以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態を示すマニピュレータシステムの構成図である。図1において、マニピュレータシステム10は、顕微鏡観察下で卵や細胞等の微小な対象物である試料に人口操作を実施するためのシステムとして、顕微鏡ユニット12と、ホールディング用マニピュレータ14と、インジェクション用マニピュレータ16と、を備えており、顕微鏡ユニット12の両側にマニピュレータ14、16が分かれて配置されている。
顕微鏡ユニット12は、撮像素子としてのカメラ18、顕微鏡20、試料台を備え、試料台上にベース22が配置されている。このベース22の直上に顕微鏡20が配置される構造となっている。なお、顕微鏡20とカメラ18とは一体構造となっており、図示は省略したが、ベース22に向けて光を照射する光源を備えている。
ベース22上には例えば試料(図示せず)を含む溶液が収容される。この状態で、ベース22上の試料に顕微鏡20から光が照射され、ベース22上の試料(例えば、細胞や卵)で反射した光が顕微鏡20に入射すると、細胞や卵に関する光学像は、顕微鏡20で拡大されたあとカメラ18で撮像されるようになっており、カメラ18の撮像による画像を基に試料を観察することができる。
マニピュレータ14は、図1に示すように、X軸‐Y軸‐Z軸の3軸構成のマニピュレータとして、ピペット24、X‐Y軸テーブル26、Z軸テーブル28、X‐Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30、Z軸テーブルを駆動する駆動装置32を備えて構成されている。ピペット24の先端には、毛細管チップであるホールディング用のキャピラリ25が取り付けられている。
ピペット24は、Z軸テーブル28に連結され、Z軸テーブル28は、X‐Y軸テーブル26上に上下動自在に配置され、駆動装置30、32はコントローラ43に接続されている。
X‐Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル28は、駆動装置32の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル28に連結されたピペット24は、X‐Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、ベース22上の細胞などを保持するように構成されている。
マニピュレータ16は、直交3軸構成のマニピュレータとして、ピペット(インジェクションピペット)34と、X‐Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X‐Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42を備え、ピペット34は、Z軸テーブル38に連結され、Z軸テーブル38は、X‐Y軸テーブル36上に上下動自在に配置され、駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。ピペット34の先端にはガラス製のインジェクションキャピラリ35が取り付けられている。
X‐Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル38に連結されたピペット34は、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、ベース22上の試料に人工操作を行うように構成されている。このように、マニピュレータ14、16はほぼ同一構成であり、以下、ピペット34が連結されたマニピュレータ16を例に挙げて説明する。
X‐Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動(モータ)により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動(モータ)により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されているとともに、ベース22上の細胞や卵を、針を挿入するための挿入対象とするピペット34を連結している。
すなわち、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、駆動装置40、42の駆動により、ベース22上の卵や細胞などを含む3次元空間を移動領域として移動し、ピペット34を、例えば、ピペット34の先端側からベース22上の細胞(試料)に対して、針を挿入するための挿入位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元軸移動テーブル)として構成されている。
また、Z軸テーブル38とピペット34との連結部は、ナノポジショナとしての機能を備えている。ナノポジショナは、ピペット34を設置している方向へ自在に移動可能に支持するとともに、さらに、ピペット34をその長手方向(軸線方向)に沿って微動駆動するように構成されている。
具体的には、Z軸テーブル38とピペット34との連結部には、ナノポジショナとして、微動機構44を備えている。
圧電アクチュエータの微動機構44は、図2乃至図4に示すように、圧電アクチュエータの本体を構成するハウジング48を備えており、ほぼ筒状に形成されたハウジング48内には、ピペット34を駆動対象として、外周側にねじ部を有するねじ軸52と、ねじ軸52を囲む中空状の回転軸54が挿通されている。ハウジング48はその底部がベース56に固定されている。
ねじ軸52の先端側には、治具58を介してピペット34の根元側が連結されており、ねじ軸52の中程には、ねじ軸52外周のねじ部とねじ結合されるねじ要素としてのボールねじナット(BSナット)60が装着され、治具58とねじ軸52との間にはスライダ62が連結されている。スライダ62はベース56とほぼ直交する方向に配置され、切り欠き64を間にしてリニアガイド66に連結されている。リニアガイド66はベース56底部側に配置され、ベアリング68を介して、ねじ軸52の軸方向に沿って移動自在にベース56に連結されている。
すなわち、リニアガイド66は、ねじ軸52の軸方向の移動に合わせて、ねじ軸52の先端側を支持したスライダ62を、ベース56に沿って往復動させるようになっている。この際、ねじ軸52のうちボールねじナット60よりもピペット34側の部位が、スライダ62を介してリニアガイド66でスライド自在に支持されるので、ねじ軸52の直線運動をピペット34へ伝達することができる。
ボールねじナット60は、回転軸54の軸方向一端側(先端側)の段部54aに固定されているとともに、ねじ軸52外周のねじ部とねじ結合され、ねじ軸52がその軸方向に沿って往復動(直線運動)するのを自在に支持するようになっている。すなわち、ボールねじナット60は、回転軸54の回転運動をねじ軸52の直線運動に変換するための要素として構成されている。
回転軸54の軸方向他端側は、中空モータ70内の回転部に連結している。中空モータ70のハウジング74は、その底部側がベース56に弾性体としてのゴムワッシャ76を介してボルト78が固定されている。中空モータ70が駆動されると回転軸54が回転し、回転軸54の回転運動がボールねじナット60を介してねじ軸52に伝達され、ねじ軸52がその軸方向に沿って直線運動するようになっている。なお、モータ70と回転軸54との連結にカップリングを使用してもよい。
一方、回転軸54の段部54aに隣接して、軸受80、82が内輪間座84を間にして収納されている。軸受80、82は、それぞれ内輪80a、82aと、外輪80b、82bと、内輪と外輪間に挿入されたボール80c、82cを備え、各内輪80a、82aが回転軸54の外周面に嵌合され、各外輪80b、82bがハウジング48の内周面に嵌合され、回転軸54を回転自在に支持するようになっている。軸受80、82は、内輪間座84を間にし、回転軸54にロックナット86により固定されている。軸受80は、ハウジング48内の段部54aと円環状のスペーサ90と当接することにより、回転軸54の軸方向への移動が規制されるようになっている。軸受82の外輪82bとハウジング48の蓋88との間に、円環状の圧電素子92と円環状のスペーサ90が圧入されている。
また、各軸受80、82、圧電素子92は、スペーサ90の長さを調節し、蓋88を閉めることにより、予圧が付与される。
具体的には、スペーサ90の長さを調整し、蓋88を閉めると、その位置に応じた締結力が軸受82と軸受80の外輪82b、80bに、軸方向に沿った押圧力として予圧が付与されるとともに、同時に圧電素子92にも予圧が付与される。これにより、軸受80、82および圧電素子92に所定の予圧が付与され、軸受80、82の外輪間に軸方向間の距離としての間隙94が形成される。
圧電素子92は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ43に接続されており、コントローラ43からの電圧に応じて回転軸54の長手方向(軸方向)に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。すなわち、圧電素子92は、コントローラ43からの印加電圧に応答して、回転軸54の軸方向に沿って伸縮し、回転軸54をその軸方向に沿って微動させるようになっている。回転軸54が軸方向に沿って微動すると、この微動がねじ軸52を介してピペット34に伝達され、ピペット34の位置が微調整されることになる。
上記構成において、インジェクション用マニピュレータ16を駆動するに際しては、XY軸テーブル36とZ軸テーブル38を粗動駆動して、インジェクションピペット34をベース22上の卵や細胞に近づけて位置決めしたあと、微動機構44を用いてピペット34を微動駆動することとしている。
具体的には、ピペット34にインジェクションキャピラリ35をセッティングするに際しては、図5に示すように、顕微鏡作業箇所に配置されたベース22からピペット34を退避させる状態になるように、マニピュレータ14,16を駆動する。これにより、ピペット34にインジェクションキャピラリ35をセッティングする際、十分な作業スペースが得られる。
インジェクションキャピラリ35をピペット34に取り付けた後は、コントローラ43からの指令により、マニピュレータ14、16を駆動し、図6に示すように、インジェクションキャピラリ35が取り付けられたピペット34を顕微鏡作業箇所であるベース22上へ移動させる。このときの作業方法はジョイスティック47やボタン43Bを用いたりする方法を用いることもできる。
インジェクションキャピラリ35を顕微鏡作業箇所に移動させる際、1回目(初めての)の操作の場合、顕微鏡視野倍率を低倍にし、アクチュエータを駆動することで、顕微鏡20の視野内にインジェクションキャピラリ35が確認でき次第、アクチュエータの駆動を停止する。
このあと、コントローラ43の画像処理を利用し、アクチュエータを駆動することで、顕微鏡20の視野内に、インジェクションキャピラリ35を最適位置へ移動し、アクチュエータの駆動を停止する。このとき、1回目の操作の際に駆動したアクチュエータの移動量をコントローラ43に記憶する。このとき必要であれば、XYZの駆動系も駆動しても良い。
次に、マニピュレータ16を操作し、シャーレの交換あるいはインジェクションキャピラリ35の交換が必要になった場合、アクチュエータを駆動し、顕微鏡作業箇所からインジェクションキャピラリ35を退避させるための操作を行う。このときボタン43Bの操作により、インジェクションキャピラリ35をセッティングした位置まで駆動しても良いし、ジョイステック47などを用いて任意の位置まで退避するようにしてもよい。
一方、再度、顕微鏡作業箇所へインジェクションキャピラリ35を移動する場合、1回目にセッティングした際の位置をコントローラ43が記憶しているため、マニピュレータ16で、容易にインジェクションキャピラリ35の位置を調整することが可能になる。
また一連の細胞操作作業中にインジェクションキャピラリ35を交換する必要があった場合でも
、ピペット34をマニピュレータ16から外すことなく、インジェクションキャピラリ35をセッティングすることが可能となるので、作業効率を向上することができる。
インジェクションキャピラリ35として、その形状が均一なものを使用する場合は、本発明に係るマニピュレータ16を用いることで、従来のものよりも効率を向上させることができる。
またインジェクションキャピラリ35の形状にばらつきがある場合でもピペット34をアクチュエータ(ねじ軸52)の駆動によって直線往復運動させることができるため、インジェクションキャピラリ35の位置を微細に調整することができる。
またインジェクションキャピラリ35が卵や細胞の挿入位置に位置決めされたときには、圧電素子92にインジェクション用の電圧を印加し、微動機構44を微動駆動することで、ピペット34によるインジェクション動作を行うことができる。この際、圧電素子92からピペット34を支持する治具58までの間には弱いばね要素を配置していないため、高い応答性を得ることが可能である。
本実施形態においては、軸受80、82のうち軸受80の内輪80aと外輪80bの変位量であって、圧電素子92の変位の半分の変位量がピペット34の変位量に設定されているため、圧電素子92には微動変位量の2倍の変位を与えるための制御電圧と初期設定電圧とを加算した微動用電圧を印加することになる。
例えば、圧電素子92に2xの伸びが生じたときには、この伸びによる押圧力は微動制御を行う前の予圧荷重に加えて軸受82の外輪82bを押圧し、軸受80の外輪80bを軸方向に移動させ、軸受80、82の各外輪間の間隙94が2x分更に狭くなって圧電素子92の軸方向の伸びを吸収する。
この間隙94の変位は、弾性変形に伴って軸受80、82がそれぞれ軸方向にxずつ変位し、軸受80の外輪80bが軸方向に合わせて2x変位することにより生じる。
逆に、圧電素子92が2x縮むと、押圧力が減少し、軸受80、82の弾性変形がそれぞれxずつ減少し、間隙94が広がる方向に、軸受80の外輪80bが軸方向に合わせて2x変位することになり、圧電素子92の縮む分を吸収する。
このように、間隙94の変位xを軸受80、82がxずつ分けて吸収するので、軸受80、82を互いに押圧する力がバランスしたときに、軸受80、82の内輪80a、80bが回転軸54と共に軸方向にx変位する。これにより、回軸軸54にねじ軸52を介して連結されたピペット34が軸方向にxだけ変位する。つまり、圧電素子92の2xの半分の変位量がピペット34の微動変位量となってピペット34が挿入位置に挿入される。ピペット34が挿入位置に位置決めされたあと、圧電素子92にインジェクション用電圧を印加すると、ピペット34がインジェクション動作を行うことになる。
本実施形態によれば、中空モータ70の駆動に伴う回転軸54の回転運動をボールねじナット60を介して直線運動に変換してねじ軸52に伝達し、中空モータ70の粗動駆動に伴うねじ軸52の直線運動によってピペット34をその軸方向に沿って粗動駆動し、微動機構44の微動駆動に伴うねじ軸52の直線運動によってピペット34をその軸方向に沿って微動駆動させるようにしたため、ピペット34にインジェクションキャピラリ35を取り付けるだけで、ピペット34を直線運動させることができ、顕微鏡作業箇所に配置されたベース22へ向けてピペット34を移動させたり、ベース22からピペット34を退避させたりする際に、煩雑な作業を不要とすることができる。
次に、本実施形態による圧電アクチュエータの別の例について図7を参照して説明する。図7は、本実施形態による別の圧電アクチュエータの平面から内部を見た断面図である。
図7の圧電アクチュエータは、上述のアクチュエータの構造においてBSねじ軸にインジェクション用のピペット保持部材を固定したものである。すなわち、図2〜図4の圧電アクチュエータと基本的に同一の構成であるが、ボールねじナットに接続している回転軸を省略してボールねじナットと一体化し、BSねじ軸を中空にし、中空のBSねじ軸内にピペット保持部材を配置して固定したものである。
図7の圧電アクチュエータは、上述の微動機構44として使用可能であり、ほぼ筒状に形成されたハウジング110内には、外周側にボールねじ(BSねじ)部を有する中空のねじ軸122と、ねじ軸122の外周のねじ部とねじ結合されるねじ要素としてのボールねじナット(BSナット)121とが挿通されている。
図7のように、ハウジング110の内周側であってボールねじナット121の外周側には、軸方向先端側から、軸受111と、軸受112と、内輪間座113と、ロックナット114と、間座117と、圧電素子115と、が軸方向に並ぶように配置されている。軸受111と軸受112と内輪間座113とは、図3の軸受80、82、内輪間座84と同様の構成である。
ボールねじナット121のつば部121aが軸受111の内輪111bの側面に当接し、つば部121aとロックナット114との間で軸受111の内輪111bと軸受112の内輪112bとが内輪間座113を挟んでロックナット114の締め付けにより固定されている。
軸受111は外輪111aの側面がハウジング110のつば部110aに当接するように配置されている。また、全体が円環状で断面L字形の間座117が軸受112の外輪112aの側面に当接しかつロックナット114の収容空間を形成するように配置されている。円環状の圧電素子115が軸受112の外輪112aに間座117を介して配置される。間座117は圧電素子115の変位を軸受112の外輪112aへ伝達する。軸受111,112と圧電素子115には、間座117の軸方向の寸法を調整し、蓋116をハウジング110に取り付けることで予圧が付与される。
ボールねじナット121の回転軸部121bは、ハウジング110の蓋116の外側まで延在し、中空モータ120内の回転部に連結し、中空モータ120の回転により回転駆動される。ハウジング110及び中空モータ120は、図2〜図4と同様にしてベース56に固定されている。
ボールねじナット121は、ハウジング110により軸受111,112を介して回転可能に支持されており、回転軸部121bがねじ軸122の外周のねじ部とねじ結合され、中空モータ120の回転により回転軸部121bとともに回転しながら、ねじ軸122がその軸方向に沿って往復動(直線運動)することを支持する。このように、ボールねじナット121は、回転軸部121bの回転運動をねじ軸122の直線運動に変換するための要素として構成されている。
中空のねじ軸122内にはピペット保持部材130の直線状の円筒部131が挿通し、ねじ軸122の中空内に円筒部131がねじ固定や接着固定等により固定されている。ピペット保持部材130は、内部に図2〜図4のようなピペットを保持し保護しており、その先端側にはインジェクションキャピラリ35が取り付け固定され、その後端側には卵や細胞等へのインジェクションのための溶液を送るチューブ132が接続されている。
中空モータ120の回転によりボールねじナット121が回転することで、ボールねじナット121とねじ結合したねじ軸122がピペット保持部材130とともに直線運動し、インジェクションキャピラリ35が図の矢印方向に直線的に往復動する。また、圧電素子115は、図1のコントローラ43からの印加電圧に応答して、ねじ軸122の軸方向に沿って伸縮し、ねじ軸122をピペット保持部材130とともにその軸方向に沿って微動させる。ねじ軸122が軸方向に沿って微動すると、インジェクションキャピラリ35も軸方向に微動し、インジェクションキャピラリ35の位置を微調整できる。
図7の圧電アクチュエータは、図1のインジェクション用マニピュレータ16に上述の微動機構44として適用されることで、図1〜図6と同様にして、XY軸テーブル36とZ軸テーブル38を粗動駆動してインジェクションキャピラリ35をベース22上の卵や細胞に近づけて位置決めした後、インジェクションキャピラリ35を微動駆動することができる。
図7の圧電アクチュエータによれば、図2〜図4ではボールねじナットに回転軸が取り付けられているが、図7では回転軸が不要であり、部品を削減でき、組立も容易化できるため、安価に提供できる。また、ピペット保持部材130と圧電素子115とを同軸上に配置できるとともに、圧電素子115とピペット保持部材130との位置関係も可能な限り近づけることができるので、圧電素子115の動作を効率よくインジェクションキャピラリ35へ伝達することができる。
また、図7の圧電アクチュエータの微動機構44により、電動でガラスキャピラリの微細な位置決め(セッティング)が可能になる。また、アクチュエータ内には、ばね要素として軸受111,112及びボールねじナット121のボールねじしか存在しないため、従来よりも高剛性のアクチュエータを実現でき、位置決めの際の応答性が向上する。
また、ボールねじナット121が回転するナット回転型のアクチュエータにピペット保持部材130を取付けており、インジェクションキャピラリ35をセッティングする際に、操作者はピペット保持部材130やマニピュレータ16に触ることなく、図7の圧電アクチュエータを駆動することでインジェクションキャピラリ35を顕微鏡作業箇所から退避させ、逆に、顕微鏡作業箇所へ移動させることが可能となる。
また、図7のナット回転型アクチュエータ内に圧電素子115が配置されているため、圧電素子がピペット保持部材に直付けされておらず、このため、ピペット保持部材130の取付け時の煩雑な作業が不要となる。
次に、本実施形態による圧電アクチュエータのさらに別の例について図8を参照して説明する。図8は、本実施形態によるさらに別の圧電アクチュエータの平面から内部を見た断面図である。
図8の圧電アクチュエータは、図7の構成と比べ、ピペット保持部材130の外周上にボールねじ(BS)のねじ加工を施し、中空のねじ軸122を省略した以外は、基本的な構成は同一である。すなわち、ピペット保持部材130は外周がBSねじ加工された直線状の円筒部133を有し、ボールねじナット121は、直線状の円筒部133の外周のねじ部とねじ結合されている。図8の圧電アクチュエータは、図7と同様に駆動され、図1のインジェクション用マニピュレータ16に上述の微動機構44として適用される。
図8の圧電アクチュエータによれば、図7と同様の作用効果を得ることができるとともに、中空のねじ軸122を省略できるので、図7の中空のねじ軸122とピペット保持部材130との組立作業が不要となり、部品点数の削減につながるとともに、組み立ても容易となるから、安価に提供できる。
次に、インジェクションキャピラリ35について図9を参照して説明する。図9は図1,図6のインジェクションキャピラリ35の先端部分を拡大して示す図である。
図9のように、インジェクションキャピラリ35は、先端部35aに折れ曲がり部35bを有し、上述のようにベース22に対しセッティングされると、先端部35aがベース22に対し略平行に位置決められ、折れ曲がり部35bから斜め上方に延びるようになっている。
インジェクションキャピラリ35内にはフッ素系不活性液体35cが充填され、封入される。フッ素系不活性液体35cの封入量は、図9のようにインジェクションキャピラリ35が設置されたとき、折れ曲がり部35bよりもその界面35dが上側に位置する程度が好ましい。
フッ素系不活性液体35cは、化学的に安定な特性を有し、例えば、フロリナート(登録商標)を用いることができ、優れた電気絶縁性と熱伝導性を有し、高温、低温を問わず各種溶剤に溶解しない、完全に不活性で金属、プラスチック、ゴム等を侵さない、表面張力が非常に低く(12〜18 dynes/cm 25℃)浸透性がすぐれている、不燃性、無毒、無臭で安全である、といった性質を有しているとされている。なお、インジェクションキャピラリ35内に封入する物質はポリタングステン酸ナトリウムの比重を調整した溶液を使用してもよい。
図5,図6のピペット34をインジェクタとして構成し、その先端にインジェクションキャピラリ35を取り付けるが、本実施形態では、図2〜図4のように、インジェクタに直接圧電アクチュエータを取付ける構造ではないので、容易にインジェクタを圧電アクチュエータに装着可能である。また、圧電アクチュエータは微動機構44によりインジェクタを移動させる機能を有し、インジェクションキャピラリ35の交換が容易になっている。
次に、上述のマニピュレータシステム10における駆動制御について図10,図11,図12を参照して説明する。図10は図1のコントローラ43内の圧電素子制御系を示すブロック図である。図11は圧電素子92を駆動するトリガ信号(a)とトリガ信号に対応して出力する1周期波形の印加電圧(b)、及び同じくトリガ信号(c)とトリガ信号に対応して出力するバースト波形の印加電圧(d)を概略的に示す図である。図12は図1のコントローラに各種操作のために接続されるジョイスティック47の具体例を示す斜視図である。
図1のマニピュレータシステム10の操作のため、図1,図10のように、コントローラ43に接続された図12のようなジョイスティック47を主に用いることができ、マニピュレータ14,16に対し1つずつ用意する。2台のジョイスティック47により、図1のマニピュレータシステム10のマニピュレータ14,16を操作することができる。
ジョイスティック47は、図12のように、複数のボタン47a〜47gとハンドル47hとレバー47iとを有する。ハンドル47hは、右方向R、左方向Lに傾斜させる(倒す)ことで図1の駆動装置30,40を駆動しマニピュレータ14,16をX軸方向、Y軸方向に駆動でき、回転させる(ひねる)ことで駆動装置32,42を駆動しZ軸方向に駆動できる。また、各ボタン47a〜47gに各機能の操作を割り当てることができ、例えば、ボタン47aに図11(a)、(c)のトリガ信号の発生を割り当て、レバー47iに図11(b)の1周期波形と図11(d)のバースト波形との切り替えを割り当てる。レバー47iを上側位置Aにしてボタン47aを押すと、1周期波形の印加電圧が出力し、また、下側位置Bにしてボタン47aを押すと、バースト波形の印加電圧が出力する。これらの割り当ては、操作者の好みに応じて適宜変更可能である。
図12のジョイスティック47においてレバー47iを上側位置Aにしてボタン47aを押すと、図11(a)のトリガ信号Cが発生し、図10の信号発生器101に入力され、そのCH1から信号が発生し、アンプ102を介して図11(b)のような1周期波形の印加電圧が図3の圧電アクチュエータの圧電素子92に出力する。
また、ジョイスティック47のレバー47iを下側位置Bに切り替えてボタン47aを押すと、図11(c)のトリガ信号Dが発生し、図10の信号発生器101に入力され、そのCH2から信号が発生し、アンプ102を介して図11(d)のようなバースト波形の印加電圧が図3の圧電アクチュエータの圧電素子92に出力する。
ジョイスティック47のボタン47aを押し続けている間、トリガ信号の出力が所定時間間隔で継続して、印加電圧が間欠的に発生し圧電素子92が間欠的に駆動され、ボタン47aの操作を止めると、トリガ信号の出力は停止するようになっている。トリガ信号は、図11(a)、(c)では矩形波表示であるが、波形は他の形式であってもよい。圧電素子92への印加電圧の波形は、トリガ信号を受けるたびに、図11(b)のように所定波形を1周期分出力する形式でもよいし、図11(d)のようにバースト出力形式でもよい。
本実施形態のマニピュレータシステム10によるICSI(卵細胞質内精子注入法)のときの穿孔操作について図13を参照して説明する。図13は卵に対しインジェクションキャピラリ35が穿孔操作を行う様子を概略的に示す図であり、図11(a)または(c)のトリガ信号CまたはDの発生前(1)、1回発生後(2)、2回発生後(3)、3回発生後(4)のインジェクションキャピラリ35内の不活性液体の位置を概略的に示す図である。
本実施形態のマニピュレータシステム10によりICSI(卵細胞質内精子注入法)を行う場合、図13(1)のように、マニピュレータ16を操作してホールディング用のキャピラリ25で卵DDを保持し、インジェクションキャピラリ35を卵DDに接近させる。
次に、ジョイスティック47のボタン47aを押し続けると、図11(a)または(c)のようにトリガ信号CまたはDが所定の時間間隔で発生し、そのトリガ信号に対応して、図11(b)または(d)のように印加電圧(2)、(3)、(4)が間欠的に発生し、圧電素子92に印加されて、圧電素子92が間欠的に駆動される。圧電素子92が駆動するたびに、図13(2)、(3)、(4)のように、インジェクションキャピラリ35の先端部35a内のフッ素系不活性液体35cが図13の方向Hに移動し、フッ素系不活性液体35cの先端側の界面35eが卵DD側に動く。かかるこの現象を用い、ICSI(卵細胞質内精子注入法)のときに卵DDの透明帯や納胞膜の穿孔操作をすることができる。
以上のように、本実施形態によれば、インジェクションキャピラリ35の先端部分に充填した化学的に安定なフッ素系不活性液体を圧電アクチュエータの圧電素子92の駆動により移動させることで、取り扱いに特別な注意が必要な水銀を使用せずにICSI等のインジェクション操作が可能となる。
また、図12のような2台のジョイスティック47を操作することで、図1のマニピュレータ14,16を操作できるので、従来のようにフットスイッチで操作する必要がなく、両手でジョイスティック47を操作するのみでICSIが可能となる。
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施形態の圧電アクチュエータは、図2〜図6のような微動機構44を有するものとして説明したが、図7や図8の圧電アクチュエータを有してもよく、この場合は、圧電素子115に対し図11(b)、(d)のような印加電圧が出力し、図13と同様のインジェクション操作を行うことができる。
10 マニピュレータシステム、14 ホールディング用マニピュレータ、マニピュレータ、16 インジェクション用マニピュレータ、マニピュレータ、25 ホールディング用のキャピラリ、34 インジェクションピペット、インジェクタ、35 インジェクションキャピラリ、35a 先端部、35b 折り曲がり部、35c フッ素系不活性液体、35d 界面、43 コントローラ、44 微動機構、47 ジョイスティック、47a ボタン、48 ハウジング、92 圧電素子、115 圧電素子、DD 卵