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JP4737671B2 - 農園芸用殺菌剤組成物 - Google Patents

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JP4737671B2 JP2005171785A JP2005171785A JP4737671B2 JP 4737671 B2 JP4737671 B2 JP 4737671B2 JP 2005171785 A JP2005171785 A JP 2005171785A JP 2005171785 A JP2005171785 A JP 2005171785A JP 4737671 B2 JP4737671 B2 JP 4737671B2
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Description

本発明は、農園芸用殺菌剤に関し、更に詳しくはバシルス属に属する細菌の芽胞と特定の化学合成殺菌剤を含有する、病害防除作用に優れた農園芸用殺菌剤組成物に関する。
植物病害防除法としては、輪作や太陽熱を利用した耕種的あるいは物理的防除、化学農薬を用いる化学的防除、病害抵抗性品種の利用による防除、弱毒ウィルスや病原菌に対する拮抗微生物を用いた生物的防除等が挙げられる。これらのうち、化学農薬、特に有機合成殺菌剤の開発研究は近年に至るまで目覚ましく発達し、効力が高く様々な作用を有する多数の薬剤が次々と開発され、更には様々な施用法も開発された。これらを用いた化学的防除法は植物の病害防除並びに防除作業の省力化等に大きく貢献し、広く普及している。しかしながら、近年いわゆる薬剤耐性菌の出現により、化学的防除法による防除効果が低下するという現象が一部作物、病害で認められ、問題となってきている。また作物の指定産地化が進むにつれて連作を余儀なくされる結果、化学農薬では難防除とされる土壌伝染性病害の発生も各地で深刻な問題となっている。さらに、化学農薬を大量に何度も繰り返して用いる方法は、自然界に存在しない化学物質を環境中に放出するため、動植物に直接毒性を有する薬剤のみならず、そうでない薬剤であっても、環境へ悪影響を引き起こすことが懸念されている。
以上のように化学農薬による病害防除は耐性菌の出現によって防除効果が低下する可能性が高く、その場合新たなる殺菌剤の開発が必要となってしまう。また化学農薬では難防除とされる病害防除に対しては、代替手段あるいは他の方法を併用する手段を講じなくてはならない。さらに、環境に対してより安全性の高い防除技術の確立も望まれている。
近年このような背景のもと、化学農薬の使用に偏った防除方法を見直し、化学農薬からより環境への安全性が高いと想定される微生物を利用した生物防除(いわゆる生物農薬)方法が提案され、その一部は実用化されている。このような農園芸植物の病害防除に用いる微生物として、トリコデルマ属、グリオクラディウム属、タラロマイゼス属に属する糸状菌、アグロバクテリウム属、シュードモナス属、バシルス属に属する細菌等が挙げられる。
この中でバシルス属に属する細菌については、例えば、バシルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)JB3菌株(NCIB12375)、バシルス・ズブチリスJB3.6菌株(NCIB12376)、バシルス・ズブチリスR1菌株(NCIB12616)あるいはこれらの変異株等から得られる抗菌物質が植物の病害、動物およびヒトの微生物感染を抑制し、更に一般的な微生物汚染を抑制するとし、上記各菌株の培養物を用いて各種農園芸用植物の病害を防除する試みがなされている(特許文献1)。
このような現状で、化学合成殺菌剤と拮抗微生物との併用による病害防除が考えられる。しかし、化学合成殺菌剤は拮抗微生物の生育に悪影響を与える場合が多く、相加もしくは相乗的な防除効果を得ることが難しい。このような状況下で、病原菌と拮抗する微生物と化学合成殺菌剤を併用することで、相乗的な防除効果を得ようとする試みが行われている(例えば、特許文献2)。また、病原菌と拮抗する微生物と化学合成殺菌剤を併用することで、耐性菌の抑制効果を得ようとする試みも行われている(例えば、特許文献3)。
前者の試みにおいては、本発明と同様にバシルス属に属する細菌と化学合成殺菌剤とからなる殺菌剤組成物が使用されているが、実施例については種子処理の場合にとどまり、例えば、直接植物に散布する方法、土壌に散布する方法、植物や土壌に添加する水や肥料に添加する方法などによる相乗的な防除効果を利用した植物病害防除についての記載はない。
後者の試みにおいても、本発明と同様にバシルス属に属する細菌と化学合成殺菌剤を併用することで、耐性菌の抑制効果を得ようとする技術が開示されているが、化学合成殺菌剤との併用による相乗的な防除効果を利用した植物病害防除についての記載はない。
また、本発明に用いられるバシルス属に属する細菌の芽胞と農園芸用殺菌化合物の混合剤については知られていない。
特開昭63−273470号公報 特表平6−511258号公報 特開平10−109913号公報
本発明は、優れた病害防除作用を求めながら、同時に安全性や環境への十分な配慮といった、当業界のニーズに応えるため、化学合成殺菌剤の使用量を減らしても、なおかつ高い防除効果を有し、環境に対してより安全性が高く病害防除作用にも優れた農園芸用殺菌剤組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、バシルス属に属する細菌の芽胞と化学合成殺菌剤との組合せにより、上記の課題が解決されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成させたものである。
本発明の要旨は以下のとおりである。農園芸用殺菌化合物は市販されているか、または農園芸用殺菌剤として知られた化合物であり、これらの化合物は日本植物防疫協会発行の農薬ハンドブック(2002年)、全国農業協同組合連合会発行のクミアイ農薬総覧(2005年)及び同連合会発行のSHIBUYA INDEX(2005年)などで知られる。
(1)化学合成殺菌化合物、すなわち無機銅化合物、例えば塩基性硫酸銅、無水硫酸銅、水酸化第二銅、塩基性塩化銅等、有機銅化合物、例えば有機銅、ノニルフェノールスルホン酸銅等、無機硫黄化合物、例えば硫黄、全硫化態硫黄等、有機硫黄化合物、例えばジネブ、マンネブ、プロピネブ、チアジアジン、チウラム、ポリカーバメート等、アニリノピリミジン系化合物、例えばシプロジニル、ピリメタニル、メパニピリム等、フェニルピロール系化合物、例えばフルジオキソニル等、有機塩素系化合物、例えばクロロタロニル、キャプタン、トリアジン、フルアジナム、スルフェン酸、フサライド等、炭酸水素塩剤、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等、有機リン系化合物、例えばEDDP、ホセチル、トルクロホスメチル、IBP等、ベンズイミダゾール系化合物、例えばカルベンダジム、チオファネートメチル、チアベンダゾール、ベノミル、フベリダゾール等、ジカルボキシイミド系化合物、例えばイプロジオン、プロシミドン、ビンクロゾリン等、アゾール系化合物、例えばフェンブコナゾール、シメコナゾール、ジクロブトラゾール、トリチコナゾール、イプコナゾール、フルコナゾール、ミクロブタニル、ペンコナゾール、ビテルタノール、ブロムコナゾール、オキスポコナゾール、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ジニコナゾール、エポキシコナゾール、フェンブコナゾール、フルキンコナゾール、フルシラゾール、フルトリアホール、ヘキサコナゾール、イミベンコナゾール、メトコナゾール、プロピコナゾール、シプコナゾール、テブコナゾール、テトラコナゾール、トリアジメホン、トリアジメノール等、イミダゾール系化合物、例えばトリフルミゾール、プロクロラズ、イマザリル、ペフラゾエート等、ピペラジン系化合物、例えばトリホリン等、モルホリン系化合物、例えばフェンプロピモルフ、トリデモルフ、フェンプロピジン等、ヒドロキシピリミジン系化合物、例えばエチリモル、ジメチリモル等、グアニジン化合物、例えばイミノクタジン酢酸塩、イミノクタジンアルベシル酸塩、グアザチン等、酸アミド系化合物、例えばオキシカルボキシン等、ベンゾアニリド系化合物、例えばメプロニル、ジクロメジン、フルトラニル、ペンシクロン、フラメトピル、チフルザミド等、アシルアラニン系化合物、例えば、オキサジキシル、メタラキシル、メトキシアクリレート系化合物、例えばアゾキシストロビン、クレソキシムメチル、メトミノストロビン、トリフロキシストロビン、ピコキシストロビン、ピラクロストロビン、オリサストロビン等、キノキサリン系化合物、例えばキノメチオネート等、ヒドロキシアニリド系化合物、例えばフェンヘキサミド等、シアノアセトアミド系化合物、例えばシモキサニル等、シアノイミダゾール系化合物、例えばシアゾファミド等、その他ファモキサドン、スピロキサミン、トリアゾキシド、ピラゾホス、フルオルイミド、ジメトモルフ、イプロバリカルブ、フェナミドン、エタボキサム、シフルフェナミド、ジチアノン、カルプロパミド、プロベナゾール、メタスルホカルブ、ピロキロン、ヒドロキシイソキサゾール、トリシクラゾール、ジフルメトリム、フェナジンキシド、イソプロチオラン、オキソリニック酸、アシベンゾラル−S−メチル、キノキシフェン、ベンチアバリカルブイソプロピル、チアジニルから選択される1種または2種以上の化学殺菌剤、及びバシルス属に属する細菌の芽胞を含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物。
(2)バシルス属に属する細菌が、バシルス・ズブチリスである前記記載の農園芸用殺菌剤組成物。
(3)バシルス属に属する細菌が、バシルス sp.D747(受託番号FERM BP−8234)である前記記載の農園芸用殺菌剤組成物。
(1)〜(3)の何れかに記載の農園芸用殺菌剤組成物を用いた植物病害防除方法。
以下、本発明について詳細に説明する。
<1>バシルス属に属する細菌の芽胞
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、バシルス属に属する細菌の培養物より得られる芽胞を有効成分として含有する。
本発明に用いるバシルス属に属する細菌としては、バシルス属に属する細菌であれば特に制限されないが、好ましくは植物病原菌と拮抗するバシルス属に属する細菌が挙げられ、その中でもより好ましくはバシルス・ズブチリスやバシルス(Bacillus) sp.D747が挙げられる。
このD747菌株は、静岡県菊川市の空気中から単離された菌株であって、現在、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて、Bacillus sp.D747(受託番号FERM BP−8234)として国際寄託されている。
このバシルス sp.D747株の細菌的性質は以下に示す通りである。なお、菌学的性質の試験はBergey’s Manual of Systematic Bacteriology、volume 1(1984)に基づいて行った。
(A)形態学的性質
形態: 桿菌
大きさ: 幅1.0〜1.2μm、長さ3〜5μm
運動性: +
鞭毛の着生状態: 周鞭毛
内生胞子: +
胞子の位置: 中央
胞子の膨張: −
(B)培養的性質
コロニーの色: 白色〜薄い茶色
肉汁寒天平板培養:白色〜クリーム色のコロニーを形成し、表面はしわ状
(c)生理学的性質
グラム染色性: +
硝酸塩の還元: +
MR試験: −
VP試験: +
インドールの生成: −
澱粉の加水分解: +
クエン酸の資化性: +
無機窒素源: +
オキシダーゼ: −
カタラーゼ: +
生育pH
6.8、肉エキス培地: +
5.7、肉エキス培地: +
生育温度
30℃: +
50℃: −
生育NaCl濃度
2%: +
5%: +
7%: +
好気的生育: +
嫌気的生育: −
O−Fテスト: O
卵黄反応: −
グルコースからの酸生成: +
マンニトールからの酸生成: −
L−アラビノースからの酸生成: −
D−キシロースからの酸生成: −
グルコースからのガス生成: −
β−ガラクトシダーゼ: −
NaCl及びKCl要求性: −
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、上記のように植物病害を防除できるバシルス sp.D747を含有するものである。本発明の植物病害防除剤においては、D747菌株を単体で使用することもできるが、D747菌株の変異体も、単体でもしくはD747菌株とともに使用することができる。変異体は、上記D747菌株の細菌学的特性を有し、植物病害防除作用を有するものであり、自然突然変異株、紫外線や化学変異剤を用いての突然変異株、また細胞融合株および遺伝子組み換え株も利用が可能である。本発明の植物防除剤に含有されるD747菌株には、D747菌株の変異体が含まれる。
本発明に用いる芽胞は、上記バシルス属に属する細菌の培養物から得られる。バシルス属に属する細菌の培養は、例えば往復式振とう培養、ジャーファーメンター培養、培養タンク等の液体培養や固体培養等、バシルス属に属する細菌の通常の培養方法に準じて行うことができる。例えば肉エキス培地など一般的な培地の他、グルコース、ペプトン、イーストエキスを含む培地などが挙げられる。また液体培地以外に寒天入りの斜面培地および平板培地等の固体培地を用いてもよい。培養によってD747菌株を増殖させて、所望の菌体量を得ることができる。
培地の炭素源としては、上記菌株が同化しうるあらゆるものが利用可能である。例えばグルコース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、麦芽エキス澱粉加水分解物などの糖の外に、D747菌株が利用し得る各種の合成または天然炭素源をあげることができる。培地の窒素源として、同様に、ペプトン、肉エキス、酵母エキスなどの有機窒素含有物をはじめ、該菌株が利用し得る各種の合成又は天然物も利用可能である。微生物培養の常法に従って、食塩、リン酸塩などの無機塩類、カルシウム、マグネシウム、鉄などの金属の塩類、ビタミン、アミノ酸などの微量栄養源も必要に応じて添加することができる。
培養は、振盪培養、通気培養などの好気的条件下で行なうことができる。培養温度は20〜30℃、好ましくは25〜30℃、pHは5〜8、好ましくは6〜7、培養期間は1〜4日、好ましくは2〜3日が適当である。
上記のようにして得られたバシルス属に属する細菌の培養物より芽胞を分離する方法としては、膜分離、遠心分離、濾過分離等の方法を用いて行うことができる。得られた芽胞画分は、そのままある程度の水分を含んだ状態で本発明の農園芸用殺菌剤組成物に用いることも、また、必要に応じて凍結乾燥、スプレードライ等の乾燥法を用いて乾燥物として本発明の農園芸用殺菌剤組成物に用いることも可能である。
<2>化学合成殺菌剤
本発明において用いる化学合成殺菌剤は、バシルス属に属する細菌の芽胞との併用で、相乗的な防除効果が得られる。
<3>農園芸用殺菌剤組成物
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、上記バシルス属に属する細菌の芽胞及び上記化学合成殺菌剤をそれぞれ1種または2種以上含有するものである。
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、通常の微生物製剤の製造方法に従って、上記バシルス属に属する細菌の芽胞及び上記化学合成殺菌剤を必要に応じて各種任意成分と共に、粉剤、粒剤、水和剤、乳剤、液剤、フロアブル剤、塗布剤等に製剤して使用することができる。
さらに本発明による植物病害防除剤においてD747菌株は、菌体または培養物を単独で用いるほか、不活性な液体または固体の担体で希釈し、必要に応じて界面活性剤、その他の補助剤を加えた薬剤として用いてもよい。具体的な製剤例としては、粒剤、粉剤、水和剤、懸濁製剤、乳剤等の剤型等があげられる。好ましい担体の例としては、タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、珪藻土、ホワイトカーボン、バーミキュライト、消石灰、珪砂、硫安、尿素、多孔質などの固体担体、水、イソプロピルアルコール、キシレン、シクロヘキサノン、メチルナフタレン、アルキレングリコール、などの液体担体等があげられる。界面活性剤および分散剤としては、例えばジナフチルメタンスルホン酸塩、アルコール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート等があげられる。補助剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、アラビアゴム、キサンタンガム等、保護剤としてはスキムミルク、pH緩衝剤等があげられる。この場合、D747菌株および/またはその培養物の量、さらには適用時期および適用量は上記生菌の場合に準じて適宜決定することができる。
このようにして得られる本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、製剤の態様によらず長期間の保存が可能で、例えば、水和剤として48ヶ月間室温にて保存した後にも、化学合成殺菌剤無添加のものと同等の防除価が得られる。
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、施用形態により、藻菌類(Oomycetes)、子嚢菌類(Ascomycetes)、担子菌類(Basidiomycetes)、接合菌類(Zygomycetes)、及び不完全菌類(Deuteromycetes)に属する菌類、および細菌類に起因する植物の病害を防除することができる。
本発明の農園芸用殺菌剤組成物が防除することのできる植物の病原菌として、具体的にはシュードペロノスポラ(Pseudoperonospora)属菌、例えばキュウリべと病菌(Pseudoperonospora cubensis)、ベンチュリア(Venturia)属菌、例えばリンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)、エリシフェ(Erysiphe)属菌、例えばコムギうどんこ病菌(Erysiphe graminis)、ピリキュラリア(Pyricularia)属菌、例えばイネいもち病菌(Pyricularia oryzae)、ボトリチス(Botrytis)属菌、例えばキュウリ灰色かび病菌(Botrytis cinerea)、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌、例えばイネ紋枯病菌(Rhizoctonia solani)、クラドスポリウム(Cladosporium)属菌、例えばトマト葉かび病菌(Cladosporium fulvum)、コレトトリカム(Colletotrichum)属菌、例えばイチゴ炭そ病菌(Colletotrichum fragariae)、パクシニア(Puccinia)属菌、例えばコムギ赤さび病菌(Puccinia recondita)、セプトリア(Septoria)属菌、例えばコムギふ枯病菌(Septoria nodorum)、スクレロティニア(Sclerotinia)属菌、例えばキュウリ菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)、ピシウム(Pythium)属菌、例えばキュウリ苗立枯病菌(Pythium debaryanum Hesse)、ゲウマノマイセス(Gaeumannomyces)属菌、例えばコムギ立枯病菌(Gaeumannomyces graminis)、また細菌として、バークホルデリア(Burkholderia)、例えばイネ苗立枯細菌病(Burkholderia plantarii)などをあげることができるが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
<4>本発明の農園芸用殺菌剤組成物の施用方法
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、そのまま直接施用するか、あるいは水などで希釈して施用することができる。植物病害防除剤としての施用方法は、特に限定されず、例えば、直接植物に散布する方法、土壌に散布する方法、植物や土壌に添加する水や肥料に添加する方法などがあげられる。その他、製剤の施用量は、対象病害、対象作物、施用方法、発生傾向、被害の程度、環境条件、使用する剤型などによって変動するので、適宜調整されることが好ましい。
また、栽培植物への農園芸用殺菌剤組成物の施用に際して、殺虫剤、殺線虫剤、除草剤、植物生長調節剤、肥料、土壌改良資材等を混合施用、交互施用、または同時施用することも可能である。
本発明の農園芸用殺菌剤組成物の施用量は、病害の種類、適用植物の種類、殺菌剤組成物の剤型等によって異なるため、一概に規定できないが、例えば液剤の農園芸用殺菌剤組成物を散布する場合には、芽胞濃度として10〜1010cfu(コロニー形成単位)/mlであり、好ましくは10〜10cfu/mlである。また施用量は10アールあたり液剤の農園芸用殺菌剤組成物を0.5〜1000リットル施用するのが好ましい。
本発明の農園芸用殺菌剤組成物は、キュウリ灰色かび病、べと病、コムギうどんこ病、イネいもち病等の各種病原菌に対して優れた防除効果を示し、化学合成殺菌剤の使用量を減らすことができる。また有用作物に対する安全性が極めて高い。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(製造例1:湿菌体の製造)
静岡県内の空気中より分離されたバシルス sp.D747菌株(FERM BP−8234)を平板培地上で培養し、分離したコロニーをフラスコに植菌し、20mlのブイヨン培地(肉エキス1%、ペプトン1%、塩化ナトリウム0.5%)で、27℃、120rpm、1日間振盪培養後、得られた培養液をグルコース1%、可溶性澱粉2%、ポリペプトン0.5%、乾燥酵母1%、脱脂大豆1%、KHPO 0.2%、NaCl 0.2%、炭酸カルシウム0.3%を含む、pH 6.0の培地20Lに植菌し27℃、120rpm、3日間振盪培養した後、遠心集菌(10,000×g,15分間)し、滅菌水中に懸濁し、培地成分を洗浄した。この操作を2回行い、湿重量約1kgの湿菌体(芽胞画分)を得た。この芽胞画分はバシルス sp.D747の芽胞を乾燥重量で50重量%含有するものである。
(製造例2:粉末芽胞の製造)
上記製造例1によって得られたバシルス sp.D747の芽胞画分1kgを蒸留水5Lに懸濁後、スプレードライヤー(ニロジャパン社)にて処理(入口温度150℃、出口温度100℃)。スプレードライヤーにて得られた乾燥物を破砕することにより、約100gの乾燥粉末芽胞を得た。この乾燥粉末はバシルス sp.D747の芽胞を5×1011cfu/g以上を含むものである。
次に本発明の農園芸用殺菌剤組成物の代表的な製剤例をあげて製剤方法を具体的に説明する。以下の説明において「%」は重量百分率を示す。
(製剤例1:水和剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を20%、農園芸用殺菌化合物メパニピリムを1.8%、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.5%、ポリオキシエチレンアルキルアリール1.5%、珪藻土26%、クレー49.2%を均一に混合粉砕して、水和剤とした。
(製剤例2:水和剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を30%、農園芸用殺菌化合物フルジオキソニルを0.9%、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.5%、ポリオキシエチレンアルキルアリール1.5%、珪藻土26%、クレー40.1%を均一に混合粉砕して、水和剤とした。
(製剤例3:水和剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を10%、農園芸用殺菌化合物炭酸水素ナトリウムを30%、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.5%、ポリオキシエチレンアルキルアリール1.5%、珪藻土26%、クレー31%を均一に混合粉砕して、水和剤とした。
(製剤例4:水和剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を10%、農園芸用殺菌化合物アゾキシストロビンを9%、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.5%、ポリオキシエチレンアルキルアリール1.5%、珪藻土26%、クレー52%を均一に混合粉砕して、水和剤とした。
(製剤例5:水和剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を60%、農園芸用殺菌化合物トリシクラゾールを0.05%、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.5%、ポリオキシエチレンアルキルアリール1.5%、珪藻土26%、クレー10.95%を均一に混合粉砕して、水和剤とした。
(製剤例6:粉剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を10%、農園芸用殺菌化合物フサライドを1%、珪藻土6%及びクレー83%を均一に混合粉砕して粉剤とした。
(製剤例7:粒剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を10%、農園芸用殺菌化合物フルトラニルを10%、ラウリルアルコール硫酸エステルのナトリウム塩2%、リグニンスルホン酸ナトリウム5%、カルボキシメチルセルロース2%及びクレー71%を均一に混合粉砕した。この混合物100重量部に水20重量部を加えて練合し、押出式造粒機を用いて14〜32メッシュの粒状に加工した後、乾燥して粒剤とした。
(製剤例8:水和剤)
上記のようにして得られたバシルス sp.D747菌株の粉末芽胞を10%、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.5%、ポリオキシエチレンアルキルアリール1.5%、珪藻土26%、クレー61%を均一に混合粉砕して、水和剤とした。
(製剤例9:水和剤)
農園芸用殺菌化合物メパニピリムを1.8%、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.5%、ポリオキシエチレンアルキルアリール1.5%、珪藻土26%、クレー69.2%を均一に混合粉砕して、水和剤とした。
次に本発明の農園芸用殺菌剤組成物が植物病害防除剤として有用であることを試験例で示す。
(試験例1:キュウリ灰色かび病防除効果試験)
9cm×9cmの塩ビ製鉢にキュウリ種子(品種:相模半白)を10粒づつ播種し、温室内で7日間育成し、子葉が展開したキュウリ幼苗を供試植物として用いた。製剤例1〜5に準じながら供試濃度になるように適宜配合量を変えて調製した本発明の農園芸用殺菌剤組成物、製剤例8のバシルス sp.D747、及び製剤例9に準じて調製した化学合成殺菌剤を、有効成分が所定の濃度になるように水で希釈し、1ポット当たり10ml散布した。風乾後、キュウリ灰色かび病菌(Botrytis cinerea)の胞子懸濁液を浸したぺーパーディスクをキュウリ子葉表面に置床接種し、20℃の湿室で管理した。接種3日後に子葉の病斑直径を求め、得られた数値をもとに、数1により防除価(%)を求めた。
Figure 0004737671
2種類の活性化合物や微生物を混合して処理した際に期待される防除効果は、コルビー(Colby)の計算式より求めることができる(除草剤の組み合わせの相乗的及び拮抗的反応の計算:Calculating Synergistic and Antagonistic Responses of Herbicide Combination、 Weed 15、 20〜22ページ、 1967)。コルビー(Colby)の計算式を数2に示す。
Figure 0004737671
数2で、Xは一方の活性化合物や微生物をm(ppmもしくはcfu/ml)の濃度で処理した場合の防除効果(防除価)を表し、Yは他方の活性化合物や微生物をn(ppmもしくはcfu/ml)の濃度で処理した場合の防除効果(防除価)を表わす。その場合、Eは前者の活性化合物や微生物をm(ppmもしくはcfu/ml)、後者の活性化合物や微生物をn(ppmもしくはcfu/ml)の濃度になるように混合して処理した場合の防除効果(防除価)の相加作用による期待値を表している。
本発明の農園芸用殺菌剤組成物の防除効果が、Xとしてバシルス sp.D747のみを処理した防除効果、Yとして化学合成殺菌剤のみを処理した防除効果を用いてコルビー(Colby)の計算式より求められた計算値(E)より大きくなれば、この組み合わせによる防除効果が相乗効果により発揮されていることを示すこととなる。試験によって得られた実験値の防除価(%)、及びコルビーの計算式より求められた計算値の防除価(%)を表1に示した。
Figure 0004737671
(試験例2:コムギうどんこ病防除効果試験)
9cm×9cmの塩ビ製鉢に小麦種子(品種:農林61号)を9粒づつ播種し、温室内で8日間育成し供試植物として用いた。製剤例1〜5に準じながら供試濃度になるように適宜配合量を変えて調製した本発明の農園芸用殺菌剤組成物、製剤例8のバシルス sp.D747、及び製剤例9に準じて調製した化学合成殺菌剤を、有効成分が所定の濃度になるように水で希釈し、1鉢当たり10ml散布した。風乾後、コムギうどんこ病菌(Erysiphe graminis)の胞子を接種し、20〜25℃の温室内に入れた。接種10日後に各々の第1葉の発病面積を下記の基準に従って指数調査し、得られた指数値をもとに、数3により被害度を求め、さらに数4により防除価(%)を求めた。試験によって得られた実験値の防除価(%)、及びコルビーの計算式より求められた計算値の防除価(%)を表2に示した。
発病指数 0 : 発病をみとめず
1 : 葉の面積の5%未満の発病面積
2 : 葉の面積の5%以上10%未満の発病面積
3 : 葉の面積の10%以上25%未満の発病面積
4 : 葉の面積の25%以上の発病面積
Figure 0004737671
Figure 0004737671
Figure 0004737671
(試験例3:キュウリべと病防除効果試験)
9cm×9cmの塩ビ製鉢にキュウリ種子(品種:相模半白)を10粒づつ播種し、温室内で7日間育成し、子葉が展開したキュウリ幼苗を供試植物として用いた。製剤例1〜5に準じながら供試濃度になるように適宜配合量を変えて調製した本発明の農園芸用殺菌剤組成物、製剤例8のバシルス sp.D747、及び製剤例9に準じて調製した化学合成殺菌剤を、有効成分が所定の濃度になるように水で希釈し、1鉢当たり10mlを噴霧散布した。風乾後、キュウリべと病菌(Pseudoperonospora cubensis)の分生胞子懸濁液を噴霧接種し、直ちに20℃の湿室内に24時間入れた。その後温室内に移し、7日後に各子葉の発病程度を下記の発病指数の基準に従って調査し、得られた指数値をもとに、数3により被害度を求め、さらに数4により防除価(%)を求めた。試験によって得られた実験値の防除価(%)、及びコルビーの計算式より求められた計算値の防除価(%)を表3に示した。
発病指数 0 : 発病をみとめず
1 : 葉の面積の5%未満の発病面積
2 : 葉の面積の5%以上33.3%未満の発病面積
3 : 葉の面積の33.3%以上66.6%未満の発病面積
4 : 葉の面積の66.6%以上の発病面積、または落葉
Figure 0004737671
(試験例4:イネいもち病防除効果試験)
直径7cmの素焼鉢に水稲種子(品種:愛知旭)を約15粒ずつ播種し、温室内で2〜3週間育成し、第4葉が完全に展開したイネ苗を供試植物として用いた。製剤例1〜5に準じながら供試濃度になるように適宜配合量を変えて調製した本発明の農園芸用殺菌剤組成物、製剤例8のバシルス sp.D747、及び製剤例9に準じて調製した化学合成殺菌剤を、有効成分が所定の濃度になるように水で希釈し、1鉢当たり10mlを噴霧散布した。風乾後、イネいもち病菌(Pyricularia oryzae)の分生胞子懸濁液を噴霧接種し、直ちに25℃の湿室内に24時間入れた。その後温室内に移し、接種5日後に第4葉の病斑数を調査し、数5により防除価を求めた。試験によって得られた実験値の防除価(%)、及びコルビーの計算式より求められた計算値の防除価(%)を表4に示した。
Figure 0004737671
Figure 0004737671
上記の試験例から明らかなように、個々の拮抗微生物や化学合成殺菌剤のみでは不十分な防除効果しか示さない濃度でも、本発明の農園芸用殺菌剤組成物は相乗効果による優れた防除効果を示すので、化学合成殺菌剤の使用量を減らしても高い防除効果を得ることができる。

Claims (2)

  1. メパニピリム、フルジオキソニル、炭酸水素ナトリウム、フェンブコナゾール、ジニコナゾール、アゾキシストロビン、クレソキシムメチル、クロロタロニル、トリフロキシストロビン、シモキサニル、シアゾファミド、エタボキサム、イプロバリカルブ、フサライド、メトミノストロビン、カルプロパミド、トリシクラゾールから選択される1種または2種以上の化学殺菌剤、及びバシルス sp.D747(受託番号FERM BP−8234)の芽胞を含有する農園芸用殺菌剤組成物。
  2. 請求項1記載の農園芸用殺菌剤組成物を用いる植物病害防除方法。
    以上
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