以下、本発明の詳細を説明する。
本発明に係るエレクトロウェッティング素子(EW素子)は、対向している第1,第2の基板と、上記第1,第2の基板間に配置された第1,第2の液体材料とを備える。上記第2の液体材料の表面エネルギーは、上記第1の液体材料の表面エネルギーよりも低い。上記第1の液体材料は、有機溶媒95質量%以上、99.999質量%以下と、炭素原子を2以上有する有機電解質0.001質量%以上、5質量%以下とを含む。
本発明に係るEW素子では、一般に粘度が低い有機溶媒をベースとする液体材料を第1の液体材料として用いているため、長期間、安定して用いることができ、また、高温及び低温の温度条件下のストレスにも耐え得る。また、EW素子及びエレクトロウェッティングディスプレイ(以下、EWDと記載することがある)を低電圧で、応答性良く動作させることができる。具体的には、駆動速度に優れることから、動画などを良好に再生可能にすることができる。また、本発明では、特定の上記第1の液体材料を用いているので、環境負荷を低減することもできる。
また、上記第1の液体材料において、上記有機溶媒に溶解可能な有機電解質を用いることにより、上記第1の液体材料と上記第2の液体材料との極性差が大きくなり、上記第1の液体材料と上記第2の液体材料とが分離しやすくなる。このため、有機溶媒の選択の幅が大きくなる。さらに、上記有機電解質により上記第1の液体材料の極性が大きくなることから、低電圧でもEW素子の駆動が可能となり、省エネルギー化に対応でき、かつ、携帯機器等としても好適に使用可能なEW素子及びEWDを提供できる。
(エレクトロウェッティング素子及びエレクトロウェッティングディスプレイの詳細)
本発明に係るEW素子は、対向している第1,第2の基板と、上記第1,第2の基板間に配置された第1,第2の液体材料とを備える。本発明に係るEWDは、上記EW素子を備えており、かつ表示部を有する。
図1に、本発明の一実施形態に係るEW素子を備えるEWDを模式的に断面図で示す。図2は、EWDの動作概念を説明するための模式的な断面図である。なお、図2では、説明に不要な部分の構成については図示を簡略化している。
図1に示すエレクトロウェッティングディスプレイ(EWD)1は、第1の基板11と、第2の基板12とを有する。第1,第2の基板11,12は対向している。具体的には、第1,第2の基板11,12は、第1の液体材料13を介して対向するように配置されている。第1の液体材料13は、第1,第2の基板11,12の外周に沿って設けられたシール材17で区画される領域(セル)内に配置されている。
第1,第2の基板11,12間において、第1の基板11側に第1の液体材料13が配置されている。第1,第2の基板11,12間において、第2の基板12側に第2の液体材料14が配置されている。第2の液体材料14の表面エネルギーは、第1の液体材料13の表面エネルギーよりも低い。第1の液体材料13は、高表面エネルギー液体を含む。高表面エネルギー液体は、第2の液体材料14に対して、相対的に表面エネルギーが高い状態を有する液体である。第2の液体材料は、低表面エネルギー液体を含む。低表面エネルギー液体は、第1の液体材料13に対して、相対的に表面エネルギーが低い状態を有する液体である。
第1の液体材料13に含まれる液体は、親水性液体であることが好ましい。第1の液体材料13に含まれる液体は、第2の液体材料14に含まれる液体よりも親水性が高いことが好ましい。第2の液体材料14に含まれる液体は、第1の液体材料13に含まれる液体よりも疎水性が高いことが好ましい。
第1の基板11は、基材11Aと、コモン電極11Bとを有する。第2の基板12は、基材12Aと、TFT12Bと、配線部12Cと、平坦化膜12Dと、画素電極12Eと、コモン電極12Fと、絶縁膜12Gとを有する。
基材11A,基材12Aとしては、例えば、ガラス、樹脂成型体及びフィルム等の表示材のパネル基板として通常使用される基材が用いられる。
コモン電極11Bは透明電極であることが好ましい。コモン電極11Bを構成する材料として、例えばITO(スズドープ酸化インジウム)が用いられる。
第2の基板12において、セル側の内表面を構成する絶縁膜12Gの表面は、例えばフッ素樹脂の塗布及び熱処理などの公知の方法により、撥水化処理されている。
絶縁膜12G上には、画素壁15が配置されている。画素壁15は格子状に形成されており、第2の基板12上において複数の画素Gを区画している。1つの画素Gが1つのエレクトロウェテッィング(EW)素子16A,16B,16Cに対応している。EWD1は、EW素子16A,16B,16Cを備える。
画素電極12E及びコモン電極12Fは、平坦化膜12D上に形成されており、コンタクトホール12Daを介してTFT12B及び配線部12Cに接続されている。また、画素電極12E及びコモン電極12Fは、各画素G内に一対ずつ配置されている。画素壁15で区画された領域内には、第2の液体材料14が格納されている。画素壁15は、第1の液体材料13となじみの良い表面を有する。
画素電極12E及びコモン電極12Fを構成する電極材料として、ITOやAl等が用いられる。電極材料としてITOを用いた場合、EWD1は、第2の基板12の背面側に光源(図示せず)を備えた透過型のディスプレイとなる。また、電極材料としてAlを用いた場合、EWD1は、外光を電極表面で反射する反射型のディスプレイとなる。EWD1は、透過型、反射型又は半透過反射型として使用可能である。
このようなEWD1において、図2に示すように、画素電極12Eに所定の電圧EV(例えば30V、後述する実施例及び比較例では10V又は50V)を印加すると、画素電極12Eと第1の液体材料13とを電極とし、絶縁膜12Gを誘電体とするキャパシタが形成される。この結果、絶縁膜12Gの分極により高表面エネルギー液体を含む第1の液体材料13が静電作用で引きつけられる。この結果、画素電極12E上の第2の液体材料14がコモン電極12F上に押しのけられ、形状が変化する。
このように電圧を印加することにより、画素G内の第2の液体材料14を選択的にコモン電極12F上に移動させることができる。
以下、第1の液体材料及び第2の液体材料の詳細を説明する。
(第1の液体材料)
上記第1の液体材料は、有機溶媒95質量%以上、99.999質量%以下と、炭素原子を2以上有する有機電解質0.001質量%以上、5質量%以下とを含む。
EW素子において高表面エネルギー液体として、従来、水が用いられることが多い。水は、高純度の状態で容易に入手でき、電解質の溶解性が高く、粘度が低く、極性が高く、安価であるという性質を有する。これらの観点からは、水は、EW素子に用いられる高表面エネルギー液体として適している。しかしながら、水は0℃で凍り、100℃で沸騰する。
EW素子が冬期、屋外で使用される場合、高表面エネルギー液体が凍り、EW素子が動作しなくなる可能性がある。動作不良が生じるだけではなく、水は凍ると体積膨張するため、体積膨張に起因して素子の構造が破壊されたり、低表面エネルギー液体の分布が偏って、濃度むらが生じたりする。このため、EW素子に致命的な損傷が生じる可能性がある。
また、水は100℃で沸騰する。水の20℃での飽和水蒸気圧は、20hPaであり、比較的低い。しかし、水の飽和蒸気圧は、50℃で100hPaを超え、80℃で500hPa程度である。従って、水は、加熱により揮発しやすい。EW素子内の液体損失を防止するために、EW素子では、シール剤による封止が行われている。しかし、シール剤による封止を行っても、高温になると水蒸気の放出は無視できなくなり、高温で水蒸気が放出した後に低温になった場合、EW素子内が負圧になってEW素子が損傷したり、空気を吸い込んでEW素子内に気泡が生じたりする可能性がある。
このように、水は、EW素子に用いられる高表面エネルギー液体としていくつかの良好な性質を有する一方で、高い融点と低い沸点とを有することから、EW素子において水を用いると長期安定性に問題があることが明らかである。
これに対して、水以外の溶媒として、水よりも融点が低く、水よりも沸点が高い溶媒について考えると、いくつかの有機溶媒が挙げられる。水よりも融点が低く、水よりも沸点が高い有機溶媒は、EW素子に用いる高表面エネルギー液体(第1の液体材料に含まれる液体)として好適に用いることができる。従って、上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒は、融点が0℃未満であることが好ましく、沸点が100℃を超えることが好ましく、融点が0℃未満かつ沸点が100℃を超えることが好ましい。
上記有機溶媒を高表面エネルギー液体として用いる場合には、高表面エネルギー液体と低表面エネルギー液体とが、明確な界面を形成し、混和しないことが重要である。このため、本発明では、上記有機溶媒に加えて、電解質を用いて、第1の液体材料の極性を高くする。上記電解質は、電解質が含有される前の有機溶媒の極性よりも、電解質が含有された後の有機溶媒の極性を高くする。
上記電解質は、上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒(高表面エネルギー液体)に溶け、かつ上記第2の液体材料に含まれる溶媒に溶けない電解質であることが好ましい。上記電解質の溶解性を適度に高めるために、上記第1の液体材料は、少量の水を含んでいてもよい。但し、揮発などの問題を防ぐために、上記第1の液体材料は、水を5質量%以上含まないことが好ましい。言い換えれば、上記第1の液体材料は、水を含まないか又は水を5質量%未満で含むことが好ましく、水を含まないことが特に好ましい。
上記電解質は、上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒に溶け、かつ上記第1の液体材料中で低温(例えば、0℃未満)でも析出しない電解質であることが好ましい。このため、本発明では、上記電解質として、無機電解質ではなく、主として炭素原子を2以上有する有機電解質が用いられる。本発明において重要な点は、高表面エネルギー液体(上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒)と低表面エネルギー液体(上記第2の液体材料に含まれる溶媒)とが共存した際、上記電解質が、高表面エネルギー液体に溶解し、低表面エネルギー液体に実質的に溶解しないことである。なお、「実質的に溶解しない」とは、室温(20℃)での有機電解質の分配率が100:1以上(例えば、100:0.1)であることを示す。上記分配率とは、第1の液体材料に含まれる有機電解質の重量:第2の液体材料に含まれる有機電解質の重量を意味する。言い換えれば、「実質的に溶解しない」とは、室温(20℃)において、第1の液体材料に含まれる有機電解質の重量の第2の液体材料に含まれる有機電解質の重量に対する比が100以上であることを示す。このような溶解性を有する電解質を用いると、第1の液体材料中に電解質のほぼ全てが含まれ、第2の液体材料に電解質がほとんど含まれなくなる。この結果、第1,第2の液体材料の極性差が大きくなり、第1,第2の液体材料が分離しやすくなる。すなわち、従来、低表面エネルギー液体を含む液体材料(第2の液体材料)と界面を形成しにくかった溶媒であっても、高表面エネルギー液体(第1の液体材料に含まれる液体)に独占的に含有される上記有機電解質を用いることにより、上記第1の液体材料に用いることが可能になる。
上記有機電解質は、炭素原子を2以上有していれば特に限定されない。上記有機電解質の炭素数の上限は特に限定されないが、第1の液体材料の粘度を過度に上げないためには、炭素数は極端に多くない方がよい。本発明はこれに限定されることはなく、また、構造等によっても異なるために一概には言えないが、あえて上記有機電解質の炭素数上限を示せば、例えば100以下である。上記有機電解質は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記有機電解質としては、有機カルボン酸の塩、有機スルホン酸の塩、有機硫酸エステルの塩、有機ホスホン酸の塩、有機リン酸エステルの塩及び有機アミンの塩等が挙げられる。上記有機電解質における対イオンの形態は、無機塩であってもよく、有機塩であってもよい。
上記第1の液体材料において、上記有機電解質の含有量は0.001質量%以上であり、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上である。上記有機電解質の含有量が上記下限以上であると、第1の液体材料における極性が効果的に高くなり、第1,第2の液体材料の分離が促進され、極性向上によって低電圧によるEW素子の動作が良好になる。
上記第1の液体材料において、上記有機電解質の含有量は5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。上記有機電解質の含有量が上記上限以下であると、第1,第2の液体材料の界面での析出が生じ難くなり、低温での析出が生じ難くなる。
上記第1の液体材料に含まれる高表面エネルギー液体として好適に使用可能な有機溶媒は、上記第2の液体材料に含まれる溶媒(低表面エネルギー液体)と明確な界面を形成し、有機電解質を溶解させる必要があることから、ある程度の極性を有することが好ましい。極性の一つの基準として、上記有機溶媒は、水溶性有機溶媒であることが好ましい。「水溶性有機溶媒」とは、上記有機溶媒が水と混和するか、又は上記有機溶媒80重量部に対して水を20質量部以上溶解可能であることを言う。
融点が低くかつ沸点が高い水溶性有機溶媒(以下、水溶性有機溶媒Xと称する)の例を以下に具体的に示す。但し、本発明において用いられる上記有機溶媒は、以下の有機溶媒に限定されない。
上記水溶性有機溶媒Xとしては、アルコール類、アミド類、ラクトン類及びカーボネート類等が挙げられる。上記有機溶媒は、アルコール類、アミド類、ラクトン類又はカーボネート類である水溶性有機溶媒を含有することが好ましい。これらの好ましい有機溶媒は、水溶性を有しかつ粘度が比較的低いことから、動画などの再生可能な応答性が良いEW素子が得られる。また、省エネルギー化に対応でき、かつ携帯機器として好適に使用可能なEW素子が得られる。これらの好ましい有機溶媒を用いる場合に、有機溶媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、これらの好ましい溶媒と、融点が高い極性溶媒とを混合して用いてもよい。融点が高い極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
上記アルコール類としては、エチレングリコール(沸点197℃、融点−13℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃、融点−11℃)、トリエチレングリコール(沸点287℃、融点−7℃)、プロピレングリコール(沸点188℃、融点−59℃)、及び1,2−ブタンジオール(沸点193℃、融点−42℃)等が挙げられる。上記アミド類としては、ジメチルホルムアミド(沸点153℃、融点−61℃)、及びジメチルアセトアミド(沸点165℃、融点−20℃)等が挙げられる。上記ラクトン類としては、γ−ブチロラクトン(沸点204℃、融点−44℃)等が挙げられる。上記カーボネート類としては、炭酸プロピレン(沸点240℃、融点−55℃)等が挙げられる。
上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒の融点及び沸点は、上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒全体の融点及び沸点で判断される。上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒の融点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下、更に好ましくは−30℃以下である。上記第1の液体材料に含まれる有機溶媒の沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは180℃以上である。
上記第1の液体材料の沸点が120℃以上であり、かつ融点が−10℃以下であることが特に好ましい。この場合には、夏期、屋外又は車内で放置されても、更に冬期、屋外で使用されても、EW素子に動作不良が生じ難くなり、過酷な環境に耐え得るEW素子を提供できる。
本発明の効果をより一層高める観点から、上記第1の液体材料の粘度も好適な範囲に制御することが好ましい。前述のように、EW現象は、第1の液体材料と第2の液体材料との濡れ性の差が動作原理となって生じる。第1の液体材料及び第2の液体材料の双方の粘度が高いと、濡れ性による動作が起こりにくくなる。第1の液体材料と第2の液体材料との少なくとも一方の粘度が高いと、EW素子において電圧を印加して第1の液体材料を電極側に引き寄せ、第2の液体材料を隔壁側に集積させることは、高電圧を印加するで可能であるかもしれないが、電圧を解いたときに第2の液体材料が電極を覆うように戻ることは困難である。従って、第1の液体材料の20℃での粘度η1は好ましくは100mPa・s未満、より好ましくは50mPa・s未満、更に好ましくは20mPa・s未満、特に好ましくは10mPa・s未満である。第2の液体材料の20℃での粘度η2は好ましくは100mPa・s未満、より好ましくは50mPa・s未満、更に好ましくは20mPa・s未満、特に好ましくは10mPa・s未満である。素早い動作が必要な電子書籍端末では、上記粘度η1,η2はそれぞれ50mPa・s未満であることが好ましい。動画再生を行う表示装置では、上記粘度η1,η2はそれぞれ20mPa・s未満であることが好ましく、10mPa・s未満であることがより好ましい。
上記第1の液体材料に含まれる上記有機電解質は、高い極性を有することが好ましく、第1の液体材料に含まれる上記有機溶媒に溶解し、上記第2の液体材料中に実質的に分配されず、EW素子が低温環境におかれても、析出しない有機電解質であることが好ましい。このような有機電解質の例を以下に具体的に示す。但し、本発明において用いられる上記有機電解質は、以下の有機電解質に限定されない。また、上記有機電解質は、必ずしもイオンを含む必要はなく、分極又は水素結合による極性誘起の形態を有していてもよい。
上記有機電解質としては、ヒドロキシカルボン酸系化合物、アミド化合物、アンモニウム塩系化合物、多価水酸基系化合物、多価カルボン酸エステル及びアミノ酸系界面活性剤等が挙げられる。
上記ヒドロキシカルボン酸系化合物としては、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。上記アミド化合物としては、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−α、γ−ジブチルアミド及びN−2−エチルヘキシル−L−グルタミン酸ジブチルアミド等が挙げられる。上記アンモニウム塩系化合物としては、テトラドデシルアンモニウムブロミドや、置換桂皮酸類とアルキル、シクロアルキル又はアラルキルアミンとの塩や、1,1−シクロブタンジカルボン酸とアルキル、シクロアルキル又はアラルキルアミンとの塩や、マロン酸と長鎖アルキル(例えばヘキサデシル)アミンとの塩等が挙げられる。上記多価水酸基系化合物としては、1,3;2,4−ジベンジリデン−D−ソルビトール等が挙げられる。上記多価カルボン酸エステルとしては、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸−ジラウリルエステル等が挙げられる。
さらに、上記有機電解質としては、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムとステロイド化合物、フェノール類、ヒドロキノン、レソルシノール、アミノフェノール、ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸などとの複合塩が挙げられる。ここで、スルホコハク酸塩のエステルは2−エチルヘキシルを代表例に挙げたが、n−オクチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル等も用いることができる。また更に、トリメチルステアリルアンモニウムクロリドとデカン酸との複合塩や、デオキシコール酸ナトリウム等のステロイド系化合物の塩や、アントラセンカルボン酸と脂肪族アミンとの塩や、アルジュノール酸エステル類、ビス(アルキルアミド化アミノ酸)フタルアミド、アミノ酸アルキル変性物、ヘキサン酸エステルジウレア系化合物、ベンゼンジカルボン酸のアミノ酸変性化合物、並びにアミノ酸エステルとカルボン酸との複合物等が挙げられる。
本発明の効果が効果的に得られることから、上記有機電解質は、下記式(1)で表される有機電解質、下記式(2)で表される有機電解質、又は下記式(3)で表される有機電解質を含有することが好ましい。
上記式(1)中、X−は一価の陰イオンを表し、R1及びR2はそれぞれ一価のアルキル基又は一価のアラルキル基を表す。上記式(1)中、R1とR2とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
上記式(2)中、R1及びR2はそれぞれアルキル基を表す。上記式(2)中、R1とR2とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
上記式(3)中、nは1〜3の整数を表し、Rは一価の有機基を表し、Xは一価の置換基を表す。上記式(3)中、Xのベンゼン環における結合部位は特に限定されない。
上記有機電解質の好適な例の一つとして、アミノ酸におけるアミン及び酸の内の少なくとも一方を塩としたアミノ酸の塩(アミノ酸由来の塩)が挙げられる。このアミノ酸の塩は、アミノ酸の有機塩であることが好ましい。上記アミノ酸の塩は、両性の塩であってもよく、カルボン酸をエステル化又はアミド化し、アミンを酸との塩とした化合物であってもよく、アミンをアミド、ウレタン又はウレアなどに変性し、カルボン酸を塩とした化合物であってもよい。カルボン酸をエステル化し、アミンを酸との塩とした化合物としては、上述した式(1)で表される有機電解質が挙げられる。上記式(1)で表される有機電解質は、有機溶媒に溶解しやすく、すなわち第1の液体材料中に溶解しやすく、第2の液体材料中にほとんど分配されない。また、上記式(1)で表される有機電解質は、アミノ酸を原料として合成可能であるため、安価に製造できる。すなわち、上記式(1)で表される有機電解質の使用により、低コスト及び低電圧で駆動可能にする液体材料が実現可能である。このため、省エネルギーで駆動可能なEW素子を安価に提供できる。従って、上記有機電解質は、上記式(1)で表される有機電解質を含むことが好ましい。このようなアミノ酸を原料とする有機電解質及び上記式(1)で表される有機電解質は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよく、別種の有機電解質と併用されてもよい。
上記式(1)中のX−は芳香族環を含むことが好ましい。この場合には、酸基の解離性が高くなり、極性がより一層高い第1の液体材料が得られる。このため、低電圧で駆動可能にする液体材料が実現可能になる。このため、省エネルギーで駆動可能なEW素子を安価に提供できる。
上記式(1)中のX−は炭素数2以上のカルボネート、炭素数2以上のホスホネート又は炭素数2以上のスルホネートであることが好ましい。この場合には、解離性が高い電解質となることから、極性がより一層高い第1の液体材料が得られる。また、低電圧で駆動可能にする液体材料が実現可能である。このため、省エネルギーで駆動可能なEW素子を低コストで提供できる。
上記カルボネートとしては、アルキルカルボン酸イオン、シクロアルキルカルボン酸イオン及び芳香族含有カルボン酸イオン等が挙げられる。上記アルキルカルボン酸イオンとしては、アセテート、プロピオネート及びラウリルカルボネート等が挙げられる。上記シクロアルキルカルボン酸イオンとしては、シクロヘキサンカルボネート等が挙げられる。上記芳香族含有カルボン酸イオンとしては、安息香酸イオン及びベンジルカルボン酸イオン等が挙げられる。
上記ホスホネートとしては、アルキルホスホン酸イオン、シクロアルキルホスホン酸イオン及び芳香族含有ホスホン酸等が挙げられる。上記アルキルホスホン酸イオンとしては、エチルホスホネート、プロピルホスホネート及びラウリルホスホネート等が挙げられる。上記シクロアルキルホスホン酸イオンとしては、シクロヘキサンホスホネート等が挙げられる。上記芳香族含有ホスホン酸イオンとしては、ベンゼンホスホン酸、トルエンホスホン酸及びラウリルベンゼンホスホン酸等が挙げられる。
上記スルホネートとしては、アルキルスルホン酸イオン、シクロアルキルスルホン酸イオン及び芳香族基含有ホスホン酸イオン等が挙げられる。上記アルキルスルホン酸イオンとしては、エチルスルホネート、プロピルスルホネート及びラウリルスルホネート等が挙げられる。上記シクロアルキルスルホン酸イオンとしては、シクロヘキサンスルホネート等が挙げられる。上記芳香族基含有ホスホン酸イオンとしては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸及びラウリルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
上記式(1)中のX−は、芳香族含有カルボネート、芳香族含有ホスホネート又は芳香族含有スルホネートであることが好ましい。これら芳香族含有の酸イオンは、酸性が適度に高く、安定であり、更に第1の液体材料中の有機溶媒にも溶解しやすく、第1の液体材料中に選択的に分配されやすい。
上記式(1)中のR1は、原料であるアミノ酸により決まる置換基である。一般に市販されているアミノ酸の原料であれば、特に問題無く用いることができる。上記有機電解質の安定性、エステル化する際及び塩とする際の反応性を考慮して、上記式(1)中のR1は一価のアルキル基又は一価のアラルキル基である。上記式(1)中のR1は、具体的にはメチル基(原料としてアラニンを用いる)、イソプロピル基(原料としてバリンを用いる)、イソブチル基(原料としてロイシンを用いる)、sec−ブチル基(原料としてイソロイシンを用いる)又はベンジル基(原料としてフェニルアラニンを用いる)であることが好ましい。この場合には、原料として安価なアミノ酸を用いることができ、かつ化学的安定性、耐光性及び電気化学的安定性に優れた有機電解質が得られる。このため、長期間にわたって安定的に使用可能なEW素子を安価に提供できる。
上記式(1)中のR2の一価のアルキル基及び上記式(1)中のR2は、炭素数が6以上、20以下である飽和炭化水素基であることが好ましい。このような飽和炭化水素基に由来するエステル構造は、構造的に安定である。上記式(1)中のR2が上記飽和炭化水素基である有機電解質は、第1の液体材料中の有機溶媒に溶けやすく、かつ析出しにくい。このため、安定的に使用可能なEW素子が得られる。上記式(1)中のR2の炭素数が20以下であると、第1の液体材料中の有機溶媒への有機電解質の溶解性が高くなる。上記式(1)中のR2の炭素数が6以上であると、有機電解質の結晶性が低下する。
上記有機電解質は、上記式(2)で表される有機電解質を含むことが好ましい。上記式(2)で表される有機電解質は、極性が高くかつ第1の液体材料中での安定性に優れている。また、上記式(2)で表される有機電解質の使用により、低電圧で駆動可能であり、かつ長期間にわたって動作可能であるEW素子が得られる。上記式(2)で表される有機電解質は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよく、別種の有機電解質と併用されてもよい。上記式(2)で表される有機電解質は、スルホコハク酸ナトリウムのジエステルである。
上記式(2)中のR1及びR2はそれぞれアルキル基を表す。上記式(2)中のR1及びR2の具体例としては、イソブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、2−エチルヘキシル基及びトリデシル基等が挙げられる。但し、これらの基に限定されない。
上記式(2)で表される有機電解質(スルホコハク酸ナトリウムのジエステル)は、市販の界面活性剤として入手が容易であり、高い極性化効果を有し、第1の液体材料中の有機溶媒に溶解しやすい。また、上記式(2)で表される有機電解質は、高い安定性を有し、EW素子の長期使用にも耐え得る。
上記式(2)中のR1及びR2のアルキル基の種類は、極性化効果、界面活性効果及び溶解性を考慮して、更に第1の液体材料に含まれる有機溶媒の種類、第2の液体材料に含まれる溶媒の種類を考慮して適宜選ばれる。一般に、長鎖アルキルは界面活性効果が高く、短鎖アルキルは極性化効果が高い。このため、上記式(2)中のR1及びR2はそれぞれオクチル基又は2−エチルヘキシル基であることが好ましい。上記式(2)中のR1及びR2はそれぞれ、2−エチルヘキシル基であることがより好ましい。この場合には、溶解性と解離性とのバランスが良好になり、安定性により一層優れた第1の液体材料が得られる。この結果、低電圧で駆動可能であり、かつ長期間にわたって動作可能であるEW素子が得られる。また、上記式(2)中のR1及びR2がそれぞれ2−エチルヘキシル基である有機電解質は、下記式(2A)で表される。
上記有機電解質は、上記式(3)で表される有機電解質を含むことが好ましい。上記式(3)で表される有機電解質は、極性が高く、第1の液体材料中での安定性及び溶解性に優れている。また、上記式(3)で表される有機電解質の使用により、低電圧で駆動可能であり、かつ長期間にわたって動作可能であるEW素子が得られる。上記式(3)で表される有機電解質は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよく、別種の有機電解質と併用されてもよい。上記式(3)で表される有機電解質は、有機界面活性剤である。
上記式(3)中のXは、一価の置換基を表す。上記式(3)中のXは、炭素数が1以上、6以下であるアルキル基、ハロゲン原子又はニトロ基であることが好ましい。上記炭素数1〜6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘプチル基等が挙げられる。上記式(3)中のXが炭素数1〜6のアルキル基である場合に、該アルキル基の炭素数は3以下であることが好ましく、1であることがより好ましい。従って、上記式(3)中のXが炭素数1〜6のアルキル基である場合に、該アルキル基は、メチル基、エチル基又はプロピル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。上記ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子等が挙げられる。上記式(3)中のXがハロゲン原子である場合に、該ハロゲン原子は、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。上記式(3)中のXは、メチル基、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。この場合には、第1の液体材料での溶解度及び解離度を好適な範囲に制御できる。このため、低電圧で駆動可能であり、かつ安定的な性能を発揮するEW素子が得られる。
上記式(3)において、上記式(3)中のXのベンゼン環における結合部位は、−CH=COONH(4−n)Rn基に対して、m位又はp位であることが好ましい。この場合に、Xは、m位に結合したメチル基、p位に結合したメチル基、m位に結合した塩素原子、m位に結合した臭素原子、p位に結合した塩素原子、p位に結合した臭素原子、又はp位に結合したニトロ基であることが好ましい。この場合に、有機電解質が適度な極性と溶解性とを有する。
上記式(3)中のRは一価の有機基を表す。上記式(3)中のRとしては、アラルキル基及び炭素数が6以上、20以下である脂肪族炭化水素基等が挙げられる。上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−エイコシル基、シクロヘキシル基及びシクロオクチル基等が挙げられる。但し、これらの基に限定されず、Rは分岐構造を有していてもよい。上記式(3)中のRが上記脂肪族炭化水素基である場合に、該Rは、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基又はシクロヘキシル基であることが好ましい。上記アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルメチル基及びナフチルエチル基等が挙げられる。上記式(3)中のRがアラルキル基である場合に、該Rはベンジル基であることが好ましい。
上記式(3)中のRは、アラルキル基、又は炭素数が6以上、20以下である脂肪族炭化水素基であることが好ましい。この場合には、第1の液体材料中での有機電解質の溶解度及び解離度を好適な範囲に制御できる。このため、低電圧で駆動可能であり、かつ安定的な性能を発揮するEW素子が得られる。
上記式(3)中の窒素原子上の置換基の数は1又は2であることが好ましい。従って、上記式(3)中のnは1又は2であることが好ましい。一概に言えないが、Rが長鎖アルキル基(例えば炭素数が10以上のアルキル基)である場合には、nは1であることが好ましい。Rが短鎖アルキル基(例えば炭素数が9以下のアルキル基)である場合には、nは2であることが好ましい。
なお、第1の液体材料に含まれる上記有機電解質は、第1の液体材料中に予め含有されていてもよい。上記有機電解質を第2の液体材料に含有させ、第1の液体材料を構成する液体材料と有機電解質を含有する第2の液体材料とを接触させることにより、第2の液体材料から第1の液体材料を構成する液体材料に上記有機電解質を移行させて、第1の液体材料を得てもよい。上記有機電解質は第2の液体材料をゲル化させる場合がある。これを利用して、第2の液体材料をゲル化させ、プロセスを簡易化してもよい。
上記第1の液体材料は、必要に応じて酸化防止剤、紫外線防止剤、安定剤及び分散安定剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、析出しない範囲で無機電解質を含んでいてもよい。また更に、EW素子及びEWDの形態により、色素を含んでいてもよい。
(第2の液体材料)
上記第1の液体材料と上記第2の液体材料とは互い混ざり合わない。上記第2の液体材料(低表面エネルギー液体材料)は、表面エネルギーが35mJ/m2以下である溶媒を含むことが好ましい。上記第2の液体材料に含まれる溶媒の表面エネルギーは、より好ましくは30mJ/m2以下、更に好ましくは20mJ/m2以下である。上記第2の液体材料の表面エネルギーが上記上限以下であると、第1の液体材料と第2の液体材料との混合がより一層抑えられる。
使用及び保管時に、上記第2の液体材料が、固化又は結晶化したり、気化又は沸騰したりしないことが好ましい。従って、上記第2の液体材料に含まれる上記溶媒の融点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下、更に好ましくは−30℃以下、特に好ましくは−40℃以下である。上記第2の液体材料に含まれる上記溶媒の沸点は好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃を超え、更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。上記第2の液体材料に含まれる上記溶媒の沸点は180℃以上であってもよい。上記第2の液体材料に含まれる溶媒の融点及び沸点は、上記第2の液体材料に含まれる溶媒全体の融点及び沸点で判断される。
上記第2の液体材料の粘度が高いと、EW素子の動作速度が低下する。このため、上記第2の液体材料の粘度は、動作温度範囲の全領域において、好ましくは300mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以下、更に好ましくは30mPa・s以下である。すなわち、上記第2の液体材料の動作温度範囲における粘度の最高値が上記上限以下であることが好ましい。上記動作温度範囲は一般に−10〜80℃である。
上記第2の液体材料に含まれる上記溶媒は、有機溶媒であることが好ましい。上記第2の液体材料に含まれる上記溶媒としては、アルカン、シリコーン類及びフルオロカーボン等が挙げられる。上記アルカンとしては、直鎖又は分岐アルカンと環状アルカン等が挙げられる。上記直鎖又は分岐アルカンとしては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン及びドデカン等が挙げられる。上記環状アルカンとしては、シクロヘキサン及びシクロヘプタン等が挙げられる。上記シリコーン類としては、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルペンタシロキサン等が挙げられる。これら以外の溶媒を用いてもよい。上記第2の液体材料において、上記溶媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記第2の液体材料は、一般に着色材料を含む。上記第2の液体材料は、着色材料を含むことが好ましい。上記着色材料は特に限定されない。上記着色材料として、無機系着色材料及び有機系着色材料のいずれも使用可能である。上記無機系着色材料としては、酸化チタン及びカーボンブラック等が挙げられる。上記有機系着色材料としては、フタロシアニン、アゾ化合物及びアントラキノン等が挙げられる。また、上記着色材料として、顔料及び染料のいずれも使用可能である。EW素子に用いられる着色材料は、低表面エネルギー液体に溶解又は分散するが、高表面エネルギー液体に溶解又分散しない性質を有する必要がある。このため、上記着色材料として、適宜の疎水性を有する着色材料が用いられ、疎水性顔料及び疎水性染料等が好適に用いられる。疎水性を高めるために、上記着色材料は、疎水化処理されていてもよい。
上記第2の液体材料において、上記溶媒と上記着色材料との組み合わせのうち、直鎖又は分岐アルカンと、カーボンブラックなどの疎水性顔料又はアルキル基変性された染料との組み合わせが好ましい。但し、この組み合わせに限定されない。
上記第2の液体材料は、必要に応じて酸化防止剤、紫外線防止剤、安定剤、分散安定剤、界面活性剤又は疎水性電解質等の添加剤を含んでいてもよい。
(EW素子及びEWDの他の詳細)
以上のように、第1の液体材料中に特定の上記有機電解質を含有させることにより、第1の液体材料の極性が高くなり、第1,第2の液体材料の界面が明確になる。また、第1の液体材料の選択幅が広がることにより、より低電圧でより速い応答速度でEW素子及びEWDを動作させることが可能になり、省エネルギーでかつ良好にEW素子及びEWDを動作させることができる。例えば、良好に動画再生可能になる。特に、省エネルギー化は、EW素子及びEWDを携帯機器用ディスプレイとして有効に用いることを可能にする。本発明では、EWDを反射型又は半透過型ディスプレイとして有効に用いることができる。また、本発明では、EWDを、電子書籍端末、タブレットコンピュータ及び携帯電話端末に有効に用いることができる。
また、第1の液体材料に含まれる有機溶媒、有機電解質を適宜選択して用いることにより、安定性、解離性、溶解性及びコストなどに適したEW素子用の第1の液体材料を提供できる。この結果、低電圧で、長期間安定した性能を発揮するEW素子及びEWDを安価に提供できる。
以下、具体的な実施の形態について以下に説明する。なお、本発明は、以下に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。なお、溶媒、試薬は特に記載のない限り和光純薬工業社製の試薬を、特に精製することなく用いた。
(実施例1)
(基板の作製)
従来の手法により製造した第2の基板12を作製した。この第2の基板12の表面は、フッ素樹脂溶液:AF1600(デュポン社製)を用いて、スピンコート法により撥水化されている。撥水化層の厚みは1μmとなるように調整されている。この第2の基板12では、フォトレジスト:SU−8(化薬マイクロケム社製)を用いて、高さ20μm、幅10μmの画素壁15が形成されている。画素壁の間隔は80μmである。これは約1インチあたり300画素(ピクセル)の解像度に相当する。
また、第2の基板12では、外周に沿って、光硬化性のシール材17としてA785(積水化学工業社製)をディスペンサーで塗布することで、シールパターンが形成されている。
(有機電解質の合成)
200mLのナスフラスコに、L−ロイシン3.29g(25mmol)、1−ドデカノール9.34g(50mmol)、p−トルエンスルホン酸5.71g(30mmol)及びトルエン60mLを入れた。脱水装置を設置し、オイルバスで140℃にて溶液を6時間激しく還流させた。反応混合物を冷却した後、溶媒を減圧留去し、得られた固体をシクロヘキサン、続いてアセトンにて再結晶化した。9.0gの繊維状結晶を得た。収率は76%であった。構造及び純度は核磁気共鳴スペクトル(日本電子社製「ECX−400」)にて確認した。得られたアミノ酸塩エステル系電解質は、上記式(1)で表される有機電解質に相当する。
(EW素子の製造)
第2の液体材料14として、疎水性表面を有するカーボンブラック5質量%をウンデカン95質量%に溶解させた顔料混合体を用意した。第2の液体材料14を、画素壁15が形成された第2の基板12に満たし、第2の液体材料14の厚みを5μmとした。
合成したアミノ酸塩エステル系電解質0.1質量%をプロピレングリコール99.9質量%に溶解させて、第1の液体材料13を得た。得られた第1の液体材料13を、第2の液体材料14を充填した第2の基板12の上からゆっくり注ぎ込んだ。この際、第2の基板12から第2の液体材料14が舞い上がったり、他の画素に移行しないようにした。
第1の液体材料13の注入後に、第1の基板11を貼り合わせて、EW素子を備えており、表示部を有するEWD1を得た。
(EW素子の動作確認)
得られたEWD1の画素電極12Eに、0V/10Vのパルス電圧で1ヘルツの電圧を印加したところ、電圧の上下に応答して、第2の液体材料14と第1の液体材料13との界面形状が変化し、図2に示したような画素領域の開口と閉口とが観察された。
(実施例2)
実施例1と同様にして基板を作製した。また、実施例1で得られたアミノ酸塩エステル系電解質を用意した。
(EW素子の製造)
後の段階で第2の液体材料となる液体材料(有機電解質を含む)を得るために、疎水性表面を有するカーボンブラック5質量%をウンデカン95質量%に溶解させた顔料混合体を用意した。この顔料混合体97質量部に、実施例1で合成したアミノ酸塩エステル系電解質3質量部を加え、加熱して溶かして、有機電解質を含む液体材料を得た。得られた有機電解質を含む液体材料は、室温(20℃)で冷却するとゲル化した。得られた有機電解質を含む液体材料を再度加熱し、液化させた後、画素壁15が形成された第2の基板12に満たし、有機電解質を含む液体材料の厚みを5μmとしたところ、画素内で有機電解質を含む液体材料はゲル化した。
ここに、後の段階で第1の液体材料13を構成するプロピレングリコール(有機電解質を溶解させていない)を、有機電解質を含む液体材料を充填した第2の基板12の上からゆっくり注ぎ込んだ。この際、上記有機電解質を含む液体材料はゲル化しているため、注入は容易であった。
プロピレングリコールの注入後に、第1の基板11を貼り合わせた。貼り合わせてから1時間後、上記有機電解質を含む液体材料の流動化を確認した。すなわち、上記有機電解質を含む液体材料からプロピレングリコールに有機電解質が移行したことを確認した。有機電解質が移行した後、有機電解質を含む第1の液体材料13と有機電解質を実質的に含まない第2の液体材料14とが形成された。得られた第1の液体材料13における上記有機電解質の濃度は0.15質量%であった。このようにして、EW素子を備えており、表示部を有するEWD1を得た。
(EW素子の動作確認)
得られたEWD1の画素電極12Eに、0V/10Vのパルス電圧で1ヘルツの電圧を印加したところ、電圧の上下に応答して、第2の液体材料14と第1の液体材料13との界面形状が変化し、図2に示したような画素領域の開口と閉口とが観察された。
(比較例1)
有機電解質を用いなかったこと以外は、実施例1と同様に、基板を作製し、EW素子を製造した。
(EW素子の動作確認)
得られたEWDの画素電極に、0V/10Vのパルス電圧で1ヘルツの電圧を印加をしたところ、第2の液体材料と第1の液体材料との界面形状の変化がわずかに認められたが、第2の液体材料がほぼ全面を覆ったままであり、画像変化として肉眼で捉えることはできなかった。
比較例1では、画素電極に0V/50Vのパルス電圧を加えたところで、画素領域の開口と閉口とが観察された。従って、実施例1,2で得られたEW素子と比較例1で得られたEW素子とでは、動作する電圧が全く異なっていた。
(実施例3)
実施例1と同様にして基板を作製した。
(EW素子の製造)
第2の液体材料14として、疎水性表面を有するカーボンブラック5質量%をウンデカン95質量%に溶解させた顔料混合体を用意した。第2の液体材料14を、画素壁15が形成された第2の基板12に満たし、第2の液体材料14の厚みを5μmとした。
上記式(2)で表される有機電解質に相当するジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムを用意した。
ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム0.01質量%をプロピレングリコール99.99質量%に溶解させて、第1の液体材料13を得た。得られた第1の液体材料を、第2の液体材料14を充填した第2の基板12の上からゆっくり注ぎ込んだ。
第1の液体材料13の注入後に、第1の基板11を貼り合わせて、EW素子を備えており、表示部を有するEWD1を得た。
(EW素子の動作確認)
得られたEWD1の画素電極12Eに、0V/10Vのパルス電圧で1ヘルツの電圧を印加したところ、電圧の上下に応答して、第2の液体材料14と第1の液体材料13との界面形状が変化し、図2に示したような画素領域の開口と閉口とが観察された。
(実施例4)
実施例1と同様にして基板を作製した。
(有機電解質の合成)
50mLのサンプル管に、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム1gとレゾルシノール5gとを加え、エタノール20mLをさらに加え、60℃で加熱攪拌した後、減圧乾燥し、白色の固体を得た。得られた複合有機電解質は、上記式(2)で表される化合物に相当する。
(EW素子の製造)
疎水性表面を有するカーボンブラック5質量%をウンデカン95質量%に溶解させた顔料混合体を用意した。この顔料混合体94質量部に、合成した複合有機電解質6質量部を加え、加熱して溶かして、有機電解質を含む液体材料を得た。得られた有機電解質を含む液体材料は、室温(20℃)で冷却するとゲル化した。得られた有機電解質を含む液体材料を再度加熱し、液化させた後、画素壁15が形成された第2の基板12に満たし、有機電解質を含む液体材料の厚みを5μmとしたところ、画素内で有機電解質を含む液体材料はゲル化した。
ここに、後の段階で第1の液体材料13を構成するプロピレングリコール(有機電解質を溶解させていない)を、有機電解質を含む液体材料を充填した第2の基板12の上からゆっくり注ぎ込んだ。この際、上記有機電解質を含む液体材料はゲル化しているため、注入は容易であった。
プロピレングリコールの注入後に、第1の基板11を貼り合わせた。貼り合わせてから1時間後、上記有機電解質を含む液体材料の流動化を確認した。すなわち、上記有機電解質を含む液体材料からプロピレングリコールに有機電解質が移行したことを確認した。有機電解質が移行した後、有機電解質を含む第1の液体材料13と有機電解質を実質的に含まない第2の液体材料14とが形成された。得られた第1の液体材料13における上記有機電解質の濃度は0.05質量%であった。このようにして、EW素子を備えており、表示部を有するEWD1を得た。
(EW素子の動作確認)
得られたEWD1の画素電極12Eに、0V/10Vのパルス電圧で1ヘルツの電圧を印加したところ、電圧の上下に応答して、第2の液体材料14と第1の液体材料13との界面形状が変化し、図2に示したような画素領域の開口と閉口とが観察された。
(実施例5)
実施例1と同様にして基板を作製した。
(電解質の合成)
50mLのサンプル管に、3−メチル桂皮酸1.62gとメタノール10mLとを入れて、3−メチル桂皮酸をメタノールに溶かした後、ジベンジルアミン1.97gをさらに加えて、溶液を得た。得られた溶液から溶媒を除去し、減圧乾燥して白色の固体を得た。得られた3−メチル桂皮酸ジベンジルアンモニウムは、上記式(3)で表される有機電解質に相当する。
(EW素子の製造)
第2の液体材料14として、疎水性表面を有するカーボンブラック5質量%をウンデカン95質量%に溶解させた顔料混合体を用意した。第2の液体材料14を、画素壁15が形成された第2の基板12に満たし、第2の液体材料14の厚みを5μmとした。
合成した3−メチル桂皮酸ジベンジルアンモニウム0.25質量%をプロピレングリコール99.75質量%に溶解させて、第1の液体材料13を得た。得られた第1の液体材料13を、第2の液体材料14を充填した第2の基板12の上からゆっくり注ぎ込んだ。
第1の液体材料13の注入後に、第1の基板11を貼り合わせて、EW素子を備えており、表示部を有するEWD1を得た。
(EW素子の動作確認)
得られたEWD1の画素電極12Eに、0V/10Vのパルス電圧で1ヘルツの電圧を印加したところ、電圧の上下に応答して、第2の液体材料14と第1の液体材料13との界面形状が変化し、図2に示したような画素領域の開口と閉口とが観察された。
(実施例6)
実施例1と同様にして基板を作製した。また、実施例5で得られた3−メチル桂皮酸ジベンジルアンモニウムを用意した。
(EW素子の製造)
疎水性表面を有するカーボンブラック5質量%をウンデカン95質量%に溶解させた顔料混合体を用意した。この顔料混合体95質量部に、実施例5で得られた3−メチル桂皮酸ジベンジルアンモニウム5質量部を加え、加熱して溶かして、有機電解質を含む液体材料を得た。室温(20℃)で冷却するとゲル化した。得られた有機電解質を含む液体材料を再度加熱し、液化させた後、画素壁15が形成された第2の基板12に満たし、有機電解質を含む液体材料の厚みを5μmとしたところ、画素内で有機電解質を含む液体材料はゲル化した。
ここに、後の段階で第1の液体材料13を構成するプロピレングリコール(有機電解質を溶解させていない)を、有機電解質を含む液体材料を充填した第2の基板12の上からゆっくり注ぎ込んだ。この際、上記有機電解質を含む液体材料はゲル化しているため、注入は容易であった。
プロピレングリコールの注入後に、第1の基板11を貼り合わせた。貼り合わせてから1時間後、上記有機電解質を含む液体材料の流動化を確認した。すなわち、上記有機電解質を含む液体材料からプロピレングリコールに有機電解質が移行したことを確認した。有機電解質が移行した後、有機電解質を含む第1の液体材料13と有機電解質を実質的に含まない第2の液体材料14とが形成された。得られた第1の液体材料13における上記有機電解質の濃度は0.25質量%であった。このようにして、EW素子を備えており、表示部を有するEWD1を得た。
(EW素子の動作確認)
得られたEWD1の画素電極12Eに、0V/10Vのパルス電圧で1ヘルツの電圧を印加したところ、電圧の上下に応答して、第2の液体材料14と第1の液体材料13との界面形状が変化し、図2に示したような画素領域の開口と閉口とが観察された。
また、実施例1〜6で得られたEWDでは、長期間、安定して用いることができ、また、高温及び低温の温度条件下のストレスにも耐え得ることを確認した。実施例1〜6で得られたEWDでは、印加電圧が低減され、駆動速度が速いため、例えば、表示素子として好適に用いることができる。