以下、本発明の電子写真感光体について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体と、その導電性支持体上に設けられた感光層とを少なくとも有し、その感光層は、一般的に使われる酸化防止剤が含まれている。そして、本発明の要旨は、感光層に含まれる電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値を特定の範囲に規定し(第1の観点)、又は電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値と電荷発生物質のイオン化ポテンシャルの値とが特定の関係になるように規定した(第2の観点)ことにあり、そのいずれの場合においても、高感度で残留電位の低い電子写真感光体となる。
第1の観点に係る本発明の電子写真感光体は、導電性支持体と、その導電性支持体上に設けられた感光層とを少なくとも有し、その感光層が、少なくとも、イオン化ポテンシャルが5.1eV以下の電荷輸送物質と、酸化防止剤とを含有するように構成される。
5.1eV以下のイオン化ポテンシャルを持つ電荷輸送物質は電荷輸送層への電荷注入効率を高めることができると共に、そうした電荷輸送物質を選択することにより、一般的な酸化防止剤を含有させた場合であっても、高感度で低い残留電位を示すことができる点で好ましい。この5.1eV以下という値は、通常感光体に用いられている電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルよりも低い値であり、高いHOMOを持つような物質がこれに該当する。本発明においては、イオン化ポテンシャルが5.1eV以下の電荷輸送物質であれば各種の化学構造の電荷輸送物質を用いることができる。
一方、第2の観点に係る本発明の電子写真感光体は、導電性支持体と、その導電性支持体上に設けられた感光層とを少なくとも有し、その感光層が、電荷輸送物質、電荷発生物質及び酸化防止剤を少なくとも含有し、電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値(以下、CTMIPで表すことがある。)から電荷発生物質のイオン化ポテンシャルの値(以下、CGMIPで表すことがある。)を引いた値(以下、「CTMIP−CGMIP」で表すことがある。)が0eV以下であるように構成される。[CTMIP−CGMIP]の値が0eV以下となるように電荷輸送物質と電荷発生物質とを選択することにより、一般的な酸化防止剤を含有させた場合であっても、高感度で低い残留電位を示すことができる点で好ましい。本発明においては、上記の関係であれば、各種の化学構造の電荷輸送物質と電荷輸送物質を組み合わせて用いることができる。
(電荷輸送物質及び電荷発生物質)
先ず、5.1eV以下のイオン化ポテンシャルを持つ電荷輸送物質について、電荷輸送物質としてしばしば使用されるヒドラゾン系化合物を例にして説明する。ヒドラゾン系化合物は、アルデヒド化合物とヒドラジンとから合成されるが、例えば下記化学式(i),(ii)に示すように、原料のヒドラジンが有する置換基を変えることによってイオン化ポテンシャルを大きく変化させることができる。なお、化学式(ii)のジトリルヒドラゾンは、イオン化ポテンシャルが4.83eVであり、電荷輸送層への電荷注入効率を高めるという観点で好ましく用いることができる。なお、本願において、化学式の脇に記載されている数値は、イオン化ポテンシャル(eV)の値を示している。
下記化学式(iii)〜(x)は、5.1eV以下のイオン化ポテンシャルを持つ電荷輸送物質の例であるが、本発明で使用される電荷輸送物質はこれらの例の電荷輸送物質に限定されるものではなく、5.1eV以下のイオン化ポテンシャルを持つ限りにおいて各種の電荷輸送物質を用いることができる。
上記化合物(iii)〜(x)中の、HA、HB、HCは、それぞれ以下のような構造である。
一方、[CTMIP−CGMIP]の値が0eV以下となるように電荷輸送物質と電荷発生物質とを選択する場合については、電荷輸送物質として、電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値との差が上記関係となるものであればよく、その関係を有する限りにおいて、上記化合物のような5.1eV以下のイオン化ポテンシャルを持つ電荷輸送物質を用いてもよいし、それ以外の電荷輸送物質を用いてもよい。
(酸化防止剤)
本発明で使用される酸化防止剤は、電荷輸送物質が含まれる層中に少なくとも含まれており、通常、電子写真感光体用途に使われる酸化防止剤の全てを挙げることができる。ここでは、以下の例を挙げて説明するが、本発明は以下の例及び説明により限定されるものではない。
酸化防止剤の代表的なものとしては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機リン系酸化防止剤、有機イオウ系酸化防止剤が挙げられる。こうした酸化防止剤は、電子写真感光体の周辺デバイス(コロナ帯電器等)から発生するオゾンやNOx等に対する酸化防止作用を有するものであり、電子写真感光体に化学的な安定性をもたらし、化学変化に基づく電気特性の悪化を防ぐことができる。酸化防止剤としては、感光層中で電荷をトラップして電気特性を悪化させないように、電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルよりも大きい(高い)酸化電位を持つ化合物が選択される。具体例としては、下記に示す構造式を有する化合物が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2′−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、α−トコフェロール、β−トコフェロール、2,2,4−トリメチル−6−ヒドロキシ−7−t−ブチルクロマン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2′−チオエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシアニソール、1−[2−{(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−[3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペラジル、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、等を挙げることができる。
中でも分子中のフェノール環にt−ブチル基を1個以上有するもの、特にそのt−ブチル基がフェノール性水酸基の隣接した位置に結合したものが好適である。具体的には、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(4′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤、2,2′−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のポリフェノール系酸化防止剤が好適である。
アミン系酸化防止剤としては、酸化防止剤として多種のものが知られており、下記一般式(I)で表されるアミン系酸化防止剤を用いることができる。アミン系酸化防止剤は、適度な塩基性と、電荷輸送物質のイオン化ポテンシャル(イオン化電位と同義。)よりも大きい酸化電位とを有していることが、電気特性の安定化のために重要である。
式(I)中、A及びBは、同一であっても異なってもよく、それぞれ置換基を有していてもよいしヘテロ原子を有していてもよいアルキル基(環状も含む)であり、その置換基は、さらに置換基を有していてもよい芳香族残基、芳香族複素環残基、シクロアルキル基又はヘテロシクロアルキル基である。また、Rは、水素又はアルキル基(環状も含み、置換基を有していてもよい)である。
A及びBにおけるアルキル基(環状も含む)としては、通常、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のものが用いられ、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロヘキシル基、1−メチルヘプチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、等が用いられるが、芳香族残基、芳香族複素環残基、シクロアルキル基又はヘテロシクロアルキル基等の置換基を有するものが好ましい。
上記アルキル基が有していてもよいヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄等が挙げられる。そうしたヘテロ原子は、直鎖のアルキル基内に含まれるものであってもよいし、アルキル基にヘテロ環として連結したものであってもよい。ヘテロ環としては、ヘテロ原子を1個又は2個含む五員環化合物又は六員環化合物を挙げることができ、それらは縮合環であってもよい。
上記アルキル基が有していてもよい置換基は、上記のように芳香族残基、芳香族複素環残基、シクロアルキル基又はヘテロシクロアルキル基が挙げられる。芳香族残基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、3,4−キシリル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、メシチル基、等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基、m−トリル基のような立体的にかさ高いものが好ましい。特にフェニル基を置換基とした場合には、一般式(I)で表されるアミン系酸化防止剤は、適度な塩基性と酸化電位を有し、オゾンやNOxといったガスをトラップする機能に優れたものとなるため好ましい。芳香族複素環残基としては、ピリジン、キノリン、インドール、カルバゾール、ピラン、クロメン、ベンゾ〔b〕チオフェン等の残基が挙げられ、中でも、インドール、カルバゾール等の含窒素芳香族複素環残基が好ましい。シクロアルキル基及びヘテロシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオキシル基、ピロリジル基、ピペリジル基、フリル基、チオフェニル基等が挙げられ、中でも、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオキシル基が好ましい。
なお、上記置換基はさらに置換基を有していてもよく、さらなる置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、1−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;メトキシフェニル基;ヒドロキシル基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;カルボキシル基;エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;カルバモイル基;フェノキシ基等のアリーロキシ基;ベンジルオキシ基等のアリールアルコキシ基;フェニロキシカルボニル基等のアリーロキシカルボニル基等が挙げられる。中でもアルキル基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、特に、メチル基、メトキシ基、ヒドロキシル基が好適である。
より具体的には、下記化学式(1)〜(25)に例示したように、上記一般式(I)中のA及びBが、(a)−CH2X、(b)−CH2CH2Y、(c)シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基又はテトラヒドロピラニル基等のヘテロシクロアルキル基、の群から選ばれることが好ましい。
上記のXとYは、それぞれフェニル基、ナフチル基、アンスリル基等の芳香族残基;チオフェニル基等の芳香族複素環残基;シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;テトラヒドロピラニル基等のヘテロシクロアルキル基であることが好ましく、これらの基は、炭素数1以上30以下のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、水酸基、シアノ基、ハロゲン原子等のような置換基を有してもよい。また、上記(c)のシクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基又はテトラヒドロピラニル基等のヘテロシクロアルキル基においては、炭素数1以上30以下のアルキル基、アルコキシ基等の置換基を有してもよい。
また、Rは、水素、アルキル基、シクロアルキル基、又はアラルキル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基はそれぞれ、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、水酸基、シアノ基、ハロゲン原子等のような置換基を有してもよい。このRは、炭素数3以上20以下であることがより好ましく、特にターシャリブチル基、ベンジル基、デシル基のような立体的にかさ高いものが好ましい。
なお、下記化学式(26)〜(39)に例示するアミン系酸化防止剤も使用可能である。
上記のアミン系酸化防止剤のうち、好ましいアミン系酸化防止剤としては、アミノ残基(>NH)を有していないもの(すなわち、Rが水素原子ではないもの)が好ましく、窒素に芳香族環が直接結合していないものが好ましく、成膜後に加熱乾燥が行われることから沸点があまり低くないもの(例えば、100℃以上)であることが好ましい。前2者は電気特性の安定性にやや難があり、後者は感光体作製時の乾燥工程で揮発してしまうことがある。
有機リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等を挙げることができる。
有機イオウ系酸化防止剤としては、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3′−チオジプロピオネート等を挙げることができる。
以上説明したように、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機リン系酸化防止剤、有機イオウ系酸化防止剤等を好ましく使用することができるが、これらの酸化防止剤の添加量は、電荷輸送物質に対する量で規定され、酸化防止剤の上限値は明部電位の上昇を起こさない範囲内で設定され、酸化防止剤の下限値は暗部電位の減少が生じない範囲内で設定される。
例えば、フェノール系酸化防止剤を単独で用いた場合には、電荷輸送物質100重量部に対して、0.5重量部以上40重量部以下の添加量であることが好ましく、0.5重量部以上20重量部以下の添加量であることがより好ましい。また、アミン系酸化防止剤を単独で用いた場合には、電荷輸送物質100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下の添加量であることが好ましく、0.05重量部以上5重量部以下の添加量であることがより好ましい。なお、2種類以上の酸化防止剤を添加することも好ましく行われるが、その場合においても、上記のように、その添加量は、明部電位の上昇を起こさず且つ暗部電位の減少が生じない範囲内で任意に設定される。
上述した各種の酸化防止剤は、電子写真感光体の周辺デバイス(コロナ帯電器等)から発生するオゾンやNOx等に対する酸化防止作用を有するものであり、電子写真感光体に化学的な安定性をもたらし、化学変化に基づく電気特性の悪化を防ぐことができるので、感光層のみならず、感光体を構成する他の層(保護層、ブロッキング層、中間層等)の全層又は一部の層に含有させることが好ましい。化学的劣化は、その原因物質に暴露される表面層より進行するため、少なくとも最表面層は、酸化防止剤を含有していることが望ましい。
(電子写真感光体)
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を設けたものであれば、その構造は特に制限されない。
(導電性支持体)
本発明の電子写真感光体は、感光層を支持するための導電性支持体を備えている。導電性支持体については特に制限はないが、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫等の導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電性支持体の形態としては、ドラム型、シート型、ベルト型等のものが用いられる。更には、金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性等の制御や欠陥被覆のために、適当な抵抗値を有する導電性材料を塗布したものを用いてもよい。
また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合には、陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。陽極酸化被膜を施した導電性支持体に対しては、公知の方法により封孔処理を施すことが望ましい。
導電性支持体の表面は、平滑であってもよいし、特別な切削方法や研磨処理により粗面化されていてもよい。また、導電性支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、その表面を粗面化してもよい。また、より安価にするために、切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。
(下引き層)
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けてもよい。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。
下引き層に用いる金属酸化物粒子としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子等が挙げられる。これらは一種類の粒子を単独で用いてもよいし、複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコン等の有機物による処理を施されていてもよい。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下のものが望ましい。この平均一次粒径はTEM写真から得た。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤等の公知のバインダー樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、硬化剤とともに硬化した形で使用してもよい。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示すことから好ましい。
下引き層に用いられるバインダー樹脂に対する無機粒子の使用比率は、任意に選ぶことが可能であるが、分散液の安定性、塗布性の観点から、通常は10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性を向上させる観点から、通常は0.1μm以上、20μm以下の範囲が好ましい。
下引き層には、公知の酸化防止剤等を混合してもよい。画像欠陥防止等を目的として、顔料粒子、樹脂粒子等を含有させ用いてもよい。
(感光層の形式)
感光層の形式としては、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された単層型と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層の二層からなる機能分離型(積層型)とが挙げられるが、何れの形式であってもよい。
また、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能であるが、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。
以下に、積層型感光層と単層型感光層について説明するが、積層型感光層と単層型感光層のいずれの場合であっても、各感光層に含まれる電荷発生物質と電荷輸送物質は、上記第1の観点及び第2の観点に係る本発明の要旨を満たす限りにおいて、下記に挙げる各種の電荷輸送物質及び電荷発生物質の中から選択することができる。すなわち、上記第1の観点に係る電子写真感光体においては、電荷輸送物質は、5.1eV以下のイオン化ポテンシャルを持っていればよく、上記第2の観点に係る電子写真感光体においては、[CTMIP−CGMIP]の値が0eV以下となっていればよい。なお、電荷輸送物質が含まれる層(積層型感光層においては電荷輸送層であり、単層型感光層においては感光層である。)には、上述した酸化防止剤のうち少なくとも一種類以上の酸化防止剤が必ず含まれる。
(積層型感光層)
先ず、電荷発生層について説明する。積層型感光体(機能分離型感光体)の場合、電荷発生層は、電荷発生物質をバインダー樹脂で結着することにより形成される。
電荷発生物質としては、セレン、セレン合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料と、有機顔料等の有機系光導電材料とが挙げられるが、有機系光導電材料の方が好ましく、特に有機顔料が好ましい。有機顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。これらの中でも、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、通常はこれらの有機顔料の微粒子を、各種のバインダー樹脂で結着した分散層の形で使用する。
電荷発生物質として無金属フタロシアニン化合物又は金属含有フタロシアニン化合物を用いた場合は、比較的長波長のレーザー光、例えば780nm近辺の波長を有するレーザー光に対して高感度の感光体が得られる。また、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料を用いた場合には、白色光、又は660nm近辺の波長を有するレーザー光、又は比較的短波長のレーザー光、例えば450nm又は400nm近辺の波長を有するレーザー光に対して十分な感度を有する感光体を得ることができる。
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合には、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料を使用することが好ましい。フタロシアニン顔料は、比較的長波長のレーザー光に対して高感度の感光体が得られる点で、また、アゾ顔料は、白色光及び比較的短波長のレーザー光に対し十分な感度を持つ点で、それぞれ優れている。
電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を使用する場合には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、スズ、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウム等の金属又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシド等の配位したフタロシアニン類の各結晶型を持ったもの、酸素原子等を架橋原子として用いたフタロシアニンダイマー類等が使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型、I型等のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ−オキソ−アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。
また、これらフタロシアニンの中でも、A型(別称β型)のチタニルフタロシアニン、B型(別称α型)のチタニルフタロシアニン、粉末X線回折の回折角2θ(±0.2゜)が27.1゜若しくは27.3゜に明瞭なピークを示すD型(Y型)のチタニルフタロシアニン、II型のクロロガリウムフタロシアニン、V型のヒドロキシガリウムフタロシアニン、28.1゜にもっとも強いピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン、26.2゜にピークを持たず28.1゜に明瞭なピークを有しかつ25.9゜の半値幅Wが0.1゜≦W≦0.4゜であるヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
フタロシアニン化合物は単一の化合物のものを用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態における混合状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものを用いてもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10−48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
電荷発生物質としてアゾ顔料を使用する場合には、各種ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。
電荷発生物質として有機顔料を用いる場合には、1種を単独で用いてもよいが、2種類以上の顔料を混合して用いてもよい。この場合、可視域と近赤域の異なるスペクトル領域で分光感度特性を有する2種類以上の電荷発生物質を組み合わせて用いることが好ましく、中でもビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料とフタロシアニン顔料とを組み合わせて用いることがより好ましい。
電荷発生層に用いるバインダー樹脂は特に制限されないが、例としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いてもよい。
電荷発生層は、具体的に、上述のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、電荷発生物質を分散させて塗布液を調整し、これを導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布することにより形成される。
塗布液の作製に用いられる溶剤としては、バインダー樹脂を溶解させるものであれば特に制限されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状又は環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状又は環状エーテル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水等が挙げられる。これらは何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。なお、上述の下引き層を設ける場合には、この下引き層を溶解しないものが好ましい。
電荷発生層において、バインダー樹脂と電荷発生物質との配合比(重量)は、バインダー樹脂100重量部に対して電荷発生物質が通常10重量部以上、好ましくは30重量部以上、また、通常1000重量部以下、好ましくは500重量部以下の範囲である。電荷発生物質の配合比が高過ぎると、電荷発生物質の凝集等により塗布液の安定性が低下するおそれがある。一方、電荷発生物質の配合比が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招くおそれがある。また、電荷発生層の膜厚は、通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲である。
電荷発生物質を分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の公知の分散法を用いることができる。この際、粒子を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の範囲の粒子サイズに微細化することが有効である。
次に、電荷輸送層について説明する。本発明において、積層型感光体の電荷輸送層は、少なくとも電荷輸送物質と酸化防止剤を含有すると共に、通常はバインダー樹脂と、必要に応じて使用されるその他の成分を含有する。このような電荷輸送層は、具体的には、例えば電荷輸送物質と酸化防止剤とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを順積層型感光層の場合には電荷発生層上に、また、逆積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布、乾燥して得ることができる。
電荷輸送物質としては、感光層に含まれる電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値が5.1eV以下であるもの、又は[CTMIP−CGMIP]の値が0eV以下の関係を満たすものを少なくとも1種含むことは必須であるが、これと、任意の電荷輸送物質との2種以上の組み合わせで用いることも可能である。組み合わせて用いる公知の電荷輸送物質の例としては、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子求引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、又はこれらの化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中でも、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
バインダー樹脂は、膜強度確保のために使用される。電荷輸送層のバインダー樹脂としては、例えばブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が好ましい。これらのバインダー樹脂は、適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は、バインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送物質を20重量部以上の比率で使用する。中でも、残留電位低減の観点から30重量部以上が好ましく、更には、繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から40重量部以上がより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点から、電荷輸送物質を通常は150重量部以下の比率で使用する。中でも、電荷輸送材料とバインダー樹脂との相溶性の観点から110重量部以下が好ましく、耐刷性の観点から80重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点から70重量部以下が最も好ましい。
酸化防止剤の添加量は、上述したように、電荷輸送物質に対する量で規定され、酸化防止剤の上限値は明部電位の上昇を起こさない範囲内で設定され、酸化防止剤の下限値は暗部電位の減少が生じない範囲内で設定される。なお、既述の通り、フェノール系酸化防止剤を単独で添加する場合と、アミン系酸化防止剤を単独で添加する場合の添加量について例示した。
電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、長寿命、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下、更には30μm以下の範囲とする。
(単層型感光層)
次に、単層型感光層について説明する。単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質に加えて、積層型感光体の電荷輸送層と同様に、膜強度確保のためにバインダー樹脂を使用して形成する。特に本発明では、単層型感光層に、上述した酸化防止剤のうち少なくとも一種類以上の酸化防止剤を含むと共に、イオン化ポテンシャルの値が5.1eV以下の電荷輸送物質を少なくとも1種、又は、[CTMIP−CGMIP]の値が0eV以下の関係を満たす電荷輸送物質及び電荷発生物質を少なくとも各1種含む。具体的には、電荷発生物質と電荷輸送物質と酸化防止剤とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、導電性支持体上(下引き層を設ける場合は下引き層上)に塗布、乾燥して得ることができる。
電荷輸送物質及びバインダー樹脂の種類並びにこれらの使用比率は、積層型感光体の電荷輸送層について説明したものと同様である。また、酸化防止剤の添加量についても、積層型感光体の電荷輸送層について説明したものと同様である。これらの電荷輸送物質、酸化防止剤及びバインダー樹脂からなる電荷輸送媒体中に、更に電荷発生物質が分散される。
電荷発生物質は、積層型感光体の電荷発生層について説明したものと同様のものが使用できる。但し、単層型感光体の感光層の場合、電荷発生物質の粒子径を充分に小さくする必要がある。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲とする。
単層型感光層内に分散される電荷発生物質の量は、少なすぎると充分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下等の弊害があることから、単層型感光層全体に対して通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。
また、単層型感光層におけるバインダー樹脂と電荷発生物質との使用比率は、バインダー樹脂100重量部に対して電荷発生物質が通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下の範囲とする。
単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲である。
(その他の機能層)
積層型感光体及び単層型感光体共に、感光層又はそれを構成する各層には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤等の添加物を含有させてもよい。
また、積層型感光体及び単層型感光体のいずれも、上記手順により形成された感光層を最上層、即ち表面層としてもよいが、その上に更に別の層を設け、これを表面層としてもよい。例えば、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、保護層を設けてもよい。
保護層は、導電性材料を適当なバインダー樹脂中に含有させて形成するか、特開平9−190004号、特開平10−252377号各公報に記載のトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いることができる。保護層に用いる導電性材料としては、TPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(m−トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫−酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物等を用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。保護層に用いるバインダー樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報の記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることもできる。保護層の電気抵抗は、通常109Ω・cm以上、1014Ω・cm以下の範囲とする。電気抵抗が前記範囲より高くなると、残留電位が上昇しカブリの多い画像となってしまう一方、前記範囲より低くなると、画像のボケ、解像度の低下が生じてしまう。また、保護層は像露光の際に照射される光の透過を実質上妨げないように構成されなければならない。
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を低減、トナーの感光体から転写ベルト、紙への転写効率を高める等の目的で、表面層にフッ素系樹脂、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂等、又はこれらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を、表面層に含有させてもよい。或いは、これらの樹脂や粒子を含む層を新たに表面層として形成してもよい。
(各層の形成方法)
これらの感光体を構成する各層は、含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成される。
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒には特に制限はないが、具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
溶媒又は分散媒の使用量は特に制限されないが、各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
例えば、単層型感光体、及び機能分離型感光体の電荷輸送層層の場合には、塗布液の固形分濃度を通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度を通常10cps以上、好ましくは50cps以上、また、通常500cps以下、好ましくは400cps以下の範囲とする。また、積層型感光体の電荷発生層の場合には、塗布液の固形分濃度は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度は、通常0.01cps以上、好ましくは0.1cps以上、また、通常20cps以下、好ましくは10cps以下の範囲とする。
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
塗布液の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行なってもよい。
以上のようにして作製される本発明の電子写真感光体は、第1の観点では、高感度で残留電位の低い感光体を得るために、イオン化ポテンシャルが5.1eV以下の電荷輸送物質を用いて電荷輸送層への電荷注入効率を高めているが、このような低いイオン化ポテンシャルを持つ電荷輸送物質と、酸化防止剤とを組み合わせて使用することにより、通常用いられる電荷輸送物質に酸化防止剤を添加した場合よりもはるかに大きな効果(電気特性、繰り返し特性、耐ガス性に優れ、特にオゾン曝露後の電位回復率が高い)を奏することが明らかとなった。
また、第2の観点では、電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値から電荷発生物質のイオン化ポテンシャルの値を引いた値が0eV以下となるように構成した感光層に、さらに酸化防止剤を含有させることによって、高感度で残留電位の低い感光体を得ることができることが明らかとなった。
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
(実施例1A)
下引き層の形成;二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚さ75μm)の表面にアルミニウム蒸着層(厚さ70nm)を形成した導電性支持体を用い、そのアルミニウム蒸着層上に、下記の下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μmとなるように塗布し、乾燥させ、下引き層を形成した。
下引き層用分散液の作製;平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、その酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機(株式会社カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。この分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表わされる化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表わされる化合物]の組成モル比率が、75%/9.5%/3%/9.5%/3%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層用分散液を作製した。
電荷発生層の形成;電荷発生物質として、図1に示される、CuKα線による粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニン20重量部と、1,2−ジメトキシエタン280重量部とを混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行った。一方、1,2−ジメトキシエタン490重量部と、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン85重量部との混合液に、ポリビニルブチラール10重量部(電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブチラール #6000C」)を溶解させて得られたバインダー液を準備し、このバインダー液と、上記微細化分散処理後の液とを混合して電荷発生層用塗布液を調整した。得られた電荷発生層用塗布液を、前記導電性支持体上の下引き層上に、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるようにバーコーターで塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
電荷輸送層の形成;上述した化合物(iv)50重量部を電荷輸送物質とし、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位(m=51モル%)と1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位(n=49モル%)とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造を有する下記化学式のポリカーボネート樹脂100重量部(粘度平均分子量30,000)をバインダー樹脂とし、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)8重量部を酸化防止剤とし、シリコーンオイル0.05重量部をレベリング剤として、それらをテトラヒドロフラン/トルエン(重量比8/2)混合溶媒640重量部に溶解させて電荷輸送層用塗布液を調整した。得られた電荷輸送層用塗布液を、前記電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにフィルムアプリケーターで塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成した。こうして、積層型感光層を有する実施例1Aの電子写真感光体を作製した。
(実施例1B)
BHTの代わりにオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社製、商品名「イルガノックス1076」)8重量部を酸化防止剤として用いた以外は実施例1Aと同様の方法で、実施例1Bの電子写真感光体を作製した。
(実施例1C)
BHTの代わりにトリベンジルアミン(TBA)1重量部を酸化防止剤として用いた以外は実施例1Aと同様の方法で、実施例1Cの電子写真感光体を作製した。
(実施例1D)
酸化防止剤としてさらにトリベンジルアミン(TBA)1重量部を加えた以外は実施例1Aと同様の方法で、実施例1Dの電子写真感光体を作製した。
(実施例1E)
酸化防止剤としてさらにトリベンジルアミン(TBA)1重量部を加えた以外は実施例1Bと同様の方法で、実施例1Eの電子写真感光体を作製した。
(実施例2A)
化合物(iv)の代わりに上記化合物(v)を電荷輸送物質として用いた以外は実施例1Aと同様の方法で、実施例2Aの電子写真感光体を作製した。
(実施例2B)
BHTの代わりにオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社製、商品名「イルガノックス1076」)8重量部を酸化防止剤として用いた以外は実施例2Aと同様の方法で、実施例2Bの電子写真感光体を作製した。
(実施例2C)
BHTの代わりにトリベンジルアミン(TBA)1重量部を酸化防止剤として用いた以外は実施例2Aと同様の方法で、実施例2Cの電子写真感光体を作製した。
(実施例3A)
化合物(iv)の代わりに上記化合物(ix)を電荷輸送物質として用いた以外は実施例1Aと同様の方法で、実施例3Aの電子写真感光体を作製した。
(実施例3B)
BHTの代わりにオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社製、商品名「イルガノックス1076」)8重量部を酸化防止剤として用いた以外は実施例3Aと同様の方法で、実施例3Bの電子写真感光体を作製した。
(実施例3C)
BHTの代わりにトリベンジルアミン(TBA)1重量部を酸化防止剤として用いた以外は実施例3Aと同様の方法で、実施例3Cの電子写真感光体を作製した。
(比較例1F)
BHTを用いない以外は実施例1Aと同様の方法で、比較例1Fの電子写真感光体を作製した。
(比較例2D)
BHTを用いない以外は実施例2Aと同様の方法で、比較例2Dの電子写真感光体を作製した。
(比較例3D)
BHTを用いない以外は実施例3Aと同様の方法で、比較例3Dの電子写真感光体を作製した。
(比較例4A)
化合物(iv)の代わりに下記構造式を有するアリールアミン(化合物(xi))を電荷輸送物質として用いた以外は実施例1Aと同様の方法で、比較例4Aの電子写真感光体を作製した。
(比較例4B)
BHTの代わりにオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社製、商品名「イルガノックス1076」)8重量部を酸化防止剤として用いた以外は比較例4Aと同様の方法で、比較例4Bの電子写真感光体を作製した。
(比較例4C)
BHTの代わりにトリベンジルアミン(TBA)1重量部を酸化防止剤として用いた以外は比較例4Aと同様の方法で、比較例4Cの電子写真感光体を作製した。
(比較例4D)
BHTを用いない以外は比較例4Aと同様の方法で、比較例4Dの電子写真感光体を作製した。
(比較例5A)
化合物(iv)の代わりに下記構造式を有するアリールアミン(化合物(xii))を電荷輸送物質として用いた以外は実施例1Aと同様の方法で、比較例5Aの電子写真感光体を作製した。
(比較例5B)
BHTの代わりにオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社製、商品名「イルガノックス1076」)8重量部を酸化防止剤として用いた以外は比較例5Aと同様の方法で、比較例5Bの電子写真感光体を作製した。
(比較例5C)
BHTの代わりにトリベンジルアミン(TBA)1重量部を酸化防止剤として用いた以外は比較例5Aと同様の方法で、比較例5Cの電子写真感光体を作製した。
(比較例5D)
BHTを用いない以外は比較例5Aと同様の方法で、比較例5Dの電子写真感光体を作製した。
(イオン化ポテンシャルの測定)
電荷輸送物質である各化合物(化合物(iv)、(v)、(ix)、(xi)、(xii))、及び実施例1Aにて用いた電荷発生物質であるオキシチタニウムフタロシアニンのイオン化ポテンシャルは、理研計器社製の表面分析装置AC−1を用い、粉末の状態で光量50nW、計数時間10秒で測定した。各々のイオン化ポテンシャルの値(CTMIP、CGMIP)、及び電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値(CTMIP)から電荷発生物質のイオン化ポテンシャルの値(CGMIP)を引いた値[CTMIP−CGMIP]を表1に示した。
(電気特性の評価)
作製した電子写真感光体を幅100mm、長さ250mmの大きさに切り出し、直径80mmのアルミニウム管に感光層が外側になるように巻き付け、両面粘着テープを用いて固定した。このとき、感光層の4隅をテトラヒドロフランを浸した布により除去し、アルミニウム蒸着面を露出させ、この部分に電導性粘着テープの一方の端を貼り付けると共に、アルミニウム管に同テープの他の一方の端を貼り付け、感光体の導電性支持体とアルミニウム管とを導通させた。
このようにして作製した性能評価用試料を、温度25℃、相対湿度50%の環境試験室中に設置した感光体特性評価装置に装着した。電子写真感光体の表面電位が−700Vになるように帯電させた後、780nmの光を照射強度を変えながら照射し、100m秒後の表面電位を測定した。強度1.0μJ/cm2の光を照射したときの表面電位測定値(VLmax(−V))を表2に示した。また、780nmの光を露光してから100m秒後の感光体表面電位が−350Vになる露光強度を半減露光量(μJ/cm2)とし、この値を表2に示した。
(耐オゾン特性の評価)
耐オゾン特性として、オゾン曝露試験後の帯電保持率と電位回復率を評価した。オゾン曝露試験は、静電気帯電試験装置(川口電気社製、EPA8200)を使用し、上記の各実施例と各比較例で得られた電子写真感光体をコロトロン帯電器に25μAの電流を印加して帯電させ、その帯電値をV1とした。その後、これらの感光体に150〜200ppm濃度のオゾンを1日3〜5時間、2日間曝露し、曝露後に同様に帯電値を測定し、この値をV2とした。オゾン曝露前後の帯電保持率を(V2/V1×100)(%)と定義し、その結果を表2に示した。また、酸化防止剤を加えたときと加えないときの帯電保持率の差を電位回復率とし、これも同様に表2に示した。
表2から分かるように、イオン化ポテンシャルが5.1eV以下の電荷輸送物質を用いた電子写真感光体は、イオン化ポテンシャルの高い電荷輸送物質を用いた電子写真感光体よりも残留電位を低く抑えることができた。また、電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルの値から電荷発生物質のイオン化ポテンシャルの値を引いた値[CTMIP−CGMIP]が0eV以下の電子写真感光体も、その値が0eVを超える電子写真感光体に比べて、残留電位を低く抑えることができた。また、これらの電子写真感光体であっても、酸化防止剤を有さない感光体では、耐オゾン性が悪く、帯電保持率が低かった。本実施例に見られるように、酸化防止剤を用いることによって電位は予想以上に回復し、実使用にも耐えうる優れた感光体となることが明らかになった。