JP5055899B2 - 溶接熱影響部靭性に優れた、引張り強さ760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法および高強度溶接鋼管 - Google Patents
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Description
1.HAZにおいて靭性が最も低下する部位は、HAZ粗粒域(Coarse−grain HAZ、以後CGHAZ)で、溶接ボンド部から少なくとも溶接ボンド+1mmの領域である。
2.CGHAZのミクロ組織は、母材のPCM値と、溶接後の冷却において、γ‐α相変
態する800℃から500℃の温度域の冷却速度の組合わせによって、硬質のMAを大量に含む上部ベイナイト組織や、強度の高いマルテンサイト組織を一定分率以下に抑制した、下部ベイナイト組織を主体とすると最も靭性が向上する。
本発明は上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.質量%で、
C: 0.03〜0.12%
Si: 0.01〜0.5%
Mn: 1.5〜3.0%
Al: 0.01〜0.08%
Nb: 0.01〜0.08%
Ti: 0.005〜0.025%
N: 0.001〜0.010%
O: 0.003%以下
S: 0.003%以下
更に、
Cu: 0.01〜1%
Ni: 0.01〜1%
Cr: 0.01〜1%
Mo: 0.01〜1%
V: 0.01〜0.1%
の一種または二種以上を含有し、
PCM値が0.19≦PCM≦0.30を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる母材を冷間加工で管状に成形した後、縦シームサブマージアーク溶接を溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域のミクロ組織が面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、残部が上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織となる溶接条件として、下記(1)式を満足し、かつ、800℃から500℃の冷却速度を5〜40℃/sの範囲内とする条件で行うことを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
0.228≦P CM +0.0174×ln(v (800−500℃間) )≦0.350・・・(1)
但し、P CM は被溶接材の成分組成について求めたもので、P CM =C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×Bで各元素は含有量を示す。vは溶接部の800〜500℃間の冷却速度(℃/s)で(2)式で求める。
v (800−500℃間)(℃/s) =300/t (800−500℃間)(s) ・・・(2)
t (800−500℃間)(s) は溶接部(溶接ボンド部から溶接ボンド+1mm)に
おける800〜500℃までの冷却時間で数1で求める。
[数1]
但し、数1において、h:板厚(mm)、θ 0 :初期温度(℃)、Qは溶接入熱(J/cm)を示す。溶接入熱(kJ/mm)はΣ(I i ×V i )×60/v/1000とする。ここで、
I i :i番目の電極の電流(A)、V i :i番目の電極の電圧(V)、v:溶接速度(mm/min)とする。
2.更に、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%
REM:0.0005〜0.02%
Zr:0.0005〜0.03%
Mg:0.0005〜0.01%
B:0.0001〜0.0010%
の一種または二種以上を含有することを特徴とする1記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
3.縦シーム溶接後、拡管することを特徴とする1または2に記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
4.溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域の溶接熱影響部硬さが、250≦HV(98N)≦350を満たすことを特徴とする1乃至3のいずれかに記載の製造方法で製造された溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管。
C:0.03〜0.12%
Cは低温変態組織においては過飽和固溶することで強度上昇に寄与する。この効果を得るためには0.03%以上の添加が必要であるが、0.12%を超えて添加すると、鋼管の円周溶接部の硬度上昇が著しくなり、溶接低温割れが発生しやすくなるため、上限を0.12%とする。
Siは脱酸材として作用し、さらに固溶強化により鋼材の強度を増加させる元素であるが、0.01%未満ではその効果がなく、0.5%を超えて添加すると靱性が著しく低下するため上限を0.5%とする。
Mnは焼入性向上元素として作用する。1.5%以上の添加によりその効果が得られるが、連続鋳造プロセスでは中心偏析部での濃度上昇が著しく、3.0%を超える添加を行うと、中心偏析部での遅れ破壊の原因となるため、上限を3.0%とする。
Alは脱酸元素として作用する。0.01%以上の添加で十分な脱酸効果が得られるが、0.08%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、靱性劣化の原因となるため、上限を0.08%とする。
Nbは熱間圧延時のオーステナイト未再結晶領域を拡大する効果があり、950℃以下を未再結晶領域とするため、0.01%以上添加する。一方、0.08%を超えて添加すると、HAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.08%とする。
Tiは窒化物を形成し、鋼中の固溶N量低減に有効で,析出したTiNはピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化を抑制して、母材、HAZの靱性向上に寄与する。当該ピンニング効果を得るためには0.005%以上の添加が必要であるが、0.025%を超えて添加すると炭化物を形成するようになり、その析出硬化で靱性が著しく劣化するため、上限を0.025%とする。
Nは通常鋼中の不可避不純物として存在するが、Ti添加により、TiNを形成する。TiNによるピンニング効果で、オーステナイト粒の粗大化を抑制するために0.001%以上鋼中に存在することが必要であるが、0.01%を超える場合、溶接部、特に溶接ボンド近傍で1450℃以上に加熱された領域でTiNが分解し、固溶Nの悪影響が著しいため、上限を0.01%とする。
Cu、Ni、Cr、Mo、Vはいずれも焼入性向上元素として作用するため、高強度化を目的に、これらの元素の一種,または二種以上を添加する。
Cuは、0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。しかし、1%以上の添加を行うと、靱性劣化が生じるため、上限を1%とする。
Niは、0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。特に、多量に添加しても靱性劣化を生じないため、強靱化に有効であるが、高価な元素であり、かつ1%を超えて添加しても強度上昇が飽和するため、上限を1%とする。
Crもまた0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。一方、1%を超えて添加すると、靱性が劣化するため、上限を1%とする。
Mo:0.01〜1%
Moもまた0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。一方、1%を超えて添加すると、靱性が劣化するため、上限を1%とする。
V:0.01〜0.1%
Vは炭窒化物を形成することで析出強化し、特に溶接熱影響部の軟化防止に寄与する。0.01%以上の添加によりこの効果が得られるが、0.1%を超えて添加すると、析出強化が著しく靱性が低下するため、上限を0.1%とする。
本発明でO、Sは不可避的不純物であり含有量の上限を規定する。Oは、粗大で靱性に悪影響を及ぼす介在物生成を抑制するため、0.003%以下とする。Sは、含有量が多いとMnSの生成量が著しく増加し、母材の靭性が劣化するため、0.003%以下とする。
PCMはC+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×Bで表す溶接割れ感受性指数で、各元素は含有量とし、含有しない元素は0とする。
Ca、REM、Zr、Mg
Ca、REM、Zr、Mgは鋼中で酸硫化物あるいは炭窒化物を形成し、主に溶接熱影響部におけるオーステナイト粒粗大化をピンニング効果で抑制し、靱性を向上させる目的で添加する。
製鋼プロセスにおいて、Ca添加量が0.0005%未満の場合、脱酸反応支配でCaSの確保が難しく靱性改善効果が得られないので、Caの下限を0.0005%とする。
REMは鋼中で酸硫化物を形成し、0.0005%以上添加することで溶接熱影響部の粗大化を防止するピンニング効果をもたらす。しかし、高価な元素であり、かつ0.02%を超えて添加しても効果が飽和するため、上限を0.02%とし、添加する場合は、0.0005〜0.02%とする。
Zrは鋼中で炭窒化物を形成し、とくに溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには、0.0005%以上の添加が必要であるが、0.03%を超えて添加すると、鋼中の清浄度が著しく低下し、靱性が低下するようになるため、上限を0.03%とし、添加する場合は、0.0005〜0.03%とする。
Mgは製鋼過程で鋼中に微細な酸化物として生成し、特に、溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには、0.0005%以上の添加が必要であるが、0.01%を超えて添加すると、鋼中の清浄度が低下し、靱性が低下するようになるため、上限を0.01%とし、添加する場合は、0.0005〜0.01%とする。
Bは溶接熱影響部においてオーステナイト粒界に偏析し、焼入れ性を高める効果があり、より低い成分での下部ベイナイトあるいはマルテンサイトの生成を容易にする。この効果は0.0010%以下の添加で顕著であり、0.0010%を超えて添加すると、靭性が低下するようになるため、上限を0.0010%とし、添加する場合は、0.0001〜0.0010%とする。
本発明では、縦シーム溶接部の溶接ボンドから溶接ボンド+1mmまでの領域のミクロ組織を、面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織とする。尚、ミクロ組織は表面下2mmにおいて規定する。
本発明に係る鋼管の縦シーム溶接は、溶接ボンドから溶接ボンド+1mmまでの領域のミクロ組織が、面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織となるように、溶接条件を選定する。具体的溶接条件は予め試験材を用いて選定すれば良く、本発明では特に規定しない。
0.228≦PCM+0.0174×ln(v(800−500℃間))≦0.350・・・(1)
但し、PCMは被溶接材の成分組成について求めたもの、vは溶接部の800〜500℃間の冷却速度(℃/s)で(2)式で求める。
v(800−500℃間)(℃/s)=300/t(800−500℃間)(s)・・・(2)
t(800−500℃間)(s)は溶接部(溶接ボンド部から溶接ボンド+1mm)における800〜500℃までの冷却時間で数1で求めることが可能である。
Ii:i番目の電極の電流(A)、Vi:i番目の電極の電圧(V)、v:溶接速度(m
m/min)とする。
本発明に係る鋼管は、要求される真円度に応じて、縦シーム溶接後、拡管して製造する。
Claims (4)
- 質量%で、
C: 0.03〜0.12%
Si: 0.01〜0.5%
Mn: 1.5〜3.0%
Al: 0.01〜0.08%
Nb: 0.01〜0.08%
Ti: 0.005〜0.025%
N: 0.001〜0.010%
O: 0.003%以下
S: 0.003%以下
更に、
Cu: 0.01〜1%
Ni: 0.01〜1%
Cr: 0.01〜1%
Mo: 0.01〜1%
V: 0.01〜0.1%
の一種または二種以上を含有し、
PCM値が0.19≦PCM≦0.30を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる母材を冷間加工で管状に成形した後、縦シームサブマージアーク溶接を、溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域のミクロ組織が面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、残部が上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織となる溶接条件として、下記(1)式を満足し、かつ、800℃から500℃の冷却速度を5〜40℃/sの範囲内とする条件で行うことを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
0.228≦PCM+0.0174×ln(v(800−500℃間))≦0.350・・・(1)
但し、PCMは被溶接材の成分組成について求めたもので、PCM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×Bで各元素は含有量を示す。vは溶接部の800〜500℃間の冷却速度(℃/s)で(2)式で求める。
v(800−500℃間)(℃/s)=300/t(800−500℃間)(s)・・・(2)
t(800−500℃間)(s)は溶接部(溶接ボンド部から溶接ボンド+1mm)に
おける800〜500℃までの冷却時間で数1で求める。
Ii:i番目の電極の電流(A)、Vi:i番目の電極の電圧(V)、v:溶接速度(m
m/min)とする。 - 更に、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%
REM:0.0005〜0.02%
Zr:0.0005〜0.03%
Mg:0.0005〜0.01%
B:0.0001〜0.0010%
の一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。 - 縦シーム溶接後、拡管することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
- 溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域の溶接熱影響部硬さが、250≦HV(98N)≦350を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法で製造された溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管。
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