以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる操舵制御装置が備えられた車両1の運動制御機構10の全体構成を示した概略図である。以下、この図を参照して、本車両1の運動制御機構10の構成について説明すると共に、本発明の一実施形態にかかる操舵制御装置の詳細について説明する。
図1に示すように、運動制御機構10には、操舵制御機構20、ブレーキ制御機構30、各種センサ41〜46および電子制御装置(以下、ECUという)50が備えられている。
本実施形態の操舵制御機構20は、操舵制御を操舵トルク制御により行うもので、図1に示されるように、ステアリングホイール21、ステアリングシャフト22、操舵トルクセンサ23、EPS24、ステアリングギア機構25、ステアリングリンク機構26、操舵角センサ28等を備えて構成され、操舵車輪となる両前輪FL、FRの車両中心線に対する角度(操舵角)の調整を行う。
ステアリングホイール21は、運転者によって操作される操舵操作部材に相当するもので、このステアリングホイール21が運転者によって操作されることで、例えば図示しないステアリングコラムを介してステアリングシャフト22が回転させられる。運転者によるステアリングホイール21の操舵角は、操舵角センサ28により検出される。
ステアリングシャフト22は、運転者のステアリング操作を操舵力(操舵トルク)として伝える。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21側の部分(以下、上部シャフトという)22aとステアリングギア機構25側の部分(以下、下部シャフトという)22bの2部位に分かれており、上部シャフト22aには運転者の操作によるトルクがそのまま伝えられ、下部シャフト22bには上部シャフト22aに伝えられたトルクとEPS24に備えられた後述するモータ24aによるアシスト力とが加算されたトルクが伝えられる。
操舵トルクセンサ23は、ステアリングホイール21に作用する操舵トルクSTを検出するものであり、上部シャフト22aに備えられ、この操舵トルクSTに応じた出力信号を発生させる。
EPS24は、モータ24aと減速機構24bとを有して構成され、ECU50からのモータ制御信号によってモータ24aが駆動されることで、減速機構24bを介して下部シャフト22bに対してアシスト力を加え、下部シャフト22bにハンドル軸トルクを発生させる。EPS24は、上部シャフト22aに発生させられるトルクにモータ24aによるアシスト力を加えてハンドル軸トルクを発生する。
ステアリングギア機構25は、歯車の組み合わせ、例えばラックアンドピニオン型のもので構成され、下部シャフト22bの回転によりピニオンギア25aに回転角が与えられ、ピニオンギア25aと噛合わされたラック25bによってピニオンギア25aの回転運動がラック25bの往復運動に変換される。すなわち、下部シャフト22bに伝えられたハンドル軸トルク、つまり回転方向の力をラック25bの往復運動の力に変換する。
ステアリングリンク機構26は、ステアリングギア機構25から伝えられる力をタイロッド26a等を介してナックルアーム26bまで伝える。これにより、操舵車輪となる左右前輪FL、FRが同方向に転舵される。
ブレーキ制御機構30は、複数の電磁弁、リザーバ、ポンプおよびモータ等が備えられたアンチスキッド制御(以下、ABS制御という)やトラクション制御(以下、TCS制御という)、横滑り防止制御(以下、ESC(Electronic Stability Control)制御という)等を実行する周知のブレーキ液圧制御用アクチュエータ31を用いて、各車輪FL、FR、RL、RRに備えられた各ホイールシリンダ(以下、W/Cという)32**に発生させる圧力(以下、W/C圧という)を制御するものである。ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31としては、液圧によりW/C圧を発生させる液圧ブレーキシステム、電気的にW/C圧を発生させるブレーキバイワイヤなどの電動ブレーキシステムのいずれも採用できるがいずれも公知のものであるので、ここではブレーキ液圧制御用アクチュエータ31の具
体的な構造については省略する。
なお、参照符号に付した「**」は、各車輪FL〜RRのことを意味する添え字であり、「FL」は左前輪、「FR」は右前輪、「RL」は左後輪、「RR」は右後輪を意味している。例えば、W/C32**は、W/C32FL〜32RRのことを意味している。
このようなブレーキ制御機構30では、ABS制御、TCS制御やESC制御の非実行時(通常ブレーキ時)には、ブレーキぺダル60の操作に応じたブレーキ液圧を各W/C32**に発生させる。これにより、キャリパ33**によってディスクロータ34**にブレーキパッドが押し付けられ、制動トルクが発生させられる。そして、ABS制御、TCS制御やESC制御の実行時には、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31により、ブレーキペダル60の操作に独立して制御対象となるW/C32**の圧力が調整され、制動トルクが調整される。
また、各種センサ41〜46は、ABS制御、TCS制御やESC制御等の各種制御等に用いる検出信号を発生させるものである。具体的には、各車輪FL〜RRごとに車輪速度センサ41**およびW/C圧センサ42**が備えられていると共に、ヨーレートセンサ43、前後加速度センサ44および横加速度センサ45、ペダル操作量センサ46が備えられている。これら各種センサ41〜46の検出信号は、ECU50に入力される。
ECU50は、操舵トルクセンサ23の検出信号を受け取り、その検出信号に応じた制御指示値を示すモータ制御信号を発生させると共に、各種センサ41〜46の検出信号を受け取り、それに応じてブレーキ液圧制御用アクチュエータ31を駆動し、通常のABS制御、TCS制御やESC制御に加えてμスプリット制御を実行したり、μスプリット制御の制御状態に応じてモータ制御信号の制御指示値の修正を行う。このように、ECU50にて、モータ制御信号を出力して操舵車輪となる左右前輪FL、FRの転舵(操舵力)を調整する操舵制御を行い、本実施形態では、この操舵制御をEPS24を用いた操舵トルク制御により行う。なお、本実施形態では様々な制御を統合的に行う1つECU50を表してあるが、車両1に搭載される複数個の制御ユニット、例えば、制駆動力制御ユニット、前輪操舵角制御ユニット、パワーステアリング制御ユニット、パワートレイン制御ユニットなど複数の制御ユニットを組み合わせ、これらを通信バスによって接続した構成とされていても良い。
図2は、ECU50(具体的にはCPU)のうち本実施形態で説明する操舵制御(操舵トルク制御)に関わる部分のブロック構成を示した図である。この図を参照して、各制御ブロックについて説明する。
図2に示すように、ECU50には、基準目標値決定手段50aおよび駆動手段50bが備えられている。
基準目標値決定手段50aは、運転者による操舵操作部材(ステアリングホイール21)の操作に基づいて操舵車輪FL、FRの転舵を調整するための基準目標値を求めるものである。具体的には、基準目標値決定手段50aは、車体速度、ステアリングホイール21の操舵トルク、および、これらと基準目標値に相当する基準トルク目標値Tsとの関係を示すマップもしくは関数式に基づいて、基準トルク目標値Tsを求める。基準トルク目標値Tsは、運転者のステアリング操作力の低減を図る車速感応パワーステアリング制御を行うためのモータ24aの出力トルクの目標値であり、車体速度が増大するほどより小さい値に設定される。なお、車体速度は、車輪速度センサ41**の検出信号から得られる各車輪速度Vw**に基づいて周知の手法により求められ、操舵トルクは、操舵トルクセンサ23の検出信号に基づいて求められる。
駆動手段50bは、通常時(修正操舵制御の非作動時)には、モータ24aの出力が基準トルク目標値Tsと一致するように、モータ制御信号をモータ24aに対して出力し、操舵トルク制御を行う。修正操舵制御を行う必要がある場合には、後述する修正操舵目標値に相当する修正トルク目標値Tmsが演算される。そして、基準トルク目標値Tsおよび修正トルク目標値Tmsに基づいて(基準トルク目標値Tsに対して修正トルク目標値Tmsが合算されて)最終的な操舵トルク目標値(モータ24aの出力目標値)が求められる。この出力目標値はモータ制御指令値に対応する値(モータ制御信号)に変換され、その変換後のモータ制御信号がモータ24aに対して出力される。
また、ECU50には、μスプリット制御に対応した修正操舵制御(前後力差起因モーメントを低減する操舵制御)を実行するための修正操舵目標値を求める手段として、実運動演算手段50c、目標運動演算手段50d、比較手段50e、安定化モーメント演算手段50f、ABS/TCS制御手段50g、前後力演算手段50h、前後力差演算手段50i、最大値記憶手段50jおよび修正操舵目標値演算手段50kが備えられている。
実運動演算手段50cは、車両1の実際に発生している運動量VMa(以下、実運動量という)を演算するものである。ここで、「運動量」とは、車両の旋回運動を表す状態量であり、ヨーレート、横加速度、車体スリップ角、車体スリップ角速度に相当する値を用いて演算される状態量である。例えば、ヨーレートセンサ43の検出信号に基づいて実際に発生している実際のヨーレート(以下、実ヨーレートという)を演算している。
目標運動演算手段50dは、車両1の目標とする運動量VMt(以下、目標運動量という)を演算するもので、上記の実運動量と同一次元の状態量を演算する。例えば、運動量がヨーレートである場合には、操舵角センサ28の検出信号と車体速度に基づいて周知の方法によって求められる目標とするヨーレート(以下、目標ヨーレートという)を演算している。
なお、ここでは、実運動量VMaと目標運動量VMtの対象をヨーレートとしているが、ESC制御に使用されるものとして周知となっている他の状態量(例えば、車体スリップ角等)を用いても良い。また、EPS24の場合、上部シャフト22aと下部シャフト22bが連結されているため、操舵角センサ28で検出されたステアリングホイール21の操舵角が運転者の意図する進行方向であるか、カウンタステア操作が反映されたものかの判別が難しい。このため、車両1が直進しているものと想定して目標運動量をゼロとして用いることができる。また、μスプリット制御が開始される直前のステアリングホイール21の操舵角に基づいて目標運動量を求めることもできる。
比較手段50eは、実際の運動量VMaと目標とする運動量VMtの偏差ΔVMを演算するものである。安定化モーメント演算手段50fは、比較手段50eにて求められた偏差ΔVMと後述する前後力差演算手段にて求められる前後力差ΔFXを用いて安定化モーメントMSを演算するものである。具体的には、数式1に示す演算式に偏差ΔVMと前後力差ΔFXを代入することにより安定化モーメントMSを求めている。なお、数式1中において、G1、G2は予め決められている係数である。
(数1)
MS=G1・ΔFX+G2・ΔVM …数式1
ABS/TCS制御手段50gは、車輪速度センサ41**からの検出信号に基づいて車輪速度Vw**および車体速度(推定車体速度)を求めると共に、各車輪FL〜RR毎にスリップ率を求め、このスリップ率に基づいてABS制御やTCS制御を実行するものである。ABS制御では、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31にて対象車輪のW/C圧の減圧、保持、増圧を行うことで制動トルクを調整することで車輪スリップを抑制する。TCS制御では、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31にて駆動車輪のW/C圧の増圧、保持、減圧を行うこと、もしくは、図示しないエンジンの出力調整を行うことにより、駆動トルクを調整し、車輪スリップを抑制する。これらABS制御やTCS制御の手法に関しては、周知であるためここでは説明を省略するが、このABS/TCS制御手段50gにて、ABS制御もしくはTCS制御中の各車輪FL〜RRのW/C圧の制御目標値が求められているため、これが前後力演算手段50hに伝えられる。
前後力演算手段50hでは、各車輪FL〜RRの前後力FX**が演算される。前後力とは、上述したように路面とタイヤとの間で発生する加減速方向の摩擦力、つまり制駆動力のことである。具体的には、ABS制御もしくはTCS制御中の各車輪FL〜RRのW/C圧の制御目標値に基づいて、左右それぞれの車輪FL〜RRの制動トルクを求めるという周知の手法により、各車輪FL〜RRの前後力FX**が求められる。
なお、前後力FX**に関しては、この他、W/C圧センサ42**の検出信号から検出した各車輪FL〜RRのW/C圧を利用して求められる左右それぞれの車輪FL〜RRの制動トルク、図示しないエンジンの駆動トルクから得られる各車輪FL〜RRの駆動トルク、車輪速度Vw**を微分して求められる各車輪FL〜RRの加減速度、各車輪FL〜RRの回転運動方程式、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31の作動状態(電磁弁への指示電流値)等からも求められ、周知となっているどの手法により求めても良い。
前後力差演算手段50iは、前後力演算手段50hにて求められた各車輪FL〜RRの前後力に基づいて、左車輪FL、RLと右車輪FR、RRの前後力FX**の差(以下、前後力差という)ΔFXを演算する。μスプリット路面では、左右の路面の摩擦係数が異なっているため、μスプリット制御が実行される際には、左車輪FL、RLと右車輪FR、RRの前後力が異なった値となり、前後力差ΔFXが生じる。この前後力差ΔFXが前後力差起因ヨーモーメントの大きさと対応する物理量となる。
例えば、前後力差ΔFXは、右前後輪FR、RRの前後力FXFR、FXRRの和から左前後輪FL、RLの前後力FXFL、FXRLの和を差し引いた値を用いることができる。この前後力差ΔFXは、車両上方から見て時計回り方向と反時計回り方向とで正負の符号が変わるが、いずれの方向を正負としても構わない。なお、この前後力差演算手段50iで演算した前後力差ΔFXが上記した安定化モーメント演算手段50fに伝えられ、安定化モーメントMSが求められる。
最大値記憶手段50jは、安定化モーメントMSの絶対値の最大値MSmを安定化モーメントMSの正負の符号と共に記憶する。すなわち、μスプリット制御が実行される場合、左右車輪の前後力FX**の増減周期が異なって前後力差ΔFXも周期的に増減し得る。このため、前後力差ΔFXの成分を含む安定化モーメントMSの絶対値の最大値MSmを記憶することで、前後力差ΔFXが最も増加したときの値を記憶することができる。図3は、安定化モーメントMSの変化に対して記憶される最大値MSmの変化を示したタイミングチャートである。この図に示されるように、安定化モーメントMSが変化しても最大値MSmを記憶することで、μスプリット制御中の前後力差ΔFXの周期的な増減に対する安定化モーメントMSの変動の影響を受けない値を記憶することができる。また、図中に示したように、ブレーキペダル60やアクセルペダルの踏み増し操作により安定化モーメントMSが増加すると、最大値MSmも新たに記憶されるため、踏み増し操作にも対応できる。
修正操舵目標値演算手段50kは、安定化モーメントMSの絶対値の最大値MSmと安定化モーメントMSの正負の符号に基づいて、修正操舵目標値となる修正トルク目標値Tmsを演算する。具体的には、ECU50のROM等に予め記憶してある最大値MSmと修正トルク目標値Tmsとの関係を示したマップを利用して修正トルク目標値Tmsを演算する。例えば、このマップは図4のようなグラフで表され、最大値MSmが大きいほど修正トルク目標値Tmsが大きな値とされる。そして、このように修正トルク目標値Tmsが求められると、駆動手段50bにて、基準トルク目標値Tsと修正トルク目標値Tmsとが合算されることで最終的な操舵トルク目標値が求められ、それと対応する制御指示値を示すモータ制御信号がモータ24aに対して出力される。
また、ECU50には、継続時間演算手段50m、運転操作演算手段50n、戻し操作判定手段50p、最大値修正手段50qおよび制限手段50rが備えられている。これら各手段により、修正操舵制御を終了するとき等の修正操舵目標値の制限値の設定を行う。
継続時間演算手段50mは、μスプリット制御が開始後の継続時間tmsを演算するものである。μスプリット制御の開始直後には、急な前後力差起因ヨーモーメントが発生するため、運転者がその変化に追従したカウンタステア操作を行うのは難しいが、開始後所定時間が経過すれば、運転者がその変化に対応したカウンタステア操作を行うことが十分に可能となり、修正操舵制御を終了しても構わない。このため、継続時間演算手段50mにて、修正操舵制御の終了に至るまでの時間を計測すべく、継続時間tmsを演算する。なお、μスプリット制御が開始したことは、例えばABS/TCS制御手段50gにてμスプリット制御中にセットされるフラグがリセット状態からセット状態に切り替わったことから判定可能である。
運転操作演算手段50nは、前後力操作部材となるブレーキペダル60や図示しないアクセルペダルの操作量DSを演算するものである。ブレーキペダル60の操作量に関しては、ペダル操作量センサ46、例えば踏力センサやストロークセンサ、マスタシリンダ圧センサの検出信号により求められる。アクセルペダルの操作量に関しては、アクセルペダル操作量センサ、エンジン制御において取り扱われるアクセル開度センサ、スロットル開度センサの検出信号により求められる。
戻し操作判定手段50pは、ブレーキペダル60や図示しないアクセルペダルを操作しない前の状態に向かって戻す操作(以下、単に戻し操作という)が為されたか否かの判定を行うものである。例えば、戻し操作が為された場合には、安定化モーメントMSがそれに応じて減少するため、記憶された最大値MSmをそのまま用いるのが好ましくなくなる場合がある。このため、最大値MSmの修正を行う必要があるか否かについて、戻し操作が行われたか否かに基づいて判定する。
最大値修正手段50qは、継続時間tmsおよび戻し操作判定の結果DSmに基づき、最大値記憶手段50jに記憶された最大値MSmを修正する。上述したように、継続時間tmsが所定時間τkを経過すると修正操舵制御を終了する。このため、最大値修正手段50qは、継続時間tmsが所定時間τkを経過したときには最大値MSmをゼロまで減少させる。また、最大値修正手段50qは、最大値MSmをいきなりゼロにするのではなく、時間の経過に伴って段階的にゼロまで減少させることができる。戻し操作が行われたときに、それに対応して最大値MSmを修正する必要がある。このため、戻し操作が為されたときには最大値MSmを減少させるように修正する。本実施形態の場合、最大値MSmに対して1よりも小さな正の係数K1を掛けることにより、最大値MSmを一定割合に減じる。このようにして、継続時間tmsや戻し操作が考慮に入れられた最大値MSmsが最大値修正手段50qにて求められる。
制限手段50rは、最大値MSmsの時間変化に制限を設ける。最大値修正手段50qでは、最大値MSmを減少させる修正を行うが、修正後の最大値MSmsが急に変化するものであった場合、それが車両挙動に現れて運転者に違和感を与える可能性がある。したがって、最大値MSmsを徐々に減少させるよう時間変化量に制限を設けている。例えば、1制御周期当たりの最大値MSmsの変化量(減少勾配)を所定値Kdownまでに制限する。最大値MSmsの変化量が所定値Kdown以上となる場合には、最大値MSmsから1制御周期毎に所定値Kdownを減少させることで、最終的な最大値MSmlを演算する。なお、継統時間tmsが所定時間τkを経過したときには、最大値記憶手段50jに記憶されていた最大値MSmが修正操舵目標値演算手段50kに対して伝えられていても、修正操舵目標値演算手段50kは、この最大値MSmに優先して最終的な最大値MSmlを用いて修正操舵制御目標値(修正トルク目標値)を求める。一方、戻し操作判定によって最大値MSmが減少させられるときには、修正操舵目標値演算手段50kは、最大値MSmlよりも最大値MSmを優先して、最大値MSmを用いて修正操舵制御目標値(修正トルク目標値)を求める。
図5は、μスプリット制御開始後、所定時間τkが経過したときの最大値MSmの変化の様子を示したタイミングチャートである。この図の破線で示したように、修正操舵制御を終了する場合、最大値MSmをゼロにリセットする。また、最大値MSmの時間変化量に制限が設けられ、最大値MSmを徐々に減少させることもできる。このため、運転者に違和感を与えることを抑制できる。
なお、最大値記憶手段50jは、最大値MSmとして実際の値MSを記憶する場合もあるが、修正操舵目標値演篁手段50kは、継続時間tmsが既に所定時間τkを経過しているので、最大値MSmに優先して、制限処理中の最大値MSmlを用いて修正操舵制御目標値(修正トルク目標値)を求める。例えば、時点t1以降では、実際の値MS(新たに記憶されるMSm)が制限処理中の最大値MSm1より大きくなるが、修正操舵制御目標値(修正トルク目標値)は、制限処理中の最大値MSmlに基づいて求められる。
また、図6は、戻し操作が為されたときの最大値MSmの変化の様子を示したタイミングチャートである。この図に示すように、戻し操作が途中まで行われたときに最大値MSmが戻し操作前に対して所定割合に減じられ、完全に戻し操作が行われると最大値MSmがゼロまで減少させられる。このときにも、最大値MSmの時間変化量に制限が設けられ、最大値MSmが徐々に減少させられるため、運転者に違和感を与えることを抑制できる。
なお、最大値記憶手段50jは、最大値MSmとして実際の値MSを記憶する場合もあるが、最大値MSmの減少は戻し操作判定の結果によるものであるため、修正操舵目標値演算手段50kは、制限処理中の最大値MSmlよりも最大値MSmを優先して、最大値MSmを用いて修正操舵制御日標値(修正トルク目標値)を求める。例えば、時点t2の直後には、実際の値MS(新たに記憶されるMSm)が制限処理中の最大値MSmlよりも大きくなるため、修正操舵制御目標値(修正トルク目標値)は、新たに記憶された最大値MSmに基づいて求められる。
続いて、このように構成されたECU50により実行される修正操舵制御の詳細について説明する。図7は、修正操舵制御のフローチャートである。この図に示す各処理は、所定の制御周期毎に実行され、例えばイグニッションスイッチがオンされると実行され、オフされると終了される。
まず、ステップ100で、フラグリセットなどの一般的な初期化処理を行ったのち、ステップ105で、操舵トルクセンサ23や各種センサ41〜46の検出信号の読み取りなどの信号読み込み処理を行う。
次に、ステップ110において、各車輪FL〜RRの前後力FX**を演算し、ステップ115において、前後力差ΔFXを演算する。これら前後力FX**および前後力差ΔFXは、前後力演算手段50hと前後力差演算手段50iにて上述した手法により演算される。
続いて、ステップ120において、μスプリット制御中であるか否かを判定する。μスプリット制御中であるか否かは、例えばABS/TCS制御手段50gがμスプリット制御中にセットするフラグを確認することにより判定される。そして、ここで肯定判定されればステップ125に進み、前後力差ΔFXに基づいて安定化モーメントMSを求めると共に、安定化モーメントMSの絶対値の最大値MSmを安定化モーメントMSの正負の符号と共に記憶する。最大値MSmは、最大値記憶手段50jにて求められ、記憶される。この最大値MSmは、MAX(MS, MSm)、つまり前回の制御周期までの最大値MSmと今回の制御周期で求められた安定化モーメントMSとを比較して大きい方を選択するという手法が採られ、いずれか大きい方が新たな最大値MSmとして更新される。
さらに、ステップ130において、戻し操作が為されたか否かが判定される。この判定は、戻し操作判定手段50pにて行われる。ここで肯定判定された場合には、この判定結果DSmに基づき、ステップ135において最大値MSmを減少させるように修正する。この修正は、最大値修正手段50qにて行われ、上述したように戻し操作前の最大値MSmに対して係数K1(1より小さい正の値)を掛けることで修正後の最大値MSmsが求められる。そして、ステップ140において、制限処理を実行する。この制限処理は、制限手段50rにて行われ、戻し操作前の最大値MSmを修正して求めた修正後の最大値MSmsの時間変化に制限が設けられる。これにより、最終的な最大値MSmlが求められる。一方、ステップ130において否定判定された場合には、そのままステップ145に進む。
この後、ステップ145において、継続時間tmsをカウントしたのち、ステップ150に進む。そして、継続時間tmsが所定時間τkを経過しているか否かを判定する。この処理も最大値修正手段50qにて行われる。所定時間τkは、予め決められた一定時間であっても良いが、本実施形態では、μスプリット制御が開始されたときの車体速度(初速Vxi)に応じて所定時間τkを決めている。図8は、初速Vxiと所定時間τkとの関係を示したマップである。このマップは予め最大値修正手段50qに記憶させたもので、初速Vxiが大きくなるほど所定時間τkが長くなるようにされている。これは、μスプリット制御開始に伴って修正操舵制御をする場合、初速Vxiが大きいほど修正操舵を必要とする時間が長くなるためである。
そして、ステップ150で肯定判定されると、ステップ155に進み、ステップ125で記憶した正負の符号を付した最大値MSm(もしくは最大値MSms、MSml)をトルク換算し、修正トルク目標値Tmsを演算する。具体的には、Tms=MSnc(MSm)、ここで、MSnc(MSm)は、MSmを引数とするマップ(図4参照)もしくは関数式であり、最大値MSmを代入することで修正トルク目標値Tmsを演算することができる。
また、ステップ150で否定判定された場合、および、ステップ120においてμスプリット制御中ではなく否定判定された場合には、ステップ160に進み、最大値MSmをゼロにリセットする。そして、ステップ165に進み、制限処理を実行する。この制限処理は、制限手段50rにて行われ、戻し操作前の最大値MSmを修正して求めた修正後の最大値MSmsの時間変化に制限が設けられる。これにより、最終的な最大値MSmlが求められる。一方、ステップ120において否定判定された場合には、そのままステップ165に進む。そして、ステップ140と同様の手法により制限処理を実行する。これにより、最終的な最大値MSmlが求められる。この後、ステップ155に進み、正負の符号を付した最大値MSm(もしくは最大値MSms、MSml)をトルク換算することで、修正トルク目標値Tmsを求める。
このようにして修正トルク目標値Tmsが求められると、図示しない別フローにおいて、駆動手段50bにて、基準トルク目標値Tsと修正トルク目標値Tmsとが合算され、最終的な操舵トルク目標値に相当するモータ24aの出力トルク目標値(出力目標値)が求められる。そして、それを実現する制御指示値を示すモータ制御信号がモータ24aに対して出力されることで、μスプリット制御中に発生する前後力差起因ヨーモーメントを低減する修正操舵制御を実行し、運転者に対してμスプリット制御中のカウンタステア操作を促すことができる。
図9に、上記修正操舵制御が実行されたときの前後力差ΔFXおよび修正トルク目標値Tmsのタイミングチャートを示す。この図に示すように、時点t0〜t3までは前後力差ΔFXが増加する。このため、制御周期毎に最大値MSmが更新されて修正トルク目標値Tmsが増加する。続いて、時点t3以降は、最大値MSmが更新されない限り修正トルク目標値Tmsは一定となる。そして、時点t4においてμスプリット制御開始から所定時間τk経過すると、徐々に修正トルク目標値Tmsがゼロに近づけられる。このとき、修正トルク目標値Tmsの時間変化量(変化勾配)が修正後の最大値MSmlの時間変化量(所定値Kdown)と対応した値に制限される。
以上説明したように、本実施形態の操舵制御装置によれば、μスプリット制御中に、前後力差ΔFXの成分を含む安定化モーメントMSの絶対値の最大値MSmを記憶しておき、この最大値MSmに基づいて修正操舵目標値(修正トルク目標値)を求めるようにしている。このため、μスプリット制御が実行されるときに、左右車輪の前後力FX**の増減周期が異なって前後力差ΔFXが周期的に増減しても、それに伴って修正操舵目標値Tmsが変動しないようにできる。したがって、これによるステアリングホイールへの影響を抑制でき、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
また、本実施形態では、μスプリット制御が所定時間τk継続した場合に、修正操舵制御を終了するようにしている。これにより、運転者による対応が難しいμスプリット制御開始直後に発生する急な前後力差起因ヨーモーメントに対応したカウンタステア操作を補助することができる。なお、本実施形態では、前後力操作部材(ブレーキペダルもしくはアクセルペダル)の戻し操作が為された場合に最大値MSmを変化させるようにしているが、変化させないようにすることも可能である。このような場合に、μスプリット制御が所定時間τk継続したら修正操舵制御を終了することで、戻し操作が為された後まで過剰に修正操舵制御を継続させることを防止できる。
また、本実施形態では、戻し操作が為された場合に、最大値MSmを修正して修正操舵目標値(修正トルク目標値)を求めるようにしている。このため、戻し操作に対応したカウンタステア操作の補助が行えるようにでき、より運転者に違和感を与えることを防止することができる。
さらに、本実施形態では、修正操舵制御を終了するときや戻し操作が為された場合に、最大値MSmの時間変化量に制限を設けるようにしている。このため、ステアリングホイール21の変動が緩和され、運転者への違和感を抑制することが可能となる。また、戻し操作が為された後に過剰な修正操舵制御が続けられることも防止できる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。上記第1実施形態では、車両運動状態をフィードバックした修正操舵制御も行われる操舵制御装置に関して、本発明の一実施形態を適用した場合について説明したが、修正操舵制御から車両運転状態のフィードバックを除いたものとしても良い。この場合、ECU50は、図2に示した実運動演算手段50c、目標運動演算手段50d、比較手段50eおよび安定化モーメント演算手段50fを無くした構成となる。そして、安定化モーメントMSに代えて、前後力差ΔFXそのものを用いて修正操舵目標値を求める。
具体的には、図2中の丸括弧にて示したように、前後力差演算手段50iから安定化モーメント演算手段50fに伝えていた前後力差ΔFXを最大値記憶手段50jに伝え、最大値記憶手段50jで前後力差ΔFXの最大値ΔFXmを記憶し、修正操舵目標値演算手段50kにて、最大値ΔFXmに基づいて修正トルク目標値Tmsを求める。同様に、最大値修正手段50qでは最大値記憶手段50jに記憶された前後力差ΔFXの最大値ΔFXmを修正し、修正後の最大値ΔFXmsの時間変化量を制限手段50rにて制限し、最終的な最大値ΔFXmlを演算する。そして、図7のステップ155に示したように、Tms=Fnc(ΔFXm)、ここで、Fnc(ΔFXm)はΔFXmを引数とするマップ(図4を参照)もしくは関数であり、最大値ΔFXmを代入することで修正トルク目標値Tmsを演算することができる。なお、μスプリット制御の継続時間tmsが所定時間τkを経過したときには、最大値記憶手段50jに記憶されていた最大値ΔFXmに優先して最大値ΔFXmlに基づいて修正トルク目標値Tmsを求める。また、戻し操作判定によって最大値ΔFXmが減少させられるときには、制限処理中の最大値ΔFXmlよりも最大値ΔFXmを優先して、最大値ΔFXmを用いて修正トルク目標値Tmsを求める。
このように、前後力差ΔFXをそのまま用いて修正操舵目標値(修正トルク目標値)を求める。μスプリット制御中の車両偏向の原因は前後力差であるから、前後力差ΔFXに基づいて修正操舵目標値を求めることで、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、このように前後力差ΔFXを用いて修正操舵目標値を求める場合には、各図の丸括弧内に示したように、図3〜図7に示す安定化モーメントMSやその最大値MSmを前後力差ΔFXやその最大値ΔFXmに代えれば良い。そして、パラメータの変更に伴い、例えば図7のステップ135に示したように、係数K1を係数K2(K1と同様に1より小さい正の値)に変更するなど、適宜設定変更すれば良い。
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。上記第1、第2実施形態では、操舵制御機構20をEPS24にて構成し、操舵制御を操舵トルク制御にて行う場合について説明したが、本実施形態では、ステアリングギア比可変機構(VGRS)にて構成し、操舵制御を操舵角制御にて行う場合について説明する。
図10は、本実施形態にかかる操舵制御装置が備えられた車両1の運動制御機構10の全体構成を示した概略図である。なお、本実施形態の運動制御機構10のうちVGRS27以外の構成に関しては第1実施形態と同様であるため、VGRSについてのみ説明する。
VGRS27は、ギア機構部27aとモータ27bとを有した構成とされる。このVGRS27は、モータ27bの(絶対)回転角度を制御することにより上部シャフト22aに対して下部シャフト22bを相対回転させ、ステアリングホイール21の回転角度に対する操舵車輪となる左右前輪FL、FRの操舵角の比(ステアリングギア比)を調整する。
例えば、VGRS27は、上部シャフト22aに接続されたサンギア27aa、モータ27bに接続されたリングギア27ab、および下部シャフト22bに接続されたキャリア27acを備えた周知の遊星ギア機構にて構成される。
また、本実施形態の操舵制御機構20には、操舵角センサ28が備えられており、運転者によるステアリングホイール21の操舵角が求められるようになっている。
このようなVGRS27のモータ27bの回転角度を制御することにより、操舵制御、すなわち車速感応ステアリングギア比制御、および、左車輪FL、RLと右車輪FR、RRの前後力差ΔFXに基づく修正操舵制御を実行することができる。なお、車速感応ステアリングギア比制御とは、高速走行時にはステアリングギア比を大きく設定することで車両1の走行安定性を確保し、低速走行時にはステアリングギア比を小さく設定することで車両1の取り回し性を向上するものである。
具体的には、第1実施形態のように安定化モーメントMSを用いる場合には、第1実施形態に対して以下のように変更する。なお、操舵角制御の信号処理等については、各図において角括弧を用いて示す。
第3実施形態では、基準目標値決定手段50aは、運転者による操舵操作部材(ステアリングホイール21)の操作に基づいて操舵車輪FL、FRの転舵を調整するための基準目標値を求めるものである。第1実施形態では、図2に示す基準目標値決定手段50aにおいて、基準目標値として基準トルク目標値Tsを演算したが、これに代えて操舵角センサ28の検出信号に基づいてステアリングホイール21の操舵角を求めたのち、この操舵角と車体速度とステアリングギア比との関係を示すマップもしくは関係式に基づいて基準舵角目標値δfを求める。この基準舵角目標値δfは、車速感応ステアリングギア比制御を行うためのモータ27bの回転角度の目標値である。
同様に、第1実施形態では、修正操舵目標値演算手段50kで修正トルク目標値Tmsを演算したが、これに代えて修正舵角目標値δmsを演算する。具体的には、第1実施形態のように安定化モーメントMSの最大値MSmに基づいて修正舵角目標値δmsを求める場合には、図7のステップ155において、ステップ125で記憶した正負の符号を付した最大値MSm(もしくは最大値MSms、MSm1)をトルク換算する代わりに舵角換算する。すなわち、δms=NSnc(MSm)、ここで、NSnc(MSm)は、MSmを引数とするマップもしくは関数式であり、最大値MSmを代入することで修正舵角目標値δmsを演算することができる。
そして、駆動手段50bにおいて、基準舵角目標値δfと修正舵角目標値δmsとを合算することにより、最終的な操舵角目標値に相当するモータ27bの回転角目標値(出力目標値)が求められたのち、それを実現する制御指示値を示すモータ制御信号がモータ27bに対して出力される。これにより、μスプリット制御中に生じる前後力差起因ヨーモーメントを低減する修正操舵制御を実行し、μスプリット制御中の運転者のカウンタステア操作を低減することができる。
このように、操舵制御機構20をVGRS27にて構成し、操舵制御を操舵角制御にて行うようにしても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
なお、本実施形態のようにVGRS27を採用する場合において、第2実施形態のように修正操舵制御から車両運動状態のフィードバックを除く場合には、修正操舵目標値演算手段50kにて、最大値ΔFXm(もしくは、最大値ΔFXms、ΔFXml)に基づいて修正舵角目標値δmsを求めることができる。これは、上記と同様にして、図7のステップ155に示したように、δms=Gnc(ΔFXm)、ここで、Gnc(ΔFXm)はΔFXmを引数とするマップ(図4を参照)もしくは関数であり、最大値ΔFXmを代入することで修正舵角目標値δmsを求めることが可能である。
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1〜第3実施形態に対してECU50で実行する処理を変更したものであり、他の部分については同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
前後力差ΔFXは、路面摩擦係数が変化するとそれに伴って減少することがある。図11は、路面摩擦係数が変化した場合の安定化モーメントMSや前後力差ΔFXの様子を示したタイミングチャートであり、この図に示すように、運転者の戻し操作が行われなくても路面摩擦係数の変化に伴って記憶した最大値MSm、ΔFXmに対して安定化モーメントMSや前後力差ΔFXの実際値が低下している。これがμスプリット制御開始から所定時間τが経過する前に起こった場合、安定化モーメントMSや前後力差ΔFXの実際値が低下しても最大値MSmが更新されないことになる。このため、本実施形態では、最大値MSm、ΔFXmと実際値との差が所定値Km以上となった期間が所定時間τm以上継続した場合に、最大値MSm、ΔFXmの修正を行うようにする。
図12は、本実施形態のECU50のうち本実施形態で説明する操舵制御に関わる部分のブロック構成を示した図である。
この図に示すように、安定化モーメントMS(もしくは前後力差ΔFX)の絶対値とその最大値MSm(もしくは最大値ΔFXm)との差(|MSm|−|MS|(もしくは|ΔFXm|−|ΔFX|))が所定値Km以上であるか否かを判定する比較手段50tと、比較手段50tから出された上記差が所定値Km以上であるという判定結果の継続時間をカウントする時間カウント手段50uとを備え、時間カウント手段50uにて継続時間tcが所定時間τm以上になったときに、その旨を最大値修正手段50qに伝え、最大値MSm(もしくは最大値ΔFXm)を修正するようになっている。例えば、最大値修正手段50qでは、戻し操作が為された場合と同様に、継続時間tcが所定時間τm以上になったときに、最大値MSm(もしくは最大値ΔFXm)に1より小さい正の係数K3を掛けることで所定割合に減ずるという修正を行う。
このように、最大値MSm(もしくはΔFXm)と実際値との差が所定値Km以上となった期間が所定時間τm以上継続した場合に、最大値MSm(もしくはΔFXm)の修正を行うことで、路面摩擦係数の変化に伴って前後力差ΔFXが減少しても、それに対応した最大値MSm(もしくはΔFXm)の修正が行える。なお、この場合にも、制限手段50rにて、最大値MSms(もしくはΔFXms)の時間変化量に制限を設ければ、より運転者に違和感を与えることを抑制できる。
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態は、第1〜第4実施形態に対してECU50で実行する処理を変更したものであり、他の部分については同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
上記第1〜第4実施形態では、安定化モーメントMSの絶対値の最大値MSmもしくは前後力差ΔFXの絶対値の最大値ΔFXmを記憶することで、修正操舵目標値Tms、δmsを演算していた。これに対し、本実施形態では、安定化モーメントMSもしくは前後力差ΔFXに基づいて予め修正操舵目標値Tms、δmsを演算しておき、その絶対値の最大値Tmsm、δmsmを記憶することで、最終的な修正操舵補正値Tmsa、δmsaを求める。
図13は、本実施形態のECU50のうち本実施形態で説明する操舵制御に関わる部分のブロック構成を示した図である。
この図に示すように、本実施形態では、最大値記憶手段50jの前段に修正操舵目標値演算手段50kが配置されていると共に、新たに修正操舵補正値演算手段50sが追加されている。
このような構成では、予め修正操舵目標値演算手段50kにて、安定化モーメントMSもしくは前後力差ΔFXに基づいて修正操舵目標値Tms、δmsを演算する。安定化モーメントMSもしくは前後力差ΔFXに対する修正操舵目標値Tms、δmsの関係は、上述した図4と同様である。そして、修正操舵目標値Tms、δmsの正負の符号と共にその絶対値の最大値Tmsm、δmsmを最大値記憶手段50jで記憶し、記憶された符号を最大値Tmsm、δmsmに付した値が修正操舵補正値演算手段50sにて最終的な修正操舵目標値となる修正操舵補正値Tmsa、δmsaとされる。
また、最大値修正手段50qは、継続時間tmsおよび戻し操作の判定結果DSmに基づき、上記第1実施形態と同様の手法により、最大値記憶手段50jに記憶された最大値Tmsm、δmsmを修正し、最大値Tmsms、δmsmsを演算する。つまり、継続時間tmsが所定時間τkを超えていれば最大値Tmsm、δmsmをゼロに減少させ、戻し操作が行われていれば最大値Tmsm、δmsmを戻し操作前の所定割合に減じる。そして、制限手段50rにて、最大値Tmsms、δmsmsの時間変化量に制限を設け、最終的な最大値Tmsml、δmsmlを演算する。そして、最終的な最大値Tmsml、δmsmlが修正操舵補正値演算手段50sに伝えられると、修正操舵補正値演算手段50sは、継続時間tmsが所定時間τkを超えているときには、最大値記憶手段50jに記憶されていた最大値Tmsm、δmsmに優先して、最終的な最大値Tmsml、δmsmlを修正操舵補正値Tmsa、δmsaとする。また、戻し操作の判定によるときは、最大値Tmsm、δmsmを優先し、これらを修正操舵補正値Tmsa、δmsaとする。
このように、修正操舵目標値Tms、δmsの最大値Tmsm、δmsmを記憶し、これに基づいて最終的な修正操舵補正値Tmsa、δmsaを求めるようにしても、第1〜第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
(他の実施形態)
上記各実施形態では、ブレーキ制御機構30として、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31を用いた液圧ブレーキに基づいて車輪FL〜RRに制動トルクを与えるものについて記載したが、電動ブレーキのように電動モータによりW/C圧を発生させたり、直接ディスクロータにブレーキパッドを押し付けることで車輪FL〜RRに制動トルクを与えるものであっても構わない。この場合、例えば、電動モータの制御指示値に基づいて制動トルクを求めることが可能である。
また、上記各実施形態では、戻し操作が行われた場合に、戻し操作前に対して最大値MSmを所定割合に減じるようにしているが、所定割合とせず、戻し操作の操作量に対応して最大値MSmを減じるようにしても良い。
また、上記各実施形態では、前後力差ΔFXとして、右前後輪FR、RRの前後力FXFR、FXRRの和から左前後輪FL、RLの前後力FXFL、FXRLの和を差し引いた値を用いているが、前後力差が制動力差である場合には、左右車輪の間の前後力差ΔFXとして、右側前車輪FRの前後力(制動力)FXfrから左側前車輪FLの前後力(制動力)FXflを減じて得られる値が使用されてもよい。また、前後力差が駆動力差である場合には、右側駆動車輪の前後力(駆動力)から左側駆動車輪の前後力(駆動力)を減じて得られる値が使用されてもよい。
また、上記第1〜第4実施形態では、制限手段50rにて最大値MSms、ΔFXmsの時間変化量に制限を設ける制限処理が行われるようにしているが、修正操舵目標値Tms、δmsの時間変化量に制限を設ける制限処理を行うようにしても良い。同様に、上記第5実施形態では、制限手段50rにて最大値Tmsms、δmsmsの時間変化量に制限を設ける制限処理が行われるようにしているが、修正操舵補正値Tmsa、δmsaの時間変化量に制限を設ける制限処理を行うようにしても良い。
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。
1…車両、10…運動制御機構、20…操舵制御機構、21…ステアリングホイール、22…ステアリングシャフト、22a…上部シャフト、22b…下部シャフト、23…操舵トルクセンサ、24…EPS、25…ステアリングギア機構、26…ステアリングリンク機構、27…VGRS、28…操舵角センサ、30…ブレーキ制御機構、31…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、32…W/C、41…車輪速度センサ、42…W/C圧センサ、43…ヨーレートセンサ、44…前後加速度センサ、45…横加速度センサ、46…ペダル操作量センサ、50…ECU、60…ブレーキペダル。