JP4704474B2 - 耐屈曲性に優れた圧延銅箔 - Google Patents
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Description
フレキシブルプリント配線板(以下、FPC)は、薄く、折り曲げ性に優れるという特性から、電子機器の配線材料として採用されている。さらに電子機器の軽薄短小化、高機能化に対応して、FPC市場は拡大成長を続けている。FPCの用途分野も従来のHDD,デジタルカメラなどから、近年ではLCDや携帯電話において急速に拡大し、さらには車載用としても開発が進んでいる
このように急速に進展するFPC市場の要求に対応して、さらに耐屈曲性に優れた圧延銅箔の開発が要求されている。
また、FPCでは柔らかいことが要求されている。折り曲げ易くなることで作業性の向上や省スペース化が期待できる。またHDD内部のFPCでは、柔らかいほどFPC駆動力の低減が容易となる。結果的に電力消費を低減できることからHDDの省電力化に繋がる。さらにLCD用途などでは、小さく折り曲げたときのスプリングバックによる故障の低減も期待できる。このように折り曲げ径の狭小化が進むにつれて、柔らかいFPCへの要求が高くなっている。
電子機器の小型化や鉛フリーはんだの影響から、FPCの耐熱性要求が一段と増している。将来的な車載用FPCを見据えて、耐熱性の要求レベルは今後も上昇していくことが予想される。
以上が、市場からみた圧延銅箔の今後の要求特性の概要であるが、特に上述したFPC技術動向から、圧延銅箔の屈曲の信頼性が問題となっている。
以上の技術は、いずれも屈曲性の改善を意図するものであるが、後述するスリップバンドへの着目がないため、大きな屈曲性の向上を期待できないという問題があった。
1)圧延銅箔を屈曲した後のスリップバンドが圧延銅箔の表面に50%以上形成される組織を備えていることを特徴とする耐屈曲性に優れた圧延銅箔を提供する。2)このスリップバンドは圧延銅箔の表面に80%以上形成される組織を備えていること、さらには3)スリップバンドが圧延銅箔の表面に90%以上形成される組織を備えていることが望ましい。また、この屈曲時に形成されるスリップバンド組織は銅箔の全面に均一に分布しているのが好ましい。本願発明は、スリップバンドが圧延銅箔の高屈曲性を直接示す指標であることを見出した点にある。これによって、後述するように大幅な屈曲回数の増大が可能となった。
この場合、各結晶粒が同じ方向に配向しているため、あたかも単結晶のような組織構造を呈し、粒界の数が減少する。したがって、立方体集合組織が発達した銅箔では、結晶粒径が大きくなり、粒界の数を減少させることができるという好適な条件を得ることができる。
上記の通り、立方体集合組織を発達させたフレキシブル基板用銅箔を使用した場合に、該銅箔面に形成されるスリップバンドは、耐屈曲性の指標となるものでもある。このようなスリップバンドが形成される圧延銅箔が、耐屈曲性を大きく向上させることができるという従来技術は無い。
銅箔における曲げ半径と摺動屈曲回数の関係については、曲げ半径が小さくなると銅箔にかかる歪みが大きくなるため屈曲性が低下する。そのため、例えば電解銅箔は最も屈曲性が低いので、曲げ半径の小さな製品への適応が困難となってくる。屈曲性が高い従来(現行)の圧延銅箔でも曲げ半径が小さくなると、屈曲回数が激減し、非常に厳しくなってくる。
図2に、本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)と電解銅箔及び従来(現行)の圧延銅箔の屈曲回数の試験結果を示す。この図2に示すように、本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)は電解銅箔及び従来の圧延銅箔に比べて、曲げ回数が大幅に向上することが分かる。スリップバンドは、圧延銅箔の高屈曲性を直接示す指標である。
圧延銅箔としては、再結晶集合体組織が立方体方位となる銅を使用できる。この材料の代表的なものとしては、タフピッチ銅及び無酸素銅がある。
一般に、合金元素を添加した銅は立方体方位の発達を阻害するので、適当でない。しかし、Ag等を添加して軟化温度を調整したタフピッチ銅等、0.1wt%程度の微量な合金元素の添加は、立方体方位の発達を阻害しないので、使用上特に問題がない。
本発明者は、フレキシブルプリント配線板(FPC)に対応できる耐屈曲性を持たせるために、各種の圧延銅箔を研究・開発する中で、耐屈曲性に優れた圧延銅箔について、共通の現象があることが分かった。それは、屈曲後のスリップバンドが圧延銅箔の表面に多量に発生していることである。
本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)のFPCを屈曲させた後に、銅箔回路のS面側をSEM画像による観察した結果を図3に示す。図3の上段の組織(SEM画像)は、表面の(200)配向が99%であり、I(200)/Io(200)=75の場合である。屈曲以外の部分と比較すると、表面には微細なスジ模様が観察された。この図に示されているスジ模様はいわゆる「スリップバンド(すべり帯)」と呼ばれるものである。これは、結晶性の高い(単結晶の)金属に特有な現象である。この場合、スリップバンドは表面の90%で発生した。
一方、図3の下段の組織(SEM画像)は、表面の(200)配向が20%であり、I(200)/Io(200)<3の場合である。これは電解銅箔の場合であるが、電解銅箔は表面にスリップバンドが殆んど発生していない。この結果、前記圧延銅箔と同様に繰り返し応力をかけた場合には、クラックすら発生しているのが分かる。
これは屈曲における圧延銅箔内部の疲労蓄積を緩和する現象であることから、結果的に圧延銅箔が高い屈曲性を保有させることが可能となる。すなわち、銅箔の屈曲後にスリップバンドが均一に多量に発生させることができれば、圧延銅箔の耐屈曲性を大幅に向上させることが可能となる。
繰り返し屈曲後のスリップバンドは50%以上形成される組織を備えていることが望ましい。また、好ましくは80%以上、さらには90%以上形成される組織を備えていることが好ましい。そして、この屈曲時に形成されるスリップバンド組織は銅箔の全面に均一に分布していることが望ましい。
本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)が高屈曲性を保有する理由には、主として以下の3点が考えられる。
(1)結晶の(200)面の高配向性
本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)は、再結晶後の(200)面配向性が従来の圧延銅箔よりも高く、ほぼ100%に近い配向をしている。そして、I(200)/Io(200)>40であり、好ましくはI(200)/Io(200)>65が達成されている。これより結晶粒界に配向のミスマッチが極めて小さくなる。例えば、結晶がランダム配向の電解銅箔では、結晶粒界の配向性のミスマッチが大きい。この結晶配向性のミスマッチは、結晶粒界への疲労(転位)の蓄積に影響を与える。したがって、ミスマッチが小さい本願発明圧延箔では結晶粒界への転位蓄積も小さくなり、結果的に高屈曲性を生じると考えられる。この様な組織をもつ場合には、屈曲した後のスリップバンドが圧延銅箔の表面に50%以上形成するのに有効である。
本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)は、再結晶後の結晶粒サイズが従来の圧延銅箔よりも著しく大きいため、全体的な結晶粒界も少なくなる。逆に、微細結晶からなる電解銅箔は、結晶粒界が著しく多くなる。また、屈曲におけるクラック発生・進展が、結晶粒界に沿う場合、結晶粒界が少ない本願発明圧延箔はクラック発生の起点が少なくなることから、結果的に高屈曲性を生じると考えられる。この場合も、屈曲した後のスリップバンドを形成するのに有効である。
(3)スリップバンドの生じ易さ
本願発明圧延箔は、圧延、焼鈍、結晶粒径によりスリップバンドの生じ易さが生じる。繰り返し屈曲においては、このスリップバンドの形成が重要となる。上述したようにスリップバンドの形成により屈曲疲労が緩和され、結果的に高屈曲性を生じると考えられる。
最終冷間圧延後、焼鈍により結晶粒径:20μmを超え、さらには30μmを超えるように調整する。結晶粒径は大きいほど好ましく、50μm、さらには100μm、200μmを超える結晶粒径とすることも可能である。
前記最終冷間圧延では、圧延加工度(R)を種々変化させ、立方体集合組織の量を調整する。例えば、R=90〜100%(未満)の範囲で調整する。そして、半軟化温度より50°C高い温度で再結晶焼鈍してI(200)/Io(200)>40、好ましくはI(200)/Io(200)>65を得る。なお、I/Io値の測定はX線回折(ディフラクトメーター)法によった(以下、同様)。
また、Rは次式で定義するものである。
R=(to−t)/to (to:圧延前の厚み、t:圧延後の厚み)
下記の実施例では、R=98.2%とし、半軟化温度より50°C高い温度で再結晶焼鈍してI/Io=40〜80の範囲で変化させた。なお、I/Io値の測定は上記の通り、X線回折(ディフラクトメーター)法によった。
圧延銅箔用素材として無酸素銅(HO材)を用いた場合にも、同様の結果が得られた。実施例においては、特に圧延銅箔用素材の選択、圧延又は熱処理条件を限定する必要はなく、本願明細書に記載する範囲であれば、任意に選択できる。したがって、以下の説明では、圧延工程及び熱処理工程の詳細は割愛した。
以下に、各種試験により、本願発明をより具体的に説明する。
予め、スリップバンドの評価方法について説明する。
[試験サンプルの作製]
(1) 銅箔(18μm厚、12μm厚)と接着剤付ポリイミドシートを使用し、熱圧着により3層の銅張積層板(Copper Clad Laminates : CCL)を作製
熱圧着条件:180°C、60分間
(2) 3層銅張積層板に、エッチングによりJIS C5016の耐折性試験用パターンを形成
[屈曲試験]
試験サンプルでIPC摺動屈曲試験30000回を実施
屈曲試験条件:曲げ半径2.0mm、屈曲速度1000回/分、ストローク20mm、銅箔側を内側にセットして行う
[スリップバンドの観察]
試験サンプル表面を、SEM(×1500)の60μm×60μmの画面でスリップバンド形成部の面積比を確認
上記試験に使用した銅箔を使用し、本願実施例については、スリップバンド形成比率64-98%のものを使用し、比較例については、スリップバンド形成比率25-35%のものを使用した。本発明の圧延銅箔(図4及び図5では、「本願発明圧延箔」と表記する。以下同様。)と従来の圧延箔(比較例)との屈曲性の比較評価を行った。曲げ半径1.5mmにおけるIPC摺動屈曲試験結果を図4に示す。
図4より、18μm厚の圧延箔の銅張積層板では、従来の圧延銅箔よりも本願発明圧延箔は2倍以上の高屈曲性を示した。さらに、12μm厚の本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)は、最も高い屈曲性を示し、18μmの従来の圧延銅箔と比較すると約3倍以上もの優れた屈曲性を有していた。また、曲げ半径0.8mmにおけるMIT耐折試験結果を図5に示す。IPC試験結果と同様に、12μm 本願発明圧延箔が最も高い屈曲性を示していた。
このように本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)は、一般的な屈曲評価方法であるIPC摺動屈曲試験およびMIT耐折試験について、従来の圧延銅箔の数倍以上の高屈曲性を示している。最新機種の携帯電話ヒンジ部は、非常に高い折り曲げ性が要求されるため、この12μm 本願発明圧延箔が最適である。
本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)と従来の圧延銅箔について銅箔回路幅を変化させて屈曲性の比較を行った摺動屈曲試験結果を図6に示す。図6より回路幅が1mmから0.5mmに狭くなると、屈曲性も低下することが分かる。回路幅が狭くなると、クラックから断線までの寿命が短くなるためである。
図6より、従来の圧延銅箔の銅張積層板(回路幅1mm,右端)に比べて、本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)銅張積層板(回路幅0.5mm,左端)は、ほぼ同等の屈曲性が得られていることが分かる。すなわちプリント配線板における回路のファイン化により回路幅が狭幅化しても、本願発明圧延箔は従来の圧延銅箔以上に高屈曲性を維持できる。上記においては、12μm箔で実施したが、さらに9μm箔でも同様に耐屈曲性を向上させることができる。
FPCの市場要求では、高屈曲性だけでなく屈曲信頼性についても、従来以上の高い基準が必要とされる。そこで本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)、従来の圧延銅箔、電解銅箔(A,B)について屈曲信頼性の評価を行った。評価は180℃,1時間熱処理後の銅箔単体サンプル100個について、曲げ半径1.5mmにて摺動屈曲試験を行った。図7にサンプル100個の屈曲回数の度数分布を示す。
図7より、従来の圧延銅箔は安定して高い屈曲性を示している。一方、特殊電解銅箔は銅箔破断までの屈曲回数にばらつきがあり、安定した屈曲性では従来の圧延銅箔よりも劣っている。これより、従来の電解銅箔に比べて、従来の圧延銅箔は、厳しい折り曲げ条件に優れているのが分かる。
しかし、本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)の場合は、従来の圧延銅箔に比べて、さらに優れた屈曲回数が得られ、屈曲信頼性が保証されることが分かる。
圧延銅箔は製造プロセスにおいてMD(Machine Direction)方向に圧延加工するため、MD方向とTD(Traversal Direction)方向では銅箔の屈曲性が異なると言われることがある。そこで本発明の圧延銅箔を用いた銅張積層板でMD・TD方向のMIT耐折試験を行った。その結果を図8に示す。
図8より、従来の圧延銅箔の銅張積層板,本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)の銅張積層板ともにMD・TDにおいて屈曲性の差異は表れず、同等の屈曲性を示した。これより本発明の圧延銅箔はMD方向だけでなく、TD方向においても高い屈曲信頼性を有することが分かる。
電子機器の軽薄短小技術によりFPCへの熱負荷も増加しつつある。そこでFPC配線材料である銅箔において高温雰囲気での屈曲評価を行った。25°Cおよび80°Cにおける摺動屈曲試験結果を図9に示す。
図9より、従来の圧延銅箔は、80°Cで、約2万回であり、電解銅箔の約1万回と比較して2倍以上の屈曲性を有している。しかし、本願発明の圧延箔は、従来の圧延銅箔に比べて、飛躍的に屈曲性が向上し、25°Cおよび80°Cにおいて、屈曲回数が7万回を超え、8万回の屈曲回数に近くなっている。これは、従来の圧延銅箔の約4倍である。このように、従来の圧延銅箔と比べても著しい向上があり、25°C(常温)だけでなく、80°Cの高温でも高屈曲性が維持できているのが分かる。
より柔らかいFPCの市場要求について、FPCメーカーによるポリイミドや接着剤の開発が行われている。当然、配線材料である銅箔においても柔らかさが要求されている。そこで、ループスティフネス試験により圧延銅箔の柔らかさの評価を行った結果を、図10に示す。
図10より、本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)は従来の圧延銅箔よりも約35%ループスティフネス性が低いことから、本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)は従来の圧延銅箔よりも柔らかいと言える。よって、本発明の本願発明圧延箔を使用すれば、従来の従来の圧延銅箔よりも柔らかいFPCの作製が可能となるので、折り曲げ易さやFPCの駆動力低減にともなう省電力化が期待できる。実際に、HDDや光ピックアップにおける本発明の圧延銅箔(本願発明圧延箔)への適用に著しい利点がある。
Claims (6)
- 圧延銅箔を屈曲した後のスリップバンドが圧延銅箔の表面に50%以上形成される組織を備え、かつ再結晶焼鈍後の圧延銅箔表面のX線回折で求めた(200)面の積分強度(I(200))が、微粉末銅のX線回折で求めた(200)面の積分強度(I0(200))に対し、I(200)/I0(200)>40であり、平均結晶粒径が20μmを超える組織を備えていることを特徴とする耐屈曲性に優れた圧延銅箔。
- スリップバンドが圧延銅箔の表面に80%以上形成される組織を備えていることを特徴とする請求項1記載の耐屈曲性に優れた圧延銅箔。
- スリップバンドが圧延銅箔の表面に90%以上形成される組織を備えていることを特徴とする請求項1記載の耐屈曲性に優れた圧延銅箔。
- I(200)/I0(200)>65であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐屈曲性に優れた圧延銅箔。
- 平均結晶粒径が30μm以上の組織を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐屈曲性に優れた圧延銅箔。
- 圧延銅箔18μm箔におけるIPC摺動屈曲試験(曲げ半径1.5mm)の屈曲回数が50000回以上を達成する組織を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐屈曲性に優れた圧延銅箔。
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