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JP5100974B2 - 油脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物に関する。
世の中の健康指向を背景に、油脂中の脂肪酸の機能について、多数の研究がなされてきている。例えば、飽和脂肪酸やトランス型不飽和脂肪酸の健康への影響について報告がある(非特許文献1、2参照)。
また、共役リノール酸やジアシルグリセロールに、抗肥満作用等が見出されている(特許文献1〜5参照)。更に、ω3系脂肪酸、リノール酸といった特定の脂肪酸含量の高いジアシルグリセロールを含む油脂が知られている(特許文献6〜8参照)。
このほか、ジアシルグリセロールと植物ステロールとを組合せることが既に知られており、血中コレステロール値改善効果等が見出されている(特許文献9〜14参照)。
ジアシルグリセロールを調理油用途に使用すると、油ちょう時の泡立ちが少ない、風味や食感が良好になる等の利点のあることが知られている(特許文献15、16参照)。また、乳化物にも応用できることが示されている(特許文献17〜19参照)。このような観点から、ジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物が、食用油として広く使用されている。
国際公開第96/06605号パンフレット 国際公開第98/37873号パンフレット 特開平4−300826号公報 特開平10−176181号公報 特開2001−64671号公報 国際公開第01/109899号パンフレット 国際公開第02/11552号パンフレット 欧州公開第0679712号明細書 国際公開第99/48378号パンフレット 特開2002−34453号公報 国際公開第00/73407号パンフレット 特開2000−206100号公報 特開2002−171931号公報 特開2001−335795号公報 特開平11−243857号公報 特開平2−190146号公報 特許1915615号公報 国際公開第96/32022号パンフレット 特開平3−8431号公報 "The New England Journal of Medicine",USA,the Massachusetts Medical Society,1999年、340巻、25号、p.1933−1940 U.S.FDA、"Questions and Answers about Trans Fat Nutrition Labeling"、[online]、インターネット<URL: HYPERLINK "http://www.cfsan.fda.gov/~dms/qatrans2.html" http://www.cfsan.fda.gov/〜dms/qatrans 2.html>
従来のジアシルグリセロール高含有油脂組成物を用いた場合、保存条件や調理条件によっては、調理品の外観、風味の点で、必ずしも十分に満足いくものが得られないケースが出現することが、今回明らかとなった。すなわち、ジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物を用いて調理すると、メニューによっては、調理品にくすみが生じて外観が損なわれたり、調理品が本来有する好ましい風味が劣化してしまう場合が発見された。また、露光条件で保存した後に調理すると、その傾向が顕著となる場合が発見された。
本発明者らが検討したところ、上記問題点には、ジアシルグリセロール含有油脂中の共役不飽和脂肪酸、トランス不飽和脂肪酸、植物ステロールと植物ステロール脂肪酸エステルが関係していることを突き止め、これらの含有量を一定範囲に調整すれば上記問題点が解決できることを見出した。
本発明は、次の(A)、(B)及び(C):
(A)構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が80質量%以上であるジアシルグリセロールを15質量%以上含有し、かつ油脂を構成する全脂肪酸中の共役不飽和脂肪酸含量が1質量%以下で、トランス不飽和脂肪酸含量が4質量%以下である油脂 100質量部
(B)植物ステロール 0.01〜4.7質量部
(C)植物ステロール脂肪酸エステル 0.2〜8質量部
を含有する油脂組成物を提供するものである。
本発明によれば、例えば、本発明のジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物を使用して加熱調理しても、得られた調理品にくすみがなく外観が良好で、調理品本来の風味が生きている。更に、例えば、本発明のジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物を露光条件で保存した後に調理しても、得られた調理品に良好な外観、風味が付与できる。
前記組成物の各々の成分、すなわち、油脂(A)、植物ステロール(B)、植物ステロール脂肪酸エステル(C)を、以下に詳細に説明する。また、油脂(A)の原料や製法、抗酸化剤(D)、結晶抑制剤(E)の好ましい又は推薦される態様も説明する。更に、本発明の組成物の食品、医薬品、飼料への応用に関する好ましい又は推薦される態様も説明する。更に、本発明のいくつかの組成物に関する一連の非制限的な例を提示する。
本発明の態様において、油脂組成物で使用される油脂(A)は、ジアシルグリセロール(DG)を15質量%(以下、単に%で示す)以上含有するが、15〜95%含有するのが好ましく、より好ましくは35〜95%、更に50〜95%、更に70〜93%、特に75〜93%、特に80〜90%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で好ましい。
本発明の態様において、油脂(A)に含まれるジアシルグリセロールは、その構成脂肪酸の80〜100%が不飽和脂肪酸(UFA)であるが、好ましくは90〜100%、更に93〜100%、特に93〜98%、特に94〜98%であるのが外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点でよい。ここで、この不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、更に16〜22であるのが好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は20〜65%、好ましくは25〜60%、特に30〜50%、特に30〜45%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。更に外観、生理効果の点から、ジアシルグリセロール中のジオレイルグリセロールの含有量は、45%未満、更に0〜40%が好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノール酸の含有量は15〜65%、好ましくは20〜60%、特に30〜55%、特に35〜50%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。更に、酸化安定性、生理効果の点から、ジアシルグリセロール中のリノール酸/オレイン酸の含有質量比が0.01〜2.0、好ましくは0.1〜1.8、特に0.3〜1.7であることが望ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノレン酸の含有量は15%未満、好ましくは0〜13%、更に1〜10%、特に2〜9%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランス、酸化安定性の点で望ましい。リノレン酸には、異性体としてα−リノレン酸とγ−リノレン酸が知られているが、α−リノレン酸が好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸(SFA)の含有量は20%未満であるが、0〜10%、更に0〜7%、特に2〜7%、特に2〜6%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点でよい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が特に好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸の含有量は、0〜4%、好ましくは0.1〜3.5%、更に0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、共役不飽和脂肪酸の含有量は1%以下であるが、好ましくは0.01〜0.9%、更に0.1〜0.8%、特に0.2〜0.75%、特に0.3〜0.7%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中、炭素数12以下の脂肪酸の含有量は、風味の点で5%以下であるのが好ましく、更に0〜2%、特に0〜1%、実質的に含まないのが更に好ましい。残余の構成脂肪酸は炭素数14〜24、特に16〜22であるのが好ましい。
また、生理効果、保存性、油脂の工業的生産性及び風味の点から、ジアシルグリセロール中の1,3−ジアシルグリセロールの割合が50%以上、より好ましくは52〜100%、更に54〜90%、特に56〜80%であるジアシルグリセロールを用いるのが好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物で使用される油脂(A)は、トリアシルグリセロール(TG)を4.9〜84.9%、更に4.9〜64.9%、更に6.9〜39.9%、特に6.9〜29.9%、特に9.8〜19.8%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で望ましい。
本発明の態様において、油脂(A)に含まれるトリアシルグリセロールの構成脂肪酸はジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
本発明の態様において、油脂(A)に含まれるトリアシルグリセロールの構成脂肪酸は、80〜100%、好ましくは90〜100%、更に93〜100%、特に93〜98%、特に好ましくは94〜98%が不飽和脂肪酸であるのが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は10〜24、好ましくは16〜22であるのが生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物で使用される油脂(A)は、モノアシルグリセロール(MG)を0.1〜5%、更に0.1〜2%、更に0.1〜1.5%、特に0.1〜1.3%、特に0.2〜1%含有するのが風味、外観、発煙、油脂の工業的生産性等の点で好ましい。電子レンジ調理により加熱されやすいという点でモノアシルグリセロールは0.1%以上含有するのが好ましく、電子レンジ調理中の発煙等安全性の点から5%以下が好ましい。モノアシルグリセロールの構成脂肪酸はジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
また、本発明の態様において、油脂(A)に含まれる遊離脂肪酸(塩)含量は、5%以下に低減されるのが好ましく、より好ましくは0〜3.5%、更に0〜2%、特に0.01〜1%、特に0.05〜0.5%とするのが風味、発煙防止、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
本発明の態様において、油脂(A)を構成する全脂肪酸中、炭素−炭素二重結合を4つ以上有する脂肪酸の含有量は、酸化安定性、作業快適性、生理効果、着色、風味等の点で0〜40%、好ましくは0〜20%、更に0〜10%、特に0〜1%であるのがよく、実質的に含まないのが更に好ましい。
本発明の態様において、油脂(A)を構成する全脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸の含有量は、0〜4%であり、好ましくは0.1〜3.5%、更に0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
本発明においては、トランス不飽和脂肪酸は、AOCS法(American Oil Chem.Soc.Official Method:Ce1f−96、2002年)で測定した値のことである。
本発明の態様において、油脂(A)を構成する全脂肪酸のうち、共役不飽和脂肪酸の含有量は1%以下であるが、好ましくは0.01〜0.9%、更に0.1〜0.8%、特に0.2〜0.75%、特に0.3〜0.7%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。共役不飽和脂肪酸のうち、共役ジエン不飽和脂肪酸の含量は0.85%以下であるのが好ましく、更に0.01〜0.8%、特に0.1〜0.75%、特に0.2〜0.7%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。共役不飽和脂肪酸のうち、共役トリエン不飽和脂肪酸の含量は0.1%以下であるのが好ましく、更に0.001〜0.09%、特に0.002〜0.05%、特に0.005〜0.02%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。共役テトラエン不飽和脂肪酸及び、共役ペンタエン不飽和脂肪酸は、0.05%以下であるのが好ましく、更に0〜0.01%、特に0〜0.005%、特に0であるのが好ましい。
本発明においては、共役不飽和脂肪酸量は、基準油脂分析試験法「共役不飽和脂肪酸(スペクトル法)2.4.3−1996」(日本油化学協会編)に従って定量した値のことである。
本発明の態様において、油脂(A)の起源としては、植物性、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、魚油等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものであることが、油脂(A)を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。また、生理効果、製品が白濁せず外観が良好となる点から、不飽和脂肪酸含有量が高い植物油が好ましく、中でも菜種油、大豆油がより好ましい。
本発明の態様において、原料油脂は、それぞれの原料となる植物、又は動物から搾油後、油分以外の固形分をろ過や遠心分離等により除去するのが好ましい。次いで、水、場合によっては更に酸を添加混合した後、遠心分離等によってガム分を分離することにより脱ガムすることが好ましい。また、原料油脂は、アルカリを添加混合した後、水洗することにより脱酸を行うことが好ましい。更に、原料油脂は、活性白土等の吸着剤と接触させた後、吸着剤をろ過等により分離することにより脱色を行うことが好ましい。これらの処理は、以上の順序で行うことが好ましいが、順序を変更しても良い。また、この他に、原料油脂は、ろう分の除去のために、低温で固形分を分離するウインタリングを行っても良い。更に、原料油脂は、減圧下で水蒸気と接触させることにより、脱臭することが好ましい。この際、熱履歴を極力低くすることが油脂のトランス不飽和脂肪酸、共役不飽和脂肪酸を低減する点から好ましい。脱臭工程の条件については、前記と同様の理由から、温度は300℃以下、特に270℃以下にコントロールすることが好ましく、また、時間は10時間以下、特に5時間以下とすることが好ましい。
更に、原料油脂としては、脱臭油の他、予め脱臭されていない未脱臭油脂を用いることができる。本発明においては、原料の一部又は全部に、未脱臭油脂を使用するのが、油脂のトランス不飽和脂肪酸、共役不飽和脂肪酸を低減し、原料油脂由来の植物ステロール、植物ステロール脂肪酸エステル、トコフェロールを油脂組成物に残存させることができるので好ましい。
本発明の態様において、油脂(A)は、上述した油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応等により得ることができる。反応により生成した過剰のモノアシルグリセロールは分子蒸留法又はクロマトグラフィー法により除去することができる。これらの反応はアルカリ触媒等を用いた化学反応でも行うことができるが、1,3−位選択的リパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが風味等の点で優れており好ましい。
本発明の態様において、油脂(A)を構成する脂肪酸は、原料油脂を加水分解して製造することができる。原料油脂の加水分解は、高圧分解法、及び酵素分解法により行うことができる。当該工程においては、油脂のトランス不飽和脂肪酸や共役不飽和脂肪酸の含有量を低減し、原料油脂由来の植物ステロール、植物ステロール脂肪酸エステルを残存させることができるので、原料油脂の一部又は全部を熱履歴の低い酵素分解法により加水分解することが好ましい。油脂のトランス不飽和脂肪酸含有量の低減のみを目的とするならば、原料油脂の全てを熱履歴の低い酵素分解法により加水分解することが好ましい。しかし、高圧分解法により加水分解する原料油脂の割合を30%以上、更に35〜95%、特に40〜90%とすることが、油脂のトランス不飽和脂肪酸を低減しつつ、かつ風味、及び色相を高品質なものとする点、及び油脂の工業的生産性の点から好ましい。
また、原料油脂の加水分解において、高圧分解法、及び酵素分解法を組み合わせて加水分解する方法としては、(w)原料油脂の一部を高圧分解法、他方を酵素分解法とするのみならず、(x)原料油脂の全部を高圧分解法で途中まで加水分解し、その後酵素分解法により加水分解を行う方法、(y)原料油脂の全部を酵素分解法で途中まで加水分解し、その後高圧分解法により加水分解を行う方法、又は(z)原料油脂の一部を前記(x)で、他方を前記(y)で行う方法等が挙げられる。
原料油脂の色相は、American Oil Chemists.Society Official Method Cc 13e−92(Lovibond法)に従い測定した。次の式(1)にて定義される原料油脂の色相Cは30以下であることが好ましく、1〜25であることがより好ましく、5〜20であることが、最終製品の品質(風味、色相)の点から特に好ましい。
式(1)
C=10R+Y (1)
ここで、測定には、133.4mmセルを使用する。Red値をR、Yellow値をYとし、Cは、Red値を10倍した値とYellow値を加えた値(10R+Y)とする。
本発明の態様において、脱臭工程後の原料油脂の色相が上記条件を満たさない場合には高圧分解法により加水分解することが好ましく、上記条件を満たす場合には酵素分解法により加水分解することが、最終製品において色相が良くかつトランス不飽和脂肪酸含量が低減され、高品質のものとなる点から好ましい。
また、原料油脂を構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸が既に高いものは、得られる脂肪酸、又は油脂中のトランス不飽和脂肪酸や共役不飽和脂肪酸の含有量を極力増加させない点から、酵素分解法により加水分解することが好ましい。原料油脂を構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸が低いものについては、高圧分解法により加水分解することが、工程の効率化、油脂の風味及び色相の点から好ましい。高圧分解法による加水分解に供する原料油脂としては、原料油脂を構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸含量が1%以下、より好ましくは0.01〜0.8%、特に0.1〜0.5%であることが好ましい。更に、高圧分解法と酵素分解法を組み合わせて加水分解する場合、原料油脂全体中のトランス不飽和脂肪酸含有量は1.5%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下であることが、最終製品中のトランス不飽和脂肪酸含有量を低減させる点からより好ましい。ここで、トランス不飽和脂肪酸含有量は、油脂を2種以上使用する場合は、それらの合計量中の含有量である。
更に、原料油脂中の構成脂肪酸の不飽和度が高いものほど、加熱によるトランス化が起こり易いため、不飽和度の高い脂肪酸を多く含む油脂は、酵素分解法により加水分解することが好ましい。特に、不飽和度が1であるオレイン酸の場合は、加熱によってはほとんどトランス化が起こらず、不飽和度が2以上である脂肪酸、例えばリノール酸やリノレン酸の場合は、トランス化が顕著となる。よって、酵素分解法による加水分解に供する原料油脂としては、原料油脂を構成する脂肪酸のうち、不飽和度が2以上の脂肪酸含量が40%以上、更に50〜100%、特に60〜90%であることが好ましい。また、不飽和度が高度になるほどトランス化が顕著となるため、不飽和度が3以上の脂肪酸を10%以上含む原料油脂は、酵素分解法により加水分解することが好ましい。
本発明の態様において、高圧分解法は、220〜270℃の高圧熱水を用い、原料油脂を2〜6時間かけて加水分解するが、油脂の工業的生産性、着色、トランス不飽和脂肪酸、共役不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から高圧熱水の温度は、好ましくは225〜265℃、更に230〜260℃とすることが好ましい。また、時間は同様の点から2〜5時間、更に2〜4時間とすることが好ましい。
本発明の態様において、酵素分解法において使用する油脂分解用酵素としては、リパーゼが好ましい。リパーゼは、動物由来、植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼを使用することもできる。
本発明の態様において、脂肪酸とグリセリンをエステル化する方法は、化学合成法、酵素法のいずれでも可能であるが、最終油脂製品中のトランス不飽和脂肪酸含有量を増加させないという点から、酵素法によるのが好ましい。
本発明の態様において、エステル化に用いる酵素としては、リパーゼを用いることが好ましいが、特にジアシルグリセロール等の機能性油脂の製造を目的とする場合、選択的にジアシルグリセロールを合成しやすいリゾプス(Rizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等が挙げられる。
また、エステル化に用いる酵素は、固定化されたものを用いることが、コストの点から好ましい。
本発明の態様において、エステル化を行い製造したグリセリドは、後処理を行うことにより製品とすることができる。後処理は、脱酸(未反応の脂肪酸を除去)、酸処理、水洗、脱臭を行うことが好ましい。脱臭温度は、200〜280℃が好ましい。脱臭時間は、2分から2時間が好ましい。脱臭時の圧力は、0.01〜5kPaが好ましい。脱臭時の水蒸気量は、原料油脂に対して、0.1〜10%が好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物には、植物ステロール(B)を含有する必要がある。本発明において、植物ステロールは、成分(C)と異なり、その水酸基が、脂肪酸とエステル結合せずに遊離状態(遊離体)であるものをいう。本発明の態様において、成分(B)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して、0.01〜4.7質量部、好ましくは0.02〜4.6質量部、更に0.03〜4.5質量部、特に0.05〜4.4質量部、特に0.1〜4.3質量部であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
また、植物ステロール(B)として、植物油由来のものを残存させる場合には、その含有量は、油脂(A)100質量部に対して、0.01〜1.0質量部、好ましくは0.02〜0.5質量部、更に0.03〜0.3質量部、特に0.05〜0.25質量部、特に0.1〜0.22質量部であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
更に、植物油由来のものの他に別途添加する場合には、成分(B)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して、1.0超4.7質量部以下、好ましくは1.2〜4.6質量部、更に2.0〜4.5質量部、特に3.0〜4.4質量部、殊更3.5〜4.3質量部であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
本発明の態様において、植物ステロール(遊離体)には、植物スタノール(遊離体)も含まれる。植物ステロール(遊離体)としては、例えばブラシカステロール、イソフコステロール、スチグマステロール、7−スチグマステノール、α−シトステロール、β−シトステロール、カンペステロール、ブラシカスタノール、イソフコスタノール、スチグマスタノール、7−スチグマスタノール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール、コレステロール、アベナステロール等が挙げられる。これら植物ステロールのうち、ブラシカステロール、カンペステロール、スチグマステロール、β−シトステロールが、油脂の工業的生産性、風味の点で好ましい。
植物ステロール中、ブラシカステロール、カンペステロール、スチグマステロール、β−シトステロールの合計含有量は90%以上であるのが好ましく、更に92〜100%、特に94〜99%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、ブラシカステロールの含有量は0.5〜15%であるのが好ましく、更に0.7〜11%、特に3〜10%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、カンペステロールの含有量は10〜40%であるのが好ましく、更に20〜35%、特に23〜29%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、スチグマステロールの含有量は3〜30%であるのが好ましく、更に11〜25%、特に17〜24%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、β−シトステロールの含有量は20〜60%であるのが好ましく、更に30〜56%、特に42〜51%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、コレステロールの含有量は1%以下であるのが好ましく、更に0.01〜0.8%、特に0.1〜0.7%、特に0.2〜0.6%であるのが、血中コレステロール低下、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物は、植物ステロール脂肪酸エステル(C)を含有する。成分(C)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して、0.2〜8質量部、好ましくは0.25〜5質量部、更に0.3〜3質量部、特に0.33〜1質量部、特に0.35〜0.5質量部含有するのが、風味、外観の点で好ましい。共役酸の生成を抑制するために0.2質量部以上必要である。良好な外観、溶解性を保持するためには、8質量部以下であることが必要である。
本発明の態様において、植物ステロール脂肪酸エステルには、植物スタノール脂肪酸エステルも含まれる。植物ステロール脂肪酸エステルとしては、例えばブラシカステロール脂肪酸エステル、イソフコステロール脂肪酸エステル、スチグマステロール脂肪酸エステル、7−スチグマステノール脂肪酸エステル、α−シトステロール脂肪酸エステル、β−シトステロール脂肪酸エステル、カンペステロール脂肪酸エステル、ブラシカスタノール脂肪酸エステル、イソフコスタノール脂肪酸エステル、スチグマスタノール脂肪酸エステル、7−スチグマスタノール脂肪酸エステル、α−シトスタノール脂肪酸エステル、β−シトスタノール脂肪酸エステル、カンペスタノール脂肪酸エステル、シクロアルテノール脂肪酸エステル、コレステロール脂肪酸エステル、アベナステロール脂肪酸エステル等が挙げられる。これら植物ステロール脂肪酸エステルのうち、ブラシカステロール脂肪酸エステル、カンペステロール脂肪酸エステル、スチグマステロール脂肪酸エステル、β−シトステロール脂肪酸エステルが、油脂の工業的生産性、風味の点で好ましい。
本発明の態様において、植物ステロール脂肪酸エステル中、ブラシカステロール脂肪酸エステル、カンペステロール脂肪酸エステル、スチグマステロール脂肪酸エステル、β−シトステロール脂肪酸エステルの合計含有量及び、各々の含有量は、植物ステロール遊離体換算で、成分(B)と同様であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
本発明の態様において、植物ステロール脂肪酸エステル(C)を構成する脂肪酸のうち、不飽和脂肪酸の含有量は、80%以上であるのが好ましく、更に85〜100%、特に86〜98%、特に88〜93%であるのが、風味、外観、低温での保存性、結晶析出、油脂の工業的生産性、酸化安定性、生理効果の点で好ましい。尚、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸と異なるのが、油脂の工業的生産性、酸化安定性の点で好ましい。
本発明の態様において、成分(B)と成分(C)の質量比((B)/(C))は、1.3以下であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.2、更に0.2〜1、特に0.3〜0.8、特に0.4〜0.7であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。このような組成とするには、原料油脂の一部又は全部に、未脱臭油脂を用い、しかも加水分解工程を、酵素分解法単独で行うか、又は酵素分解法と高圧分解法とを組合せで行うのが好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物中の水分量は、風味、低温における外観の点から、1300ppm以下であるのが好ましく、更に10〜1100ppm、特に100〜1000ppm、殊更200〜900ppmであるのが好ましい。
本発明の態様において、成分(A)に、成分(B)及び/又は(C)を配合すると、配合する成分(B)及び/又は(C)に含まれている水分が、風味、低温における外観に影響する場合がある。これを防止するために、予め水分量の低い成分(B)及び/又は(C)を油脂(A)に配合したり、成分(B)及び/又は(C)を成分(A)に配合した後に、減圧下で加熱して脱水操作を行うことにより、本発明の油脂組成物の水分量を低減させることが好ましい。更に、熱履歴をより低くしてトランス不飽和脂肪酸の生成を抑制するために、成分(A)に予め成分(B)及び/又は(C)を高含量配合した組成物(マスターバッチ)を製造し、上記脱水操作を行った後に、成分(A)を添加して希釈することにより、本発明の油脂組成物を製造することが好ましい。
本発明の態様において、マスターバッチを調製する際、成分(A)に成分(B)及び/又は(C)を溶解する時の温度は70〜160℃が好ましく、更に75〜140℃、特に80〜130℃、殊更85〜125℃にするのが、溶解性、風味、コストの点で好ましい。この場合、調製方法として次の4方法((i)〜(iv))が例示されるが、(i)が
好ましい。(i)予め成分(A)を加熱した後、成分(B)及び/又は(C)を溶解する
。(ii)予め成分(A)と、成分(B)及び/又は(C)を別々に加熱してから、これらを混合、溶解する。(iii)成分(A)と成分(B)及び/又は(C)とを混合してから、加熱、溶解する。(iv)予め成分(B)及び/又は(C)を加熱した後、成分(A)と混合、溶解する。
このように溶解して得られたマスターバッチの温度は、次の脱臭工程までは、溶解時の温度から±20℃以上、好ましくは±10℃以上変動しないように維持するのが、結晶析出防止、酸化安定性の点で好ましい。
本発明の態様において、脱水操作を行う際のマスターバッチ中の成分(B)及び(C)の含有量は、遊離の植物ステロール換算で10〜50%が好ましく、更に12〜32%、特に16〜28%、殊更18〜24%とすることが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。本発明の態様において、脱水時の加熱温度は60〜230℃が好ましく、更に70〜150℃、特に80〜110℃、殊更85〜99℃とするのが外観、トランス不飽和脂肪酸生成抑制、風味の点で好ましい。この場合、減圧下で、マスターバッチに水蒸気又は窒素ガスを吹き込みながら加熱するのが、脱水効率、風味の点で好ましい。
〔油脂組成物の製造例〕
成分(C)を含む油脂(A)80質量部(水分量800ppm)に、水分量1.5%の成分(B)を20質量部添加(成分(B)の組成:ブラシカステロール;9%、カンペステロール27%、スチグマステロール;22%、β−シトステロール;42質量%)し、120℃に加熱、溶解してマスターバッチを製造する。次いで、マスターバッチを、温度95℃、30torrの減圧下にて、水蒸気を吹き込みながら1時間脱臭する。本脱臭油脂に成分(A)を配合し、成分(B)の含有量が4.22%、成分(C)の含有量が0.26%となるように調製する。このようにして得られる油脂組成物の水分量は800ppmであり、風味、低温における外観が良好である。低温における外観の試験方法を以下に示す。
〔低温における外観の試験〕
油脂組成物45gを、50mLのガラスサンプル瓶に入れて密封後、次の冷却条件A又はBにて保存する。
冷却条件A:5℃にて4週間静置
冷却条件B:0℃にて1日間静置
保存後、各ガラスサンプル瓶中の結晶の析出状況を目視にて観察する。透明なものほど、低温における外観の評価は良好である。
本発明の態様において、油脂組成物は、抗酸化剤(D)を含有することが好ましい。抗酸化剤の含有量は、風味、酸化安定性、着色等の点で油脂(A)100質量部に対して、0.005〜0.5質量部であるのが好ましく、更に0.04〜0.25質量部、特に0.08〜0.2質量部であるのが好ましい。抗酸化剤としては、通常、食品に使用されるものであれば何れでもよい。例えば、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ターシャルブチルヒドロキノン(TBHQ)、ビタミンC又はその誘導体、リン脂質、ローズマリー抽出物等の天然抗酸化剤が挙げられるが、ビタミンE、ビタミンC又はその誘導体が好ましく、これらを併用するのが更に好ましい。
本発明の態様において、ビタミンEとしては、α、β、γ、δ−トコフェロール又はこれらの混合物を使用することができる。特に、酸化安定性の観点から、δ−トコフェロールが好ましい。ビタミンEの市販品としては、イーミックスD、イーミックス80(エーザイ(株)製)、MDE−6000((株)八代製)、Eオイル−400(理研ビタミン(株)製)等が挙げられる。本発明の態様において、ビタミンEの含有量は、油脂(A)100質量部に対して、トコフェロールとして0.02〜0.5質量部であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.4質量部、更に0.1〜0.3質量部、特に0.18〜0.25質量部、特に0.19〜0.22質量部であるのが好ましい。
本発明の態様において、ビタミンC又はその誘導体としては、油脂(A)に溶解するものが好ましく、高級脂肪酸エステル、例えばアシル基の炭素数が12〜22のものがより好ましく、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレートが特に好ましく、L−アスコルビン酸パルミテートが特に好ましい。
本発明の態様において、ビタミンC又はその誘導体の含有量は、油脂(A)100質量部に対して、アスコルビン酸として0.004〜0.1質量部が好ましく、0.006〜0.08質量部がより好ましく、0.008〜0.06質量部が特に好ましい。
また、本発明の油脂組成物が水と混合され、又は水を含む食品に使用された場合であって、長期保存又は明所保存される場合には、抗酸化剤としてL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを実質的に含ませず、ビタミンE、好ましくはδ−トコフェロールを使用することが、風味劣化、異味発生を防止する点から好ましい。この場合の風味劣化は、水相を含まないジアシルグリセロール含有油脂において生じた加熱調理時の劣化とは全く相違するものである。すなわち、水相を含まないジアシルグリセロール含有油脂の加熱調理時の劣化は、加熱による酸化によるものである。これに対し、本発明におけるジアシルグリセロールを含有する油相と水とを含む食品の保存後の風味劣化は、金属味及び異味の発生によるものである。
水を含む食品において、油脂(A)中のトランス型不飽和脂肪酸の含量が、全脂肪酸中4%を超える場合、長期保存後の風味劣化が著しい傾向にある。本発明の態様においては、抗酸化剤としてL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを実質的に含まず、ビタミンE、好ましくはδ−トコフェロールを使用することにより、このようなトランス型不飽和脂肪酸の含量が低いジアシルグリセロールを含有する油相を有する食品の風味劣化抑制に、特に有効である。
ここで、実質的に含まないとは、油相中のL−アスコルビン酸脂肪酸エステルの含量が15ppm以下であることをいう。また、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルとしては、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート等が挙げられる。δ−トコフェロールは、食品中に200ppm以上含有するのが、保存により金属味が発現し十分な風味劣化抑制効果が得られる点から好ましい。原料や製法にもよるが、ジアシルグリセロール含有油脂には、原料由来のδ−トコフェロールが50〜100ppm含まれている場合があるが、この量では十分な風味劣化抑制効果は得られない。当該食品中、好ましくは油相中の好ましいδ−トコフェロール含量は250〜1200ppmであり、より好ましくは300〜1000ppm、更に好ましくは350〜700ppm、特に好ましくは400〜600ppmである。
本発明の態様において、総トコフェロール中、α−トコフェロール及びβ−トコフェロールの合計量に対するδ−トコフェロール量の比(δ/(α+β):質量比)は、風味改善、コストの点で2より大であるのが好ましく、更に2.5〜20、特に3〜10、特に4〜8であるのが好ましい。
本発明の態様において、水を含む食品における油相/水相の質量比は、1/99〜99/1が好ましく、更に5/95〜90/10が好ましく、その比は食品の形態により適宜選択するのがより好ましい。分離型ドレッシングのように水相と油相が乳化せずに分離している食品の場合、油相/水相の質量比は、5/95〜80/20が好ましく、更に10/90〜60/40、特に20/80〜40/60であるのが好ましい。
本発明の態様において、水を含む食品の水相には、食品の目的に応じて、水、米酢、酒粕酢、リンゴ酢、ブドウ酢、穀物酢、合成酢等の食酢、食塩、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、砂糖、水飴等の糖類、酒、みりん、醤油等の呈味料、各種ビタミン、クエン酸等の有機酸及びその塩、香辛料、レモン果汁等の各種野菜又は果実の搾汁液を配合することができる。また、必要に応じて、本発明の食品にキサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ペクチン、トラガントガム等の増粘多糖類、馬鈴薯澱粉や化工澱粉等の澱粉類及びそれらの分解物、大豆タンパク質、乳タンパク質、卵タンパク質、小麦タンパク質等タンパク質類及びそれらの分解物や分離物、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンあるいはその酵素分解物等の乳化剤、牛乳等の乳製品、各種リン酸塩等を配合することができる。
本発明の態様において、油脂組成物に、更に結晶抑制剤(E)を添加することが好ましい。本発明で使用する結晶抑制剤としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステルが挙げられ、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、特にポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。またポリオール脂肪酸エステルのHLB価(Griffinの計算式、J.Soc.Cosmet.Chem.,1,311(1949))は4以下、特に0.1〜3.5であるのが好ましい。
本発明の態様においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、不飽和脂肪酸の含有量は50〜95%であるのが好ましく、更に51〜80%、特に52〜60%であるのが作業性、結晶抑制の点で好ましい。油脂へのポリグリセリン脂肪酸エステルの溶解を容易に行う点で、不飽和脂肪酸の含有量を50%以上とするのが好ましい。また、油脂の結晶化を抑制する点で、不飽和脂肪酸の含有量を95%以下とするのが好ましい。この不飽和脂肪酸の炭素数は10〜24、更に16〜22であるのが好ましい。具体的には、パルミトレイン酸、オレイン酸、ペトロセリン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ガトレン酸、エルカ酸等が挙げられ、オレイン酸、リノール酸、ガトレン酸が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する不飽和脂肪酸中、オレイン酸の含有量は80%以上であるのが好ましく、特に90〜99.8%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成不飽和脂肪酸中、リノール酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成不飽和脂肪酸中、ガトレン酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。
本発明の態様においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は5〜50%であるのが好ましく、更に20〜49%、特に40〜48%であるのが作業性、結晶抑制の点で好ましい。この飽和脂肪酸の炭素数は10〜24、更に12〜22であるのが好ましい。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられ、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する飽和脂肪酸中、パルミチン酸の含有量は80%以上であるのが好ましく、特に90〜99.8%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成飽和脂肪酸中、ミリスチン酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成飽和脂肪酸中、ステアリン酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。また、構成脂肪酸中のパルミチン酸とオレイン酸の質量比(C16:0/C18:1)は0.6〜1.2であるのが好ましく、更に0.7〜1.1、特に0.8〜1、特に0.8〜0.9であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。
本発明の態様において、結晶抑制剤(E)は、エステル化度80%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルであるのが好ましく、更にエステル化度85〜100%、特にエステル化度90〜100%であるのが、低温耐性の点から好ましい。ここで、エステル化度とは、ポリグリセリン1分子中の全水酸基数に対する、ポリグリセリン脂肪酸エステル1分子中のエステル化された水酸基数を百分率で表した数値(%)のことである。また、該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリンの平均重合度は2〜30であるのが好ましく、更に3〜20、特に3〜12であるのが、低温耐性の点から好ましい。本発明において、ポリグリセリンの平均重合度は、水酸基価から算出したものである。該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が52〜60%で、オレイン酸、リノール酸、ガトレン酸からなる不飽和脂肪酸中のオレイン酸含量が90〜99.8%であるのが特に好ましい。また、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が40〜48%で、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる飽和脂肪酸中のパルミチン酸含量が90〜99.8%であるのが特に好ましい。更に、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中のパルミチン酸とオレイン酸の質量比(C16:0/C18:1)が0.8〜0.9であることが好ましい。
本発明の態様において、結晶抑制剤(E)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して0.01〜2質量部、更に0.02〜0.5質量部、特に0.05〜0.2質量部であるのが作業性、風味、結晶抑制の点で好ましい。結晶抑制剤を用いた処方例を示す。
処方例
油脂(A) 100質量部
植物ステロール(B) 4.2質量部
植物ステロール脂肪酸エステル(C) 0.3質量部
結晶抑制剤(E)*1 0.075質量部
*1:ポリグリセリン脂肪酸エステルP(構成脂肪酸組成;C14:0=1.5質量%,C16:0=43.9質量%,C18:0=1.2質量%,C18:1=51.3質量%,C18:2=1.9質量%,C20:1=0.2質量%,エステル化度;80%以上)
本発明の態様において、油脂組成物に、更に炭素数2〜8の有機カルボン酸を添加することが好ましい。炭素数2〜8の有機カルボン酸の含有量は、油脂(A)100質量部に対して、0.001〜0.01質量部であるのが好ましく、更に0.0012〜0.007、特に0.0015〜0.0045質量部、特に0.0025〜0.0034質量部であるのが風味、外観、酸化安定性の点で好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物は、成分(A)が所定の組成となるよう原料油脂と製造方法を選択し、更に成分(B)及び、成分(C)が所定の割合となるように添加し、更に必要に応じて抗酸化剤(D)、結晶抑制剤(E)、有機酸(塩)等を添加し、適宜加熱、撹拌することにより得ることができる。また、ビタミンC誘導体、ビタミンE等の抗酸化剤は予めエタノール等の溶剤に溶解してから添加してもよい。
かくして得られた油脂組成物は、風味、食感、外観、作業性等の点で良好であるため、各種食品に応用することができる。
本発明の態様において、食品としては、該油脂組成物を食品の一部として含む油脂加工食品に用いることができる。かかる油脂加工食品としては、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品、機能性食品、特定保健用食品、メディカルフード等が挙げられる。具体的な製品としては、パン、ケーキ、ビスケット、パイ、ピザクラスト、ベーカリーミックス等のベーカリー食品類、スープ、ソース、乳化型ドレッシング、マヨネーズ、コーヒーホワイトナー、アイスクリーム、ホイップクリーム等の水中油型乳化物、マーガリン、スプレッド、バタークリーム等の油中水型乳化物、ポテトチップス等のスナック菓子、チョコレート、キャラメル、キャンデー、デザート等の菓子、ハム、ソーセージ、ハンバーグ等の肉加工食品、牛乳、チーズ、ヨーグルト等の乳製品、ドウ、エンローバー油脂、フィリング油脂、麺、冷凍食品、レトルト食品、飲料、ルー、分離型ドレッシング等が挙げられる。上記油脂組成物の他に、油脂加工食品の種類に応じて一般に用いられる食品原料を添加し製造することができる。本発明の油脂組成物の食品への配合量は、食品の種類によっても異なるが、一般に0.1〜100%、特に1〜80%が好ましい。
また、本発明の油脂組成物は、調理用油脂として、フライ油、炒め油、離型油等として用いることができる。該油脂組成物を揚げ物、焼き物、炒め物等の加熱調理や、ドレッシング、マヨネーズ、カルパッチョ等の非加熱調理、パンや洋菓子といったベーカリー食品の製造に使用することができる。揚げ物としては、例えば、コロッケ、天ぷら、とんかつ、空揚げ、魚フライ、春巻き等の惣菜、ポテトチップス、トルティーヤチップス、ファブリケートポテト等のスナック菓子、揚げせんべい等の揚げ菓子、フライドポテト、フライドチキン、ドーナツ、即席麺等を調理することができる。焼き物としては、例えば、ステーキ、ハンバーグステーキ、ムニエル、鉄板焼き、ピカタ、卵焼き、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば等を調理することができる。炒め物としては、チャーハン、野菜炒め等の中国料理を調理することができる。本発明の油脂組成物は、従来油脂に比べて、調理品の風味、外観が良好である。
なお、製剤調製の関係から、食品原料由来の油脂が含まれている場合は、食品原料由来の油脂と本発明の油脂組成物との質量比は、95:5〜1:99が好ましく、95:5〜5:95がより好ましく、更に85:15〜5:95が、特に40:60〜5:95が好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物を、水中油型乳化物に用いることができる。油相と水相の質量比は、油相/水相=1/99〜90/10、好ましくは10/90〜80/20、特に30/70〜75/25、特に60/40〜72/28が好ましい。乳化剤を0.01〜5%、特に0.05〜3%含むことが好ましい。乳化剤としては、卵蛋白質、大豆蛋白質、乳蛋白質、これらの蛋白質より分離される蛋白質、これら蛋白質の(部分)分解物等の各種蛋白質類、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンあるいはその酵素分解物が挙げられる。安定化剤は0〜5%、特に0.01〜2%含有することが好ましい。安定化剤としては、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、トラガントガム、コンニャクマンナン、等の増粘多糖類や澱粉等が挙げられる。また、食塩、糖、食酢、果汁、調味料等の呈味料、スパイス、フレーバー等の香料、着色料、保存料等を使用することができる。これらの原料を用いて、常法によりマヨネーズ、乳化型ドレッシング、コーヒーホワイトナー、アイスクリーム、ホイップクリーム、飲料等の水中油型油脂含有食品を調製することができる。
本発明の態様において、油脂組成物を、油中水型乳化物に用いることができる。水相と油相の質量比は、水相/油相=85/15〜1/99、好ましくは80/20〜10/90、特に70/30〜35/65が好ましい。乳化剤を0.01〜5%、特に0.05〜3%含むことが好ましい。乳化剤としては、卵蛋白質、大豆蛋白質、乳蛋白質、これらの蛋白質より分離される蛋白質、これら蛋白質の(部分)分解物等の各種蛋白質類、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンあるいはその酵素分解物が挙げられる。また、食塩、糖、食酢、果汁、調味料等の呈味料、スパイス、フレーバー等の香料、増粘多糖類や澱粉等の安定化剤、着色料、保存料、抗酸化剤等を使用することができる。これらの原料を用いて、常法によりマーガリン、スプレッド、バタークリーム等の油中水型油脂含有食品を調製することができる。
本発明の油脂組成物は、体脂肪蓄積抑制作用、内臓脂肪蓄積抑制作用、体重増加抑制作用、血清トリグリセリド増加抑制作用、インスリン抵抗性改善作用、血糖値上昇抑制作用、HOMA指数改善作用等の優れた生理活性を有する。かかる優れた特性を有するため、本発明の態様において、油脂組成物は、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、粉末剤、液剤、ゲル剤等の形態で、医薬品に利用することができる。医薬品としては、上記油脂組成物の他、形態に応じて一般に用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し製造することができる。本発明の油脂組成物の医薬品への配合量は、医薬品の用途及び形態によっても異なるが、一般に0.1〜80%、更に0.2〜50%、特に0.5〜30%であるのが好ましい。また、投与量は、油脂組成物として、1日当たり0.2〜50gを、1〜数回に分けて投与することが好ましい。投与期間は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月〜12ヶ月が好ましい。
本発明の態様において、油脂組成物は、飼料に利用することができる。飼料としては、例えば牛、豚、鶏、羊、馬、山羊等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。本発明の油脂組成物の飼料への配合量は、飼料の用途等によっても異なるが、一般に1〜30%、特に1〜20%が好ましい。本発明の油脂組成物は、飼料中の全部又は一部の油脂を置き換えることにより使用できる。
飼料には、上記油脂組成物の他に、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料とともに混合して製造される。
肉類としては、牛、豚、羊(マトン又はラム)、ウサギ、カンガルー等の畜肉、獣肉及びその副生物、加工品(ミートボール、ミートボーンミール、チキンミール等の上記原料のレンダリング物)、マグロ、カツオ、アジ、イワシ、ホタテ、サザエ、魚粉(フィッシュミール)等の魚介類等が例示される。蛋白質としては、カゼイン、ホエー等の乳蛋白質や卵蛋白質等の動物蛋白質、大豆蛋白質等の植物蛋白質が例示される。穀物類としては、小麦、大麦、ライ麦、マイロ、トウモロコシ等が挙げられる。ぬか類としては、米ぬか、ふすま等が挙げられる。粕類としては大豆粕等が例示される。飼料中の肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類の合計量は5〜93.9%であるのが好ましい。
糖類としては、ぶどう糖、オリゴ糖、砂糖、糖蜜、澱粉、液糖等が挙げられ、飼料中5〜80%含有するのが好ましい。野菜類としては、野菜エキス等が例示され、飼料中1〜30%含有するのが好ましい。ビタミン類としては、A、B1、B2、D、E、ナイアシン、パントテン酸、カロチン等が挙げられ、飼料中0.05〜10%含有するのが好ましい。ミネラル類としては、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛等が挙げられ、飼料中0.05〜10%含有するのが好ましい。この他、一般的に飼料に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等も必要に応じて含有することができる。
以下に実施例を記載するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されるものではない。
〔油脂の製造1〕
試験例1
原料油脂として、表1に示す菜種未脱臭油を用いた。原料油脂の50%は、高圧分解法により加水分解を行い、脂肪酸を得た。すなわち、油脂に対油50%の水を加え、温度240℃、圧力4MPa、滞留時間3時間にて高圧分解を行った後、減圧脱水し、菜種脂肪酸を得た。残りの50%は、酵素分解法により加水分解を行い、脂肪酸を得た。すなわち、リパーゼAY(天野エンザイム社製)を用いて、温度40℃、反応時間15時間にて油脂の酵素分解を行った後、油層を減圧脱水し、菜種脂肪酸を得た。
高圧分解及び酵素分解にて得られた脂肪酸を混合し、脂肪酸aを調製した。この脂肪酸aとグリセリンを、固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製Lipozyme RM IM)を用いて、脂肪酸aとグリセリンのモル比2:1、温度50℃、減圧脱水、反応時間3時間にて、エステル化反応を行った。反応終了後、固定化酵素を分離し、エステル化油を得た。
エステル化油を、減圧蒸留により脱酸(未反応脂肪酸の除去)し、クエン酸水溶液を添加混合した。次いで、減圧脱水した後、水洗した。これを、温度240℃、減圧下、脱臭時間1時間にて脱臭を行い、油脂A(ジアシルグリセロール含量84%)を製造した。
脂肪酸のトランス不飽和脂肪酸含量、色相、及び製造した油脂のトランス不飽和脂肪酸含量、色相、風味を表1に示す。ジアシルグリセロール含量の測定は、ガスクロマトグラフィーにより行った。トランス不飽和脂肪酸含量及び色相の測定は、前記の方法により行った。また、風味の評価は、下記基準にて官能評価により行った。
○:風味が良好。
△:風味がやや劣る。
×:風味が劣る。
試験例2
原料油脂の50%は、表1に示す菜種未脱臭油を用い、実施例1に記載した高圧分解法と同じ方法にて加水分解を行い、菜種脂肪酸を得た。原料油脂の他の50%は、表1に示す菜種脱臭油を用い、実施例1に記載した酵素分解法と同じ方法にて加水分解を行い、菜種脂肪酸を得た。
高圧分解及び酵素分解にて得られた脂肪酸を混合し、脂肪酸bを得た。更に、脂肪酸bとグリセリンから、実施例1に記載したのと同じ方法にてエステル化反応、後処理を行い、油脂B(ジアシルグリセロール含量85%)を製造した。
試験例3
原料油脂として、表1に示す菜種脱臭油を用い、全量を実施例1に記載したのと同じ方法にて高圧分解法により加水分解し、脂肪酸cを得た。更に、脂肪酸cとグリセリンから実施例1に記載したのと同じ方法にてエステル化反応、後処理を行い、油脂C(ジアシルグリセロール含量86%)を製造した。
試験例4
原料油脂として、表1に示す菜種脱臭油を用い、原料油脂の50%は、実施例1に記載した高圧分解法と同じ方法にて加水分解し、菜種脂肪酸を得た。原料油脂の他の50%は、実施例1に記載した酵素分解法と同じ方法にて加水分解し、菜種脂肪酸を得た。
高圧分解及び酵素分解にて得られた脂肪酸を混合し、脂肪酸dを得た。更に、脂肪酸dとグリセリンを用いて、実施例1に記載したのと同じ方法にてエステル化反応、後処理を行い、グリセリドを製造し、グリセリド油脂D(ジアシルグリセロール含量85%)を製造した。
試験例5
原料油脂として、表1に示す菜種脱臭油を用い、全量を実施例1に記載した酵素分解法と同じ方法にて加水分解を行い、菜種脂肪酸eを得た。更に、脂肪酸eとグリセリンを用いて、実施例1に記載したのと同じ方法にてエステル化反応、後処理を行い、油脂E(ジアシルグリセロール含量85%)を製造した。
試験例6
原料油脂として、表1に示す菜種未脱臭油を用い、全量を実施例1に記載した酵素分解法と同じ方法にて加水分解を行い、菜種脂肪酸fを得た。更に、脂肪酸fとグリセリンを用いて、実施例1に記載したのと同じ方法にてエステル化反応、後処理を行い、油脂F(ジアシルグリセロール含量84%)を製造した。
Figure 0005100974
原料油脂として、全て脱臭油を用いて加水分解した脂肪酸c、d、e、及びこれを用いてエステル化した油脂C、D及びEは、トランス不飽和脂肪酸含量が高かった。特に、全ての原料油脂を高圧分解法にて加水分解した脂肪酸c、及びこれを用いてエステル化した油脂Cは、トランス酸含量が著しく高かった。また、全ての原料油脂を酵素分解法にて加水分解した脂肪酸e、f、及びこれを用いてエステル化した油脂E及びFは、トランス不飽和脂肪酸含量が低減したが、風味の点でやや劣った。
一方、原料油脂を高圧分解法と酵素分解法を組み合わせて加水分解を行った脂肪酸a、b、及びこれを用いてエステル化した油脂A及びBは、トランス不飽和脂肪酸含量の低下と風味、色相のバランスが高く、脂肪酸及び油脂としての品質が高かった。
〔油脂の製造2〕
実施例1
油脂G及びH
原料油脂として、大豆未脱臭油と菜種脱臭油とを用いた。大豆未脱臭油は、対油50%の水量、温度250℃、圧力5MPa、滞留時間3時間にて高圧分解を行い、減圧脱水し、大豆脂肪酸を得た。次いで、これをウインタリングすることにより、飽和脂肪酸含量を低減化し、大豆脂肪酸(不飽和画分)を製造した。菜種脱臭油は、リパーゼAY(天野エンザイム社製)を用いて、温度40℃、反応時間15時間にて酵素分解を行い、油層を減圧脱水し、菜種脂肪酸を得た。
高圧分解及び酵素分解にて得られた脂肪酸を混合し、脂肪酸gを調製した。この脂肪酸gとグリセリンを、固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製Lipozyme RM IM)を用いて、脂肪酸とグリセリンのモル比2:1、温度50℃、減圧脱水、反応時間3時間にてエステル化反応を行い、固定化酵素を分離し、エステル化反応油を得た。
エステル化反応油を、減圧蒸留により脱酸(未反応脂肪酸の除去)し、クエン酸水溶液を添加混合後、減圧脱水し、次に水洗した。これを、温度240℃、減圧下、脱臭時間1時間にて脱臭を行い、トコフェロールを添加して油脂Gを製造した。
また、油脂Gに植物ステロールを添加して油脂Hを製造した。
比較例1
油脂I及びJ
原料油脂として、大豆脱臭油と菜種脱臭油とを用いた。菜種脱臭油は、油脂Gの製法に記載した高圧分解法と同じ方法にて加水分解を行い、菜種脂肪酸を得た。
大豆脱臭油は、油脂Gの製法に記載した高圧分解法と同じ方法にて加水分解を行った後、ウインタリングを行うことにより、飽和脂肪酸含量を低減化し、大豆脂肪酸(不飽和画分)を製造した。
このようにして得られた脂肪酸を混合し、混合脂肪酸iを調製した。次いで、油脂Gと同様の方法で、エステル化反応、後処理を行い、トコフェロールを添加して油脂Iを製造した。
また、油脂Iに植物ステロールを添加して油脂Jを製造した。
油脂G〜Jについて分析を行った。結果を表2に示す。尚、市販サラダ油を油脂Kとした。
〔分析方法〕
(i)グリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、サンプル10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLとを加え、密栓した後、70℃で15分間加熱した。これをガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、グリセリド組成の分析を行なった。
GLC条件
装置;Hewlett Packard製 6890型
カラム;DB−1HT(J&W Scientific製) 7m
カラム温度;initial=80℃、final=340℃
昇温速度=10℃/分、340℃にて20分間保持
検出器;FID、温度=350℃
注入部;スプリット比=50:1、温度=320℃
サンプル注入量;1μL
キャリアガス;ヘリウム、流量=1.0mL/分
(ii)構成脂肪酸組成
日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.2−1996)」に従って、脂肪酸メチルエステルを調製した。得られたサンプルを、GLCに供して分析を行った(American Oil Chem.Soc.Official Method:Ce1f−96、2002年)。
(iii)植物ステロール、及びその脂肪酸エステル
(i)のグリセリド組成と同じ方法で、分析を行った。
(iv)トコフェロール
日本油化学協会偏「基準油脂分析試験法」の中の「トコフェロール(2.4.10−1996)」に従って分析した。
Figure 0005100974
実施例2 保存試験
油脂G〜Jをロビボンド試験用ガラス製容器(奥行1.6cm×幅13.3cm×深さ3.7cm)に30g入れた(このときの液の深さは1.6cm)。これを、蛍光灯:2000ルクスの露光条件下にて、20℃、48時間静置して保存試験を行った。保存前、保存後の油脂について、風味、過酸化物価の評価を行った。
<油脂の評価>
下記評価基準にて官能評価を行うと共に、過酸化物価(POV)を測定した。POVの測定は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」中の「過酸化物価(2.5.2.1−1996)」に従って行った。結果を表3に示す。
油脂の風味
4:新鮮な油脂の風味が感じられ、良好。
3:新鮮な油脂の風味と青臭さや豆風味がやや感じられ、やや良好。
2:青臭さや豆風味が強く、やや刺激臭が感じられ、やや不良。
1:刺激臭を感じ、重い感じがあり、不良。
Figure 0005100974
過酷な露光条件下の保存を経ても、本発明品の例である油脂G及びHは、比較品である油脂I及びJよりも風味が良好であることが示された。尚、POVは同等であった。
実施例3
〔調理試験1〕
油脂G、I及びKを用いて、下記調理方法にて炒めご飯を作製した。直径24cmのフライパンに油脂10gを入れ、火にかけ、都市ガスの流量を4.0L/minに設定した。30秒後、東洋水産製「ごはん」200gを電子レンジで550Wにて2分間加熱したものをフライパンに入れ、木へらでほぐしながら120秒間炒めた。次いで、食塩1gを入れ、更に30秒間炒めた後、フライパンを火から外し、炒めご飯を皿に盛り付けた。
得られた炒めご飯の風味、色調を下記基準にて官能評価した。結果を表4に示す。
風味
4:米本来の風味が感じられ、米櫃の香りが強く、良好。
3:米の風味がやや感じられ、米櫃の香りがやや強く、やや良好。
2:油脂のにおいで米の風味がややマスキングされ、やや不良。
1:油脂のにおいで米の風味がマスキングされ、不良。
色調
4:米が白く、光沢があり、良好。
3:米がやや白く、やや光沢があり、やや良好。
2:米がやや黄色っぽくて、やや光沢がなく、ややくすんで見え、やや不良。
1:米が黄色っぽくて、光沢がなく、くすんで見え、不良。
Figure 0005100974
本発明品の例である油脂Gを用いて調理した炒めご飯は、比較品である油脂I及びKを用いた場合に比べて、調理品の風味、色調に優れていることが示された。
実施例4
〔調理試験2〕
実施例2のサンプルである保存前及び保存後の油脂G〜J、及びKを用いて、下記調理方法にてスクランブルエッグを作製した。直径24cmのフライパンに油脂14gを入れ、火にかけ、都市ガスの流量を5.0L/minに設定した。60秒後、全卵500gに食塩1gと胡椒0.2gを加え、菜箸でといた卵100gをフライパンに入れ、15秒間保持した。次いで、15秒間菜箸でよくかき混ぜた後、フライパンを火から外し、スクランブルエッグを皿に盛り付けた。得られたスクランブルエッグの風味、色調を下記基準にて官能評価した。結果を表5に示す。
色調
4:鮮やかな濃い黄色で、ツヤがあり、良好。
3:やや鮮やかな黄色で、ややツヤがあり、やや良好。
2:やや鮮やかでなく、ややくすんだ黄色で、やや不良。
1:鮮やかでなく、くすんでおり、不良。
風味
4:卵本来の風味が感じられ、コクがあり、良好。
3:卵本来の風味がやや感じられ、ややコクがあり、やや良好。
2:油脂の劣化臭がやや感じられ、卵の風味がややマスキングされ、やや不良。
1:油脂の劣化臭が感じられ、卵の風味がマスキングされ、不良。
本発明品の例である油脂G及びHを用いて調理したスクランブルエッグは、比較品である油脂I、J及びKを用いた場合よりも風味、色調に優れていることが示された。また、過酷な露光条件下の保存を経ても、本発明品を用いて調理したスクランブルエッグは、比較品を用いた場合よりも風味、色調に優れていることが示された。
Figure 0005100974
実施例5
〔低温耐性〕
油脂Gに、結晶抑制剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルPを溶解したものを試験品1、ポリグリセリン脂肪酸エステルQを溶解したものを試験品2とした。これら試験品を20℃に24時間静置した後、0℃に静置し(3日間)、油脂の外観を目視で観察した。その結果を表6に示す。
Figure 0005100974
ポリグリセリン脂肪酸エステルP又はQを配合した油脂は、0℃における低温耐性が良好であった。
実施例6
表7に記載のジアシルグリセロール含有油脂を用いた油相成分及び水相を混合し、ドレッシングを製造した。得られたドレッシングを50℃で4週間保存し、下記方法にて風味を評価した。その結果を表8に示す。
〔風味の評価方法〕
保存したドレッシングをレタスに和えて試食し、味の劣化度について、4名の専門評価パネルにより、以下の基準で10段階評価し、平均値を求めた。
評価基準:保存劣化していない5℃保管品と比較して、10:味の差なし、9:微妙だが僅かに劣化を感じる、8:僅かに劣化が認められる、7:やや劣化が認められる、6:劣化が認められる、5:明らかに劣化が認められる、4:明らかに劣化している、3:やや著しい劣化が認められる、2:著しい劣化が認められる、1:劣化が著しい
Figure 0005100974
Figure 0005100974
表8から明らかなように、ジアシルグリセロール含有油脂と水相とを含む食品において、比較品(No.1、2)は、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有して保存により異味(金属味)を生じた。これに対して、本発明の例であるNo.3は、風味劣化が抑制され、風味が改善していることが示された。
実施例7
表9に記載の油相成分及び水相を混合し、ドレッシングを製造した。得られたドレッシングを2000ルクスの蛍光灯下に、15日間室温保存し(720000ルクス・hr)、実施例7と同様な方法で風味を評価した。その結果を表9に示す。
Figure 0005100974
表9より、δ−トコフェロール含量が規定より少ない比較品(No.4)に対し、本発明の例であるNo.5〜8は、蛍光灯下長期保存による風味劣化、異味の発生が抑制され、風味が改善していることが示された。

Claims (10)

  1. 次の(A)、(B)及び(C):
    (A)1種又は2種以上の原料油脂を、高圧分解法と酵素分解法を組み合わせて加水分解して脂肪酸を製造し、当該脂肪酸とグリセリンをリパーゼを用いてエステル化することにより得られた油脂であって、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が80質量%以上であるジアシルグリセロールを15質量%以上含有し、かつ油脂を構成する全脂肪酸中の共役不飽和脂肪酸含量が1質量%以下で、トランス不飽和脂肪酸含量が0〜3.5質量%であり、色相(10R+Y)が30以下である油脂 100質量部
    (B)植物ステロール 0.01〜4.7質量部
    (C)植物ステロール脂肪酸エステル 0.2〜8質量部
    を含有する油脂組成物。
  2. 成分(B)と成分(C)の質量比((B)/(C))が、1.3以下である請求項1記載の油脂組成物。
  3. 油脂(A)中のモノアシルグリセロール含量が0.1〜5質量%、トリアシルグリセロール含量が4.9〜84.9質量% 、遊離脂肪酸含量が5質量%以下である請求項1又は2記載の油脂組成物。
  4. 油脂(A)100質量部に対して、更に抗酸化剤(D)を0.001〜5質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の油脂組成物。
  5. 油脂(A)100質量部に対して、更に結晶抑制剤(E)を0.01〜2質量部含有する請求項1〜4のいずれか1 項記載の油脂組成物。
  6. 前記高圧分解法により加水分解する原料油脂割合を30質量%以上としたものである請求項1〜5のいずれか1項記載の油脂組成物。
  7. 前記高圧分解法による加水分解に供する原料油脂の構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が1質量%以下である請求項1〜6のいずれか1項記載の油脂組成物。
  8. 前記酵素分解法による加水分解に供する原料油脂の構成脂肪酸中の不飽和結合を2以上含む脂肪酸含量が40質量%以上である請求項1〜7のいずれか1項記載の油脂組成物。
  9. 請求項1〜のいずれか1項記載の油脂組成物を含有する食品。
  10. 更に、水を含み、抗酸化剤としてL−アスコルビン酸脂肪酸エステルを実質的に含まず、δ−トコフェロールを200ppm以上含有する請求項記載の食品。
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