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JP4899874B2 - 加工性に優れた耐摩耗鋼板およびその製造方法 - Google Patents

加工性に優れた耐摩耗鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP4899874B2 JP2007004434A JP2007004434A JP4899874B2 JP 4899874 B2 JP4899874 B2 JP 4899874B2 JP 2007004434 A JP2007004434 A JP 2007004434A JP 2007004434 A JP2007004434 A JP 2007004434A JP 4899874 B2 JP4899874 B2 JP 4899874B2
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Description

本発明は、建設、土木、鉱山等の分野で使用される、例えば、パワーショベル、ブルドーザー、ホッパー、バケットなどの産業機械や運搬機器等のうち、土砂との接触による摩耗が問題となるような部材用として好適な耐摩耗鋼板およびその製造方法に係り、特に、曲げ加工性の改善に関する。なお、ここでいう、「鋼板」には、鋼板、鋼帯を含むものとする。
土、砂等による摩耗を受ける部材には、長寿命化のため、耐摩耗性に優れた鋼材が使用されている。従来から、鋼材の耐摩耗性は、高硬度化することにより、向上することが知られている。このため、耐摩耗性が要求される部材には、Cr、Mo等の合金元素を大量に添加し焼入等の熱処理を施し、高硬度化した鋼材が使用されてきた。
例えば、特許文献1には、C:0.10〜0.19%を含み、Si、Mnを適正量含有し、Ceqを0.35〜0.44%に限定した鋼を、熱間圧延後直接焼入れし、あるいは900〜950℃に再加熱したのち焼入れし、300〜500℃で焼戻し、鋼板表面硬さを300HV以上とする耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。
また、特許文献2には、C:0.10〜0.20%を含み、Si、Mn、P、S、N、Alを適正量に調整し、あるいはさらにCu、Ni、Cr、Mo、Bのうちの1種以上を含有する鋼に、熱間圧延後直接焼入れし、あるいは圧延後放冷した後、再加熱して焼入れし、340HB以上の硬さを有する耐摩耗厚鋼板とする、耐摩耗厚鋼板の製造方法が提案されている。
また、特許文献3には、C:0.07〜0.17%を含み、Si、Mn、P、S、N、Alを適正量に調整し、あるいはさらにCu、Ni、Cr、Mo、Bのうちの1種以上を含有する鋼に、熱間圧延後直ちに焼入れ、あるいは一旦空冷した後に、再加熱して焼入れし、表面硬さを321HB以上で、曲げ加工性に優れた鋼板とする耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。
特許文献1〜3に記載された技術は、合金元素を多量に添加して、固溶硬化、変態硬化、析出硬化等を活用して、高硬度化することで、耐摩耗特性を向上させている。しかし、合金元素を多量に添加して、高硬度化した場合には、結果的に溶接性、加工性が低下し、さらに高合金化により製造コストが高騰するという問題がある。
また、使用条件によっては、表面近傍のみを高硬度化して、耐摩耗性を向上させるだけでも良い場合がある。このような場合には、Cr、Mo等の合金元素を多量に添加する必要はなく、焼入れ処理等の熱処理を施して、鋼材表面近傍のみを焼入れ組織とすることが考えられる。しかし、焼入れ組織の高硬度化のためには、一般に、鋼材の固溶C量を増加させる必要があるが、固溶C量の増加は、溶接性の低下、曲げ加工性の低下などを招くという問題がある。特に曲げ加工性に関しては、固溶C量の増加により曲げ加工時の変形抵抗が増大し、曲げ加工ができないなどの問題も生じてくる。
このため、過度に高硬度化を図ることなく、耐摩耗特性を向上させることができる耐摩耗鋼板が要望されていた。
このような要望に対し、例えば、特許文献4には、C:0.10〜0.45%を含み、Si、Mn、P、S、Nを適正量に調整し、さらにTi:0.10〜1.0%含有し、0.5μm以上の大きさのTiC析出物あるいはTiCとTiN、TiSとの複合析出物を400個/mm2以上を含み、Ti*が0.05%以上0.4%未満とする表面性状に優れた耐摩耗鋼が提案されている。特許文献4に記載された技術によれば、凝固時に粗大なTiCを主体とする析出物を生成させ、過度に高硬度化させることなく安価に耐摩耗性を向上させることができるとしている。
特開昭62−142726号公報 特開昭63−169359号公報 特開平1−142023号公報 特許3089882号公報
しかしながら、特許文献4に記載された技術では、焼入れ処理を実施し、組織を焼入れままのマルテンサイト組織としているため、強度が高く、その結果、曲げ加工時の変形抵抗が高くなるため、曲げ加工が容易であるとは云い難く、曲げ加工性に問題を残していた。
また、特許文献1〜4に記載された技術はいずれも、熱間圧延後に、熱処理を行うことを必須としており、工程が複雑となり、製造工期および製造コストの両面から課題を残していた。
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたもので、耐摩耗性を向上させ、かつ、曲げ加工性を向上させることが可能な、加工性に優れた耐摩耗鋼板を提供することを目的とする。
発明者らは、上記した目的を達成するために、耐摩耗性と曲げ加工性に影響する各種要因について、鋭意研究を重ねた。その結果、TiとCを含有する成分系で、圧延ままで、基地相をフェライト−ベイナイトの複合組織とするとともに、該基地相中に硬質な第二相(硬質相:TiC)を分散させることにより、熱処理を施すことなく圧延ままで、優れた耐摩耗性を維持したまま、曲げ加工時の加工荷重の低減が可能であること、すなわち、加工性の改善が可能であることを見出した。
まず、発明者らが行った基礎的実験について説明する。
mass%で、0.28%C−0.21%Si−0.75%Mn系を基本組成として、Tiを0.05〜1.2%の範囲で変化して含む鋼片をそれぞれ、熱間圧延して板厚12mmの厚鋼板とし、圧延終了後、空冷した。このときの空冷時の冷却速度は、0.9℃/sであった。なお、比較として、焼入れ熱処理を施し、ブリネル硬さで400HB程度の硬さを有する、0.15mass%Cを含み、硬質な第二相を実質含有しない(Ti:0.05%未満)耐摩耗鋼板(従来材)も用意した。
得られた鋼板から試験片を採取し、引張試験、摩耗試験を実施した。
引張試験は、得られた鋼板からJIS Z 2201の規定に準拠して、JIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(引張強さTS、降伏強さYS)を求めた。
摩耗試験は、ASTM G65の規定に準拠したラバーホイール摩耗試験を実施し、各鋼板の摩耗量を測定した。軟鋼(SS400)の摩耗量と各鋼板の摩耗量との比、耐摩耗比(=(軟鋼板の摩耗量)/(各鋼板の摩耗量))、を算出し、得られた耐摩耗比で各鋼板の耐摩耗性を評価した。なお、耐摩耗比が大きいほど、耐摩耗性に優れていることを示す。
得られた結果を、耐摩耗比、降伏比YR、および降伏強さYS、引張強さTSとTi含有量との関係で図1に示す。
図1から、Ti含有量が0.1%以上で、焼入れ処理を施された従来材(耐摩耗鋼板)の耐摩耗性(耐摩耗比)と同程度以上の耐摩耗性(耐摩耗比)を確保することができることがわかる。また、Ti含有量が0.1%以上では、降伏強さ、降伏比が低下しており、Ti含有量を0.1%以上とすることにより、従来材(耐摩耗鋼板)の耐摩耗性(耐摩耗比)と同程度以上の耐摩耗性(耐摩耗比)を維持しつつ、加工性を向上させることができることを知見した。
また、mass%で0.25%C−0.22%Si−0.50%Mn−0.06%Ti系を基本成分とし、Cu、Ni、Cr、Mo、Wの1種または2種以上含み、次(1)式
DI*=33.85×(0.1×C*)0.5×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo*+1)×(1.5×W*+1)……(1)
(ここで、C*=C−1/4×(Ti−(48/14)N)、Mo*=Mo×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、W*=W×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、W:各元素の含有量)
で定義されるDI*値が40〜120である鋼片を、熱間圧延して板厚12mmの厚鋼板とし、圧延終了後、空冷した。このときの空冷時の冷却速度は、0.9℃/sであった。
得られた鋼板から試験片を採取し、上記したと同様に、引張試験、摩耗試験を実施した。得られた結果を、耐摩耗比、降伏比YR、および降伏強さYS、引張強さTSと、DI*との関係で図2に示す。
図2から、DI*値を60以上に調整することにより、耐摩耗比が5(従来材の耐摩耗比)以上となり、焼入れ処理された従来材に比べても耐摩耗性が向上することがわかる。これは、DI*値を60以上に調整することにより、基地相が、フェライト−ベイナイト組織となったためであると考えられる。一方、DI*値が60未満では、基地相が、フェライト−ベイナイト組織とならず、フェライト−パーライト組織となっている。
本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)mass%で、C:0.05〜0.35%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、B:0.0003〜0.0030%、Ti:0.1〜1.2%、Al:0.1%以下を含み、さらにCu:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、かつ次(1)式
DI*=33.85×(0.1×C*)0.5×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo*+1)×(1.5×W*+1)……(1)
(ここで、C*=C−1/4×(Ti−(48/14)N)、Mo*=Mo×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、W*=W×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、W:各元素の含有量(mass%))
で定義されるDI*値が60以上を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、フェライト−ベイナイト相を基地相とし、該基地相中に、大きさが0.5〜50μmのTi系炭化物である硬質相が400個/mm 2 以上分散した組織を有することを特徴とする圧延ままで加工性に優れた耐摩耗鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.005〜1.0%、V:0.005〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする耐摩耗鋼板。
)mass%で、C:0.05〜0.35%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、B:0.0003〜0.0030%、Ti:0.1〜1.2%、Al:0.1%以下を含み、さらにCu:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、かつ前記(1)式で定義されるDI*値が60以上を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施し所定板厚の厚鋼板とする熱延工程と、該熱間圧延終了後、該厚鋼板に、平均冷却速度で0.5〜2℃/sの冷却速度で400℃以下の温度域まで冷却する冷却処理工程を施すことを特徴とする加工性に優れた耐摩耗鋼板の製造方法。
)()において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.005〜1.0%、V:0.005〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする耐摩耗鋼板の製造方法。
本発明によれば、熱処理を施すことなく圧延ままで、優れた耐摩耗性と優れた曲げ加工性を兼備した耐摩耗鋼板を、安価にしかも容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、さらに、本発明によれば、製造コストの低減や、製造工期の短縮などが可能となるという効果もある。
まず、本発明鋼板の組成を規定した理由について説明する。なお、以下の%表示は、いずれもmass%を表す。
C:0.05〜0.35%
Cは、マトリクスの硬さを増加させるとともに、硬質な第二相(以下、硬質相ともいう)としての炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する有効な元素である。このような効果を得るためには、本発明では0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.35%を超える含有は、硬質相としての炭化物が粗大になり、曲げ加工時に炭化物を起点として割れが発生する。このため、Cは0.05〜0.35%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.15〜0.30%である。
Si:0.05〜1.0%
Siは、脱酸剤として作用する有効な元素であり、このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。また、Siは、鋼に固溶して固溶強化により鋼板の高硬度化に寄与する有効な元素であるが、1.0%を超える含有は、延性、靭性を低下させ、さらに介在物量が増加するなどの問題を生じる。このため、Siは0.05〜1.0%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.05〜0.40%である。
Mn:0.1〜2.0%
Mnは、固溶強化により高硬度化に寄与する有効な元素であり、このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Mnは0.1〜2.0%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.1〜1.60%である。
B:0.0003〜0.0030%
Bは、粒界に偏析し、粒界を強化して、靭性向上に有効に寄与する元素であり、このような効果を得るためには、0.0003%以上の含有を必要とする。一方、0.0030%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、Bは、0.0003〜0.0030%の範囲に規定した。なお、好ましくは、0.0003〜0.0015%である。
Ti:0.1〜1.2%
Tiは、Cとともに本発明における重要な元素であり、耐摩耗性向上に寄与する硬質な第二相(Ti炭化物)を形成するために必須の元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.2%を超える含有は、硬質な第二相(Ti炭化物)が粗大化し、曲げ加工時に粗大な第二相を起点として割れが発生する。このため、Tiは0.1〜1.2%の範囲に規定した。なお、好ましくは、0.1〜0.8%である。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果は、0.0020%以上の含有で認められるが、0.1%を超える多量の含有は、鋼の清浄度を低下させる。このため、Alは0.1%以下に規定した。
Cu:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、Wはいずれも、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、本発明では選択して1種以上含有する。
Cu:0.1〜1.0%
Cuは、鋼中に固溶して鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Cuは0.1〜1.0%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.1〜0.5%である。
Ni:0.1〜2.0%
Niは、鋼中に固溶して焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果は0.1%以上の含有で顕著となる。一方、2.0%を超える含有は、材料コストを著しく上昇させる。このため、含有する場合には、Niは0.1〜2.0%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.1〜1.0%である。
Cr:0.1〜1.0%
Crは、焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、含有する場合には、Crは0.1〜1.0%の範囲に規定した。なお、より好ましくは0.1~0.40%である。
Mo:0.05〜1.0%
Moは、同様に、焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには、0.05%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、溶接性を低下させる。そのため、含有する場合には、Moは0.05〜1.0%の範囲に規定した。なお、好ましくは、0.05〜0.40%である。
W:0.05〜1.0%
Wは、焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには、0.05%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、溶接性を低下させる。そのため、含有する場合には、Wは0.05〜1.0%の範囲に規定した。なお、好ましくは、0.05〜0.40%である。
なお、MoやWは、硬質相であるTiCに固溶するため、硬質相量を増加させる効果も有する。
上記した成分が基本成分であるが、本発明では、必要に応じて、Nb:0.005〜1.0%、V:0.005〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種を選択元素として含有することができる。
Nb、Vはいずれも,硬質な第二相(硬質相)を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種以上含有できる。
Nb:0.005〜1.0%
Nbは、Tiと複合して含有することにより、Ti、Nbの複合炭化物((NbTi)C)を形成し、硬質な第二相として基地相中に分散し、耐摩耗性向上に有効に寄与する元素である。このような耐摩耗性向上効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、硬質な第二相(炭化物)が粗大化し、曲げ加工時に硬質な第二相(炭化物)を起点として割れが発生する。このため、含有する場合には、Nbは0.005〜1.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜0.5%である。
V:0.005〜1.0%
Vは、Nbと同様に、Tiと複合して含有することにより、Ti、Vの複合炭化物((VTi)C)を形成し、硬質な第二相(硬質相)として基地相中に分散し、耐摩耗性向上に有効に寄与する元素である。このような耐摩耗性向上効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、硬質な第二相(炭化物)が粗大化し、曲げ加工時に硬質な第二相(炭化物)を起点として割れが発生する。このため、Vは0.005〜1.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜0.5%である。
なお、NbとVを複合して含有する場合には、硬質な第二相(硬質相)が(NbVTi)Cとなるだけで、同様に耐摩耗性を向上させる効果を有する。なお、Nを含有する場合には、炭化物に加えて、炭窒化物が形成される場合もあるが、同様の効果が得られる。
本発明では、上記した成分を上記した範囲内で、かつDI*値が60以上を満足するように含有する。
DI*値:60以上
DI*値は、次(1)式で定義される値とする。
DI*=33.85×(0.1×C*)0.5×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo*+1)×(1.5×W*+1)……(1)
ここで、C*=C−1/4×(Ti−(48/14)N)、
Mo*=Mo×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、
W*=W×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、
C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、W:各元素の含有量(mass%)
なお、(1)式を用いて各鋼板(鋼素材)のDI*値を計算するに際して、(1)式に含まれる元素のうち、含有しない元素は零として計算するものとする。
DI*値は、耐摩耗性に関連する値であり、60未満の場合には、図2でも示したように、耐摩耗性が低下する。このため、本発明では(1)式で定義されるDI*値が60以上を満足するように、上記した成分を上記した範囲内で、調整する。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、P:0.040%以下、S:0.040%以下、N:0.040%以下が許容できる。
Pは、0.040%を超えて多量に含有すると靭性の著しい低下を招く。このため、Pは0.040%以下に限定することが望ましい。また、Sは、鋼中でMnSを形成し、破壊発生の起点として作用し、靭性の著しい低下を招く。このため、Sは0.040%以下とすることが望ましい。また、Nは、0.040%を超えて多量に含有すると、溶接性の著しい低下を招く。このため、Nは0.040%以下とすることが望ましい。
本発明鋼板は、上記した組成を有し、さらに、フェライト−ベイナイト相を基地相とし、該基地相中に硬質相が分散した組織を有し、好ましくはブリネル硬度で340HB以下の表面硬さを有する。表面硬さが340HBを超えて高くなると、加工性が著しく低下する。
本発明鋼板の基地相は、フェライト−ベイナイトの複合組織とする。基地相がフェライト−パーライトでは、硬さが低下し、所望の耐摩耗性を確保することができない。また、基地相がベイナイト単相、あるいはマルテンサイト単相では、降伏強さが高くなり所望の耐摩耗性を確保することができるが、延性が低下し加工性が低下する。なお、複合組織におけるフェライトの組織分率は、体積率で30%以下とすることが好ましい。フェライトの組織分率が体積率で30%を超えると、硬さが低下して耐摩耗性が低下する。
また、本発明鋼板では、基地相中に硬質相(硬質な第二相)が分散した組織を有する。硬質相としては、TiCなどのTi系炭化物とすることが好ましい。Ti系炭化物としては、TiC、(NbTi)C、(VTi)C、あるいはTiC中にMo、Wが固溶したものが例示できる。
また、硬質相の大きさは、とくに限定されないが、耐摩耗性の観点からは、0.5μm以上50μm以下程度とすることが好ましい。また、硬質相の分散密度は、400個/mm2以上とすることが好ましい。硬質相の分散密度が、400個/mm2未満では、所望の耐摩耗性を確保することができない。
つぎに、本発明鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明鋼板は、鋼素材に、熱間圧延を施し所定板厚の厚鋼板とする熱延工程と、該熱間圧延終了後、該厚鋼板に、所定の冷却速度で所定の温度域まで冷却する冷却処理工程を施して、製造される。
本発明の製造方法では、上記した組成の溶鋼を、公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法あるいは造塊−分塊圧延法により、所望寸法のスラブ等にした鋼素材を出発素材として使用することが好ましい。なお、硬質相を所望の大きさおよび個数に調整するためには、例えば、連続鋳造法を用いた場合、厚み200〜400mmの鋳片の1500〜1200℃の温度域における冷却速度を0.2〜10℃/sの範囲となるように冷却を調整することが好ましい。なお、造塊法を用いる場合にも、インゴットの大きさおよび冷却条件を、硬質相が所望の大きさおよび個数になるように、調整する必要があることはいうまでもない。
ついで、鋼素材は、冷却されることなく直接、または冷却され950〜1250℃に再加熱されたのち、熱間圧延を施され、所望板厚の厚鋼板とされる熱延工程を施される。熱間圧延の条件は、所望の寸法形状の厚鋼板とすることができればよく、とくに限定されない。
熱間圧延終了後、厚鋼板は、平均冷却速度で0.5〜2℃/sの冷却速度で400℃以下の温度域まで冷却される冷却処理工程を施される。冷却速度が、平均冷却速度で、0.5℃/s未満では、冷却速度が遅すぎ、フェライト相の生成量が多くなりすぎて、所望のフェライト−ベイナイト組織が得られない。一方、2℃/sを超えると、冷却速度が速すぎて表層がベイナイト単相組織となり、所望のフェライト−ベイナイト組織が得られず、硬さが上昇し、加工性が劣化する。このため、熱間圧延終了後の冷却は、平均冷却速度で、0.5〜2℃/sの冷却速度とした。なお、ここでいう、「平均冷却速度」とは、板厚方向の1/4t位置における冷却開始から冷却停止までの平均の冷却速度をいう。
かくして得られた厚鋼板は、熱処理を施す必要もなく、耐摩耗鋼板として、圧延ままで使用可能である。
以下、実施例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。
表1に示す組成の溶鋼を、真空溶解炉で溶製し、小型鋼塊(50kg)(鋼素材)とした。これら鋼素材に、表2に示す条件で熱間圧延を行い、表2に示す板厚の厚鋼板とする熱延工程を施した。ついで熱間圧延終了後直ちに、該厚鋼板に、表2に示す条件で冷却処理工程を施した。熱間圧延終了後の冷却は、表2に示す条件となるように、板厚に応じて、段積み冷却(数枚の鋼板を積み重ねて空冷)、圧縮空気の吹き付け、または放冷等の冷却手段を適宜選択し、表2に示した冷却速度とした。なお、鋼板No.7の冷却処理では、水冷却とした。「平均冷却速度」とは、板厚方向1/4t位置における冷却開始から冷却停止までの平均の冷却速度である。
得られた厚鋼板から試験片を採取し、組織観察、引張試験、表面硬さ試験、曲げ試験、摩耗試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)組織観察
得られた厚鋼板から組織観察用試験片を採取し、研磨し、ナイタール腐食して、表層下1mmの位置について、光学顕微鏡(倍率:400倍)を用いて、組織の種類、その組織分率および硬質相の大きさ、個数を測定した。
(2)引張試験
得られた厚鋼板から、JIS Z 2201の規定に準拠して、JIS 5号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、降伏比YR)を求めた。
(3)表面硬さ試験
得られた厚鋼板について、JIS Z 2243の規定に準拠して、ブリネル硬さ試験機(試験力:29.42kN)を用いて、鋼板表面の硬さHB 10/3000を測定した。なお、測定位置は、ランダムに選んだ5点とし、5点の平均値を求め、その鋼板の表面硬さとした。
(4)曲げ試験
得られた厚鋼板から曲げ試験片を採取し、JIS Z 2248の規定に準拠して曲げ試験を実施した。なお、曲げ半径は2.0tおよび1.0tの2水準とした。試験終了後、試験片表面を目視で観察し、割れの発生のない場合を○、割れが発生した場合を×として曲げ加工性を評価した。
(5)摩耗試験
得られた厚鋼板から摩耗試験片(大きさ:t×20×75mm)を採取し、ASTM G 65の規定に準拠して、ラバーホイール摩耗試験を実施した。なお、摩耗砂を使用して実施した。試験後、試験片の摩耗量を測定した。なお、耐摩耗性は、軟鋼(SS400)板の摩耗量を基準(1.0)として、耐摩耗比=(軟鋼板の摩耗量)/(各鋼板の摩耗量)、で評価した。耐摩耗比が大きいほど、耐摩耗性に優れていることを意味する。ここでは、耐摩耗比が5.0以上を耐摩耗性に優れているとしている。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0004899874
Figure 0004899874
Figure 0004899874
本発明例はいずれも、耐摩耗比が5以上と耐摩耗性が非常に優れているにもかかわらず、降伏強さYS、表面硬さが低く、また降伏比YRが低く、曲げ加工性に優れている。一方、本発明範囲を外れる比較例は、耐摩耗性が低下しているか、降伏強さYS、降伏比YRが高く、曲げ加工性が低下している。
耐摩耗比、降伏比YR、降伏強さYS、引張強さTSと、Ti含有量との関係を示すグラフである。 耐摩耗比、降伏比YR、降伏強さYS、引張強さTSと、DI*値との関係を示すグラフである。

Claims (4)

  1. mass%で、
    C:0.05〜0.35%、 Si:0.05〜1.0%、
    Mn:0.1〜2.0%、 B:0.0003〜0.0030%、
    Ti:0.1〜1.2%、 Al:0.1%以下
    を含み、さらにCu:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、かつ下記(1)式で定義されるDI*値が60以上を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、フェライト−ベイナイト相を基地相とし、該基地相中に、大きさが0.5〜50μmのTi系炭化物である硬質相が400個/mm 2 以上分散した組織を有することを特徴とする圧延ままで加工性に優れた耐摩耗鋼板。

    DI*=33.85×(0.1×C*)0.5 ×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo*+1)×(1.5×W*+1)……(1)
    ここで、 C*=C−1/4×(Ti−(48/14)N)、
    Mo*=Mo×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、
    W*=W×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)
    C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、W:各元素の含有量(mass%)
  2. 前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.005〜1.0%、V:0.005〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗鋼板。
  3. mass%で、
    C:0.05〜0.35%、 Si:0.05〜1.0%、
    Mn:0.1〜2.0%、 B:0.0003〜0.0030%、
    Ti:0.1〜1.2%、 Al:0.1%以下
    を含み、さらにCu:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、かつ下記(1)式で定義されるDI*値が60以上を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼片に、熱間圧延を施し所定板厚の厚鋼板とする熱延工程と、該熱間圧延終了後、平均冷却速度で0.5〜2℃/sの冷却速度で400℃以下の温度域まで冷却する冷却処理工程を施すことを特徴とする加工性に優れた耐摩耗鋼板の製造方法。

    DI*=33.85×(0.1×C*)0.5×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3×Mo*+1)×(1.5×W*+1)……(1)
    ここで、 C*=C−1/4×(Ti−(48/14)N)、
    Mo*=Mo×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)、
    W*=W×(1−0.5×(Ti−(48/14)N)
    C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、W:各元素の含有量(mass%)
  4. 前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.005〜1.0%、V:0.005〜1.0%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
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