以下、本発明の光学系の実施例について説明する。
各実施例の光学系は、デジタルカメラ・ビデオカメラ、銀塩フィルム用カメラ等の撮像装置や、望遠鏡、双眼鏡等の観察装置、複写機、プロジェクター等の光学機器に用いられるものである。
図1は、実施例1の光学系のレンズ断面図である。図2は実施例1の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図3は、実施例2の光学系のレンズ断面図である。図4は実施例2の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図5は、実施例3の光学系のレンズ断面図である。図6は実施例3の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図7は、実施例4の光学系のレンズ断面図である。図8は実施例4の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図9は、実施例5の光学系のレンズ断面図である。図10は実施例5の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図11は、実施例6の光学系のレンズ断面図である。図12は実施例6の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図13は、実施例7の光学系のレンズ断面図である。図14は実施例7の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図15は、実施例8の光学系のレンズ断面図である。図16は実施例8の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図17は、実施例9の光学系のレンズ断面図である。図18は実施例9の光学系が無限遠物体に合焦しているときの収差図である。
図19は本発明の光学系を備える撮像装置の要部概略図である。
レンズ断面図において、左側が前方(カメラ等に用いられる撮影光学系における物体側、液晶プロジェクタ等に用いられる投影光学系におけるスクリーン側(拡大側))、右側が後方(撮影光学系における像側、投影光学系におけるパネル側(縮小側))である。
又、レンズ断面図においてOLは光学系である。
iを物体側から数えたレンズ群の順番とするとき、Liは第iレンズ群である。
ここで1つのレンズ群とは、ズーミング、フォーカス又は防振時において光軸上の空気間隔が変化しないレンズ要素の集まりをいう。
j1,j2は後述する固体材料より成る屈折光学素子(レンズ)である。
2つの屈折光学素子j1,j2は同じレンズ群内に配置されている。
SPは開口絞りである。IPは像面である。像面IPは、ビデオカメラやデジタルスチルカメラの撮影光学系として使用する際にはCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)の撮像面に相当する。
又、銀塩フィルム用カメラの撮影光学系として使用する際にはフィルム面に相当する。
図1、図3、図5、図7、図9の実施例1〜5はテレフォトタイプの光学系(望遠レンズ)である。
図11、図13、図15、図17の実施例6〜9は、レトロフォーカスタイプの光学系(広角レンズ)である。
図2、図4、図6、図8、図10、図12、図14、図16、図18の収差図においてd,g、C,Fは各々d線、g線、C線、F線である。
ΔM、ΔSはd線のメリディオナル像面、d線のサジタル像面である。
図2、図4、図6、図8、図10において倍率色収差はg線によって表している。
図14、図16、図18において倍率色収差は、g線、C線、F線によって表している。
FnoはFナンバー、ωは半画角である。
各実施例の光学系OLは、通常の硝材との部分分散比の差が大きい固体材料(常温常圧で固体)より成り、屈折作用(パワー)を有する屈折光学素子(光学部材)を複数枚用いている。すなわち、屈折力を有する屈折光学素子(光学部材)のうち、少なくとも2つを通常の硝材との部分分散比の差が大きい固体材料より形成している。
尚、ここで屈折光学部材とは屈折作用でパワーが生じる、例えば屈折レンズ等を意味し、回折作用でパワーが生じる回折光学素子を含んでいない。
また、固体材料とは、光学系を使用する環境で固体の材料を指し、製造時などの光学系を使用する前は、どのような状態であっても良い。例えば、製造時には液体材料であっても、それを硬化させて固体材料としたものは、ここでいう固体材料に該当する。
図20は、実施例1〜5の光学系の光学作用を説明する為の近軸屈折力配置の概略図である。図20において、OLはレンズ全長(第1レンズ面から像面までの距離)が焦点距離よりも短いテレフォトタイプの光学系である。Gp、Gnは、それぞれテレフォトタイプの光学系OLを構成する正の屈折力の前群と負の屈折力の後群である。
j1,j2は、前群Gpの1つのレンズ群に導入した後述する条件式(1)〜(4)を満足する材料より成る屈折光学素子である。
構成を簡単にするために、前群Gp、後群Gnを構成するレンズは全て薄肉単レンズとし、前群Gp、後群Gn内でそれぞれレンズ間隔が0で光軸上に配置されているものとする。
また、屈折光学素子j1,j2も薄肉単レンズとし、前群Gpにレンズ間隔が0で光軸La上に配置されるものとする。Qは近軸軸上光線、Rは瞳近軸光線であり、Pは瞳近軸光線Rと光軸Laとの交点である。IPは像面である。
図20において点Pは、光軸Laと瞳近軸光線Rの交わる点である。図20の光学系OLは、点Pより拡大側で近軸軸上光線Qがレンズ面を通過する光軸Laからの高さの最大値hGpが、点Pより縮小側で近軸軸上光線Qがレンズ面を通過する光軸からの高さの最大値hGnよりも大きい光学系である。
実施例1〜5の光学系において、2つの屈折光学素子j1、j2は、絞りよりも前方のレンズ群内に配置されている。
図21は、実施例6〜9の光学系の色収差補正の作用を説明するための近軸屈折力配置の概略図である。図21において、Gn,Gpはそれぞれレトロフォーカス型の光学系を構成する負の屈折力の前群と、正の屈折力の後群である。問題を簡単にするために、前群Gn、後群Gpを構成するレンズは全て薄肉単レンズとし、前群Gn、後群Gp内においてそれぞれレンズ間隔0で光軸上に配置されているものとする。Qは近軸軸上光線、Rは瞳近軸光線である。Pは瞳近軸光線Rと光軸Laとの交点であり、普通、開口絞りの中心と一致する。hn,hpは近軸軸上光線Qのレンズ面への入射高である。Hn,Hpは、瞳近軸光線Rのレンズ面への入射高である。
本発明におけるレトロフォーカス型の光学系とは、最も前方のレンズ面を通過する近軸軸上光線Qの高さhnが、交点Pより後方で近軸軸上光線Qがレンズ面を通過する光軸からの高さhpの最大値よりも小さい光学系をいう。
実施例6〜9の光学系において2つの屈折光学素子j1、j2は、絞りよりも後方のレンズ群内に配置されている。
各実施例の光学系は、光軸と瞳近軸光線の交わる点よりも前方又は後方のどちらか一方に光入射側と光射出側が共に屈折面である固体材料から形成される2つの屈折光学素子j1、j2を有している。
今、g線(波長435.8nm),F線(486.1nm),d線(587.6nm),C線(656.3nm)に対する材料の屈折率をそれぞれNg,Nd,NF,NCとする。そしてアッベ数νd、部分分散比θgF、異常部分分散性ΔθgFを、
νd=(Nd−1)/(NF−NC)
θgF=(Ng−NF)/(NF−NC)
ΔθgF=θgF−(−1.665×10−7×νd3+5.213×10−5×νd2−5.656×10−3×νd+7.278×10−1)
として表す。そして光学系OL中の2つの屈折光学素子j1、j2の材料のアッベ数をνd1、νd2とする。2つの屈折光学素子j1、j2の材料の異常部分分散性をΔθgF1、ΔθgF2とする。
2つの屈折光学素子j1、j2の焦点距離をf1、f2とする。このとき
0.012 < |ΔθgF1| ・・・(1)
0.012 < |ΔθgF2| ・・・(2)
40 < |νd1 −νd2| ・・・(3)
0 <(ΔθgF1/f1)×(ΔθgF2/f2)・・・(4)
なる条件を満足している。
各実施例では、条件式(1)、(2)を満足する複数の固体材料より成る屈折光学部材を光路中に用いることによって、g線〜C線の広い波長帯域にわたって色収差を良好に補正している。
又、条件式(3)を満足する高分散の固体材料と低分散の固体材料を用いることによって、それぞれの屈折光学素子j1、j2の厚みと重量を軽減している。
又、条件式(4)はそれぞれの屈折光学素子j1、j2の色消しの方向を揃えるための条件式である。条件式(4)を満足することによって、それぞれの屈折光学素子j1、j2でお互いの色収差補正能力を補いながら、全体としてg線〜C線間の広い波長帯域にわたって色収差の補正を良好に行っている。この条件式(4)を満足しないと、それぞれの色収差補正能力をお互いに打ち消しあってしまい、色収差補正を良好に行うことが難しくなる。
各実施例では、条件式(1)、(2)、(3)、(4)を満足する屈折光学素子j1、j2が同じレンズ群内に配置されている。屈折光学素子j1、j2を色消し効果の高いレンズ群に集中的に配置することによって、g線〜C線の広い波長帯域にわたって色収差を良好に補正している。
尚、同じレンズ群内に条件式(1)〜(4)を満足する屈折光学素子を3以上設けても良い。
各実施例において、更に好ましくは、条件式(1)〜(4)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
0.0125< |ΔθgF1|・・・(1a)
0.0125< |ΔθgF2|・・・(2a)
45< |νd1 −νd2|・・・(3a)
1×10−9<(ΔθgF1/f1)×(ΔθgF2/f2)・・・(4a)
条件式(1)、(2)、(3)、(4)を満たす複数の屈折光学素子のうち少なくとも1つは、次の条件式(5)を満足することが好ましい。
0.001 < |ΔθgF|/νd < 0.007 ・・・(5)
条件式(5)を満足する固体材料より成る屈折光学素子を少なくとも1つ以上用いることによって、十分な色消し効果を得ながら屈折光学素子の光軸方向の厚みを抑えている。条件式(5)の下限を下回る固体材料を用いる場合、厚みを抑えながら十分な色消し効果を得るのが困難になる。また条件式(5)の上限を上回る固体材料を用いる場合、異常分散性が強すぎるため、光学系の他の光学部材との色消しのバランスを取る事が困難になり、色収差を悪化させてしまう。
なお、条件式(5)の範囲は、以下の範囲とすることで更に厚みを抑えながら良好な色消し効果を得ることができる。
0.002 < |ΔθgF|/νd < 0.007 ・・・(5a)
条件式(1)、(2)を満足する固体材料(以下「光学材料」ともいう。)としては、低分散で異常部分分散性を持つ硝材や蛍石、また樹脂や無機酸化物ナノ微粒子を合成樹脂中に分散させた混合体がある。様々な樹脂の中でも特にUV硬化樹脂(Nd=1.635、νd=22.7、θgF=0.69)やN−ポリビニルカルバゾール(Nd=1.696、νd=17.7、θgF=0.69)は条件式(1)、(2)を満足する光学材料である。尚、条件式(1)、(2)を満足する樹脂であれば、これらに限定するものではない。
また、一般の硝材とは異なる特性を持つ光学材料として、下記の無機酸化物ナノ微粒子を合成樹脂中(透明媒体)に分散させた混合体がある。ここで無機微粒子としてはTiO2(Nd=2.757、νd=9.53)、Nb2O5(Nd=2.367、νd=14.0)、ITO(Nd=1.8581、νd=5.53)、Cr2O2(Nd=2.2178、νd=13.4)、BaTiO2(Nd=2.4362、νd=11.3)等の無機酸化物がある。
これらの無機酸化物の中では、TiO2微粒子(Nd=2.757、νd=9.53、θgF=0.76)や、ITO微粒子(Nd=1.8581、νd=5.53、θgF=0.29)を合成樹脂中に適切なる体積比で分散させた場合、上記条件式(1)、(2)を満足する光学材料が得られる。
TiO2は様々な用途で使われる材料であり、光学分野では反射防止膜などの光学薄膜を構成する蒸着用材料として用いられている。他にも光触媒、白色顔料などとして、またTiO2微粒子は化粧品材料として用いられている。
また、ITOは、透明電極を構成する材料であり、通常、液晶表示素子、EL素子等、他の用途として赤外線遮蔽素子、紫外線遮断素子に用いられている。
各実施例において樹脂に分散させるTiO2微粒子やITO微粒子の平均径は、散乱などの影響を考えると2nm〜50nm程度がよく、凝集を抑えるために分散剤などを添加しても良い。
TiO2やITO分散させる媒体材料としては、ポリマーが良く、成形型等を用いて光重合成形または熱重合成形することにより高い量産性を得ることができる。
また、ポリマーの光学定数の特性としても、部分分散比が比較的大きいポリマー、あるいはアッベ数が比較的小さいポリマーか、両者を満たすポリマーが良く、N−ポリビニルカルバゾール、スチレン、ポリメタクリル酸メチル(アクリル)、などが適用できる。後述する実施例ではTiO2微粒子を分散させるホストポリマーとしてUV硬化樹脂、N−ポリビニルカルバゾールを用いている。しかし、各実施例は、これらの光学材料に限定するものではない。
ナノ微粒子を分散させた混合体の分散特性N(λ)は、良く知られたDrudeの式から導きだされた次式によって簡単に計算することができる。
即ち、波長λにおける屈折率N(λ)は、
N(λ)=[1+V{NTI 2(λ)−1}+(1−V){NP 2(λ)−1}]1/2
である。
ここで、λは任意の波長、NTIはTiO2もしくはITOの屈折率、NPはポリマーの屈折率、Vはポリマー体積に対するTiO2もしくはITO微粒子の総体積の分率である。
また、樹脂や無機微粒子分散材料はその厚みが厚くなると成形時の硬化収縮の影響が大きくなり、製造上、面精度を出しにくくなる。さらに光軸方向の厚みが厚い分、高湿下などの環境下での光学変化の程度が大きくなる。したがって、条件式(1)、(2)を満足する樹脂や無機微粒子分散材料で構成されるレンズの最大厚をDmax(mm)とした時、以下の条件を満足することが好ましい。なお、正(凸)レンズでは最大厚Dmaxは中心厚、負(凹)レンズでは最大厚Dmaxはレンズ周辺部の厚みとなる。
Dmax ≦ 5.0 ・・・(6)
条件式(6)の範囲は、以下の範囲とすることで更に製造上容易になり、所望の光学性能を得やすい。
Dmax ≦ 4.0 ・・・(6a)
更に望ましくは、以下の範囲とするのが良い。
Dmax ≦ 3.0 ・・・(6b)
更に望ましくは、以下の範囲とするのが良い。
Dmax ≦ 2.0 ・・・(6c)
条件式(1)、(2)、(3)を満足する光学材料として各実施例では、低分散で異常部分分散性を持つ光学材料と前述のUV硬化樹脂、N−ポリビニルカルバゾールやTiO2、ITO微粒子分散材料を組み合わせて用いている。しかしこれに限定するものではない。
条件式(1)、(2)、(3)を満足する光学材料としては、0℃〜40℃におけるd線の屈折率の温度変化の絶対値を|dn/dT|とするとき、以下の条件を満足することが好ましい。
|dn/dT|< 2.5×10−4(1/℃) ・・・(7)
ここで条件式(7)の範囲をはずれると、0℃〜40℃の温度範囲で良好な光学性能を維持することが困難になる。
各実施例では、条件式(1)、(2)、(3)、(4)を満足する光学材料より成る複数の屈折光学素子を光学系中のレンズやレンズ表面に設けられた屈折力のある層(面)に適用している。
各実施例において、この光学材料より成る屈折光学素子の屈折面のうち少なくとももう1つを非球面形状とするのが良い。これによれば色の球面収差などの色収差フレアを良好に補正することができる。
次に通常の硝材との部分分散比の差が大きい光学材料より成るパワーのある屈折光学素子を光学系中に用いたときの収差補正について説明する。
光学材料の屈折率の波長依存特性(分散特性)において、アッベ数νdは分散特性曲線の全体の傾きを表し、部分分散比θgFは分散特性曲線の曲がり具合を表している。
一般的に光学材料は、短波長側の屈折率が長波長側の屈折率よりも高く(アッベ数νdが正の値)、分散特性曲線は下に凸状(部分分散比θgFが正の値)の軌跡を描き、短波長側になるほど波長の変化に対する屈折率の変化は大きくなる。そして、アッベ数νdの小さい分散の大きな光学材料ほど部分分散比θgFが大きくなり、分散特性曲線は下に凸状が強まる傾向にある。
部分分散比θgFが大きな光学材料を用いたレンズ面の色収差係数の波長依存特性曲線は、部分分散比θgFが小さな光学材料を用いた場合に比べて短波長側でより大きな曲がりを示す。
一方、部分分散比θgFが小さな光学材料を用いたレンズ面の色収差係数の波長依存特性曲線は波長域全体でより直線に近い形状を示す。
硝材など一般的な光学材料の部分分散比θgFは、アッベ数νdに対してほとんど一様な変化をし、アッベ数νdに対する部分分散比θgFの変化は以下の式で表すことができる。
θgF(νd)=−1.665×10−7×νd3+5.213×10−5×νd2
−5.656×10−3×νd+7.278×10−1 ・・・(a)
一般的には部分分散比θgFのアッベ数νdに対する変化は直線で表されるが、実際の硝材の分布は曲線を描いており、上記の様な曲線で表した方が特性を良く表す。この曲線から外れた特性を持つ光学材料が、異常部分分散性を示す光学材料である。したがって、部分分散比がθgFである光学材料の異常部分分散性ΔθgFは以下の式で表される。
ΔθgF=θgF−(−1.665×10−7×νd3+5.213×10−5×νd2−5.656×10−3×νd+7.278×10−1)・・・(b)
この異常部分分散性ΔθgFが正の値を取る光学材料をレンズとして用いた場合、色収差係数の波長依存特性曲線は一般の硝材に比べて短波長側の曲がりが大きい。
また異常部分分散性ΔθgFが負の値を取る光学材料をレンズとして用いた場合、色収差係数の波長依存特性曲線は分散特性は一般の硝材に比べて短波長側の曲がりが小さい(線形性が高い)。
光学系における色収差補正では、いくつかの光学材料を組み合わせて行う。しかし上記の式(a)の曲線で表される様な特性を持つ通常の硝材だけ用いても、全波長帯域に渡って色収差を良好に補正することは困難である。
部分分散比θgFは光学材料をレンズとして用いた場合、色収差係数の波長依存特性曲線の短波長側(g線〜F線)の曲がりを表す。また、アッベ数νdはF線〜C線の傾きを表す。
したがってこの部分分散比θgFのアッベ数νdに対する変化が一様であるということは、F線〜C線の傾きに対するg線〜F線の曲がりの比率が一定であるということになる。このためF線〜C線の色収差の傾き成分を補正するためにレンズのパワーを変化させると、一定の割合でg線〜F線の曲がりも変化する。そのため、通常の硝材だけを組み合わせても、色収差の傾き成分と曲がり成分を同時に補正することは困難である。
しかし、異常部分分散性を持つ材料をレンズとして用いた場合、色収差係数の曲がり成分と傾き成分の比率が通常の硝材とは異なる。このためこのような異常部分分散性を持つ光学材料をレンズとして用いた場合、色収差補正における自由度が大きく増し、全波長域(F線〜C線)に渡って色収差を良好に補正することができる。
次に光学系中に異常部分分散性を持つ光学材料を用いた場合の色消し作用を説明する。ここでは異常部分分散性ΔθgFが正の値を取る、すなわち部分分散比θgFが大きな材料を用いた屈折光学素子GNLと、通常の部分分散比θgFを持つ屈折光学素子Gから構成される図20に示す望遠レンズでの色消し作用を例にとり説明する。
尚、以下の考え方は、図21の広角レンズにおいても同じである。
図20に示す望遠レンズは、物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群と負の屈折力の後群より成っている。
又、図20に示す望遠レンズは、レンズ全長が焦点距離よりも短いレンズ系である。
まず屈折光学素子Gが部分系としてある程度、色収差が補正された状態から、屈折光学素子Gを構成する負レンズに比較的、部分分散比θgFの大きな材料を選択する。
ここで一般的に部分分散比θgFの大きな材料は同時に分散も大きいので、屈折光学素子Gの色収差係数の波長依存特性曲線は、もとの状態よりも大きく曲がりながら全体の傾きが変化する。
この状態で、屈折光学素子GNLに適当なパワーを与えると同時に、屈折光学素子Gを構成する正レンズも比較的分散の大きな材料を選択する。
ところが、屈折光学素子GNLをアッベ数に対して一様な部分分散比を持つ一般の光学材料で構成している場合、屈折光学素子GNLは、屈折光学素子Gの収差係数の波長依存特性曲線の曲がり成分と傾き成分に同時に一定の割合で寄与する。このため、そのどちらの成分も同時にキャンセルすることができない結果となる。
これに対し、屈折光学素子GNLを一般の材料に比べて部分分散比θgFの大きな材料で構成している場合は、屈折光学素子GNLは主に屈折光学素子Gの色収差の波長依存特性曲線全体の曲がり成分に寄与する。このため、主に曲がり成分だけをキャンセルさせることができる。
その結果、屈折光学素子GNLでは主に屈折光学素子Gの色収差の波長依存特性曲線全体の曲がり成分を、屈折光学素子Gを構成する正レンズでは主に傾き成分を、それぞれ独立に同時にキャンセルさせることができる。
また屈折光学素子GNLのアッベ数νdの絶対値が小さい、すなわち分散が大きければ、色収差を独立に補正することが可能となるので好ましい。このことをレンズ面の軸上色収差係数及び倍率色収差係数を用いて説明する。
屈折レンズの面のパワー変化をΔψ、材料のアッベ数をνとすると、レンズ面での軸上色収差係数の変化ΔLと倍率色収差係数の変化△Tは、次のように表せる。
ΔL ∝ Δψ/ν・・・(c)
ΔT ∝ Δψ/ν・・・(d)
式(c)及び式(d)から明らかなとおり、レンズ面のパワー変化Δψに対する各収差係数の変化ΔL,ΔTは、アッベ数νの絶対値が小さい(すなわち、分散が大きい)ほど大きくなる。
したがって、アッベ数νの絶対値が小さい分散の大きな材料を用いれば、必要な色収差を得るためのパワー変化量は小さくて済むことになる。
このことは収差論上、球面収差、コマ収差や非点収差などに大きな影響を及ぼすことなく色収差をコントロールでき、色収差補正の独立性が高まることを意味する。
逆に、分散の小さな(アッベ数νが大きい)材料を用いると、必要な色収差を得るためのパワー変化は大きくなる。それに伴って球面収差などの諸収差が大きく変化し、色収差補正の独立性が弱まることになる。したがって、光学系を構成するレンズの内、少なくとも1つのレンズ面は、高分散材料で形成された屈折レンズより成る面であることが収差補正上重要である。またこの高分散材料のアッベ数νdは以下の条件を満足することが望ましい。
νd < 30 ・・・(8)
条件式(8)の範囲は、以下の範囲とすることで更に厚みを抑えながら良好な色消し効果を得ることができる。
νd < 25 ・・・(8a)
次に通常の硝材との部分分散比θgFの差が大きい光学材料より成るパワーのある屈折光学素子を光学系中に用いたときの効果について説明する。
異常部分分散性を持つ光学材料をレンズとして用いることにより、全波長域に渡って良好に色収差を補正することができる。しかし、良好に色収差を補正するためには異常部分分散性を持つ光学材料からなるレンズにある程度のパワーを与えなくてはならない。
高分散な樹脂や微粒子分散材料を用いた場合は、蛍石など低分散材料を用いた場合と比べるとパワーは小さくて済む。しかしながら望遠レンズなどの有効径の大きなレンズを有する光学系に用いた場合は、レンズの絶対厚が厚くなってしまう。樹脂や微粒子分散材料は光重合成形または熱重合成形することが望ましいが、レンズの絶対厚が厚いと樹脂の硬化収縮が大きくなり成形上困難となる。また、光学系の複数箇所に樹脂や微粒子分散材料からなるレンズを用いると、成形コストがその分増加し、さらに耐環境性の面でも好ましくない。
蛍石などの低分散材料のみを用いた場合は、その材料の屈折率が低いため、パワーを強めるためにレンズ面の屈折力を大きく変化させる必要がある。このため、色収差と、屈折力を大きくしたことによって発生する球面収差、コマ収差、非点収差などの諸収差の双方を良好に補正するのが困難となる。また、パワーを分散させるために複数のレンズを用いると、その比重が大きいため光学系の重量が増してしまう。
したがって、異常部分分散性を持つ光学材料をレンズとして用い、全波長域に渡って色収差を良好に補正しながら、製造上、重量の面でメリットのある光学系とするには、レンズの厚みを抑えることが重要である。
このために各実施例では異常部分分散性を持つ樹脂や微粒子分散材料などの高分散材料
と蛍石などの低分散材料より成るレンズを組み合わせて光路中に配置している。このように組み合わせて用いることで、高分散材料と低分散材料の厚みを共に抑えながら、全波長域に渡って色収差を良好に補正することができる。
また光学系においては軸上色収差と倍率色収差を共に良好に補正するには、異常部分分散性の材料より成るレンズを絞りよりも物体側もしくは像側に集中して配置するのが良い。
これは、絞りより物体側か像側で倍率色収差の補正方向が逆転し、軸上色収差と倍率色収差の連立が取れなくなるからである。
さらに、多くの光学系において色消し効果の高い位置は限定される。今、ズーミング(変倍)時、フォーカス(合焦)時、あるいは防振時においても光軸上の空気間隔が変化しないレンズ要素の集まりを一つのレンズ群とする。この時に、異常部分分散性を持つ材料より成るレンズは色消し効果の高いレンズ群内に集中的に配置することで更に良好な色収差補正効果を得ることができる。
次に複数(2つ)の異常部分分散性ΔθgF1、ΔθgF2の光学材料より成る2つのレンズを光学系中に用いた場合のそのレンズの焦点距離f1、f2と異常部分分散性ΔθgF1、ΔθgF2との関係について説明する。
屈折光学素子Jの屈折レンズ面のパワーをψとする。良好な色収差の補正効果を得るためのパワーψとアッベ数νdと異常部分分散性ΔθgFの関係は、次のように表せる。
ψ ∝ νd/ΔθgF・・・(e)
なお、ここで異常部分分散性ΔθgFは前述の式(b)で表される屈折光学素子GNLと一般の硝材の、同じアッベ数における部分分散比θgFの差である。
光学材料ではアッベ数は常に正であるため、良好な色収差補正効果を得るためのパワーψの符号すなわち焦点距離fの符号は異常部分分散性ΔθgFの符号によって決まる。また絞りより物体側か像側では補正すべき色収差の方向は決まっている。
したがって、例えば絞りより物体側で異常部分分散性ΔθgF1が正の光学材料j1を正レンズ(f1>0)で用いた場合を考える。ここにさらに異常部分分散性ΔθgF2が正の光学材料j2を配置する場合には正レンズ(f2>0)として用いなくてはならない。逆に異常部分分散性ΔθgF2が負の光学材料j2を配置する場合には負レンズ(f2<0)として用いなくてはならない。この関係を示したのが上述の条件式(4)である。
この条件式(4)を満足しないと、複数の異常部分分散性の材料より成る屈折光学素子j1、j2でお互いの色消し効果を打ち消しあってしまう。
また式(e)から明らかなとおり、屈折光学素子Jのパワーψはアッベ数νdが小さくなる程(高分散)、また異常部分分散性ΔθgFが大きくなる程小さくなる。
光学系においてはレンズのパワーが小さくなる程、光軸に沿ったレンズの厚み(正レンズでは光軸に沿ったレンズ中心厚、負レンズでは光軸に沿ったレンズ周辺厚)が小さくなる。
したがって、レンズの厚みを減らすには、ΔθgF/νdの絶対値が大きければ良い。しかし、屈折光学素子GNLは一般の光学材料と組み合わせて使用する。このため屈折光学素子GNLに用いられる材料の部分分散比は一般の光学材料とは異なることが必要ではあるが、あまりかけ離れすぎては良くない。この条件を示したのが条件式(5)である。
条件式(5)の下限を下回る固体材料の場合、厚みを抑えながら十分な色消し効果を得るのが困難になる。また条件式(5)の上限を上回る固体材料の場合、異常分散性が強すぎるため、光学系の他の光学部材との色消しのバランスを取る事が困難になり、色収差を悪化させてしまう。
次に各実施例の特徴について説明する。
図1の数値実施例1の光学系OLは、焦点距離300mmの望遠レンズである。望遠レンズOLを構成する第1レンズ群L1中に異常部分分散性の商品名S−FPL53(株式会社OHARA社製)より成る正レンズj1と異常部分分散性のUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用いている。
数値実施例1の光学系では、近軸軸上光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる物体側の第1レンズ群L1に商品名S−FPL53より成る正レンズj1とUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用い、主に軸上色収差を補正している。
数値実施例1の光学系は、望遠比0.677と非常にコンパクトである。
数値実施例1の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカス(合焦)のため像側に移動する。また第4レンズ群L4は防振レンズ群であり、光軸と垂直方向の成分を持つように移動して、像位置を変位している。
正レンズj2の最大厚は2.00mmであり、また正レンズj1の中心厚は10.9mmである。絞りSPより物体側の同じレンズ群内に商品名S−FPL53より成るレンズj1とUV硬化樹脂より成るレンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。
図3の数値実施例2の光学系OLは、焦点距離300mmの望遠レンズである。望遠レンズOLを構成する第1レンズ群L1中に異常部分分散性の商品名S−FPL51(株式会社OHARA社製)より成る正レンズj1とUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用いている。
数値実施例2の光学系では、近軸軸上光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる物体側の第1レンズ群L1に商品名S−FPL51より成る正レンズj1とUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用い、主に軸上色収差を補正している。
数値実施例2の光学系は、望遠比0.677と非常にコンパクトである。
数値実施例2の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため像側に移動する。また第4レンズ群L4は防振レンズ群である。
正レンズj2の最大厚は2.00mmであり、また正レンズj1の中心厚は9.9mmである。絞りSPより物体側の同じレンズ群内に商品名S−FPL51より成る正レンズj1とUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。また数値実施例2では同じ第1レンズ群L1内で像側より数えて2枚目の正レンズj3にも商品名S−FPL51より成る正レンズを(中心厚7.2mm)用い、更に良好に色収差を補正している。
図5の数値実施例3の光学系OLは、焦点距離300mmの望遠レンズである。望遠レンズOLを構成する第1レンズ群L1に異常部分分散性の商品名S−FPL51(株式会社OHARA社製)より成る正レンズj1とTiO2微粒子10%をUV硬化樹脂に分散させた微粒子分散材料より成る正レンズj2を用いている。
数値実施例3の光学系では、近軸軸上光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる物体側の第1レンズ群L1に商品名S−FPL51より成る正レンズj1とTiO2微粒子10%−UV硬化樹脂微粒子分散材料より成る正レンズj2を用いている。これにより主に軸上色収差を補正している。
数値実施例3の光学系は、望遠比0.677と非常にコンパクトである。
数値実施例3の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため像側に移動する。また第4レンズ群L4は防振レンズ群である。
正レンズj2の最大厚は1.36mmであり、また正レンズj1の中心厚は9.3mmである。絞りSPより物体側の同じレンズ群内に商品名S−FPL51より成る正レンズj1とTiO2微粒子10%−UV硬化樹脂微粒子分散材料より成る正レンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。
図7の数値実施例4の光学系OLは、焦点距離300mmの望遠レンズである。望遠レンズOLを構成する第1レンズ群L1に異常部分分散性の商品名K−GFK70(株式会社住田光学ガラス社製)より成る正レンズj1とITO微粒子9%をN−ポリビニルカルバゾールに分散させた微粒子分散材料より成る負レンズj2を用いている。
数値実施例4の光学系では、近軸軸上光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる物体側の第1レンズ群L1に商品名K−GFK70より成る正レンズj1とITO微粒子9%−N−ポリビニルカルバゾール微粒子分散材料より成る負レンズj2を用いている。これにより主に軸上色収差を補正している。
数値実施例4の光学系は、望遠比0.677と非常にコンパクトである。
数値実施例4の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため像側に移動する。また第4レンズ群L4は防振レンズ群である。
負レンズj2の最大厚は0.98mmであり、また正レンズj1の中心厚は9.1mmである。絞りSPより物体側の同じレンズ群内に商品名K−GFK70より成る正レンズとITO微粒子9%−N−ポリビニルカルバゾール微粒子分散材料より成る負レンズを用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。
図9の数値実施例5の光学系OLは、焦点距離300mmの望遠レンズである。望遠レンズOLを構成する第1レンズ群L1に異常部分分散性の商品名S−FPL52(株式会社OHARA社製)より成る正レンズj1とITO微粒子5%をN−ポリビニルカルバゾールに分散させた微粒子分散材料より成る負レンズj2を用いている。
数値実施例5の光学系では、近軸軸上光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる物体側の第1レンズ群L1に商品名S−FPL52より成る正レンズj1とITO微粒子5%−N−ポリビニルカルバゾール微粒子分散材料より成る負レンズj2を用いている。これにより主に軸上色収差を補正している。
数値実施例5の光学系は、望遠比0.677と非常にコンパクトである。
数値実施例5の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため像側に移動する。また第4レンズ群L4は防振レンズ群である。
負レンズj2の最大厚は0.30mmであり、また正レンズj1の中心厚は10.8mmである。絞りSPより物体側の同じレンズ群内に商品名S−FPL52より成る正レンズj1とITO微粒子5%−N−ポリビニルカルバゾール微粒子分散材料より成る負レンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。
また数値実施例5では同じ第1レンズ群L1内で物体側より数えて3枚目の正レンズj3にも商品名S−FPL51を中心厚11.8mmで用い、更に良好に色収差を補正している。
図11の数値実施例6の光学系OLは、焦点距離14mmの広角レンズである。広角レンズOLを構成する第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に異常部分分散性の商品名K−GFK70(株式会社住田光学ガラス社製)より成る正レンズj1とUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用いている。
数値実施例6の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため物体側に移動する。
数値実施例6の光学系では、瞳近軸光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる像側の第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に商品名K−GFK70より成る正レンズj1とUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用い、主に倍率色収差を補正している。
正レンズj2の最大厚は1.76mmであり、また正レンズj1の中心厚は2.8mmである。同じレンズ群内の絞りSPよりも像側に商品名K−GFK70より成る正レンズj1とUV硬化樹脂より成る正レンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。
図13の数値実施例7の光学系OLは、焦点距離14mmの広角レンズである。広角レンズOLを構成する第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に異常部分分散性の商品名K−GFK70(株式会社住田光学ガラス社製)より成る正レンズj1とN−ポリビニルカルバゾールより成る正レンズj2を用いている。
数値実施例7の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため物体側に移動する。
数値実施例7の光学系では、瞳近軸光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる像側の第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に商品名K−GFK70より成る正レンズj1とN−ポリビニルカルバゾールより成る正レンズj2を用いている。これにより主に倍率色収差を補正している。
正レンズj2の最大厚は1.18mmであり、また正レンズj1の中心厚は3.5mmである。同じレンズ群内の絞りSPよりも像側に商品名K−GFK70より成る正レンズj1とN−ポリビニルカルバゾールより成る正レンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。
図15の数値実施例8の光学系OLは、焦点距離14mmの広角レンズである。広角レンズOLを構成する第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に異常部分分散性の商品名S−FPL53(株式会社OHARA社製)より成る正レンズj1とTiO2微粒子4%をUV硬化樹脂に分散させた微粒子分散材料より成る正レンズj2を用いている。
数値実施例8の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため物体側に移動する。
数値実施例8の光学系では、瞳近軸光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる像側の第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に商品名S−FPL53より成る正レンズj1とTiO2微粒子4%−UV硬化樹脂微粒子分散材料より成る正レンズj2を用いている。これにより主に倍率色収差を補正している。
正レンズj2の最大厚は0.97mmであり、正レンズj1の中心厚は3.5mmである。同じレンズ群内の絞りSPよりも像側に商品名S−FPL53より成る正レンズj1とTiO2微粒子4%−UV硬化樹脂微粒子分散材料より成る正レンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な性能を得ている。
図17の数値実施例9の光学系OLは、焦点距離14mmの広角レンズである。広角レンズOLを構成する第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に異常部分分散性の商品名K−GFK70より成る正レンズj1とITO微粒子9%をN−ポリビニルカルバゾールに分散させた微粒子分散材料より成る負レンズj2を用いている。
数値実施例9の光学系の第2レンズ群L2はフォーカス群であり物体距離が短くなるとフォーカスのため物体側に移動する。
数値実施例9の光学系では、瞳近軸光線の光軸からの通過位置が比較的高くなる像側の第2レンズ群L2の絞りSPよりも像側に前述した正レンズj1と前述した負レンズj2を用い、主に倍率色収差を補正している。
負レンズj2の最大厚は0.35mmであり、また正レンズj1の中心厚は4.3mmである。同じレンズ群内の絞りSPよりも像側に商品名K−GFK70より成る正レンズj1とITO微粒子9%−N−ポリビニルカルバゾール微粒子分散材料より成る正レンズj2を用いることで、双方の厚みと重量を抑えながら良好な光学性能を得ている。
以下、数値実施例1〜9の具体的な数値データを示す。各数値実施例において、iは物体側から数えた面の番号を表している。Riは第i番目の光学面(第i面)の曲率半径、Diは第i面と第(i+1)面との間の軸上間隔、Ni,νiはそれぞれd線に対する第i番目(条件式を満たす異常部分分散材料で形成されたレンズ(層)は除く)の光学部材の材料の屈折率、アッベ数を示す。異常部分分散性の材料で形成されたレンズj1、j2のd線に対する屈折率、アッベ数は別途Nj1、Nj2,νj1、νj2で示している。fは焦点距離、FnoはFナンバー、ωは半画角である。
また、非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量、hを光軸と垂直な方向の光軸からの高さ、Rを近軸曲率半径、kを円錐定数、B,C,D,E…を各次数の非球面係数として、
で表している。
なお、各非球面係数における「E±XX」は「×10±XX」を意味している。
数値実施例3、8ではそれぞれホストポリマーであるUV硬化樹脂にTiO2微粒子体積比率でそれぞれ10%、4%分散させた固体材料より成るレンズを用いている。TiO2微粒子分散材料の屈折率は、前述のDrudeの式を用いて計算した値を用いて算出している。数値実施例4、5、9ではそれぞれホストポリマーであるN−ポリビニルカルバゾールにITO微粒子を体積比率でそれぞれ9%、5%、9%分散させた固体材料より成るレンズを用いている。ITO微粒子分散材料の屈折率は、前述のDrudeの式を用いて計算した値を用いて算出している。
後述する実施例1〜9で用いている光学材料の光学定数値と条件式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)に相当する値を表―1に示す。また微粒子分散材料を構成するUV硬化樹脂、N−ポリビニルカルバゾールとTiO2、ITO微粒子各単独の光学定数値を表2に示す。
次に本発明の光学系を撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)の実施例を図19を用いて説明する。
図19において、20はカメラ本体である。21は本発明の光学系によって構成された撮影光学系である。22はカメラ本体に内蔵され、撮影光学系21によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。23は撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する情報を記録するメモリである。24は液晶ディスプレイパネル等によって構成され、固体撮像素子22上(光電変換素子上)に形成された被写体像を観察するためのファインダである。
このように本発明の光学系をデジタルスチルカメラ等の撮像素子に適用することにより、小型で高い光学性能を有する撮像装置を実現している。