の振動抑制信号を加算器103に出力する。位相調整後の振動抑制信号の信号値は、iδC’にて表される。より具体的には、q軸電圧vqがδ軸電圧指令値vδ*と一致していると仮定し、q軸電圧vqが実回転速度ωと同期して変動する特性を考慮して、vδ*及びωeに基づき位相差Δεを推定する。そして、iδC’にて表される振動抑制信号の位相が実速度信号の位相を基準として電気角で90度だけ進むように、位相差Δεに基づいて振動抑制信号(iδC)の位相を調整し、これによって位相調整後の振動抑制信号(iδC’)を得る。加算器103において、δ軸電流指令値iδ*に、位相調整部110の出力値iδC’が加えられることによって、電流制御部104に与えられるべきδ軸電流指令値が、振動抑制に最適なものへと補正される。
実回転速度ωとq軸電圧vqが略同じ位相特性を有する理由は、図8の、モータ電圧に関するベクトル図からも理解される。図8は、id=0と仮定した場合におけるベクトル図である。q軸電圧vqは「vq=Ra・iq+ω・Φa」によって表され、ωの関数であるため、ωの変動に同期してvqも変動する。
図15に対応する従来手法では、振動抑制信号の最適位相を実験によって求める必要があるが、本実施形態の如く、q軸電圧(δ軸電圧)の情報を用いて振動抑制信号の位相を調整する機能をモータ制御装置に持たせることにより、振動抑制信号の最適位相(振動抑制にとっての最適位相)を容易に見つけることが可能となる。
また、振動抑制の程度は、振動抑制信号の位相だけでなく振動抑制信号の振幅にも依存する。図15に対応する従来手法では、振動抑制信号の位相及び振幅を調整すべきパラメータとして取り扱って、互いに依存しあう2つのパラメータの最適値を実験的に探索する必要がある。互いに依存しあう複数のパラメータの最適値探索は煩雑であると共に、最適値の探索に失敗することもある。また、振動抑制信号の位相が最適でないと、それが最適である場合に比べて、より大きな振幅を有する振動抑制信号が必要となる可能性も高い。振動抑制信号における振幅の増大は、消費電力の増加を招く。
一方、本実施形態によれば、振動抑制信号の最適位相が自動的に見つかるため、振動抑制信号の位相を該最適位相に固定した状態で、振動抑制に適した振幅の探索を行うことができる。このため、振動抑制信号の振幅の最適値を容易に且つ確実に見つけることが可能となる。結果、振動抑制及び消費電力抑制にとって最適な条件でモータを駆動することが可能となる。
尚、上述の説明ではd軸電流idがゼロであると仮定しているが、id≠0であったとしても、通常、idの大きさはiqの大きさに比べて十分に小さいため、位相調整部110による位相調整は有効に機能する。
以下に、本実施形態に係るモータ駆動システムの構成又はそれに関与する事項を説明する実施例として、第1〜第4実施例を説明する。
<<第1実施例>>
まず、本発明に係る第1実施例を説明する。図9は、第1実施例に係るモータ駆動システムの詳細ブロック図である。図9のモータ駆動システムは、図1に示されるモータ1及びインバータ2と、図1のモータ制御装置3として機能するモータ制御装置3aと、相電流センサ11と、を備えている。モータ制御装置3aは、符号12〜20及び30〜32で参照される各部位を含んで構成される。モータ制御装置3a内に相電流センサ11が含まれている、と考えることもできる。モータ制御装置3a内の各部位は、モータ制御装置3a内で生成された各値を自由に利用可能となっている。
本実施例及び後述の各実施例のモータ駆動システムを形成する各部位は、所定の更新周期にて自身が算出(又は検出)して出力する指令値(iγ*、iδ*、vγ*、vδ*、vu *、vv *及びvw *を含む)、状態量(iu、iv、iγ、iδ、θe及びωeを含む)又はδ軸電流補正値iδC及びiδC’を更新し、最新の値を用いて必要な演算を行う。
推定回転速度ωeは時間と共に変化し、時間を横軸にとってωeの値を順次プロットして得られる信号(推定速度信号)の波形は、例えば、図4の曲線302又は図7の曲線352のような波形となる。同様に、時間を横軸にとってδ軸電流補正値iδC又はiδC’を順次プロットして得られる信号(δ軸電流補正信号)の波形は、例えば、図4の曲線303のような波形となり、時間を横軸にとってδ軸電圧補正値vδ*を順次プロットして得られる信号(δ軸電圧指令信号)の波形は、例えば、図7の曲線354のような波形となる。ωe、iδC、iδC’及びvδ*と同様、他の指令値及び状態量も時間と共に変化する信号波形を形成する。
相電流センサ11は、インバータ2からモータ1に供給されるモータ電流Iaの固定軸成分であるU相電流値iu及びV相電流値ivを検出する。尚、W相電流値iwに関しては、関係式「iw=−iu−iv」から算出される。座標変換器12は、推定回転子位置θeに基づいてU相電流値iu及びV相電流値ivをγδ軸上の電流値に座標変換することにより、γ軸電流値iγ及びδ軸電流値iδを算出する。第1実施例において、推定回転子位置θe及び推定回転速度ωeは、位置・速度推定器20にて算出される。
減算器19は、推定回転速度ωeと、モータ制御装置3aの外部に設けられた回転速度指令値発生部(不図示)からの回転速度指令値ω*とを参照し、両者間の速度偏差(ω*−ωe)を算出する。
速度制御部17は、比例積分制御などを用いることによって、速度偏差(ω*−ωe)がゼロに収束するようにδ軸電流指令値iδ*を算出して出力する。加算器32は、速度制御部17からのiδ*に位相調整部31からのδ軸電流補正値iδC’を加算し、その加算値(iδ*+iδC’)を減算器13に出力する。本来、速度制御部17の出力値iδ*はiδの目標値となるのであるが、それは、共振型フィルタ30、位相調整部31及び加算器32によって補正され、実際には補正後の値(iδ*+iδC’)がiδの目標値となる。共振型フィルタ30及び位相調整部31の動作については、後述する。
磁束制御部16は、γ軸電流指令値iγ*を決定して減算器14に出力する。iγ*は、モータ駆動システムにて実行されるベクトル制御の種類やモータの回転速度に応じて、様々な値をとりうる。本実施例では、dq軸を推定するため、d軸電流をゼロとするための制御を行う場合はiγ*=0とされる。また、最大トルク制御や弱め磁束制御を行う場合、iγ*は推定回転速度ωeに応じた負の値とされる。位相調整部31の動作は、iγ*の値に依存しないが、iγ*=0又はiγ*<<iδ*である時に、特に精度良く位相調整がなされる。
減算器14は、磁束制御部16から出力されるγ軸電流指令値iγ*より座標変換器12から出力されるγ軸電流値iγを減算し、電流誤差(iγ*−iγ)を算出する。減算器13は、加算器32から出力される値(iδ*+iδC’)より座標変換器12から出力されるδ軸電流値iδを減算し、電流誤差(iδ*+iδC’−iδ)を算出する。
電流制御部15は、電流誤差(iγ*−iγ)及び(iδ*+iδC’−iδ)が共にゼロに収束するように、比例積分制御などを用いた電流フィードバック制御を行う。この際、γ軸とδ軸との間の干渉を排除するための非干渉制御を利用し、(iγ*−iγ)及び(iδ*+iδC’−iδ)が共にゼロに収束するようにγ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*を算出する。尚、vγ*及びvδ*を算出するに当たり、ωeやiγ及びiδも参照されうる。
座標変換器18は、位置・速度推定器20から出力される推定回転子位置θeに基づいて電流制御部15から与えられたvγ*及びvδ*を三相の固定座標軸上に座標変換することにより、三相電圧指令値を算出して出力する。三相電圧指令値は、U相、V相及びW相電圧値vu、vv及びvwを指定するU相、V相及びW相電圧指令値vu *、vv *及びvw *から形成される。
インバータ2は、実際のU相、V相及びW相電圧値vu、vv及びvwが夫々U相、V相及びW相電圧指令値vu *、vv *及びvw *と一致するように、三相電圧指令値に従ったモータ電流Iaをモータ1に供給してモータ1を駆動する。
位置・速度推定器20は、座標変換器12からのiγ及びiδ並びに電流制御部15からのvγ*及びvδ*の内の全部又は一部を用いて比例積分制御などを行うことにより、推定回転子位置θe及び推定回転速度ωeを求める。θe及びωeは、d軸とγ軸との間の軸誤差Δθ(=θ−θe)がゼロに収束するように求められる。回転子位置及び回転速度の推定手法(即ち、θe及びωeの導出手法)として、公知の手法を含む任意の推定手法を利用可能である。
図10に位置・速度推定器20の内部ブロック図の一例を示す。図10の位置・速度推定器20は、符号21〜23にて参照される各部位を備える。軸誤差推定部21は、iγ、iδ、vγ*及びvδ*に基づいて軸誤差Δθを算出する。例えば、特許第3411878号公報にも示されている下記式(1)を用いて、軸誤差Δθを算出する。比例積分演算器22は、比例積分制御を行うことにより、軸誤差Δθがゼロに収束するように推定回転速度ωeを算出する。積分器23は、推定回転速度ωeを積分することによって推定回転子位置θeを算出する。算出されたθe及びωeは、その値を必要とするモータ制御装置3a内の各部位に与えられる。
Figure 2009303435
上述したように、本実施形態では、周期的に負荷トルクが変動する負荷をモータ1が回転駆動することを想定している。この場合、負荷トルクの変動によってiδ*が理想値からずれることがあるが、共振型フィルタ30、位相調整部31及び加算器32がこのずれを抑制する方向に働く。
図3等を参照して上述した振動抑制原理と関連するが、図11を参照して、このずれの抑制原理を説明しておく。図11において、横軸は電気角における電流の位相を表しており、縦軸は電流値を表している。モータ1の定常回転時において、電流の位相は時間経過と共に変化していくため、図11の横軸は時間にも対応している。図11において、曲線401は負荷トルクの電流換算値(電流成分)を表し、曲線402は速度制御部17によって算出されるδ軸電流指令値iδ*を表し、曲線403は曲線401によって表される負荷トルクの電流換算値と曲線402によって表されるδ軸電流指令値iδ*との誤差波形を表す。曲線404は、曲線403によって表される誤差波形の極性を反転させた波形を表していると共に、位相調整部31から出力されるべきδ軸電流補正値iδC’の波形を表している。
負荷トルクと合致するトルクをモータ1に発生させるためには、負荷トルクの電流換算値に相当するδ軸電流iδを流せばよい。δ軸電流補正値が無いものとして考えた場合、負荷トルクの電流換算値とiδ*が完全に合致していれば、負荷トルク変動に起因する速度変動が低減して振動の低減が図られる。
しかしながら、実際には、制御系の遅れが発生するため、δ軸電流指令値iδ*は、真に算出されるべき値(負荷トルクの電流換算値)から遅れてしまう。この遅れを解消するべく、速度偏差(ω*−ωe)の変動成分から求めたδ軸電流補正値iδCをiδ*に重畳することが考えられる。しかし、実速度信号(ω)と推定速度信号(ωe)との間には位相差Δεが存在するため(図5参照)、これをも補償する必要がある。そこで、本実施例では、速度偏差(ω*−ωe)の変動成分からδ軸電流補正値iδCを求めた後、δ軸電流補正値iδCによって表される信号の位相を位相差Δε分だけ調整し、位相調整後のδ軸電流補正値iδC’をiδ*に重畳することにより、(iδ*+iδC’)を負荷トルクの電流換算値と一致させる。
この機能を担う共振型フィルタ30及び位相調整部31の動作を説明する。共振型フィルタ30は、減算器19の減算結果(ω*−ωe)を入力信号として受け、その入力信号から負荷トルク変動に由来する周期的な変動成分を抽出する。そして、抽出した変動成分をiδCとして出力する。共振型フィルタ30の伝達関数HA(s)は、次式(2)(又は後述の式(3))で表される。
Figure 2009303435
ここで、boはゲイン係数、b1は位相調整量、ζは減衰係数、ωrは固有角周波数である。また、sは、ラプラス演算子である。理想的には、共振型フィルタ30は、入力信号のωrの周波数成分のみを抽出して出力する。共振型フィルタ30は、入力信号中の固有角周波数ωrの成分をゲイン係数boに応じた度合いで増幅して(強調して)出力する一方、ωr以外の周波数成分が出力信号に極力含まれないようにする。また、共振型フィルタ30を通過することによって、共振型フィルタ30への入力信号の位相は電気角で90度だけ進む。
固有角周波数ωrは、モータ1の負荷の周期的な負荷トルク変動の角周波数と等しくなるように(或いは出来るだけ等しくなるように)設定される。この固有角周波数ωrの値は、ω*又はωeに応じて変化するようになっている。負荷トルク変動の周期は、モータ1の回転速度によって変化するからである。ω*又はωeに応じてωrをどのように設定するかは、モータ駆動システムの設計時において予め規定される。例えば、ω*又はωeからωrを決定するためのテーブルデータが、予めモータ制御装置3aに与えられる。
減衰係数ζは、共振型フィルタ30の共振の程度(共振特性)を決める値であり、0≦ζ<1の任意の値を設定可能である。例えば、ζ=0.01や、ζ=0.1、とする。減衰係数ζを、モータ駆動システムの設計時において予め定めておくことができる。
位相調整量b1は、δ軸電流補正値iδCの位相を調整するための値である。位相調整量b1の値は、ω*又はωeに応じて変化するようになっている。ω*又はωeに応じてb1をどのように設定するかは、モータ駆動システムの設計時において予め規定される。例えば、ω*又はωeからb1を決定するためのテーブルデータが、予めモータ制御装置3aに与えられる。尚、共振型フィルタ30にてiδCの位相を調整する必要がない場合は、b1=0、とされる。
共振型フィルタ30のゲイン、即ち、共振型フィルタ30の入力信号中における固有角周波数ωrの信号成分に対する強調度合いは、ゲイン係数boによって定まる。b1=0の場合は、上記式(2)中のboを変更することで共振型フィルタ30のゲインを変更することができる。b1≠0の場合は、上記式(2)を下記式(3)のように変形し、式(3)中のboを変更することで共振型フィルタ30のゲインを変更することができる。
Figure 2009303435
共振型フィルタ30から出力される位相調整前のδ軸電流補正値iδCは、位相調整部31に与えられる。位相調整部31は、位置・速度推定器20からの推定回転速度ωe及び電流制御部15からのδ軸電圧指令値vδ*に基づいて、δ軸電流補正値iδCによって表される振動抑制信号(δ軸電流補正信号)の位相を調整し、位相調整後の振動抑制信号を加算器32に出力する。位相調整後の振動抑制信号の信号値は、iδC’によって表される。
より具体的には例えば、位相調整部31は、δ軸電圧指令値vδ*によって表される信号(δ軸電圧指令信号)から固有角周波数ωrの信号成分を抽出すると共に、推定回転速度ωeによって表される信号(推定速度信号)から固有角周波数ωrの信号成分を抽出し、抽出した両信号成分を対比することによって位相差Δεを推定する。そして、iδC’によって表される振動抑制信号の位相が実速度信号の位相を基準として電気角で90度だけ進むように、位相差Δεに基づいて、入力信号である振動抑制信号(iδC)の位相を調整し、位相調整後の振動抑制信号を出力する。位相調整後の振動抑制信号の信号値(即ち、iδC’)は、位相調整部31から加算器32に与えられる。
<<第2実施例>>
次に、本発明に係る第2実施例を説明する。図12は、第2実施例に係るモータ駆動システムの詳細ブロック図である。図12のモータ駆動システムは、図1に示されるモータ1及びインバータ2と、図1のモータ制御装置3として機能するモータ制御装置3bと、相電流センサ11と、を備えている。モータ制御装置3bは、符号12〜20及び30〜32で参照される各部位を含んで構成される。モータ制御装置3b内に相電流センサ11が含まれている、と考えることもできる。モータ制御装置3b内の各部位は、モータ制御装置3b内で生成された各値を自由に利用可能となっている。
図9のモータ制御装置3aでは、共振型フィルタ30の入力信号が速度偏差(ω*−ωe)となっているが、図12のモータ制御装置3bでは、共振型フィルタ30の入力信号が速度偏差(ω*−ωe)ではなく速度制御部17からのδ軸電流指令値iδ*となっている。従って、第2実施例における共振型フィルタ30は、δ軸電流指令値iδ*によって表される信号(δ軸電流指令信号)から負荷トルク変動に由来する周期的な変動成分を抽出し、抽出した変動成分をiδCとして位相調整部31に出力する。共振型フィルタ30の入力信号に関する、この相違点を除いて、モータ制御装置3aと3bは同様である。
速度偏差(ω*−ωe)が負荷トルク変動に起因して変動する場合、δ軸電流指令値iδ*も、速度偏差(ω*−ωe)に同期して同様に変動する。このため、モータ制御装置3bのように構成しても、第1実施例と同様の効果が得られる。
<<第3実施例>>
次に、本発明に係る第3実施例を説明する。図13は、第3実施例に係るモータ駆動システムの詳細ブロック図である。図13のモータ駆動システムは、図1に示されるモータ1及びインバータ2と、図1のモータ制御装置3として機能するモータ制御装置3cと、相電流センサ11と、を備えている。モータ制御装置3cは、符号12〜20並びに31及び32で参照される各部位と、共振型フィルタ30cと、を含んで構成される。モータ制御装置3c内に相電流センサ11が含まれている、と考えることもできる。モータ制御装置3c内の各部位は、モータ制御装置3c内で生成された各値を自由に利用可能となっている。
図9のモータ制御装置3aでは、共振型フィルタ30が速度偏差(ω*−ωe)からδ軸電流補正値iδCを算出しているが、図13のモータ制御装置3cでは共振型フィルタ30cが軸誤差Δθからδ軸電流補正値iδCを算出している。この共振型フィルタに関する相違点を除いて、モータ制御装置3aと3cは同様である。以下、両者間の同様の部分の説明を割愛し、共振型フィルタ30cの入出力に関する説明を行う。
共振型フィルタ30cは、位置・速度推定器20にて推定された軸誤差Δθを入力信号として受け、その軸誤差Δθから負荷トルク変動に由来する周期的な変動成分を抽出する。そして、抽出した変動成分をδ軸電流補正値iδCとして位相調整部31に出力する。共振型フィルタ30cの伝達関数HB(s)は、次式(4)で表される。
Figure 2009303435
ここで、boはゲイン係数、b1は位相調整量、ζは減衰係数、ωrは固有角周波数であり、それらは、第1実施例で述べたそれらと同様のものである。また、sは、ラプラス演算子である。共振型フィルタ30cは、入力信号のωrの周波数成分をゲイン係数boに応じた度合いで増幅して(強調して)出力し、理想的には、入力信号のωrの周波数成分のみを抽出して出力する。
軸誤差Δθは、周期的な負荷トルク変動に同期して変動しているため、軸誤差Δθに伝達関数HB(s)を乗じることにより得られるiδCには、軸誤差Δθの周期的な変動成分が強調して表れることになる。このため、モータ制御装置3cのように構成しても、第1実施例と同様の効果が得られる。
尚、図13のモータ制御装置3cにおいては、共振型フィルタ30cへの入力を軸誤差Δθとしているが、共振型フィルタ30cへの入力は、軸誤差Δθの変動(固有角周波数ωrでの軸誤差Δθの変動)に同期して変動する値であれば何でも構わない。軸誤差Δθの変動と同期して変動する値は、軸誤差Δθと同様、周期的な負荷トルク変動に同期した周期的な変動成分を含んでいるからである。
例えば、軸誤差Δθに比例(或いは略比例)する信号を、共振型フィルタ30cへの入力信号とすることができる。
例えば、軸誤差Δθを用いて推定されたトルクの変動成分ΔTmを、共振型フィルタ30cへの入力信号としても構わない。トルクの変動成分ΔTmは、非特許文献1“能登原保夫、他4名,「周期トルク外乱抑制制御の検討(Reduction Control Method of Periodic Torque Disturbance for Compressor)」,平成16年電気学会産業応用部門大会,2004年9月14日,1−57(I-337〜I-340)”にも記載されているように、例えば下記式(5)によって近似的に算出される値であり、軸誤差Δθに比例していると考えることができるからである。式(5)において、Pはモータ1の極数を表し、Jはイナーシャを表す。トルクの変動成分ΔTmは、速度変動を生じさせ、最終的には軸誤差Δθの変動となって表れる。
Figure 2009303435
<<第4実施例>>
本実施形態において上述した何れかのモータ駆動システムが適用される機器として、圧縮機500を図14に示す。図14は、圧縮機500の外観図である。本実施形態において上述した何れかのモータ駆動システムが、圧縮機500に設けられる。圧縮機500は、モータ1の回転力を駆動源として冷媒ガス(不図示)の圧縮を行う。
例えば、圧縮機500は、スクロール圧縮機である。圧縮機500がスクロール圧縮機である場合、圧縮機500内には1対の同一形状の渦巻き体(不図示)が設けられ、一方の渦巻き対は固定される。そして、他方の渦巻き体をモータ1の回転力によって円運動させることにより、圧縮室内の体積を変化させて圧縮室内の気体(冷媒ガス等)を圧縮する。ガスを圧縮工程の前後には、気体の吸入と吐出が行われる。この場合、モータ1の回転力によって直接的に駆動される負荷は上記の渦巻き体であるが、スクロール圧縮機そのものをモータ1の負荷として捉えることもできる。
勿論、圧縮機500は、スクロール圧縮機以外の圧縮機であってもよく、レシプロ圧縮機やロータリ圧縮機等であってもよい。圧縮機500がレシプロ圧縮機である場合、圧縮機500は、ピストンと圧縮室を形成するシリンダを備え、モータ1の回転力によってピストンをシリンダ内で往復運動させることによりシリンダ内の容積を変化させてシリンダ内の気体(冷媒ガス等)を圧縮する。この場合、モータ1の回転力によって直接的に駆動される負荷は上記のピストンであるが、レシプロ圧縮機そのものをモータ1の負荷として捉えることもできる。
<<変形等>>
或る実施例にて説明した事項は、矛盾なき限り、他の実施例に対しても適用することができる。この適用の際、適宜、同一名称の部位についての符号の相違(3、3a、3b及び3cの相違など)はないものとして解釈される。上述の実施形態の変形例または注釈事項として、以下に、注釈1〜注釈4を記す。各注釈に記載した内容は、矛盾なき限り、任意に組み合わせることが可能である。
[注釈1]
上述の各種の指令値(iγ*、iδ*、vγ*及びvδ*など)や状態量(iγ、iδなど)を含む、導出されるべき全ての値の導出手法は任意である。即ち、例えば、それらを、モータ制御装置(3、3a、3b又は3c)内での演算によって導出するようにしてもよいし、予め設定しておいたテーブルデータから導出するようにしてもよい。
[注釈2]
上述の各実施例では、相電流センサ11を用いてU相電流値iu及びV相電流値ivを直接検出するようにしているが、インバータ2の電源側の直流電流に基づいて、それらを検出するようにしてもよい。
[注釈3]
モータ制御装置(3、3a、3b又は3c)の機能の一部または全部は、例えば汎用マイクロコンピュータ等に組み込まれたソフトウェア(プログラム)を用いて実現される。ソフトウェアを用いてモータ制御装置を実現する場合、モータ制御装置の各部の構成を示すブロック図は機能ブロック図を表すこととなる。勿論、ソフトウェア(プログラム)ではなく、ハードウェアのみによって、或いは、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって、モータ制御装置を形成することも可能である。
[注釈4]
本明細書及び図面において下記の点に留意すべきである。上記の数と表記した墨付きかっこ内の式(式(1)等)の記述又は図面において、所謂下付き文字として表現されているγ及びδは、それらの墨付きかっこ外において、下付き文字でない標準文字として表記されうる。このγ及びδの下付き文字と標準文字との相違は無視されるべきである。
Figure 2009303435
本発明の実施形態に係るモータ駆動システムの概略ブロック図である。 図1のモータの解析モデル図である。 本発明の実施形態に係るモータ駆動システムのブロック線図である。 図3のブロック線図に対応する信号波形を示す図である。 図3のブロック線図に対応する信号波形を示す図である。 図3のブロック線図に係り、実速度信号と推定速度信号との間の位相差(Δε)の、モータの回転速度依存性を示す図である。 図3のブロック線図に対応する信号波形を示す図である。 d軸電流がゼロである時における、モータ電圧に関するベクトル図である。 本発明の第1実施例に係るモータ駆動システムの詳細ブロック図である。 図9の位置・速度推定器の内部ブロック図である。 本発明の第1実施例に係り、負荷トルクの電流換算値、δ軸電流指令値、負荷トルクの電流換算値とδ軸電流指令値との誤差、及び、位相調整後のδ軸電流補正値の波形を示す図である 本発明の第2実施例に係るモータ駆動システムの詳細ブロック図である。 本発明の第3実施例に係るモータ駆動システムの詳細ブロック図である。 本発明の第4実施例に係る圧縮機の外観図である。 従来のモータ駆動システムのブロック線図である。
符号の説明
1 モータ
2 インバータ
3、3a、3b、3c モータ制御装置
15 電流制御部
17 速度制御部
20 位置・速度推定器
30、30c 共振型フィルタ
32 位相調整部

Claims (6)

  1. 周期的に負荷トルクが変動する負荷を駆動するモータに対し、前記モータの回転速度の推定を介して、ベクトル制御を実行するモータ制御装置において、
    前記モータの回転子に設けられた永久磁石が作る磁束の向きに直交する軸をq軸とし、q軸に対応する制御上の推定軸をδ軸とした場合、
    当該モータ制御装置は、
    推定回転速度を表す推定速度信号に基づいてδ軸電流指令信号を生成する速度制御手段と、
    前記負荷トルクの変動に対応して変動するδ軸電流補正信号を生成し、前記δ軸電流補正信号を用いて前記δ軸電流指令信号を補正する補正手段と、
    前記モータへの供給電流のδ軸成分が補正後のδ軸電流指令信号に追従するように、前記モータへの印加電圧のδ軸成分が追従すべきδ軸電圧指令信号を生成する電流制御手段と、を備え、
    前記補正手段は、前記δ軸電圧指令信号に基づいて、前記δ軸電流補正信号の位相を調整する
    ことを特徴とするモータ制御装置。
  2. 前記補正手段は、前記δ軸電圧指令信号と前記推定速度信号に基づいて、前記δ軸電流補正信号の位相を調整する
    ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
  3. 前記補正手段は、前記δ軸電圧指令信号の位相情報と前記推定速度信号の位相情報に基づいて、前記δ軸電流補正信号の位相を調整する
    ことを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
  4. 前記補正手段は、前記負荷トルクの変動に対応して変動する制御信号を受け、その制御信号の周期的な変動成分を強調することによって前記δ軸電流補正信号を生成する共振型フィルタを備え、前記δ軸電圧指令信号の位相と前記推定速度信号の位相との差に基づいて前記δ軸電流補正信号の位相を調整する
    ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載のモータ制御装置。
  5. モータと、
    前記モータを駆動するインバータと、
    前記インバータを介して前記モータに対するベクトル制御を実行する請求項1〜請求項4の何れかに記載のモータ制御装置と、を備えた
    ことを特徴とするモータ駆動システム。
  6. 請求項5に記載のモータ駆動システムに備えられたモータの回転力を駆動源とする
    ことを特徴とする圧縮機。
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